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シナリオ詳細

<奇病奇譚>忘絆病

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●<奇病奇譚>第三頁
 とある名医の手記。その手記は原因不明の病のみが綴られ、社会に広まることはなく、ただその病気の罹患者と医療従事者のみが知るものとなっていた。
 此度綴られるのは『忘絆病』。
 ただ誰かのことを忘れてしまう――それだけならば、良かったのだけれど。

 三頁目。
 症状の自覚:一ヶ月前(完治済)
 患者の症状:大切な人を嫌う
 上記より忘絆病と判断。忘絆病はどうしようもない。完治方法が非常に厄介かつ、そして、不愉快だ。
 如何せん原因が不明なため今回も薬を投与し経過を観察し、化学的なアプローチをかけていく他無いと考察する。

 四頁目。
 進行度:完治済のため未記載
 重症患者は大切だった相手を心から憎むようになる。理由は、わからないのに。
 治療方法:大切だった相手(現在は憎んでいる相手)が、死ぬ
 注意点:患者の精神崩壊の恐れあり

 脳というのは不思議なものだ。
 まだ未解明な臓器であるのもそうだけれど、大切だった誰かを恨むようになってしまうなんて、どうしてそんなことが起ころうか。
 大切だったひとを想うあまり壊れてしまったのだろうか。いずれにせよ、我々に出来ることはただ患者をケアすること。
 そうしていつの日か、また大切だった人を思い出せるようにサポートすること。
 どうしたって、お互いに傷付け合うだけなのは。医者以上に人間として、望めないのだ。


「大切な人のことがわからなくなるって、どんな気持ちなんだろう」
 きっとゼロ。空っぽになってしまう。
 これまでに積み重ねた思い出も。わかちあった幸せも。喜びも、悲しみも、約束も。
 そうして、ただ大切だった相手を。誰かを、憎んで、傷付けてしまうことしかできなくなるなんて。
「……苦しいだろうなあ」
 記憶が残った相手はどうして憎まれているのかわからない。ただ病気だ、と言われても、納得できるはずながない。思い詰めて死んでしまうのだろうか。たった一人の自分という傷跡を相手に大きく遺して。
 反対に、記憶を失った相手はどうして己が相手を憎んでいるのかもわからないのだろう。どうしてそうなっているのか。理解することも出来ず。ただ、相手が死ぬのを待つしか無い。
「まぁ、そんな病気を体感することが出来る依頼だよ。あまり感じたくはないけれど、そうすることで相手の大切さを改めて実感してみるのもいいよね」
 大切なあなたを忘れたくはない。
 誰かが遺した言葉。
 願わくば、大切なその誰かとの日々が、貴方にとって永遠になるように。

NMコメント

 記憶喪失のギフトに後頭部を殴られています。
 どうも染です。誰だこんな凶悪なギフトを考えたのは(自分)。

●目標/できること
 【A】忘絆病に罹患する
 【B】忘絆病患者に憎まれる

 のどちらかを選んでいただくことが可能です。

●【A】忘絆病に罹患する を選んだ場合
 貴方は大切なひとのことが憎くて憎くてたまらなくなります。
 どうしてなのかはわかりませんが、目に入れるのも嫌になります。
 嫌悪感に苛まれることもありません。ただただ嫌いになります。
 病院に通っているかどうかはおまかせします。病気だという自覚があるかもおまかせします。
 相手が死ぬまで相手の記憶を思い出すことは出来ません。

●【B】忘絆病患者に憎まれる を選んだ場合
 貴方は大切なひとから酷く憎まれます。
 病気だと知っていても、知らなくても大丈夫です。
 辛いです。
 最終的に自殺して頂いても構いませんが、死亡判定は付きません。
 その場合は良い感じの死亡描写を添えます。

●プレイングに記入をお願いしたいこと
 ・【A】or【B】の明記
 ・(あるようなら)グループタグ
 ・大切だった相手(IDでも、感情欄指定でも、関係者さんでも大丈夫です)

●<奇病奇譚>の世界観
 染が担当させて頂くライブノベルシリーズの一つです。
 混沌に似たどこか。混沌と同じように考えていただいて大丈夫です。
 混沌と違う点は、原因不明の奇病がうじゃうじゃとあるところ。
 <奇病奇譚>のタイトルがつけられています。

 以上となります。
 ご参加をお待ちしております。

  • <奇病奇譚>忘絆病完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年09月18日 22時15分
  • 参加人数6/6人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊

リプレイ


 どうして。彼の事がずっと、頭から離れないのだろう。
 くぁ、とあくびをした『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は伸びをして。今日はやけに脳裏にこべりついた誰かを思い出す。
(……憎い人な筈なのに、おかしい……よね?)
 きっと。ストレスが溜まっているのだろうと。そう結論付けて。
 今日は家にいるのを止めて、外にお出かけをしに行くことに。
 色々と考え込んでしまうから、少しでも気分が晴れる事を願って。
 おろしたての靴。
 お気に入りの服。
 それから、新しいネックレスなんかも。
 それなのに、どうしてこんなにも気分が晴れないのだろう。不愉快だ。
 街を歩いている途中で、仲睦まじく話を交わしている兄弟を見かけたのだけれど。
(自分にも、同じような存在がいた……気がする。でも、胸の奥がぐるぐるするから……きっと好きじゃなかったの、かな)
 ああ、きっとそうだ。
 その程度なのだ。
 でなければ、忘れない。

 賢かったから?
「アップルパイをひとつ」
 いい子だったから? 誰からも愛されていたから?
「それから、ミルクティーも。Sサイズ、アイスで」
 わからない。どうして、彼の事が憎いのか。
 カフェで、自分の好きなアップルパイを食べた。たしかここは美味しいと評判のはずなのに。
(……いつもより、味気ない……ような?)
 さく、さく、さく。
 ……シナモンの味が、つよいような。
 どうしてだろう。そんなこと、気にしたこともなかったのに。
「寂しい?」
 まさか。そんなわけ。


 彼と共に食べたいと願うのは、何故なんだろう。


 なんとなく、こんな気持ちで帰るわけには行かないような気がして。遠回りして、花畑へ。
 何処か懐かしく、苦しいと感じて。心が黒く塗りつぶされているような感覚に、思わず乱暴に花を踏み潰していく。

 なんども、なんども、執拗に。
(おれは……そう、確か……彼の事を殺そうとした」
 じわりと汁が漏れて汚く折れた花は。
(……いや、殺した)
 それでも尚白く輝いて。
(でもその人は、おれが首を絞めて息を止めようとしたのを──受け入れたんだ)
 だから、もう一度踏み潰してやった。

 何で。どうして。普通なら、拒んで逃げる筈でしょう?
(それなのに。笑って受け入れてた、なんて……おれは、憎しみ以外の感情を、彼に抱いてたの……かな)

 脳裏に重なる光景は。
 その掌に力を込めて、終わらせた日の出来事。

 例えば、×××××とか

 まさか。笑ってしまうじゃないか。


 小さな頃、お父様に『レイアの将来のお婿さんだ』なんて言われたことを思い出した。
 赤い髪の毛の狼みたいな金色の瞳の男の子。
 それは『青薔薇の御旗』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)の婚約者。
(今思い出せば怖いだけ。本当に怖い。なんでお父様はこの子と私を結婚させようとしたの?)
 それが政略結婚というものであるのならば仕方ないのだけれど。私はお父様と結婚したかったのに。大好きなお父様と、幸せに。
 けれど、今日も。彼は会いに来た。
「幼馴染だっただろ?」
「はい」
「俺と婚約者だっただろ?」
「ええ」
「ヤマトって呼んでただろ?」
「……」
 綺麗に微笑むだけのレイアに、ヤマトは苦い顔をして。
(馬鹿だなぁ。私が婚約したのは家やお父様の為。こうやって微笑んでおけば大体の男性って安心するはずなのに)

 ……どうして余計に不安な顔を貴方はするの?

 依頼だと彼を押しのけてレイアはローレットへと向かった。の、だが。
 ローレットで知り合った方達にも心配された。大好きなお父様にまで!
「婚約者とはどうしたの?」
「……婚約者? ルークさんのこと?」

 どうして、私はお父様の喜ぶ顔が見たかったのに、大好きな人はお父様だけなのに。

 ああ、そうか。そういうことか。

「ルークさんのせい?」

 乾いた笑みが溢れる。

「だってあの人私のことを見て『作り笑いはやめてくれ』だなんてすぐ見破ってきて、私はあの人と仲良くなれそうにないもの」
 結婚とか無理。私はやっぱりお父様と結婚するの。既成事実でも作ればいいのかしら。
 婚約破棄。もう、こうするしかない。
 手切れ金でもなんでも払ってやるから。

