PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>迷惑客の金で酒飲みたいし、肉食いたい。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 足を踏み入れたら、繁華街だった。
 夜光虫に彩られたサンゴが発光して、あたかもネオンサインのよう。
 沿った瓦のラインや黒塗りの壁に柱が、カムイグラの住民には粋に見えるし、カジノやキャバクラやホストクラブに代表される「楽しく遊べる所」がずらりと並ぶ。
 竜宮の人魚たちはみな人懐っこいというかホスピタリティにあふれていて、イレギュラーズに非常に好意的だ。
 民族的にとても薄着かつ被服面積は小さく、距離感は近く、すっごい笑顔で、いい匂いがふわふわ、やわやわ。
 そんな様子に勘違いする馬鹿がいる。
 嬢を自分のカノジョやらムスメと勘違いし、偉そうに干渉してくる奴らがいるのだ。
 陸でやさしくされたことがなくて距離感バグってしまったんですね分からなくもないけどダメなものはダメだよねー! というか、前提条件を守れない紳士じゃないお客はすでに「お客」ではないのだ。客にも格が必要なのだ。良くも悪くも、銭出しゃいいってもんじゃないのだ。
 高級店で財布バリバリ言わせるのもアレだが、焼鳥屋にシルク着てきて匂いが移るとかタレが垂れたとか言うのも一昨日来やがれ。界隈の礼儀を知らない奴から死んでいくのだ。

 さて。
 お店から、やんわりとお帰りはこちらされた無自覚迷惑客。次回から「満席でございます」と入店を断られるのだ。では予約をと言うと「半年先まで満席で、そこから先は現在予約をお取りしておりませんのでご容赦ください」と、ぶっちゃけ二度とくんなされるのだが、この手の輩はそういう真綿でくるんだ即死攻撃をぶつけられてることに無自覚なのだ。だいぶ社会的に死んでいる社会的ゾンビは一定数存在する。
「あなた」
 イレギュラーズの十人中八人が「こういう声に返事するとパンドラが減る」と心得ているが、男は命のやり取りを生業としていなかった。
「あなた。そう。あなたです」
 闇の中から現れる。
 それは嬢が意識しない負の意識の集合体。意識されないゆえに是正されずただただ凝っていく救われないモノ。
 それは身の丈2.5メートルほど。
 逆バニー。バニーがネガなら、逆バニーはポジ。バニーがデコルテ、腕、足が露出。ガードされているのは胸部上下腹部であるのに対し、逆バニーは、首から方、足は鼠径部まで覆われている。リゾート界隈では大人の事情で、へそ下三寸とバストトップはガードありになるという。
 そう。そのバニーもそのあたりは準拠のようだ。覆いかぶさる腹の肉で確認できないが。そうであれ。いや、そうである。なぜなら、彼もまた竜宮の一員だから。
「ワタシ、あなたをハグしてあげたい気持ちです。私にはあなたの気持ちがわかるんですいやだなんて本当は抱きしめてもらいタいンですよね分かりますええ妄もちろん私があなたのことを一番わかっているのです恥じらってるんですよね分かりますてれなくていいんですよそういうことなんでしょうそうやって私の気をひいているんでしょう悪いヒトですねお仕置きしてあげなくてはなりませんねお仕置きですそんな人の気をヒいて狂わせようとするなんて悪いヒトですねお仕置き――」
 ところどころ妙なイントネーションで切れ目なく耳に流し込まれる言葉の内容は店でぶちまけたブーメラン。まさしくそれは迷惑客のカリカチュア。やったことが跳ね返っていると男が気づけたかどうかは確認が取れない。
 ギャーっっっ!!


「件のおっさん、命に別状はなかったそうだが、しばらく『逆バニー』と『たすけて』しか言えなくなってなぁ。ようやく最近大体何が起こってるかわかってきたんだわ」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は茶をすすっている。
「作用があったら反作用がある。世の中に急速に『素敵なバニー』という概念が蔓延したせいで『おぞましい逆バニー』という概念が形作られてしまった」
 何を言われてるんだか、さっぱりわからない。
「店と店の間の裏路地に立ってるんだよ。身長2.5メートル強。重力に負けた鏡餅体形の逆バニーが! 鏡餅の質量が圧倒的な分、視覚の暴力が過積載!」
 情報屋が、ターバンの隙間に手をつっこんで頭をかきむしり出した。
「上顧客からの仕事でなかったら、俺だって両手万歳して逃げ出すわい」
 でも。誰かがやらなきゃならない仕事なのね。
「やってることは、嬢が受けた『いやなこと』をそのまま本人にし返すんだ。おぞましい逆バニーが。どなればどなり、破廉恥には破廉恥を。束縛には束縛を。モラハラにはモラハラを」
 何だろう。全うにも思えてきたが。
「勘違いする馬鹿のことごとくが裏路地に転がるってのもよろしくないからな。行き過ぎたアレはほどいていくっていう方針で。効きすぎる薬はただの毒ってな」
 過ぎたるは猶及ばざるが如し。
「おそらくはシレンツィオ特有の幽霊の『フリーパレット』だと思うんだが――なんというか、おぞましい客を誇張したから見た目がこうなのか、そもそもこういう姿なのかわからない」
 だが。と、情報屋は言う。
「『嬢を守りたい』という行動理念は察知されてるんで。多分、嬢達が無事に一日勤め上げられれば安心して成仏? するっぽい」
 つまり。一日も迷惑客が現れなかった日はなかったって事かい。
「過渡期だから。じきに秩序も構築されるって。この店も以来来た時点でアドバイス入って、コンセプト修正して新装開店の予定なの。だから、ちゃぶ台返しして、迷惑客に二度と来るかと叫ばせて上等なわけよ。君らには店の秩序を守ってもらうよ。バニーなコスチュームは各種取り揃えてるから。心配しないでね!」
 店の秩序を守るとは?
「そうだなあ。嬢の代わりに実力で相手するとか、お酌したり、自発的にお帰りいただくとかかなぁ、ひょっとしたら、客はすぐ悪酔いしてしまうかもしれないな。後、なんだか知れないけど急に怖くなったりするかもしれないし。そういう時は早めにおうちに帰してあげるのが賢明だよね。そう思わない? ツケは利かないその場でお会計のお店だから、どんどんフード取って財布を空にしてあげるのもありだな。ここは何食べてもおいしいってよ」
 つまり、こっちからグイグイ行ったり、酔い潰したり、客の財布で飲み食いしたり、威圧したり、何なら一服盛ったりしてもかまわないってことですね。大体わかりました!

GMコメント

田奈です。
 気が付いたら。おぞましい逆バニーが爆誕したので成仏させてあげてください。
 簡単です。迷惑客が嬢に迷惑をかける前に、こちらが客に迷惑をかければいいのです。
 この依頼で皆様のイレギュラーズ人生に修正が入っても田奈は一切責任を持ちません。

フリーパレット?「おぞましい逆バニー」×1?
 *この存在を成仏させるのが目的です。これと戦闘になったら失敗です。
 *お店で迷惑客が暴れれば暴れるほど実体化してきます。皆さんの仕事は迷惑客が錠に迷惑をかける前に速やかにどうにかすることです。
 *実体化条件は「竜宮嬢がつらい目(フリーパレット視点)に遭う」です。イレギュラーズは対象外ですのでどんどん迷惑の肩代わりをしてください。
 基本、鏡餅体型ですが、顔の造作は嬢に迷惑をかけている客の嫌な所をデフォルメした姿になります。

迷惑客×たくさん
 *こちらが敵です。翌日にダメージを残さない範囲でお帰りいただいて下さい。
 *もう帰りたいと思わせてください。「翌日に残らない」程度なら、スキルを使って構いません。吞み潰す。財布を破壊する(概念的意味で)。心を折る(概念的意味で)。など、想定されます。人の金で酒が呑めて焼き肉が食えます。素敵ー。
 *モラハラ、セクハラ、アルハラ各種取り揃えられてしまうので、各自自分の得意分野の迷惑客を担当して下さい。記述しないと、嬢の方に行きます。

お店:マイスター通りのとある店「ろっぷいやー」
 おっとりした嬢がタレ耳バニーなお店。嬢はみんな大人しく心が海のように広いのでハラスメントされ放題です。客観的にかわいそう。
 嬢がみんな優しいので、口コミで迷惑客が集結してしまった状態です。
 ローレットに依頼が来た時点でアドバイスが入り、今後なめられないように強気な嬢を入れて、新装開店する予定なので今日を乗り切れば後は大丈夫。皆さんは最後の仕上げ班です。
 お店の窓から、おぞましい逆バニーの実体化具合が見えますので、どの客がヤバいかちゃんとわかります。

 プレイングには必ず書かなくてはならないのは。
 *自分が対応する迷惑客のタイプ。
 *どのように撃退するか。
 *自分がどんなバニーコスチュームを着用するか。どんなのは着ないか(重要)
 この記載がないと、田奈がステシを穴が開くほど見た末、欲望に任せて着せたいものを着用させます。
 
 覚悟完了と書くと、田奈が神妙な顔をして頷きます。



----用語説明----

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

  • <竜想エリタージュ>迷惑客の金で酒飲みたいし、肉食いたい。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート

リプレイ


 バニー嬢がたくさん。壮観である。
 かぐわしきバニー嬢に迷惑かける客を見たまっとうな客や同僚の嬢達がほんの少しだけこぼす「迷惑客、ひどい目に遭うといいのに」
 竜宮の裏路地。ありえない淀み。
 輪郭は垂れ下がる肉だるま。
 身に着けているのはバニーコートのネガポジの逆バニー。

「透けてるな」
 逆バニーの斜め前方にある店の窓で確認できる。振り向けば奴がいる状態。
 言われて凝視して初めて気が付くレベルの視覚の暴力。
「個人的には放っておいてもいいかなとか思ったりしますが」
「むしろ放っておいても問題ねぇ気がする。店の嬢ちゃん方が揃いも揃って大人しいとなりゃぁ、この手の連中はそりゃ調子にも乗るだろうさ」
 意見の一致。
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)と『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、ハイタッチするようなタイプではなかった。
 その辺のウェイターに耳を付けただけの手抜きバニーな縁。王道あってこその覇道の王道担当――というか、バニーボーイ着せたら、別方面にヤバい扉を開けて身を持ち崩すヒトが増えそうなので自重。
「いっそ店の用心棒として置いてやりゃあ、その内勝手に成仏するんじゃねぇかい?」
 縁の言うこともごもっとも。迷惑客は去っていくだろう。
「とはいえ、矛先が迷惑なの以外に向いてしまうことだって今後無いとも限らないですし」
 お仕事ですからそういうわけにもいきませんねえ。と、瑠璃は大人の対応だ。
 瑠璃は、迷惑客の視線をひき寄せなくてはならない。
 コートのヒップラインがとてつもなく鋭角、その上をいくバストピース。下乳を支える限界ギリギリ。今にも何かの拍子でめくれそう。夢と希望がいっぱいの、誰がそこまでしろと言った系。
「迷惑な客の財布で飲み食いできて祓えるとか大変有難いので、今後も発生しないものでしょうか」
 ちゃっかりしているが、ちょっと腹が出た途端に色々まずいことになる。胃袋を押さえる腹筋に期待。

「いらっしゃいませ」
 開店時間。客たちが次々に席に案内されていく。
 少しづつ存在感が増していく逆バニー。迷惑客共の数に比例して存在感を増していく。
 入店してくる客の中に、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の姿がある。
 縁と目が合うと、にやあっと笑った。胡散臭い。本人は愛想よく振舞ったつもりなのだろう。
「――逆バニーにロックオンされないよう、バニー着用必須じゃなかった?」
 瑠璃が確かめる。それに、男でもバニーは味方と嬢に伝えてあるのに。
「色々あるのさ」
 縁は短く答えた。追求してはいけないらしい。
「さあ、仕事だ。件の『おぞましい逆バニー』に倣うんなら、目には目を、歯には歯を――権力には権力を、だ」


「ぶはははッ! 俺もゴリョウ亭で迷惑客経験あるけど、あれホント面倒だよなぁ」
 今日の『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は細マッチョである。オークでバニーは無理だった。コスチュームのサイズ展開の狭さから。
 網タイツ、ガーター付きホットパンツ尻尾付き。蝶ネクタイ付きカラー。バニーカチューシャ。全部パツパツ。オーク姿でなくてよかった。オークの網タイツは骨付き生ハム原木コース一直線。
「前掛けいりますね。それとマスク」
 店の圧倒的善意。なんて澄み切った瞳。
 サロンエプロン投入で、裸エプロン成分が上昇。それに衛生管理黒マスクすると、イケナイ感じが倍率ドン。
 酒食を嬢にお給仕してもらうのがメインサービスの健全なお店。お任せにすると、嬢の心遣いが感じられて胸キュン。思わず、みんなも食べてね。おじさんのおごりって――どんどん言うべき。
 だが、いちいちマナーはどうだの知ったかぶりされると台無し。話長すぎて冷めるし。
 裏路地の逆バニーの存在感が上がる。なんか質感が付いてきた。黒革じゃないですか。
 その時、カーンと炒め鍋を叩く音。
「待たせたなっ! 今日のサービスディッシュは『豊穣産キノコの醤油バターソテー』だ! 客の分まで食っちまうなよ!」
 キラーンと嬢達の目が光った。事前の申し送りでゴリョウが『客の分まで食うな』と言った料理はやばい客専用だと伝えられている。
 嬢達は次々立ち上がる。迷惑客が付いているテーブルの嬢が先に取り分け、優良客の嬢は「取り損ねちゃった。次は頑張るね」と戻っていく。
 目を輝かせた中に、『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)がいた。
 目元に光るものが。
(な、なんかわからないんですけど~)
 ちらと視線を滑らせると、さっきまで自分が座っていた所を執拗に撫でている客。同じテーブルの嬢達が困っちゃうねと見ている。嬢達、どこまでも包容力ある。海のよう。
(……お店で働いたこととかないんですよね。まぁそもそもお店に入ることもあまりないんですが……)
 ベークの一族こそ竜宮城のタイやヒラメの一角。本人、大分香ばしいが。文字通りフレーバー的意味で。いや、それが原因でうといのかもしれない。
 茶髪少年に変身済みのベークは、襟付きシャツにタイ。チェックのカラーがアクセントのスワローテイルベスト。足元はソックス。バニーカチューシャは片耳折れ。サイズ大きめな七分袖からのぞくピタピタアンダーが腕の細さを強調。スカートタイプも可愛かったのだが、ロリ枠がかぶるからショタ枠と厳選されたコスチュームだ。
 ベークも人化した自分のような容姿が好みの人がいるということは知っていた。

『ですので、そういったお客さんをメインで相手にして……えーと。ご飯を食べさせたりお酒を飲ませたりすればいいんですかね?』

 そう答えた数時間前の自分は理解が足りなかった。
『ベーク君、あーんって言って!』
 少年バニーに食べさせてもらおうとするおっさんという香ばしい存在が相手だ。幼げな嬢に迫っていたから仕方ない!
 ベークの脳裏にとある仲間がよぎった。

『まあ私に対しては別にセクハラ上等ではございますが――』
 幼げな容姿――『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)は意味深な笑みを浮かべていた。
 メルトアイのバニースーツはベアトップ後ろ編上げガーター付コルセットだった。触手を締め上げるわけにはいかない。頭二つ分に該当するとんでもない質量をバッキバキに入れまくったボーンと腰椎で締め上げる編上げで支える。露出が禁止されている部分がこんにちはしないようピークドラペルでガードだ。
 ローライズショーツで触手のスペースを維持しつつ、コルセットからガーター網タイツを吊り下げて、ムチムチぱっつんぱっつん触手バニーの完成である。黒髪から白いうさ耳であざといキュートさをプラスだ。
『依頼とあらば全力で心を折りに参りましょうか』
 ピンクベーススキンのロリ可愛いちゃんがうっふっふと笑った。
『悦楽種(エピキュリアン)』
 種族の詳細は不明だが、見えないバベル効果でおヤバ気な気配がビシバシ伝わる。竜宮のお嬢さん達。タコでもイソギンチャクでもウミユリでもないので、同族意識は持たないように。

 ベークが、メルトアイの唇を思い出していた時。
 横を瑠璃と鼻の下伸ばした客が数人が通り過ぎた。目つきがぼーっとしているし、足元もふらふらだが酔っぱらいは珍しくない。
「あら、やだ。おしっぽ触ったらいけません」
 えいとつねる真似などした瑠璃が、カーテンの隙間に客をいざなう。
「こちらの方達、こちらのメニューに興味があるそうで。ええ、ちょっと、ふふ――お戻りを、みんなでごちそうになりながらお待ちしてますね」
 瑠璃が踵を返し、料理をたっぷり盛って元のテーブルに帰っていく。人の金で食う飯はうまい。
 先程の奥の方から野太い悲鳴が聞こえた気がした。
『殿方がこのようなお姿を晒すなど、全く以て情けないですわねぇ? ほら皆様、じっくりご覧になってくださいまし。これが男としての出来損ないの無様な有様でしてよ♪』
 んまあ。とか、きゃああ。というか、顔を覆った指の隙間から見る的な潜めた歓声など聞こえない。そういうサービスはないと言っているのに金ならあると無理やりそれっぽくさせた客の自業自得だ。呼ぶまで来るなよとか言うから。
 メルトアイは触手――ヌルじゃなかった――フル回転で色々してるので忙しいのだ。詳細に説明することができない程度に。テーブルやカーテンに隠れて全然わからない。なんか濁点ついているような声とか聞こえてくるとかない。
 自分の担当は自分でどうにかしなくては。犠牲者は少ない方がいい。多分。

「これ、グルメなお客様方皆さん絶賛だった一品なんだって。絶対召し上がってほしいな」
 争奪戦をモノにしてきたよ。と、にっこりするベーク。笑顔が一番。バイト用マニュアルに書いてあった。
「君の感想が楽しみだ」
 あえて二人称を使ってお客様との距離を縮めましょう。と、次の行に。
 生唾と一緒にキノコを飲み込んだ客はさらに酒をあおり――ほどなく、テーブルに突っ伏した。
 息を詰めていたベークと他の嬢の肩から力が抜ける。
 キッチンの奥からその様子を確認したゴリョウは悪い笑みを頬に浮かべた。
「シメジ、リクエストで~す」「キノコ、お願いしま~す」
 ホテイかそれ以外のシメジを作り分け、疑われないようにする。
(普通に食う分には美味いし良い出汁も出る優秀な食材なんだが、アルコールを分解する酵素を奪う成分を含む食材だ。簡単に言えば『下戸になる』わけだな)
 じゃっじゃとおいしそうに焦げるキノコの音が心地いい。醤油の焦げた匂いが食欲をそそる。
(ザルやワクの強みである肝臓での分解が効かなくなるんだから血管に直接アルコール流してるのと変わらんのよ)
「お客さんのおごりなんだろ? グルメなお客さんならこういうのを食わせてくれるって」
 高級食材をたっぷり使った料理を嬢のテーブルに届けて歩いた。
 ゴリョウの運ぶ料理に食欲を刺激され、財布を空にする客もまあまあ多かった。


「初めまして、お席につかせていただきますね!」
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は、積極的だった。
 竜宮嬢にふらちに伸ばされた客の手をきゅっと両手で握った。ばきぼきとえげつない音がするが骨がこすれただけで折っいない。痺れて不埒なタッチは無理。
「あ、力入れすぎちゃいましたか、ごめんなさい。お飲み物お作りしますね?」
 昔格闘技やってて~。と、話しながら前かがみになると柔らかなものがゆさっと重心移動。
 むき出しの肩からデコルテの白さと淡い青のコントラストが爽やか。同色の角度広めのうさ耳から包容力を感じる。腹や胸元のきわどいカットは薄く透ける青いチュールと白いレース。別付のフレアベンツで巧みに隠されている。網タイツではなくあえてのシースルー。足元のポイントがステンドグラスのようで華やかだ。
 清楚にして挑発的。よっぽど不埒な接近や角度を付けないと――。
「お客様?」
 見えはしないのですよ、セクハラ系迷惑客さん。
「どうかなさいました?」
「い、いや!」
 見えそうな角度とじりりと動いた客に影が差す。その頭をつかんで、その隣に尻をねじ込むウィルド。新手の迷惑客かと、先程手を握られかけた嬢が息を詰める。
「いや失礼、そちらのお嬢さんが私のタイプだったもので。お嬢さん。私、テーブルの下にボタンを落としたようです。拾っていただけますか」
 好みと言われて涙目のお嬢さん。それでもテーブルの下からボタンを拾い上げ、ウィルドの手に乗せるときには微笑む元気が出ていた。
「しかしこのお店のお嬢さん方は心が広いですねぇ。こうして迷惑を掛けても笑って許してくれますし。悪徳貴族でも偶には癒やしが欲しい時くらいあるんですよ、日々政争で神経をすり減らしますからね」
 天国とウィルド。
 不埒な客は貴族相手では食って掛かることもできない。下手すると国際問題だ。
「……そちらのあなたも、そう聞いたからここに来たんでしょう? うん?」
 口答えしたら、即厄ネタ。その横で上目づかいでマドラーを使うシフォリィは可憐な笑みを浮かべた。
「――お待たせいたしました」
 うふ。と、差し出されるグラス。とっておきの高い酒だ。こういうのを入れておく限り嬢達は客にやさしく接してくれるのだ。
 痛む手でグラスを握る。そうだ。この男は無視すればいい。それに、呷ればのけぞっても不自然ではない。見える。
 ぬるりとした液体が口に入った瞬間、粘膜を焼き尽くす筆舌尽くし難い灼熱感と飲み干したらダメだという圧倒的危機感。吐き出したらとんでもないことになるという脅迫感めいた確信。何しろめちゃくちゃ高い酒。それを吐くということは希少な酒を飲むのに相応しくないということ。紳士としてのステータスに傷がつく。ここは社交場。目の前の男は貴族と名乗った。社会的に死ぬ。
 シフォリィはその辺りをよく熟知していた。ゆえに、料理(悪)を披露したのだ。飲んでも地獄のまなくても地獄。
 客は飲み込み、息も絶え絶えにお勘定と言った後何もしゃべらなくなった。
 生ける屍のように店を出る男。「今度はお詫びに私から逆指名しますね!」とお見送りするシフォリィ。
 おびえた目をした男は二度とこの通りに足を踏み入れることはなかった。

「ウィルドさん。バニー着なかったんですか?」
 戻ったシフォリイは気になっていたことを尋ねた。
「まさか!」
 そう言って襟をずらす。ダークスーツのジャケット。その下は。
「――バニー!」
「ちゃんと身につけておりましたとも。お気づきにならなかった。なるほどなるほど」
 髪色に紛れ込むタレ耳。あえて刺し櫛仕様。「私が今バニーコスであることに誰も気が付いていないっ!」という、一周回り切ったご趣味をお持ちの方向けステルスバニー。世界は広い。
「網タイツもはいておりますよ」
「ああ、なるほど。それで――」
 拾いものをした後の嬢が落ち着いたのか。テーブルの下でトラウザーの裾をちょっと上げて見せたのだ。
「では、次なるテーブルへ」
「お互いに」


 男はがなり倒していた。
「金ならあるさ。俺はついてるんだ。この街で一発当てて勝ち組の仲間入りだ」
 リゾートは開発ラッシュ。常なら動かない金が飛び交っている状態だ。男の懐に大金が転げ込んできたらしい。
 嬢達はさりげなく耳をふさいでいる。声が大きい。
『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)には、耳を痛めるアンラッキーからお嬢さんたちを守る使命がある。
「ねーねー、オニ―サン。うちの店、最近新しいサービス始めたんだよね。俺とゲームして勝ったらこの宝石をプレゼント! プレイ料金出してくれれば、すぐに遊べるよ」
 白いシャツにカマーベスト、細身のパンツ。バニー要素は黒耳だけかと思いきや、ヒップにつけられたしっぽがでかく見える。おしりが小さいので相対比。そもそも自前のしっぽがでかいのでジュート本人は全然気にしてないのだが、視覚誘導効果により妙におしりに視線が集中する。コスだって大分地味目なのに。地味に不運。
 が、本人が気づいていなければオールOKである。嬢を助けるのが先決だ。
「まぁ任しとけよラッキーガールズ。幸運の亜竜種、ジュート様が来たからにはもう安心だぜ!」
 カードゲームで勝ったり負けたり。
 自分で言うだけあって、男はだいぶ運がいい奴だとジュートも認めた。
(イカサマでひと勝負いこうじゃねーの)
「いやあ、俺宝石取られてクビになっちゃうな。泣いても笑ってもこれで締めようぜ」
 ばれたらクビどころか大炎上のハイリスクハイリターンだ。
「お前をクビにしてやろう。俺はついてるんだ。俺の分全部賭けてやる」
 ジュートにコントロールされた「ナイスな攻防」に酩酊した男は賭ける額を間違えた。もはや蟻地獄の中だ。全てが終わる。男の味方はいないのだ。
 コインが宙を舞った。
 そして。
「お客様。お支払代金の清算の結果、このようになっておりますので」
 男は素寒貧になった。
 人好きのする笑みをうかべながら、ジュートはケツの毛まできっちりむしり取ったのだ。ツケなんて腐れ縁が発生しないできれいにチャラになるように。
 やたらとガタイのいい男――縁が、慇懃無礼に耳を揺らしつつ頭を下げる。
「あ? 叩き出そうってのか!? 俺はこのあたりじゃちょっとした顔なんだぞ! あのワダツミとも――」
「ほう? あのワダツミねぇ」
 下げた頭からぎろりとねめつけられた途端、男は格の違いを見せつけられた。
「――さて、どうしようかねぇ。俺はか弱い一般市民なんで、どこかの誰かが連中のシマを荒らしたなんて、うっかり話しちまうかもしれねぇな?」
 男はのどをひきつらせながら、店の外に転がり出ていった。
「権力ってのはこう使うのさ」
 縁は、残った酒をグラスに注いだ。小悪党に飲ませるには惜しい良い酒だった。

 気が付くと、路地裏の逆バニーは影も形もなくなっていたのだ。
 全ての迷惑客に「一昨日来やがれ」をお見舞いできたのだ。
 悪縁切ってリニューアル。新装開店後、ここに再び逆バニーが発生せぬことを。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。バニーコスの描写を壮絶に削らなくてはならなかった田奈の心中をお察しください。迷惑客は無事撃退。ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

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