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シナリオ詳細

<デジールの呼び声>悪夢の憧憬、断たれた絆

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●総攻撃の影
 インス島、総攻撃――。
 悪神ダガヌを封じるための作戦が、ついに始まった。
 乙姫メーアの要請に従い、シレンツィオはローレット共に合同軍を結成。ダガヌの本拠地であるインス島への総攻撃を開始していた。
 ダガヌ本体に深く迫るべく、乙姫メーアは、ローレット・イレギュラーズと漁火水軍の元海賊たちと共に、インス島内部へと侵入していた。
「敵の攻撃が激しいみたいだな」
 漁火水軍の頭領、漁牙が言う。あちこちから聞こえる戦闘音は、先ほどから激しさを増している。あちこちで、戦いが発生しているのだろうことは分かった。
「……美咲。あなた、気づいている?」
 モガミが小声でそういうのへ、美咲・マクスウェル(p3p005192)は頷いた。
「……あなたにそう呼ばれるのは何とも奇妙な感じだけれど。
 けど、言う通り。何か変。妙に、防衛体制が整い過ぎている」
 美咲とモガミは、不倶戴天の敵同士と言えた。モガミは竜宮の民には好意的であっても、美咲に対しては言いようのない憎悪を抱いているし、美咲はそれを感じ取っている。現在は、状況が状況故の呉越同舟なわけで、美咲がモガミを今一つ信用しきれないのも事実ではあった。が、それはさておき、モガミと美咲は同質の違和を覚えていた。美咲の言ったとおりに、敵の防衛体制が整い過ぎているのである。まるで、『事前に情報が漏らされていたかのように』。
「……あなた、メーアさんがおかしい、って言ってたね?」
「ええ。明らかに……ここ数日の彼女の様子は、おかしい。もしかしたら……」
「おいおい、あの子が裏切ってるってのか?」
 裂(p3p009967)がそういうのへ、漁牙が言った。
「わからん……そうは思いたくないが、情報が漏れているのは確かだ。ならば、怪しいのは、確かにあの子だ」
 確かに……メーアはこの場に、ニューディを連れてこなかった。竜宮の玉座と呼ばれる、常に乙姫の隣に侍っていなければならない、彼の精霊を。何かが、ちぐはぐだった。言いようのない違和感と不安が、一同の中に渦巻いている。
「どうしました? 皆さん」
 メーアがにっこりと笑った。その笑顔すら、どこか嗜虐的な何かを感じずにはいられなかった。
「大丈夫ですよ。もうすぐ、終わりますからね」
 鈴を転がすような、声。優しく、穏やかな……でも、魔的な、声。
 でも、その声は……何か、生き物を優しく痛めつけるような、加虐的な何かを、抱いているようなそれにも感じる。
「……メーアよ、聞いてもいいか」
 裂が尋ねる。
「俺たちは、どこへ向かっている」
「入り口ですよ」
「入り口?」
「はい。ダガヌは、この島の海の底に、居城を築きました。その海へと通じる道は、インス島のこの先、滝から通じる水中通路にあります。居城につながる、入り口です」
「ほう、それはそれは」
 裂は言った。
「なんでそんなこと、知ってるんだ?」
 ふふ、とメーアが笑った。
「教えてもらったからですよ。決まってるじゃないですか――」
 ざ――と。気配が沸いた。気づけば、ざ、ざ、ざ、と、あちこちから気配が立ち上がる。目の前には、滝があって、周囲は川と、森によって囲まれていた。その森のあちこちから、ざ、ざ、ざ、と気配がやってくる。
「俺たちは海賊だ」
 その気配の中の一つが、声をあげた。
「だから山賊のモノマネなんざぁ気に入らねぇんだけどよぉ! 漁牙のジジイ! それからその腰巾着の裂とか言ったか!
 テメェらに仕返しできるってんならぁ、まぁ、それもしょうがねぇよなぁ!」
 ギャハハハハ、と下卑た笑い声が響く。それは、かつて竜宮で戦った者なら、聞き覚えがあったかもしれない――!
「ぬう! オヌシ、濁羅(だくら)か! 濁悪(だあく)海軍の!」
 漁牙が吠える! はたして、その言葉通り――森の奥より現れたのは、海乱鬼衆の濁悪海軍頭領、濁羅だ!
「ひさしいなぁ、ジジイ! それに、ローレットの糞共がよ。のこのこ殺されに来てくれたんだ、ありがたいもんだ!」
 周囲は、既に数十の濁悪海軍の海賊たちによって包囲されていた。漁牙が指示をすると、漁火水軍の元海賊たちが、一斉に構え、濁悪海軍たちをけん制する。
「そんで……お前ら、騙されたってのに気づいてねぇのか? そうしたら間抜けだな!
 おい、クソ女。もういいぞ、下がってこい」
「はい」
 にっこりと笑って、メーアが飛びずさる。濁羅の隣に立つと、その嗜虐的な笑みを隠さずに、此方に向けた。
「やっぱり、ね……!」
 モガミが言うのへ、美咲が頷いた。
「操られているみたいだね。何か……妙な気配がする」
「ああん? バレてんのかよ。クソ女が、もっとうまくやれよな!」
 濁羅が、メーアを蹴り上げ――ようとしたところで、それを水の壁に阻まれた。メーアの結界術だろう。
「あら、おさわりは厳禁ですよ?」
「クソ女が。まぁ、良い。で、お前らは、まんまと此処におびき寄せられたってわけだ!
 クソ女のお守りご苦労さんだったな! ギャハハハハハ!」
「……まさか、このインス島攻略作戦自体が――」
「ええ、申し訳ありませんが、謀りですよ」
 メーアが笑う。
「皆さんには、ここで果てていただきます。
 全ては――偉大なるダガヌ様のためです」
 ざ、と、メーアの身体から、清浄なる海と、悪しき穢れた海、二つの気配が立ち上った。
「くっ! あの嬢ちゃんの力、洒落にならんぞ!」
 漁牙が叫ぶ。元々、メーアは戦闘能力が高い方ではないはずだ。だが、ダガヌの力と、元々の竜宮の力、その全てを戦闘面に回したとしたら、おそらく絶大な力となるはずである。
「……まずいな。とにもかくにも、此処から撤退しないといけねぇ。
 内部に裏切り者がいるって事を、伝えなければ……!」
 裂の言葉に、皆は頷いた。
 絶対の包囲網を、突破しなければならない……!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 二人の強敵を撃退し、生還してください。

