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シナリオ詳細

紙魚シミレインボー!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●開いた先に奴がいた
 ディオーネ図書館。
 年に一度、グラオ・クローネのその日以外門戸を開くことのないその図書館は、混沌各地から希少な魔導書を集め保管し管理している。
 そんなディオーネ図書館の一年の中で、グラオ・クローネの次の大行事といえば、夏の蔵書整理になる。
 この日も、ディオーネ図書館を管理する司書三人娘、クレア、エリィ、リィラの三人は、朝から忙しそうに図書館内を走っていた。
 リスト化された蔵書一覧を確認しながら、魔法を使って一冊ずつチェックしていく。
 状態は悪くないか、欠けたページはないか、そもそも本がちゃんと指定された棚にあるかどうか。
 数十万冊に及ぶ蔵書を確認するのは、一夏すべてを使い切る大仕事だ。
 とはいえ、三人は手慣れたもので、黙々と作業を進めていた。
 そうして、その日の作業も終わりが近づいてきた頃、リィラがクレアとエリィに話を振った。
「クレア、エリィ、7門の棚の確認は終わりました。私はそろそろ廃棄書庫の方を始めようと思っているのですが……」
 茶色のボブカットを揺らしながら寡黙なリィラがそう告げると、長い黒髪を翻したクレアが明るく返す。
「そうですね。今年も使用に耐えきれなくなった本が結構な数廃棄書庫に入れられましたし、そろそろ始めても良いかも知れませんね。お願いできますか?」
「はい」
「がんばってねー」
 クレアに頼まれたリィラはエリィに見送られると、その足で廃棄書庫へと向かう。
 廃棄書庫は、ディオーネ図書館内に保管してある魔導書が何らかの原因で魔力を失い魔導書としての機能を果たせなくなった場合に納められる場所だ。しかし、魔力を失ったとしても、元が曰く付きの魔導書だらけということもあり、通常の手段での廃棄ができない。その為、廃棄方法が決まるまで、保存しておく場所になる。
 リィラは図書館内を移動し、廃棄書庫の扉の前まで移動すると、鍵を開けて中へと入る。
 魔力灯のスイッチに魔力を注げばたちまち書庫内に明かりが灯った。
「少しだけでも作業を進めておきましょうか……最初の棚は――」
 そういって書庫内へ侵入したリィラの視界に、不意に影が映った。
 それはあってはならない影。おぞましさすら感じさせる、悪魔の影だ。
「き、きゃああああ――!!」
 ディオーネ図書館に寡黙な少女の悲痛な叫びが響き渡った――。


「今日は魔導図書館からの緊急の依頼よ」
 ローレットに足を運んだイレギュラーズに『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書を手渡しながらそう告げる。
 リリィは横に立つ大人びたエプロン姿の女性を紹介すると、話を促した。
「ディオーネ図書館の司書クレアと申します。
 皆さんにお願いしたいのは、図書館の廃棄書庫に発生した紙魚退治です」
「シミ? シミってあの紙を食べるっていう虫の?」
「はい。ただ、廃棄書庫に現れたのは特殊な紙魚でして……虹紙魚なんです」
 これまたなんとも不思議な語感で伝わってくる相手だが、想像するだに気色悪さがある。
「虹紙魚は巨大で数が多く、魔力の浸透した紙を好んで食べます。
 廃棄書庫には多数の魔力の染み渡った本がありまして、この夏に大量発生したようなんです」
 眉を八の字にして目を伏せるクレアは、目にした光景を思い出して身震いする。
「虹紙魚は普通の紙魚と同じように人畜無害のように思われるのですが、敵対する相手には容赦なくその力を振るうのです。
 私達は戦う力がないので駆除するにも駆除できず……グラオ・クローネでお越しくださったローレットの特異運命座標の方々ならなんとかしてもらえるのではないかと思い、お願いしにきた次第なのです」
 どうかお願いしますと、クレアが頭を下げると、後をリリィが引き取った。
「まあその生態は謎だけれど魔物と同じようなものだし、依頼として出させて貰ったというわけね。
 人畜無害と言いつつ、かなりの凶暴性を秘めてる相手だから、特異運命座標ちゃんくらい出張らないととてもじゃないけど駆除は難しそうなのよ」
 昆虫(?)退治とはこれまた変わった依頼だが、年に一度しか足を踏み入れられない魔導図書館に入れるちょっとした機会だ。
 虹紙魚と呼ばれる相手がどんな奴なのか、怖い物見たさもあるだろう。
「図書館での注意事項はクレアちゃんから聞いて依頼書に書いておいたから確認しておいてね。
 それじゃ宜しく頼むわ」
「どうか、よろしくお願い致します」
 再度、丁寧に頭を下げるクレアを見つつ、イレギュラーズは依頼書の確認を始めるのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 図書館に出ちゃ行けないアイツらが発生しました。
 レインボーなアイツらをとにかく倒してください。

