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シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>運ぶは西瓜 狙うは鯨

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●巨鯨の襲撃
 夜のダカヌ海域を、巨鯨が泳ぐ。何かを、執拗に探すように。
 ふと、巨鯨がピクリとその身体を震わせる。探している何かを見つけたのだ。
 その何かに向けて、巨鯨は一直線に海中を突き進む。余程執着しているかのように。
 巨鯨が向かっている先には、シレンツィオリゾートに向けて航行中の船舶があった。その船舶は、迫り来る危機を未だ知らない。

 船舶までおよそ九十メートルと言うところまで至ると、巨鯨はガバッと大きく口を開けた。その中からは、無数のダツが飛び出していく。ダツ達は真っ直ぐ船舶へと突撃し、その船体に接触した。
 ドォーン! ドォーン! ドォーン!
 ダツ達が接触した瞬間、連鎖的に爆発が発生し、水柱が上がる。ダツ達が自爆したのだ。
 船舶は爆発に耐えきれず、船体を粉々にされて轟沈。海面には、何体もの死体がぷかぷかと浮かぶ。
 船舶を沈めた巨鯨は、それで目的を果たしたと言わんばかりに、次の標的を探すべくこの場を去った。

●輸送船を護れ
 豊穣は水都(みなと)領、醍葉(だいば)島。
 その醍葉島に、水都領の領都朝豊(あざぶ)を拠点とする商人外村 伝衛門、ローレットの情報屋『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)、そしてヒィロ=エヒト(p3p002503)や美咲・マクスウェル(p3p005192)をはじめとしたイレギュラーズ達が集まっていた。
「今回は如何したの? 伝衛門さん」
「へぇ、ヒィロはんらにはこないだ、ヴァンパイア・ウォーターメロンの収穫でお世話になったばっかりでっけどな。
 もういっちょ、困った問題がありまして……そのヴァンパイア・ウォーターメロンが、シレンツィオリゾートに運べまへんのや」
「……如何言うこと?」
 思わず、美咲が伝衛門に聞き返した。

 ――この時点で、これまでの経緯について触れておきたい。
 醍葉島の島民達は元々漁で口に糊していたが、深怪魔の出現により海乱鬼(かいらぎ)衆と呼ばれる海賊に身を落とさざるを得なくなった。海賊となった醍葉島民達は水都領主の依頼により止められたが、被害の賠償や醍葉島民達の生活の保障と言う問題が残った。
 水都領主はその問題を解決するために伝衛門からの助力を得たが、伝衛門にとってもその額は正直なところ重い。それに醍葉島民を自立させられるならそれに越したことはなく、伝衛門は醍葉島に商材がないか探した。
 その結果見つけたのが、ヴァンパイア・ウォーターメロンと言う醍葉島の奥地に自生する吸血植物だ。この実は美味で、醍葉島の特産品として売り出せば間違いなく売れるものだったが、収穫しようにも吸血してきて危険だと言うことで、ヒィロや美咲らイレギュラーズが実の収穫を行った。
 あとはこれをシレンツィオリゾートや高天京で売り出せばめでたしめでたし、となるはずだったのだが……。