 紙切れ一枚でその関係は途絶えた。
 すっきりした。その筈なのに。

「…これで良かったのかしら。…どうして。私、泣いてるんだろう」

 後悔がないなんて、どうしていい切れていたのだろう。


 いつもどおりの朝。
 いつもどおりに寝返りを打って、布団から這い出てあくびをひとつ。『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)はうんと伸びをしながらカーテンを開けた。
「今日はなにをしようかな。ふふっ、たのしい気分でいっぱい。ねぇ、しーちゃ……あれ? あれ」
 しーちゃんって、誰だっけ。後ろを振り返れば『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が佇んでいた。
「だれ? 来ないで、いや!」
「カンちゃん、カンちゃんどうしちゃったの? 俺だよ、史之だよ」
 誰だかわからない。自室に居た男。恐怖でしかない。
 歯車は噛み合わない。
「とにかく行ってください、早く出ていってください。顔も見たくありません、放っておいてください!」
「おまえの従者だよ、おまえの夫だよ! カンちゃん、カンちゃん、」
「あなたが僕の従者だなんて認めません。ましてや夫だなんて身の毛がよだつ思いです。近づかないで、気安く呼ばないでください気持ち悪い」
「……睦月…どうして…ねえ病院行こう? いくらなんでもちょっとおかしいよ」
 取り乱す史之。睦月はふるふると首を横に振る。
「昨日まで俺のあとをくっついて回ってたじゃないか」
 せめて傷付けないようにとそっと手を伸ばした史之の手を払う。
「やめて触らないで! どこへ連れていくのですかこの人さらい!」
「……っ」
 せめて睦月が女体でよかった。史之が男である限り、彼女は史之から逃れられない。抱き上げられた睦月は史之に無理やり病院へと連れて行かれたのだった。
 おかしい、絶対におかしい。あんなに俺のことを好いてくれてたじゃないか。
 だからこそ信じたくなかった。

 忘絆病。もう二度と睦月が史之を思い出すことはない。ただひとつ、史之が死ぬことを除いては。
「忘絆病、そんな、そんな病が…どうしたら、どうしたら治るんですか!?」
「忘絆病? だからなんなのですか?」
「睦月…いまのおまえは……」
 そうか。
 あの頃の俺とそっくりだ。
 だから帰ろう。俺達の家へ。
「離して! 離してと言っています! 誰か助けて!」
「……」
「ねえ、どうして誰も助けてくれないんですか、この人、人さらいなんです、なんの関係もない人なんです! 誰か助けて!」
 声を張り上げる睦月。それは幼少よりの教育の賜物か。それを史之に振るっているのであれば、運命とはなんて残酷なのだろう。
「ごめんな睦月。俺、けなげでも一途でも優しくもないんだ」
 泣き出しそうな声で呟いた。睦月は振り向かない。
「おまえの恋心を十年以上踏みにじり続けてきた俺だよ」
 従者になったのはおまえの身を独り占めしたいがため。
 夫になったのはおまえの心を手に入れたいがため。
 おまえはけなげだからこんな俺へ想いを寄せ続けてくれていた。
 おまえは一途だから脇目も振らず俺を見つめ続けてくれていた。
 おまえは優しいからこんな俺でも包み込んでくれた。
 それなのに。いざこうして突き放されたら泣いてしまうだなんて、情けなくて仕方がない。
「根負けしたふりして、手のひら返してさ。永遠の愛を誓っちゃったりしてさ! ……そうだよ、エゴの塊だよ俺は」
「あなたが僕の夫で従者だというのは何度も聞きました。だからといってあなたの言うことなんか聞きません。いまさら思い出を掻き口説かれてもうっとおしいだけです」
 史之が震える。胸が痛い。ああ、どうして。
「ああもうあなたがそばにいるだけでイライラする。あなたさえ居なければいいのに。それが僕の正直な気持ちですよ」
「睦月……」
「ええ、ええ、神かけて僕はあなたを認めません。こんな指輪こうしてやります」
 窓を勢いよく開けた睦月は、薬指から指輪を抜き取って遠くへと放り投げる。
 あんなにも愛し合っていたのに。なのに。なのになのになのにどうして。

