シナリオ詳細
<奇病奇譚>花弁病
オープニング
●<奇病奇譚>第五頁
とある名医の手記。その手記は原因不明の病のみが綴られ、社会に広まることはなく、ただその病気の罹患者と医療従事者のみが知るものとなっていた。
此度綴られるのは『花弁病』。
美しい花には棘があり、麗しい花には影がある。それはいつの世だってそうだ。過去も。未来も。そして――今も。
三頁目。
症状の自覚:一年前
患者の症状:花弁の嘔吐を伴う咳
上記より花弁(かべん)病と判断。治療方法はまた後述しよう。
この病気はあまりにも美しすぎる。それゆえに病だと伝えるとあまりにもファンタジーが過ぎると笑われてしまうこともある。
内側に溢れる花弁は、彼等が忘れられない花となっているようだ。
痛みを伴うこともなく食事などなどの人間的な営みは普通に行えるようである。
四頁目。
病気について:感染病である。精神に強烈なダメージを受けたとき、また近くに患者が居た場合、感染する。
注意点にもう一つ記載しておく。
進行度:重症
重症患者は色素が抜け落ち瞳と髪の色が白になっていく。
治療方法:臓器になっている花の砂糖漬けを食べる。変質している臓器の分だけ。
ただし食べれば食べるほど記憶が抜け落ちていく。食べることにより花の色に髪が染まる。
民間療法であれば、大切な人の臓器を食らう、とある。
注意点:重症になるほど寿命をくらっていく。痩せ細る可能性もある
また。後述する死亡時点の姿を大切な人に見せない限り、その『大切な人』はこの病気に関する抗体が減少していく。
死亡時:花となって散る
花弁は美しい。
だが死亡解剖を行う際にあまりにも目を疑ってしまう。
絶望のあまり首をくくった患者が居た。溢れんばかりの花が臓器代わりにつまっているのだ。
恐ろしかった。あまりにも美しかった。
……これでは自分まで感染してしまいかねないほどに。
●
「花弁になって散るって、ロマンチックだよね」
まるで妖精や精霊になって死んでしまったようだ。絢は笑った。
「おれも先に体験してきたんだ。おれは……桜だった」
桜舞い踊る世界の出身だからだろうか。
それとも、大切な人が桜の下で眠っているからだろうか。どちらにせよわからない。
「桜の砂糖漬けはうんとあまくて……でも苦味もあって。大人の味、って感じだったよ」
けほけほと咳き込む度に溢れ出てくる桜。
まるで他人事のように、春がきたのだろうかと驚いたのだという。
「さて、と。皆の案内だよね」
こんな病気になってしまう物語があるのはふしぎなことだ、と、絢は肩を竦めた。
「花になって散らないかい。……どれほど美しく、ひとは死ねるのだろうね」
- <奇病奇譚>花弁病完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年10月10日 22時11分
- 参加人数6/6人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
●
咳き込んだ掌には赤い花弁が溢れる。『ただひとつのオーロラ』ネーヴェ(p3p007199)はその表情に影を落とした。
髪に飾られた花と同じくして、花は彼女の口内より溢れ出る。
彼女の瞳から色素を奪ったように艶々と輝く赤色。少しずつ赤がとけていく。
(わたくし、ここで溶けてしまうのかしら。……いえ、お医者様は花になって散ると、言っていましたか)
こほ、と咳き込むたびに椿が踊る。
(ここで花になって散れば、あの方に会えるのかしら。でもここで散ったなら、あの人が泣いてしまうかも)
あの方。己が見送ったひと。大切だったセピア色。
あの人。己の隣にあるひと。大切な夜のそらの色。
涙をもう見たくはない。痛む脚をなんとか動かした。
生きる理由なんてなかった。生きる意味なんて見いだせそうにない。だからそれを他人に委ねた。
生きていなければいけない理由。『あの人が泣いてしまうから』。
そうだ。貴方が泣いてしまうなら。生きなくてはいけない。貴方が笑う未来を望み、そして叶えるために。
椿に粉雪を。砂糖漬けにして、赤をかじる。
これしか食べられないなんて、そのうち自分が砂糖菓子になってしまいそう。
甘い香りに誘われて、あの人が笑ってくれたならいいのに。
腕をなめてみるけれど、甘くはない。おとぎ話のように上手くはいかないのだと、自嘲的に笑った。
髪が薄らと赤くなって、何かを忘れたような気がしたけれど。何を忘れたのかもわからない。何も残っていないものなんて、気付きようがないものだ。
何も残っていないなら、きっと大したことではなかったのでしょう。
最近はなんだか、よく眠れるようになりました。
嫌いではないけれど、わたくしが自ら選んだわけでもなさそうなものを捨てて。
いつ貰ったのかしら、とか。自分で買ったのだったかしら、とか。
それを繰り返していくうちに、みるみる髪は朱に染まる。
生活をしていくのに、問題はないから。
お金の計算も、家事だってできるもの。足は不便だけれど……豊穣の里の方を、少しでも守れた勲章だから。
だからそう。
あんまりにも驚いた顔をする貴方が。
解らない。
ほろりと崩れ去る椿。
宵空に置き去りにした貴方の貌(かたち)。
「――貴方は誰ですか?」
知らない人。どうしてわたくしを知っているの?