「醍葉島とシレンツィオリゾートの間の航路で最近、シレンツィオリゾートに向かう船が次々と沈められているのさ」
 美咲の問いに、ユメーミルが答える。
「つまり、今回のボク達のお仕事は、ヴァンパイア・ウォーターメロンを運ぶ船の護衛って事?」
「そう言う事だね」
 依頼内容を察したヒィロの問いにも答えたユメーミルは、依頼の詳細についての説明に入っていく。その中でも、ユメーミルは特に注意すべき敵としてウンターガングヴァールと呼ばれる巨鯨に触れた。
「沈められた船の生存者によると、最近船を沈めて回ってるのは大体こいつらしくてね。
 ナリは鯨なんだけど、種類としては最近出現している虚滅種(ホロウクレスト)で間違いないね。
 生存者達は皆、リヴァイアサンの気配を感じたそうだよ」
 リヴァイアサンの名が出たことに、イレギュラーズ達は一瞬ざわついた。だが、あくまで気配がするだけでリヴァイアサンそのものではないとユメーミルが説明すると、イレギュラーズ達も落ち着く。
 それを見計らって、ユメーミルは説明を再開した。
「あとは……そうだね。こいつの特徴としては、スーサイド・ダツと呼ばれる魔物を放って標的を攻撃すること。
 それから、虚滅種は海嘯と呼ばれる波を攻撃に使ってくることが多いんだけど、こいつはそれを防御に使っていることだね」
 そこまで説明すると、ユメーミルは伝衛門に締めの発言を促した。
「シレンツィオリゾートに運べれば、ヴァンパイア・ウォーターメロンが売れるのは間違いありまへん。
 でっから、どうかヴァンパイア・ウォーターメロンがシレンツィオリゾートに届くよう、皆はんのお力添えをお願いしますわ」
 そう言うと、伝衛門はイレギュラーズ達に向けて深々と頭を下げる。それに合わせて、ユメーミルも頭を下げた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は『住まうは醍葉 救うは西瓜』の後日談となるシナリオをお送りします。
 ヴァンパイア・ウォーターメロンは収穫できましたが、それをシレンツィオリゾートに運ぶにあたって、問題が起きました。と言うか、状況的にこうなるだろうと言うことで、『住まうは醍葉 救うは西瓜』ではヴァンパイア・ウォーターメロンが売れると確信する描写はしても、ヴァンパイア・ウォーターメロンが売れたと言う描写は敢えてしなかったのですが。
 さて、成功条件はヴァンパイア・ウォーターメロンを運ぶ輸送船の護衛完了ですが、リプレイ構成や判定処理の関係上、ウンターガングヴァールとスーサイド・ダツ以外の魔物については問題なく対処出来たものとします。
 なので、皆さんは索敵を含めウンターガングヴァール戦に焦点を当ててプレイングを行って頂ければと思います。

●成功条件
 輸送船がシレンツィオリゾートに無事到着する
(事実上、ウンターガングヴァールの討伐)

●失敗条件
 輸送船の轟沈

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 ダカヌ海域の海上。時間は夜、天候は晴天。波はなし。
 なお、暗視を可能にする装備が貸し出されるため、視覚によるペナルティーは発生しません。
 自前で暗視を可能にするスキルや装備を用意していた場合、若干有利に判定されます。
 水中行動に関しては、後述の●特殊ルール『竜宮の波紋・改』をご覧下さい。

●初期配置
 イレギュラーズ達の索敵、及びその行動次第で変動します。

●ウンターガングヴァール ×1
 シレンツィオリゾートを往来する船舶を狙っては次々と沈めている、虚滅種(ホロウクレスト)です。
 巨体故に生命力は高く、一方反応や回避は低くなっています。

・攻撃手段など
 スーサイド・ダツ放出
  口からスーサイド・ダツを放出します。一度に放出されるのは、3D6+15体です。
  なお、後述する海嘯の盾がスーサイド・ダツを保護するため、口から出たばかりのスーサイド・ダツをまとめて殲滅する戦術は不可能となります。
 海嘯の盾
  自身の周囲に激しい波を循環させます。この波によって、近距離以内で戦闘を行うPCは命中と回避に大きなペナルティーを受け、中距離以遠からの攻撃はダメージが半減されます。
  また、毎ターン終了時、この波の中(近距離以内)にいるPCは特殊抵抗判定を行い、失敗すると【毒】【猛毒】【致死毒】【廃滅】のBSを受けます。
 優先目標:シレンツィオリゾートを往来する船舶
  自身から200メートル以内に該当する船舶がある場合、それを優先して攻撃します。この挙動は、【怒り】に優先します。
 BS緩和
 【封殺】無効