●成功条件
 メーア・ディーネーおよび濁羅の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 悪神ダガヌを封じるため、シレンツィオ合同軍によるインス島攻略作戦が開始しました。
 その最中、皆さんはメーア・ディーネーに連れられ、ダガヌ攻撃のために島の中心へと向かいます。
 しかし、そこに待っていたのは、ダガヌの配下と堕した海乱鬼衆・濁悪海軍たちと、その頭領の濁羅でした。
 同時に、メーアはその本性を現します。嗜虐的な笑みを浮かべる彼女は、皆さんに敵意を向けるのでした。
 こうなっては、ひとまず撤退するしかありません。ですが、メーアと濁羅がそこにいるのなら、撤退も厳しいでしょう。最低でも、この二名を撤退に追い込み、後顧の憂いを断たねばなりません。
 皆さんは、この二名、そして濁悪海軍の海賊たちと戦い、生還してください。
 作戦実行タイミングは昼。周囲は滝と川、密林があります。特に戦闘ペナルティは発生しないものとします。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●エネミーデータ
 濁悪海軍・海賊兵 ×40
  濁悪海軍の海賊兵士たちです。ダガヌの加護を受けており、通常の人間敵よりやや強力になっています。
  攻撃方法は、太刀や槍、銃などを用いたオーソドックスな物理系攻撃をメインとします。
  回復などは行わないので、しっかりダメージを与えていけば倒せるはずです。
  半数以上は、下記漁火水軍の味方NPCが対応してくれます。実際に皆さんが戦うのは、10名前後になるかと思われます。

 濁羅 ×1
  ダガヌの配下と堕した、海賊・濁悪海軍の頭領です。
  もともと非常にタフな相手でしたが、ダガヌの加護を受け、力を増しています。
  力任せで野蛮な戦い方が特徴。手にした太刀による斬撃は、魔的な力でバフを吹き飛ばしたり、強烈に出血させたりしてきます。
  主に前衛を務めるファイターです。うまく盾役がひきつけるか、いっそ一気に火力を集中して沈めてしまうのもいいでしょう。

 メーア・ディーネー ×1
  竜宮の乙姫。どうやらダガヌに操られているようですが……。
  もともと非力な存在でしたが、ダガヌの加護、竜宮の加護の二つを戦闘面に割り振り、強烈な魔術を扱う上位魔術師として振る舞います。
  海をモチーフにした魔術には、毒や凍結、窒息系列を付与する力があります。範囲攻撃なども得意としますので、まとまっているとまとめて薙ぎ払われてしまう可能性も。
  HP・防御技術面は低めなので、底をついて、早期に決着をつけると良いでしょう。

●味方NPC
 漁火水軍・元海賊兵士 ×30
  漁火水軍に所属する。元海賊兵士。下記の漁牙の部下です。
  主に濁悪海軍の敵兵士を相手取ってくれます。放っておいても、それなりの活躍はしてくれるでしょう。

 漁牙
  漁火水軍の頭領。強力なインファイターです。
  特に指示が無ければ、主に漁火水軍と共に、濁悪海軍・海賊兵の相手をしてくれます。味方の手数が足りないと感じたら、濁羅やメーアにあてるのもありです。

 モガミ
  竜宮に滞在していたウォーカー。美咲・マクスウェル(p3p005192)に関係する存在のようですが……。
  美咲さんに強い憎しみを抱いているものの、他の存在に対しては人当たり穏やかで、特に長期滞在していた竜宮の民には好意的。今回もその流れから、呉越同舟的に味方に付いてくれています。
  魔術を使用した遠・中距離アタッカー。特に指示が無ければ、主に漁火水軍と共に、濁悪海軍・海賊兵の相手をしてくれます。味方の手数が足りないと感じたら、濁羅やメーアにあてるのもありです。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <デジールの呼び声>悪夢の憧憬、断たれた絆完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年10月10日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
裂(p3p009967)
大海を知るもの

