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シナリオ詳細

<デジールの呼び声>拝啓、海底に嘆く孤独の姫へ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 そこは深い、深い海の底。
 白き光を通すにはあまりにも複雑怪奇なる洞穴の果て、勇ましく散ったもののふも、無念にも沈んだ無辜の民も。
 それらすべてが誘われるはずもなき深き底。
「ねぇ、本当に来てしまうのかしら……怖いわ」
 恐れるような、それでいて嘆くような声であった。
「誰一人、誰一人だってお外には連れて行きたくないの。帰ってほしくないの。
 ねぇ、本当に来てしまうのかしら? あの子達を潜り抜けて、本当に……」
「さて、ね。孤独の姫、朽ち果てた骸の姫。
 貴女は、全ての骸を手元に置きたいのですね」
「骸……そんなこと言わないで?
 私はただ、あの子たちが連れてきた人たちに、ずっとここにいてほしいだけ。
 ねぇ、お願いよ、あの子達を連れて行かないで」
 ――全く、度し難い娘だと思う。
 縋るように手を伸ばすその女に、フィデルは声を出さずに笑むばかり。
 何故か――それでいいとも思うのだ。
 無垢なる嫉妬、寂しがり屋の姫。
 独りでいることが寂しくて、辛くて、悲しくて、嫉ましくて。
 生者を海の底に誘う人ならざる姫。
(海の底、洞穴の果て。
 誘われるままに義弟を斬り伏せ、国を捨てて命を捨てた。
 そんな馬鹿が落ちてくるには相応しい場所ですね)
 思わず笑みを零せば、不思議そうにこちらを見る目がある。
「それよりも、プリムがあの船から遺体を引き上げる連中を見たようですよ」
「……ぇ? それ、ほんと? あの子たちは?」
 声が震え、それに合わせて海水が震えた。
 洞穴の岩肌が砕け、ぱらぱらと落ちて行く。
「遺体は全て地上に還りました。
 プリムとあの場所を守っていた者達は何とか無事です」
「そう……そうなの……ねぇ、なんで? なんでそんなことになったの?」
「ローレットのイレギュラーズです。
 なんでもフリーパレットなる存在の願いによって導かれたようですね。
 しかも、今にもこの地を攻めようとしてるとか」
「いやよ……いや。なんでここを!」
「ふふ、それなら、ちゃんと対応しないと……」
「テルツォ! あの子に道を塞いでもらいましょ!
 セッティモとデーチモは……あの子たちはどこ?
 ううん。オッターヴォとノーノは……」
「オッターヴォとデーチモは死んだでしょう、廃滅病で。
 ノーノ、セッティモはさぁ……どこでしょうね」
「そ、そうだったわ……うぅ……皆、皆いなくなっちゃう……いやよ、いや……」
「――なら、私が行ってきます。テルツォと一緒に」
 微笑しフィデルは身体を起こす。そのまま、海上に向かって昇っていく。
 幾つかの分かれ道を曲がり、そのまま上へ。
(……あぁ、全くもって嫉ましいことだ。
 エンディカは私よりも頭が良かった。
 私よりも頭が良く、要領が良く、思いやりがあった)
 ――いつからだろう。反吐が出ると思ったのは。
(そうだ。あの日、竜種と向き合ったあの日だ。
 私には、船が消し飛ぼうが、仲間が死のうが、それでも『彼ら』ならやってくれると。
 そう信じられるあいつが、心底嫉ましかった。
 嫉ましかったのだ――デイジリーの下へ帰るより、死んでも此処で戦おうと思えたあいつが)
 ――あぁ、全く。
 思い出すだけで忌々しい。
 思わず、この手で後ろから手にかけた程度には、忌々しい。
 自分の決断が忌々しくて、振り払うようにフィデルは前を向いた。
「テルツォ、行きましょう」
 そこにいるのはシャチとは最早呼べぬ化け物をそっと撫でて、共に光ある海へ。