●スーサイド・ダツ ✕?
 ウンターガングヴァールの口から放出され、標的に自爆攻撃を仕掛けるダツです。魔物の種別としては狂王種。
 攻撃力と、ホーミングしてくる関係で命中が高くなっています。一方で防御技術、抵抗は低く、生命力は威力1000前後の攻撃が普通に命中すれば一撃で撃破できる程度です。
 放出される時は当然ウンターガングヴァールの反応に合わせることになりますが、放出されてターンが切り替わるとそれなりに高い反応で行動します。
 標的に命中して自爆すれば、死亡します。なお、範囲攻撃の一発で殲滅させられないように、ウンターガングヴァールから放出されるとある程度分散しながら標的に向かいます。

・攻撃手段など
 自爆特攻 物超単 【移】【変幻】
  ウンターガングヴァールが設定した目標に突っ込みます。

●関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『 <潮騒のヴェンタータ>一角獣の鎧の少女』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8158
 『住まうは醍葉 救うは西瓜』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8242


----用語説明----

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio


 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <竜想エリタージュ>運ぶは西瓜 狙うは鯨Lv:20以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年09月22日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ

●醍葉島にて
「なんだい? その、『ヴァンパイア・ウォーターメロン』ってのは……?」
 ヴァンパイア・ウォーターメロンをシレンツィオ・リゾートへと運んで欲しい。その依頼を聞かされた時、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は首を傾げた。依頼人の外村 伝衛門は縁の疑問に、ヴァンパイア・ウォーターメロンは醍葉島に自生する吸血西瓜の果実であると説明する。
「いやまあ、特に害のある代物じゃねぇなら何だっていいんだが……。
 要は、そいつを無事に輸送できるように航路を確保しろって話かね」
「へぇ。端的に言えば、そう言うことですわ」
 ですさかい、よろしゅうお願いしますわ、と伝衛門は縁に頭を下げた。
「あの美味し~いスイカを海の藻屑にするなんて許せないよ! あ、もちろん船がいっぱい沈められてることも!」
 虚滅種ウンターガングヴァールが船を沈めて回っていると言う、醍葉島とシレンツィオ・リゾート間の航路の状況を聞いた『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は、そう憤りを露わにする。
「絶対ぶっ倒してここを安全にして、お金がザクザク稼げる黄金航路にしよー!
 伝衛門さん、ボクへの交易の配当金はスイカでいいからね」
「そうなると、配当金の支払いは来年の夏になりますなぁ」
「あはっ」
 冗談めかした伝衛門の答えに、ヒィロはつい笑ってしまった。
「安心しな! その西瓜は、俺達がきっちり届けてやる! 鯨がデカいとはいえ、リヴァイアサン程じゃない」
 ドン! と胸を叩いて伝衛門にそう告げたのは、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)。その自信満々な様子に、伝衛門も安心した様子だ。
「それはそれとして」
「へぇ」
「上手くいったら、西瓜を一つぐらい貰ってもいいだろ?」
「ええ。そら、もちろんかましまへん」
 土産として持って帰れば娘である碧も喜びそうだとジェイクが申し出れば、伝衛門は笑顔を浮かべて快諾した。
(リヴァイアサン……嘗て海を隔てていた彼の龍神の名前ですわね。
 神使様たちが神威神楽にいらしてから然程の時も経っていない筈ですが、随分と昔の事のように思えます)
 ジェイクと伝衛門の会話を聞いていた『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)は、ジェイクが口にした「リヴァイアサン」と言う単語に、イレギュラーズら達が海を渡りカムイグラに到った時のことを懐かしく思い出していた。

「話には聞いていたけれど、これが吸血西瓜か」
 輸送船の倉庫で、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は中に積まれたヴァンパイア・ウォーターメロンの実物を目にし、ポンポンと叩いてみる。
「なるほど、身がしっかり詰まっていて美味しそうだね」
 これなら、シレンツィオまで運べれば舌の肥えた良客の間で評判になるだろうとは、史之も思う。ただ。
「――持っていければ、だけどね」
 それは、まだ仮定の話でしかなかった。
「海がまともじゃないから漁ができず漁民が困窮して……だものね。海上流通も滞ると言われれば当然だけど。
 今回討伐してもきっと一時しのぎ……猶予を作って根本対処しないと」
 『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は、今回の件の端緒に触れて、はぁ、と嘆息した。
 そもそもこの件は、ダガヌ海域に深怪魔が出現した事に始まる。それで醍葉の漁師が漁で生計を立てられずにやむを得ず海賊となり、イレギュラーズを通じて海賊行為を止めて被害者に賠償した領主に乞われて金銭的に助力した伝衛門が、その負担を軽減するためと醍葉島民の自立とのために新たな商材を探してヴァンパイア・ウォーターメロンが発見されたと言う経緯があった。
 そして、美咲が言及したように、ダガヌ海域で深怪魔や虚滅種の出現が続いている現状、ウンターガングヴァールを討伐してもまた次の深怪魔や虚滅種が出現してくることは、否定出来なかった。
(何を思って、シレンツィオに向かう船を沈めてるのかしらね……?)
 『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は、ウンターガングヴァールの行動にそう疑問を抱いた。だが、考えても答えを見出すことは出来ない。
「まぁいいわ、豊穣で何かあるとどこかのお人よしがまた巻き込まれそうだし、その前に一肌脱いじゃいましょ」
「ああ、そうだな。スイカの運搬は勿論だが、他に往来する船のためにも虚滅種の討伐は必須だからな」
 思考を切り替えたオデットがウンターガングヴァール討伐への意気を見せると、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が頷いた。

●スーサイド・ダツ、グレイスフルイザベラ号に届かず
 醍葉島を出た三隻の船が、闇夜のダガヌ海域を進んでいく。一隻はヴァンパイア・ウォーターメロンを運ぶ輸送船。そして他の二隻は、輸送船の囮となるために史之が用意した小型船「グレイスフルイザベラ号」と、イズマが用意した小型船だ。まずグレイスフルイザベラ号が先行し、次いでイズマの小型船、そして輸送船と続いている。
 さらに、ウンターガングヴァールを早期に発見するべく、イレギュラーズ達は様々な手段で索敵の手段を講じていた。縁はグレイスフルイザベラ号の舳先に立って前を監視し、オデットは自ら飛行してグレイスフルイザベラ号に先行し、空から索敵。ジェイクは使い魔の鳥を二匹召喚すると、左右に飛ばしてやはり空から索敵させている。そして輸送船の上空では式神『羽仁和邇』に乗った玉兎が、仲間の索敵網を抜けてウンターガングヴァールが襲撃して来たりしないか監視し、水中では美咲がエコーロケーションのスキルをソナー代わりに活用して探査していた。
「――十一時の方向、感あり、ね」
 最初にウンターガングヴァールを察知したのは、美咲だった。これは、空気中よりも水中の方が音が素早く伝わり、しかも減衰しにくいことによる。故に、まだかなり離れた距離にいるウンターガングヴァールを、真っ先に察知できたのだ。
 美咲が仲間達にウンターガングヴァールを発見したと伝えると、グレイスフルイザベラ号が速度を上げ、イズマの小型船も追随。輸送船は戦闘が終了するまで巻き込まれないようその場に待機することとなった。

 グレイスフルイザベラ号を狙い、三十体ものダツが迫る。ウンターガングヴァールの口から放たれた狂王種、スーサイド・ダツだ。この海域で航行する船が沈んでいるのは、実際はこのダツの自爆攻撃によるものである。
「伝衛門さんの商品も、皆の船も、やらせないよ!」
 ウンターガングヴァールと小型船の中間地点で、ヒィロが限界まで闘気を高めて、より多くのスーサイド・ダツを巻き込める位置に突入していく。その闘気に当てられて、ヒィロの周囲にいる五体のスーサイド・ダツが、ヒィロに――のみならず、何体かは別のスーサイド・ダツに――標的を変えた。
 ヒィロの左右を抜けていったスーサイド・ダツだが、イレギュラーズ達が易々と小型船や輸送船へ通すはずがない。
「この先には俺の大事な船があるからね。ここで、俺に構ってもらうよ」
 船上からでは迎撃が間に合わないと見て水中に入った史之は、左側から迫るスーサイド・ダツらの中に突入すると招くように自身の存在を誇示する。十体のスーサイド・ダツが、標的を史之に変えた。なお、魔力障壁を展開している史之は、いくらスーサイド・ダツに自爆されようとも傷つくことはない。
「降り注げ鋼の星――その暴威にて、小魚共を薙ぎ払え」
 玉兎のその声に応じて、天から巨大な隕石サイズの鋼の星が降ってきた。星は水中に入っても、抵抗など関係しないかのように速度を落とさず進み、右側にいるスーサイド・ダツの十体を轢き飛ばす。その衝撃に耐えきれなかったか、星に轢かれたスーサイド・ダツは力尽き、ぐったりとして動かなくなった。
 残る五体も、グレイスフルイザベラ号に至ることは出来なかった。
「悪いが、ここは通行止めだ。この先には、行かせねえ」
 史之と同じく水中に入った縁が、これ以上は突破させないと言わんばかりに、青刀『ワダツミ』を横薙ぎに振るう。その一閃は五体のスーサイド・ダツを逃さず捉え、ザックリとその身を斬ると同時に、標的を縁に変えさせた。
「あとは頼んだぜ、嬢ちゃん」
「任せておいて! 輸送船がリゾートに到着できるように、頑張るよっ!」
 縁の言葉に意気込んでみせた『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)は、縁に斬られたスーサイド・ダツを堕天の輝きで照らし出す。輝きの呪いに蝕まれた五体のスーサイド・ダツは、既に縁に斬られていたこともあり、その生命が尽きてただ海中を漂うだけとなった。

 イレギュラーズの半数が放出されたスーサイド・ダツに対処している間、もう半数のイレギュラーズはさらに先に進み、その大元であるウンターガングヴァールへの攻撃を敢行していた。
「これで、奴から出てくるダツが俺の方を狙ってくれればいいんだが……」
 ジェイクは、ウンターガングヴァールの表面を掠めるように、「狼牙」と「餓狼」の二丁で立て続けに魔力の篭もった銃弾を撃ち込んだ。目的はウンターガングヴァールを挑発し、その標的をジェイクとさせることだ。
 ウンターガングヴァールは苛立ったようにその巨体を震わせたものの、ジェイクを標的とすることはなかった。何故なら、ウンターガングヴァールにとって沈めるべき船がこの場に二隻もあり、ジェイクを攻撃するよりもそれを優先したからだ。
「クジラ漁、なっかなか楽しいことになってるじゃねえの」
 『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)は飛行しつつ、ウンターガングヴァールを真上から見下ろし、そう独り言ちた。
 だが、そんなカイトにとっても懸念はある。愛し合っているリリーがついてきてしまっていることだ。カイトとしては、危険故に後方で観戦していてほしいところであった。
「――ま、さっさととっちめれば解決だな! さあさ、狩りの時間だぜ! クジラ漁なら任せな!」
 カイトはそう結論づけると、紅い彗星となってウンターガングヴァール目掛けて急降下し、水中に飛び込んだ。そして、水の抵抗など物ともすることなく、ウンターガングヴァールに体当たりをかける。それを受けて、ウンターガングヴァールの巨体がわずかながらグラリと揺れた。
 ウンターガングヴァールは反射的に、崩れたバランスを元に戻そうとするが、それは後に続く者への隙となる。
「これだけ大きいなら、捌き甲斐はありそうね」
 手にした包丁で、美咲はウンターガングヴァールを斬りつける。とても包丁で付けたとは思えないような深く長い傷が、一つ、二つ、三つ、四つとウンターガングヴァールの巨体に刻まれていった。特に、最初の一つは深々と入っている。
「行くぞ! 史之さんの船も俺の船も、沈ませない!!」
 イズマは歌うかのような祝福の和声を自らの周囲に響かせ、ウンターガングヴァールの瘴気に抗する力を自らに付与した。そして、波に対しては波とばかりに、味方を巻き込まないよう注意しながら幾重にも波を起こしていく。イズマの起こした波は、いくらかはウンターガングヴァールの周囲を循環する波に相殺されたものの、美咲が斬った傷に違わず命中してその傷を拡げた。
「狙うならそこね! 行くわよ!」
 傷に塩、ではなくフルルーンブラスターを叩き込むべく、オデットも海中に入り、味方が付けた傷のすぐ側まで接近する。そして、魔力を掌の一点に集中すると、掌打を傷に叩き付けた。凝縮された魔力が爆ぜて、ウンターガングヴァールの傷口はグチャグチャに崩れてより拡がっていった。