リプレイ

●断たれたもの
「……単に不眠と判断したのが最初の取りこぼしなんだろうけど。
 ボウフラ並みに湧いてあちこち憑いてるぽいし、そりゃ見落としもするか」
 ぽつり、とそう告げる『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)に、モガミは少しだけ悔し気に口元を引き締めた。
「ええ、これは全く、わたしの手落ちね……。あなたにわたしの失策を見られるなんて。死んでしまいたい」
 そう告げるモガミ。些か皮肉気にそういうのは、モガミ個人の、美咲への感情による。モガミ自身は『人類に敵対はしていないが』『美咲に敵対していないわけではない』立場だ。彼女に尋ねればこういうだろう。「わたしはこの世界も、そこに生きる生命も好きよ。嫌いなのは、美咲、あなただけ」と。
 さておき、そう言った『敵意的』な感情が、モガミに些かの自虐的な言葉を吐き出させたわけだが、それをわざわざ突っついてやるほどの余裕も、今の美咲にはない。というのも、今美咲たちを始めとするイレギュラーズ達は、敵に包囲されているのだ。
 ただ敵に包囲されている、というだけならいい。このメンバーなら、容易に突破することは可能だろう。が、問題なのは、敵の幹部ともいえる、濁悪海軍の頭領、濁羅が――何か得体のしれない雰囲気を纏いながら現れたこと。そして、同様の『雰囲気』を纏いながら、乙姫であるメーア・ディーネーが裏切りの様相を呈していたことである。そして、メーアの纏う、何か『魔的』な雰囲気は、これまでさんざんに感じられた『深怪魔』のそれと、何か既視感のある雰囲気を混ぜ合わせたようなものであった。
「……おい、クソ女。どうなってる」
 濁羅が、メーアに告げる。
「加護ってのが消えてねぇじゃねぇの? 何してんだオメェ」
「それは――」
 『メーア』が苦しげにうめいた。
「だって……消えたら……消させない、から……?」
 混乱するように、メーアが言う。そのまとう雰囲気がわずかに揺らいでいるのを、濁羅は舌打ちしてみせた。
「チッ! あのクソ神、えらそうに言っておいてこれかよ……!」
「その様子だと、何か……例えば、操術などを使って、メーアさんを操っている様だね?」
 マルク・シリング(p3p001309)がそう言った。
「連絡によれば……夢遊病、という形で、様々な場所で発現している。メーアさんも、それにかかっているんだ……ただ、メーアさんのは特別、強力なものらしい」
「だったらどうした? なんにしても、テメェらがここで終わりなのは変わりはねぇよ」
「はっはー、さてはお前ら、『追い詰められている』な!?」
 『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が、けらけらと笑う。
「だってそうじゃん。メーアちゃんだけが欲しいなら、こんな大規模作戦起こさせる理由がない。それこそ、ほんとに私ちゃんとメーアちゃんだけ誘い出して、まとめてがんっ、ってした方が効率的じゃん?
 それをしないのは、そうできなかったからだ! ならば、メーアちゃんは半分は正気だったとみるべき! 夢遊病ってくらいだから、意識のないときしか操れないんじゃないの?
 だったら、このインス島とか言う魚臭い島への攻撃自体は、メーアちゃんの意志であって、そしてダガヌとか言う生臭い奴にとっては本当に、やべー状況なんだ。だから、どうにかしようとして――逆転の策を狙った! それがこれ!
 私馬鹿だからわかんねーけどよ! でもわかるぜ! なんつってな!」
 秋奈が獰猛に笑う。その状況把握は、戦神としての『戦いの本能』故である。
「後さ、正直――だまして悪いが、って燃えるんだよね、私ちゃんはさ!
 んー、アガってきたー!
 こんなシチュエーションも嫌いじゃない!
 このメンツでしちゃうってのも、なんか新鮮で良き良きだな!」
 それは、一匹の獣か。戦のために生まれた、戦獣は、瞬時にこの場で何を為すべきかを理解した。
「ま、メーアちゃんはちょっと怪我するかもだけど、そこだけごめんよ」
 ひゅう、と秋奈が息を吐いた。刹那、飛び込んだ獣が、濁羅に牙を突き立てる! 振り下ろされた長刀を、濁羅は太刀で受け止めた。
「ちっ、イノシシかなんかか!?」
「がるぐるる、ちょとつもうしん女の子ってな!」
 振り払う長刀が、濁羅を吹き飛ばした。悪しき気配に護られた濁羅は、しかし秋奈の斬撃を受け止めて、最小限の衝撃で着地してみせる。
「殺せ! ぶち殺せ!」
 濁らが叫んだ。ごうごう、と海賊たちが雄叫びをあげる。
「漁牙の爺! すまねぇが、海賊共の相手を頼む!」
 『大海を知るもの』裂(p3p009967)が叫んだ。漁牙が、おう、と叫ぶ。
「任せろ! オヌシら、あの悪漢どもに海の漢の掟というものを教えてやれ!」
 漁牙が叫ぶ同時、漁火水軍の元海賊たちも、各々武器を伴い突撃! 濁悪海軍の海賊たちとの混戦へと突入する!
 一方で、漁火水軍たちとの戦線を抜けてきた、10近い海賊たちが、イレギュラーズ達へと迫って来る様子が見えた。
「さぁて、強敵が2,取り巻きが10とちょっと、って構図っすか」
 『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)が声をあげる。
「提案っす。俺がメーアさんの攻撃を受け止めるっす。その隙に無力化を」
「では、私が濁羅を受けましょう」
 屍兵(『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384))がそういう。今は傷つかぬ、無敵の屍兵の肉体がちょうどいいと思った。これから悪意を受け止める、悪意を誰かに伝播させぬ、その為の盾になろうという決意と共に。
「その隙に攻撃をお願いします。ええ、だまし討ちとは効果的。ですが、その程度で終わるほど、私たちは弱くはない」
 ボディがそういう。それは、この場に集う、仲間達の誰もがそう感じていることだった。私たちは、弱く無ない。この場で、最善の結果を、つかみ取ってみせる。それができる、と――。
「メーアさんは、まだ『本人』と接触ができると思うの」
 『愛を知りたい』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が、そう言った。
「慧さんには……かなりの負担になってしまうけれど。言葉を、届けたい。それで、もしも何かが変わったら――!」
 ココロがそういうのへ、慧が頷いた。
「いいっすよ。メーアさんに、あんな顔をさせたくないのは、俺も同じですから」
 二人が視線を交わした。やるべきことは、わかっていた。
「その邪魔をされないように、濁羅は俺の方でも抑えます」
 『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が言った。
「ボディさん、よろしくお願いします。あの悪党を、俺たちでつぶしましょう」
「おっと、あのカス野郎を仕留めるのは、おれさまに任せときな」
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)がそう言った。
「信念もくそもねぇ、ただ暴れるだけの阿呆なんざ、海賊の風上にも置けねぇって奴だ。
 おれさまが、『賊』ってのが何かを教えてやらぁ」
「ええ、やりましょう、グドルフさん」
 ルーキスが頷く。
「では、参りましょう」
 ボディの言葉に、仲間達は頷いた。
「オデットさんとマルクさんは、漁火水軍の皆さんの援護をお願いします」
 ボディがそういうのへ、『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は頷く。
「まかせて! メーアを助けて、全部終わらせるよ!」
 オデットの言葉に、皆は頷いた。
「さぁ、始めよう。まずはこの場を納めないとね」
 そうして、皆一斉に、戦いの渦へと突撃していくのであった。

