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シナリオ詳細

再現性東京202X:あなたのいもうと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●良心はいつだって望んだ結果に繋がっているとは限らない
 痛い。痛い。
 その苦痛に叫びながら、頭の中で、冷静な何かが懸命に別のことを考えている。
 どうしてこうなったのだ、と。
 路地裏で、泣いている女の子と見つけたのだ。
 どうやら、姉を探しているらしく、その場でうずくまって、べそをかいていた。
 どうしたかってそんなの、声をかけたに決まっている。無視を決め込んでも良かったが、流石に暗い路地裏で、年端もいかない女の子がひとりだ。良心が仕事をしたとしても、仕方がないことだろう。
 だが、それがいけなかった。
「お姉ちゃん、やっと見つけた!!」
 こちらを見るなり、少女は満面の笑みを浮かべ、こちらに飛び込んできたように見えた。そして暗転。
 一瞬の気絶。そこから呼び戻したのは、強烈な痛みだった。
 痛い。痛い。
 首を千切られているような痛み。首を千切られ続けているような痛み。
 視界の端に、首のない死体が転がっている。
 気の所為ではない。あれは自分の死体だ。自分と同じ服を着て、自分と同じ体格で、自分がいたはずの場所で倒れて首を失っているのだから、あれは自分の死体に相違ないのだ。
 首がない。当然だ。だって首はここにある。身体にはとうに首がないのに。首だけになったこちらは、ずっと痛みを伴いながら生きている。
 そうだ、首はここにある。青白い女性の体の上に、アンバランスを承知の上で、ここにある。その体は赤ん坊を抱きかかえており、その赤ん坊が、こちらに手を伸ばしながら、泣いていた少女の声で「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と笑っている。
 だが、赤ん坊なのは身体だけで、少女であるのは声だけだ。その頭部には自分と同じくアンバランスに、鳥の頭が鎮座している。確か、かっこうという鳥だ。
 指一本動かせない。当然だ、首しか無いのだから。
 なのに、生きている。いや、それも終わりを迎えかけている。痛みが薄れていくのがわかる。正しくは、痛みを感じなくなっているのだろう。
 首が落ちる。自分がひっついている、誰のものともわからない身体から、首が落ちていく。そうして意識が失われる際に、泣いていた少女の声を聞いた。
「なあんだ、お姉ちゃんじゃなかったのね」

●正式手続きで反撃の鐘を打ち鳴らせ
『正直、ムチャもいいとこッスよー。なんとかねじ込んだッスけど、これっきりッスからねー?』
「へへ、ありがとね。無理なお願い聞いて貰っちゃって」
「調査と一緒に被害家族も洗って、依頼にこじつけて。もー、ボクこういうの専門じゃないッスよ。ちょっと、聞いてるッスかー?」
『猛獣』ソア(p3p007025)は、終話ボタンを押すと、ほっと一息をついた。まだ電話の向こうで相手が何かを言っていたような気がしたが、気にしない。
 運がよいことだ、と思う。
 希望ヶ浜でしか使用できないaPhone。ダメ元でかけた相手がたまたまここ、再現性東京にいたというのだから。電話相手の専門を考えると、どうしてこの近くにいるのかというそれには、一抹の不安を感じなくもないが、今は気にしても仕方がないことだろう。
 それに、無理なお願いを聞いてもらったものだ。
 ここ、希望ヶ浜で発生している怪異。その討伐依頼が出ているかを確認してもらい、まだ調査を終えていないというそれを、急ピッチで進めてもらったのだ。
 無論、このような無茶が普段から通るものではない。既に実害が出ており、緊急性が高いからこそ成立したものだ。
 それはともかくとして、ソアは後ろへと振り向き、ハンバーグを頬張っていた『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)に声をかけた。
「おっけ、依頼せーりつだね」
 その言葉に、青年は口の中のものを飲み下すと、水を一杯飲み干してから口を開いた。
「お、それじゃあ―――」
「いえす、反撃たーいむ」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

希望ヶ浜の路地裏に出現した怪異を討伐してください。

【エネミーデータ】
■路地裏のソレッラ
・首のない女性の死体に抱きかかえられた、鳥頭の赤ん坊。泣いている少女に擬態して、路地裏に入ってくる者を誘き寄せ、襲っている。
・攻撃力は非常に高いものの、鈍重。