●弱りゆくウンターガングヴァール
 ウンターガングヴァールからは幾度も幾度もスーサイド・ダツが放たれたが、イレギュラーズ達の防衛によって、グレイスフルイザベラ号にもイズマの小型船にも全く到達することが出来なかった。その間にも、ウンターガングヴァールはだんだんと傷を負わされていく。
 やがて、スーサイド・ダツがもういなくなったのか、それとも無益と悟ったのか、ウンターガングヴァールはスーサイド・ダツを放出するのを止めた。そして、身体の周囲を循環する波を尾に集めると、それを推力として前進し始めた。美咲がウンターガングヴァールの前に残像を発生させながら斬りつけ足止めを図るも、波によって勢いづいたウンターガングヴァールは完全には止めきれない。
 グレイスフルイザベラ号まで四十メートル弱の地点まで至ったウンターガングヴァールは、波のブレスを吐いた。しかもただの波でなく、流れが渦巻いてドリルのように突き進んでいく。
「!?」
 ブレスはグレイスフルイザベラ号に命中し、その船体に多大なダメージを与えた。次に同じ攻撃を受ければ、グレイスフルイザベラ号は沈む危険性が高い。
(穴を開けられる程度なら、シレンツィオのためと言えば陛下も納得して下さるかも知れないけど……!)
 さすがに沈められてしまっては、船に御名を賜った敬愛する女王イザベラ陛下に顔向けが出来ない。故に、史之はグレイスフルイザベラ号の盾となり、いくら傷つこうともウンターガングヴァールからの攻撃をその身で受け止めることにした。

