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シナリオ詳細

月刊ヌーの導き。或いは、ヘイズルと砂漠の海…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●月刊ヌーに導かれ
「砂漠の旅には危険がつきまとう。食糧や水の確保は困難を極め、昼間は熱く、夜は寒い。砂漠の旅に慣れた私たち商人でさえ、年に何人もが命を落とす」
 革の水筒に口をつけ、褐色肌の女は言った。
 それから、焚き火にかけた鍋の中身を木ベラでもってかき回した。
 ラダ・ジグリ(p3p000271)の話に耳を傾けながら、鍋の中身を覗き込むのは捩じれた角を生やした女だ。灰色の髪に、筋肉質な長身痩躯。
 砂漠の果てから来たと言う彼女の名はヘイズル……今現在に限り、ラダの雇用主である。
「つまり準備が大切というわけか?」
「……そうなるな。少なくとも、身体1つで歩き回るような場所じゃない」
 そういってラダは、視線をヘイズルの足元へ落とした。
 ヘイズルの荷物は、愛用しているライフルと、シート状に加工された干し肉、それから少しの水だけと、砂漠の旅をするにしてはいかにも準備が足りていない。
「うちの部族は旅なんてしないからな。旅支度のノウハウなんて伝わっていなかったんだ」
「伝わっていなくとも、故郷からここまで旅をしてきたわけだろう? こう……なんだ、旅の中で“こういう物を用意しておけばよかった”とか“何が無くて困った”とか、あったんじゃないか?」
「あった……ような? なかった……ような? あぁ、身体が頑強でよかったと思ったことは何度もあったなぁ」
「フィジカル頼りで生き延びられるほど……いや、実際にこうして生き抜いているのか」
 どうしたものかな、と。
 溜め息を零して、ラダは鍋の中身を木の椀へと注ぐ。
 具材は干し肉と、干し野菜。それに香辛料で少しの味を付けたシンプルなスープである。
 それから、ドライフルーツとピクルス。
 街で食べるものに比べれば、非常に物足りないメニューである。
「そもそもどうして地図を持ってこなかった? 私が持参しなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「おかしなことを言うな。地図なら、ほら! ここに載っているじゃないか!」
 そう言ってヘイズルが開いたのは『月刊ヌー』と呼ばれるオカルト雑誌である。
 故郷には無かった“オカルト”という概念を、どうやらヘイズルはいたく気に入っているらしい。
「地図が単純すぎて役に立たないだろう。それじゃあおよその方角しか分からない」
「およその方角さえわかれば、どうにでもなるものだろう? ラダよ、地図とは人が作ったものだ。つまり、その昔には存在しなかったものだ。では、どうやって地図は作られた? 決まっている。未開の地を、地図も無しに体1つで踏破した者がいたんだよ」
「……それはそうだが」
 便利なものを便利に使って、安全性を高めろと。
 ラダはそう言う話をしているのである。
「それに! 実際、こうして目的地に着いたではないか!」
「……それもそうだが。私が色々と準備して来たからであって」
 ヘイズルが雇い主であり、目的も事前に知らされたうえで仕事を受けたのだから準備は当然なのだが。
 それでも、フィジカル頼りのヘイズルの行動には思うことがあるラダだった。
「あぁ、望外に良い出会いであった。運というのか、めぐり合わせというのか……それもまた、私の実力ということなのだろう」
 なんて、言って、
 ヘイズルは、焚き火の傍に転がっている“巻貝の化石”を取り上げる。
「まったく面白いこともあるものだ! 見ろ、砂漠の中で、我らは“海”へ至ったぞ!」

●砂漠の海
 『月刊ヌー』
 ラサ近郊で昨今流行り始めた奇妙なオカルト雑誌だ。
 その内容は、荒唐無稽な、真偽のほどさえ定かではない夢物語の列挙である。
 例えば、砂の下に沈んだ古代の黄金遺跡。
 例えば、砂漠を移動し続ける奇妙な岩の物語。
 例えば、砂漠の果てに住むという角のある一族の物語。
 例えば、夜な夜な走りだすと言う奇怪なサボテン。
 例えば、砂漠のどこかにある海の話。
 故郷を離れ、自分の“部族”を立ち上げようとしているヘイズルは、現在“住処”を探している。その情報源として目を付けたのが『月刊ヌー』であったというわけである。
 
