PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>商人の夢、私の夢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「それで、何の用だい?」
 威厳すら感じさせる女――カリーナ・サマラが話しかけてきた。
 ラダ・ジグリ(p3p000271)が彼女と向かい合う此処は、フェデリア島にある港湾労働者用の飲食店の一つだ。
「……あぁ、例の魔銃の件について、あんたに聞きたかったんだ」
 例の魔銃の件――それはラダが2度に渡って関わったある魔銃のこと。
 ある鍛冶師の手記が見つかったことに端を発したというある魔銃の探索依頼。
 本物の魔銃には至らないが、2度目では曰くありげな石板を見つけている。
「そうだね。もう2回も関わらせちまったんだ、知らせておくのが筋だね」
 そういうと、カリーナは懐から1冊の本を取り出した。
 かなり古めかしいその本を机の上に置いて再びコーヒーに口を付ける。
「それが例の手記さ。大昔のある鍛冶師が記した手記でね。
 賞金稼ぎが見つけた物を最初の砂の渦を突っ切った時に買い取っておいたのさ」
「……これが例の」
 一応の許可を得てからぺらり、ぺらりと中身を見てみれば、何やらよく分からない文字の羅列が複数。
 幾つかの場所には挿絵があり、一部には矢印も伸びているようだ。
「なるほどね。で? これの内容はおおよそ分かってるんだな?」
「そうだね……おおよそは知ってるよ。
 ……嬢ちゃんは自分のルーツと向き合ったことはあるかい?」
「ルーツ?」
 不意に話題が変わり、ラダは首を傾げながらもカリーナをみやる。
 彼女はどこか遠くを見るようにした後、小さな笑みを零した。
「言ってしまえばね、魔銃なんて探す暇あったら商会の船で交易をした方が儲けはいいんだよ」
 カリーナ率いるサマラ商会最大の特徴は砂上船――もっと言うなら、砂上船がもたらす圧倒的な『運搬量と速度』だ。
 如何に考古学的に重要とかあれど、採算の観点から考えれば魔銃の捜索なんていうのは商会の特徴と合致しがたいだろう。
「なら、どうしてあんたは魔銃なんて探してるんだ?」
「私のルーツはこの国だってのは知ってるかい? 私はね、海洋の商家の生まれなのさ。
 不思議だとは思わないかい? 海洋の商家に生まれてラサに嫁いだ私と、ジグリの家は遠縁にあたる。
 海洋の商家とラサの商家がいつどうやって遠縁になる? もちろん、無いってわけではないだろうさ。だとしてもだ」
「……あんたは自分の一族がどこで生まれたのか知りたいのか?」
「恥ずかしながらね……私ももう年だ。まだまだ現役を退かせてくれそうにはないけどね……
 自分のことを振り返りたい気持ちっていうのはあるのさ」
 そこまで言われれば、この手記がカリーナにとってのルーツに関係するのであろうことは理解できる。
「前回、嬢ちゃんに探してもらったあの海底都市。
 あれがまだ空に浮かんでいた頃、そこからラサに降り立った連中がいる。
 そいつらの一部がラサで鍛冶師を始めてね……そのままラサに溶け込んじまった。
 ある一部は、海の方へ海の方へ流れて行く浮遊島に危機感を覚えて海洋王国付近で地上に降りた」
「――あの海底都市は、アンタの先祖様にとっての故郷だとでも?」
 小さくこくりと頷いたカリーナが、ぼんやりと外の景色を眺め出す。
「うちで使ってる砂上船、あれの動力源はね企業秘密だ。
 誰にも言えない――というか、もう修理できるやつはほとんどいない。
 今はもう殆ど消えてしまった……あの島と一緒にね」
 企業秘密の動力源。その由来に、ラダは思わず目を見開いていた。
「さて、全部言っちまったわけだ。これで満足かい?」
「あ、あぁ……」
「それじゃあ――もっと関わってもらうよ」
 ――にやりと、カリーナが口角を上げて笑った。