「――生存者がいる可能性がある。恐らく、悪意味だけどな」
 型破 命(p3p009483)はバッカニアレイスに関する情報を纏めなおし、レイス達の遺族へと遺品を渡した時の違和感を再調査していた。
 その結論は『バッカニアレイスの被害者の中に、被害者を装い死を偽装した者がいる』ということだった。
「もし仮に盾が遺品として残らないくらいに吹き飛ぶ攻撃を受けたとして、
 その持ち主が肌身離さず持っていたであろうネックレスが残るはずがないだろ」
「なるほど……それはそうかもしれません。ですが、だとしても今も生きてるかは分からないのでは?」
 シンシア(p3n000249)はその情報を聞いて頷いた。
「あぁ、だから生存者がいる『可能性』だ」
「バッカニアレイスと言うと、あのオルシヌス・オルカに率いられていた?」
 その話を聞いていた小金井・正純(p3p008000)が首を傾げながら言えば。
「はい、オルシヌス・オルカのことと一緒に、そちらも気になってて……」
「そうだったのですね……オルシヌス・オルカと言えば。
 あの時に逃げて行ったオルシヌス・オルカが今回の目標のインス島方面に逃亡していったようですよ」
「そうなのですか?」
「えぇ、ここまで来たのです。一気に片を付けるのもいいかもしれません」
「それは……そうですね」
 シンシアがこくりと頷く。
 竜宮の乙姫『メーア・ディーネー』が、シレンツィオ総督府と協議を重ねた結果、開始することなった『インス島海底領域』への一斉攻撃。
 その方面へと逃げ込んだ深怪魔、オルシヌス・オルカ。
 枝分かれした2つのアプローチが、再び道を同じくしようとしていた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、当シナリオは下記シナリオラインの合流地点となります。
 一度は2つに分かれた物語が再び道を合わせた次の段階と参りましょう。
 以下シナリオは見ておくとより楽しめるかもしれません。

●ストーリーライン
【1】共通段階
・概要
 始まったダガヌ海域をめぐる冒険の中、
 イレギュラーズはバッカニアレイスなるアンデットの一種らしき存在と交戦しました。

・シナリオ
『<光芒パルティーレ>置いてけぼりは寂しくて』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8036

【2】ルート:バッカニアレイス
・概要
 イレギュラーズはバッカニアレイスと戦ったその場に残った彼らの遺品。
 それを見つけたイレギュラーズは遺品の持ち主を探し出しました。
 遺品を遺族に返すに当たり、イレギュラーズは『実は死んでいない者がいる可能性』に行きついています。

・シナリオ
『<深海メーディウム>遺された物、遺された人、揺蕩う想い』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8314#replay

【3】ルート:オルシヌス・オルカ
・概要
 竜宮幣探索の冒険の中、
 イレギュラーズはバッカニアレイス達を率いる能力を持つ『深怪魔』と遭遇します。
 深怪魔『オルシヌス・オルカ』にはどうやら同族間における命令系統が存在するようです。

・シナリオ
『<潮騒のヴェンタータ>海原に抱かれて』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8154

『<深海メーディウム>また抱き上げてほしいから。』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8292

●オーダー
【1】オルシヌス・オルカ〔テルツォ〕の撃退
【2】『不忠腐心』フィデルの討伐


●フィールドデータ
 インス島周辺の海底に存在するぽっかりと開いた大穴です。
 ゾッとするほど暗く、呑み込まれるような感覚に襲われます。
 竜宮の加護もあり戦闘に不便はありません。

●エネミーデータ
・『不忠腐心』フィデル
 元海種の魔種です。属性は嫉妬。
 彼の大戦の最中に戦死したはずの海洋王国軍人です。
 実際には複数の事情から義弟に嫉妬し、自らの乗艦もろともに海に沈んでいました。
 魚類を思わせる背びれと鱗が幾つかの場所に見える以外は普通の人間風です。
 大穴を守るようにオルシヌス・オルカ〔テルツォ〕と共に立ちふさがってきます。

 獲物はオーソドックスな長剣と盾、腰には銃があります。
 武器こそ普通ですが、魔種らしくちゃんと強いです。
 戦闘スタイルはハイバランス型。
【毒】系列、【痺れ】系列、【出血】系列を持つほか、一部には【必中】、【鬼道】を持ちます。

・『冥府の選者』オルシヌス・オルカ〔テルツォ〕
 シャチのような姿ではありますが、小型の鯨ほどのサイズを持ち、
 爬虫類(あるいは竜)のような鱗に覆われています。
 また、両目が左右に3つずつ存在します。