●依頼達成条件
 ・虹紙魚五十匹の撃破

●情報確度
 情報確度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●虹紙魚について
 本を喰らうアイツらです。体長60cm。
 その身体は虹色に輝き厚い甲羅に覆われています。
 長い触覚を四本持ち魔力の流れに敏感です。
 接触しなければ人畜無害も良いところですが、ちょっとでも敵意を向けると恐ろしい凶暴性で襲いかかります。あり得ない機動で飛びかかってきます。
 低耐久、高反応、高命中、高EXFを誇ります。しぶといです。
 どんな方法でもいいので敵意を持って攻撃すると、攻撃した相手をターゲットします。このターゲットは攻撃されるたびにその相手に変わります。初期は魔導書をターゲットしています。
 特殊攻撃として以下を使用します。
 ・紙喰いの牙(物至単・狂気)
 
●図書館内の注意事項
 廃棄書庫内には廃棄が決定されているとはいえ希少な本が多数あります。
 虹紙魚に食べられることも出来る限り抑えて欲しいのですが、書庫内での範囲攻撃の使用も極力お控えください。
 とはいえ、皆様の安全第一です。やむを得ない使用は目を瞑りますので、虹紙魚の掃討を優先してください。

●戦闘地域
 ディオーネ図書館内、廃棄書庫になります。
 時刻は二十時。
 書庫内は広いですが、多数の魔導書が棚に納められており、戦闘はしづらい環境です。
 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。
 

  • 紙魚シミレインボー!完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月08日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
蜜姫(p3p000353)
甘露
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ

リプレイ

●闇に煌めき蠢くモノ
 バルツァーレク領のはずれ、古い大きな建築が見えてくる。
「見えてきました。あそこになります」
 クレアは先導しながらその建築を指さした。イレギュラーズは一様にその大きな建物を眺めた。
 ディオーネ図書館。混沌中の曰く付き魔導書を所蔵し保管するその図書館が、今回の依頼の舞台となる。
「グラオ・クローネの時以来ですが、やはり大きいですね」
「ホントだよね。それにとても古いのに古くささを感じさせないね」
 『blue Moon』セレネ(p3p002267)の言葉に『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が頷く。二人は以前、グラオ・クローネのその日に一度訪れたことがあった。
「ふふ、それでも細かい所を見ていくと修繕が必要な場所も多いのですよ。……入口はこちらになります」
 柔らかく微笑むクレア。行く手に見るからに硬く重そうな入口の扉が見えてくるが、クレアはその場を通り過ぎ、図書館裏手へと向かっていく。
「なるほど、勝手口って奴か」
 察しよく言葉を漏らした『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)にクレアは頷いて、苦笑する。
「表から入りたいところなのですが、グラオ・クローネのその日以外は絶対に開かない扉名もので、私達司書が入るための裏口になります」
 案内された図書館の裏手にはこれまた頑丈そうな扉があった。クレアは手にした鍵を鍵穴に差し込むと回す。硬い錠前が回る音がなると、両手に力を込めて扉を開いた。見るからに重そうだ。
「さすがに厳重なのね。侵入とかは……難しそうね」
「保管している物が物ですからね。防犯対策はしっかりさせてもらっています」
 日常的に魔導書を扱っているであろう『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)がディオーネ図書館に忍び込む方法を想像するも、クレアの言うようにセキュリティは厳しそうだ。重苦しい扉も、硬い錠前も仄かに魔力の気配を感じる。単純な鍵というわけではなさそうだった。
 中へと入ると、クレアと同じようなエプロン姿の二人の少女が待っていた。
「いらっしゃいませー」
「ようこそおいでくださいました」
 陽気に手を振る金髪ツインテールの少女はエリィ。その横で寡黙な雰囲気を湛える茶色ボブカットの少女がリィラだ。事前にクレアに聞かされていたようにクレアを含めた司書三人娘がイレギュラーズを出迎えた。
「それでは、早速廃棄書庫へご案内しますね」
「――と、その前に。ちょっと試しておきたいことがあるんだけど」
 『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)がクレアを制止し、今回の害虫退治の方法を説明する。その作戦を上手く機能させるのに一つ確かめておくことがあるのだ。
 廃棄図書とは言え、貴重な魔導書だ。クレアより本を巻き込まないようにお願いされていたイレギュラーズは、保護結界による保護を提案する。
「まあ、そのような方法があるのですか」
「それが安全に機能するか確かめておきたいの」
 チャロロと共に保護結界の用意をした『甘露』蜜姫(p3p000353)の言葉に司書の三人は頷いて。
「それならば傷つけても問題ない物がありますので、是非試して見てください」
 と、早速保護結界の効果を確かめることにするのだった。
 結果から言えば、保護結界は見事に機能し、図書館内における強力な攻撃は可能になったと言えるだろう。
 当然ながらその効果は無意識化における周辺環境への被害を無くす物だ。意図的な攻撃は避けるべきだと全員が理解した。
「素晴らしいの一言ですね。特異運命座標の方々にお願いして正解でした」
「ふふ、そう褒められると照れてしまうわね。――そうそう、あとコレも試したいのだけれど、大丈夫かしら?」
 『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が手製のラベンダー香水を取り出す。紙魚が嫌う匂いだというその香水を振りまいても問題ないか、確認した。
「良い香り。……そうですね香料や水分が本に影響あるかもしれませんが、廃棄書庫内に限れば使用しても問題ないでしょう」
 後世に渡り保管されていく本達だ。小さなこととは言えどのような影響が及ぼされるかはわからないものだ。ここはクレアの指示通り廃棄書庫内での使用に限定するべきだろう。
 そうして、結界の機能検証を終えた面々は、いよいよ問題の廃棄書庫へと移動する。
 図書館内を移動する最中、寡黙なリィラが腕を抱き身震いした。
「何か心配事? 大丈夫、私達に任せて欲しいのよー」
 気づいた『魔女見習い』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)がリィラに声を掛けると、リィラが小さく頷く。
「……はい。いえ、ありがとうございます。少し虹紙魚の姿を思い出してしまいまして……」
「言わないでリィラ。私も思い出しちゃうわ」
 クレアもリィラに釣られて身震いする。その様子を見るにやはり気色の悪い害虫の想像が頭を過ぎる。
「もう、二人とも怖がりすぎよ! ちょっと触覚がうねうねしてるけど、そんなに怖いかなぁ?」
 まだまだ幼さを見せるエリィは一人平気な様子だった。そう、子供の頃は虫を素手で捕まえられるものだよね、とイレギュラーズは思う。
 長い廊下の突き当たり。また現れた頑丈な扉の鍵が開く。
「私達はこちらで待機しております。何かあればお呼びください」
 クレアの言葉に頷いて、イレギュラーズの八名は重い扉を開き、廃棄書庫へと足を踏み入れる。
 静謐を湛える暗い書庫。耳を澄ませばどこからか聞こえてくる『カサ……カサ……』という震える音。
 耳にこびりつくその音は、生理的恐怖を呼び起こし、背筋を震わせる。
 ああ、いる。そう遠くない、この闇の先に。
 入口から入り込んだ光が闇を照らした。闇が輝いたように見えた。赤、黄、緑、青、紫……。虹が蠢いている。
「うじゃうじゃ居るな」
「さっ、それじゃ本を蝕む悪魔退治と洒落込みましょうか」
 リオネルと竜胆の言葉を合図に、魔力灯のスイッチに魔力が注ぎ込まれる。
 明滅する光と共に、室内に光が広がって――。
 うねうねと蠢く四本の触覚。書棚に張り付き本をなめ回すように溶かし喰らうその姿、まさに害をなす虫に他ならない。
 歴史在るディオーネ図書館、その廃棄書庫内で煌めく虹――虹紙魚掃討戦が始まった。

