PandoraPartyProject

シナリオ詳細

鍵を開ければそこには……

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●止まらぬ浪費に止まぬ雨
 幻想王都の中でも一際清潔で、磨き抜かれた様な町並みの一画が存在する。
 その区画はいわゆる高級住宅街とも表現できる、町の風景自体に価値を認められた土地である。この一画において、住む事は勿論物件を押さえる事は一つのステータスとなるのは間違いないだろう。
 と、いうのはあくまで『身の丈に合う』人物や家柄の話である。
「たーだいまぁああ! はっはっはははー、見ろ見ろ! 今日は凄いお宝を手に入れて来たぞう!
 ほうら、これは古代の金貨らしくてだなぁ……どうしたシンシア。顔がしわくちゃになってるぞう??」
 貴族にも色々ある。経営している何かが破綻したとか、土地に魔物が湧いたせいで手放す事になったとか、身内に犯罪者が出たとか。そういった事から没落、落ちぶれた類のモノになる事はままあるのである。
 この男、グィンデール・パッションもかつてはその商才を惜しみなく発揮していたのだが、残念ながら服飾業で読み違えて大赤字の後に倒産。更にはとある商会を推していたら不祥事で貴族達の目の敵、流れから自身も恨まれる身に。
 『監獄卿』行きにならなかったのは幸いだったが、そこからの彼は元々の資産を食い潰しては食っちゃ寝の毎日を過ごす駄目人間になってしまった。
 彼の一人娘、シンシアはそんな父の姿を日々目にしては怒りを覚えていた。グィンデールはきっと病んだ心を癒したいが為に酒と骨董品に溺れているのだ、その苦しみを理解してやれない自分に怒りを覚えずにはいられないのである。

(いったい、どうしたら……日に日に酷くなってるし、この前はなんか乙女な下着をたくさん……)
 父に再三の注意をしても『オレの稼いだ金だ』の一点張り。果たして一人の娘である自分に何が出来るのか。
 悩みに悩んでいたある日、彼女は屋敷の中から町の大通りを眺めていると何やら騒ぎが起きているのに気付いた。どうやら泥棒騒ぎの様だ。
「……どろぼう……」
 その時。シンシアの脳裏を禁断の救済策が思い浮かんだ。
 例えその結果が自分にも辛い試練を課す事になるとしても、少なくとも、彼女が思い描く父ならきっと立ち直って元の活力満ち溢れる姿を見せてくれるに違いない。そう確信したのだった。
 その、策とは。

●DOROBO!
 『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は困った顔で少女を連れて来た。
 少女の名はシンシアといい、王都に住む貴族の娘だという。
「依頼主は彼女です、が。今回皆様に遂行して頂く任務においてそれがプラスにならない事をお忘れなきようお願いします」
 どういう意味なのか。イレギュラーズが何人か首を傾げた。
「私が皆様にご依頼するのは、父の財産全てを盗み出して頂きたいのです……!」
 イレギュラーズの一人が卓に並べられた紅茶を彼女へ進めながら、手を挙げた。
「落ち着いて。まずはどういう事なのかを説明してほしい」
「は、はい……」
 紅茶をひと口飲みしてから少女は彼等に事情を説明した。父親が散財しながら日々落ちぶれているという事。その性根を叩き直す為にお金を全て手放したいという事。
 だが、それらを行うにはシンシアは幼く、財産を寄付してしまおうにも預り所における登録名義が父親の物である以上どうにもできないとの事だった。
 そこで、ローレットに依頼を申し出たという事らしい。

「ここからは私が。今のお話を聞いても分かる通り、これらは完全に犯罪の片棒を担ぐ所業となります。
 ですがご安心を、何も銀行を襲う必要はありません。彼女の話では経営者だった頃の名残でパッション氏は月に一度、必ず銀行から全ての金を出して翌月の支出計算を行うそうです」
「そこだけ聞くとまだまともなような……」
「計算をしても、衝動的に予算の五倍の買い物をしているとしたら他人事ではないでしょう。これはそういう話です。
 と、いう事で皆様は公的な機関を襲って貰う事なく、あくまで彼等親子間でのトラブルに留められる範囲で動いていただきます」

GMコメント

 もしもベランダに頻繁に鳥が来る家があるならお気を付けを。
 ちくブレです、皆様宜しくお願いします。

 以下情報

●依頼成功条件
 誰にも見つからずに財産を盗み出す

●情報精度B
 依頼人は嘘をついていませんが、不明な点もあります。
 パッション氏の部屋に何か隠されています。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●パッション邸
 王都のある一画に建っている立派な屋敷です。
 しかし庭も植え込みも全部誰も管理できないので生い茂っているようです。
 正面扉は豪華な鍵が掛かっており、開錠時に大きな音が鳴る仕掛け。
 裏手に庭があり、裏口は簡素な錠前なので処理さえ間違えなければ侵入は容易いでしょう。
 建物内部は俯瞰的に見て横長の作りになっており、正面扉が中央南側、裏口扉が中央北側。
 一階東側に家族の食卓がある大部屋、反対の西側に依頼人の部屋という間取りになっています。
 階段は屋敷中央、階段下に身を隠せる空間アリ。二階東側の部屋がパッション氏の自室、西側に【金庫部屋】となっています。

 二階の【金庫部屋】は扉に練達製の魔法錠が三つ掛けられており、本人以外が開けようとすると『AP全消費』して開錠されます。最低でも三人は忍び込んで開けに来ないといけない様です(例外はあります)
 金庫自体には特別な魔法や仕掛けは無い様です、が。ダイヤル式との事……音をよく聞く事が鍵を解くカギです。
 依頼人によれば【二階の隠し部屋】なる場所が在るらしく、そこへは『身長が小柄か小駆』の方なら裏手から上へ伸びるダクトで到達できそうです。

●アラートエネミー
 『グィンデール・パッション』
 彼は銀行から金庫を運んで貰った後に、依頼人が上手く連れ出します。
 彼の自室には鍵付きのタンスがありますが、どうするかは皆様のご判断次第……

 『ボディガード』×10
 毎月高いお金で雇っているゴツイボディガード。入るわけの無い侵入者を見つけると直ぐに憲兵を呼ぶ為に持たされたほら貝を吹きます。たまに来る怪しいセールスマンを追い返したりもします。
 広い屋敷のあちこちにランダムで移動しながら常にこの日は徘徊しています。
 しかし依頼人からの情報によると、彼等はよく自前でピザの配達や踊り子を呼んでいたそうです。そこにつけ入る隙があるでしょう。

 皆様の作戦、プレイングが如何に臨機応変に対応しているか。それが作戦の成功を目指すポイントとなるでしょう。

 以上。皆様の成功を祈ります。

  • 鍵を開ければそこには……完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月06日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
エマ(p3p000257)
こそどろ
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙

リプレイ


 『落ちぶれ吸血鬼』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)はむさい光景に、更に目の下のクマを濃くしながらジト目になっていた。
「……これは、なんというか」
 何とも言えぬ表情でクローネは手元のボードにペンを走らせていく。屋敷に忍び込ませたファミリアーの『鼠』と共有する視界を基に、情報を整理しているのだ。
「へへっ、念願叶ってやっとこさ盗賊らしいお仕事だ」
「えーひっひっひ! ついに来ましたよこの時が! 私は盗賊なんです、盗みの依頼あればこそ! 完遂して見せましょう!
 キドーさんも、腕前見せてくださいよ。えひひっ」
「おう。本職の実力ってヤツを見せてやるよ」
 一方では物陰から様子を伺いつつも揃って黒い笑みを浮かべているのは、まさにドロボージョブの二人。『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)と『こそどろ』エマ(p3p000257)である。
 ローレットの仕事は全てが盗賊紛いの任務とは限らない。久々の盗みの依頼を前にして今か今かと燃えていた。
「……幸いな事に本職が多いので何とかなりそうッスね……
 ……盗人は本職と言っていいんだろうか……」
 サラサラと描きながら小首を傾げるクローネ。
 目標となる、『グィンデール・パッション』の所有する財産が運び込まれた金庫部屋。扉の前でボディガード達が錠を検めている姿をクローネは記していく。
 依頼主、シンシアはこれから盗みに入る屋敷の主の娘である。自身の父親が落ちぶれる姿に我慢できず依頼をしたらしい。
 しかし今回を逃すと一月先まで盗みに入る機会を失ってしまう事もあり、イレギュラーズは慎重な姿勢で臨んでいた。

