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シナリオ詳細

ミャラヤアラクワラピ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ミャラヤアラクワラピ
 ミャラヤアラクワラピは七本の足を持つ鳥だ。
 木の枝をお椀上に集めた巣のうえに人の親指ほどの大きさをもつ卵で生まれ、雛のうちは親ミャラヤアラクワラピのはこぶ餌を食べて育つ。
 やがて育ったミャラヤアラクワラピは春を迎えると共に巣から出て空を飛ぶ練習を始める。
 巣立ったミャラヤアラクワラピは道に落ちたガラスを食べて透明さを奪うといわれていて、黒くて透明性のないガラスがあればそれはミャラヤアラクワラピが食べたものだとされた。
 ミャラヤアラクワラピの巣は高山地帯の背の高い木の上にあり、卵を奪おうとする鳥類や飛行種から我が身と我が子を守るために戦う。
 ミャラヤアラクワラピは七本の足を小刻みに動かすことで飛行し、腕は三本あり、人間にきわめて酷似した手指がついていた。戦う際はその手を使い相手を叩くか、木の枝やガラス片をもって殴りつけるという。
 生まれてから何年も経過したミャラヤアラクワラピは都会に下りて暮らすというが、ガラスをよく食べるためひどく透明で、ひとが目にすることは少ない。
 都会におりたばかりのミャラヤアラクワラピを見た者はその容姿を説明したが、自分と同じ顔をしていたと述べていた。
 生きたミャラヤアラクワラピを捕まえる計画をある幻想貴族がたて、成功したと言われているが、ミャラヤアラクワラピがどこかへ持ち込まれたという話は聞かず、計画をたてた幻想貴族もそれきり姿を見せなかった。
 ミャラヤアラクワラピについて有名なのは、卵が非常に美味であるという噂である。
 半透明な殻をもつ卵は円柱形で、中身は薄緑色のゼリー状の物体に満たされているという。
 ミャラヤアラクワラピの卵を割ったことのある者の話によれば、中身はその形状のまま維持され、それ以上壊そうとすれば強い弾力によっておしかえされたという。歯を立ててもかみ切ることがかなわず、外側は一切の味がしなかったとも語られた。
 なぜ美味であるという噂が流れたかの検証はなされていない。
 かようなミャラヤアラクワラピが、昨日人を襲ったと報告された。
 フートン山地の高所にて発生したミャラヤアラクワラピが人の目をえぐったというのだ。
 土地を納めていた幻想貴族は使いを出させたがミャラヤアラクワラピを見つけることかなわず、それ以上の金を積むこと無く、ギルド・ローレットに討伐を依頼した。
 ミャラヤアラクワラピの討伐を、実行せよ。

GMコメント

 この世界にミャラヤアラクワラピは存在しません。

 ここまで読んで大きく首を傾げたやもしれませんが、これはそういうシナリオです。
 つまり、この依頼に参加した皆様はお互いに協力し、口裏を合わせ、証拠をでっち上げ、依頼主である貴族に対して『ミャラヤアラクワラピを討伐した』という事実を作り上げる必要があります。
 依頼主の貴族はOPにある情報を全て把握しており、何かしらの矛盾があった場合それをつつきます。
 依頼失敗条件は『ミャラヤアラクワラピの討伐が嘘だと露見すること』です。
 全力で嘘となる証拠を隠してください。

