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シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>青の幻想

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 漣の音が耳の奥に残り、潮の香りが肌を包む。
 パライバトルマリンの海は底が深くなるにつれて青を増していった。
 緩く揺れる船の甲板で『ムムル』は遠くに見える島を見つめる。
「みんな待ってて……」

 淡い色をしたムムル――『フリーパレットの子供』は切なげに瞳を揺らした。
 自分達が向かっている島には、青の洞窟という綺麗な場所がある。
 入口の光を皆底が反射し、一面が青色に染まる幻想的な光景。
 一度でいいから其処へ行ってみたい。
 ムムルの他にも何人もの仲間が青の洞窟へ行こうと夢見ていたのだ。
 けれど、それは叶わなかった。

 ――――
 ――

「……もうすぐ青の洞窟だね」
「楽しみ~!」
 はしゃぐ子供達の声が船の上から水面に弾ける。
 六人の子供を乗せた小さな船は、沖に浮かんでいる無人島へ進路を取っていた。
 子供達だけの冒険。楽しい時間。
 青い海に太陽の光が反射して、波の間から魚が飛び出す。
「わ~! いっぱい魚が飛んでるね」
「すごいすごい!」
 アルフォとカトラが手を叩いて感嘆の声を上げる。
 次々と飛び出してくる魚の群れは、子供達の小さな船の上をアーチを描いて着水した。
 ムムルは太陽の光を反射して煌めく魚の群れに目を輝かせる。

「あれ、何だろ?」
 水面を覗き込んでいた仲間のウルタスが黒い影に首を傾げた。
 それはどんどん大きくなり、やがて白い鯨の巨大な顎に変わる。
「――うわァ!?」
 潮を噴き出して水面へと顔を見せた鯨にウルタスは驚いて尻餅をついた。
 絵本で見る鯨は可愛らしいのに。目の前の大きな鯨はぎょろりとした目に取り込まれそうだとムムル達は思った。ぶよぶよとした皮膚と鋭い歯はまるで怪物のようで少年達は恐怖を覚える。
 ガタンと船が揺れた。
「きゃ!?」
 仲間の少女ミリアが悲鳴をあげる。
 別の白い鯨が船に体当たりをしたのだ。
 もう一度船が大きく揺れて、仲間の一人ジミーが海へ投げ出された。
「ジミー!」
 海に投げ出されたジミーに手を伸ばすムムル。
 けれど、白い鯨はそれを待っていたかのように、ジミーを丸ごと飲み込む。

 強い衝撃を受けて船が転覆した。
 海の中に落ちたムムル達は息が出来ない苦しさに藻掻く。
 ムムル達が最後に見たのは、歯がびっしり生えた大きな口だった。


「それで僕は多分その無念の集合体なんだと思う。悲しい気持ちが渦巻いてるんだ」
 淡い虹色に輝く『フリーパレット』の子供ムムルはしょんぼりと肩を落す。
 好奇心旺盛な子供達が、行方不明になった話はこの辺りでも噂になっていた。

『刃魔』澄原龍成(p3n000215)も、近辺調査をフェデリア総督府ローレット支部から預かっていたのだ。
 調査の為にフェデリア島の南東にある無人島へ向かう最中に船の甲板に現れたのが目の前のフリーパレットの子供だった。
「ねえ、お願い。白い鯨をやっつけてほしいんだ」
 悲しそうな表情でムムルは『食べ歩き仲間』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)を見つめる。
『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は僅かに視線を落し頷いた。
「大丈夫だ。俺達もそこへ向かっていたんだ」