「……罠の存在があるかもしれませんね」
 不意にクローネが告げる。
 念の為ファミリアーで偵察していなければ、恐らくどこかで何らかの賽を投げる羽目になっていたかもしれない。特に、屋敷周辺に防犯対策がされているとは。依頼人すら知らない情報の筈だ。
 紙に上書きされた内容にキドー達は眉を上げた。
「……大仰な仕掛けではないのは分かる、とりあえず慎重に行こうぜ」
「ですねぇ」
 盗賊二人は互いに頷き合う。

「そういえば頂いたお金、どうするのかしら?」
 情報を頭へ叩き込みながら『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)が問う。
「依頼人の言動から察するに、盗んだモンはオレらで山分けってことで良いんだよな? はっはそりゃあやる気も出るってモンだ!」
 踊り子の装いで路地裏から出て来た『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は指先を打ち鳴らした。
「どろぼー。シーフですね。分かるのです。でも全部盗んで大丈夫です?」
 一方で心配そうに『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)はリノを見上げる。
「うふふ、貰えるならもちろん貰っちゃうけど」
 どうかしらね、と答える。
 その返答に軽く小首を傾げ、仮面を着けたまま絵里はキドー達へ「憲兵さんは向こうに行ったよ」とだけ報告する。先ほどまで彼女は辺りの様子を見回っていたのである。
「馬鹿親父にお仕置きなァ……親の馬鹿を止めるなンざ、できたガキだなァ」
 『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)は何処か感心する様に頷きながら、手元の紙袋から数本の瓶を取り出してアンシア・パンテーラ(p3p004928)へ渡した。
 それと、彼女が昼間から辺りを調べて回った事で得た情報の書かれた紙も。
「……私は本業からやや離れた仕事だが、受けた以上はやるさ」
 深々とスカーフを頭に巻き町娘らしい様相を作るアンシアはBrigaから酒瓶を受け取り、辺りの高級志向な建造物や雰囲気に静かに視線を巡らせた。

 Brigaの調べによれば。
 比較的、この区画はどの物件も日当たりを計算し作られており、パッション邸は恐らく立地と外観からして夕闇に包まれる事を趣として設計されている節があった。
 それはこれから盗みに入るイレギュラーズにとって都合が良い。言い換えれば、パッション氏にとっては不運としか言い様が無いのだが。
 そうして各自すり合わせている内に、クローネの調査は終わった。

●潜入結果……
 陽は細くなり。その輝きを潜めた頃、男達は交代と同時に屋敷の中に灯りを着けようとした。
「ごめんください」
「あン?」
 食堂と二階の明かりが灯された瞬間、屋敷の戸を叩く音が鳴る。正面玄関と裏口の方へ行こうとしていた男達は訝し気に目を細め、扉を開けに行った。
 まだ雇い主の親子は戻らない筈だった。
「何の用だい、っておおおおい!?」
「ひっく……うっ、うっ……あの、ここがパッションさんのお宅でしょうか……?」
「……あう……泣かないで……」
 扉の向こうを見た瞬間固まる筋肉タンクトップブラック。
 何やら浴衣を着た不健康そうな少女が、涙を流しながらピザの箱と酒瓶の刺さった籠を抱えた町娘に寄り添って慰めていた。ブラックの思考は完全にエラーを起こしていた。
「じ、実は私ピザ好きの彼氏がいたんです、けど突然……捨てられてしまって……!」
 ブラックは凍り付いている。
「それでも友達の、クローネが私を慰めてくれて……元気出さなきゃって……
 でも、どうしてか自然と今日もピザを用意しちゃって……ぅうっ、無駄になっちゃったなぁって……」
「こんな感じで親友のアンシアさ……ちゃんが塞ぎ込んでしまいまして。どうしたものかと思っていた矢先、偶然こちらがアタシの働いてるピザ屋の常連と聞いたもので。
 ……一つどうッスか? 一人では食べきれないだろうし、何より寂しいと思うんスよ」
 ブラックは空気を読んで少女達の話を最後まで聞いた上でツッコミも胸の内にしまい込むことにした。
 だが、一通りの事情は理解しても彼にしてみれば家主の許可無しに一般人を入れるわけにも行かない。どうしたものか……と悩んでいた彼だったが、後ろから他の男が顔を出した瞬間それらは全て吹き飛んでしまう。
「今更何を言ってるんだ兄弟、前は酒場の子を呼んで騒いだじゃないか」
「そうだったぜ! HAHAHA!」
 気の良い男達はアンシア達を入れてくれるようだ。扉が開かれるとアンシアが半ば引き摺り込まれる。
「ありがとうございます……ふふっ」
 その瞬間、如何にも町娘らしく髪を包むスカーフが落ちて、その下に隠れていた艶のある笑みをアンシアが浮かべた。潤んだ瞳と唇が誘うその姿は如何に。
 結果……扉が閉じられた後。中から男達の歓声と拍手が巻き起こるのだった。

