PandoraPartyProject

シナリオ詳細

厄介事なら任せなさい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ここは港町ローリンローリン。
 海に面した小さなカジノのある町。
 領主はアッテンボロー伯爵。趣味はギャンブル。朝も昼もカード三昧。政務を終えたらカジノで豪遊。なに、カジノを作ったのも経営しているのも彼なのだ。彼が好きにして何が悪かろう。
 と、思っていたら……。

「観光資源、かね」
「そうです、アッテンボロー様」
 ある金曜日の昼、ご機嫌伺いにやってきた孤児院の運営者、シスターイザベラは茶目っ気たっぷりにこう言った。
「せっかくカジノを作ったのですもの。これを大々的に宣伝してこの町の観光名所にするというのはいかがでしょう。民は潤いますし、税収も増えます。もちろん伯爵の財布も分厚くなります」
 ついでに我が孤児院への寄付も増えると嬉しいのですけれど。などと彼女は微笑んだ。
「たしかに先日イレギュラーズに試遊してもらったところ盛況だったな。そうか、ふむ……私はギャンブルがしたかっただけだったのだが。町の経営という観点から考えれば、金のなる木に変じるかもしれないな」
「ええ、私もそう思います。ですが……」
 趣味でぽんとカジノをたてるだけあって、伯爵にも悪い意味で幻想貴族らしいところがあった。つまり、民の生活をかえりみないという点が。
 ローリンローリンは穏やかそうに見えて治安の悪い街だ。盗みや強盗は日常茶飯事。マフィアが絡んでいないのが御の字といったところだろうか。貴族には見えない貧困格差が厳然としてこの町には存在している。
「町の中央にある広場はスリが多く集まっています。先日は私の預かる子がひとり巻き込まれかけました。もっともイレギュラーズのおかげで助かりましたが」
「ふむふむ、やはり難しいことはイレギュラーズの手を借りるのがよいということだな」
 アッテンボロー伯爵は何度もうなづいた。
「ところでそのスリ達についてなのですが、悪い噂を耳にしました」
「何かね。言ってみたまえ」
「スリ達を脅して、上納金を巻き上げるグループが最近できたそうです。このまま放っておけば治安がさらに乱れることになります」
「大事ではないか」
 伯爵はめんどくさそうに手を振った。
「これはもうイレギュラーズに任せるしかあるまい」

●ギルドにて
「こんにちは、わたくしはシスターイザベラと申します。本日はお願いがあってまいりました」
 椅子に座るよう促され、あなたは席についた。冷えたドリンクがやってくる。依頼主のおごりだろう。
「私の住む町ローリンローリンでは、今、スリ達を脅して上納金を巻き上げる犯罪グループが問題になっています。皆様にはどうか彼らを捕縛し、警邏へ引き渡していただきたいのです」
 そういうと彼女は資料を机の上に並べた。
「グループは4人。リンカー、ロック、ネビー、ブルーフ。全員元傭兵で、強さには定評があります。リンカーとロックのふたりはいわゆる前衛という存在で、ネビーとブルーフは術による攻撃や回復が使えるようです」
 彼女に縁のある浮浪者たちからの情報だ、確度は高い。彼らもこの犯罪グループに標的にされたことがあり、なけなしの有り金を奪われたことがあるそうだ。
「これがアジトの地図です」
 そう言って彼女は2階建ての建物の見取り図を出した。
「治安が悪化すれば、その直撃を受けるのは民の生活です。どうか人々に平和をもたらしてください」

GMコメント

目標
 四人組の捕縛

敵の詳細
リンカー
 でっぷり太った防御技術の高いタンクです。
 名乗り口上や大盾を使ったブロッキングバッシュをしかけてきます。
ロック
 細身の剣士です。絢爛舞刀による出血やカプリースダンスによる連続攻撃を狙ってきます。
ネビー
 長い髪をアップにした女です。
 マジックフラワーによる火炎や緑の抱擁を使ってきます。
ブルーフ
 隻眼の老人です。
 ライトヒールや焔式による火炎を使ってきます。
雑魚*20
 アジトにたむろしているスリやチンピラです。
 四人組に取り入るために戦いを仕掛けてきます。
 特別なスキルは使ってきません。こちらは生死不問。4~5人に分かれてアジトのあちこちに散らばっています。

ロケーション
 アジトの中では、狭い室内での戦いになります。レンジで言うなら近接までとお考えください。
 四人組がアジトのどこにいるかはわかっていません。
 2組くらいに分かれてアジト内を探索したほうが効率が良いでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 厄介事なら任せなさい完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月29日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
シラス(p3p004421)
竜剣
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
エゼル(p3p005168)
Semibarbaro
イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)
魔法少女魂
龍宮・巫女(p3p006441)
龍神の巫女

