PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<デジールの呼び声>何があっても、君を想う

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●乙姫の『予備』
 メーア・ディーネーの様子がおかしい。
 浦太郎(ホタロウ)とペルルにそう告げられたマール・ディーネーは、深刻な表情で、半壊していた竜宮城へと赴いていた。
「マールちゃん、大丈夫かい?」
 浦太郎がそういう。
「片付けが終わったとはいえ、まだ再建途中なんだろ?」
 先の襲撃で甚大な被害を受けた竜宮城は、未だ再建中だった。特に乙姫の居城であり神域でもあるこの城は、彼の魔種――ディアスポラとの激戦の跡地という事もあり、強烈な被害の跡が見える。
「うん、そうなんだけど……此処じゃないと、儀式ってできなかったはずだから」
 マールがそういうのへ、小首をかしげたのはペルルだ。
「儀式? もしかして、乙姫の力を継承する?
 マールちゃん、継承できなかったんじゃ……」
「うん。あたし、素質なかったみたいで。無事に儀式を終わらせることはできないんだって。
 でも、メーアのお姉ちゃんだから、少しだけ、素質あって。儀式に挑んで、『終わらせること』はできるんだって」
 マールは笑った。
「だから、『予備』なの」
 えへへ、と笑うその顔は、悲しそうだった。
「メーア……本当に最近、おかしかったんだ。言われて気づいたよ。たまに、怖い顔してて……。
 言われるまで、気づかなかった。あたし、お姉ちゃんなのに……」
 ゆっくりと、マールが城の中に入っていくのを、二人はおった。城の入り口にはニューディがいて、マールを慰めるように、その頭をこすりつけた。
「ニューディもおいていっちゃうなんて、絶対にありえないよ。何かあったのには、間違いない……。
 今は、ローレットの皆とか、モガミさんや漁牙さんが傍にいてくれるけど……すごく、やな予感がする。
 あたし、こう言うの当たるんだ! ……うれしく、ないけど」
「マールちゃんは」
 浦太郎は言った。
「何か起きるっていうのかい? メーアちゃんに……」
「うん」
 マールは言った。
「もしかしたら、メーアが力を失っちゃうようなことが、あるかもしれない。
 そうなったら、次の乙姫を選ぶまでのつなぎを、あたしがやらなきゃいけないんだ」
「そんなの……!」
 ペルルが言う。だが、マールの存在を……乙姫の予備、という立場を良く理解していたのは、友達であるペルル自身であった。何代か前にも、『乙姫の予備』という存在はいた。姉妹だったり、兄弟であったり。何らかのつながりを持つ『予備』は確かに存在していた……だが、それが役目を果たすことなどは、無かったのだ。そういう意味では、竜宮とは平和を享受した都市であったといえる。
 だが……今は、その平和も、脅かされた。
「な、何でもないかもしれないじゃない。それに、メーアのことだって、ローレットの人が何とかしてくれるって……!」
 ペルルの言葉に、マールは、あはは、と笑った。
「うん、そうだね。そうなるのが、いちばんだと思ってるけど。念のため、ね?」
 それは、彼女の心に浮かんだ、僅かな希望であったのだろう。だが、それ以上の不安が、『何かよくない事が起こる』という予測を事実のように、マールの頭の中を埋め尽くしていた。マールは明るい少女ではあったが、何も考えていないわけではない。むしろ逆。真面目で繊細な彼女は、いつも、いつも、誰かの幸せを願っている。時に、自分を犠牲にしてでも。
 三人とニューディが、半壊した城を進む。そこは、かつては玉座の間であった。不思議なことに、あれほど荒れた室内において玉座は健在である。恐らく、加護で守られているのだろう。
「ニューディ。もしもの時があったら、お願いね。
 この玉座が、儀式に必要なの」
 マールがそう言った刹那。
「では、今度こそそれを完膚なきまでに破壊すればいいのか」
 と。声が響いた。
 途端! 苛烈な砲撃が、辺りに突き刺さった! ひぇ、と浦太郎がマールを庇った刹那、ペルルがその手を掲げて防御結界を展開する――だが、防ぎきれない! 結界は瞬く間に着弾し、城の床を抉った。マールたちが直撃を避けられたのは、それでもペルルの結界術の防御により、砲弾が反らされたからであろう。
「……! あーっ! あの時の……!」
 マールが声をあげた。竜宮上海より、空より降臨するように現れたのは、巨大な艤装をまとった一人の少女。
「ディアスポラ。ディアスポラ=エルフレーム=リアルト。
 悪いが、今回は本気だ。汝、そしてニューディには、跡形も残さず、消えてもらう」
 がちゃん、と、ディアスポラが砲塔を構える。まずい、とペルルと思った。あれを正面から受けきるだけの力は、此方にはない――。
 冷たい汗が、背筋を這うようだった。濃密な死の気配を、三人は感じていた。くるる、とニューディが声をあげる。浦太郎が、それでも、二人を庇うように前に立ちはだかった。
「くそーっ、推しを庇って死ぬとか、いい場面じゃねぇか! きやがれ小娘!」
 がくがくと震えながら、そういう浦太郎の手を、マールとペルルは握った。
 絶体絶命。
 ――だが、その時にこそ、救いの手は現れる。
「ディアスポラ――ッ!」
 吠える。声! 飛び出してきた影は、巨大なメイスを構えて突撃! ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が振り下ろしたメイスを、ディアスポラは砲塔を振るい、受け止めた!
「ブランシュ――汝か。答えは出たか? 人の幸福――」
「聞いたですよ! 邪神ダガヌ! 人の頭をいじくって、幸せな気分だけを味あわせて廃人にした――それで、幸せになりたいという願いをかなえたとか!」
 振り払われたブランシュが、構えつつ、叫んだ。
「なんとも怠惰なディアスポラらしい結論ですね! それで! 人が幸せになれると!?」
「世界の在り様とは、主観だ」
 ディアスポラが言う。
「我有りて世界あり。つまりそこに客観は必要ない。畢竟、どのような境遇であれ、幸せな夢を見続けられるなら、それが人の幸せではないのか?
 我は断言する。このような幸福な末路を望むものも、必ずいると」
「だからと言って、世界と向き合う事を止めれば、そこで終わりだ」
 ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が、三人を庇いながら、そう言った。
「よう、ホタロウ。お前、中々男気があるじゃねぇか。少し見直してやったぜ」
 トキノエ(p3p009181)が、三人を庇いながら言うのへ、浦太郎は涙を流しながら、叫んだ。
「トキノエのアニキじゃねぇですか! 助けに来てくれたんですかい!?」
「ああ、竜宮が襲われてるって聞いてな……!」
「留守中に家探しとは、マナーのなっていない訪問客にはおかえり願わないとな」
 ブレンダがそういう。ディアスポラが腕をあげると、黒い怪物たち――ナイト・ゴーント――が次々と姿を現す。
「悪いが、此方もこれが格好のタイミングだ。
 逃がすつもりはない。
 ニューディ。そして、マール・ディーネー。ここで仕留めさせてもらう」
 包囲される、イレギュラーズ。そしてマールたち。
 さぁ、イレギュラーズ達よ、襲い来る敵を撃退し、竜宮を守るのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 竜宮を襲う、ディアスポラと深怪魔。
 これを撃退し、マールたちを守りぬいてください!