●海の青、想いの青
「漁牙! 私も攻撃するわ!」
 オデットがそういう。漁牙は笑ってみせた。
「おう! 頼むぜ、嬢ちゃん! まとめて薙ぎ払っちまえ!」
 漁牙の言葉に、オデットはにっこりと頷く。ゆっくりと、その手を掲げた。髪をまとめている水晶のリボンが、ほのかな明かりを発して、その優しい光を、手へ。手に発した光は、さらに光を増幅させて、天へ!
「これより降るは裁きの光――ってね! 悪い人には、効果ばつぐん!」
 手を、振り下ろす! 同時、降り注ぐ光が、濁悪海軍の海賊たちを次々と狙い撃った! きゅおおおん、と光は帯のように、或いは線のように、雨のように槍のように降り注ぐ! 光が次々と、濁悪海軍の海賊たちを穿つ。命は奪わず、その悪しき怨念を断つ。聖光の裁きは、オデットという妖精の言葉に変わりて、悪しきをうつ!
「皆! 今よ!」
 オデットがそういうのへ、「応!」漁火水軍の兵たちが吠えた! なだれ込む兵士たちが、裁きの光に縫い留められた海賊たちを、次々と撃破していく!
「おっと、これには僕も負けていられないか……」
 マルクが声をあげ、その手をかざす。手にした指輪が、ほのかに輝くと同時に、空間を裂いて、怒涛の混沌の泥が吐き出された! それは、敵意を穿つケイオスタイド。泥に叩き伏せられた海賊たちが、次々とその体制を崩し、転倒する!
「多数への攻撃は僕たちが行う! 水軍の皆は、一人に対して複数で、確実に攻撃してほしい!」
「わかった、任せな!」
 漁火水軍の兵たちは、マルクの指示に従い、一対多の状況を作り出し、敵を一体一体、確実に無力化していく。その分フリーになる敵は増えるが、そう言った相手を、マルク、そしてオデットがまとめて薙ぎ払っていくのだ!
「こっちは回復もできるから、無理はしないで、すぐに下がって!」
 マルクの言葉に、水軍の兵士たちは素直に従った。ひゅう、と漁牙が称賛の声をあげる。
「大したもんだな! うちの漁船の頭に欲しいくらいだ!」
「有難う。でも、僕には他にやることがあるから」
 くすり、と笑うマルクに、漁牙は豪快に笑う。
「ははは! 確かに、漁師で終わる器じゃないだろうな、オヌシは!」
 漁牙が、部下の兵と共に、敵海賊を殴り倒す。そのまま、後方へと叫んだ。
「嬢ちゃん、そっち行ったぞ!」
「大丈夫! やられる前にやる! 妖精の鉄則、なんてね!」
 雄叫びともに自分に迫る海賊たちへ、オデットは鋭く手を横なぎに振るった。同時、強烈な冷気が巻き起こり、無数のダイヤモンドダストがナイフめいて海賊たちに突き刺さる!
「ぎゃっ、いてぇっ!!」
 悲鳴を上げる海賊たち。ダイヤモンドダストの嵐に飲み込まれた海賊たちが、これはたまらないと足を止める。同時、援護に現れた水軍兵士たちが、トドメとばかりに海賊たちの意識を断った。
「流石、強いな、嬢ちゃん!」
「ふふ、任せて!
 今、撤退のルートも探してる所! 皆もどうか、怪我しないで!」
「おう、俺たちは海の漢だ! 丈夫なのが自慢でな!」
 水軍の兵士たちが、勇気づけるように笑いかける。オデットも頷き返した。オデット、マルク、そして漁火水軍の面々が海賊たちと激しい戦いを繰り広げている中、その恩恵もあってか、幹部格の二人と真っ向から対面することが、残る仲間達にはできていた。
「右手に優しき母を、左手に偉大なる父を――」
 メーアが、その澱んだ瞳でイレギュラーズ達を見据える。右手に、蒼き清涼なる海の力を。左手に、魔へと堕した欲望の力を。青と、澱んだ青が混ざり合い。深海の寂しい暗い青になった。
「一掃します!」
 それは、邪悪の波濤であった。轟く悪しき大海、母なる海のもう一つの側面とでもいうべき攻撃的なそれが、神秘的な衝撃となってイレギュラーズ達に襲い掛かる。
「慧さん、おねがい!」
 ココロが声をあげるのへ、慧は頷いた。
「任せて」
 パチン、と指を鳴らすと、その身体が重く、重厚なる鎧をまとったそれへと変化する。その鎧を以て、慧は荒れ狂う悪しき波を受け止めて見せた。
「ぐ――っ! こんなことも、出来たんすね……メーアさん!」
 叫ぶ。メーアに混乱した様子は見受けられない。変わらずの、昏い瞳。
「ちがう、っすね。おまえは、誰だ……!」
 慧の言葉に、メーアは答えなかった。再び鋭く手を振るうと、ウォーターカッターのような強烈な水流が、慧を叩いた。痛みが、身体を走る。だが、ここで身を怯ませるわけにはいかない。
「ココロさん! 『メーアさんに』、声を!」
「うん……!」
 ココロが叫んだ。目を、真っすぐに見据えて。剣を仕舞った。両手を、抱きしめるように開いて。
「回復や防御術を濁羅たちになぜ使わないの? 一部の意識が残っていて、そう、わかっててやってますよね?」
 じり、と『メーア』が目をそらした。
「何を……ただ、貴方たち相手に防御は不要なだけですよ……!」
「違うよね――一生懸命、メーアさんも戦ってるんだね……?
 だから、ニューディも『連れてこなかった』。この場所に。連れてこなかったのは、『メーアさんの意志』なんですよね……いざという時のために……!」
「ちがい、ます……! ただ、私は……!」
 再びの、強烈なウォーターカッター。だが、それはココロの頬をかすっただけに過ぎなかった。ココロの頬に、一筋の赤が走る。ゆっくりと流れ出るそれを、ココロは受け止め、拭うことなく、立ち続ける。
「もしかしてあなたには、何かやりたいことができたのではないの?
 我慢しなくていいよ、本当の想いを言ってくれていいよ……!」
「我慢……!?」
 あはは、と『メーア』が笑った。いや、それは、ある意味で『メーア』であったのかもしれない。
「やりたい事なんて……ずっとできませんでしたよ? 乙姫になってから、ずっと……お姉ちゃんが羨ましかった。私と同じような立場なのに、お姉ちゃんは何でもできて、私は……ねぇ、希望を食べられちゃうのってどんな気持ちかわかりますか!?
 どんな願いも、望みも、それは欲望につながるから、私は抱けなかった! お姉ちゃんと遊びたいって思ったって、それをニューディに食べてもらわないと、私は乙姫でいられなくなっちゃうから……!」