【オマケガイド】
 このまんま放り投げると意見があちこちにばらけたまま相談が停滞するおそれがあるので、サンプルになる道筋を提示してみます。
 まず存在しない生き物の討伐を求められた時、一旦口先だけで討伐したことを認めさせる手を打ってみます。
 しかしどこかのタイミングで必ず証拠を求められますし、『あいつら長いこと討伐っぽい行動おこしてなかったけど本当にやったのかな?』と疑われないためにそれっぽいスケジュールや行動をたてておくと安全でしょう。行動の偽装です。
 くわえて物的証拠として見た者が『ミャラヤアラクワラピの死体だな』とわかる物体を用意する必要があります。
 勿論死体全体を用意しなくても、たとえば人であれば耳だけ切り取って持ってくるような証拠提出のしかたがあります。
 このとき用意した物体がOP情報と矛盾しないかどうか検証する必要があるため、仮に『偽装証拠作成担当PC』がいたとしても相談時にそれを一旦提示して矛盾の洗い出しを何度か行なっておく必要があるかもしれません。
 さらに安全策をとるなら、依頼主貴族の周辺でミャラヤアラクワラピ討伐が本当に行なわれたという噂を上手に流しておくことで証拠への疑いの目じたいを軽減することができるでしょう。

 なお。
 森で目をくりぬかれた人間というのは本当にいるので、ミャラヤアラクワラピ討伐偽装の際にでくわす覚悟を一応しておきましょう。

  • ミャラヤアラクワラピ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月05日 20時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)
冒険者
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳

リプレイ

●非実在怪物ミャラヤアラクワラピを討伐せよ
 はっはっはっはっは。カフェに響く笑い声。
 低く理知的な声をした山羊頭の男、『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)がおかしそうに笑う声である。
「実におもしろい。まことしやかな戯言の森を渉猟し不確定性の箱の中に一匹の"猫"を産み出さんとす……いや、鳥だったかな。楽しいスナーク狩りと洒落こもうじゃないか」
「スナークじゃなくてブージャムだったら、俺たちは貴族に消されるのかな?」
 後に続けて呟いて、『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)はコーヒーカップに口をつけた。
 イシュトカがまた笑う。
 史之は眼鏡の奥でちらりと『パラディススの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)のほうを見やった。
 ハートのラテアートが施されたカップを両手で包むようにしながら、長く細い指を僅かに動かしている。
「空想の怪鳥と関わる者に起こる不幸な結末……きな臭いにも程があってよ」

 ミャラヤアラクワラピが実在しない生物であることは、よく知られていた。
 いや、より正確に言うなら実在派と非実在派が互いに主張し合い、双方にとって明確な証拠が提示されないがために議論がどこまでも平行線を進んでいた。
 非実在派にとっての証拠など、いわば『悪魔の証明』に他ならぬのだから無理からぬ。
 結果、ミャラヤアラクワラピの存在をにおわせるだけの噂話が幻想のあちこちに伝わっているという次第である。
 その実在を信じて討伐依頼まで出してくるというのは、なかなかのニュースである。
「しかし今回の件……貴族の道楽か、はたまたより大きな隠蔽工作を依頼する為の試金石か」
 『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)は交流アバターでもって考え込む仕草をした。
 指先にモノクロカラーの妖精を踊らせてみせる『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。
「本来タチの悪い貴族の冗談なのではないでしょうか。叶わない依頼を出して、偽造証拠を出させて、矛盾を突いて虐める、という依頼のように思えて仕方ないです」
「そんなことをして貴族に何の得が? 狼少年になるのは明白じゃないですか」
「杞人天憂……陰謀論を唱えてもきりがありませんね」
 コーヒーに角砂糖を落とす美咲・マクスウェル(p3p005192)。
 ぽちゃんという音に伴って語り出した。
「パターンA。Mの実在はどうでもよく、迅速にXを討伐して被害拡大を抑えたい」
 ぽちゃん。
「パターンB。Mの非実在は知っているが、何らかの事情でXの討伐に利用したい」
 ぽちゃん。
「パターンC。Mの非実在は知っており、我々の嘘報告を弄って遊びたい」
 ぽちゃん。
「パターンD。ガチでMの実在を信じている」
 スプーンを差し込んでくるくると回しながら、美咲は頬杖をついた。
「AとBだとすると証拠の提示はいらないはず。Cなら討伐を要求せずに『生きた実物を見せよ』と言うはず。D……だけだとちょっと偏りすぎかな」
「AとDの混合といったところでしょうか?」
 ただ怪物を倒すばかりがローレットの仕事ではない。
 往々にして、存在せぬ怪物の討伐とその裏側に考えを巡らせねばならぬものである。