 暫くして再び訪問を告げる戸の音。
 Brigaが渡していた酒が功を奏したらしく、食堂の方は盛り上がりを見せていた。イラッとしたことほぎが扉を一発殴り付けるまで誰も気付かなかった程である。
 扉を開けたのは二階から慌ただしく降りて来た男だった。
「ヘェイ、誰かに呼ばれて来たのかいダンサーたん」
「ふふ、ことほぎと申します。今宵も皆様と楽しい一時を過ごさせて貰いますね?」
「ンーム、しかし金を持って来てないんだ俺達は。酔った連中に代わって謝罪しよう」
「あら? でも何時も御贔屓にしていただいてますし、お酌ぐらいさせて下さいな」
 妖艶な眼差しを向けながら物静かに小首を傾げる。
 男は悩む様に後ろを何度か見て、もう一度ことほぎを見た。『いつも贔屓にしている』といえば心当たりはある、料金が発生しないのなら是非遊びたい欲が出て来てしまう。何よりセクシー。ここが大事だ。
 男は更に悩んだ様子で振り向いて他の男達と相談する事三秒。
「待たせちまったな! 入ってくれよ、HUHUHU」
 神速の即決であった。
「今日は赤毛の子はいないんだナァ! ハッハァ、楽しませてやるぜ!」
「ウフフ、お手柔らかに」
 ことほぎはウインクのフリをして片目を閉じ、忍び込ませていたネズミの視界を共有した。
 二階の男達が全員降りて来たのだろう、階段をテチチと駆け上がる視界には誰の姿も映らない。中へと入れられたことほぎは、泣き上戸でピザを頬張り酒を煽るアンシア達と食堂で再会した。

 時は来た。
 最早屋敷の男達は全員楽しくパーティーモードと化している、忍び込むなら今が最適だろう。
 見送る絵里へ何かあれば来て欲しいと伝え、いよいよキドー達は影に溶け込む様に移動を始めた。
 エマもそうであるが、足運びは流石速い。だが傭兵稼業をしていたリノとBrigaの二人も足運びに迷いは無く、確かな足取りで滑る様に動いている。
 一方で前庭を抜ける際、足元を時折パキリと何かが砕ける音が鳴る事にリノが気付いた。
「……なるべく俺とエマの通った場所に沿ってくれ」
 ボディガード達の言う『対策』なのだろう。微かに土を被せているが、辺りに割れた貝殻が撒かれていた。
(引き付け作戦は成功だったわね、静かな屋敷にこの音が響いたら中に聞こえてもおかしくないもの)
 リノはキドーやエマの先導に従い慎重に進む。
 程なくして、特にそれ以上の罠が無い事を確認した盗賊二人の合図を受けて一同は裏口へと近付いて行った。
「では私が先導を……ネズミさんでは気付かない罠があるか知れませんからね」
 一度、リノの肩に乗っている鼠に変化が無い事を確認し。裏口を静かに開いたエマが音も無く中へ滑り込んで行く。
「ちいせえ体が役に立つ事もあるもんだ、っと」
 それと同時に、キドーはゴーグルを装着して裏手から伸びていたダクトの中へと入って行った。