「あなたは――」
 ココロが声をあげた。メーアが、混乱するように、頭を抱える。
「いや、違うの……こんなことが言いたくて、言いたいの! ずっと、そう思ったこともあるのは本当だけど、でも、嫌い。お姉ちゃんなんて、私に全部押し付けるだけで……竜宮だって嫌い! 私に全部押し付けるだけで! 私、私が、どんなふうに、思って……!」
 その言葉は、ある意味で真実の心から出たものかもしれない。メーアは、聡明な少女であったが、しかし幼い少女でもあった。そのような少女に、ありとあらゆる欲望を封じろと迫り、毅然たる乙姫であれと要求するのは、どれだけ酷なことであっただろうか。
 無論、それがしかたのない事であると、メーア自身も理解している。故に、メーア自身は普段は、そのような思いを封じていたのだろう。だが、人というものは、どうしても、そう言った負の感情は抱くものだ。わずかに抱いたそれを、メーア自身は欲望としてニューディに食わせることで昇華していた……それを、『何者か』によって断たれ、そして、今こうして、その『欲望』を増幅させているのだと思えば――。
「私は、今、やっと自由になれたんだから――!」
「自由になれた人が、そんな悲しい顔してるわけ、無いじゃない!」
 ココロが叫んだ。
「あなたが、今本当にやりたいことを、教えて! あなたがわたし達に加護を与え続けるように、わたし達が護ってあげるし、うまくいくように努力するから! だからこっちに来て!」
「う、う……!」
 メーアが喘いだ。身体から立ち上る瘴気のようなものが、ぐねりと苦しむようにうねった。
「この気配……!」
 ココロが声をあげた。
「肉腫――!? でも、違う、何か、違うものが混ざってる……!」
「ちっ、そこのクソ女には、特に強力な『瘴緒(デヴシルメ)』を植え付けたんじゃねぇのか……!?」
 濁羅が忌々し気に叫ぶ――同時、ボディが妖刀で斬りかかる。押し付ける刃が、濁羅に圧となって襲い掛かった。
「デヴシルメ――それが、夢遊病の正体ですか。どうやら、この気配――肉腫が、ダガヌという存在の力を得て変異したもののようですね」
 ボディが妖刀を振り払う。濁羅が後方へと飛びずさった。
「だったらどうした? お優しい英雄様方は、そこのクソ女がかわいそうで手も足も出せねぇんだろうが!」
「いちいち三下くせぇんだよ、テメェは!」 
 裂が竜斬の刃を上段から振り下ろし、濁羅へと肉薄する。濁羅は慌てた様子で刃を構えて、その一撃を受け止めた。
「腰巾着か!」
「誰が、だ。言うこともやることもいちいち小物なんだよお前は!
 そんな嬢ちゃんの手引きが無けりゃ場も整えられねぇやつが何言ってやがんだ!」
 振り払う、裂の斬撃! 刃が濁羅を圧す。間髪入れずに飛び掛かるボディの妖刀が、濁羅の身体を捉えた。
「もらいました」
 斬! 濁羅の身体に、一筋の剣閃が走る――だが、濁羅は後方に飛びずさると、再びに構え直した。斜めに走る傷痕は、悪しき瘴気に包まれると、ゆっくりとその傷をふさいでいく。
「再生、ですか。それも、ダガヌからの借り物で?」
 ボディが挑発するように言う。
「俺が言うのもなんだが、今のは並の人間だったら致命打だ。結局、お前は借り物の力を使っても、俺たちには届かねぇって事だな!」
 裂の明らかな挑発。二人の言葉に、濁羅は口元をヒクつかせた。
「歌ってんじゃねぇぞゴミカス共が。俺の命をとれねぇってのは、お前達も同じだ」
 濁羅が小馬鹿にしたように笑う。
「それによ――世の中は結局、結果がすべてだ。どんな理由だろうが力だろうが、お前達は、俺を殺せなかった! 泥臭かろうが汚かろうが知ったこっちゃねぇ。最終的に! テメェらが死んで! 俺が全部手に入れればいいんだよ! 過程だのやり方だのは、クソほどどうでもいいッ!」
「ハッ――坊ちゃんは、つくづく。賊を名乗るには何もかもが足りねぇ」
 グドルフが嘲笑するように、そういう。
「てめえの力ひとつじゃ成り上がれねえから、クソみてェなカミサマもどきに縋っちまったってワケかい。
 借りもんのチカラでオママゴトするのはさぞ楽しかろうよ。情けなさすぎて笑えてくるぜ。
 男なら、海賊なら、てめえの信念一本くれえ貫いて見せろやあ!」
「吠えろよクソがァッ!」 
 濁羅がその大刀を構え、突撃する! 目標は、グドルフ! ちょい、とグドルフは己に向けて指を倒した。かかって来いよのジェスチャァ。
 濁羅が大上段から、大刀を振り下ろした。グドルフは、すくい上げる形で、己を振り上げる! 衝突! とてつもない衝撃波が、辺りを駆け抜ける――痛み、痺れ、そう言ったものが両者の身体を駆け抜ける中、濁羅はぎいい、と奥歯をかみしめ、身体を思いっきりひねった。
「ぶっ――殺すッ!」
「結果がすべてだってならよぉ、『ぶっ殺した』って言ってみろや!」
 グドルフも思いっきりその腕に力を込めた。みちみちと、筋肉が雄叫びをあげる。ひねる、身体。叫ぶ、筋肉。ばちばちと火花が爆ぜるかのように錯覚する、強烈な衝突! 大刀と、大斧。がぢり。噛み合う。それは牙か。山賊と海賊の、男の牙であるか。
 衝突は、はぜる形で終わった。ぐわおおううん、強烈な衝突音が、両者の間で鳴り響いた! 爆裂。力と力の純粋なぶつかり合い! グドルフもただものではないが、濁羅もまたただものでない! 爆裂する、力。吹き飛ばされる、両者!
 違いは一つ。仲間がいるかいないかである。
「濁羅――ッ!」
 ルーキスである。後方へ、グドルフ。前方へ、ルーキス。擦過する。二人視線をわずかに絡め合う。離れる。駆ける、駆ける!
「……竜宮で戦って以来か。あれだけ派手にやられておきながら、懲りない奴だな。
 総じて悪趣味な思考に賛同は出来ないが、その行動力と根性だけは認めよう。だが――!」
 振り下ろす、刃! 追撃! 体勢を崩した濁羅は、それをよけきれない。斬撃。先ほどよりも、深い傷。強烈な一撃だった。
「て、めぇ……!」
「お前の欲望に、あの子達を汚させたりはしない――!」
 ルーキスは、再度刃を振り上げた。もう一度の、斬撃! 刃が、剣閃を描いた。鮮やかなそれが、濁悪を切り裂いた。

