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シナリオ詳細

再現性京都:夏の終わりと八三二橋

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●再現性京都
 コンクリートジャングルと言えるほどの都会ではなく、電気も通っていないほどの田舎でもなく。
 道路は碁盤の目に整備され、建物は近代的なビルと古くからの寺社が同居するような、不思議な街並み。

 練達の一区域であるここは、再現性京都。
 そのように定義されている場所だった。

●夏送り
 再現性東京の学園でも、夏休みが終わるとか、宿題がどうだとか、新学期が始まるといった『夏の終わり』の話題が出てくる頃。
 面白い穴場を見つけたというので、久し振りに現れたチャンドラがイレギュラーズを案内したのは再現性京都。その夕暮れの街並みだった。
「凄いな……電車の駅を降りてすぐ神社の鳥居があるのに、バスターミナルもあったり……」
「この地域も夜妖がいるのか?」
 同行しているアーマデルが景色を見回す中、弾正が確認する。
「夜妖、と名付けられているかはわかりませんが。まあ、何かはいるのでしょうね。我(わたし)はとても愛おしく感じましたよ」
 チャンドラの言う「愛しい」は恋愛的な意味に限らず、広く「興味深い」程度の意味合いであることが多い。
 迷いのない彼の足取りは駅前の通りからビル街とショッピングモールを抜け、商店街を途中まで進むと止まった。
「面白いでしょう? 商店街の途中に突然、店と同じように鳥居が並んでいるのですよ」
 店と店の間に佇む人一人が通れそうな小さな鳥居は、その奥へ砂利と石畳の道が続く。その先に何があるのかは両隣の店の影で見えにくく、まるでこの鳥居から異世界へ繋がっているかのようだった。
「この先は、我も未確認でして。未知を知ることもまたアイです。
 お先に失礼いたしますね」
「チャンドラ殿!」
 軽やかに向かってしまった彼を追えば、店の影を抜けた先が急に開けてくる。

 そこは、あの狭い鳥居から続いた境内とは思えないほど広い夏祭りの会場だった。
 藍色に染まり始めた空には花火があがり、狐面の店主が営む様々な出店には屋台料理や遊戯台が並ぶ。出店を楽しむ親子連れや子供達で賑わう様子は、ごくありふれた縁日のものだった。
 その中で印象的だったのは、会場の中央にある大きな池と、その両岸を繋ぐ橋だろう。

「これは……『八三二橋』?」
「何と読むんだ……」
 アーマデルと弾正が橋を見ていると、狐面の一人が寄ってくる。
「『やみじばし』や、にいさん方。
 逝く夏を送る誰彼に、橋の上から池を覗くとな。向こうから闇路(やみじ)を通ってきた誰かと逢える、ゆう話なんえ」
 煙管を持つ狐面は紫煙を吐き出すと、面白おかしく続きを語る。
「闇路から来た者は、闇路へ還る。
 にいさん方がどこへ還るんかは知らんけど、闇路が好かんのやったら、その橋は渡らんがええよ。
 二度とは還れぬ、『葉月の三十二』の祭りに参加したいんやったら……まあ、止めしまへんけど」
「闇路とは何処のことだ。『葉月の三十二』とは一体、」
 問いただそうとした弾正の目の前に、煙管の狐面は既にいなかった。それこそ、煙のように跡形も残さず消え失せていたのだ。

「「…………」」

 小さな鳥居から続いていたこの夏祭りの会場は、現実なのか。怪異なのか。
 更に暗くなってゆく空を花火が彩る中、イレギュラーズ達は最後の夏祭りを過ごすことになるだろう。
 橋から何かを見たとしても、『八三二橋』を渡らないように。
 『葉月の三十二』へ、招かれないように。

●とある千殺万愛の夏送り
 ――やはり、映りませんか。

 興味深い橋から池を見下ろしてみる。どれ程待っても何者かが映りこむ様子はなかった。
 姿も声も覚えてないのだから当然だ。それを残念にも思わない。
 思い出す必要もないほど、全ての感情で、全ての行為で、アイし尽くしたのだろうから。
「いっそ、『葉月の三十二』とやらもアイしてみたい気がしますが……どうしましょうか」
 水面を見下ろす銀と黒。
 そこにはただ、同じ視線の己が映るばかりだった。

GMコメント

旭吉です。
この度はシナリオのリクエストをありがとうございました。
リクエスト者以外の参加も可能となっておりますので、どなた様もお気軽にどうぞ。
プレイングにもよりますが、リプレイ描写としては心情寄りになる予定でいます。