リプレイ


 細い道を登っていった先にある館の手前で、8人のイレギュラーズが突入の準備をしていた。なまぬるい風が汗ばんだ首筋を撫でていく。夏も終りに近いというのにいっこうに涼しくはならず、今夜も寝苦しさと戦うはめになりそうだ。特にこのローリンローリンは港町、潮風のはこぶ湿気が不快感へ拍車をかけている。
 こんな夜はみんな雨戸をおろしているのか、町は海へ沈んだように暗い。その闇の中で、伯爵の邸宅と併設のカジノだけが絢爛豪華な宝石じみていて。手帳に地図を書き込んでいた『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)は、あきれとあわれみの混じった溜息をついた。
(民の生活に直撃、な。町の雰囲気を見るとなるべくしてなった感が否めないがな)
 ものいいたげなオーカーの視線に感じるものがあったのか、『Semibarbaro』エゼル(p3p005168)は館を見上げた。酒でも飲んで馬鹿騒ぎをしているのか、ここまで喧騒が聞こえてくる。
(生きるために生きてた頃の私があの中にいる。したくないことだってしなきゃいけないときがあるよね。ひとりぼっちで、誰も頼れなかったあの頃……生き延びるためならスリでもなんでもした。できたら気絶させるだけですませたいな……)
『鳶指』シラス(p3p004421)は汗で濡れた顔をぬぐった。
(俺もスリだったからさ、今回の標的みたいな連中には散々世話になったぜ。でも恨んじゃいない。結局は強い奴の元に金が集まるように出来てるのさ。この街で言ったら、それはアッテンボロー伯爵じゃねえの? 本人が理解してるかどうかは別として)
 そこへふわりと一人の少女が舞い降りてきた。『魔法少女(物理)』イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)だ。上空から館の偵察をしていたようだ。魔法少女の戦いはもう始まっている。
「この館の裏手は崖だな。もし私が敵方の魔法少女なら、裏手へ追い詰められるのは避けるだろう。敵に魔法少女がいるかはわからない。そうであろうとなかろうと、全力投球あるのみだが。何かあった時の備えはあって損はないだろう」
「オーケイ、偵察ごくろうさま」
 シラスがそう言って使い魔のネズミを取り出す。細いシルエットにくりくりとした瞳が愛らしいネズミだった。
『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)がそれを受け取り、代わりに賢そうな濡れ羽色のカラスを渡す。
「……にしてもさあ、考えるの面倒くさいからわらわ達に回ってきたみたいな感が……。いやまあローレットは何でも屋だし、仕事くれるなら文句ないけどにゃ」
「そうそう。なーんかどっか……変な芝居臭さ感じるのは気のせいかねぇ……? ま、とりあえずは仕事仕事……ってな」
 ぐちったシュリエに続いて、『運を齎す?』天之空・ミーナ(p3p005003)が天を向いた。『龍神の巫女』龍宮・巫女(p3p006441)まで、かくりと首を横に倒す。
「はー…どこの世界でもスリだとかヤクザとかいるものなのねぇ……」
 落ち込んだのもつかの間、利き手をぐーにして天へ突き上げる。
「ま、いいわ。この世界での初仕事、張り切っていっちゃいましょ。ね、スペルヴィアちゃん」
 気安く声をかけられた『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)は集中をといた。
『これ以上は館にはいらないと無理だろう』
「ええ、十分よ。オーカー、地図を貸して、一階のリビングと角部屋に反応ありよ」
 自分も地図へ結果を書き込んで、スペルヴィアは館を見据えた。
「死なない程度に留めおくほうが、難しいのよねえ……ふふふ」