●まだ、繋がっているもの
「メーアちゃんはどうなってるんだい!?」
 秋奈は跳んだ。降り注ぐウォーターカッターの乱舞を、しかし寸で回避する。
「おーあーいむすかーりー。そーあーいむすかーりーってね! 声は届いた!?」
「確かに、今は届いてるはず……!」
 ココロが声をあげる。確かに、メーアはどこか苦しげな顔をしている。それは、ダメージのためではない。拮抗している。内と外。乗り移った何かと、自分の心。
「私、は……」
 メーアが喘ぐように言った。ほの暗い瞳が、僅かにいつもの色を取り戻していた。
「おね、がい……攻撃を、止めないで……!」
「メーアさん!」
 慧が叫んだ。苦し気に、メーアは微笑んだ。
「今回の、攻撃は……ダガヌにとっても、くるしい、はずです。だから、私を、とりこんで、反撃しようと……!」
「メーアちゃん! 助けたい! どうすればいい!」
 秋奈がそういうのへ、メーアは頭を振った。
「わ、わ、私じゃ、この、でヴしるめを、はがせ、ません……! どうど、どど、どうか、わたし、ごと……!」
「そんなのダメ!」
 ココロが叫んだ。
「皆で帰るの、言ったでしょう!?」
「あ、あとは、マール、お姉ちゃんが、きっと……おねえちゃんを、たすけて、あげて……あぐっ……!」
 その身体から、強烈な『魔』が吹き出す。それが、『瘴緒(デヴシルメ)』の悪しき魔であると同時に、さらに異質な魔の存在を、イレギュラーズ達は感じていた。ダガヌの魔であった。恐らく、ダガヌが直々に、彼の『瘴緒(デヴシルメ)』に力を与えているのだ。他のそれとは一線を画すであろう強烈な呪いは、乙姫の力であっても抜け出すことはできなかった。ダガヌの力が、人の欲望によってもたらされているものであるのだとしたら、これはまさに、一人の乙女が人の欲望に侵されている構図に違いなかった。
「引きはがせばいいんだな!? そのデヴデヴを! 任せろ!」
 秋奈が飛翔する! 手にした長刀、それをメーアの身に纏う瘴気にたたきつける――が、帰ってきたのは、酷く鈍く、やわらかい感覚であった。何かを斬ったそれではない。たとえるなら、巨大なマシュマロに、その刃をうずもれさせてしまったようなもの。
「うお、なんだこれ!」
 強力な、欲望の肉であった。それが今、メーアを包んでいる。もはや切り離させはしないと、メーアをその身の内に溺れさせていた。
「どうすれば――!?」
 慧が叫んだ。どうすればいい。どうすれば、この場を突破できる――その時に、声がした。どこからかはわからない。気配を消していた。美咲の声だった。
「私が視てみる。ダガヌチは見れた。だから、あれと同じ力をたどれば、斬るべき場所は分かるはずだから……!」
 美咲の声に、慧は頷いた。
「その間は、任せてほしいっす」
 慧が言った。前を見据えた。誰かを救いたいと思った。誰かに泣いてほしくはないと思った。だから今、こうして立っている。
「お願いします……時間を、稼ぎましょう」
 慧が、そう言った。
「はい……! メーアさんを、助け出します!」
 ココロが、そう言った。
「燃える展開じゃん! いくぜいくぜー!」
 秋奈が、そう言った。