●紙魚シミレインボー!
「二人とも、保護結界、頼むぞ!」
「任された!」「なの」
 チャロロと蜜姫の二人が協調するように戦場となる廃棄書庫に保護結界を張る。
 ぼんやりとした魔力の光が書棚や魔導書達を包み込み、これを保護する。
 当然のことではあるが、虹紙魚達はそれに構うことなく本へと食らいついている。もしゃもしゃはみはみ、魔力の残滓の残る紙を美味そうに噛み付いていた。
「おっしゃ、こい!」
 装備をギフトによって体内に取り込んだリオネルが拳を握り構えると、近場の一匹を引きつけるために殴りつける。
 まずは相手の力量を測ること。そうして力量差を確認した上で引きつける数を増やしていくのだ。
 その考えは間違いのないものではある。あるのだが。
「うぉぉ!? 飛んできたぁ!?」
 敵意を向けられた虹紙魚が、あろう事か盛大に身をくねらせて、バネのようにリオネルの頭上から飛びかかる。
 想像して欲しい。六十センチメートルにも及ぶ巨大な昆虫が、長い虹色の触覚がうねうねと揺らしながら、細長い涙滴形の身体をくねらせて飛び込んでくるのだ。
 その生理的恐怖に、背筋に悪寒が走る。
 噛み付くような虹紙魚の反撃がリオネルの肌を切り裂く。だがリオネルは不滅の肉体をもつかのようにすぐさま傷を再生する。
「この分なら二、三体は抱えられそうだ。一気に行くぜ!」
 昆虫に名乗り口上というのもおかしな話だが、敵意を向ければ敏感に虹紙魚は反応する。餌である魔力籠もる紙から離れ、外的に対してその牙を振るう。
「その大きさで素早いっていうのも気持ち悪いわね。――その足、止めさせて貰うわ」
 ジルーシャの指先から魔性の茨が伸びる。絡め取るような茨に締め付けられ虹紙魚の動きが鈍くなっていった。
 動きを止めてしまえばこちらのものと、ジルーシャの遠術が虹紙魚に叩き込まれていく。痛みを受けた虹紙魚がひっくり返り身をくねらせ足をばたつかせるが、その動きもやはり気持ちが悪い物だ。
「ハーブの香りはやっぱり苦手みたいね」
 ジルーシャに近づこうとした虹紙魚がピタリと動きを止め間合いを計る動きを見せる。性質は違えどやはり紙魚ということか。ハーブの香水を振りまくと一歩後ずさる動きを見せた。
「ブロスフェルト流奥義! 本の角で殴るなのよー!」
 リーゼロッテが手にした暗黒の魔術書を用いた特殊な格闘術式で虹紙魚の体勢を崩していく。
 一応魔術ではあるが……魔女っぽいかは判断致しかねる。
 本を喰らう虫が本によって倒される姿は実に痛快だ。
「む、しぶといわ。トドメはしっかり入れて殲滅なのよー!」
 リーゼロッテの言うように、その薄い身体でありながら厚い甲羅をもつ虹紙魚は潰したと思ってもしぶとく動き出す。
 確実に動きを止めるまで、イレギュラーズはしっかりと攻撃を加えていった。
「魔道書を食べるなんて私からしたらこれ以上ない害虫なんだけど……。
 見た目も気持ち良いものじゃないし、手早く処分よ」
 エスラの魔力が戦闘能力ある蜘蛛を召喚する。虹紙魚の天敵が蜘蛛であるかは不明だが、呼び出された召喚物である蜘蛛が虹紙魚へと襲いかかり食らいつく。