 エマに耳を澄ませば屋敷の中で拾えない音は無い。
 今は食堂からクローネの短い悲鳴が聞こえる、が。特に問題は無さそう(多分)なので直ぐに周囲を警戒しながら中央にある階段へと近付いて行った。
(……おや。ことほぎさんでしょうか)
 階段二階に差し当たった所で一匹の鼠とすれ違う。
 鼠は幾度かエマを見上げて鼻をチチチと揺らすがそれ以上のアクションは無く、階下へと降りて行った。
 左右へ首を回せば東にパッションの自室、西に銀細工の錠が三つ並んだ鉄の扉。目的の部屋はその気になればエマだけでも回れそうな気がして来る。
 とはいえ、慢心して盗みは出来ない性である。床板を一枚ずつ爪先でなぞるように進み、時折ナイフで目の前をゆっくり切って見せながら彼女は辺りを探る。
 しかし何も無い。或いは何らかの条件を達していたのか。
 微かに拍子抜けしつつも西側の扉横にある窓から裏手で待つBriga達へエマは合図を出した。
「さァて、張り切ってやるか」
 ダクト横のボルト金具に指先を引っ掛けたBrigaが飄と身を持ち上げ、一度壁を蹴って軽々と窓から入り込んで来る。
 エマが振り返れば、微かな足音を連続させて二階にリノが上がって来た所だった。
「それじゃ、開けましょうか」
 彼女達はそれぞれ手を伸ばして、同時に魔法の錠を外した。

●鍵を開ければそこには……
 中は随分空気の澄んだ、清潔にされている空間だった。
(わざわざこんな所に仕舞い込むぐらいだしいいモンがあるんだろうな?)
 天井の格子を蹴破って隠し部屋へ降り立ったキドーは、厳重に錠が掛けられた棚を己がギフトで慎重に、音を出さぬ様に開けた。
 開けた瞬間、彼は一瞬体が強張るのを感じた。
「……嘘だろ」
 棚の中に畳まれたそれを手に取るキドーは幾つもの思考が頭の中で巡った。
 しかし答えなど出る筈がない。よって、彼は淡々と依頼をこなす事に決めた。
(見ていいのは値札だけ。見ていいのは値札だけ……)
 数字が沢山。主に一つの数字の後ろに0が幾つか付いている、そんな一枚の布に張られた紙だけをキドーは全て流し見。部屋の隅にあった枕を裂き、その中へなるべく丁寧に突っ込んで行った。
 目に映るのは色彩豊かなV字の布。
「クソ……なんでパンツなんだよ……」
 遂に我慢できず声に出てしまった瞬間、キドーは高級過ぎる下着を枕ごと足元へ叩き付けるのだった。

 冷たい、金属質な箱にエマが耳をつけてダイヤルを回していく。
「さぁてご対面です……ガチャガチャっとしてピーン……ってなもんです」
 精密な金属歯車がダイヤルに従い、微細な音と共に回される。時折カチリとした手応えが指先に来るが、それはダミーだとエマは聴き破る。
 本物は『音が出ない』。手応えが無く、すんなりと、当て嵌まるピースを押し当てた時の様な快感が聴覚を通して伝わって来るのだ。
 それらが三回、七回……繰り返し、そして一度に『ハマる』本数が十二本となった瞬間。ガチャン、と無機質で重々しい音が鳴り響いたのだった。
 開かれた金庫には紙で包まれた物体が幾つも転がっていた。
「中に何が入ってるかわかりませんが、ザックを用意しました。詰め込んじゃいましょ」
「手伝うぜ」
 Brigaも一緒に中身を入れるのを手伝い、気持ち彼女が多く持ち運べるようにする。
「急いで済ませなきゃなァ……! かくれんぼの気分だぜ、全く……」
 Brigaは金庫の中身の殆どを持ち、一纏めにして背負うとエマと共に部屋を出た。

 ……パッション氏の自室まで何の問題も無く辿り着いたリノは、後から戻って来たキドーと合流して手分けして部屋を物色し始めた。
 鍵の付いたタンスを上手くキーピックで開錠する。そうして開けた中には恐ろしい数の下着が詰め込まれていたが、中には少し変わった物も在った。
「これは……」
 リノはそれを取り上げて何事か思う。
「何かあったか?」
「ふふ、大したものではないわ。彼等にとっては違うでしょうけど」
 金の招き猫を手にしたキドーが横から覗き込み、それが何なのかを理解した。