●目標
 夏祭り『夏送り』を過ごし、現実へ還る

●状況
 練達の再現性京都、商店街の小さな鳥居から続く神社の境内。
 夕方~夜にかけて、打ち上げ花火を眺めたり出店の出し物を楽しみながら夏祭りを楽しんでください。
 出し物は、一般的な夏祭りにあるものであれば大体あります。
 お一人様での参加も可能ですが、同行する方がいればプレイングにてお相手のお名前をお願いします。
 (チャンドラのご指名も可。いつの間にか現地の見知らぬ誰かと……というのもありです)

 『八三二橋』の中央まで渡り、池を見下ろすと、やがて隣りに死者(あるいは死んだと信じている者)が見えます。
 (複数人で渡ると、相手がいない側に見えます)
 本物の死者が戻ってくるのではなく、その像が見えている方の心に残っている姿となります。
 もしかしたら何か聞こえるかもしれませんが、それもその方の心にあるイメージが映されているものです。
 死者の像はやがて還っていきますが、池の像を消すことで対面を終わらせることもできます。
 今回『八三二橋』を渡り切ってもやばい所へ行ってしまうことはないですが、強制的に現実へ戻されてしまいます。
 (この場所は一度出るともう入れません)

●NPC
 チャンドラ
  とても愉しそうです。
  『八三二橋』にも興味を持っています。
  お誘いがあれば悦んで。お声が無ければ特に描写しません。

 煙管の狐面
  この祭りに詳しい何者か。
  名乗らないし名も聞きませんが、話し相手くらいには。
  なぜか『八三二橋』にあっても池に『誰も』映らない。
  こちらも言及がなければ描写はありません。

  • 再現性京都:夏の終わりと八三二橋完了
  • GM名旭吉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年09月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
冬越 弾正(p3p007105)
終音
※参加確定済み※
雨紅(p3p008287)
愛星
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
※参加確定済み※
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
ミレイ フォルイン(p3p009632)
うさぎガール
弟橘 ヨミコ(p3p010577)
えにしを縫う乙女
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


 夏がゆくゆくたそかれに。
 かたわれずつが出会うはち。
 吾もゆこうかみそふつか。
 きみをおくりてやみじばし。

●ふわふわ、やさしさ
 ふらりふわり、あてもなく夏祭りを楽しんでいた二人が出会ったのは綿あめ屋だった。
「お一人、ですか」
 手にした綿あめとよく似た髪の『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)。
「そちらも、お一人……なんですよね?」
 同じく綿あめを受け取りながら、問いを返す『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)。
 彼が驚いたのは、メイメイの小さな手に積み重なっていた出店料理のパック達であった。
 視線に気付いて瞳を泳がせたメイメイ。
「……あの、よければ、ご一緒しませんか。ご飯」
「僕は構いませんよ。せっかくのお祭りですから」
 綿あめ屋台で繋がった出会いから、祭りは二人の道行きになった。

「このお祭り……豊穣に雰囲気が似ているような……」
「夏を送る、お祭り……季節を、大切になさっているのかもしれません、ね」
 ジョシュアとたこ焼きを分け合うメイメイ。
 暮れなずむ景色を見渡しながら、ふと考えた。
(……もしかしたら、この賑わいの中には、闇路から来たひとたちもいるのかな……)
 こちらから『八三二橋』を渡ったら、違う世界へ行ってしまうように。
 向こうから渡った人がいたら――。
「……本当であれば、お会いしたい方がいますね」
 そんなメイメイの視線が橋へ向いている事に気付いたのか、ジョシュアもそちらを見る。
「行きます、か」
「いいえ、焦る必要はないですから。僕は少しだけ後に」
「そう、ですか……、あ」
 橋の上に、見覚えのある人影があった。
「わたし、ちょっと、行ってきますね。これ、ごはん……おいしいので」
 駆け出したメイメイがジョシュアに残していったのは、共に食べていたたこ焼きの他にも料理のパックがいくつか。

(食べ盛りの子供とでも思われたのでしょうかね)
 そんなパックの山を可笑しく思うと共に、彼女の気遣いを感じる。
(昔からしたら……変な感じですね。着慣れない浴衣を着て、普通の子供のように夏祭りにいるなんて)
 有り得なかった『普通』を、事実として『非日常』で享受する。
 実にへんてこな事実だ。

 *

「チャンドラ、さま」
 『八三二橋』で池を見下ろしていた『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)に声をかける。彼は穏やかに笑んで応えた。
「いえ……少しだけ、寂しそうにも見えたので」
「……この橋、何処へ繋がっていると思います?」
 チャンドラは『八三二橋』が繋ぐ先を見る。木々が鬱蒼と影を落としていた。
「『やみじ』のお話は、ちょっと怖いような……。でも、そこでしか逢えない、誰かがいるのだとしたら。気になってしまうものですよ、ね」
「興味もまたアイです。此処でアイしたい方が?」
 首を横に振るメイメイ。
 先祖や、これまでに見送った人々等ではない、特別に逢いたい誰かは、と。
 それでも、闇路の人にとって、あの橋の先が居心地の良い場所であれば、とも。
「……いま手に届くところにいる、大切なひととのお別れも、いつかきっとくる、なら。その時は、この場所に縋ってしまうかもしれません、ね」
「貴女が誰かをアイしてしまう姿。きっととても愛おしいのでしょうね」
 少し言葉不足で理解に苦しんだが、彼のことだ。きっと何か意味があるのだろう。
 今は何か見えるのか少しだけ興味が湧いて、池を覗き込んでみた。

「………あっ」
 
 一瞬揺れた水面は、自分だったのか、誰かだったのか。

●みちびき、おどりて
 夕陽の残滓も消えようかという頃、『えにしを縫う乙女』弟橘 ヨミコ(p3p010577)は祭り囃子の笛と太鼓を聞いた。盆踊りが始まるようだ。
「橋の前に、このお祭りを楽しむことと致しましょう。あなた」
 首から提げていた骨壺――後回しになった『夫』を見遣る。
「そんなに妬かないでくださいまし。ほら、あちらに射的がありますわ」
 『夫』との馴れ初めは矢で雉狩りをしていた時だった。「的を狙う」行為には自信がある。
 玩具の箱を狙って、一射。箱は音を立てて棚から落ちた。

 戦利品と共に次の店を探せば、子供の泣き声。
 行ってみれば、既に『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)に声を掛けられている幼子が。
 ちなみに雨紅は浴衣姿でひょっとこの面である。秘宝種の面の上に。
「もし。どうなさいましたの?」
 雨紅曰く、どうも親とはぐれたらしい。それなら見つかるまで一緒に探そうと、ヨミコは先程の戦利品を渡した。
「どうかこれで、元気を出して下さいまし」
「林檎飴もどうです? 赤くて綺麗でしょう」
 雨紅も、自分が欲しくて買った林檎飴を差し出す。玩具と林檎飴を手にして、ようやく幼子は大声で泣くのを止めた。
「あちらの盆踊り会場かもしれませんね。一緒に踊りながら探してみませんか」
「『主人が見ている前』で、他の方と……」
 一度は躊躇ったヨミコも、幼子が元気になるのであればと、共に移動したのだった。

 会場は祭り囃子も、人の声も賑やかで――幼子のことは気にかけつつも、雨紅は新鮮な踊りを、ヨミコは空気を楽しんでいた。
 だからか、なぜか驚かなかったのだ。
 二人と一緒に踊り出した幼子が、そのまま駆けて消えてしまっても。

 *

 ヨミコと別れた雨紅は『八三二橋』へ向かう。
 闇路とは死後の世界。舞しかない自分が、この池で会えるのは。

 遠い昔に、遠くから見ただけの舞手。憧れの旅芸人。
 旅芸人ゆえ再会はなく、年月ゆえに恐らくこの世にない。
 今の自分の源となった舞姿が、その池にあった。

 その姿へ滴らせるように、『独り言』を溢す。
 武器を捨てきれず、舞も諦めきれず、時に舞いながら戦い傷つける――そんな舞は、美しいのかと。
「……でも、私はそもそも『笑って欲しい』のです」
 その為には舞に加え、武器も必要だと感じた。だから『選んだ』。
 まだ罪悪感はあるが、そんな自分も少しは受け入れたい――そう、告げた。

 きっと、あれは水面に映った己の心。己と向き合ういい機会だったと。
 会場で出会ったチャンドラに、『憧れの舞手』に出会えたことと共に伝えたのだった。

●すくい、すくわれ
 祭りのぼんぼりと花火が藍の空を照らす頃、チャンドラと合流した『残秋』冬越 弾正(p3p007105)と『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はまず彼に面を選んで貰った。
 強面ゆえに子供を泣かせたくない弾正と、自分だと変わり映えしないものを選んでしまうアーマデル。二人にチャンドラが選んだのは揃いのおかめ面だった。
 女の面を選んだ謎については、「厄除けの意味があるそうで」とのこと。
(アーマデルがとびきり愛せそうなヤツで、と頼んだが……反応はどうだろう)
 ちらりと見遣る弾正。
(弾正の落ち着きがないな……そんなに祭りが楽しみなのだろうか)
 一方、面そのものより弾正の仕草全てが好ましく見えてきたアーマデルである。