「さぁて、そんなわけで『私』の商いに付き合ってもらうよ」
 微かにではあるが一人称を強調するようにしてそう言ったのは、気のせいではないのだろう。
 サマラ商会として――ではない、カリーナ・サマラとしての交渉か。
「私はカリーナ・サマラ。サマラ商会っていうラサの商会の会長をやっててね。
 うちの連中――サマラ商会と私の実家筋にあたる場所が正式に提携を結ぼうとしてる。
 ――んだけども、あんた達の方が分かってると思うが、この海域はめちゃくちゃだ」
 美丈夫が堂々と胸を張って言う。
「――で、今、うちの商会と海洋側の『私』の実家がこの近くで会合を開いてね。
 試しにうちの連中が遠洋航海に出た……んだけど、既定の時間を過ぎても戻って来やしない」
「……流石に逃げるわけはないか」
 ラダからの一応の質問に、カリーナは小さく頷いた。
「海洋側の連中が、サマラの商船が岩で出来たごつごつした島を占拠してるのを見つけたんだけどね。
 ――ただ、その中に『私』も私の実家も知らないやつを見かけたらしい。
 あれはちょうど――そう、あんたらが知るダガヌチってやつにも見えたらしいよ」
 淡々と情報を告げたカリーナは、そのままイレギュラーズを見渡すと。
「――こいつを、討伐してほしい。これは『私』の商売だ」
 その表情に僅かな怒りが見えたのは――きっと気のせいじゃないのだろう。

GMコメント

 さて、大変遅くなりました。
 カリーナ・サマラに関するシナリオとなります。
 それでは早速詳細をば。

●オーダー
【1】ダガヌチの討伐
【2】商会員鎮圧

●フィールドデータ
 非常に狭く、やたらとごつごつした岩で構成された小島とその周辺になります。
 どうも海面下に突起物のようになった岩がいくつも存在しているらしく、船のままで島までは到着できません。
 そのため、イレギュラーズ側は島の半径20m圏内まで近づいた後で海を渡って島に上陸する、
 島の外周から中距離以上のレンジでぶっ放すのどちらかの必要があります。
 逆に島を占拠する連中もイレギュラーズ側の船まで迫ってくることでしょう。

 なお、島への半径20m圏内は海判定ですが、竜宮の加護による強化の範囲に入っているようで移動には不便しなさそうです。



●エネミーデータ
・駄我奴子(ダガヌチ)
 邪神ダガンから生み出された泥です。
 ダガヌチは悪霊のような存在で、特に『竜宮幣に取りつき実体化します』。
 実体化したダガヌチは単体でも強い戦闘能力を持つほか、
『人や生物に取りつき、その欲望を増強させ、欲望に忠実に行動するように思考を塗り替えてしまいます』

 なおこの個体自体は飛行種を思わせる翼と羽毛を持っていますが、
 何故か下半身が鱗に覆われ、両腕からは泥が滴り続け、泥で出来たような銃を握り締めています。
 遠~超距離に魔弾をぶちまける戦闘スタイルと思われます。
 翼を持つことから、飛行能力を有する可能性があります。

 BSは不明ですが、その禍々しさから【毒】系列、【崩れ】系列、【足止】系列、【暗闇】などが考えられます。

・サマラ商会員×??
 カリーナ・サマラ率いるサマラ商会の構成員たちです。
 ダガヌチに憑りつかれ、『ラサへの帰還を望むほんのわずかな気持ち』を増幅させられて
 ボイコットを引き起こしているものと思われます。

 特殊で高度な移動手段を有するサマラ商会はジグリ商会と同様、
 ある程度自衛を求められるのかそこそこ強いです。

 不殺で気絶させるか、ダガヌチを倒せば解放されて正気に戻ると思われます。

 銃やカットラスなどを主体とした攻撃を行います。
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <竜想エリタージュ>商人の夢、私の夢完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月20日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海