◇お姉ちゃん、みぃつけた
・毎ターンの開始時に必ず発動する。
・距離、間にあるもの、マーク、ブロック、を無視して任意のキャラクターの影の中から現れる。
・行動はこのスキルとは別に行われる。

◇お姉ちゃん、もう離さないよ
・ダメージ無。
・近接。
・対象の首を切り取り、首のない女性の死体と融合させる。
・路地裏のソレッラが一定以上のダメージを受けるまで対象は行動不能となる。
・3ターンの間、連続してこのスキル効果を受け続けた対象は戦闘不能となる。
・男女の区別はない。
・このスキルによって死亡することはない。
・このスキルから開放された際、切断された首は元に戻る。

◇お姉ちゃん、どこにいったの?
・庇護欲をそそる幻覚が、戦う気力を失わせていく。
・戦闘開始後、ターン経過により、あらゆる判定にマイナス補正が累積されていく。

【シチュエーションデータ】
■路地裏
・見通しの悪い路地裏。道は狭く、建物が入り組んでいる。
・薄暗い。


・お気をつけください。

  • 再現性東京202X:あなたのいもうと完了
  • GM名yakigote
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年09月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
※参加確定済み※
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
越智内 定(p3p009033)
約束
※参加確定済み※
灰燼 火群(p3p010778)
歩く禍焔

リプレイ

●暫定的長女
 物心がついた時から、ずっと姉がいるものだと信じてきた。話したことはない。会ったこともない。だけど自分には、姉がいるのだとわかっていた。きっと、今は遠くにいるのだけれど、私のことを思ってくれている。そう信じて生きてきた。だから、どんなつらいことも耐えられた。耐えて、生きることが出来た。

 ひとつ道を外れれば、表通りの喧騒が嘘のように静まり返る。無音、ではない。人の声、足音、衣擦れ、機械音。それらは遠く遠くフィルター越しのように不明瞭なBGMとなって聞こえている。人の営みの音であるというのに、それらは寧ろ、警戒心の邪魔をして、不快なものに思えて仕方がない。
「私自身人ならざる者といえ、こういう悪辣さの抱き方はわからないわねぇ」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は件の怪異が持つ思考をトレースしようとして、組み立てを前に霧散させた。どれほどの怨念が込められていようと、命を奪い合う選択をしたのなら知る由もない。
「とはいっても、被害を出してしまっている以上放置はできないのよね。迅速に倒れてもらいましょうか」
「路地裏のソレッラ……ね」
 その行動の異常さ。怪異の持つ風貌と言動は、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の興味を引くものであるようだ。しかし、だからと言って根掘り葉掘りと調べるだけの時間は用意されていない。
「話を聞くだけでも、色々気になる事は多いが、私としてはこの街の住人に被害が出る前に、一刻も早く排除したいところだ。私個人としては、再現性東京という街を守ることが第一なのだから」
「ソレッラさんのことがとってもとっても気になっているのだわ」
 資料により、説明により、怪異の習性を見聞きして、『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はその異常性に疑問を抱く。どうして泣いている姿で現れるのだろうか。撒き餌として見るならばわかろうものだが、それにしては姉という存在に執着しているようにも感じられる。
「その能力を考えれば、入れ込みすぎる事が危険と、分からない訳ではないのだけれど」
「マジでいままでのはヤバいやつだったんだって! 華蓮ちゃん!」
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が力説している。どうやら、これまで敵対してきた怪異らが、どうにも異常性の極まったものばかりだったようだ。
「でも今回! 普通の! 怪異だ! ありがとう! うっうっ」
 普通だろうか、と皆が首を傾げた。礼を言うほどとは、これまでどれほど斜め上とばかりあたってきたのだろう。
「あの怖いやつ。魔物と呼んで良いのかすら分からない何かをやっつける」
『猛獣』ソア(p3p007025)が件の怪異から逃げ出したのは、ほんの数時間前のことだ。記憶に新しく、故に苦いものとなって喉の奥で凝り固まっているような錯覚に陥る。身体が感じているのは警告だ。逃げたままで良い。近づく必要はないと、全身が警告を発している。
「でもボクはただの猛獣じゃなくてイレギュラーズ。あれが人を襲ってるのを放ってはおけない」
「怖すぎる。首が取れるとか訳分からないし嫌すぎる。しかもちょうど会長に姉力を覚えたばっかりに、なんか狙われそうな気がする……!」
 首を切り取る怪異。それでも死ぬことは出来ず、ただ痛みだけが継続するという。想像するだけで、『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は思わずぶるりと震えた。
「……よし、こうなったら楽しくいこう。悲劇を喜劇に! 待ってろ、いまお姉ちゃんが行くぞ!!」
「どうみてもヤバい化け物だ、ヤバイ奴にはヤバイイレギュラーズをぶつけるのが定石ってものだろう? 僕を見てみなよ、イッツアレギュラー! 超普通!」
 せっかく拾った命を、どうして投げ返すような真似をするのかと、『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)。だけどその拳は固く握られている。
「じゃあ行かないのかって?行くよ! 此処まで来たらさ! それでも悪態は吐かないと前向きな気持ちで後ろへダッシュしそうだから言ってるだけさ」
「夜妖は『噂』とかの下地ありき、って話はどっかで聞いたことあるけどさぁ。姉妹っぽい発言をする割にはテクスチャは親子っぽいんだよな……産女辺りと混ざってるか?」
 この直前まで、『歩く禍焔』灰燼 火群(p3p010778)は怪異の出どころを纏めようと類似点のある伝承を探していたらしい。
「なんとなーく死産系かそこらかなぁ、とも思うけど、はてさて何が出てくるやら。藪に突っ込むのあんまり好きじゃないんだけど、藪自体が突っ込んでくるしなぁ、コレ」
 そこで立ち止まったのは、誰からだったろう。
 不意に聞こえ始めたのは、泣き声だ。
 まだ年端も行かぬ、少女の泣き声。
 しかしそれは、彼らの警戒心を極限にまで引き上げさせた。