「美咲さん! 今だよ!」
「ええ! 任せて、ヒィロ! 斬って斬って、斬りまくるわ!」
 ヒィロが自らの闘志を漲らせ、ウンターガングヴァールへと叩き付ける。その闘志にピクリと反応した隙を衝き、美咲は包丁で斬りかかった。二人が得意とする、黄金の連携だ。
 既に幾度も斬り拡げられている傷を掘り進むように、包丁はスイスイとウンターガングヴァールの肉を斬り裂いていき、ついには筋肉の奥の内臓にまで傷を及ぼした。内臓を襲う激痛に、ウンターガングヴァールはその巨体を捩らせる。
「邪魔な波が無いってんなら、こいつを叩き込んでやる。あのドデカい頭を、貪り食ってやれ!」
 ウンターガングヴァールの周囲を循環して盾となっていた波が移動と攻撃に転用され、遠距離からの攻撃を遮る障害がなくなったのを見て、縁はここが勝負所だと携行品「ウェルカム・竜宮」を使用した。そして、漆黒の大顎を召喚すると、ウンターガングヴァールへとけしかけた。
 携行品によって強化されている大顎は、縁が指示したとおりに、バリボリとウンターガングヴァールの頭部を貪り食らっていく。
(――俺も、畳みかけるとするか)
 ウンターガングヴァールの身体を循環する波が無くなったのなら、狙撃が遮られることも無い。大顎に貪られた痕を狙い、ジェイクは「狼牙」と「餓狼」の二丁でそれぞれ狙撃した。無論、ただの狙撃ではない。その一射一射が、生命を嘲笑い奪い去る死神の如きものだ。二つの銃弾は深々と貪られた痕に突き刺さり、奥へ奥へと貫通していった。まるで頭の中の銃弾を追い払おうとするかのように、ウンターガングヴァールは頭部をブンブンと振る。
「虚滅種を仕留めるまで、諦めるものか!」
 波の連発で消耗した気力を、携行品「光芒パルティーレ」で回復したイズマは、ウンターガングヴァールの頭を狙い次々と波を起こした。幾重もの波が、ウンターガングヴァールの頭に打ち付けられる。
「天より来たれ鋼の星――その暴威にて、彼の鯨を打ち据えよ」
 イズマに続いて、玉兎がウンターガングヴァールの頭部を攻撃すべく、天から鋼の星を喚んだ。星は玉兎の命じたとおり、ウンターガングヴァールの頭部に落ちた。幾重もの波と鋼の星を頭部に叩き付けられた衝撃は大きかったのか、ウンターガングヴァールの頭は朦朧とした様子でふらふらと揺れる。
「あと少しだねっ! リリーも行くよっ!」
 ウンターガングヴァールが明らかに弱っている様子に、リリーは戦闘の終了は近いと見た。そして、改めて気合いを入れ、追撃にかかる。タン、タン、タン、タン、タン、タン。魔導銃「DFCA47Wolfstal改」から六発の弾丸が撃たれ、ウンターガングヴァールの頭部の中へと消えていった。これもただの連射ではなく、呪いを纏った魔法の弾丸と、無造作なようで計算され尽くした緻密な射撃とを撃ち分けている。この攻撃にウンターガングヴァールは大きな反応を示すことはなかったが、もう大きな反応をする余力がないようにイレギュラーズ達には見えた。
「ああ、もうすぐだな。この鯨は食べられないだろうが――」
 ヴァンパイア・ウォーターメロンを無事に届ければ、シレンツィオ・リゾートで愛するリリーと共に味わうことが出来る。敢えて口には出さなかったその時を迎えるためにも、カイトにとってウンターガングヴァールは早々に討伐したいところだった。
「オデット! 合わせてくれ!」
「ええ、いいわよ!」
 カイトはオデットに声をかけると、水中から空中へと飛び上がる。そして、紅の彗星となって水中へとダイブし、ウンターガングヴァールの背に体当たりをかけた。ぐらり。カイトの体当たりを受けたウンターガングヴァールの巨体が、これまでよりも大きく揺れる。
「早く沈みなさいよ、こーのデカブツぅ!」
 美咲が斬り拓いた筋肉の層の奥へと入り込んだオデットは、そのタイミングで魔力を凝縮した掌打を露出している内臓に叩き付けた。オデットの掌の周囲の内臓が、ボッ! と爆ぜる。内臓を魔力で直接攻撃されたウンターガングヴァールの巨体は、ガクガクと痙攣していた。

 その後、ウンターガングヴァールは弱り果てながらもグレイスフルイザベラ号に波のブレスを吐いたが、史之に全て止められた。それは最早最後の足掻きに過ぎず、程なくしてウンターガングヴァールはイレギュラーズ達によって無事討伐された。
 輸送船は、無事にシレンツィオ・リゾートに到着。そしてヴァンパイア・ウォーターメロンは、収穫に参加した時のイレギュラーズが美味しそうに堪能している映像やポスターなどの効果もあって、飛ぶように売れた。
 イレギュラーズ達は、報酬とは別にそれぞれ一つずつヴァンパイア・ウォーターメロンを贈られた。ヴァンパイア・ウォーターメロンをもらったイレギュラーズ達はすぐにシレンツィオ・リゾートで、あるいは家族のところに持ち帰り、それぞれその味を堪能したのだった。

成否

成功

MVP

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛

状態異常

寒櫻院・史之(p3p002233)[重傷]
冬結

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。
 皆さんのおかげでウンターガングヴァールは討伐され、ヴァンパイア・ウォーターメロンは無事にシレンツィオ・リゾートへと届けられました。

 MVPは、高威力のフルルーンブラスターによる火力貢献をポイントとして、オデットさんにお贈りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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