リプレイ


「ふぅむ、望郷……
 まぁ、僕にはいまいちよくわかりませんが、そういうものを抱く人もいるんでしょうね。
 海に帰りたいと思うことは良くありますが、なんだかんだ水があればそれでいいかな、とも思ったりもしますし」
 のんびりとつぶやくのは『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)だ。
「陸の人は複雑なのか、僕がおかしいのか。
 判断に悩むところですが、そもそもその辺りは今回の依頼には関係ありませんし。
 気を引き締めるとしましょう」
 その視線の先で、けたり、とそれが笑った気がした。
「帰りたいと思う心。望郷の念か。
 それは海に出るものとして、必要不可欠なものだ。
 それが無くては、帰るための道しるべすら見失ってしまう」
 拳を作りながら、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は真っすぐに彼らを見据えた。
「故郷か……そうだね、普通は帰りたいものだよね、普通は……」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は微かな遠い目を向けた。
 史之にとっての故郷といえば、該当するのならどちらかと言えば『元いた世界』になるのだろうが。
(ろくな思い出ないんだよね……)
 思い返すのも億劫になりながら、目を閉じる。
 浮かぶのは混沌、特に海洋王国の景色。
「けど、第二の故郷ならある。だから、貴方達の気持ちも分かるつもりだよ」
 すらりと愛刀を抜きながら、真摯に目を向けた。
「帰郷の念ねぇ。記憶喪失のボクにはよくわからないや」
 首を傾げるのは『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)である。
「あ、でもでも、美咲さんと一緒に暮らしてる今の家に帰れなくなったら、それは絶対にイヤ!
 ああーなるほどそういう? それじゃぁ商会員さん達を責めることはできないよね」
 帰るべき場所、帰りたい場所、振り返るまでもなく理解できる。
 それが納得に至れば、ヒィロの視線は真っすぐにダガヌチを見る。
「それじゃぁ商会員さん達を責めることはできないよね」
 それは持っていておかしくないものだ。
 それを玩具にでもするかのような有様は、許してなんて置けない。
「……その気持ちと同時に、海へ出るなら、期待と船乗りとしての自負があったはずだ。
 それすら塗りつぶし、塗り替えてしまうダガヌチの存在は、許し難い!」
 そう啖呵を切ったジョージの全身から闘志が溢れだす。
「うん、やっぱり悪いのは駄我奴子だ!!」
 続けるように、ヒィロもまた闘志に燃える。
(自分のルーツだなんて深く考えた事なかったな。
 よくて深緑の時にあちらの親戚との繋がりを知ったくらい。
 それも別に自分から求めてでもなかった――私も、年を取れば考えは変わるんだろうか)
 船を出す前、カリーナの言っていたことを反芻し『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は思う。
 愛銃へと弾を籠める動作には一切の乱れはなく。
「以前遺跡に向かうときもご一緒したけど、なんか……いいな。
 故郷やルーツやらは、私はあんまり考えないのだけど。
 しっかり商売はしつつも、浪漫的なものの追及もされてる感じ」
 以前にカリーナから依頼を頼まれた時の豪快な冒険を思い起こしながら、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は表情を綻ばせた。
「言う程気楽じゃないんだろうけど……だからこそ、さ。
 そういうのを邪魔するやつ、気に入らないのよ」
 ダガヌチを視界の中央に据えた時、ちりりと魔眼が色を持った。
「商売のことはよくわからねぇが、誇りだったり、譲れねぇモンを持ってるってのは心得ているつもりだ。
 実際、海洋じゃこれまでお目にかかれなかったような品も市場に出回るようになった。
 そんなやつらが、連絡も寄越さずに行方をくらますわけがねぇわな。
 だとすりゃぁ――こいつは十中八九、例の“ダガヌチ”とかいうやつの仕業だろうさ」
 ごつごつとした岩肌に包まれた島の中央あたり、それの姿を見ながら『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)はそう口にするものだ。
「あれがダガヌチねぇ、想像より全然かわいくないわね。
 さすがにちょっと歪すぎやしないかしら、空飛びたいのか海泳ぎたいのかどっちかにしなさいよ」
 縁とも似た反応を見せるのは『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)である。
(それともこれも商会員たちの帰りたい気持ちの現れだったりするのかしらねぇ
 しかし欲望……私が取りつかれたらどうなるのかしらね?)
 歪と言う他ないそのダガヌチの様を見つつ、翻って自身のことを思ってみる。
「かえ、かえ、かえりたたたたいいいい」
 あざ笑うような声がダガヌチから響き渡り、雄叫びを上げた商会員たちが動き出した。