●確認と散乱
 ある日、両親に尋ねてみた。自分の姉はどこにいるのかと。彼らはぽかんと口を開けたあとで、そんなものはいないと言い出した。嘘だ。どういう意図かはわからないが、彼らは自分と姉を遠ざけようとしているのだ。なにか小狡い計略で、私達を貶めようとしているのだ。そのような手に、乗ってなるものか。

 撒き餌。
 獲物に奇襲を行う際、用意される餌であるが、今更これが何だという話をするわけではない。
 何を言いたいのかと言えば、餌を撒く側は、獲物の存在に気づいているということだ。
 だから、イレギュラーズ達が少女の姿を見つける前に。
 その怪物は、彼らの影の中から現れた。
「お姉ちゃん、見ぃつけた」

●肯定するなかれ
 あるゆる静止を圧し切って、私は姉を探す旅に出ることにした。そうすることで、やっと自由になれる気がしたから。生まれ育った村に火をつける。もう、身体に痣をつくる日々はない。私は姉を見つけて、ようやく人生を開始するのだ。そのためなら、どのような障害も、大したことはない。

 怪異の言葉が聞こえたのと、ヴァイスが前方に大きく跳んだのはほぼ同時。
 奇襲を受けたと理解するよりも早く、体が先に動いていた。
 振り向けば、未だ、自分達がさっきまで居た場所で、影から身を引き出しているところだ。
「聞いていた通りの鈍足ね」
 ゆっくりと影から這い出る、首のない死体。それに抱かれた鳥頭の赤ん坊。その動きは単に鈍重であるだけか、それとも余裕の表れか。
 得物を構えながら、その有様を観察する。感情の機微はわからない。首のない死体はもとより、本体であると想定できる赤ん坊すら、頭は鳥のそれなのだ。飛行種ともまた違う、完全な鳥獣のそれ。しかし引っかかることはあった。
「かっこうって確か……」
 思案はそれまでだ。赤ん坊の首がぐるりと回り、こちらを向いたから。ぞぷりとなにかに沈み込むような音と共にその姿が消え―――ヴァイスは迷わず背後へと斬撃を繰り出した。
「人を化かすなんて悪い子ね……お仕置きよ」