 案内人にラダを雇用し、それなりの日数を旅した果てに2人が辿り着いたのは“砂漠の中の海”である。
 砂上に残った、何かの這いずる痕跡を辿り。
 人を襲うサボテンの群生地を抜けて。
 砂漠に暮らす者たちが、避けて通る未開地を踏破した末に2人が辿り着いたのは半ばほどが砂に埋もれた古い都市の跡地である。
 遥か昔、そこは港であったらしい。
 砂に埋もれた、すっかり朽ちた船の残骸や、漁に使っていただろう銛の先端。
 岩づくりの家屋の壁には、フジツボが張り付いていた。
 それから、地面には貝や魚の化石もある。
「元は港で、後に海に沈んで……今は砂漠か」
「あぁ。ここを私の部族の村とするのはどうだ?」
「誰の土地と言うわけでもないし、払うものさえ払ってくれれば、物資や食料も運んでやるが……まぁ、安全の確認が出来てからだろうな」
 見ろ、と。
 そう言ってラダが指差したのは、家屋の外の地面である。目を凝らして良く見れば、そこには何かの“足跡”らしきものが残っているではないか。
「足跡の数は2人分。片方は男、片方は女性のものだろう」
「うむ。それと、道中にも見た“走るサボテン”もか……遺跡の近くに群生していたから、アレもどうにかしないとな」
 翌日からの計画を練りながら、2人はのんびりと食事を続ける。
 それから、少し早めの就寝として……異変が起きたのは、次の日の朝方のことであった。

 足音が聞こえる。
 目を覚ましたラダとヘイズルは、顔を見合わせ家屋の窓から外を覗いた。
 焚き火は既に消えかけているので、灯を頼りに居場所がバレることは無いだろう。
 息を殺して、暗がりの中に目を凝らし……。
「……この辺りには奇妙な人が住んでいるのだな」
「人なものか、アレが。いや……昔は人だったのだろうが」
 ライフルを手に取り、ラダは暗がりを凝視する。
 そこにいたのは2人の人影。
 首の無い女と男……すっかりと干からびたアンデッドのようだ。
「撃つか? 私が撃っていいか?」
「撃たない。アンデッドがあの2体だけとも限らないし……サボテン共が動き始めた。夜闇の中、あれらと戦闘するのは少し面倒だ」
 サボテンは自走し【猛毒】を持つ棘を周囲へ撒き散らす。暗闇の中でアレに囲まれてしまうと、少々面倒なことになるだろう。
 加えて、首の無い男女のミイラの様子も少々奇妙なものだ。
 まるで、何かを探すように家屋の中を覗き込んだり、地面を掘り返したりしているのだから。
「装飾品の質が良いな。身分の高い者の遺体か? なぜ首が落ちている?」
 うん? と首を傾げてヘイズルは問うた。
 高貴な身分の遺体といえば、その形を十全な状態で残すのが常だ。
 しかし、2体のミイラに首は無い。
 それではまるで、罪人か何かのようでは無いか。
「さぁな……得物は剣か? 斧のように巨大だが……刃は鋭いな。【ブレイク】や【滂沱】【致命】辺りは警戒した方がよさそうだ」
「女の方は杖を持っているぞ。ラダよ、あれは魔術師という奴じゃないか?」
「そうかもしれない。杖に取り付けられた石は、砂漠で採取されるものだな。【呪い】や【狂気】の儀式に使うものだろう」
 暫くの間、2体のミイラは砂を掘り返しながら彷徨っていた。
 そして、朝日が昇る頃になってどこかへ姿を消してしまった。
「……この遺跡を掘り返したのはあいつらか」
 朝日の昇るころ、ラダはそう呟いた。
 それから、応援を呼びつけるべく手紙を1通、したためる。

GMコメント

こちらのシナリオは『アルトゥライネル、砂漠の旅路。或いは、月刊ヌーを読んだヘイズル…。』のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8030