 強靭な牙と膂力と魔術的センスを持ちます。
 高いHP、AP、物神攻、命中を持ちます。

 物理戦闘は【毒】系列、【凍結】系列、【出血】系列のBSを持ち、
 物によっては【邪道】が付いています。

 神秘戦闘は【火炎】系列、【窒息】系列、【呪縛】を持ちます。
 物によっては【飛】が付いています。

●友軍データ
・シンシア
 イレギュラーズです。
 皆さんより若干ながら力量不足ではありますが、戦力として十分程度です。
 怒り付与が可能な抵抗型反タンクです。上手く使ってあげましょう。

●特殊ルール『海中戦闘』
 当シナリオでは完全な海中での戦闘となります。
 後述特殊ルールの他、水中戦闘などの非戦スキルがあれば判定に上方修正が加わります。
 無い場合のペナルティはありません。

●特殊ルール『三次元戦闘』
 当シナリオは完全な海の中での戦いのため、
 三次元的な戦闘時に特殊なスキルを持つ必要はないものとします。
 逆に言えば、敵も三次元的に攻撃してきます、ご注意を。
 例:敵の上の方から見下ろすように攻撃する、真下の位置から攻撃する、など

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

  • <デジールの呼び声>拝啓、海底に嘆く孤独の姫へ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年10月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
蒼輝聖光
マルク・シリング(p3p001309)
浮遊島の大使
寒櫻院・史之(p3p002233)
若木
タイム(p3p007854)
この手を貴女に
小金井・正純(p3p008000)
燻る微熱
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ


「こんばんは、英雄の方々」
 慇懃にフィデルが言う。
 シャチ――どころの話ではないサイズの魔物を撫でるようにしながら、静かに笑む。
「テルツォ……彼女のためにも、彼らを止めましょうね」
『クゥォォォ』
 答えるような魔獣の声。
(あの時出会ったシャチとこうしてまた相まみえることになるとは……
 さらには魔種となった人間までここにいるなんて、一体あの大穴には何がいるんでしょうか……)
 『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
「……何を企んでるの?」
 『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は穏やかな魔種の表情を見ながら言葉にする。
「なんだと思います?」
 穏やかすぎる微笑は明らかに違和感しかなかった。
「遺品を返す活動が、まさかこんなところに繋がるとはね」
 マルク・シリング(p3p001309)はフィデルと言うらしいその魔種に視線を向ける。
(遺品を返すのではなく、『遺品にする』ことになるのは想定外だ……でも。
 魔種になってしまったのなら倒さなきゃならない)
「残念だけど、きみたちはここで終わるのがいちばんだ。
 存在するだけで悲しみを生むならば、なおさら」
 静かに『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)はフィデルを見る。
「きみたちにも言い分はたくさんあるんだろうね。
 だけどさ、限度を超えちゃってるんだ。魔種になんかなっちゃだめだよ。
 それがこの世界の不文律なんだからさ」
「なるほど、確かにその通りです。
 私たちはここで終わるのがいちばんでしょうね」
 史之の言葉にフィデルは薄く笑った。
「――さぁ、殺し合おうか」
「――では、殺し合いましょうか」
 静かに、2人の言葉は重なった。
(死んだと偽装してまで家族の元へ戻らなかった理由なんて……ううん、そんなのわからない。
 ――けど、きっといるのね、あそこに)
 静かに海を蹴るように後退するフィデルを見つめ、『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は首を振る。
「シンシアさん、私たちはあの子を抑えましょう」
「……はい」
 小さく頷いたシンシアと共にタイムはテルツォの方へ。
(いい加減海の中で戦うことには慣れてきましたが、
 あの大穴を見ると身が竦み上がる思いですね……。どこまでも落ちてしまいそう)
 一つ呼吸を整えながら『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は敵の後ろにある物から視線を外す。
「シンシアさん、今回も頑張りましょうね」
「はい……頑張ります」
 何か思いつめた様子を見せるシンシアへ声をかければ、どこか静かな声が返ってきた。
「生き残り……か。
 ……デイジリーに何て言えばいいんだよ。
 何も言えねえだろ、こんなの」
 『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)が告げた言葉にフィデルの顔がこちらを向いた。
「懐かしい名前ですね。
 ……いえ、懐かしいというほど昔のことでもないはずですが」
「なあ、アンタ。愛する女にどんな顔向けする気なんだよ」
 返答はない。静かに目を閉じた魔種は愛刀に魔力を籠めたように見える。
(あの大穴、いかにも何か潜んでいそうですが……。
 加護があるとはいえ、飛び込むのはなかなかに躊躇われる深みですわ)
 吸い込まれるような闇に満ちた大穴を見て『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)はぞわりと寒気がした。


「逃がさないよ!」
 スティアはフィデルの前に立ち塞がり続ける。
 美しくも恐るべき終焉の氷華に貫かれたフィデルの攻撃はスティアの身体を幾度も刺している。
 セラフィムの残滓がはらはらと大穴の方へと落ちて行く。
 海底を彩る魔力の残滓は美しく消えていく。
「仕方ありませんね――」
 強烈な斬撃が幾つもスティアの身体を刻む中、スティアは返すように祈りを捧ぐ。
 海の底さえ照らす幻想の輝きが降りて傷を癒していく。
「一気に落としましょう」
 シフォリィは漆黒の片刃剣を手にテルツォの腹側へと泳いでいく。
 潜り込んだまま夜闇に極小の炎を抱く。
 打ち込むような刺突は花吹雪のような炎の塊をテルツォに撃ち込んでいく。
 くぐもったようなテルツォの声が海水に響く。
「鬱陶しいでしょう」
 仄暗い海の中を幾重もの炎が散り、地上かの如く照らし付ける。
「シャチは海の生態系の頂点だけど、おまえはどうなのかなあ」
 史之は身動きを取らずにいたテルツォめがけ愛刀を振り抜いた。
 海水を断ち割り、次元を削った斬撃がテルツォの肉を大きく切り払う。
『フォォォォ』
 のたうつような動きでテルツォがその6つの瞳をぎょろつかせる。
(わたし達が引き付けてるあいだ攻撃は頼りにしてるからね)
 そんな思いをこめてタイムは正純へと視線を向ける。
(――任せてください)
 矢を番える正純は静かに首肯する。
 タイムはそれを背中越しに、魔導書を紐解いた。
 放たれた魔術は虹を描いて海の中を走り抜け、テルツォ6つの目に注がれていく。
 瞬く星の光に導かれるようにテルツォが動きださんとすれば、その前にシンシアが立ち塞がった。
「――目までは鱗で覆えないでしょう?」
 続け、正純は矢を放つ。
 鳴り響く弦の音が亡者の声を響かせ波を撃つ。
 6つの目へと放たれた魔弾はそれらを圧殺せんばかりに串刺しにせしめる。
 続けるように放たれ、瞬くは界呪。
 四象の権能が海を断ち、業火を震わせ、雷霆を穿ち、岩石を落とす。
 災厄の連撃が壮絶な傷を刻む。
 それに続くのは玉兎だ。
 雄叫びのようなものを上げる魔獣の腹部側へと降りて行く。
 静かに構えた星の剣。
 光を抱く星灯り。
 深き海底を望む戦場をなお照らす星は眩く輝き続ける。
「此度は他に思いを巡らすべき事柄も無いですし、ただ死合うだけ。ただ討つだけ」
 ふわりと舞うように、玉兎が剣を薙いだ。
 鮮やかに放たれた残光はテルツォの腹部を深々と貫き、夥しい血が海水に踊る。
「一気に決めよう!」
 マルクはキューブ状の魔力を剣の形に再構築すると、一気にテルツォの懐へ潜りこむ。
 そのまま、ぐるりと回転するように放った零距離の剣は壮絶な傷を生む。


「――これで終わりです。眠りにつきなさい」
 テルツォの眼前にてシフォリィは再び剣を握る。
 温かな熱を帯びた漆黒の剣身を、夥しい出血を残しながらもこちらへ牙を剥く魔獣へ向けた。
 最早、その6つの目の全てが見えてないだろう。
 鮮やかな炎が迸り、開いた複数の風穴から炎を散らしながら、ゆっくりとテルツォが落ちて行く。
「ありがと、助かったわ……大丈夫だった?」
「……はい、なんとか……大丈夫です。ありがとうございます」
 タイムはシンシアへと声をかける。
 その身体に傷は多く、かなりの無茶をしていたようにも見える。
 幻想福音を齎しながら、少女の背中をさすってから、視線を上げる。
「……もうあなただけよ、フィデルさん」
 その視線の先には、魔種が一人。
「おまえのかわいいペットは斬り殺されたよご主人さま。
 どうして助けてあげなかったの? それとも最初から使い捨てのコマだったの?」
 史之は一気にフィデルへと肉薄すれば、刀を斬り払う。
 必中期す邪道の追撃が巡るように斬り結ばれる。
「あぁ、死にましたか」
 大穴の中へと落ちて行くテルツォを眺めながら、フィデルは小さく呟いた。
 それっきりで興味を失ったように、返すような剣撃が迫りくる。
(嫌な目です。他人のものを羨み、妬み、足を引っ張る愚か者の目)
 正純は弓を構えた。
 その手には自然と力が籠り、籠める魔力は揺らぐ。
(……いえ、これはただの同族嫌悪ですね)
 拭いきれぬ自身の抱くモノを見せられるように、その呼び声への嫌悪感を露わに、矢を番える手が揺れた。
 心を覆うそれを自嘲して、正純は矢を放つ。
 四象へと奉る言の葉を籠めて放たれた魔弾は、海を裂いて突き進み、異空間より舞い戻ったフィデルへと命中する。
 刹那、再び極小なる干渉が巻き起こり、魔種の身体を呪う。
「フィデル、アンタは……何がしたかったんだよ」
 命は静かに雷を放つ陰陽術をフィデルへと叩きつけながら問う。
 大切であろう誰かを苦しめてまで為したいことを、命は分からない。
「私がしたかったこと、ですか……私はただ、軍人でいたかったのですよ。
 信じられないでしょうけれどね……英雄の荷物で終わりたくはないのです」
 静かに笑った刹那、命は腹部に痛みが走るのを感じた。
 いつの間にかフィデルが銃を抜いている。どうやら撃ち抜かれたらしい。
「海洋王国の忠実なる兵であったという其処の貴方。
 それ以上に吐き出すものは無いのですか」
 玉兎は口を開いたフィデルへと問いかける。
「結局、貴方の事など誰もよく知らないのです。
 何故、魔種に堕ちたのかとか。何故、弟を手にかけたのかとか。
 殊更知りたい訳でもございませんが、何も言わぬなら全て水の泡と溶けゆくだけ。貴方はそれで良いのですか」
「……構いませんね。このまま地獄――海の底まで連れて行く方が良いでしょう」
「そうですか。私は別にそれでも構わないのですが」
 ――剣に星光を。
 揺蕩う光を引くように、玉兎は一気に肉薄する。
 零距離で穿つ星の熱がフィデルの身体を大きく切り開く。
「ブラウベルクの剣、マルク・シリング。勝負だ、『軍人』フィデル」
 マルクはフィデルの前へ向かうとワールドリンカーの魔力を籠める。
 それこそは極光。剣の形を取った魔力はそれを推進力に変えてフィデルの懐で炸裂する。
 盾を以って防ごうとしたフィデルはしかし、咄嗟に躱そうとして失敗、肩口を斬り開かれる。
「――ここからは反撃だよ!」
 スティアはセラフィムの出力を一気に上げて行く。
 全身を包み込む魔力が聖なる光を湛えスティアを包み込む。
「これが私の全力……受けてみろー!」
 羽を思わせる残滓の一つ一つが指向性を以ってフィデルの方へ向いた。
 一斉に放たれた聖なる刃が一斉にフィデルの身体へと吸い込まれていく。
 盾を躱すようにして放たれた羽は幾つも突き立っていく。


 戦いは続いていた。
 テルツォを倒した後、フィデルとの戦いも終わりに近づきつつある。
「……なぁ、あんた。最後にいうことはねえのか?」
 式符に意思の力を籠めながら、命はフィデルへと声をかける。
「はは、あるとでも?」
「……デイジリーに、いうことはねえのか?」
 竜宮の加護を受けながら続けてそういえば、フィデルは何かを言うような仕草をして、押し黙るようにこちらを見る。
「――そうかよ」
 命は、静かに式符を投げた。
 矢のようになった式符がフィデルへと炸裂する。
 スティアは再び終焉の花を咲かせた。
 氷結の花は結晶を散らしながらふわふわと零れ、一斉にフィデルの身体を凍てつかせていく。
「それにもいい加減飽きてきましたね」
 言いつつ、フィデルがスティアへと剣を振り抜いた。
 その死角を突くように、仲間達が移動し終えている。
「それはどうかな」
 スティアが静かに告げると同時、フィデルの背中に斬撃が炸裂する。
「さよなら、波の花におなりよ」
 それは史之が振り抜いた剣閃。
「――は、なるほど……たしかに、私は思うようにしてやられたようです」
 追撃の斬撃を振り抜く史之に聞こえたのは自嘲するようなフィデルの呟きだった。
 呼吸と共に自らの調子を整えんとするフィデルへ、玉兎は剣を構えた。
「一息も吐かせはしませんわ」
 浮かび上がるは小さな星の光。
 深き海の底、夜空にも似た空を、真っすぐに走る。
 炸裂した星の痛みに、フィデルが崩れる。