 一瞬、貧血に近いめまいを感じて、ゼフィラは自分の額を抑えながらたたらを踏んだ。
 視界がわずかにブレる。鳥の頭で、身体は人間種に酷似した赤ん坊。その不快な容姿が、泣いている少女の姿とうっすら被っているのだ。
 その姿は、徐々に鮮明さを得て、同時に、怪異への嫌悪感が薄れていくのを感じていた。
「こりゃやっぱり、長引かせると不利だね……」
 呟きと同時、発生させた無数の術式弾を一斉掃射。点の集合体による殺意の幕が怪異を襲う。
 胸の内に起きる罪悪感を、敵の攻撃だと自分に言い聞かせて抑え込む。
 時間が経つほど、この感情はきっと、今の自分を塗り替えていくだろう。早く倒してしまわなければ、それこそ自分のことを姉だと信じてしまいかねない。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
 ずきりと胸が痛むのも錯覚だ。大丈夫。まだだ、まだ戯言を繰り返す鳥にしか見えていない。
 次弾術式を構築。展開。次の引き金には、コンマ幾つかの逡巡があった。

 どうにも、嫌な予測が華蓮の頭の中でささやき続けている。
 首のない死体。鳥頭の赤ん坊。姉を探している。路地裏に限定される。首をすげ替える。
 それだけの情報があれば、類似した事件を調査できると思っていた。その経緯を辿ることができるのではないかと。
 その結果は、彼女の想定と大きく反するもの。
 鳥と少女、首を切られた姉。そのような事件は影も形も見当たらず、代わりに、十数件、同様の怪異被害と思われるそれが、異なる複数の場所で発生していることに気づいた。
 それが、ひとつの予測を生む。
 怪異『路地裏のソレッラ』は単一個体ではないのではないか。
 それが正しければ、どの路地裏にも、入り込んだ薄暗い先には、これが発生している可能性がある。
 首を振り、いっぱいになりそうな不安を掻き消した。
 いまは、それを気にするよりも、目の前のソレッラだ。
「貴女の事は気になるけれど、ごめんなさい、先ずは街の人達の安全が先なのだわ……」

 首を押さえて蹲りながら、秋奈は短い口呼吸を繰り返す。
 喉も、首の後ろも、横も、せわしくなく触れては、ちゃんとあることを確かめる。いや、ちゃんと胴体に引っ付いていることを確かめる。
 戻ってる。首がちゃんと、身体に戻ってる。
 ほっとすると同時に、背中に冷たいものがぞわりと流れた。
 首を切られた痛みを、首がない痛みを、しっかりと覚えている。
「はは……どんなやばたんだよ」
 自分に命令する。無理矢理でも口角をあげろ。まだ戦いは終わっていない。戦線を維持しろ。テンションをアゲていけ。
「よっしゃオラー! 音呂木の巫女なめんなおらー! ダメだったら後がすげー怖いからよ!」
 自身を奮起させる。痛みよりも恐怖よりも、仲間を守ったことを誇れるように。
 だから、再び刃を手に取り、顔を上げて、一瞬、呆然とした。
「あれ? どっちを? どっちを守ってあげなきゃいけないんだっけ?」
 誰を守るんだったっけ。いやいや、思い出せ、仲間だ。仲間を守るんだ。
「そんな複雑な私ちゃんゴコロ……というかなんというか、妹?」

 術式にて味方の傷を癒やしながら、火群は状況が悪化の一途を辿っていることに気がついていた。
 傷を癒やしきれていないのではない。深刻なダメージを積もらせているのは、身体よりも精神の方だ。
 どれだけ体の傷を回復させたとて、路地裏のソレッラが持つ幻覚を遮断することが出来ない。既に火群にも、怪異の姿は鳥頭だけでなく、泣きじゃくる少女の姿がダブって見えている。
 いや最早、少女の姿のほうが色濃く、攻撃に躊躇いがないかと言われれば嘘になる。このように幻覚だと考えている思考すら、いつまで保つことができるのか。
 しかし、傷を負っているのはこの化け物も同じであるはずなのだ。
「そもそも、さぁ。お姉ちゃんらしき身体が『夜妖』として首がない時点で、お前の探してる奴は見当たらない訳よ」
 泣いているから、許される訳では無い。泣いているから、救われる訳では無い。
「泣いて縋って来てくれるのはあくまで親切なだけの近所の人だ。探すなら―――或るべき場所に還れよ」