「せっかく保護結界もあるし範囲攻撃……と行きたいけれど、習性的に得策じゃないわね」
 エスラの言うように虹紙魚の習性は問題だ。景気よく範囲攻撃を放てば効率よく倒すことは可能かもしれないが、倒しきれなかった場合や、影に潜んでいた虹紙魚を巻き込んだ場合、すぐに虹紙魚のターゲットが移り変わる。
 壁役を立てできる限り安全に進める今回の作戦には少々合致しない攻撃方法になるかもしれない。故に、エスラは単体攻撃による効率的な撃破を模索しながら、あれやこれやと手を変え攻撃を加えていった。
 それは最初こそ手間取る形となったが、徐々に効率を高め、素早い撃破へと繋がっていった。
「次はオイラが壁役だ! 害虫どもめ、これ以上貴重な資料を食い荒らすな! 竜胆さん!」
「任せて!」
 チャロロがリオネルに変わって虹紙魚を引きつけると同時、竜胆へと視線を這わせれば、竜胆が腰に溜めた業物を紫電の如く抜き放つ。
 鞘走りによって加速し迸る剣閃が、チャロロに群がり並ぶ虹紙魚を一閃の如く切り裂いた。
 しっかりと仲間と連携し周辺環境への被害が及ばぬように放たれた一撃は、虹紙魚だけを撃破することになる。
「次、行くわよ!」
「今のうちにチャロロさんを治療するの。壁役は交代してもらうの」
「次は私の番ですね! 本は食べるものじゃなくて、読むものですよ!」
 一匹ずつは大したことはないが、やはり数が多い。
 蜜姫が壁役の三人を支えるように回復し続けるが、一人で完全な回復ローテーションを組めるほど甘い相手ではない。
 狂気に陥らせる牙も厄介で、ジルーシャが適度に庇いながら精神耐性で耐えたりもしたが、蜜姫の治療の出番は多かった。
 とはいえ、敵意を向けなければ虹紙魚は大人しく魔導書にかぶりついている。その事が幸いし、ゆっくりではあるが、確実に倒していくことができた。
「……あ、あそこに居ました!」
 セレネが発光によって暗がりを照らせば、虹に輝く甲羅が目に入る。
 すぐさま壁役として攻撃をして引きつけて、仲間達の援護を待つ。作戦上確実に虹紙魚の攻撃を貰ってしまうことから、盾役の消耗は激しい。
 ローテーションしながら、廃棄書庫内を巡り、八割程度の虹紙魚を撃破した頃、盾役にも限界が訪れ、それぞれがパンドラに縋ることとなった。
 残る数はそう多くない。
 以降は盾役が戦闘不能にならないように気をつけながら、虹紙魚の掃討を続けて行く。
 エスラの持つ非戦スキルは存分に発揮され、効率的な虹紙魚の発見に繋がった。
 そうして一刻が過ぎようとした頃。
「これで」
「終わりよ!」
 エスラと竜胆の攻撃が、虹紙魚、最後の一匹に直撃し、その息の根を止める。
「ふぅ……終わったな」
「とっても疲れたの」
 一息ついて見渡せば、書庫内に転がる虹紙魚の死骸の山。
 虹色に輝くそれらは、一見すれば宝の山のようにも見えるが――ピクピクと動く足や触角が生々しい。
 不気味生物の死骸の横を通り過ぎながら、イレギュラーズ達は司書三人娘の待つ入口まで戻るのだった。

