PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>鬼面の男。或いは、囚人捕縛作戦…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●森の奥の遺跡
 とある深い森の奥。
 地面に広げた地図を指さし、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は首を傾げた。
「今いるのがここ」
 指さしたのは、幻想の外れの森の中。
 丁度、鉄帝との国境があるあたりだ。
「最近見つかった遺跡があれっす」
 次にイフタフは、地面に半ばほど埋まった状態の古い塔へ指を向ける。
 昔は白かっただろう外壁も、今やすっかり土に汚れてしまっている。
「調査の結果、あれは古い墓に併設された見張り塔だと言うことが分かったっす」
 再び地図に指を乗せ、イフタフはそれを鉄帝国の方向へとスライドさせた。
「塔の地下にある空間が、おそらく墓っすね」
 そう言ってイフタフは、ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)へと顔を向けた。
 あぁ、と顎に手を当ててランドウェラは「得心がいった」という風に、何度も頷いて見せる。
「先日見つけた空の棺が墓の主ということかな? ん? それにしては……」
 トン、と地図に指を置きランドウェラは首を傾げた。
 イフタフとランドウェラは、数日の間にわたって塔の調査を進めているのだ。その中で発見されたのは、罠だらけの通路と、その奥にあった空の棺桶が1つだけ。
 しかし、棺があったのはちょうど塔の真下辺りだ。
 ここが見張り塔だと言うのなら、なぜその真下に棺が納められているのか。
「まぁ、そう言うことっすよね。あれって多分、見張り役の棺っすよ。墓の主の供回りとして埋葬されたんじゃないっすかね?」
 王や権力者の死後、それに仕え続けるために土の人形や、生贄を一緒に埋葬するという風習も世の中には確かにあるのだ。
 2人が見つけた空の棺も、きっと“そういうもの”だろう、とイフタフは予想していた。
「というわけで、私たちはこのまま遺跡の調査を……と、言いたいところなんっすけど」
 そこでイフタフは言葉を止めた。
 それから、困ったような顔をしてひとつ大きなため息を零す。
「鉄帝国で起きている騒乱についてはご存知っすよね?」
 新皇帝バルナバスの放った勅令により起きた騒乱だ。
 警察機構は解体され、大量の囚人たちが野に放たれた。
 当然、解き放たれた罪人たちがじっとしているはずもない。これまでの鬱憤を晴らすかのように、各地で略奪や殺人といった犯罪行為を繰り返しているのだ。
「あぁ……物騒な世の中になったよね。僕たちも出来る限りの手を貸すよ」
「えぇ、というわけで遠慮なくお借りするっすよ」
 にぃ、とイフタフは口角を上げた。
 悪戯が成功した、とでもいうような顔をして地図の上にそこらで拾った小石を1つ、乗せて見せる。
「どうも解放された囚人の1人が、この辺りに逃げ込んだらしいんっすよ」