 美咲は、静かに『視』ていた。どこを斬るべきか。どこが接点なのか。
 斬るべき点、というようなものは見える。ダガヌチを切り離すこともできた。だから、同じような魔力の元をたどっていけば、それは斬れるはずであった。
「モガミ。分かるんでしょう? あの子を助ける最大の好機は、目の前にいる今。分かるなら力を貸して」
 静かに、呟く。傍に立っていたのは、指輪の魔である。
「いいですよ」
 静かに、そう言った。
「意外そうね。でも、わたしは、この世界も、此処に生きる命も、すべて好きなの。嫌いなのは、あなただけ」
「辛辣ね。私何かした?」
「『あなたは』何もしてない。だから憎いの」
 はぁ、とモガミは息を吐いた。
「あなたに力を貸すのではない。メーアを助けるために、力を貸す。共闘も今回だけ。これが終わったら、その時は」
「勝手にして。もう慣れてるの、悪魔だのなんだのには。でも、笑えるね」
 美咲は苦笑した。
「その言葉。あの子だったら、フラグみたい、って笑うと思う」
 ふ、とモガミは笑った。
「必ず殺すわ、美咲」
 モガミの手の先から、光が迸った。それは美咲の右手五指に、糸のようにつながった。美咲の手が熱くなる。強力な魔力を流されている感覚。
「わたしは右手。右手の五指。あなたが視なさい。わたしが斬る」
 その言葉に合わせて、美咲が目を凝らした。何かが、見えた。それは、形容しがたい、何とも言葉にしがたい、『概念』であった。斬れば、斬れる、というものであった。無理矢理に形容するなら――陳腐だが、実に陳腐だが、切り取り線、としよう。
 なぞれば斬れる。そういうものだ。視えた、と口中で呟いた。右手が勝手に動いた。普段とは違う、強大な魔の刃が、その手にいつの間にか握りこまれていた。

 ぞん、と、それは断たれた。強烈な青の魔術にイレギュラーズ達が翻弄される中、突如現れた美咲は、異空間から現れた悪魔のようでもあった。絶たれる。分厚い、何かが。それは、メーアとメーアを繋ぐ、魔だった。切り裂かれる。斬れる、斬れる――いや、と美咲は思った。斬りきれて居ない!
「視そこねた!」
「不覚――だけど!」
 美咲の叫びに、モガミが叫んだ。慧が、頷いた。
「鬼血の呪刀……お前が拒絶の刃なら! 奴を拒絶してみせろ――!」
 慧の斬撃が、魔を、斬った。
 鮮血の剣閃が、奔り、奔り、奔り。
 それを。

●続く決戦
「あのクソ女……!」 
 濁羅は、痛む体を抑えつつ、叫んだ。致命打に思えた一撃を、しかし濁羅は耐えて見せた。強烈な再生能力が、その身体を瞬く間に癒していく。が、問題はそこではないだろう。
「やったのか……メーアさんは!?」
 ルーキスが叫び、奔りだそうとするのを、濁羅は斬撃を衝撃波として打ち放ち、止めた。
「させねぇってんだよ!」
 ルーキスがその身に斬撃を受けながらも、走る!
「あの人は、奪わせない!」
 走る。が、その身体が、突如として脱力した。苛烈な決戦によるダメージの蓄積が、ここにきて発露していた。濁羅が笑った。
「結果だ。結果がすべてだ。頑張ったなぁ、でも無駄だったってわけだ!」
 濁羅があざ笑う。濁羅は、メーアの身体を抱き留めた。濁羅の身体から、悪しき気配が、ずず、とメーアの身体に注ぎ込まれて、メーアが瞬く間に気を失うのを、イレギュラーズ達は見た。
「今度は人質か? つくづく情けねぇ奴だな!」
 グドルフが嘲笑するのへ、濁羅は吠えた。
「ほざけよ。元から、こいつを手に入れれば、俺たちには反撃の目があるってんだ」
 だが、予定は確実に狂っていた。イレギュラーズ達をせん滅し、余裕の凱旋をするつもりだったのだ。だが、これはなんだ……イレギュラーズ達によって、メーアは一時的とはいえ瘴気を取り戻し、今もまだその意識は殺しきれて居ない。予想外だ。ここまで、メーアの奪還に肉薄されるのは。
「生き汚い、というつもりはねぇよ。が、引き際をわきまえな、クソガキ」
 グドルフがそういう。
「おれさまは違うが、おれさまの仲間はお優しい。今は投降するなら、命だけは助かるかもしれないぜ?」
「それで、お前らに恭順して生きるのか? 俺は嫌だね」
 濁羅は吐き捨てた。
「けど! そっちの仲間は全滅よ?」
 オデットが、そういう。
「悪いけど、形勢は逆転した。この状況はひっくりかえせない」
 マルクが静かにそういう。マルクとオデット、そして漁火水軍たちにより、濁悪海軍たちはすべて無力化されている。無論、負った傷は深かったが、しかし命にかかわるようなそれは、誰もおってはいなかった。
「グドルフさんじゃないけど、ここで投降するならば、無駄に命を捨てずに済むよ」
「言ったはずだぜ? 俺は嫌だね、と」
 濁羅は笑った。
 じり、と後退する。その先に、滝つぼがあった。
「滝……まさか!」
 オデットが叫んだ。マルクがハッとした顔をする。
「まずい! 滝つぼが海につながってるかもしれない!」
「ご名答――だが遅い!」
 濁羅は、メーアを抱えたまま、滝つぼへと落下していった。
「は――ははは! 俺の、勝ちだ!」
 落下していく――そのまま、ばしゃん、と濁羅達が着水する音が聞こえた。
「しまった……! 追うか……!?」
「いえ、深追いは危険です」
 裂の言葉に、ボディ言った。その通りだった。すでに仲間達は相当消耗しているし、おそらく『メーアの裏切り』……というより、『瘴緒(デヴシルメ)』の影響が、シレンツィオ合同軍にも影響を与えていることは火を見るより明らかだった。
「いったん戻りましょう。これからの対策を、練らないといけない」
 ボディの言葉に、仲間達は頷く。
 裂は舌打ちした。
「濁羅に、ダガヌ、か。首を洗って待っていやがれよ……!」
 オデットの割り出した撤退ルートを確認しながら、イレギュラーズ達は帰還の途に就く。
 さらに続く決戦の予感を覚えながら――ひとまずは、帰路へ。

成否

成功

MVP

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、『メーア・ディーネーは、その意識を強く持ち続けています』。

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