●斯くて本の平安は守られた
「お疲れ様でした」
 出迎えたクレアが頭を下げる。
「結構死骸が転がっちゃってるけど……平気かな?」
「うっ……そうですか。そうですよね」
 そう言って廃棄書庫内を恐る恐る覗き見る司書達。
「まぁ手早くかたづけちゃおうよ! もう動かないんだよね?」
「ええ、トドメはしっかり刺してあるわ」
 エリィの言葉にジルーシャが答える。返答を聞いたぱたぱたと音を立ててどこかへ向かうとすぐに箒を持って戻ってきた。
「大きいけど……掃けるよね?」
「掃ききれないのは運ぶしかないのよー……コロコロ転がして」
 ギフトで呼び出した箒を持って頑張るそぶりをみせるリーゼロッテだが、やはり死骸とはいえ大きな昆虫を掃除するのは嫌そうだ。
「それじゃ、ぱぱっとやってしまいましょう」
 竜胆の号令に合わせて全員が動き出す。入口側には搬出入用の通用口があった。そこに集めて外へと運び出せば終わりだ。
 夜も深くなってきた。
 通用口からでると涼しい風が吹き込む。
 死骸を処理する方法は様々あるだろうが、しばらくはこの外に置いておくしかないだろう。
 掃除をしながら司書の三人は廃棄図書の被害の状況も合わせて調べる。
 食害によって大きく損壊してしまったものが何冊かあったものの、概ね数ページの虫食い後が残る程度で収まっていた。
「皆さん、本当にありがとうございます。
 皆さんが迅速に対応してくれたお蔭で、大きな被害をだすことなく虹紙魚を退治することができました」
 クレアはイレギュラーズ達の働きを褒め、重ねて頭を下げた。
 率先して死骸を片付けていたエリィや、ようやくホッとしたような心持ちで戻ってきたリィラも倣うように頭を下げ、イレギュラーズ達にお礼を述べるのだった。
「まぁ礼はいいけどさ、やっぱり虫除けの手段は考えておいた方がいいと思うぜ」
 リオネルの言葉にクレア達も頷いて、
「そうですね。いろいろと対策を立ててみようと思います」
「ふふ、ハーブの香水で良かったらいつでも声を掛けて頂戴」
 ジルーシャが自身の香水を売り込み、クレアも「前向きに検討したいです」と明るく返した。
「そうだ、問題なければで構わないのだけれど、せっかくだし蔵書を読ませてもらいたいかなーって思うんだけど」
 竜胆の言葉に、クレア達は少し困り顔を見せる。
「うーん、そうですね。グラオ・クローネ以外での閲覧はいろいろ許可がいるのですが……廃棄書庫内のものであれば良いでしょう。ただ魔力を失いだしているとはいえ、曰く付きの魔導書も多いので、時間は短くお願いします」
「やった、ありがとう」
 そうして面々は短い時間ではあるが、廃棄書庫内の魔導書を開き目を通す。
 グラオ・クローネの時のような幻影が出るわけではないが、見てると意識を吸い込まれそうになる感覚を覚えたり、手にするだけで力が沸き立つような感覚を覚える。
 物によっては大変危険な力を持つ魔導書達。ディオーネ図書館が管理保管するのも頷ける話だと思った。
 イレギュラーズ達が閲覧している最中、司書の三人は明日の作業に手をつけていた。廃棄書庫の蔵書整理を始めていたのだ。
 手早く本の状態をチェックし、異常がないかを確かめていく。
 その手際の良さに、イレギュラーズ達は感心するのだった。
「眠っていたところ騒がせてごめんなさい、おやすみなさい」
 セレネが優しく本に語りかけ、書棚へと戻すのを最後に、短い閲覧が終わった。
 司書の三人も作業と止め、本日の依頼は無事完了となった。
「重ね重ね、本当にありがとうございました。
 噂の特異運命座標の方々にお願いできて本当によかったです。
 ぜひ、来年もグラオ・クローネの日にお越しくださいね。歓迎致します」
「いつでも遊びに……とは言えないけど、また来てねー」
「ありがとうございました」
「こちらこそ、今日はお疲れ様」
 斯くて静謐湛える図書館の保護すべき資産、貴重な魔導書の平安は守られたのだった。
 感謝する司書三人娘に見送られながら、イレギュラーズはディオーネ図書館を後にするのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。
依頼お疲れ様でした。詳細はリプレイをご確認ください。

引きつけ数が足らなかったり、索敵が不十分だった場合はだいぶ多くの本が食べられることになっていたでしょう。
その点はかなり良かったと思います。

グラオ・クローネ以外では入ることのできない図書館で魔導書をチラ見できて、貴重な経験になりましたね。

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