 白い鯨が出現し漁船に被害が出ていると報告を受け、龍成達はこの場所まで来たのだ。
 フリーパレットは竜宮幣に思念が宿り実体化したもの。
 彼らは生前の記憶は持っていないが、強い未練を宿している。
 ムムルのお願いを聞くことは、竜宮城の悲願である玉匣を完成させることにも繋がるはずだ。
「じゃあ、白い鯨を倒してくれる? 他のみんなは操られて……みんなで一緒に青の洞窟に行くって楽しみにしてたのに」
 ぐすぐすと泣き出したムムルをメリーノは慰めるように頭を撫でた。
「大丈夫、任せて。その子達を助けてあげるわぁ。ついでに青の洞窟も探索しましょ?」
「本当に? 青の洞窟にも行けるの?」
 ムムルは嬉しそうにメリーノへと顔を上げる。
「そん代わり、戦ってる時は大人しくしてんだぞ?」
 龍成はムムルの背をポンと押して、安心させるように笑顔を見せた。
「わかった! ありがとう! お兄ちゃんお姉ちゃん!」
「じゃあ、さっさと化け物をやっつけて、探索しに行くぞ!」
 ムムルの元気な「おー!」というかけ声が水面に反射した。

GMコメント

 もみじです。フリーパレットの子供の夢を叶えてあげてください。

●目的
・洞窟の前に居る敵を倒す
・青の洞窟を見て回る

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●ポイント
 今回は戦闘パートと、青の洞窟パートがあります。
 半分ずつぐらいでプレイングを書いてみましょう。

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【A】戦闘パート
●ロケーション
 フェデリア島近郊の無人島です。
 青の洞窟と呼ばれる場所の近くに深怪魔(ディープ・テラーズ)が出現するようになりました。
 フリーパレットの子供は青の洞窟に行ってみたいようです。
 深怪魔を大きな船の上で迎え撃ちます。

 船の上を飛び越えてくるので、その隙を狙えば至近攻撃でも当たります。
 水に浮かんでいる所を、中遠距離攻撃でも大丈夫です。

●敵
○深怪魔(ディープ・テラーズ)『メリディアン』×8
 白い鯨型深海魔です。
 青の洞窟に近づく者を攻撃してきます。
 此処が美しい場所であることを知っているのです。狡猾な性格が覗えます。
 高いHPとAP、そして魔法の力を持っています。
 水を固めて槍のようにして放ったり、ジグザグに曲がる青白いビームを放ったり、ビームを拡散させ雨のように降らしたりと隙の無い魔法攻撃を行います。これらの魔法には【感電】【麻痺】【呪い】といったBSがあります。

○囚われのフリーパレットの子供×5
 深怪魔によって操られています。
 子供の声で人を誘い込んだり、攻撃したりします。
 倒すと深怪魔の操作から解放されて『ムムル』の傍に帰って来ます。
 アルフォ、カトラ、ウルタス、ミリア、ジミーの五人だったもの。
 思念体なので混ざり合っていて個体の識別はできません。

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【B】青の洞窟探索パート
●ロケーション
 深怪魔を追い払ったあとは、青の洞窟を探索しましょう。
 洞窟の中は光が反射して幻想的な青色に染まっています。
 小さな船を漕いで入って行きましょう。
 洞窟の奥には仄かに光る石があるのだとか。
 お土産にいいかもしれません。

 フリーパレットの子供達は青の洞窟を堪能すると成仏します。
 イレギュラーズにも友好的なので、めいいっぱい探索しましょう。

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●NPC
○『刃魔』澄原龍成(p3n000215)
 元々は獏馬と共に廻達と争っていたが、イレギュラーズに殴り飛ばされ改心しました。
 意外と根は真面目で、優しい一面を持っています。
 口が悪いのは照れ屋で不器用なせいです。

○フリーパレットの子供『ムムル』
 囚われてしまったムムル隊の子供達を助けたいと思っています。
 ムムル隊は青の洞窟で冒険したいという願いの集合体です。
 深怪魔の戦闘中は船の中に隠れているので安全です。

 戦闘が終われば、いよいよフリーパレット達の夢を叶える時です。
 青の洞窟の探検に目を輝かせ、イレギュラーズに感謝をして成仏します。

●フリーパレット
 カラフルな見た目をした、海に漂う思念の集合体です。
 シレンツィオを中心にいくつも出現しており、総称してフリーパレットと呼ばれています。
 調査したところ霊魂の一種であるらしく、竜宮幣に対して磁石の砂鉄の如く思念がくっついて実体化しているようです。
 幽霊だとされいますが故人が持っているような記憶や人格は有していません。
 口調や一人称も個体によってバラバラで、それぞれの個体は『願い事』をもっています。
 この願い事を叶えてやることで思念が成仏し、竜宮幣をドロップします。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <竜想エリタージュ>青の幻想完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊

リプレイ


 白い光が海面に煌めき、拡散して四方に弾けた。
 薄荷色の美しい海の色は次第に深い蒼へと変わっていく。
 遠く水平線を眺めていた『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は深き海へ想い馳せた。
「白鯨(モビーディック)と出くわして命からがら……ってのは、船乗り連中が酒の席で偶に持ち出す与太話の類だがな」
 振り返り、『刃魔』澄原龍成(p3n000215)へ視線を流す十夜。
「実際死んじまったやつらがいるとなると流石に笑えねぇな。それが子供となると尚更だ」
 深怪魔の仕業とはいえ、奪われた命があるのだ、与太話ならばどんなによかっただろう。
「……幸い、天気は快晴。風もねぇし、波も穏やかときてる。『冒険の続き』を始めるには絶好の日だ。そう思わねぇかい?」
「そうだな。ムムルたちにはちゃんと思い出を残して貰いたいな」
 龍成は十夜の隣で欄干に手を置いた。
「そういやぁ、龍成とは初対面になるかね。どうだい海洋は、夏に過ごすには持ってこいの国だろ」
「確かに、すげぇなこの国は。俺んとこって『本物』が少ないから。特に『海』はすごい広く感じる」
 希望ヶ浜は優しい揺り籠であるが故に不自由もあるのだと龍成は肩を竦める。
「せっかくならいい土産屋でも案内してやりたかったんだが……そいつはまたの機会ってことで。俺は海洋からは殆ど出ねぇんでな、また近くに来ることがありゃぁうちの店にも寄ってくれや」
「ああ。友達連れて行ってみたいな」

 緩く揺れる船の甲板で『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)はフリーパレットの子供ムムルの頭を撫でた。
「ムムルさんだっけ、今から君の仲間を取り戻す。安心して」
 フリーパレットは残穢と言っても良い思念の集合体だ。『名も無き』怨念。本来であれば名前すらも海の波間に薄れる筈なのに。彼らは名前を『覚えて』いるのだという。それ程までに未練があり、無念だったのだろうと史之はムムルの頭を撫でる。
 まだ小さな子供のカタチをしているムムルに史之は感情がこみ上げた。
 何とかしてあげねばと悲しみと強い決意が胸を覆う。
「ありがとう、お兄ちゃん」
 史之とムムルの会話を見つめる『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は僅かに視線を落した。
 子供達の好奇心、皆で一緒に出かけた時間は楽しさで溢れていただろう。されど、その後に訪れた恐怖と悲しみは彼らをこの世に縛り付けているのだろう。その辛さは想像に難くない。
 ムムルや他の子たちの思いも解き放ち、見たかった景色を見せてあげたいと蜻蛉は拳をそっと握る。
『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はフリーパレットを見つめ「ふむ」と頷いた。
 こういう手合いは不安定な霊体のままでは揺らぎ、歪み易い。竜宮幣に憑くことによって安定して『存在』していられるのだとろうとアーマデルはムムルを注視する。
「フリーパレットは核が竜宮幣なんだっけか」
 隣へ歩いて来た龍成にアーマデルはこくりと頷いた。
「元より願望や欲といったものと貨幣は相性が良い故、定着しやすいのだろう。カラフルなのは想いがさまざまであるからなのだろうな」
 アーマデルは知っている。想いやその残滓(未練)の色はそれぞれで、寄せ集めれば淡白石のように遊色ゆらめくのだと。
「龍成殿も宜しくな」
「ああ」
「洞窟には漂流物が集まり易いだろう? 同様に海で亡くなった者の霊も辿り着き易い、らしい」
「そうなのか? アーマデルはそういうの詳しいんだな」
「いや……そんなに詳しくはない。実物の海を見たのは召喚されてきてからでな」
 成程、確かにアーマデルは砂漠っぽい所に住んでいそうだと龍成は妙に納得してしまった。

 船の中腹で『シロツメクサの花冠』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)は周囲を見渡す。
 もうすぐ青の洞窟がある島が見えてくる頃合い。
 気を引き締めねばと杖をぎゅっと握り締める。
 これより戦うのは、綺麗な場所を見たいという純粋な思いを利用する狡猾な海の獣。
「悪いクジラさんにはお仕置きですね。安心してください。必ず青の洞窟へ一緒に参りましょう」
 ジュリエットはムムルへと振り返り大きく頷く。
 もう少し距離はあるが用心に越した事は無い。ジュリエットは『青薔薇の御旗』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)へとアイコンタクトを送った。
「大丈夫です。まだ敵の気配はありません」
 レイアは注意深く海の変化を見つめる。彼女には敵の動きを感知する能力があった。
 この広大な海でレイアの能力は重要な役割を持つ。
「頼りにしています」
「はい。子供たちのためにも、この地域の安全確保のためにもメリディアンを倒しましょう。そして、倒し終わったら……私も初めて行く青の洞窟で皆さんと楽しみたいですね」

 レイアはムムルを連れて船の貨物室へと足を運ぶ。
「このお茶を後で一緒に飲みましょう。戦闘が終わるまでここにいてくださいね」
「うん、分かった。気を付けてねお姉ちゃん」
 ティーセットをムムルに預け、レイアは優しい笑みを浮かべた。
 御旗を掲げ、船が壊れぬよう結界を張り巡らせる。
 レイアの髪を海風が浚い、僅かに伏せた瞳を上げマストを見遣れば『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)と『食べ歩き仲間』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)の姿が見えた。
「元々は近辺調査だったが、な。……ま、ガキんちょにも頼まれたンじゃ、断る理由はねぇな?」
「せっかくの綺麗な場所、クジラちゃんにめちゃくちゃにされるのはとっても嫌だし、おチビちゃん達といっぱい遊びたいもの」
「って事で。めーちゃん、行くぞ。噂の鯨狩りだ」
「うんうん! クジラちゃんには早く退場してもらいましょうかぁ!」
 レイチェルとメリーノの楽しげな声が甲板に響く。
「でも、ちょっと戦うの自信無いかもぉ」
 しょんぼりと項垂れるメリーノの背をレイチェルがポンと押した。
「なぁに、大丈夫さ。其処にイレギュラーズ大先輩の龍成が居るし」
 マストから甲板を見下ろしたレイチェルは蜻蛉や十夜の姿を見遣る。
「姉上含めベテランが何人も居るからなァ。だから、心配いらねぇよ」
 レイチェルはメリーノを安心させるように笑顔を浮かべた。

「……右方向から、来ます!」
 レイアのよく通る声が甲板に響く――


 水飛沫を上げて白鯨が甲板の上に乗り上げた。
「青の洞窟前に白い鯨とは絵になるね。やってることは許されないけれども」
 史之はレイアにアイコンタクトを送り、甲板を一気に駆け抜ける。
 その合間を抜けて迸るのはレイチェルの赤き焔だ。
 マストの上から放たれる魔力の炎に隣のメリーノは目を瞠る。
 戦場を覆う緊張感で肌が焼けそうだ。
 ごくりと唾を飲み込むメリーノ。一歩間違えれば死が直ぐ傍にある。
「鯨は狡猾って聞いたからなァ。気を付けろめーちゃん」
 そんな過度の緊張を解すようにレイチェルは務めて緩く言葉を投げる。
「分かったわぁ!」
 ほっと、深呼吸をしたメリーノは飛び上がった白鯨に刃を向けた。

「今日は、他にも回復役さんがいらっしゃるよって、余裕を持って戦えます」
 蜻蛉は美しい扇子を開き白鯨に対峙する。
 生命の息吹を引き裂いて戦場に赤い花が舞い踊った。
 白鯨は巨体を甲板に打ち付け船を揺らす。大きく蹌踉けた蜻蛉を十夜が支えた。海に落ちるよりは先に手を差し伸べた方が効率的だったからである。
「大丈夫か」
「……おおきに」
 直ぐに踵を返す十夜に僅か笑みを浮かべた蜻蛉は深呼吸をして再び白鯨に視線を上げた。
「ここに残ってる子たちの魂をを返して貰います! 大人しゅう倒されて頂戴」
 図体が大きいと船への影響も出てくるとアーマデルは眉を寄せる。
 海に浮かぶ船なぞ、白鯨からすれば狙いやすい的である。
 されど、レイアが張った結界のお陰で戦闘での被害は今のところ防がれていた。
「これなら大丈夫か」
 アーマデルは蛇鞭剣を白鯨へ閃かせる。
 蛇のように撓る連結刃は白鯨の背を切り裂き猛毒を流し込んだ。

 ――――
 ――

 戦場は加速し甲板に血が流れる。
 レイアは海の中で傷付いた史之へと癒やしの音色を降り注いだ。
「ありがとう」
 短く告げた言葉と共に再び海の中へと飛び込む史之。
 白鯨を追い立て、甲板へと誘導する。
 史之の攻撃から逃げるように甲板へ上がってくる白鯨の傍、フリーパレットが佇んでいた。
「冒険ってのは仲間がいねぇと始まらねぇだろう? ほら、ムムルが寂しがってるぜ」
 十夜はフリーパレットの子供へ思いを込めて刀を振う。
 これは命を絶つ刃ではないと彼らに示す為に。優しい言葉と共に打つけるのだ。
 ジュリエットも意を決してフリーパレットの子供へと杖を向ける。
 出来るだけ痛くないように、慎重に同じ個体を攻撃するのだ。
「さあ、行きましょう。ムムルさんの元へ」
 虹の光を解き放ったジュリエットはフリーパレットの子供を優しく包み込む。
 せめて怖くないよう命を散らすその瞬間は光に満ちているように。
 願いを込めて魔力を流し込むジュリエット。

「ムムルが待ってるンだ、早く帰って来い!」
 レイチェルは囚われたフリーパレットの心へと語りかける。
 十夜やジュリエットが相対した子供は安心したように笑顔を浮かべたから。
「もう怖いことはなんにもないのよ」
 隣のメリーノも同じように優しい言葉を彼らに向けた。
 きっと、その思いがムムルへと導く道しるべとなるのだろう。
 出来るだけ苦しまないように。一撃で仕留め無ければとメリーノは武器を握る。
 メリーノはレイチェルと頷きあい、同じフリーパレットへと刃を向けた。
「大丈夫だぜ、あとでいっぱい美味しいもの食おうぜ」
「そうよぉ、冒険もしなきゃね」
 フリーパレットが最後に聞いたのは優しい二人の声と。

「さぁ、皆で一緒に洞窟を見に行くんよ! 思い出して。ムムルちゃんも待っとるから」
 蜻蛉が叫んだ言葉。
 フリーパレット達が望んだのは青色の幻想。
 ムムルや仲間と共に笑い合いながら歩く楽しい道行きだ。
 果たせなかったその冒険の続きを。
 一緒にしようと『希望』を持って、ムムルの元へ還る――


 船の上に残された白鯨の前に仁王立ちするのはメリーノだ。
「片喰ちゃん、よく切れるからクジラも捌けると思うの」
 手には愛刀啾鬼四郎片喰が握られている。
「今日はクジラ切り片喰ちゃんになってもらうわぁ!」
 メリーノの背をそっと見つめる十夜は苦笑いを浮かべた。
「生憎と、俺は魚介の類が食えねぇんでな。鯨の解体ショーはここで見物しとくよ」
 欄干に腰掛けた十夜はメリーノが白鯨の腹に斬り込みを入れるのをじっと見つめる。
「史之ちゃんお料理上手なのよね。手伝って欲しいわぁ」
「うん、任せてよ。あんなんでも海の命だからね。大事にいただきましょう」
 メリーノと史之にジュリエットが加わる。
「私もお料理は得意な方ですので何か手伝えれば……豊穣ではお刺身と言う調理法もあるみたいなので、試してみたいです」
「クジラを捌くなら手伝おう、切り出すのも割と手間だろう?」
 アーマデルはメリーノ達が肉を解体する傍から、甲板に広げたシートの上へ運んでいく。
「あと、スパイスがあるから良ければ使ってくれ」
「いいわねぇ! 後で調理するときにも下味は欠かせないものね」
 スパイスは臭みを消す為に使われるものだ。肉の上に振りかけて焼く前に馴染ませる。
 戦闘が終わり甲板の上に出て来たムムル達は興味深そうにその様子を見つめた。

「クジラ切り片喰かぁ」
「すっごく良く切れるわぁ! 流石よーちゃんから貰った刀よぉ!」
 まさか自分が贈った刀が鯨の解体に使われるとは予想もしていなかったとレイチェルは髪を掻き上げた。
「世の中、分からんモンだな……」
「まあ、喜んでるみたいだし良いんじゃね?」
 レイチェルの方に手を置いた龍成は慰めるように微笑む。
「まあ……確認したい事もあるしな」
「……ああ、遺品か」
 龍成とレイチェルはメリーノが鯨を解体する傍らで、子供達の遺品が出てこないか探す。
「出来れば、家族の元に返してやりたいしな」
「レイチェルはさ、外見良いから一見そういうの気にしないクールなヤツに見えるけど、めちゃくちゃあったかいよな。きっとムムル達も喜ぶ」
 残された者の気持ちを痛い程分かっているから。
 レイチェルは彼らが区切りをつける為の遺品を鯨の中から探した。
 白鯨の腹の中から遺品を拾い上げたアーマデルは鯨に食べられてしまった人達の霊魂へと祈りを捧げる。
「往くべき処へ逝けるよう……」
 待つ者の所へ届くように、遺品を回収する。

 ――――
 ――

「落ちないようにね」
 史之の言葉が洞窟の中に響く。
「わぁ……!」
 小舟に乗ったイレギュラーズとフリーパレットの子供達。
「ほんに綺麗やねぇ……これが皆が見たかった景色やのね、うちも見る事が出来て嬉しいわ」
「そうだな」
 蜻蛉の嬉しそうな横顔に十夜も口の端を上げた。
「なんでこんなに青いの?」
 ムムルが首を傾げたのに十夜が入口を指差す。
「簡単に言うとだな、あそこから入った光が洞窟の底に反射して、青く光ってるように見えるんだとよ」
「へぇええ! すごい!」
 子供達は幻想的な青の洞窟に魅了されていた。嬉しそうにはしゃぐ子供達に目を細める十夜。
「この奥には光る石があるらしいぞ。探して見るといい」
「やったー! 楽しみ!」
 船の上で飛んだりはねたりする子供をメリーノがぎゅっと抱きしめる。
「危ないから、お姉さんが抱っこして上げましょ」
「あ、わわ」
 メリーノに抱きかかえられた子供は男の子だったのか、恥ずかしそうに顔を隠した。
 洞窟の中は意外と危険も多い。大変な目にあった彼らにはこれ以上怖い思いをして欲しくないから。

 暫く小舟で進むと洞窟の奥へと続く道が見えてくる。
 ジュリエットははぐれないようにムムル達と手を繋いで洞窟の中を歩いた。
「せっかくですもの、5人分の光る石を探しましょう」
「やったー! 僕が先に見つけるー!」
 走り出した子供達を追いかけて史之やレイアも走り出す。

 先に石を見つけた史之はわざと分かりやすい場所に隠してみる。
「向こうの方に光る石があったよ……」
「本当に!? いってみよう」
 迷子にならないように、それでいて楽しめるように。史之は子供達を誘導した。
 子供達が探し終えたら自分も拾ってみよう。帰りを待つ奥さんのために史之はどんな石が良いかと考えを巡らせる。
「どんなのがあったかな?」
 目を輝かせて石を探す子供達に史之は微笑む。
「えっとね、お星様みたいなの!」
「こっちにはハートに似た形やお月様みたいな形もありますよ」
 ジュリエットが小さな石を掌の上に転がした。
「ええ! 色んなカタチがあるんだね。すごい!」
 子供達のはしゃぐ声が洞窟の中に反響する。
「ふふっ! 龍成さんもお土産に持って帰ってあげると喜ばれますよ?」
「あー、そうだな。あいつ緑色のやつとか好きそうだしな」
 素直に言葉に従う龍成にくすりと笑みを零すジュリエット。
「私も……」
「誰に渡すの?」
 今度は意地悪そうな顔で口の端を上げる龍成にジュリエットは頬を染め首を振る。
 ジュリエットがこっそり手にしたのは大切な人の瞳と同じ翡翠色。それに乳白色の優しい石だ。
 アクセサリーに加工しても可愛らしいものになるだろう。