「商会員さんたちはボクと美咲さんに任せて!」
「えぇ、皆無事に助けてくるわ!」
 ヒィロが言って、それに応じるように美咲は言えば、跳躍して船を飛び降りる。
 2人はまずヒィロが突起物を鮮やかに躱して島へと到達し、ヒィロの通った場所を沿うように美咲が行く。
 まず島へ辿り着いたヒィロは、一斉に向けられた銃口を躱すように近くに合った岩を足場に跳躍、くるりと身を躍らせた。
「望郷の思い、わかるよわかるよー
 だから思いっ切り拳に込めてボクにぶつけていいよ!」
 にぱっと笑ってそう言えば、一斉の銃弾が放たれる。
 それらを全て躱しきって着地すれば、そのまま燃え上がるような闘志を商会員たちに向けた。
「ストレス解消みたいに、この際すっきりしよ!」
 結果的に挑発しているようにも見える笑みで商会員たちの意識がヒィロに向いていた。
(私たちの連携が力押しだけじゃないってこと、見せてあげるよ)
 その様子を確かめた美咲は密かに死角となる位置へ移動。
「――おやすみなさい」
 虹色の瞳が知覚した商会員たちへと刹那の斬撃が振り抜かれた。
 澱みなく、定められた曲線をただなぞり描く煌々たる斬光は『理外の領域』より迫る広域斬撃。
 煌くは双閃。
 二度に渡る斬撃は鮮やかに彼らへと寄生するダガヌチを斬り払う。
 美しくも恐るべき閃光に中てられた数人の商会員がその場に倒れこんだ。
「帰りたい、カエリタイ、■りたい」
 ダガヌチが嘲りを多分に含んだままに笑っている。
「『先輩』からの頼みなんでね。間違っても失敗なんてできないさ」
 向けられた銃口、そこから弾丸が放たれる寸前、既にラダの弾丸は放たれていた。
 放った弾丸は鮮やかな軌跡を描いてダガヌチの頭部、眼の辺りを掠めるように駆け抜ける。
 遠方より飛来する挑発の弾丸に、ダガヌチの銃口がラダの方へ巡る。
「■る場所、オロロロ」
 ノイズがかったように不鮮明な声の後、ダガヌチは汚泥を零す。
 そのまま空へ舞い上がり、一気にラダ目掛けて飛翔する。
 肉薄の刹那、毒性に満ちた汚泥が扇状にラダとその後方を穢した。
「あんたみたいな変なのがいると精霊たちも怖がっちゃうでしょ!
 というわけでさっさとあるべき場所に帰りなさい!」
 オデットは飛翔するダガヌチ目掛けて走った。
 空を駆け、ダガヌチの眼前へ。
 ぞわぞわとする悪意の塊のようなそれへ、陽光を抱く。
 精霊たちが踊り、零距離の極光がダガヌチを焼きつけんばかりに撃ち抜いた。
(正々堂々勝負しろよ! なんて言って通じる相手じゃないか。
 それならそれで押し通るまで)
 声には漏らさず、近づいてくるダガヌチを見据えた史之は静かに愛刀を構えた。
 息を殺したまま、自らに付与を施して振り払う一閃。
 溢れる殺気もなく、ただ払った斬撃は独特の軌跡を描いてダガヌチに傷を刻む。
 奇襲となった斬撃にダガヌチの身体が微かに揺れた。
「見れば見るほど、今まで見たことのねぇタイプのダガヌチだねぇ、こいつは。
 見た所、海種と飛行種のごった煮だが、何の理由もなくこの姿を選ぶとは思えん」
 縁は敵を見据え思わずそう言葉を漏らす。
 冷静に観察するように視線を向けながら、ダガヌチの周囲へと干渉を試みる。
 手を伸ばし、そこにある潮流に触れる。
 澱んだ流れを正し、逆に引き寄せるように握りしめた。
 踏み込みの同時、文字通り飛ぶようにしてジョージが肉薄する。
「さぁ、人の商売に手を出した報い、その身を持って受けてもらおうか!」
 やや引き気味に作った拳、身体ごと振り抜くようにして叩きつける。
 深海の水圧にすら耐えるグローブを握った一撃は波濤を思わせる拳打がダガヌチの懐辺りを撃ち抜いた。
 神威を思わせるただの拳、秀でた護りを打撃力に変えて撃ち込んだ全霊の拳はダガヌチの弱点を暴き立てる。
「さて、これ以上海を荒らさせはしませんよ」
 ベークはラダとダガヌチの間に割り込むように姿を見せた。
 高められた生存能力に加えて、その身体に魔力の鎧を纏い、ダガヌチとの視線を合わせた。
 洞のように澱んだ純黒の穴がそこにあった。
 涙のように泥を流したダガヌチが、泥で出来た銃をベークへと突きつけ、一気に引き金を引く。
 零距離で放たれた魔弾が禍々しい泥となってベークに纏わりついていく。
 汚染された部分から毒がベークを蝕む。
 受けた痛みをそっくり返すように、ベークは旗を振り抜いた。