「え、なになに会長いまどうなってんの!? 会長の身体が遠くの方に見えるんだけど!!!!??」
 茄子子はそのように叫んだ、つもりだった。実際には、痛みのせいで呂律も回らず、ただ無秩序に泣き叫んでいるように聞こえるばかりであったが。
「えへへ、もう離さないよ、お姉ちゃん」
 可愛い妹が声をかけてくれる。なんて可愛らしいのだろう。その笑顔の為ならなんだって許せそうな気がする。
 わけがなかった。
「やだやだやだやだ! お姉ちゃんそういうのまだ早いと思うな!! 首すげ替えはもっと大きくなってからにしないかな!!??」
 行動できないほどの激痛。それは幻がどうとか少女がどうとかよりとにかく頭が痛みでいっぱいになる。
「お姉ちゃん、だいすきだよ」
 そんなことより痛いのである。幻覚与えるなら痛覚までどうにかしてくれないか。なんで自己能力で相反してるんだこいつ。
「会長これでもいっぱいいっぱいなんだから、早く助けてね……!!」

 死体の上に乗った仲間の頭を引っ掴むと、ソアは後方に思い切りぶん投げた。
 そのまま、投げた腕を振りかぶる代わりとし、思い切りその死骸を引き裂いてやる。
 強力な攻撃による反動がその身に翻るが、構いやしない。どうせ出し惜しみをしたって、あと何分も正気を保てやしないだろうと、頭の中でわめくそれに感じていた。
 妹だ。かわいい。守ってあげなくちゃ。一緒にいなきゃ。お姉ちゃんなんだから。かわいい。だいすき。助けてあげなきゃ。
 うるさい。
 脳内で騙されている自分ががなり立てている。それを押しやって、聞こえないふりをして、もうわずかにしか残らない正気の自分だけで立っている。爪を振るっている。反撃している。
 妹が、だいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすきだいすき。
「お姉ちゃんは!!」
 声を大にして、喝を入れるように。あるいは、渾身の一打を奮い立たせるように。
「お姉ちゃんはここよ、どこにいくの?」
 さあ全身に力を込めて、奥歯を痛いほどに噛み、必殺の意志を持ってアスファルトを踏みしめろ。

「誰がお姉ちゃんだっての……どうせなら可愛い声でお兄ちゃんって呼んでくれればさあ!」
 せめて怖さは和らいだのにと、傷ついた身体を誤魔化すように定は嘯いた。
 怖い。ここに至って、戦闘はとうに始まっていて、むしろ終わりすら見えていて、お互いに傷つき、生命を賭していて、しかしなおのこと、この化け物が怖い。怖くて怖くてたまらない。
 自分が塗り替えられていく。首を切られ、愛おしそうに抱かれながら痛みに耐え続けるよりも、刻一刻と自分がこの妹を愛しいと感じていくことに恐怖を覚えている。
 良心は戦うなという。心は少女を守れという。意志は優しく抱きしめてやれという。思いは愛を感じているという。
 それでも善性だけが、怒りを忘れるなと言う。
 思い切り、思い切り拳を叩きつけた。荒れ狂う刃。少女が無惨な傷を負う。その奥で、かっこう頭の化け物が苦しんでいる。
 一層、拳を強く握る。大地を割れとばかりに踏み込み、燻り続けた何かを纏わせるように、そしてもう一歩、強靭の怒りを持って前へ。
「次に生まれて来る時はちゃんとした妹として生まれて来るんだぜ!!」

●愛情とか
 という記憶を持って生まれた怪異。

 精根尽き果てて倒れていたのはどれくらいだったろうか。
 怪異が消え去っても、路地裏の薄暗さは変わらない。喧騒が遠く聞こえるのも、何も変わっちゃいない。
 それでも、霞みがかったものが晴れたように、頭の中はすっきりしていた。
 それで気が抜けたのだろう。
 誰かの腹が盛大に鳴る。
 それを聞いてひとり、起き上がると皆に提案をした。
「ごはんにしようよ! 美味しいホイル焼きハンバーグのお店、知ってるんだ!」

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

まいしすたー。

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