(――どうせ死ぬなら、心折れて死ぬよりも、私は軍人らしく死にたかった。
 誰かに後を託して死ぬぐらいなら――私は、私を裏切ってでもあそこで死にたくはなかった)
 フィデルは、それでもこの場に居たかった。
 ――そんな、ちっぽけな執着は、死ぬ前に思い出すべきじゃないのに。思い出していた。

「君はあの海戦の残り火なんだね。
 ……エンディカに嫉妬して反転する程、『そうありたい』と願ったのだろう。
 僕は君に、身命を賭してこの地を守らんとする、敬すべき敵として相対する」
 再び剣へと姿を変えるワールドリンカーを構えながら、マルクは告げる。
「立場は変われど、君は立派な軍人だった。僕が保証するよ」
 ――遺品のペンダントに、いつかそんな逸話が添えられるように。
 飛び出すように撃ち込んだ斬撃の軌跡が爆ぜ、フィデルの身体に致命的な傷を刻む。
 シフォリィは漆黒の剣身を温かな紅蓮の炎に包み、フィデル目掛けて突っ込んでいく。
 その身に竜宮の加護を抱く。
 鮮やかな炎は海水を熱し、陽炎のような揺らぎ齎す。
 鮮烈に咲き乱れる炎の花弁が幾重にもフィデルの身体を貫く。
 退避する力を根こそぎ奪う連撃の果て、シフォリィは術式を起動する。
「ここまで隠した隠し玉です――」
 シフォリィは一気に術式を起動する。
 それは『彼女』の遺したもの。
 『当世』と『前世』を繋ぎ、銀の花が咲く。
「この先に封じてあるものを、貴方を封印して暴きます!」
 銀花が結界を描き、フィデルの身体を抑え込む。
「なるほど、この向こう側へ――ふふふ」
 球状の結界の内側へ封じ込められたフィデルが薄く笑った。
「……良いでしょう、英雄の方々――私の嫉妬、私の憎悪、私の羨望。
 私は貴女達が羨ましい。妬めしい……ふふふ」
「あなたは何を求めているの?
 エンディカさんを手にかけて欲しいものは手に入ったの?
 ……とてもそうは見えないわ」
 タイムは死にゆく魔種へと問うた。
 納得できなくても、分かることはあるかもしれない。
 そのタイムの問いかけに、再びの微笑がフィデルへ刻まれる。
「――あぁ、全く」
 フィデルが笑う。致命的な一撃は既に入り、抑え込まれたソレは薄ら笑いを浮かべる。
「私が、欲しかったもの。譲れないもの――それは」
 その時だった――強烈な原罪の呼び声が誘ってくる。
 これはフィデルのもの――否。
 その後ろだ。大穴の向こう側にいる何かが、こちらを視認する。
『いや――いや――いや――誰も、誰も失うのは嫌――』
 ズンと空気が重くなる。
 そして、イレギュラーズは確かに大穴の向こう側に見た。
 綺麗な目だった。
「ご紹介しましょう、ローレット。
 彼女こそが骸の姫。私を誘ったモノ。
『死者たちを引きずり込む孤独の姫』です」
 綺麗な黒真珠の瞳があった。
 深海の闇を思わせる黒髪が躍る。
「さようなら、ローレット。
 私は貴女たちが好きでした。だから、彼女『を』託します」
 そういった直後、フィデルは目を閉じる。
 大穴の向こう側へ、魔種が落ちて行く。
 それを女がフィデルを抱きかかえた。それはまるで、マーメイドのようだった。
 結界に包まれた魔種を抱いて、マーメイドは大穴の向こう側へ消えていく。
「……次にここに来た時、俺はアンタを地上に返してやる。
 それが、デイジリーにしてやれる最後の事だろうからな」
 命は小さく呟いた。
 それは既に事切れているであろう魔種へ届くはずのない言葉であったが、それでも。
 生きている側は望んでいるに違いないことだから。
 ――より深い原罪の呼び声もまた、闇へと消えて行った。

成否

成功

MVP

星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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