「何だよ足が七本で腕が三本の鳥って。羽根すらねえじゃねえか!」
 シガレットチョコレートをくわえ、『冒険者』ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)は椅子を後ろに傾けた。
 目の前にぶら下げた想像スケッチはなんとも間抜けな様子だった。子供の落書きでもまだ現実味があろうものである。
 横から覗き込んでため息をつく『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)。
「本当、訳の分からないお仕事になってしまったものねぇ」
「まぁ、とにかくお貴族様のご依頼だ。幻を追掛けるロマンはわかるが今回はハズレだろう。申し訳ないが嘘でごまかさせてもらおうよ」
「当然! 受け持ったからにはしっかりやるわ」
 スケッチをもぎ取って、華蓮はカフェの出口へと歩き出した。
「図書館に行ってるわ。あとで合流しましょ」
 ぱたぱたと、後ろ手を振る。

●ありもしない証拠
 アルプスローダーを押して歩く、かのように見せているアバター。
 荷台には革の鞄が増設され、ずっしりと何かがつまっていた。
 手帳を見ながら横を歩くイシュトカ。
 鞄をゆらしてみると、じゃらりと重い音がした。
「これはガラスですか? そのわりに真っ黒ですけど」
「鉱石の一種だ。ミャラヤアラクワラピはガラスを食べて透明性を奪うと言われている。つまり光沢をもった黒くてガラス状の物体を容姿すれば、食べかすを再現できると考えた。ステンドガラスの一部としてガラスに見せかける用途で用いられる素材だが、あまり有名なものではないな」
「お詳しいんですね?」
 言ってること全然わからないなという顔で首を傾げるアバター。
 イシュトカは薄く笑った。
「しかしミャラヤアラクワラピが実在しないとしても、目をくりぬく怪物は実在したんですよね。そちらは僕が対応しましょう。幸いくりぬかれても大丈夫な目がありますから」
 アバターの目をゆびさす。
 イシュトカは横目でそれを見てから、ちらりとアルプスローダーのヘッドライトを見た。
「うまく行けばいいのだがね……」

 窓からはいる風を浴びていたエトは、ぱたんと窓を閉じた。
 カーテンをひき、きびすを返す。
「監視の目はないみたい。観察した限りは、だけど」
 静かな部屋。エトが手配した宿である。
 買い出しや資料集めに繰ろうしないように町中へ。それも角部屋から数えて男女二部屋をとった。
「それじゃあ、始めましょうか」
 華蓮は何冊もの本をどっさりとベッドに置いた。一冊ずつ広げるように並べていく。
 彼女たちの役目は偽の報告書作りである。
 各人の集めた情報や偽造証拠にあった内容の報告書を作ることで討伐活動に真実みを持たせ、かつ仲間同士の口裏を合わせやすくするのだ。
「まず肝心なことだけど」
 ベッドに膝立ちになって、這うように本の海をわたっていく華蓮。
「ここにある資料はぜんぶ、ミャラヤアラクワラピのものじゃないわ」
「……うん?」
 小さく首を傾げるエト。
「それは、どういうことかしら?」
「例えば図鑑とか、事件記録とか、そういうものにミャラヤアラクワラピは載ってないってことなの。
 噂話によれば貴族がミャラヤアラクワラピの捕獲を試みたっていうけれど、その貴族の情報だってないわ。そもそも、噂話の上にしか存在してないの。例えばこれね」
 華蓮はいくつかの本を指し示した。
 都市伝説。怪談話。ゴシップ記事。そういったものを扱った本に、『ミャラヤアラクワラピを捕まえた貴族』の話はあったが……。
「見て、どの記事も言ってることがバラバラ。中にはフィッツバルディ氏が捕まえて王に献上したとか言われてるけど、眉唾もいいところよね。こっちには暗殺令嬢が殺して食べたとあるわ。バルツァーレク氏が異国から輸入してるなんて記事もある。要するにゴシップネタなのよ。記事を書いてる人たちはみんな、本当に居るなんて思ってないの」
「けれどここに集めて来たってことは、価値のある情報が含まれているのよね?」
 テーブルによりかかるエト。華蓮は待ってましたとばかりに、一冊のスクラップブックを翳した。
「ミャラヤアラクワラピに目をえぐられた男性の、居場所」

 史之と美咲はある病院の前に立っていた。
 今回の依頼の発端とも言うべき、『ミャラヤアラクワラピに目をえぐられたと証言した人間』の居場所である。
 仲間の調べによって発覚したこの場所へ、確かな情報を獲得すべく史之と美咲はやってきたのである。
「小さい病院だね。貴族の関係者かと思ったけど……それにしては」
「対応が小さすぎるって?」
「美咲さん。俺はね……」
 眼鏡のブリッジを中指で押しながら、史之はどこか目の色を暗くした。
「貴族がミャラヤアラクワラピの仕業にしろと関係者に吹き込んだと考えてるんだよ。事件をねつ造して、何かの事実を隠蔽しようとしてるんじゃないかってさ。そうじゃなきゃ粗探しをする理由がわからない」
「おっと?」
 美咲はくるくると指を回した。
「粗探しをされるなんて話は、聞いてないよ?」
「……そうでしたっけ」
「証拠をカバーしようとする余り思考が偏っちゃったかな? 貴族が求めてるのはあくまでミャラヤアラクワラピを退治した事実と証拠だからね。ほら、豚の心臓を持ち帰って『姫を殺しました』って報告するおとぎ話があったでしょ? ああいうことをする冒険者、沢山いると思うんだよね」
「ああ……ああ、まあ」
 疑心暗鬼になりすぎたかな。史之は深呼吸をして、病院へと入っていった。
 お世辞にも清潔とは言いがたい病院だった。この土地の貴族は医療にお金をつかっていないらしい。
 酒に酔った医者の話によれば例の被害者は病室に入院しているという。
 片目損失とはいえ数日もあれば完治するそうで、退院も間近なのだそうだ。混沌の医療現場ではよくあることである。
 会いに行ってみて、史之はその異様さに息を呑んだ。
 被害者――ケトル・テル・クラスという猟師の男は、どこか幸せそうにニコニコしていたのだ。片目がくりぬかれたのだろう。包帯が頭の半分を覆っている。
「ミャラヤアラクワラピの討伐を依頼された者です。話を聞いても?」
 ぎょろり、と残った片目でこちらを見たケトル氏。
 美咲はサッと手を翳すと、瞬き一つで魔眼を発動させた。
「嘘はつかず、正直に応えてね。一つ目の質問。あなたはミャラヤアラクワラピを本当に見たの?」
 催眠状態にうまくかかったケトル氏は、嘘をつくまい。
 これでハッキリするはずだ。
 そう考えた二人に、ケトル氏は笑ったまま応えた。
「ああ、はっきりと見た。あれはミャラヤアラクワラピだった。あれは実在したんだ。俺は発見者としてきっと有名になるぞ」