「龍成ちゃん、ちゃんと石拾った? きれいなの選ぶのよぉ!」
「ああ、緑色のと紫色のやつ拾ったよ」
 メリーノは龍成の掌の上に転がる二つの石を見てニンマリと笑った。
「なんだよ」
「何でもないわよぉ!」
 龍成の背をバンバン叩いたメリーノはこっそりと白い石を探す。龍成は自分できちんと選んだから心配いらないだろう。それよりも『よーちゃん』の石だ。きっと彼女はあまり自分の事を考えていない。自分の石なんて忘れている。だから、彼女の為にメリーノは石を探す。
 綺麗に研磨してあとで渡してあげよう。きっと喜ぶに違いないとメリーノは期待に胸を膨らませる。
「良いのみつかった? めーちゃん」
「ひゃわ! もう、びっくりしたぁ! 良いの見つかったわよぉ! 後で見せてあげるわね」
 楽しみだとレイチェルはメリーノに笑顔を向けた。

 蜻蛉は子供達と一緒に仄かに光る石を探す。
「どの石が好き?」
「えとねぇ! 全部すきー! お姉ちゃんは?」
「まぁるいの、四角いの、少し歪やったり……宝石みたいな形のも」
 どんなカタチでも、宝探しはきっと楽しいから。
「姉上はお洒落さんだからな、センスはピカイチだぞっと! 俺にはどんな色が良いと思う?」
「お洒落さんやなんて、そんな事あらへんよ! よ、よはんなちゃん……!
 まあ、そうね。皆に似合う色……龍成さんは淡い紫、ヨハンナちゃんは……濃い紫、メリーノさんは鮮やかな桃色やろか」
 微笑ましい蜻蛉たちの会話を十夜は少し離れた場所で見守る。
 石をお土産にするのは子供達に任せて。自分はこの光景を焼き付けていたい。持って帰るのは思い出だけで十分なのだと十夜は目を細める。
 そんな彼の石をこっそりと選ぶのは蜻蛉だ。
 ほんのり緑がかった青色の石を。内緒でこっそり懐に忍び込ませた。

「ここで行き止まりかな?」
 史之が最奥の壁をコンコンと叩く。
「こういう時はやっぱりアフタヌーンティーだね。もう秋だからマロンミルクティーとかどうだろう」
「準備は出来てますよ」
 レイアが待ってましたとばかりに背中のカバンからティーセットを取り出した。
 持って来た鯨の肉を史之とジュリエットが料理する。
 スコーンを焼いて小ぶりなケーキを作った史之はレイアが用意してくれたお茶を淹れる。

「これがあの鯨だよ」
「あの大きな? すごい! 美味しそうだね!」
 豊穣風の鍋の湯気が洞窟の中に立籠めた。
 紅茶とケーキと鍋と。ごちゃまぜの楽しい料理にフリーパレット達も大はしゃぎで。
 レイアは子供達の声を聞きながら顔を綻ばせる。
 ジュリエットやアーマデルが子供達に語った言葉は彼らの胸に染みこんだ。
「ムムルさんのお身体は虹色ですね。
 私もちょっとだけギフトで虹を出せるんですよ。ふふ、一緒ですね」
 青い洞窟の中にジュリエットが広げた虹が架かる。

「……楽しかったよ。お兄ちゃんお姉ちゃん」
 ムムルの指先がふわりと解けた。他の子供達も同様に薄くなっていく。
「じゃあ、僕達は行くね。ありがとう、とても楽しかったよ……ばいばい」
 虹色の子供たちが儚く消えて。
 後に残ったのは小さな金貨だけだった。
 それでも、きっと楽しい思い出をいっぱい抱えて、空へと登って行ったに違いないのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 子供達は楽しい思い出を胸に空へ旅立ちました。
 ご参加ありがとうございました。

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