 抜き足差し足。
(忍び足ってね……)
 A班のミーナは聞き耳を立てつつ暗い廊下を忍び歩く。やがて、振り向いて小声を出した。
「まだ誰もいないよ、来て」
 距離をおいていたシュリエ、巫女、スペルヴィアがやってくる。斥候役のミーナが先行し、本隊の3人はあとから追う形だ。
 やがてリビングが近づいてきた。
「嗚呼、鼓動が聞こえる。神経網を弄り、全身を貫く音が」
 スペルヴィアがうっそりと微笑んだ。
「数は5人。残念、チンピラか。ん、あれ? これは……悲鳴?」
 驚いたミーナ、扉に手をかける。錠がおりていると知り、ワイズキーを使って扉をこじ開けた。暗い廊下へ一気にまぶしい光が溢れる。イレギュラーズたちは眼前に広がる光景に愕然とした。女が机に縛り付けられていた。その体には幾筋も赤い痕が走っている。真っ赤に染まったさるぐつわの底から必死の悲鳴が漏れ聞こえていた。邪魔が入るとは思っていなかったのだろう。チンピラたちは石像のように固まって、拷問部屋めいた風景は現実味を失っていた。
 最初に我に返ったのは巫女だった。超常に慣れた神ゆえの度胸だったのかは定かではない。床を蹴り、手近なチンピラへ一気に肉薄する。
「ダーメでしょ、そんなことしちゃ! レディには優しくって習わなかったのかしら?」
 強烈なボディブローに、そのチンピラは胃の中のものを吐き出しながら気絶した。
「まったく。こっちはなるべくヤサシクしてやろーとしてるのに」
「これは一発殴ってベンキョーさせてやらねばなるまいにゃ!」
 ミーナが女を拘束する縄をすばやく切り落とし、上着を着せてやる。
 同時にシュリエが台の上へ仁王立ちし、エーテルガトリングをぶっぱなした。
「さて、楽しくなってきたわね」
『やるべきことは疎かにしないようにな、我が契約者殿』
 神秘の攻撃が残ったチンピラを昏倒させる。
 一仕事終えたイレギュラーズたちは助け出した女性に聞き込みをした。彼女は街頭に立つ娼婦で、酔ったチンピラに絡まれ、この館へ連れ込まれたそうだ。
『参ったな、連れて行くには危険すぎる』
「ええ、そうね。あなた、町まで歩ける?」
「ええ、ええ……助けてくださってありがとう、御恩は忘れません」
 A班の四人は彼女を館の入り口まで送り出してやった。暗闇に溶け込む彼女の後ろ姿を見送り、シュリエがネズミをポケットから出す。
「あーあー、マイテスマイテス、こちらA班、今の所成果なしにゃ。そっちはどうにゃん?」

「あーあー、本日は晴天なり。ただいまチンピラと交戦真っ最中! 以上!」
 シラスがカラスへどなりかえし、威嚇術を放つ。狭い室内での交戦、だが連携がよくとれており、イレギュラーズたちはまたたくまにチンピラどもを蹴散らした。
 オーカーが気絶したチンピラのひとりに張り手を飛ばし、目覚めさせる。
「リンカーたちはどこにいる? 無理して答える必要はないぞ、だれかが有力なことを言ってくれれば助かるからな。それは別におまえでなくともいい」
 オーカーの脅しに震え上がったチンピラ。
「ひ、ひいい……言ったらみのがしてくれるか?」
「そうだな。おまえの態度次第ではあるがな」
「わ、わかったリンカーたちは……」
 その時だった。
 オーカーの超聴力が足音を捉えたのは。

 時を軽く遡ろう。
 二階の角部屋で、ソファに沈むようにして座り込んだ巨漢が、ゲップとともに酒瓶をテーブルへ置いた。
「さっきからドタバタとなんの音だ」
「またチンピラどもが騒いでるんじゃないか?」
 細身の男が応える。しかし隻眼の翁が席を立った。
「いや、どうも気になる。確かめてこよう」
「ブルーフのじいさんは相変わらず心配性だな」
「抜かせ。儂に言わせればのうのうとしているおまえらのほうが信じられんわい。生き延びたければ子鹿のように臆病になれというではないか」
 廊下へ出た彼は不自然に開ききった扉を見つけ、胸が騒いだ。人の話し声がする。
「そうだな。おまえの態度次第ではあるがな」
「わ、わかったリンカーたちは……」
 そこまで聞いてブルーフは踵を返した。


 2階の角部屋前に、イレギュラーズたちは全員集合した。
「ここが例の四人組の部屋だね」
 と、エゼル。
「妙に静かだな……」
 聞き耳をたてたミーナがつぶやく。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。見破ろうではないか」
 イリスがそう言い、ノブをまわした。ゆっくりと扉が押し開けられ……。
「レディースアンドジェントルマン! 愉快な夜へようこーそ!」
 開口一番、太った巨漢が堂々と口上を述べた。
「ッ! おまえがリンカーだな!」
 イリスの胸の内側が火でもついたように燃えだした。怒りという名の炎は対象を前に激しく燃えさかった。
 名乗り口上の洗礼を受けたイレギュラーズたち。抵抗しきったのはミーナとシラス、そしてオーカーとエゼルとスペルヴィア。
「待ちかねたぞ来訪者よ。その個性的な顔ぶれ、イレギュラーズだろう? 俺と丁々発止といこうじゃないか」
 リンカーの影から滑り出たロックが唇の端を吊り上げた。前へ出たオーカーがミラーシールドでロックの攻撃を受け流す。
「何故俺たちがくるのがわかった」
「なに、種を明かせば簡単なことさ。こちらにも斥候がいた。それだけの話だよ。君たちがチンピラつぶしをしているところを聞きつけたもんだから、用意して待っていただけさ」
「……チッ、そうかよ。大歓迎だな、うれしいぜ」
 守りの陣を自らに施し、オーカーはミラーシールドでロックを打ちのめそうとした。しかしするりとかわされ、ロックはまたリンカーの影に隠れる。
「その判断を後悔させてあげるわ」
『いいぞ我が契約者殿、実にいい』
 古代から伝わる呪いと神秘の陣の両方を活性化させたスペルヴィアが両手を前へ突き出した。彼女の体を走る神秘の力が両手の手のひらの間に集まり、ガラスがこすれあうような音を立てた。
「はっ!」
 リンカーの後ろのロックを狙うと、リンカーが横から入り込み、射線を塞ぐ。彼女の攻撃は盾を焦がすにとどまった。
「あのデブは邪魔ね。まずあいつをなんとかしないと」
『だがしかし後方から回復を受けている。リンカーだけに集中していると戦闘が長引くぞ』
「俺もそう思うぜ……!」
 後ろから援護をしていたシラスがしびれをきらし前に出た。片足を引いた半身の姿勢で片腕を掲げれば、そこへ真っ赤な野ばらが巻き付く。
「まずは邪魔な後衛からしとめる。これも戦のセオリーってやつなんだろ?」
 シラスが大きく手を振り下ろすと、野ばらが舞い散り、赤いトゲがネビーを襲った。
「あっづぁ! なんてことしてくれんのよこのクソガキ!」
 ネビーが回復の手をとめ、マジックフラワーを打ち返してきた。邪な法に則って咲く花は炎の花。シラスの足元へまとわりつき、いらだたせる。
「大丈夫? この程度のやつら相手に死んだら笑われちゃうよ」
 エゼルがライトヒールをシラスへかけた。淡い回復の光がエゼルの指先へ宿る。エゼルはそれでシラスの背中へ文字を書いた。彼女の故国の言葉で、祝福よあれ、と。シラスの全身が発光し、苦痛がいくぶんましになる。だが炎はじわじわとシラスの体力を削っていた。
「あーんまりのんびりしてると消耗戦でおだぶつ……なんてなー、あーこわいこわい」
 ミーナは独り言をつぶやき、そして。
「って、思わない? じーさん」
 目を疑うような素早さでブルーフの背後に回り込み、彼の喉首をかききった。かのように思えたがブルーフが自分のナイフを間へすべりこませ、薄皮一枚の被害に留める。
「やりおるのう、おぬし。全盛期の儂で勝負したかったぞ」
「お褒めに預かり光栄至極……ってな」
 皮肉を言うミーナもブルーフの焔式の直撃を受けていた。熱い。炎がゆらゆらと影を焦がす。
「私の出番ね」
 スペルヴィアがミーナの肩へ手を置く。じんわりとぬくもりが広がっていき、ミーナの傷が癒えていった。