「まったく、あいつら酔い潰れやがって……ヒック、あー……なんか、なんだ? 上から物音がするよーな……」
 すっかり外が夜になってきた頃。
 食堂で眠りこけていた黒々とした男は不意に人の気配を感じて目を覚ました。それまで飲み食いしていた筈の少女達も、やけに男勝りな気配のする美女とか特に、姿を消しているのにも気付かず。
 残された痕跡は死屍累々のハウスキーパー仲間達だけである。
 覚えているのは酔って来た頃にことほぎと見つめ合った瞬間だけだ。
 そんな彼は二階を確かめに行こうと、階段へと向かって行く。するとその時、けたたましい音が玄関から打ち鳴らされる。
「こんばんはですよ! 今日はとびっきりレアな商品を持ち込みましたので見てってくださいね~」
「?? ……?」
「今ならお安くしとくのですよ~? これこれ、この魔法のオーブとか持ってると踊り子さんにモテますよ!」
「本当かい!」
「もちろんなのです、とりあえずこの名画もお付けして15000Gでどうです? 200回払いの分割で一回75Gです! やっすい!!」
「ウヒョー! 安い!(魔眼効果微残)買うぜ!!」
 ぐへへへと涎を垂らす男の財布の中身を全て回収した絵里は仮面の下で「ありがとー♪」と呟く。
 玩具や落書きを後生大事そうに受け取った男の背後では丁度アンシアとリノが二人で絵里に手を振りながら裏口へ向かう姿が在った。
 これで、痕跡は全て消した。絵里はそう確信して荷物を纏めた。
「それではまた来ますね~!」
 そっと男の股を潜らせて受け取ったお金の入った革袋を背後へ投げる絵里。
 酔いが醒めた後で気付くだろう。
 静けさに包まれた屋敷を後にするのだった。

●鍵を掛けていた物
 後日、とある廃墟で依頼人とイレギュラーズは再び対面した。
「少しあの後大騒ぎにはなってしまいましたが、皆さん凄いんですね……憲兵の方々も手掛かりが無いと嘆いておられる様子を目にしました。
 父も……今はとても落ち込んでいます。近々私達は下町の方へ移り住む事になると思います、きっと大変な事が続くでしょうが……」
 シンシアは何処か罪悪感の滲んだ様な声音でそう告げる。
 思う所があるのだろう。その姿へかける言葉は無かったが、キドーは一歩前へ出てイレギュラーズが盗み出した物品を包んだ布を差し出した。
「……?」
「将来の為に親父に秘密で貯めとけってな……どうせ報酬外のモンは貰えねえんだ。格好だけでも付けさせろよ」
「貰ったら本当に泥棒ですし。今後必要になると思うのですよ」
 絵里も頷き、シンシアへ促す。
「で、でも皆様にお礼を……」
「オレも貰えるなら受け取りてェ所だけどな、それをやって本当に良いのか?」
「そういう事だ……オマエのだろ。どうするかは任せる」
 驚き戸惑う依頼人の視線はBrigaとことほぎ、イレギュラーズの面々を行ったり来たりする。しかし彼女もやはり迷いはある。
 例え過去の栄光だとしても確かに彼の父が築き上げた財産なのは間違いないのだ。それを、他でもない娘の自分が撒いてしまって良い筈がない。
「これで依頼は完了、ね。それじゃあ小さな依頼主さんに一つイイコトを教えてあげるわね?」
「いいこと……?」
「あなたのお父様はまだ諦めてない物がある───
 ただ今は胸の内にしまい込んでいるだけよ、あなたが背中を押してあげてね?」

 きょとん、と。ただそれだけを告げ去って行ったリノと、イレギュラーズの背中を見つめたシンシアは静かに重い包みを開いた。
 そこには大量の金貨や乙女すぎる下着、そして……今は亡き母と幼い自分を抱いている父の姿が映った写真が入っていた。
 いったいそれはどこに隠され、何処で鍵を掛けられていたのかは分からない。
 分かる事は、その写真の裏に「次は間違えない」とだけ書かれている事だけだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 後に下町で話題のランジェリーショップと、闇市に大量の下着が流れ出たとか……

 依頼は成功です。
 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様、またの機会をお待ちしております。

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