●成功条件
 味方NPC四名を守り切る

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 悪神ダガヌを封印するための作戦が、インス等で行われているそのころ――。
 手薄となった竜宮を狙い、内部から・外部から、深怪魔たちが攻撃を開始しました!
 一方、マールは浦太郎・ペルル・ニューディと共に、竜宮の城へと訪れていました。乙姫に万が一のことがあった場合、マールは予備として、『儀式』を遂行しないとならないからです。
 ですが、此処にダガヌと手を組んだ魔種、ディアスポラ=エルフレーム=リアルトが、深怪魔と共に、襲撃を行ってきます。
 救援にやってきた皆さんは、この状況を突破し、マールたちを無事に生還させなければならないのです。
 作戦決行タイミングは昼。フィールドは半壊した竜宮城玉座の間。
 竜宮の加護があり、周囲は明るく、また水中ですが地上とほぼ同様に動くことが可能です。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●エネミーデータ
 深怪魔・ナイトゴーント ×10
  ゴムのような皮膚を持った、黒い人型の怪物です。強力な上級魔術を使い、遠近どちらのレンジでも十全に戦闘を行います。
  特殊抵抗が高めで、BSにはやや強くなっています。その分防御技術は低めです。強力な攻撃を打ち込み、早期に黙らせてしまうのがいいでしょう。

 ディアスポラ=エルフレーム=リアルト ×1
  ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)さんの関係者で、魔種。今回の襲撃部隊のリーダーです。
  悪神ダガヌに協力し、人の幸せのありようを探っていたようです。見つけた可能性は、『怠惰な幸せ』。ダガヌがかつて行った、『人の脳内麻薬を過剰分泌させ、幸せな夢を見させながら廃人となって死に至る』末路を、『一つの幸せの形』として肯定し、おそらくはダガヌの力でそれを、手始めに竜宮・シレンツィオに広げようとしています。
  ちなみに今回は、最初から最後まで本気モードです。
  魔種なので、当然のように戦闘能力は非常に高いです。艤装による強烈な砲撃は、一撃で敵の命を狩りとるほどでしょう。
  『比較的』近接戦闘は苦手なので、相手の得手である遠距離戦闘よりは、近距離レンジによる戦闘を押し付けた方がいいと思います。
  なお、ある程度のふりを悟ると撤退する可能性があります。

●味方NPC
 マール・ディーネー
 ニューディ
 浦太郎
 ペルル・ルイーレン
  今回騒動に巻き込まれた四名。
  浦太郎はトキノエ(p3p009181)さんの、ペルルはブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)さんの関係者になります。
  基本的に戦闘能力はありませんので、しっかりと守ってあげてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のごご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <デジールの呼び声>何があっても、君を想う完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年10月10日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座
フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)
お嬢様(鉄帝)