たじろぐ白雪。散った花弁。
再び、想いの花が咲くことはない。
●
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は皮肉げに黄色い花を見つめた。
「……花はカタバミですか、確か別名に鏡草を持っている花でしたね。それと……どこか別の国では「ハレルヤ」って呼ぶんですよね、なんだか皮肉です」
ああ、そうだ。なんて忌々しい。
それは彼女の。恋人の、信仰する神を称える言葉なのだから。
彼女が大切にしているものを食らって生きながらえたとして、何になるのだろう?
だからそう。絶対に食べない。この黄色い小さな花を。
元々僕は元の世界で消え去る運命だったんだから。だから、恋人と離れて一人静かに消えることを選ぼう。
諦めてしまうなんて。希望を捨てるなんて。そう笑われてしまうだろうか?
(……でも。恋人が同じ病にかかるリスクを背負ってしまうのはすごく嫌だけど。消えるなら、せめて静かに消えたい)
わかっている。彼女ならきっと、僕が病を完治させることを望むだろうことは。
それも自分のためではなく純粋の僕のために。
(でも、僕は……彼女のことを忘れることに耐えられない)
だからそう。このまま死んでしまおう。
君を失って生きる生涯に、意味など無いのだから。
誰もいない古びた教会。
そこが最期の場所だ。
(……彼女はとても強いから、僕のせいで仮に病にかかったとしてもきっと必ず完治させるでしょう。そして記憶を、僕のことを全て忘れてしまうでしょう)
寂しい。
なんて、言わない。
「それでいい」
そうしたら。きっとまた彼女は新しい一歩を踏み出せるはずだから。
一つだけ心残りがあるとするなら、彼女がどんな花になるか知りたかったけど。どんな花だって。彼女を美しく引き立てることに違いない。
……好きなんだ。どうしようもないほどに。
だから、ねぇ、神よ。
(……そろそろ信心深いあなたの子羊を憐れみたまえよ)
最期に。癪だけど嫌いな神にそう願わずにはいられなかったんだ。
そうでもしないと、死ぬことに怖気づいてしまいそうだったから。
●
死は宿命。
逆らってすべてを忘れたとしても、それは私が私でなくなるということではないか?
ならば抗うわけにはいかない。『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)は笑った。
(モールは善人だ。生きるべきは彼だ。世捨て人を気取る私の世話を焼くのだから。婚姻届けはさておいて)
そうだ。彼には未来がある。
ほろほろとこぼれ落ちる白いヒース。
まるで雪が積もっていくようだ。
もしも雪だったなら、この死骸を隠してくれればいい。醜いこの心など、消えてしまえばいいのだから。
白いヒースの花になるようだ。最も私は手折られ、花輪(リース)になることはないのだけれど。
だからそう。遺したものが、荒涼とした荒れ地に根を生やすこともない。
ただ花弁だけが不自然に生まれ、不自然に消えていく。
(……しかし、それもこの世界の摂理ならば、殉じよう)
最初から何もなかった。
だからそう。何も遺せないのだって、摂理なのだ。
己を説き伏せればこの感情も楽になるのだろうか。ヒースは、笑う。
「何故不満げな顔をするのだ、モール。御身は生き残るというのに。私のことまで忘れるわけではない」
そうだ。
貴方は死なせない。だから、良いのだ。
埋もれていく。白い花に。
死者にとってもっともな幸せは、記憶されていることなのだから。
「私が全ての記憶を喪って、肉体だけ生きていたとしても、死者と同じこと。
否、生かされている屍のようなもの。恐ろしい。空虚さを抱えることに耐えられないだろう。……それに全てを喪い一からやり直すには、私は知りすぎ、抱え過ぎた」
「なら。お前はどうなる」
「……ああ、考えたことはなかった……」
「お前はそれで満足なのか?」
「……わからぬよ。おそらく不満なのだろう。だが、御身が生きている方が大事だと思ってしまった」
だからそう。眠れば良い。
目蓋が開くことはもう無いけれど。せめて貴方の笑顔を焼き付けたまま死ねたなら。
……どれだけ、幸せだろうか。
●
(花弁いっぱいにゃ…どこから僕で、どこまで花弁なのかよく分からないくらいにゃ。これ僕が吐き出したのにゃ…?)
朦朧とする意識をなんとか引き止めて『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)は走った。
(確か大切な人に会いに行かなきゃなのにゃ。じゃなきゃ大切な人が病気になって…)
それは、嫌だ。
溢れ出るはなびら。ちぐさの瞳には涙が浮かぶ。
(…友達とか、憧れとか…すごく大切だけど、僕にとって1番大事で、1番生きててほしいのはパパとママなのにゃ…)
それはずうっと昔のこと。
(僕は、1度猫として死んだにゃ。パパとママを悲しませたにゃ。
だから、じゃなくて召喚前の世界がそういうルールの世界だっただけだけど、猫又…妖怪に成った僕は、人間の世界には一切干渉できなくなったにゃ。
僕は見えない、僕の声は届かない、僕はパパやママに触れない、にゃ…」
ああ、そうだ。
また終わりが訪れるのだ。
後悔ばかりしていた、あの終わりが。
でも、いまのちぐさはかつてのちぐさとは違う。
(…苦しいにゃ。でも、僕は病気になった中ではすごく幸せにゃ)
誰にも見てもらわなくていいにゃ。
にゃん。
猫のひとりごと。
息が切れて。つかれて。だから、立ち止まって。ぽろぽろとこぼれ落ちる、しずく。
(僕は独りだから…だけど、なんで涙が止まらないにゃ? 僕は誰にも迷惑とかかけずに、ひとりで…)
ごしごしと目蓋をこすれば。隠していた思いまでが現れるようで、苦しい。
「…寂しいよう、ヤダよぅ…。パパ、ママ、会いたいよ…パパもママも死んじゃってからもう何十年か、僕の中からパパとママが消えないように僕、頑張って…寂しくても存在(いき)たのに、こんなの…やだ…」
ぱたり。
緩やかに倒れる小さな体。
(…よく見ると、キレイな花弁だなぁ…僕…泣き疲れちゃった…)
くぁ、とあくびをひとつ。
そっと目蓋を閉じる。
(さいごの、夢で…元気なパパとママと…一緒にいられたらうれしいな…きっと、人間じゃない僕は同じ場所にはいけないもん…)
こほこほ。花弁が生まれては、またちぐさを隠していく。
溢れんばかりのゆりかご。花嵐。次第にちぐさをさらって。
おやすみなさい。
●
どうせ死ぬなら綺麗に。
(……そんなこと思っていたけれど、花になって消えるなんて。ロマンチックだけど、それより何だか怖い)
他人事のように笑った『茨の棘』アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)は、己の口から零れていくの鮮血のような赤色を見た。
姉と分け合った瞳の色の、大切な半分。赤薔薇の花弁は、アレンを少しずつ蝕んでいく。
(花を吐き出しているなんて、身体が少しずつ溢れだすみたいだ。でも、醜い心臓をさらけ出すよりずっと良い)
だから抑えるつもりはない。もっとも、誰かを驚かせてしまうかもしれないから、部屋のなかで蹲るのだけれど。
僕とずっと一緒にいる姉さんにも、同じ病気をうつしてしまうのかな。
でも姉さんは僕がいないと生きてはいけないね。姉さんを遺して逝くのは、すごく不安だよ。
だからそう。叶うなら生き永らえたかった。
(せめて姉さんに優しくしてくれる人がいればいいんだけど、そんな人を用意しなかったのは僕だったんだ。探せばいたかもしれないのに、いないことにしてた)
けほ、けほと。咳き込むほどに暴れ出るのは。どうしてだろうか。
愛のようにも思えるし、怒りのようにも思える。
(こんな僕を、どうか許さないで。いっそ憎んでくれてもいいよ)
でないと、あなたも浮かばれない。
このまま姉さんと一緒に消えたい。
でも、姉さんに僕が消えるところを見せつけたい。
姉さんが僕を好きになってくれない分、傷つけたい。
姉さんに伝えてこなかった愛情が、切なさが、悲しみが形を持っていく。
こんな歪んだ僕が、姉さんにはどう見えるんだろうね。
ああ、そうだ。