●仮面の男
 遺跡の調査を進める中で、イフタフとランドウェラは1人の奇妙な男に出会っている。
 それは、褐色の肌をした大男。
 裸の上半身に、下半身には革の腰巻。
 顔には鬼か何かを模した仮面を被っており、足跡の1つも残さずに遺跡の内部を移動していた。イフタフとランドウェラが進む先々に現れては、まるで導くかのように罠の位置や、正しい順路を教えてくれた。
「ゴーストか何かの類と思っていたけど、あれが鉄帝国から逃げ出した罪人だって言うのかい?」
 外見はかなり凶悪だが、現在のところ敵か味方か判断できない奇妙な男だ。
 実害が無いのなら、放置しておいてもいいとさえランドウェラは考えている。
 しかし、どうやらイフタフの考えは異なるらしい。
「んー、釈放された罪人の中にあいつと似た雰囲気の者がいるんっすよ。そいつは鉄帝の僻地、とある少数部族の出身者らしいっす。男の故郷は軍によって滅ぼされ、彼は復讐のために鉄帝各地で殺戮を繰り返したとか、していないとか……」
「僻地の部族か……たしかに、言われてみればそのような服装をしていたな」
 仮面の男は、石で出来た剣か鉈のような武器を持っていた。
 思えばアレは、歴史の本で見た古い時代の武器に瓜二つでは無かっただろうか。
「男の名前はパッチ・ザ・パッチ。戦士の中の戦士という意味だそうっすよ」
 イフタフ曰く、パッチ・ザ・パッチはゲリラ戦や狩猟を得意とする戦士だという。
 気配を消す体術と、壁をすり抜ける秘術。
 それから、羽のように身を軽くする一族伝統の武術を修めた実力者だ。
「クリティカル率の高い攻撃を得意とするとか。えーっと、攻撃には【ブレイク】【退化】【飛】が付与されてるらしいっす」
「なるほど。えぇっと……つまり?」
「遺跡の調査と並行して、パッチ・ザ・パッチを捕縛しましょう……という任務っすね」
 パッチがどういった目的で、2人の前に姿を見せたかは分からない。
 だが、これまで数度の邂逅の中でイフタフとランドウェラは1度たりともパッチと言葉を交わしていないし、遠目で眺めるより近い距離まで接近出来たことも無い。
「あれを捕まえるのか……罠だらけの遺跡の中で?」
「そうなるっすね。塔から入って、鉄帝国の方に伸びている墳墓の中を探索するっす。そっちは罠の解除なんて1つも進んでいないっすから……」
「その道に精通した人が来てくれるといいね。あぁ、いや……戦闘の可能性もあるし、実戦に慣れた人も……捕まえないといけないってことは、脚が速い人もいた方がいいな。あぁ、【猛毒】や【麻痺】の付いた罠が多いんだから回復や防御に長けた人も……駄目だ、考え出したらキリがない」
 どうするんだい?
 ランドウェラがそう問うた。
 イフタフは得意げな顔をして、トンと薄い胸を拳で叩く。
 一瞬、痛みに顔を顰めながら答えを返す。
「誰でもいいから人を寄越してほしいって言ったっすよ。後のことは、人が揃ってから考えればいいんっす」
 そう言うの得意でしょう?
 なんて、イフタフは言うがつまるところは「丸投げ」である。

GMコメント

●ミッション
元囚人、パッチ・ザ・パッチの捕縛

●ターゲット
パッチ・ザ・パッチ×1
鉄帝国の元囚人。
褐色の肌をした大男。
裸の上半身に、下半身には革の腰巻。
顔には鬼か何かを模した仮面を被り、石で出来た剣か鉈のような武器を持っている。
気配を消す体術(気配遮断)と、壁をすり抜ける秘術(物質透過)。
それから、羽のように身を軽くする一族伝統の武術(飛行)を修めた実力者だという。
言葉を交わさず、接近を許さず、しかし何かの意図をもってランドウェラたちの前に姿を現す。彼を捕縛することが、今回の依頼となる。

パッチの狩り:物中貫に大ダメージ、ブレイク、退化、飛
 クリティカル率の高い速く、重い攻撃。

●フィールド
鉄帝国の外れ。
国境付近の森の奥。
地中に埋もれた古い墳墓を探索することになる。
墳墓の内部の通路は狭い。迷路というほどではないが、数本の通路が入り組んだような形をしている。そのため遺跡内通路には死角が多い。
【猛毒】【麻痺】を付与する罠が多く仕掛けられている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>鬼面の男。或いは、囚人捕縛作戦…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
※参加確定済み※
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
リフィヌディオル(p3p010339)
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ

●墳墓探索
 幻想と鉄帝国の国境。
 両国に跨るようにして、その遺跡は長い年月、土の中に埋もれていた。
 つい先だって発見された古い遺跡の調査に訪れたイフタフ・ヤー・シムシムと『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)の2人は、そこで奇妙な男と出会う。
「道案内や罠を教えてくれる親切な幽霊かと思ったら鉄帝の罪人かぁ。悪い感じはしなかった。むしろ何かを教えようとしている感じだったが」
 そう呟いたランドウェラの脳裏に浮かぶは、褐色の肌をした大男の姿である。獅子の仮面を被った男は、鉄帝国の罪人だ。名をパッチ・ザ・パッチ。どこかの部族の言葉では“戦士の中の戦士”を意味する名前らしい。
「墓なら刻まれた名や棺などがあるはず。罠がそれを守るためか、別の意図か……どちらにせよ、墓暴きとは、感心されないわね。だからこそ、その秘密は彼1人では重すぎるのかもしれない」
 空の棺を見下ろして『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)がそう告げる。件の棺は、イフタフとランドウェラがパッチの導きで見つけたものだ。
 遺体は無く、装飾品の類も無し。そして棺には誰の名前も刻まれていない。

 より深く、一行は墳墓を地下へ潜った。
 壁に手を触れ、『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が瞳を細めた。
「これはまた、難しい依頼ねぇ……罠だらけの遺跡に、真意のわからない元囚人と」
 雪のように白い手が、誇りに塗れた壁を擦る。
 こびり付いた埃の下から覗いたのは、壁に埋め込まれたスイッチに似た仕掛けであった。おそらくそれを押し込めば、廊下に設置された罠が機動するのだろう。
「……そこも」
 そう言ってヴァイスは、床の中央を指さした。
 一瞥しただけでは何ら異常は見受けられない。
 よくよく見ても、違和感なんて見当たらない。
 けれど、『だから、守るのさ』解・憂炎(p3p010784)が床板を一枚剥がしてみれば、なるほどそこには木製歯車の仕掛けがある。
「この罠だらけの通路の先に囚人が逃げ込んだのか。困ったね」
 歯車の間に小石を挟んで、罠を無力化する憂炎が疲れたように溜め息を零す。このまま進んでいたのなら、何かの罠が機動して幾らかのダメージを負っていたのだろう。
「あまり壁にべったり歩くのは罠を余計に発動させそうで心配でしたが、真ん中の方も危ういですね」
 憂炎とヴァイスが床や壁に付けた印を迂回しながら、おそるおそるといった様子でリフィヌディオル(p3p010339)が歩を進める。
 
 通路の奥に人影が見える。
 壁の中からぬるりと姿を現したようにも見えた。
 仮面を被った筋肉質な大男。パッチに間違いないだろう。
「ゲリラ戦法っていうやつだね。姿を見せるのは……誘っているだけとも違うような」
 ここまで、パッチの残した足音なんてものは無かった。
 彼はいったいどうやって、通路を先へと進んだのか。
 腰の刀に手をかけて『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が囁くようにそう言った。足音も立てず、言葉を発することもなく、パッチはただ黙って通路の先に立っているようだ。
「夏も過ぎたのにホラーな依頼かと思ってビビってたんだ。でも、ちゃんと実体のある敵なんだろ? 本当にあれ、実体あるか?」
 気配の希薄な敵である。
 そこにいて、姿は両の目に映る。
 けれど、触れればあっという間に掻き消えてしまいそうな……まるで煙か霞のような存在感に、『ラッキー隊隊長』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)は少し顔色を悪くした。
 しかし、すぐに気を取り直してジュートはコインを指で弾いて翼を広げる。通路に罠が仕掛けられているからと、空を飛んで床や壁に触れなければ問題なかろう。
 だが、今にも飛び立とうとするジュートを『咎狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が制止する。
「あん? 追わないのか?」
「まぁ態々こんなところに逃げ込んだあたり其れなりに此処に精通しているんだろうからね……というか、こんな場所好き勝手に動く相手とか」
 チラと横目でヴァイスを見やる。
 ヴァイスは無言で、通路の天井付近を指した。
 ヴァイスが示した位置へ向け、ラムダが魔弾を撃ち出すと……プツンと糸の切れる音がして、天井から数本の槍が飛び出した。
「ボクたちは、奴の狩場に踏み込んでるようなものじゃない」
 通路の先に立ったパッチは、身振りで右の通路を示す。
 それから、すぅとイレギュラーズの眼前から、姿を消してしまったのだった。

●パッチ・ザ・パッチ
 壁を凝視し、ランドウェラは首を傾げた。
 先ほど、パッチが立っていた場所だ。ランドウェラの瞳は、1メートル程度の物質を透過し、反対側の様子を見て取ることができるのである。
「どうかした? パッチの姿は?」
 ランドウェラの様子を訝しんだのか、イーリンがそう問いかける。
 少しの間、口の中で言葉を転がしたランドウェラは答えを返した。
「あぁ、えっと……隠し通路みたいだ。足跡と、何かを引き摺っていった跡が残っているように見える」
 そう言ってランドウェラは通路の先に小石を放る。先ほど、パッチが指し示していた右の通路だ。
 コロン、カランと小石の転がる音が鳴る。
 音の反響に耳を澄ますが、どうにも辺りにパッチは既にいないらしい。
「気になるような物は無いし、パッチの姿も見当たらない……と。壁は壊せそう?」
 壁の向こうに罠の類は仕掛けられていないのではないか。そう予想したイーリンが問うたが、ランドウェラは首を振る。
「壊すと遺跡ごと崩れるかもしれない」
 ランドウェラ1人であれば、壁を通過し隠し通路へ移動できるが、そうなると万が一の時に対処に困る可能性もある。
 結局、壁向こうの隠し通路を確認しながら、地道に通路を先へ進むしかないのだろう。
「警戒しながら進むしか無いか。パッチ・ザ・パッチ……戦士の中の戦士か。皮肉な物だ。戦士見習いでしかない僕が、戦士の中の戦士と当たる事になるなんてね」
 背負った“生ハムの原木”を一閃させて、憂炎は気合を入れ直す。
 意を決したといった様子で、通路の奥へと歩を進めた。そのすぐあとを歩きながら、ヴァイスは顎に指を触れる。
「そもそも戦う必要はあるのかしらね……? まぁその辺りは、探索を進めながら考えましょうか」
 ここまでの道中、パッチがイレギュラーズを襲うチャンスは何度もあったはずだ。
 そもそも、壁の向こうの隠し通路を自由に移動できるのなら、不意打ちなんて幾らでもできるし、わざわざ罠のある場所や、進む先をイレギュラーズに教えてやる理由も無い。
 有体に言うと、パッチの思惑が分からないのだ。

 いくら慎重に進んでいても、罠のすべてを回避することは出来ない。
 ましてや古い遺跡である。
 時として、意図しないタイミングで誤作動を起こした罠に襲われることもある。
 今回もそうだ。
「っと……危ない」
 生ハムの原木に、数本の矢が突き刺さる。
 先頭を進む憂炎が、うっかり罠を踏んだのだ。
 そして、悪いことというのは重なるものだ。矢を受け止めた衝撃で、憂炎が数歩ほど後退る。そして、その拍子に新たな罠を機動させてしまった。
「走って!」
 イーリンが叫んだ。
「アンラッキーだ!」
 翼を広げてジュートが飛んだ。よろけた憂炎の襟首をつかんで、引き摺るようにその場を離れる。
「っ罠が連鎖する! 立ち止まってる余裕は無いぞ!」
 背後を見やってジュートは言った。
 初めに機動させた罠は、天井の一部が崩落するというものだった。
 落下した石材が、床にあった罠を機動させる。
 機動した罠が、連動して次の罠を機動させる。
「おや? パッチだ。何か……様子が?」
 通路の奥に目をやって、ラムダがそう呟いた。
 罠に追われ、まっすぐな通路を駆け抜けるイレギュラーズの前に再びパッチが現れたのだ。パッチはなぜか焦った様子で、壁を拳で殴るような動作を見せた。
 それから、すぅっと溶けるみたいにパッチは壁の中へと消える。

「壁を壊して! たぶん……大丈夫だから!」
 直観がそう告げている。
 確証はないが、先のパッチの動作はきっとそういうことだ。
 ヴァイスが叫ぶのと同時に、ラムダとリフィヌディオルが地面を蹴って飛び出した。弾丸のようなロケットスタート。道中で罠を踏み抜くことも厭わずに、2人は一路、壁へと跳び込む。
 ラムダの放った数発の魔弾が、岩の壁に亀裂を走らす。
 そこへ頭からリフィヌディオルが跳び込んで、亀裂の走った壁を砕いた。
 転がるように2人の姿が壁の向こうへ姿を消した。
 崩落した壁の向こうには、先に見たのと同様の隠し通路がある。
「罠の類は無いみたいね」
 2人から少し遅れて、壁の向こうを覗き込んだサクラが言った。
 暗くて、狭い通路には罠の1つも見当たらない。
 それから、パッチの姿もどこかに消えていた。

 奥へ、奥へと。
 少しずつ地下へと。
 まるで迷路のような通路を、幾つもの罠を潜り抜けながら進む。
「こんなにくたびれる追いかけっこは初めてですよ」
 直径2メートルはある鉄球を端へ押し退けながら、リフィヌディオルが溜め息を零した。ここまで何度もパッチ・ザ・パッチは姿を見せた。
 そして、パッチが姿を見せる度に、大掛かりな罠が近くにあった。
「やっぱり……どこかへ誘導しているみたいだ」
 ランドウェラは言った。
 イフタフと一緒に、空の棺を見つけた時も、パッチはそこへ誘導するように動いていたのだ。

 通路の先にパッチ・ザ・パッチが立っている。
 暗い中、まるでそこだけ明かりが灯っているみたいに、パッチの姿ははっきり見えた。よくよく見れば、パッチの背後には広い空間。
「部屋、かしら?」
「あまりいい予感はしねぇな。ボス部屋なんかが、こんな風な雰囲気だ」
 足を止めたヴァイスと、顔を顰めるジュートの声。潜めた2人の声は、パッチにまで届いてはいないはずだ。
「兎に角、パッチ・ザ・パッチの足を止めることが鍵だと考えます」
 リフィヌディオルがそう言った。
 これまで何度もパッチの姿は目にしたはずだが、結果としてただの1度も、パッチの間近にまで接近できたことは無い。
 足を止めねば、また逃げられる。
 隠し通路に潜伏されれば、発見するのも困難だ。
「そろそろ仕掛け時かしら」
 仲間たちの視線を受けて、イーリンはそう呟いた。
 それから彼女は、ランドウェラを見やる。ひとつ、無言で頷いて……ランドウェラは壁へそっと手を触れた。

 神がそれを望まれる。
 そう呟いて、イーリンとサクラは肩を並べて先へ進んだ。
 前進したのは2人だけだ。
 近づいて来る2人の様子を、パッチは黙って見つめている。
「ごきげんよう、パッチ。貴方の……話し相手になりたい」
「貴方、私達の事を試してたんじゃない? 本当の目的があるなら聞かせてほしいな」
 2人の問いに、パッチは何も答えない。
 鬼を模した仮面の奥から、静かな呼吸音だけが聞こえていた。
 少しずつ。
 1歩ずつ。
 2人とパッチの距離が縮まる。
 くるり、と。
 パッチがその場で踵を返した。
 まただ。
 何度も繰り返し見た光景だ。
 けれど、しかし……。
「やぁパッチ。お喋りをしよう。そして、こちらの問いのこたえてくれると嬉しい」
 振り返ったパッチの前に、ランドウェラが立っていた。

「ついでに目的を言ってくれればもっと嬉しい」
 ランドウェラの問いかけに、パッチは焦った様子を見せた。
 石で出来た鉈剣を振り抜き、ランドウェラを牽制。足音も立てずに宙へと舞うと、ランドウェラの頭上を跳び越えた。
 ここで捕まるわけにはいかないとでもいうような動きだ。
 虚を突かれたランドウェラが踏鞴を踏んで後ろへ下がった。だが、パッチの抵抗は織り込み済みだ。
「やはり逃げるのね。貴方はいったい何がしたいのかしら?」
 パッチの着地点へ向け、ヴァイスが短剣を撃ち出した。魔力の軌跡を描きながら飛ぶ短剣が、岩の床を小さく穿つ。
 その隙を突いてサクラは駆けた。
「天義の聖騎士、サクラ・ロウライト。推して参る!」
 パッチは己の名を告げない。
 それならばそれで構わないと、サクラは自身の名乗りを上げて滑るように通路を疾走。小部屋へ駆け込むと同時に、抜き放った刀を数度、虚空に走らす。
 瞬きする間に襲い掛かる3連撃を、パッチは剣で受け止めた。
 反撃とばかりにサクラの肩へ刺突を放つ。
 速く、正確な一撃だ。
 顔面や喉を狙わないのは、パッチの側に殺意が無いからだろう。
「囚人なのが惜しいな。南部戦線に入れたいくらいだ」
 パッチの突きを受け止めたのは、憂炎の構える生ハムの原木。戦場で戦士が振るうには、些か奇妙な武器ではあるが、それは見事にパッチの突きを防いで見せた。
 だが、代償は軽くない。
 突き抜ける衝撃が憂炎を襲い、その体を後方へと弾き飛ばす。