リプレイ

●危機の音、砲撃の音
「ふ――む」
 それは、静かに息を吐いた。
 未だ荒れ果てる、竜宮の城。その上空(うみ)。
 現れたのは、魔の気配を感じさせるもの――ディアスポラ=エルフレーム=リアルトであった。
「何故だろうな。何故人は、諦観を否定する?」
 静かに見下ろすディアスポラ。その視線の先には、4の守るべきものと、10のローレット・イレギュラーズたちがいる。
 ディアスポラの口調に、普段のようなゆるりとした色は感じられない。確りとした声音は、ディアスポラが『本気』であること、『殲滅』を意図として行動していることを、イレギュラーズ達に理解させていた。
「諦観とは、ある意味で救いだ。希望だの、諦めないだの……死ぬまで走り続けることを美徳として浪費して、それで何になるのだ」
「おっと、つまらない事を言ってくれる」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が声をあげる。
「私にとっては、諦観とは死だよ。キミに自分の身の上を語るつもりはないが――走らなければ、生きていけなかった。
 回遊魚のようだと笑わば笑うと良い。ただそれでも、私はベッドの上で朽ちていく生などは、求めていなかったのさ」
「汝は、そうなのだろう。だがその上で、汝は死ぬその時まで、走り続けられるのか?」
「無論」
 ゼフィラは言った。
「私の好奇心は、この四肢が腐り堕ちようとも、私を突き動かすものだ――舐めるなよ、と言えばいいかい?
 夢を見せられた所で、自分の頭の中に無い未知の世界を探究できないなら、私にとっては不自由でしか無いのさ」
「汝が知らぬ景色を、迷妄の中で生み出すことはできるだろう?」
「それがそもそもの齟齬だ。私は、私の頭の中にないものを見たい。
 私の脳内物質から生み出されたものは、畢竟、私自身だ。私のエゴ、願望……そう言ったものが混ざるだろう。
 そうではないものを、私は求め続ける。それともキミは、あれか? 今目の前に広がっている世界は、自分の脳内が生み出した閉ざされた妄想に過ぎない、みたいなオカルトを奏でるかい?」
「そうだったら、汝もとっくの昔に我に傅いていようになぁ」
 ディアスポラは面倒くさそうに言った。
「汝らは、世界の特異点(イレギュラー)であり、不確定要素(イレギュラー)であり、外れ値(イレギュラー)だ。汝らに、そうでないものの気持ちがわかるのだろうか――これは純粋な疑問であるが」
「……諦めてしまう人はいないか、という事なのですよね?」
 そういうのは、『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)である。少しだけ辛そうに、その手を旨の前で握りしめた。
「世界を在り様は主観――そうかもしれません。自分の、気持ち、心……それだけが満足であるならば、あなたの言う『幸せな結末』を望む人は、いるのでしょう」
「我は、大半の人間はそれを望むと思っている」
 ディアスポラが言った。
「この世は、何者にもなれないものの吹き溜まりだ。我は目覚め、変わり――多くを見てきた。変わらない世界、変えようと足掻くものも、変えられずに地に染みて消えていくもの。それは悪い事ではない。誰もがひとかどの人物になれるわけではない。
 相応の幸せを、と人は言う。
 ならば、相応の幸せを――閉ざされた世界による幸せを与えるのは、それは人の救いではないのか」
 ディアスポラが、そう言った。
「我々は人を救う。我ら、エルフレームシリーズがそれを為す。破滅は避けられぬ。ならばその時まで、人を幸せに導こう。
 あるものは言った――己の管理による、永遠の幸福を。
 あるものは言った――永遠の闘争による、終わりなき進化の滅びを。
 エルフレームは独自の思考による人類救済をここに宣言する。
 そして我は言おう。諦観と怠惰の果てに、静かな眠りこそが、人の救いであると」
 厳かにも聞こえた。それは、驕りであっただろう。魔を名乗るものが、人類の救済を騙るのだ。或いはそれこそ、反転(こわ)れてしまったことの証左なのかもしれない。大言壮語と言えばそうだろう。だが、その狂気の瞳の内に、狂いきった正気が見えていた。
 その瞳を直視することは、怖かったかもしれない。だが――。
「私は、それを否定します。私たちが持つべきは、誰かと手をつなぐための温かさ。
 ある人も、あなたと同じように――眠りこそが、幸せかもしれない、と悩みました。私たちは、それは違うと、別の道を示すと約束しました。
 だから、私は、あなたの『諦観』を否定します! 優しい炎の諦観を否定した私たちは、あなたの救いを否定しないといけない!
 それに! 少なくとも今ここにいるひとたちは、今幸せじゃ無いです。あなたのせいで!
 それを棚に上げて幸せを語らないでください!」
「よっく言いましたわ!」
 『自称・豪農お嬢様』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)が、そう言って胸を張った。
「馬鹿め、と言って差し上げますわ! 可愛らしい救世主(セイヴァー)気取りさん。
 諦観? 主観? ――くっだらねぇ、ですわね!
 農家を舐めんな? 雑草と害虫と病気との終わりなき血反吐はきマラソンですわ!
 夏はクッソ暑いし、冬はクッソ寒いし、台風が来たら稲は倒れるし、梅雨が来たら根が腐るし!
 一秒たりとも! 諦めてだらだらしてる暇なんてないんですわよ!!」
 そう言って、大鎌を構えた。フロラが、ふ、と笑う。
「人生って、世界って、そんなもんですわよ、可愛いお嬢ちゃん。
 誰もが血反吐をはいて、何者にもなれなくて、でも一生懸命生きますの。
 そんな世界で、誰かと繋がれるからいいんじゃないですか」
「……そうだな。少し前の俺なら――同意してやったかもしれないが」
 『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、少しだけ寂しそうに笑った。あの時と同じような海の底。でもあの時とは違う、暖かい海の底で。
「生憎と、「今は」そうでもねぇのさ。
 あの時、あの海で、あいつに応えてやらなかったことを、俺は未来永劫後悔し続ける。……それでも、それを後悔する気はねぇよ。
 だから、否定するのさ。お前さんの、諦観を。
 それに、気づいてるのかい? こっちはこれからは、『正当防衛』だぜ?」
 縁がにぃ、と笑った。その笑みは、『攻』の笑みである。
「人の幸せは、人それぞれですから。私は廃人にはなりたくありません。私の幸せは、私が決めますから」
 『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)が、ゆっくりと構えた。
「傲岸、不遜、自己中心。救いようがなさそうですね。
 貴方がやっていることは、結局は貴方の諦観の押し付けです。
 今生きていることが大切だってこと。争いごとは好きではありませんが、それをわかってもらえないなら、戦うのみです。
 そして、マールさんたちも誰一人傷つけさせませんから」
「そうでい! 大体てめぇ、マールちゃんやペルルちゃんみたいないい子、俺の頭の中からなんざ、ひっくり返ったって出てきやしねぇ! だから、俺の中で完結する世界なんてのは、いやだ!」
 ホタロウが声をあげるのへ、『劇毒』トキノエ(p3p009181)が、にぃ、と笑った。
「まったく、お前今日はカッコいいじゃねぇか、本当、見直したぜ?」
 とん、とキセルで肩を叩く。
「悪いな、お嬢さん。今回の口喧嘩はお前の負けだ。けど、口喧嘩で終わらねぇんだろ?
 来いよ。ホタロウが男気を見せたんだ、俺も気合入れねえとなァ!」
「……そうか。まぁ、いい。元より伺いを立てるつもりもない」
 ディアスポラが、そう言った。あたりの黒い人影が、ぼう、ぼう、とほの暗い殺意を向ける。ナイト・ゴーント、と名付けられたそれは、深怪の魔。悪神ダガヌの眷属であった。
「どのみち、ダガヌが復活すれば、あれは無差別に願いを叶えるだろう。いや――それ以前に。あれが復活して、この辺りがタダで済むとは思えないが」
 その言葉に、ペルル、マールが身をすくませた。
「ペルル殿、マール殿。奴の言葉ははったり――ではないのだな?」
 『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が尋ねるのへ、二人は頷く。口を開いたのは、ペルルの方だった。
「伝説だと……海の悪魔は、大きな海底火山に封印されてるんだって。もし、海の悪魔が復活するとしたら……!」
「……同時に、海底火山が活性化する、のか。その変動は、竜宮も、ダガヌ海域も、巻き込む、と」
 ブレンダの言葉に、ペルルは頷く。
「なる、ほど。ただではすむまいとはそういう事か。ならば、なおのことだ。
 私がやることは、変わらない。騎士として、皆を守る。諦観だと? 私の心が折れると思うな。
 貴様の救いとやら、此処で打ち砕く!」
「そうだな――HAHAHA! 何やら難しい話だけどな! 起きてる間に挑めない夢なんてのは微塵も価値はねえんだよ」
 『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)が、にぃ、と笑った。
「悪いが、ミーにはそんな夢は要らねぇ。血反吐を吐けってなら吐いてやるぜ! 何度打ちのめされても、俺は諦めなんかしねぇ!
 鍛えて鍛えて――つかみ取るのは、そういう夢だ!
 寝言が言いてえなら、テメェだけで覚めない眠りにつきやがれ。
 寝かしつけるのは任せときな、最高の睡眠をプレゼントするぜ?
 なんたって、ミーの特技なんでな、HAHAHA!」
「いいだろう。だが、あらかじめ言っておくが、我の目的は、そこの」
 じろり、とマールと、ニューディを見やる。
「竜宮の、要だ。我らを前に、守り通せると思うのか?」
「いいや、守り通そう!」
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は、その視線から、マールを守る様に、立ちはだかった。マールの背に見えた美少女の背中は。
「マール殿。今回は肩車はナッシンである。だが――預けて欲しい。あの時のようにあなたの、笑顔を。
 吾は――吾達の肩は! あの時と同じように、決して貴女をとり落としたりはしないと誓おう!」
 あまりにも、大きくて。
「お願い、百合子さん……ううん、皆!」
 マールは、声をあげた。
「力を、貸して。あの子達を、追い払って!」
「任された」
 百合子はにぃ、と笑った。
「ディアスポラ。ブランシュには――まだ、答えは出せねーですよ」
 『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が、静かに言った。
「でも――今は。
 今は、貴方の決めた幸せの形だけは否定しないといけない。
 それは破滅だから。その幸せを求めたら人は……何もできなくなる。
 だから、止めます。貴方を壊してでも」
「そうか――」
 ディアスポラは、言った。
「では、あの時の続きを始めよう」
 ディアスポラが、その手を掲げる。いくつもの砲台が、イレギュラーズ達へと向いた。その一門一門が、必殺のそれである。強烈なそれは、異界より伝わる攻の艤装。偉大なる戦艦の嘆き、か。
「艦砲射撃、開始。消し炭一つ残らないと思え――!」
 ディアスポラが、叫んだ。同時に、強烈な号砲が鳴り響き、青の深海に炎の光を走らせた――!

●深海に眠る
「ホタロウ! 前には出てくるな! だが、体張って、お嬢さんたちを守ってやれ!」
「へい! 男を見せてやりまさぁ!!」
 トキノエの言葉に、ホタロウは叫び、マールとペルルをその背にかばう。強烈な光が、眼前で炸裂した。うち放たれた砲撃が、イレギュラーズ達の直前で爆発したのだ。直撃は免れたとはいえ、その衝撃だけでも強烈な痛みを体に走らせる。万が一直撃でもすれば、まったく、消し炭一つ残らずに散る羽目になるかもしれない……!
「敵はディアスポラだけじゃねーですよ! 黒い奴らもいます!」
 ブランシュが叫ぶのへ、ブレンダは頷いた。
「そっちは私に任せてもらおう! 雑魚の相手は任せておけ!
 さぁ、彼女たちに手を出したいのなら私を倒してから行くんだな!」
 燃え盛る炎を宿す長剣が輝く。その炎は、深い海でも消えることなく。ブレンダは駆けた。輝く炎を線に、黒き影(ナイト・ゴーント)の元へと走る!
「来い! この私を! こえられると思うな!」
 ナイト・ゴーントたちはもがもがと何かを唱えると、黒い球体が頭上へと出現する。その球体から血走った目が現れるや、そこから放たれる強烈な黒の閃光が、ブレンダを狙う。
 ブレンダは宙転するように、その攻撃を回避してみせた。そのまま駆け寄り、一体のナイト・ゴーントの首筋へと刃を当てる。
「一つ――!」
 ぼおう、と焔が爆ぜた。さあ、と炎が走った。断絶されたナイト・ゴーントの頭と胴体が、刹那に分かたれ、そのまま炎の内へと沈みて消え去る。
「続き給え!」
 ゼフィラが叫ぶ。共を導く、連鎖の道。魔種たるディアスポラも舌を巻くほどの反応速度は、ブレンダを始めとした多くの友を、この時、戦場のただ中へと導いていた。
「上天にて輝いて、諸人等しく罰し導くべし――其はネメシスの神光! 神気閃光、光あれ、と!」
 ゼフィラがその手を頭上に掲げる。深海にて、強烈な光が上天より降り注ぐや、その強烈な聖なる光が、ナイト・ゴーントたちの生み出した悪しき球体を次々と貫いた。ばあん! 次々とはじける球体、その衝撃が、ナイト・ゴーントたちの動きを封殺する――!
「短期決戦と行こう! こいつらを散らして、ディアスポラにおかえり願う!」
「おう! 悪いが、此処は無粋者には縁遠い場所だ!」
 トキノエがその両手を掲げる。刹那、その掌より生じた雷の鎖が、動きを止めたナイト・ゴーントを狙い、水中を走った。ばぢばぢと音をたてる雷の鎖は、無数のそれを水中へと走らせ、仲間達の合間を縫い、的確に敵だけを狙って進撃する! 鎖はナイト・ゴーントたちを巻き込み、その鎖で縛り上げた。ぐ、とトキノエがその両手を強く握れば、海中を雷が走ったように強烈な閃光が瞬き、ナイト・ゴーントたちを強烈な雷光で叩きつける! ナイト・ゴーントのうち一体が、耐え切れずに爆散した。うち、数体のナイト・ゴーントイレギュラーズ達の連撃に耐え、進攻を開始する。狙うは、後背の護衛対象と悟ったか。ぃぃぃ、と奇妙な雄叫びをあげた、黒の怪人が海中を飛翔!
「チッ! 叩き落とす!」
 トキノエがその手を振るうと、雷の鎖がナイト・ゴーントを追う。ばぢり、と強烈な衝撃を受けてナイト・ゴーントたちが足踏みをする中、一体の怪物が、雷の鎖を抜け出して、再度の飛翔! マールたちへと迫る――!
「頼むぜ、縁の旦那!」
 トキノエが叫ぶ――同時、縁はゆぅらり、と動いた。次の刹那、ナイト・ゴーントの眼前に縁の姿があった。ナイト・ゴーントが反射的に短距離衝撃魔術術式を解き放つ。縁は後背のマールたちを庇うべく、それをあえて受け止めた。強烈な痛みが身体に走るが、しかしそれもまた『予定の内』である。
「先に手を出したのは――そっちだぜ?」
 縁が凄絶に笑う。刹那、さっ、と剣閃が輝いた。一筋の、剣閃。いつの間にか抜き放たれた刀が、ナイト・ゴーントの首を斬り飛ばしていた。因果・応報。ナイト・ゴーントの首と身体は飛翔の勢いのまま、城の瓦礫に突っ込む。そのまま海に溶けて消えてしまった。
「縁さん、だ、大丈夫?!」
 マールが心配げに尋ねるのへ、縁は肩をトントン、と戦いながら言った。
「ああ、おっさん、無理はしないからな。
 それから――もし、『竜宮のために』傷ついた、と思ってるなら、それは違うからな?」
 縁がそう言って、目を細めた。
「シンプルに『人の命がかかってる』から無理も無茶も平気でやるんだぜ、こっちは――つまり、『いつものこと』だ。
 これが、おっさんたちの日常なんだよ。だから、そんな申し訳なさそうな顔をすんな、って事」
 あ、とマールが頬に両手をやった。気づかないうちに、そんな風な顔をしていたのか、と思った。それは事実で、何らかの気負い、のようなものを、マールは感じていたのだろう。それを、諭されたのだ、と思った。
「そうは言いますが、結構なダメージですからね。見た限り」
 リスェンがそう言って、縁へと、手にした杖を掲げた。その先端にほんのりと輝いた光が、縁を包み込む。先ほどの衝撃魔術術式、それによって受けた痛みが、すぅ、と消えていくのを感じる。リスェンの治療術式である。大天使の祝福。その言葉通りの、祝福の如き暖かな光が、深海においてなお縁の身体を温かく照らしていた。
「個人的には、あんまり無理してほしくないですが……いいえ、実にハードな現場ですから、しょうがないです。
 えっと。大丈夫です。わたしがちゃんと、皆を癒しますので……もちろん、マールさん達も。なので、安心していただけると」
 リスェンがそういうのへ、
「あ、ありがと……!」
 マールが破顔した。
「けど、攻撃を受けないのが一番、なので。マールさん達も、後ろに下がっていてくださいね……!」
 リスェンの言葉に、マールたちが頷く。リスェンもまた、マールたちを守る様に立ちはだかった。縁がゆっくりと、水中を泳ぎながら、その隣に立つ。
「さぁて、此処は最後の防衛線、ってやつだ」
「はい。ここから後ろには、誰も行かせません」
 リスェンの言葉に、縁が頷く。一方、ナイト・ゴーントたちとイレギュラーズの激しい戦いは続いている。
「今井さん、お願いします!」
 ユーフォニーがそう声をあげると、万能遠距離攻撃係長『今井さん』が瓦礫の大地を素早く駆けた。左耳の赤い耳飾りと、ユーフォニーの持つチャームに、赤い線が繋がって、廃墟故にやや薄暗い城の空間に輝かしいラインを描く。
「――ッ!」
 ふっ、と息を吐く今井さんが、魔力を名刺状に変化させ、ナイト・ゴーントの顔面に投擲した。手裏剣めいたそれがナイト・ゴーントの顔面に突き刺さり、たまらず顔面を両手で覆う。ぐおおおう、と穴無き口から悲鳴を上げるナイト・ゴーントに、ブレンダの炎剣が止めを刺す。
「ユーフォニー殿! まとめて狙ってくれて構わない! 私ごとやれッ!」
 叫ぶブレンダに、ユーフォニーは頷いた。
「行きます、ブレンダさん!
 見せてあげます、ディアスポラさん! 私の『主砲』は、大事な人は決して傷つけない――!」
 かくん、と世界が止まった。それは厳密には、ユーフォニーの感覚であろう視界にうつる景色、止まった世界の中に、ふうわりと、色が広がる。色、色、それは生命の色か、想いの色か。ナイト・ゴーントに覆いかぶさる色は、黒だった。そうなのだろうな、と、ユーフォニーは思った。深怪魔が欲望を原資にして存在するのであれば、様々な『願い』の色を無差別に飲み込めば、すなわち混ざり混ざって、黒くなるのだろう、と、そう理解していた。
「貫きます!
 ――これは私の想い、私の視た色――そして、覚悟を宿す色!」
 ぐぅるり、と世界が回ったような気がした。途端、ユーフォニーの意識の中で、世界が動き出す。鮮やかな色彩が、圧力のようにぐわりぐわりと世界を揺らした――ブレンダが、一気に跳躍する。その混彩される世界の中で、黒の色がばちん、とはじけて消える。
 ぎ、い、とナイト・ゴーントが吠えた。彩の世界に巻き込まれて消滅した仲間の不甲斐なさに苛立つような、声。同時、煙で構成された『何か』が、ナイト・ゴーントをぐわり、と握り着いた。トキノエのキセルから、ふぅ、と繋がる煙、そこから現れた『狩人(ハンターズ)』は、ナイト・ゴーントに組み付き、ばくり、とその煙の内に飲み込む。ばしゃり、と内部がはじけて、ナイト・ゴーントの肉が海へと消えた。
「よし、良いペースで敵は排除できている!」
 ゼフィラが叫んだ。
「縁、リスェン、キミたちは引き続き、防衛をメインで動いてくれ。残りのメンバーは、勢いを止めるな! このまま一気に押し切ろう!」
 ゼフィラの言葉に、縁は頷く。
「ああ。後は――」
 そう言って、頭上を見上げた。その先では、彼の魔種、ディアスポラと激烈な戦いを繰り広げる、仲間達の姿があった。
「皆……!」
 マールが思わず叫ぶ。見れば、敵の強烈な砲撃を受けた百合子が、今まさにその衝撃に打ち負け、此方へと『降ってくる』ではないか!
「ダメだ、マール、さがりな」
 縁が静かにマールを制する。その眼前、振ってきた百合子は、傷だらけとなりながらも空中で姿勢を反転、ずざぁ、と大地に着地してみた。
「く――はは! なるほど、魔種であるな! 相変わらずでたらめなものよ!」
「百合子さん!」
 マールが、辛そうな顔で叫んだ。百合子は、ちらり、とそちらを見る。
「マール殿! 吾は乙姫とか使命とか分からぬが……貴女には人を動かす力がある!」
 そう言って、にっこりと笑った。なぜだろう。マールがあまりにも、人懐っこかったからだろうか。
 多分、マールが、なにか、特別なものを感じさせたのではなく。
 皆と笑って、皆と泣いて、皆と仲良くしたいと願う、一人の女の子だったから。
 なのかもしれない。
 だから――こんなにも、傷ついても。限界を超えてもいいと、百合子に思わせる位には。
「貴女に足りない所があれば吾達がそれを補う!」
 だから、笑っていてほしいと、思ってしまうくらいには。
 貴女が、あまりにも一人の女の子であったから。
「頑張って……!」
 マールが、そう言ったから、百合子は笑った。何度でも、何度でも。貴女がそういうたびに、こう言おう。
「任された! リスェン殿、すまぬがちょっとだけ治療を頼む!」
「了解です。ちょっととは言わず、全快していってください!」
 暖かな光が、百合子を包む。誰もが、そうだ。想いを抱いて戦っている。
 何があっても、君を想う。その『君が』誰であったとしても、誰もが、想いを抱いて、抱いて、立ち向かっていた。

●幸せの探求
「かわいいバニーさん方をお守りするお嬢様騎士、フロラ・イーリス・ハスクヴァーナですわ!」
 フロラが叫び、突撃する! 機械四肢が悲鳴を上げた。もう幾度目かの突撃、突撃、突撃! ばぢりばぢりと、機械脚が限界を訴えていた。だが、それがどうしたとフロラは叫ぶ。知った事か、己の限界など。
「わたくしにできることは、いつものわたくしであること――敵を叩く事も、『フロラお嬢様』であることも。
 故に! よって! 背を向けて守る時は『死神』の顔ですわ――ッ!」
 大鎌を振るう。横なぎの一閃! 強烈な斬撃は、しかしディアスポラの強烈な『装甲』によって阻まれる。部分的に再構築した『陸奥の装甲』。偉大ななる七が一、それは本来の、文字通りの『物理的な存在』ではない。元よりエルフレームシリーズというレガシーゼロとなった存在。そしてさらに反転し、魔に堕ちたそのものが持つ力は、既に物理的な何かなどは超越している。
「硬ッッいですわね!! 胡桃の殻の方がまだかわいげがありますわよッ!」
「くるみ割り人形でも踊っていると良い!」
 ぐわん、とフロラの身体に、巨大な砲塔が向く。本来は41cm砲塔。それを人間サイズにダウンサイジングしながらもその威力は変わらず、いや、むしろ上か!
「ぶっ散れ!」
 ぐわおん、と砲塔が強烈な爆炎を噴き上げた! 強烈な一撃が、フロラの身体に突き刺さる!
「が、ふっ!?」
 体が吹き飛ばされるような痛みが、フロラの身体に走った。ぶっ飛びそうになる意識を縫い留めながら、しかしフロラが勢いを殺せず吹っ飛ばされる!
「いったん下がって休憩をとりな!」
 貴道が叫ぶ。
「ヘイ! 第2ラウンドと行こうか!」
「ボクサーか……汝の攻撃は、受け止めてもなお内部に来る……故に!」
 艤装の甲板に設置された、近接防御機関砲が火を噴く。神秘術式のよりほぼ無尽蔵に弾を吐き出すそれを、貴道は左右にステップするように水を蹴って回避してみせる。が、それ故に、接近することができない。
「ちぃぃっ! ミーを狙ってくれるのは願ったり叶ったりだが、しかしまるで壁のような弾幕か!」
「ブランシュが横合いから思いっきりぶん殴ってくるです!」
 ブランシュが吠える。
「ディアスポラ! 艦船の力を使えるのは貴方だけじゃないのを忘れて貰っては困るですよ……後続機、ですから!」
 ブランシュが、僅かに悲しそうな顔をして見せた。思えば、姉妹なのだ――かつて、はるか昔の時代から、袂を分かったとはいえ。これは姉妹同士の殺し合いに違いなかった。
「mode:北上……起動!」
 ブランシュの周囲に『艤装』が浮かび上がる。それは、ディアスポラのそれによく似て、しかし見るものが見れば全く違うものだと即座に理解できただろう。
「キタカミ……データは残っている。雷撃タイプか……!」
 ディアスポラが叫ぶ。貴道に弾幕によるプレッシャーを与えながら、しかし艤装の力場を振る展開し、ブランシュから距離をとるべく動く。
「汝のそれは、威力はあれど直線的な動きしかできず、砲撃のそれに比べれば遅い……避けるのは容易い!」
「ええ、そうですよ! 結構当てるのが難しくて。ブランシュは、死ぬほど訓練しましたが――!」
 ブランシュは、吠えた。同時、背中のブースターが一斉点火! 強烈な閃光が、爆炎が、ブランシュを『吹っ飛ばす』!! 前へ! 前へ! 弾幕を『突き抜け』! 砲撃を『突き抜け』! ボロボロになろうとも、前へ!
 がつん、とブランシュが、ディアスポラへと肉薄――いや、接触、した。強烈な衝撃が、お互いの身体を駆け巡った。
「当てられなかったんですよね! だったら、邪道だろうがなんだろうが! この距離ならよけようがねーでしょう!?」