 だから

「許せない……病気だってわかっていても許せない……許さない」
「……っ、な、なにするんですか」


 一日でもいいから、僕より長生きして


「……その約束を叶えるのは、今みたいだね」


 切り伏せる。
 ただ、一刀で。
 眠るように死んで。それから、思い出せばいい。俺のことがどれだけ愛おしかったかを。
「俺はね、おまえのきれいな瞳も醜いはらわたも平等に愛してるんだ」
 空を舞った首を拾って口づける。
「これが俺の愛だよ、永遠に」
 さぁ、あとは。
 とろとろのシチューにして。一緒になろう。
 愛おしい睦月。どうか、永遠に傍にいよう。


 酷く、不快だった。
 その人の声も、姿も、視線も、何もかも。
 記憶を辿っても理由も原因も分からず、それでもただ、どうしようもない程の不快感と嫌悪だけが湧いて来る。
 傍から見ればただの可憐な車椅子の乙女。『ただひとつのオーロラ』ネーヴェ(p3p007199)は、違和感を覚えた。
「クラリウス、様?」
 どうして名前を知っているんだろう。
 不愉快だ。だから見ないようにして。聞かないようにして。
(……なのに、当たり前みたいな顔して、どうして僕の世界に入ってくるんだろう)
 不安げに揺れる赤い瞳。上塗りされていく感情の名前は『嫌悪』。
(……親しい間柄、な訳がない。だってこんなにも嫌いで憎くて仕方がないのに)
 足早に去っていく彼を、遠くから追いかける。
「わたくし、なにか…悪いことを、してしまったかしら」
 だって、そうなら。謝らないといけないのに。こんなところに突っ立っているだけでは、いけないのに。
 車椅子を自分で押して。追いかけた。

 彼女を見ていると、胸の中にある空虚な気持ちまで掘り起こされる。それがシャルティエの所感だった。
 当たり前にあった物が跡形もなく消えたような、大好きだった筈の暖かさが思い出せないような、虚しくて冷たい感覚。
 ぽっかりと空いた穴にはどんなパーツもはまらない。
(……彼女には何も関係が無い筈なのに。何でこんな気持ちだけ思い出すんだろう)
 白くて長い髪。細い腕。きっと無いのであろうその両足。守りたい なんて 思って居られない 気持ちが悪い。
 首を横に振る。それは存在の否定だ。
 だから。視界にまたネーヴェが映った時。シャルティエの顔に浮かんだのは、恐怖だった。
 びく、と。その肩を震わせて、遠くへとかけていく。

 もう一度手を伸ばそうだなんて、思えるわけがない。
 自分自身が憂いになると言うのなら――答えなど、決まっているでは、ないか。

 どこか遠くへ。貴方に、見つからないような場所まで。
 荷物はいいか。忘れたものはないか。貴方の目に映りはしないか。
 忘れてしまえば、以前と同じ生活に、戻るはず。ただそこに、わたくしが、いないだけ。
 きっとそれがいいのだと。
(大丈夫。いつかの流れ星に、願ったことを…もう一度、願うだけ。
 わたくしはそこに、いなくていい。どうか、どうか――貴方に、幸あれかしと)
 夜の色。月と星の瞳。ふわふわの雲よりも柔らかい笑顔。
 ネーヴェさん、と。慈しみを込めて呼ばれる音。きっと、二度と響くことはなく。他の誰かに向けられるのだろう。
 それは。ひどくつめたくて、くるしくて、かなしい。
 届かなくていいから。叶わなくていいから。
「想うことだけは、……許して、ください」
 昼が来れば夜が来る。それだけで貴方を想ってしまう自分に。貴方を忘れるなんて選択肢は、なかったの。

「……あ、髪紐が切れちゃったな。仕方ないか、貰ってから結構長く使ってた……から……――あれ?」
 マジックで消したかのように。誰かの笑顔が思い出せない。
(この金糸混じりの髪紐、誰から貰ったんだったっけ。自分で買った覚え無いし、誰かから貰ったのは確かだけど……思い出せない)
 きっと大切な人からもらったはずなのに。
 自宅に飾っている小さな赤い花は、どうして買ったのだったか。……こんなにも、愛おしいのに。解らない。
 ただ、せめて。贈り主だけは思い出せたなら良いのにと、ぷっくり膨らんだ赤い花弁を撫でた。

成否

成功

状態異常

なし

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