「還る、還る、帰る……還せ!!」
 くわっと見開かれた洞のような両目。
 刹那、パン、と音がしてダガヌチから泥が溢れ出し、周囲を汚染していく。
 広域へと迸るように爆ぜた汚泥が四方を侵すなか、ベークは動いた。
「僕がいるうちは誰にも触らせませんよ」
 竜宮の加護が増幅していく。
 温かな輝きは戦場を照らし付け、その輝きが仲間達を包み込む。
 全ての汚染を自らが肩代わりして、ベークはそれら全てを受け止め、反撃の御旗を振るう。
「欲望を増幅させる、か。それ自体は悪ではないんだろう。
 自分の望みを芯に持ってる奴や、正直な奴、真正面から向き合ってる奴は好きだ。
 ――けれど、こうも雑多なものまで無暗に増幅されちゃ本末転倒だ。
 さっさとその竜宮幣、渡してもらおうか」
 ラダは様子が変わりつつあるダガヌチへ静かに銃口を向ける。
 こちらを真っすぐに見据え、もう一度引き金を引かんとする悪霊へ、穿つはテンペスト。
 嵐のような苛烈なる弾丸がダガヌチの放った弾丸を砕き、その身体を貫いた。
「帰りたい……邪魔をしないでくれ!」
「帰りたいのは結構だけどこんなことしてても帰れないわよ! 目を覚ましなさいな」
 ヒィロと美咲の引き付けを逃れた商会員たち目掛け、オデットは声をかける。
 オデットの声に応えるように、精霊たちがふわふわと飛んでいく。
 そのまま商会員達の周囲をくるくると回り、その光が瞬いた。
 くらりと倒れた商会員を、美咲が回収して岩場に寝かせていた。
「――待ちな」
 オデットと同じように、商会員達の方へ視線を向けたのは縁だった。
 真横に引くように払った斬撃が数人の商会員達を斬り払う。
 彼らの意識がこちらに向いた――刹那、縁は青刀に魔力を籠めた。
 呼吸の一瞬、僅かに存在していた隙を縫うように愛刀を払う。
 撃ち抜かれた斬撃は的確に急所を外して、けれど確かに商会員の意識を刈り取った。
「俺だってね、キレるときくらいあるの」
 史之の視線は真っすぐに泥だらけのそれを見る。
 ちらりと商会員達に視線をやって、そのままに剣を振るう。
「ただの泥のくせにさ。ずいぶんとイキってるじゃないか。お前がこの人達をこうしたのか」
 史之の言葉に応えるように、にたり、とダガヌチが笑う。
 その姿に史之は一気に愛刀を振り抜いた。
 空間ごと斬り払う刹那の斬撃がダガヌチの身体を大きく揺るがせた。
「フリーパレットは願いの残滓だという。ならばお前はまるで呪いのようだ。
 たしかに、そういうものもあっておかしくはない。
 特に絶望と呼ばれていた頃ならば――だが」
 ジョージは握りしめた全霊の拳を振り払う。
 栄光を刻む拳がその身を穢す泥を弾け飛ばせば、一つ息を吐いた。
「彼らの夢を穢すことは許されん」
 強かに、真っすぐに、海の男の拳がダガヌチを穿つ。