●ミッション
遺跡の調査および危険の排除

●ターゲット
・首の無い男のミイラ
豪華な装飾品を身につけた男のミイラ。
巨大な斧のようにも見える剣を携えている。
何かを探すように地面を掘ったり、家屋を調べたりしているようだ。

斧剣:物近単に特大ダメージ、ブレイク、滂沱、致命

・首の無い女のミイラ
豪華な装飾品を身につけた女のミイラ。
呪術に使う杖を手に携えている。
何かを探すように地面を掘ったり、家屋を調べたりしているようだ。

呪詛魔術:神遠貫に中ダメージ、呪い、狂気

・サボテンの魔物×多数
サボテンの魔物。
走るし、襲って来る。
アクティブな性格をしている。

毒針:物近範に小ダメージ、猛毒

●同行者
・ヘイズル・アマルティア
灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫。
砂漠の奥深く、砂塵を超えた先にある未開地よりやって来た。
身体能力は高いが、常識に欠ける。
月刊ヌーというオカルト雑誌を愛読している。
また「気に入ったものがあれば持ち帰る」主義。

●フィールド
ラサ。砂漠の果て。
発掘途中のように見える遺跡。
昔は海だったようで、貝や魚の化石が多く発掘される模様。
石造りの家屋が並んでいるが、そのほとんどが土台しか残っていない。
背の低い家屋のようだ。壁や屋根が残っているものも幾らか存在している。
海から吹き付ける強風に耐えるためにこのような造りとなっているらしい。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 月刊ヌーの導き。或いは、ヘイズルと砂漠の海…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月18日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シラス(p3p004421)
超える者
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
レーヴェ・ブランク(p3p010731)

リプレイ

●月刊ヌーの導き
 空に輝く灼熱の太陽。
 燦々と照り付ける陽光が、一面の砂を熱くする。
「……ヘイズルはまだアレを読んでいるのか? 不確かな情報源は危険だと懲りていなかったか」
「あぁ……これ下手に手伝わず、多少痛い目に遭わせた方がヘイゼルの為にならないか?
かと言って万一があっては……」
 ラサの辺境。砂漠の果ての前人未踏の古代遺跡の片隅で、言葉を交わす男女が2人。
『バロメット・長い旅路の同行者』アルトゥライネル(p3p008166)と『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の足元には、穴だらけのサボテンが転がっている。
 サボテンの中央部に空いた目口に見える穴からは、赤黒い液体が溢れだしていた。

 砂に半ば埋もれた家屋に顔を突っ込み『竜剣』シラス(p3p004421)は口を押える。砂埃を吸い込まないよう気を付けてはいるが、そもそも四方を砂に囲まれた古代遺跡だ。
 シラスの髪や顔、手足はすっかり細かな砂に塗れている。
「気になるのはミイラ達が何を探していたかだよな」
 家屋の中には、すっかり乾いた木製家具が転がっていた。シラスがちょっとそれに触れれば、あっさりと家具は崩れ去る。
「外気に触れた途端にこれか」
「どこまでも広がるこの砂の地に、かつて海があったなんてね。昔はどんな様子だったのかな……出没するというミイラ達は当時の住人だろうか」
 溜め息を零すシラスの頭上で声がした。
 家屋の屋根に上った『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が砂漠を見渡し、呟いたのだ。
 砂に覆われた古代遺跡は、遥か昔、海の近くの港町であったと言う。
 現在、遺跡で目撃されたのは首の無い2体のアンデッドだけ。当時の住人たちのほとんどは、街を捨ててどこか別の場所へと移動したのか、それとも既に土に還った後なのか。
「近場の都市や村の者は、誰もこの遺跡について知らなかった。それほど昔の遺跡だということだが……っと、サボテンが寄ってきているな」
 ホルスターから大口径の銃を引き抜きレーヴェ・ブランク(p3p010731)はため息を零す。遺跡の周辺を縄張りとする“自走するサボテンの魔物”が近づいてきたのだ。日中は普通のサボテンに擬態している魔物たちだが、どうやら一切身動きが取れないというわけでもないようだ。
「数は?」
 ウィリアムが問うた。
「3体……少し離れた位置に2体だな」
 レーヴェが答えた。
 シラスは数度の屈伸運動で膝を解して、拳を握る。
「やるか。少数なら対処できるだろ」
 
 銃声が空に鳴り響く。
 それを聞いた『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が、珈琲を淹れる手を止めた。
 テントに焚き火、水や食料、地面に敷いたビニールシートの上には幾つかの出土品が置かれている。
 ここはイナリの設営した、発掘隊の拠点である。
「砂漠の遺跡ってワクワクするわよね」
「今の銃声のことを言っているのか? 応援に向かわなくてもいいのだろうか?」
 イナリの向いに腰を下ろして、山羊角を備えた若い女がそう問うた。彼女の名はヘイズル。自身の部族を新設すべく、果て無き砂漠を旅する戦士だ。
 そして、今回の依頼人でもある。
「暑い中よく頑張れるよなー。ってか、何だろうね、このオカルト雑誌……この混沌自体がオカルトの塊だと思うがな」
「応援要請が無いってことは問題ないってことだろ……案外、その雑誌になんか載ってねぇのか? 『一夜にして消えた砂漠の海の悲劇』とか、首の無いミイラの怪異とかよ」
 ヘイズルと同じく休憩中の『元魔人第十三号』岩倉・鈴音(p3p006119)と『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が同時に珈琲に手を伸ばした。
 日が暮れるまで、まだしばらくの時間がかかる。
 夜になると現れるという首の無いミイラが、一体何を探しているのか。昼間のうちに目星がつけば、きっと事態は動き始めることだろう。

●遺跡発掘隊
「あの辺り、何だか地形がおかしくないか? 砂の色も、周りと少し違うように見える」
 そう言ってレーヴェが指差したのは、遺跡の外れにあるサボテンの群生地だ。
 地形を加味すれば、群生地の辺りもきっと古くは集落の一部だったのだろう。
「サボテンが多くて視認し辛いが……確かに不自然に土地が隆起している気がするな」
 ライフルのスコープを覗き込み、ラダは「はて?」と首を傾げた。家屋の屋根に上ったラダの位置からでは、群生地の地面の様子は見づらいらしい。
「地面の下に何かあるのは間違いなさそうね。他の家屋よりも一段高い位置にあって、他の家屋よりも大きいのかも」
 ドローンで地形を確認しながら、イナリはそう呟いた。
 それに反応したのはシラスだ。
「祭壇や王墓みたいな重要施設か? ミイラどもが首を探していると仮定して……顛末は分かりかねるがその辺の家屋跡に転がってるとも思えない。弔われたにせよ処刑されたにせよ何処か特別な場所に保管されていたりしそうだが」
「調べてみるのが早いか?」
「えぇ。さて、どんな古代の遺物が出てくるか楽しみね……♪」
 ラダとイナリの意見が一致をみた。
 サボテンの群生地は危険だが、現状手がかりらしい手がかりが見つかっていないのも事実。夜になれば否応なく戦闘に発展するのは確定的なのだから、それが少し早まったと思えば大きな予定の乱れも無いだろう。
 
 キリリ、と弦を引き絞りルナはサボテンへ狙いを定めた。
 放たれたのは、暴風を纏った1本の矢。
 砂塵を巻き起こしつつ、それはサボテンを貫いた。
 縦横に虚空を駆ける矢に穿たれて、サボテンたちが動き始めた。中には四方へ棘をばら撒くサボテンもいる。
「任せていいのか? 数が多いぞ?」
「おぉ、多少のことじゃへたらねぇ。足で働くとするさ。それに、ダメならそんときゃ味方んとこに駆け込むしよ」
 サボテンの魔物を引き付けながら、ルナがその場から移動を開始。サボテンの魔物が減った隙を突いて、ヘイズルを初めとした調査隊が砂丘へと進行を開始した。

 アルトゥライネルの操る馬車が、サボテンの群れを蹴散らしていく。
「これ以上は進めない。降りて発掘を開始しろ!」
 車輪が地面を削って滑る。
 停止した馬車の荷台から、ヘイズルを初め数人が外へ飛び出した。着地と同時に、ヘイズルは近くのサボテンへ蹴撃を浴びせる。
 サボテンの大半は、ルナによってその場を離れた。
 しかし、その場に残ったサボテンもまだ多い。
「気になるものを見つけたら持ち帰ろう」
 馬車へと殺到するサボテンを薙ぎ倒しながら、アルトゥライネルが指示を出す。
 まっすぐ砂丘へ向かって行ったヘイズルと鈴音は、指示に従い調査を開始。
「地下室がありそうかとか、謎の文字とか絵画とか! そう言うの調べなきゃだぜ!」
「入り口は隠されているかもしれない。不自然に窪んだ場所や、階段なんかがあればいいんだが」
 そう叫んだウィリアムが、馬車から跳び降り右の上を前へと突き出す。
 ごう、と風が渦を巻く。
 ウィリアムの腕に集中した魔力が、台風のごとく激しき渦を巻いているのだ。
 今にも弾けそうな魔力の奔流を抑え込み、ウィリアムは開いた手をサボテンの頭部へと当てる。
 刹那、サボテンが膨らんだ。
 棘を射出するつもりなのだろう。
 だが、遅い。
 煌と、強い閃光が走る。
 ゼロ距離から放たれた魔力の砲が、サボテンを飲み込み焼き尽くす。

 戦闘の気配を察知したのか、砂丘の上からサボテンが跳んだ。棘だらけの体を活かしたフライングボディプレスが、ウィリアムへと叩きつけられる。
「っ……数が多いな」
 頭上を仰ぐウィリアムだが、迎撃は間に合いそうにない。
 ダメージを覚悟し、歯を食いしばった……その直後。
 ズドン、と。
 銃声が響き、サボテンの頭部が四散した。
「おぉ、ラダか? ラダは腕のいい銃手だよな!」
「隊長! 遺跡の入り口、発掘したでありますよ!」
 援護射撃は、拠点に陣取るラダの手によるものだった。ヘイズルが喝采を送る中、鈴音が砂中から、遺跡の入り口を見つけ出す。
 サボテンの相手をウィリアムに任せ、2人は遺跡の中へと飛び込んで行った。

 時刻は夕暮れ。
 もうすぐ空が暗くなる頃。
 拠点に帰還したアルトゥライネルた調査隊は、馬車に積んだ出土品をビニールシートの上へと慎重に降ろしていく。
 幾つかの壺や、装飾の施されたナイフ。古いメダルや、農具の残骸、それから砂中から掘り返された貝の化石。
 そして、2つの石の箱。
「化石か……他の民の骨などは出土しなかったのか?」
 貝の化石を摘まみ上げ、アルトゥライネルはそう言った。
 出土品の中には、これまで発掘されていなかった貴金属が含まれている。結果だけ見れば、発掘調査は大成功といってもいいだろう。
「骨かどうかは知らないけど、石の箱の中身はきっと首だろ、これ。あんなとこに埋められていたってことは、儀式とかに使ってたりして」
 2つ並んだ石の箱をノックして、鈴音は「おや?」と首を傾げた。叩いた感じでは、石箱の中は空洞だ。けれど、構成する石同士がぴったりと癒着しているせいで、そう簡単には開封できそうになかったのである。
「無理やり開けて中身を破損させてもね。開けるのなら、慎重に作業しなくっちゃ……」
 焚き火から鍋を降ろしてイナリは言った。
 鍋の蓋を開ければ、香辛料のピリっとした香りが辺りに漂う。
「でも、日が暮れてしまう前にまずは夕食にしましょう」
 腹が減っては戦は出来ぬ。
 ドローンや小鳥、犬、人形を周囲へ展開させて、イナリはスープの味を確かめるのだった。

 深夜0時を過ぎただろうか。
 篝火の1つが、不意に揺らいだ。
「っと、何か来たようだな」
「あぁ、ここからは危険の排除の方に注力するぞ」
 暗がりの中に“何か”の気配を捕えたのだろう。レーヴェとシラスは立ち上がり、戦闘準備を整える。
 頭上へ向けて、レーヴェは発砲。
 鳴り響く銃声が、仮眠中の仲間たちを起こしたはずだ。
 ザリ、と。
 暗闇の中で足音が鳴る。
 揺れる篝火の明かりの中、首の無い人影が2つ。
 全身から砂を零しながら現れたそれは、先だってヘイズルとラダが見たという首の無い2体のミイラであった。
「……日中、見かけないと思ったが砂の中で眠っていたのか?」
 ミイラ2体を睥睨し、シラスがポツリと声を零した。
 
 疾風。
 否、それは砂漠を駆ける黒毛の獅子である。
「なんかありゃ一瞬で駆けつけてやるって言ったしな」
 遺跡の外周を見回っていたルナが、銃声を聞いて拠点へ帰還しているのだ。
 そんなルナの視界には、火に寄せられるように遺跡へ向かうサボテンの群れがいた。
「まぁ、こういう役も必要だろ」
 地面を強く踏みつけて、ルナは駆ける速度をあげた。
 砂漠に一条。
 黒い風が吹き荒れる。

 時刻は少し巻き戻る。
 遺跡の中央、拠点の隅でイナリは黙々と石箱に向き合っていた。
 表面に張り付いた砂を刷毛で落として、石箱の開封作業を進めているのだ。深夜遅くまで作業を進め、どうにか開封の仕方は分かった。
 続きは明日、全員が揃ってから……という段になって、夜空に響く銃声を聞いた。
「えぇっと、南の方角からミイラ。東西からサボテン……西はルナさんが抑えているわね」
 銃声を耳にするなり、イナリは地図へ幾つかの小石や出土品のメダルを配置。地図は日中、ウィリアムが作製したものだ。
 なお、北の砂丘のサボテンは日中のうちに壊滅させている。
「東と南へ警戒を集中させて! 特に東から来るサボテン! 現状、フリーになっているわ!」
「心得た。東は馬車で封鎖する」
「ヘイズルは東へ! 高台か馬車の荷台に陣取って、確実に頭を狙うんだ。私はミイラを迎え討つ」
 イナリの指示に従って、アルトゥライネルとラダは迅速に行動を開始した。
 仲間たちが迎撃に移ったのを見送って、イナリは再び刷毛とナイフを手に取った。
 
 魔弾と銃弾が交差する。
 レーヴェの胸部を、ミイラの放った魔弾が射貫く。
 一方、レーヴェの放った銃弾は、女ミイラの左肩を撃ち抜いた。
 すっかり風化が進んでいたのか、ミイラの左肩が砕け、腕が地面へと落ちる。ミイラは杖を高く掲げて、次の魔弾をシラスへ向けて撃ち込んだ。
「っ……なんだ?」
 ぐらり、と。
 レーヴェの視界が揺らいだ。
 目の前にいるのが敵か味方か……その判断も覚束ない。今しがた撃った弾丸は、男のミイラの腰を掠めた。次に撃った弾丸は、シラスの腕を撃ち抜いた。
「ちっ……まいったな」
 空の薬莢を排出しながら、レーヴェはたまらず舌打ちを零す。フレンドリーファイアの危険がある以上、迂闊に牽制も行えない。
 けれど、しかし……。
「問題ないよ! しっかり狙って、魔弾を撃たすな!」
 脳裏に響くウィリアムの声が、レーヴェの意識を鮮明にする。
 途端に、意識にかかっていた靄が霧散した。

 馬車の車体に棘が刺さった。
 御者席に立つアルトゥライネルが、肩を押さえて地面に落ちる。見れば、肩から脇腹にかけて、無数の棘が突き刺さっているではないか。
 疾走するサボテンの群れが、次々に馬車へと体当たり。そのうち何体かは、アルトゥライネルへと襲い掛かった。
「アルトゥライネル! 待っていろ、すぐに……!」
「待て! 荷台から降りるな!」
 助けに向かおうとしたヘイズルを、アルトゥライネルは制止する。
 その間にも、サボテンたちがアルトゥライネルへ距離を詰め……。
「昼間サボってんじゃねー!」
 鈴音の放った光輝が一閃。
 サボテンの腕を、真っ二つに切り裂いた。

 夜闇に火炎の花が咲く。
 弓を手にしたシラスの前で、ミイラの腹が激しく爆ぜた。
 痛みを感じることは無いのか。
 斧のような大剣を手にミイラは疾走。シラス目掛けて、斬撃を放つ。
 砂の上へ倒れ込むようにしてシラスは斬撃を回避。けれど、完全には避けきれず左の腕に裂傷を負った。
 血飛沫が舞う。
 直後、先ほどまでシラスの頭があった位置を1発の弾丸が通過した。
 ラダの放った弾丸だ。それはまっすぐ、ミイラの手首を撃ち抜いた。手首から先を粉砕されてミイラは斧剣を取り落とす。
「今のうちに!」
 ウィリアムが叫んだ。
 好機と見たシラスは、弓を投げ捨て腕を一閃。
 まるで獣の爪のように。
 シラスの殴打が、ミイラの肘から肩にかけてを深く抉った。

 鐘の音色が鳴り響き、淡い燐光が降り注ぐ。
 ウィリアムの行使した回復術が、シラスの負った傷を癒した。
 ミイラは2体。
 ライフルにゴム弾を装填し、ラダは視線を左右へ揺らす。
 呼吸を止めて、引き金にかけた指に少しの力を込めた。
 銃声。
 放たれたゴム弾が、女のミイラの腹部を撃ち抜く。背骨がへし折れたのか、女のミイラが腰の位置から2つに割れた。
 地面に倒れたその手へと、ラダは素早く次弾を撃ち込み杖を砕いた。
 両腕と下半身を失ってなお、ミイラは前へと進もうとしていた。
「探し物が見つかれば静かに眠れるのだろうか?」
 ポツリと零したラダの声が、夜の闇に溶けていく。

「すとーっぷ! トドメはまだ刺すんじゃねー!」
 夜の静寂を切り裂く大音。
 鈴音の声だ。
 次いで、獣の走る足音。
 現れたのは、石箱を抱えたルナである。その背後には、だいぶ遅れてイナリの姿。どうやら箱の開封作業は無事に完了したようだ。
 
 石箱の中身は、干からびた男女の首だった。
「おそらく雨乞いの儀式か何かでしょうね。きっと2人は土地の権力者だったのよ」
 そう言ってイナリは、視線を2体のミイラへ向けた。
 男女のミイラは、ボロボロの体で石箱に収まる自分の首へと近づいていく。既に手足を失った女のミイラが箱へ寄り添う。男のミイラは斧剣を捨てて、残っていた腕を箱へ伸ばした。
 雨を乞うて、2人は犠牲になったのだ。
「きっと、民を救うため……だったのだろう。もっとも2人の願いは叶わずに、民たちはこの地を離れたようだが」
 アルトゥライネルが手にしているのは、すっかり萎れた花だった。風に吹かれてサラサラと崩れ去る花は、ここではないラサの辺境にだけ咲くというそれによく似ていた。
 2体のミイラは、いつの間にか動きを止めている。
 首を取り戻すという願いはここに果たされたのだから、もはやこの世に未練など無かったのだろう。
 後は、風に吹かれて崩れるだけだ。
「回収して、改めて埋葬だな」
「どうするヘイゼル。彼等を弔いながらここに住むか?」
 鈴音とラダが、視線をヘイズルへと向ける。
 サボテンと激闘を繰り広げたのか、ヘイズルは無数に細かな傷を負っていた。頬に刺さった棘を引き抜きながら、ヘイズルは眉間に深い深い皺を寄せ……。
「住むのならサボテンが居ない場所だな。それと屋根と壁は重要だ。暫く誰か泊めてくれ」
 なんて。
 溜め息混じりにそう言った。

成否

成功

MVP

長月・イナリ(p3p008096)
狐です

状態異常

レーヴェ・ブランク(p3p010731)[重傷]

あとがき

お疲れ様です。
遺跡の調査、および危険の排除は完了しました。
依頼は成功となります。

ヘイズルの集落候補地探しは今回も失敗に終わりました。
次こそはいい土地が見つかるといいですね。

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