 虚空を蹴り上げるように、パッチが宙を駆けあがる。
 パッチの一族に伝わる空駆けの秘術だ。
 だが、この場に置いて空を飛べるのは何もパッチだけではない。
 一条の光が闇を引き裂く。
 それはパッチの脚を射貫いた。
 コインを弾いた姿勢のままで、宙に浮かんだジュードが告げる。
「なぁパッチ。俺も一族の伝統ってやつに長い事縛られてきたからさ、君の力を否定はしないぜ」
 チャリン、とコインの鳴る音がした。
 2度目のコインがパッチの眼前で魔力を放つ。吹き荒れる不可視の刃を回避して、パッチは高速で高度を下げた。
「戦士の中の戦士なら、ここを守ってる理由があったんだろ? 俺達に教えてくれ。頼むよ!」
 その後を追ってジュードが降下。
 しかし、パッチが床を手で叩いた直後、壁から飛び出す数本の槍がジュードの進路を封鎖する。
「部屋にも罠があるのね。警戒を怠らないで、動き回るのは最低限にして!」
 イーリンの注意を聞いたのか、駆け出そうとしたサクラが足を止める。
 パッチへ手が届きそうなのは、リフィヌディオルとラムダだけだ。
「ジュードは上へ。私がパッチの移動を封じます」
 パッチが再び高度を上げるより先に、リフィヌディオルがレイピアを一閃。パッチの移動を妨害すると、その眼前へと一気に距離を詰めてみせた。
 振り抜かれた鉈剣が、リフィヌディオルの胴を薙ぐ。
 だが、強化された体力を削り切るには到底足りない。
 リフィヌディオルが稼いだ時間は10秒ほどか。
 パッチの攻撃を受けながら、ただひたすらに耐え抜いた。その様を見て、パッチはきっと笑っただろう。
 それは戦士特有の、獣のような狂暴な笑みだ。
 リフィヌディオルが時間を稼いでいる間に、パッチの頭上をジュードが取った。
 背後にはランドウェラとサクラの姿もある。
 そして……。
「捕まえて!」
「はいはい。これもお仕事だからね」
 ヴァイスの声が響き渡った。
 それに答えたのはラムダだ。
 じゃらり、と金属の擦れる音が闇に響く。
 否、その音は正しく“闇の底”から聞こえて来たのだ。
 パッチの足元、影の内から溢れた無数の黒い鎖が、その体に巻き付いた。幾重にも、幾重にも、鎖に四肢を拘束されて……。
 ぱっ、と弾けて消えるみたいに、パッチはその場から姿を消した。
「……はぁ?」
 なんて。
 ラムダの零した驚嘆が、自棄に大きく聞こえたのだった。

●パッチの誇り
 部屋の奥に隠されていた、もう一つの隠し部屋。
 その中には、2つの遺体があった。
 1つはまだ新しい遺体。それはパッチのものだった。
 そしてもう1つは、すっかり乾いた女性の遺体だ。パッチの遺体は、女性の遺体を抱きしめるようにして壁にもたれかかっていた。
「貴方が死んだとしても、その遺志を遺す相手が居れば、それは続いていく」
 そうイーリンが呟いた。
 パッチの遺体には、無数の傷が刻まれている。おそらく、鉄帝国から遺跡に逃げて来る間に、誰かに襲われでもしたのだろう。或いは、長い囚人生活の中で負った傷なのかもしれない。
 その傷がもとで、パッチは息絶えたのだ。
「この女性は、空の棺の主……だろうか。まだ若いように思えるけど」
 2つの遺体を見下ろして、ランドウェラがそう呟いた。
 既に周囲に霊魂はいない。
 女性の遺体とパッチがどういう関係なのかは不明だが……きっと女性の遺体は、パッチにとって大事な人なのだと思う。
「きっちり、安全な場所に葬ってくれってことなのかな」
 なんて。
 パッチと女性の遺体の胸で、揺れる揃いの首飾りを見てランドウェラはそう呟いた。

 パッチと女性、2人の遺体は静かな場所へ移すことに決められた。
 布をかけられ、運ばれていく2つの遺体を見送って、サクラは小さな溜め息を零す。
「もう少し早く、生きているうちに出会えていれば……手を差し伸べる事が出来たかもしれないのに」
 騎士として、今回の出来事について何か思うことがあったのであろう。


成否

成功

MVP

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
パッチ・ザ・パッチの身柄は確保されました。
依頼は成功となります。

パッチおよび発見された女性の遺体は、静かな墓所へ運ばれました。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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