「はあー! やっ! てやあっ!」
 巫女はリンカーへめがけ、何度も一刀両断を仕掛けていた。これが彼女の最強にして最上のスキル。どの一撃にも彼女の思いと戦意のすべてがこめられている。怒りが彼女をかきむしり、理性を奪おうとするたびに、リンカーを攻撃して耐える。どの道、怒りに支配されても同じことをするのだ。だったらまだぎりぎり正気のままでいるうちに。
「例え愚直だろうと、できることをやるだけなのよっ!」
 巫女の必死の思いをリンカーは下卑た笑いを浮かべながら盾で受け流す。だがその盾には度重なる攻撃で細かいひび割れが入っていた。
「わらわにとってはその防具もハリボテにゃー!」
 横から飛びついたシュリエが拳を振り上げる。破壊用の簡易術式が施された拳はそれだけで凶器だ。彼女の拳が黒く染まっているのはキルザライトの効果のためだ。その黒い拳で、兜の上からリンカーの頬を殴り抜ける。
「ごぁっ! 何してくれんだよ……」
 リンカーが首を激しく振り、目をこする。だがその暗闇は時の流れが解決してくれるのを待つしかない。
「うっとおしいやつだぜ」
「にゃはっ。ほめられたにゃーv」
 言葉とは裏腹にニヒルに笑い、挑発のポーズをとるシュリエ。その前へ躍り出たイリス。ひたとリンカーを見つめる。
「お前に魔法少女魂はあるか?」
「はあ? いきなり何言ってんだ?」
「お前に魔法少女魂はあるかとたずねている」
 イリスは数多の魔法少女を打ち砕いてきた呪詛の弓と、夢と希望を食らう刃とを打ち合わせる。
「魔法少女魂は魂に生える一本の木だ。時に小鳥を止まらせ、時に嵐に耐える。魔法少女魂を持つものは、例外なく魔法少女だ。答えろ、おまえは魔法少女魂を持っているか」
「わけがわからねえが、おまえが危ないやつだってのはわかった。仲間と一緒におねんねしな!」
 リンカーがその身に反した素早さで大盾をフルスイングさせた。渾身のブロッキングバッシュだ。当たればイリスと言えどただではすまない。しかし彼女はそれをかわそうともせずその身にくらわせた。
(やったか……?)
 石膏像のように直立しているイリス。その口元から一筋の血が流れ落ちた。
「よくわかった。おまえは魔法少女ではないようだ!」
 豪鬼のごとき眼光で吠える。リンカーが直撃を受けて床を転がり、ロックが巻き込まれて吹き飛ばされた。
「いまにゃ! リンカーに攻撃集中にゃん!」
 シュリエが、シラスが、エゼルが、一斉に威嚇術を降らせた。
「ふむ、相手が死にかけなら最後は任せましょうか」
『殺してしまっては元も子もないからな』
 静観モードに入るスペルヴィアの横から巫女とオーカーが体勢を崩したままのリンカーへ拳闘で殴りかかった。しばしの喧騒の後、リンカーは白目を剥き、泡を吹いて大の字に転がっていた。
「リンカーが!」
「なんてこったい、逃げるよアンタたち!」
 ネビーが背後の窓ガラスを割る。
「そちらは崖だ、かかったなアホが!」
 天井近くまで浮かび上がったイリスが急下降してネビーを蹴とばす。窓のさんに残ったガラス片が腹に突き刺さり、ネビーは今日一番の悲鳴を上げた。
 せめって一矢報いんと突っ込んできたロック。それこそはオーカーの思うツボだった。シールドバッシュを使ったラリアットがきれいに決まる。ロックはリンカーの隣でそろって大の字になるはめになった。
 残ったブルーフは獲物を投げ捨てた。降参の意思表示だ。
「最後まで抵抗するかと思ってたけど……意外と潔いね」
「……負けがわかっているのに抵抗しても仕方なかろう。特にイレギュラーズは人道主義だと聞いているしのう?」
 命まではとらないのだろう? と暗に告げ、ブルーフはにやりと笑った。シラスが肩をすくめて言う。
「もともとの目的があんたらの捕縛でチンピラは別腹だ。それに、依頼人のシスターは死体の山はお嫌いに思えたんでな」
「じいさん、面倒な隠し事は抜きにしようや。……誰かに頼まれて、上納金巻き上げとかやってたのか?」
 ブルーフは痛いところを突かれたように顔をしかめた。
「いかにもそのとおり。上納金の一部が儂らに入る契約だった」
「それで……こんなことし始めたの? それなりの強さがあるのなら、傭兵の道だけで稼げたはず。わざわざこんなヤクザまがいの事なんてやるより…まあ危険はあるだろうけども」
 巫女が困惑したように言う。
「なに、カネに目がくらんだのよ。生きるか死ぬかわからない報酬と、町のはみだしものをいじめて必ず手に入る金。臆病風に吹かれちまったのよ。儂らはな」
「アンタらは街のチンピラ共を仕切ってンだろ? 依頼人の望みはローリンローリンの平穏だ。協力を約束すれば牢屋行きは許してもらえるかもな」
 シラスの言葉にブルーフはかぶりを振った。
「いや、あのお方に逆らったならばこの町では生きていけん。おとなしく縛に付き、公的な庇護の傘下に入るしか道はない」
「あのお方って誰さ」
「ニュースソースは秘密でな」
 黙りこくるイレギュラーズたち。ねっとりした夜風が割れた窓から入り込んでいた。それはこの町の未来を予感させるようだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでした。
探索と戦闘のバランスがよいプレイングでした。
またのご利用をお待ちしております。

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