 森の中。シャッター音が響く。
 光転写によるモノクロ写真機を持って、幻はある物体をあちこちから撮影していた。
 噂にあるまんまの造形を(一部想像を交えつつ)『胡蝶の夢』で具現化した物体を撮影しているのだ。
「これでうまくいくのかね」
 ヴィンスがシガレットチョコレートをがじがじと噛み砕いている。
 かがんだ姿勢で撮影していた幻はすっくと立ち上がり、ヴィンスへと振り返った。
「ミャラヤアラクワラピは透明な鳥ですから、もしそういったものを討伐しようとするなら塗料をぶつけて透明性をなくそうとするでしょう。その様子を撮影しておくことで真実みを増やすのです」
「そいつは分かるけどよ……」
 ヴィンスはすんすんとあたりの臭いをかいでみた。木々のにおいと雨のにおい。そして塗料のきついシンナー臭が混じり合っている。
 仲間……具体的には史之と美咲によって割り出したミャラヤアラクワラピの出現ポイント。
 ヴィンスは地図を片手に周囲の様子を観察していた。
 地図といっても『こっからここまで大体山!』みたいな子供の落書きレベルのものである。実際来てみるとあちこち間違っていてヴィンスの表情をたびたび曇らせた。
「ったく。この土地の貴族は測量ってものを知らないのか」
 嗚呼、正確な地図が民間に広く開示されている世界の尊さよ。無くして価値に気づくは酒の味ばかりではないらしい。
 ぐしゃぐしゃと地図(らくがき)を丸め――たその瞬間。
 幻から悲鳴のようなものがあがった。
 振り返れば、幻が目をおさえて叫んでいるのだ。
「み、見ました、はっきりと! 確かにあれは!」
 片目から血を流しながら。
「ミャラヤアラクワラピです!」
 周囲を見回すヴィンス。そんなものはどこにもない。
 だがやるべきことは一つだ。幻の手を引いて、ヴィンスは一目散に逃げ出した。
「くそっ、見えなかった。奴が透明だからか? って実在しねえのになにいってるんだ私は、矛盾している!」
「矛盾しているのはそこではありません」
 片目を押さえ、幻は表情を冷たくした。
「透明であるなら、ハッキリと見えるはずはないのです」
「――!?」

●ミャラヤアラクワラピの非実在証明
 幸いなのは幻が作成するはずだったミャラヤアラクワラピの討伐写真(偽造された宇宙人捕獲写真のようなものである)をあらかた撮り終えていたことである。写真に時刻は記録されないので、史之たちは街で一度ミャラヤアラクワラピに遭遇した旨と、それを今から討伐しにゆく旨を語って回った。
 あそこには近づかない方がいいという史之の言葉は片目を(一時的に)喪った幻の姿も相まってまことしやかに語られ、幻想の町にひろがっていった。
 片目を包帯で覆って一時療養中の幻(これでも全治一日)と、そのそばについた華蓮。エトのとった宿の一室。
 華蓮は計画を資料にまとめ、エトたちに配った。
「ミャラヤアラクワラピの実在を証明するとっかかりはいくつかあるけど、どれも証拠として提示するには今ひとつなの。だから今回は……『新しい噂を作る』わ」
 今回たてた作戦。それは『ミャラヤアラクワラピはとても燃えやすかった』ということ。加えて『死期を悟ると隠れる』という噂である。
 前者はかりに眉唾であったとしても塗料をかぶせた写真の存在により可燃性が高まったともとれるし、後者は誰も死体を見たことが無い事実を裏付けやすくシンプルに広まることが見込まれた。
 しかしそれでも邪魔になるのが『偽ミャラヤアラクワラピ(仮称)』である。
 大きな怪我をおった幻の証言から、これの討伐作戦は計画された。
「僕はミャラヤアラクワラピをはっきりと見ました。けれど一緒にいたヴィンス様には見えなかった。死角になっていたわけでもなく見落としでもないとすれば、理由はひとつです。それを証明できるのは恐らく……アルプスローダー様でしょう」