「ん、んん……」
「あ、気付いた?
 もぞもぞと倒れている商会員たちが動き出したのに気づいたヒィロはそちらへと近づいた。
「……あんたは、たしか、さっきの……すまなかった」
「気にしないで。特に当たってないしね!」
 からりと笑ってから、ヒィロは逆に聞いてみることにした。
「気絶中にいい夢見れたかなー?
 夢の中でもいいから故郷に触れられたら、また明日から頑張ろうって気になれるよね!」
「ふ、ふふ……そうだな、たしかに、そうかもしれない……」
 苦笑するように表情を崩した商会員の様子に頷いてから手を差し伸べれば、商会員はゆっくりと立ち上がった。
「良い練習にはなったかな」
 美咲がそう呟いたのは海へ落ちた数人の救助する時の動きが結果的にそうなったからだ。
「お疲れ様、水を飲んでるわけでもなさそうだし、大丈夫だよね」
 そう呟いた時、ちょうど彼らが唸るのを聞いた。
「怪我はどうだい? 心配してたぞ」
 ダガヌチを処理し終えた後、少しずつ起き上がり始めた商会員たちにラダが声をかければ。
「勉強代として受け取っておきます……会長にも心配をおかけしてしまったのですね……不甲斐ない……本当に……」
 身体を起こした商会員は、嘆くようにそう言った。
「船が動かせないようならこちらのに乗って帰ろう」
「ありがとうございます」
 申し訳なさそうに、ぺこりと頭を下げられた。
「貴方達は大丈夫そうね……精霊さん達は何か見なかった?」
 商会員達の様子を確かめたオデットは精霊たちとの意思疎通を試みる。
(ダガヌチについての情報も欲しいし、何か見てないかしら……)
「……そう、フリーパレットを吸い込んで」
 精霊達からの答えにオデットはぽつりと呟く。
 ちらりと掌にある竜宮幣を見る。
 きらりとコインが陽光に反射した。
「はい、海で冷えた身体にはこれが一番だよ。
 飲む余裕が出た人達から取っていって」
 史之は作ったホットミルクを商会員達へと手渡していく。
「栄養も取って大事にしてね」
「ありがとう……ありがとう」
 ぺこりと頭を下げる商会員達はほっと息を吐きながらホットミルクを流し込んでいる。
「『ダガヌチ』ってのは得体のしれない奴らだが、
 さっきの奴はその中でも飛び切りだったな。
 厄介ごとの前触れじゃねぇといいんだが……」
 休憩とばかりに煙草をくゆらせながら、縁はぼんやりと空へ昇る煙を見た。
 空は穏やかだ。まるで、それが正解だと笑っているかのように。
「フリーパレットのようにダガヌチも消えるか……」
 ジョージは掌に乗った竜宮幣を見下ろして小さく言う。
(まさにカラーパレットと似て非なる存在だな……)
 ぎゅっと手を握り締める。
 確かにそこにあるコイン状のそれは確かにそこに合った。

成否

成功

MVP

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM