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シナリオ詳細

回れコーヒーミル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ノックノックというお店
 とある繁華街の片隅に、喫茶店がある。
 アンティークな家具、木製の装飾の数々。なにより名物の風味豊かなコーヒーは、落ち着いた気分に浸れるという事で、知る人ぞ知る逸品となっていた。
 名物はそれだけではない。それはカウンター奥にあるコーヒーミルである。見た目は普通のように見えるのだが――ハンドルがない。ではどうやって回すのか。
 叩くのである。
 上部にある台のようなものに衝撃を与えると、ミルが動いて豆を粉砕する。粉砕した後に粉受けに落ちたりするのは、通常のコーヒーミルと一緒。“叩けば回る”。練達出身だという店主の祖父が開発した、これでいてなかなか頼りになる相棒である。
 さて、そんな不思議なミルが名物の喫茶店だが、ちょっとした悩みを抱えていた。


●クルクル回せ
「“ノックノック”って店は知ってる?」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はそう切り出した。簡単な地図を書き、イレギュラーズ一同に見せる。ギルドからは少し遠いが、賑わいのある繁華街の傍だ。
「そこにはね、ちょっと面白い仕掛けのコーヒーミルがあって…雰囲気も良いから、それなりに繁盛しているのよ。でもね、いまちょっとお困りみたいなの」
 ふう、と艶やかな唇に溜息を灯すプルー。
「何でも、今度とある貴族の方が“今年も半分を過ぎた記念お茶会”というのを店で開きたいらしくて、貸し切りにしたんですって。で、美味しいと有名なコーヒーを百杯近く用意しなきゃいけないらしいの。茶菓子やご飯の用意は出来るみたいなんだけど、豆を挽くのに人手が必要って事で、ローレットに声が掛かったという訳」
 大体の概要はつかめたが、面白い仕掛けとは?
 集まった者の一人が問うと、プルーは目を細めて笑った。
「ミルって大体、回して豆を挽くでしょう? そこのコーヒーミルはね、ハンドルがなくて…叩くと回るんですって。だから私たちに……という訳でもないでしょうけど。何でも良いから衝撃を与えると、豆を挽いてくれるらしいわ」
 今までどんな強い衝撃を与えても壊れなかったらしいから、安心して叩いてきていいわよ。
 そう言って、他に質問はないかとプルーは周囲を見回した。

GMコメント

豆から挽いたコーヒーを飲んでみたい。
奇古譚です。

●目的
 コーヒー300杯分の豆を挽け

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●立地
 繁華街の傍、少し静まった場所にある喫茶店「ノックノック」。
 ノスタルジックな雰囲気で、知ってる人は知ってる名店。
 店名はいわずもがな名物のミルから来ています。
 依頼の日は貸し切り準備のため臨時閉店にしてくれています。

●エネミー
 コーヒーミルx1

 APを消費して行う行動を受けると豆を挽きます。
 壊れることはありません。
 基本的にAPを10で割った分だけ豆が挽けます。
 列攻撃の場合、この分x2の豆が挽けます。べんり!
 使用する攻撃に制限はありませんし、壊れません。
 持ってるけど使ってないなー、という技を使ってみるのはいかがでしょうか。

●その他
 AP計算に気をつけて下さい。
 考えなしに列や強い攻撃を行うと直ぐにAPが切れてしまいますが、休憩や充填スキルなどでAPを回復する事は出来ます。
 いかにローテーションを組むかがカギです。
 丸一日かけるつもりでがんばりましょう。

頑張ったらコーヒーをご馳走して貰えるかもしれませんね。
では、いってらっしゃい。

  • 回れコーヒーミル完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年09月05日 20時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
秋田 瑞穂(p3p005420)
田の神
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

リプレイ

●徒歩五分
「とはいうが……何で“殴ると回る”って仕様にしたのかね、開発者はよ?」
「錬達の発明品ってそうだよね。なんか、変な物……いやいや、面白い物しか見た事ないや……」
 不思議そうに呟くのは『任侠』亘理 義弘(p3p000398)。何かを悟ったように応えるのは『絆の手紙』ニーニア・リーカー(p3p002058)。イレギュラーズは喫茶店“ノックノック”までの道すがら、あれやこれやと作戦を練っていた。
「どこから“叩く”のラインになるのかにもよりますが……わたくしは召喚でゴールデンなレオンくん人形を落としたり…色々試してみる価値はありそうですわね。ミル様の好みにもよりますが」
「そうねぇ~。私達も休憩の方法を色々試してみましょう~? ジンとか、ウォッカとかぁ、ワインとか色々ぉ」
「……いや、それは全て酒類じゃないか?」
 色々とギリギリなラインを攻めてくるのは『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)。一方で既に休憩の事を考えているのは『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)が指摘しながらも思わず視線をやった、アーリアの荷物。がっちゃがっちゃビンの音がするのはきっと気のせいではないだろう。だって向こうは喫茶店だからね、お酒置いてるか判らないし。仕方ないね。
「わしは酒が飲めぬからの。コーヒーを飲んでみたいのじゃ。美味いのかのう」
 『田の神』秋田 瑞穂(p3p005420)が尻尾をぴょこぴょこさせながら、すんすんと鼻を鳴らす。珈琲の香りがしないかと確認しているのだ。元いた国に近い農牧ライフを楽しむ彼女にとって、コーヒーや酒類といった娯楽品は珍しいのかもしれない。
「オーッホッホッホッホッ! コーヒーにも色々とありましてよ! 甘いもの! 苦いもの! 僅かに酸味を感じるもの! ちなみにわたくしは苦いのは苦手ですわ!」
 で、出たー! ゴージャスなポーズをとっているのは『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)様だ! 昼なのに既にキラキラしている。彼女が歩くのはもちろん先頭である。道筋は覚えている、問題ない。
 そしてひっそりと義弘がタントのキラキラで煙草の火をつけていた。このキラキラ、当たり判定がある。不思議。
「あ! そろそろつくみたいだね♪ コーヒーの香りがしてきたよ!」
 『見習いパティシエ』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)がうきうきと指さす。その頃には誰しもに判るほど、香ばしい香りが漂っていた。
 アンティークな雰囲気の入り口、ドアにかけられた「本日閉店」の札。
 そう、ここがノックノックである。


「お邪魔! いたしますわ!」
「はい、今日は宜しくお願いします」
 扉の前で待っていると、初老の男性がイレギュラーズを出迎えた。上品な所作で礼をする彼が、このノックノックのマスターである。他にバイトが二名ほどいるらしいが、今日は休みということだ。
「それで、コーヒーミル様はどちらに?」
「はい。此処に」
 エリザベスの問いに、マスターがカウンターテーブルを示す。そこは綺麗に片付けられて、真ん中にででん、と大きなミルがあった。
「おーっほっほっほっほ! これが例のミルですわね!」
「見た目は普通のミルとそんなに違わないのねぇ」
「だがハンドルがねえな。ぶん殴ってどうぞって雰囲気だが」
「ミル様自身もそのように思っておられますわね」
「ほー。これがコーヒーミルというものか! わし、初めて見たのじゃ!」
「ほんとはね、一番上にくるくる回すハンドルがついてるんだよ」
「でもまっ平らだ。つまりここを叩けって事かな」
 叩くコーヒーミルに皆が興味津々。それを見ていたミルキィだったが、マスターがすっと奥へ向かったを見かけ、ついていく。
 そこには――
「う、わぁ……! すごい量!」
「はは、さすがに三百杯ですからね」
 豆の袋の山、山、山! 独特の香りとその量に圧倒されていたミルキィだったが、はっと我に返る。
「あっ、ボクも手伝うよ! 豆を運ぶんでしょ? 豆がないと始まらないもんね☆」
「ええ、そうです。良かったらお願いします」
「はーい☆ よい、しょ……! や、やっぱり重いなぁ!」
 豆といえども、両手に抱えるような袋一杯に詰まっていればとんでもない重さになる。袋を破いてしまわないように慎重に、マスターと一緒にまずは一袋運ぶミルキィ。
 カウンターまでえっちらおっちら戻ってくると、丁度そこではエリザベスが台座を固定し、ラダがミルに一発入れているところだった。
 うぃーん……がりがりがり……
 ミルが衝撃を受けて動く音がする。何人かがおお、と声を上げた。
「!? ら、ラダちゃん!? どうしたの!?」
「戻ってきましたわね! どうもなにも、勿論! 性能確認ですわ!」
「うん。これから色々やるんだから、一応確認しておこうと思って。でも大丈夫そうだ」
「お、豆を持ってきたのか。言ってくれりゃ代わったのによ」
「そうだよ、僕も手伝えるよ。荷物運びは郵便屋さんの得意分野だからね」
「じゃあ次からはお願いしよっかな☆ なにせいっぱいあるからね!」
 新しい煙草に火を付けながら、義弘が言う。続いてニーニアが。ミルキィは正直に桶は桶屋と認め、甘える事にした。豆運びで疲れてしまって、肝心のミル叩きに支障が出てはいけない。
 アーリアは持ってきた大荷物をテーブルに置き、瑞穂は何やら準備体操をしている。
「では参りましょうか! わたくしのきらめきを一日かけて皆さんにお見せするまたとない機会ですわ! そう! このわたくし!」
 ぱちんっ。タントが優雅に指を鳴らせば! どこからともなく聞こえる鼓舞の声!

\きらめけ!/\ぼくらの!/
\\\タント様!///

「――の、ショータイムですわー!」

 いま、激闘が始まる……!!


●がりがり回せ
 まず最初に可能性潰しとして「複数の攻撃を受けるとどうなるのか」を試してみたイレギュラーズだったが、四人程度で一斉に仕掛けても、おおよそ一人の攻撃分しか豆は挽かれなかった。さすが錬達、訳が分からないハイテクノロジーである。
 という訳で当初の予定通り、一人ずつがローテーションする事になった。瞑想など回復の手段を持つ者もいるので、回復した者から順次というばらばらな順番ではあるが。順番を待つ者たちは喫茶店で思い思いの席に座り、己の番を待ちつつ見学している。

「オラァ!……ざっとこんなもんか」
 衝撃の余韻が店内に響き渡る。クラッシュホーンの重撃を二桁数えるまで撃ち放ち、義弘はそこで休憩が必要だと悟った。ミルがごとごとと左右に僅か動き、粉受けに挽かれた豆が落ちていく。スプーンを持ったマスターが手慣れた動作でそれを救い、瓶に入れた。
「次は誰だ?」
「私だね。みんな、少し離れていて欲しい」
 ラダが席から立ち、ミルの前に移動する。貫通などの攻撃を考慮して、誰もミルの直線上に立たないようにしていたが、ラダの指示に各々が距離をとる。
「連撃だとどうなるのかな。という訳で……よいしょ」
 店内に、およそ戦場かと思わんばかりの音が響く。ラダのハニーコムガトリング。ハチの巣にするぞと言わんばかりの弾幕がミルを包み、もうもうと煙幕が立ち込めた。
「……ちょっと硝煙臭いかも」
「換気を致しましょう」
 エリザベスが窓を開ける。終わりそうな夏を思わせる、僅かに涼しい風が室内に入ってくる。
 さて、ミルの様子はどうだろうか。見ていると、ミル自体はあちこちに疵を作りながらも無事のようだった。左右に揺れ、無機質な音を立てて豆を挽く。その量はさして多くはない。
「連撃も駄目か。錬達は割とケチだな」
「はーい! 次はボク!」
 ラダが次を問う前にミルキィが手を上げ、食べていたおやつを一気に頬張ると席を立つ。
「よーし、頑張るぞっ! 新品ぴかぴかになーれっ☆」
 ミルキィのエンゼルフォローにより、ミルが癒される。うぃーん、ごとごとごと。まるでお礼をいうかのように、ミルが豆を挽く音がする。
「すごいね、回復でも豆を挽くんだ!」
「私も初めて見ました。今まではハンマーで…こう、ごつんとやっていたものですから。流石です」
「えへへー、そんなに言われると照れちゃうな☆」
 豆の準備と回収をしているマスターがしみじみという。照れたミルキィが片手でエンゼルフォローを撃ちまくる。大丈夫。単純計算で15回は撃てるから。
「ミル様もまだいけるとおっしゃっております。寧ろその程度か? とイキっておられますわね」
「おーっほっほっほっほ! 上等ですわ! ミルが悲鳴を上げるまで叩きに叩いて差し上げますわー!」
「あ、じゃあ交代しよっか☆ ボクもちょっと休憩~!」
 アイマスクをつけて休憩中のエリザベスが無機疎通でミルの思いを大まかに伝えると、上等だとタントが笑った。ミルキィと交代して、ミルの前に立つ。
「そう、わたくしの体力の続く限り働(きらめ)きますわよ! そーれ!」
 タントがエクセレントでファビュラスなポーズを取ると、不思議なオーラがミルに降り注ぐ。心なしか豆を零したりしなくなったような、そんな気がする。
「この調子で行きますわよ! エンゼルタント様フォロー! タント様の抱擁!」
「きゃぁー! きらめけ、タント様ぁ~!」
「声援が聞こえますわ! これはますます輝かなければなりませんわね!!」
 もうなんというかキラッキラしてて攻撃してるのでは? と思われるだろうが、彼女が使っている技は全て回復と支援である。しかし当たり判定を持つキラキラが時々ミルに当たっているので、傷付けてるのか癒しているのかちょっと判らない。
「見てるだけで賑やかねぇ~。こういう依頼は楽しいわぁ」
「たまには悪くねえ。邪魔するぜ」
「あら、どうぞぉ~」
 タントに声援を飛ばしたアーリアが酒をグラスに注ぎながら呟くと、前の席に座った者がいる。義弘だ。並ぶアーリアの酒を見て、判ってるじゃねえか、と口端を上げた。
「屋台でホットドッグを買ってきた。いるか?」
「いただくわぁ~! みんな~、ホットドッグよ~!」
「わー! ホットドッグ! 食べたい!」
「ホットドッグもよいが、わしも酒飲みたいのじゃ。駄目かの?」
「駄目だ。見た目が未成年だろうが」
「そうだよ瑞穂ちゃん。ジュースも用意して貰ってるからそれ飲もう?」
「むむむ。まあ確かに、いまは酒より甘味の気分じゃ。……ほんとじゃぞ」
「あっ、ホットドッグ! ボクにもちょうだい☆」
「あ、わたしもお弁当作って来たんだったわぁ。みんなで食べましょう~」
 机を動かして、八人が座れるスペースを作る。アーリアのお弁当と酒類、ミルキィのお菓子とお茶、義弘が買って来たほかほかのホットドッグ。休憩には十分な物品が揃っているように思えた。そこでドアベルが鳴り、外に出ていたラダが戻ってくる。
「いま戻ったよ……あれ、机が動いてる」
「そうなの、どうせだからお弁当とか、みんなでつまみやすいようにしたのよぉ」
「成る程。私もサイダーを買ってきた。いるひとはどうぞ。それから干した果物と、かぶっちゃうけどお菓子もある」
「サイダー! わしはそっちにしようかの」
「ふう。わたくしの次は……あら! まるでティーパーティーですわね! わたくしも! 勿論! 参加させて頂きますわ! オーッホッホッホッホ!」
「喉が渇きました。わたくし、お茶を一口頂いてから次に参ります」
 絶賛休憩中だったエリザベスがむっくり起き上がる。
 賑やかに任務は続く。


●回せ回せ
「ローレットチャンス!」
 ぴこーん、とエリザベスが金色のハンマーでミルを叩く。
 うぃーん、がりがりがり……とミルの反応は変わらないのだが、エリザベスは何処か満足そうだ。
「ミル様はこういう方がお好きですか? 成る程……」
「エリザベスさん、ミルは大丈夫かな。疲れてるとかそういうのは感じる?」
「いいえ。疲れている様子は感じられませんが……」
 ニーニアの問いに、エリザベスの視線が窓に向く。つられて場にいる面々の視線も自然に窓へ向かう。
「だいぶローテーションしたわねぇ。何週したかもう思い出せないわぁ」
「わしもじゃ。稲光が瞼に焼き付いて……」
 しみじみと言うアーリアと瑞穂。瑞穂は主にライトニングでミルを回していたため、その残光が焼き付いてしまったのだろう。
 ぼんやりと椅子に座り、サイダーを飲んでいたラダが口を開いた。
「多分、あとちょっとだと思うんだけど……マスターは、あとどれくらいか覚えている?」
「勿論です。あとお一方かお二方で十分な量が挽けると思いますよ」
「そっか。……だって、皆」
「あとちょっとだね☆ どうせだからちょっと余らせて、試飲させて貰えないかな~? ついでにちょっとお茶菓子とか…えへへ」
「ええ、勿論です。お茶菓子は作り置きのもので良ければございます」
「よし、じゃああとちょっとだね。頑張ろう! 次は僕がいくよ」

「ミル君も頑張ってるみたいだけど、あとちょっと……!」
 ニーニアのヴェノムクラウドがミルを包み、その刺激を受けてミルがごとごと動く。マスクをしたマスターがもう何度目か、挽いた豆をスプーンで掬って袋に入れる。
 カウンター裏では、大きな豆の袋よりも、挽いた豆を煎れた目の細かい袋の方が多くなっていた。
「あとおひとり様で十分かと思います」
「じゃあ私がいくわねぇ。終わったらお茶にしましょう~」
 アーリアが席を立ち、ニーニアとバトンタッチ。ミルの前に立ったが、少しの間何もせずに黙していた。
「……あら。うふふ、そうなのねぇ」
 僅かに呟くと、両手の間で魔力を練る。これが最後だ。豆まで凍るような、ありったけの一撃を――
「いくわよぉ……!」


●のーんでのんでのんで
「……三百と、皆様の分と、少し余り。はい、十分です。お疲れ様でした」
「やったー!」
 袋を数えていたマスターが、微笑みながら顔を上げた。上がる歓声。
「オーッホッホッホッホッ! では! 頂きましょうか! コーヒーを! それはまさしく勝利の味! ですわね!」
「そうだね。ある意味私たちはコーヒー豆に勝ったといえる。強敵だった」
「コーヒーはどれくらいで出来上がるのかの? すぐ出来るのかのう」
「八人分ですから、そう時間はかからないでしょう。……少なくとも、豆をひいた時間よりは短いはず」
 わいわいと、解放されたかのように明るく話し合うイレギュラーズ達。あの攻撃はすごかった、この技のコツはどうだなどと談笑していると、香ばしく暖かな香りが漂ってくる。
「あ、この香りよぉ。通りがかりによくしていたのよねぇ」
「来るときよりも数倍強い香りじゃ」
「俺はミルをぶん殴っただけだが――それがこのコーヒーになると思うと、妙な気持ちだな。お貴族様がパーティー会場に使いたいと思うのも判らんでもない」
「そういえばそうだったね。ミルを叩く事だけ考えてたから、忘れちゃってた」
「お待たせいたしました。ノックノック……いえ。イレギュラーズ様特製、コーヒーでございます」
 各々の前に、真っ黒なコーヒーが置かれる。続けてミルク壺が幾つかと、角砂糖を湛えた瓶が一つ。
 一層強くなった香り。間違いなく美味しいと思わせる不思議な説得力を持ったその香りは、八人のイレギュラーズに感嘆の溜息をつかせた。
「豆の特性としては少し酸味のきいたものとなっております」
「ありがとう、マスターさん」
「素晴らしい香りですわ! これがノックノックの! いえ、わたくしたちローレットの! コーヒーなのですわね! では取り敢えず、乾杯致しましょう! コーヒーが零れない程度に!」
「そうじゃの。お仕事お疲れ、的な感じじゃな」
 では、乾杯。
 各々がカップを持ち上げて、……まずはブラックで一口。苦みの中にわずかな酸味、後味はすっきりとして……
「……おいしい」
「よかった、毒がきいていたらどうしようかと思った」
「……苦いような、……なんじゃろ、……なんといえばいいのかのう? 酸味というから梅のようなすっぱさを想像しておったが、少し違うのじゃな」
 瑞穂は右に左に首を傾げている。年齢を重ねたからか、苦みは平気だが――酸味がどうやら珍しいようだ。何度もちびちびと口をつけ、確かめている。
「わたくしはやっぱり苦いのは苦手ですわね! 勿論美味しくないという意味ではありませんが、ミルクと砂糖をたっぷり入れますわ! 失礼致しますわね!」
「あ、僕もミルク入れよう。色が綺麗なんだよね」
「おお、ミルク! わしも入れてみたいのじゃ、回してほしいのじゃ」
 微笑みながらその様を見つめ、お茶菓子を取りに行こうとしたマスターを、アーリアが不意に呼び止めた。
「あのね、さっきミルが言ってたのよぉ。このお店がずっと続けばいいなって。……そんな優しい気持ちを感じたわぁ」
 それだけ、お伝えしておきたくって。
 ウィンクしたアーリアに、少し目を丸くしていたマスターだったが……やがて気恥ずかしく微笑むと、ありがとうございます、と一礼し、お茶菓子を取りにカウンター裏へ戻って行った。

 ぽこんと叩いて、豆を挽いて。
 おいしいと笑ってくれるなら。
 ミルは無機質に、けれど優しく、夕暮の茶会を見守っている。
 そしてこれからも、喫茶店ノックノックを、見守り続ける。

成否

成功

MVP

エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
皆さま素敵なプレイングで、わちゃわちゃさせるのがとても楽しかったです。
MVPはエリザベスさんに、称号を亘理さんにお送りしております。ご確認下さい。
コーヒーの酸味にいつも首を傾げているのは、実は私の方だったり。
ご参加ありがとうございました!

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