その表情を見るまで、僕はきっと、きっと。死ねやしないのだ。
赤薔薇に溺れた男は、笑って。
●
(…最期は、花弁になって、散る。
嗚呼、なんて綺麗で、恐ろしくて、夢みたいな病なのでしょうか。
治療法はあると聞きましたが、死ぬことよりも、大切なものを忘れてしまうことの方が、恐ろしい)
血色の悪い顔に笑みを浮かべた『赤薔薇の歌竜』佐倉・望乃(p3p010720)は、目を伏せた。
治療はせずに、花になるまで大切な思い出と共に過ごすのだと。そっと寝台に肩を預けて。
家族との思い出。
特異運命的座標となってから出会った素敵な人達との、様々な冒険の記憶。
咳やくしゃみと共に吐き出される花弁の数よりもずっと多くの、暖かくて優しい思い出があることが、幸せだと思いつつも。
この先は、もう、皆と一緒に思い出を増やすことができなくなってしまうことが、たまらなく寂しい。
涙の数だけ零れていく花弁。これでは咳なのか涙なのかわからない。美しい花に命を蝕まれるのはなんとも不思議だ。
散る時が近付いてきた。彼女が向かうのは大切な人のところ。
何も残せずに散るのならば、せめて。
たくさんの大切な思い出をくれたあなたを花の病から守り、あなたの心に、ほんの少しでも残りたい。
(わたしの最後の我儘、です)
そんなにも優しく見つめられては、困ってしまう。我が儘だと怒ってくれて構わないのに。
いつもの大きな木の下で、いつも通りの穏やかな時間を。
リクエストしたトランペットのメロディを聴きながら、ほろほろの星型のクッキーを口に含んで願い事を。
『優しいあなたが、幸せでありますように』と
3回唱えられたら、それで、おしまい。
あなたに出会えて、『姉ちゃん』は本当に、幸せでした。
ひらり、ひらり。笑顔で散った真っ赤な薔薇の花弁の中に、ひとつだけ混じっていた百合の花弁は。
きっと、✕✕✕に伝えきれなかった『 』の気持ち。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
花になって散る。
何も残せはしない葛藤を抱えてみませんか。
どうも、染です。
●目標/できること
【A】花弁病を治療する
【B】花弁病で死ぬ
のどちらかを選んでいただくことが可能です。
●【A】花弁病を治療する を選んだ場合
貴方は花弁を食べ続けなくてはなりません。また、花弁以外のものを食べることもできません。
病気の進行度に応じて花弁の量は増えていきます。
しかしそれと引き換えに全ての記憶を失う可能性があります。
●【B】花弁病で死ぬ を選んだ場合
貴方は身体が花弁になり死にます。
大切な人に見せれば、その大切な人を守ることにも繋がります。
しかし見せなければ大切な人はそのままリスクを負ってしまうでしょう。
花弁は掴めず、また保存もできません。何も残せません。
●プレイングでお願いしたいこと
・ある程度の文字数(薄いリプレイになってしまいます)
・【A】or【B】の明記
・(あるようなら)グループタグ
・大切だった相手(IDでも、感情欄指定でも、関係者さんでも大丈夫です)
●<奇病奇譚>の世界観
染が担当させて頂くライブノベルシリーズの一つです。
混沌に似たどこか。混沌と同じように考えていただいて大丈夫です。
混沌と違う点は、原因不明の奇病がうじゃうじゃとあるところ。
<奇病奇譚>のタイトルがつけられています。
・過去作
涙石病 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8400
絆忘病 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8408
以上となります。
ご参加をお待ちしております。
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