 ミャラヤアラクワラピに遭遇したという森。
 そこへ訪れたイレギュラーズたち。先頭をゆくのはアルプスローダーだ。アバターをバイクに跨がらせ、ありもしない怪物に呼びかける。
「さあ、襲ってきなさい! ミャラヤアラクワラピ! 僕はここに――」
 バンという破裂音がした。
 アバターに傷はない。
 アルプスローダーのヘッドライト。そしてアイカメラがはじけ飛んだ音であった。
「うあ゛ッ!」
 アバターがのけぞって消滅する。
 アルプスローダーは転倒し、樹木に激突した。
「み、見えました。あれは――」
「そういうことか……!」
 ヴィンスはとにかくあたりに銃を乱射しながらアルプスローダーを立て直し、エトに呼びかけて走り出した。
「回復だ! でもって、とにかく走れ!」
 エトは頷き、アルプスローダーに回復魔法をかけながら走り出した。
 去り際、美咲はマッチをすって偽造されたミャラヤアラクワラピの死体……のあったペンキの塊に向けて投げた。ぼわりと火がもえあがり、飛散した周囲の塗料へと燃え広がっていく。
 まばたきをして、美咲は魔力を込めた。
「ミャラヤアラクワラピは実在しなかった。けどやっぱり、見えない怪物はいたんだね。接近した時点で『目の中に現われる』怪物」
 はっきりと見えている。けれど他の誰にも見えていない。
 だが。
「私が相手で、残念だったね」
 偽ミャラヤアラクワラピが驚くように歪んだ。
 美咲の能力『虹色虹彩(レインボーアイリス)』は視線でスキル効果を発動する能力。
 偽ミャラヤアラクワラピは、銃口の先に張り付いたにすぎないのだ。
 魔力の放出に耐えかね、破裂する偽ミャラヤアラクワラピ。爆ぜる前の姿は、細長い糸のようであったという。
 幽霊の正体見たり枯れ尾花。

 史之は咳払いをした。
 せかされるように『ああ』と顔をあげる貴族の男。
 目の前に提示されたのは真っ黒に焼け焦げた肉の塊であったがゆえだ。
 隣には塗料をかぶせたミャラヤアラクワラピの写真や、細かく内容を記した報告書。さらには追跡中に回収したという不透明なガラスが並べられている。
「このように、我々はミャラヤアラクワラピの討伐を完了した。死体は激しく燃えて壊れ、これだけしか残らなかった」
 イシュトカはここまでの内容を貴族に語って聞かせていた。交渉術で会話の優位をとり、言いくるめの力で細かい矛盾点をかわすという手口である。
 貴族は唸った後、ガラス片をつまみあげた。
「随分念入りに証拠を提示したのだな。偽装でないことがわかればそれでよかったのだが……とにかく、ご苦労であった。なるほどやはり、ミャラヤアラクワラピは実在していたのだな」
 黙って顔を見合わせるイレギュラーズたち。
「しかしこれは大発見だぞ。どうだね、ミャラヤアラクワラピを捕獲すれば金貨を――」
 もうこりごりだ!
 史之たちは逃げるように貴族の屋敷をあとにした。

 後に、ミャラヤアラクワラピ実在派によるちょっとしたブームが起き森を訪れる命知らずが続出したのだが、誰もミャラヤアラクワラピを見ることはできなかった。
 知らぬうちに『元凶』が退治されていたと知るものは……少ない。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、皆様。
 深い考察や入念な議論。様々な可能性や手段を提案しあっては慎重に進めていくさまは、まるで綱の上を一輪車で駆け抜けるサーカスのごとしでございました。
 『よもや目の中に現われるとは思うまいて。クックック』とか言っていたら視線で殺すし。
 あのあとなすすべ無く逃走し、ミャラヤアラクワラピ見たさに入り込む人たちが次々目をえぐられて帰ってくるけど真実を言うに言えないという後味の悪さをごっそり殺していきました。すごい(語彙力も殺されました)。
 ホントは議論がめっちゃくちゃになってあちこちバラバラに駆け回るはめになるか、貴族の陰謀論にとらわれて泥沼にはまるか、貴族を『囲んで言論で叩く作戦』でごり押しするかのどれかに引っかかる筈だったのですが、皆様の協力プレイによって見事全弾回避し、かつリプレイに収めるのが難しいくらい濃密なお話になりました。
 よって、ここに大成功判定を差し上げようと思います。

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