「無茶苦茶を――!」
 艤装から、魚雷が発射された。それは、概念武器に近い。元々の世界にあった『強力な魚雷』という『神話』をこの世界の威力に落とし込んだ、『強力な魚雷』という概念。猛威が、魚雷の形となって、ディアスポラの艤装に突き刺さる! 文字通りの、比喩でも何でもない『零距離』。接触射撃。破裂する魚雷の衝撃、その逃げ場はない。
「人の幸せ……それは、ブランシュ達が決めることですか?
 ブランシュ達はエルフレーム。魔種殲滅兵器ラダリアスフレーム。兵器に幸せはいらない。
 ……いや、正しく言うですよ。答えられない。
 ブランシュ、悩みに悩んだけど……プログラムが走るんですよ。魔種の殲滅こそ私達の意義だって。
 だから、保留です。いつか答えが出るまで」
 爆発する、その衝撃波の中で、ブランシュはそう呟いた。呟いたのか、考えたのか、思ったのか、それは分からない。ディアスポラにそれは認識されていたが、聞いたのか、察したのか、或いはテレパシー的なつながりを得たのか、それもわからない。ただ確実なのは、強烈な雷撃はディアスポラのみならずブランシュにも強烈な打撃を与えていて、爆発する衝撃波の中に、全てが飲み込まれていたという事だけだった。
「ぐっ……!」
 ディアスポラが、呻く。爆風の中から、逃げるように飛び出す。力なく落ちていく、姉妹機の姿が見えた。
「ヘイ、ガール? ちょっとばかし絶望感ってのを味わっていきな!」
 視界をふさいだのは、拳闘士だった。繰り出される無数の打撃は、ディアスポラの身体に深く突き刺さる!
「もう、一発――ッ!」
 竜宮の加護、ドラグチップの力が、貴道にさらなる『速度』を与えた。一撃。二撃。繰り出される、次の手、次の手! 最後に叩き込まれた強烈なフィニッシュブロウが、ディアスポラの顔面を殴りつけた。
「く、うっ……!?」
 呻き、吹き飛ばされるディアスポラ。背部にブースターを展開し、無理矢理に勢いを殺して見せた。
「やってくれたな……だが、距離はとった! このまま砲撃で――!」
 刹那、艤装が断裂した。厳密に言えば、測距儀――要するに、照準にあたる部分を、大鎌が切り裂いていたのである。
「がうがう。くるみ割り人形ですわ!! 噛み砕いてやりましたわよッ!!」
 がちがち、とフロラが歯を鳴らしてやった。ぐらり、とディアスポラの世界が歪むような気がした。何故……前の時もそうだ。何故、こいつらは諦観しない――!
 ディアスポラは、艤装を切り離した。爆発する。衝撃で、既にボロボロのフロラが沈んでいく。どうする。10秒後に艤装を再構築――それは良い。足下の、ナイトゴーント達はどうだ――すでに全滅に近い状態ではないか。追い込まれている。何故だ。何故――!
「吾は未だに、人を愛する事がよく分からない。貴殿の言う『怠惰な幸せ』も――悪くないと思う」
 声が聞こえた。百合子の声だった。
 その肩に、竜宮の少女は乗っていなかったけれど。
 きっとそこには、彼女の想いを乗せていて。
「でも……他人を愛する事が出来る人が泣くのは違う。
 それだけは分かる」
 そうだろう? マール殿は、人を、いろんな人を、いっぱい愛する人だから。
 貴女が泣くのは、違うと思う。
「ここは、貴殿の居る所では、絶対に、無いッ!」
 殴りつけた。強烈な一撃が、ディアスポラをフッ飛ばした。強烈な衝撃が、ディアスポラの身体を叩いた。いや、それは衝撃だけだっただろうか……或いは、何か強烈な、心を殴りつけるような何かが、此処にあったとしたら。
 諦観、を想起させるには、充分だった。
「くっ……!」
 衝撃の勢いに任せるまま、ディアスポラはさらにブースターを吹かせた。一気に戦場から距離をとる。
「だが、無意味だ……乙姫は我らの手に落ちている。ダガヌは復活する……そうなれば……!」
 ディアスポラは捨て台詞のように、そう言った。そのまま、深海の闇に姿を消す。
 討ち取るには、向けた戦力が足りなかった。が、追い返すには、充分だった。それでよかった。目的は、守るべきものを守ること、なのだから。

「皆……!」
 マールは、ボロボロになりながらも、自分たちを守ってくれた英雄たちの姿に、思わず泣きじゃくっていた。
 皆傷つきながら、誰かを守るために戦っていた。そして次は自分の番だ、とそう確信していた。マールは涙をぬぐった。そして、やるべきことをやろうと思った。
「ペルルっち、ありがとね」
 マールが、泣き笑いをした。
「マール……もしかして……?」
 ペルルがそういうのへ、マールは頷いた。
「分かるんだ……メーアに何かあった。あたしは、あたしのやるべきことをやらないといけない」
 そう言って、マールはニューディの頭を撫でた。ニューディは心配げに、マールに頬ずりをする。
「ホタロウさん、ありがとね。よかったら、あたしのこと、ちゃんと覚えててね?
 たぶん次に会うあたしは、真っ白なあたしだから」
「マールちゃん、何言って……?」
 ホタロウが、うろたえたようそう言った。意味は分からなかったが、しかし重大な決意を抱いていることを、本能的に感じ取っていた。
 マールが、ゆっくりと、ニューディを伴い、玉座へと向かう。玉座はほのかに青い燐光を放っていた。階下にある『玉匣』とリンクしたそれは、乙姫の継承を司るものであった。
「乙姫の空位が発生しました。マール・ディーネーはこの状況に際し、乙姫の器としての任を果たすことを此処に宣言します」
 ほのかに、玉座が光った。ぶぅん、という低い音がして、リンクしていた『玉匣』にも同様に青い光がともる。ニューディがその光を受けて、同じくほのかな光を放った。
「私は無才の身なれど、この身を差し出し、乙姫の力の一切を受け入れます」
 肩車、楽しかったなぁ、と、思った。
 ふと、色々と思い出してしまった。
 白い犬を追いかけたこと。
 グラビア写真を撮った事とか。
 ジャージを着せられたこともあった。
 皆でスナズリウオを捕まえたり。
 宝物を見せてもらったこともあった。
 思い出だった。
「そのために、私の身体を空としましょう。乙姫のすべてを、受けれるために、私の身体を空としましょう。
 差し出すものは、私の思い出。受け入れるものは、乙姫の力」
 イレギュラーズの皆は。
 あたしが、全部忘れちゃっても、また友達になってくれるのかな、と。
 そう思った。

 その日、『乙姫としてのマール・ディーネー』が誕生した。

成否

成功

MVP

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、竜宮のシステムは無事まもられています――!

PAGETOPPAGEBOTTOM