 闘(や)る気に満ちたおかめと、それに連れられたおかめと一人が次に向かったのは金魚掬いである。
 昏い水面を綺羅と游ぐ金魚達は、まるで闇路の魂のよう――という風情よりも今は。
「そいやっ! せいっ!!」
 異形創神まで使って『音』の意志を感じ取り、水の動きと音から金魚に狙いを定めていく。次々とすくわれていく金魚たち。
「楽しそうだな」
「べ、別にノリノリなわけではないぞ! 怪異に見つからないようにするため……っ!」
 またすんでのところですくう。やがてすくいの網は切れてしまったが、弾正は早くも林檎飴やチョコバナナが気になっているらしい。
 それならたこ焼きがクルクルと焼かれていく様や、飴細工の整形の過程も見てみたい、とアーマデル。
 よし全部見ていこう! と進み出す一行の中で、アーマデルは面越しに弾正を見た。
 どう見ても『全力で楽しんでいる』様子は――この上なく微笑ましく、好ましいと思う。
(上手くないから、得意でないからと身を引く必要は無いのだと、理屈ではわかっているんだがな)
 己には無理だと、羨望よりも強い諦めが未だに胸中を縛る。

 そうして伏せた視界の端。
 弾正から預かったすくわれた金魚達が、光となって霧散していく所だった。
 気付いた時にはもう跡形も無い。
(……ここは、やはり)
 『そういう』場所、なのかもしれない。

 *

 消えた金魚の話をすれば、『八三二橋』へ向かう弾正の声も真剣みを帯びる。
「『葉月の三十二』とやらは分からんが、異世界史では三十二相というものがあるらしい。簡潔に言えば『神様の容姿、32の愛されポイント』的なものだが……」
「葉月は確か8月……宿題の終わっていない学生が「今日は8月32日だ」と言い張るようなものだろうか?」
「アイされるべき『32』。有り得ない『32』。どちらも愛おしいではありませんか」
 二人が悩む少し先で、チャンドラが池を見るよう促す。

 誰に何を言われようと、覚悟はできていた。
 炎に消えた長頼。この手にかけた順慶。R.O.O.でさえ、ジェーン・ドゥや原動天を守れなかった。
 一体、誰が言葉をくれるというのか――池に映った弾正の傍らに現れたのは、その誰でもなかった。
「……父上」
 寂しそうに笑っていたのは、父の秋永 理一。まだ弾正が子供の頃に、下山途中で熊に襲われ亡くなったと聞いていたその人が。
『僕はまだ、死んでいない――』
「いけませんよ」
 『彼』の言葉を聞いた直後、チャンドラの制する声がした。
 隣のアーマデルが、池に飛び込もうとしていたのだ。
「アーマデル!!」
「いや、死ぬつもりでは。だが、夜の池だからな……軽率だったかもしれない」
 激昂する弾正に、アーマデルは素直に謝り説明した。池の像を消したかったのだという。
 誰の像だったかは問うても答えず、ただ弾正の服の裾を握るのみだった。

(長頼……)
 いっそ、師兄のように憎んでくれれば。
 だが池に映った心の中の像でさえ、綺麗なものだったのだ。
 この手は数多の運命の糸を断ち、命を絶ち、救いたかったものも溢してきたのに。
(そこまで許されたいのか、俺は)
 だから、せめて弾正が目にする前に『彼』を還そうとして。

「……まだ、この祭りの神にお参りをしていなかったな。
 帰る前に、挨拶をしていかないか」
「キミがそう望むなら」
「先ほど、線香が立っていた社ならありましたよ」
 アーマデルと弾正の決定に、チャンドラが社の方向を指す。
 ならば今度はそこへと、一行は『八三二橋』を後にするのだった。

●なつかし、くらいて
 祭り囃子も花火も今が盛りだ。
 子供達が連れ立って駆けていくのを見送った『カレー担当』ミレイ フォルイン(p3p009632)は、同行してくれた『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)に礼を言った。
 しかし、彼に夏祭りが初めてなのかと聞かれても答えられなかった。そんな彼女の前で、クウハは笑う。
「俺は夏祭りを何度か経験してるが。ここはそんなレディにぴったりだと思うぜ」
「……それなら、甘いものを巡りましょうか」
 ヒールの低いミュールで彼を軽く追いかけると、半袖ブラウスにロングスカートがはためいた。

 林檎飴、かき氷、チョコバナナ。各自で欲しい物を、自分の分だけ買っては食べる。
「甘味の店が多くていいな」
「お好きなのかしら。なら、あなたの好きなものを一つ奢らせて貰えると嬉しいわ。お誘いしてくだったのに、お礼の一つもしないなんて、女が廃るというものよ。
 ……なんて、ね。ふふ」
 チョコバナナをあらかた食べ終えた頃にミレイが誘えば、クウハは「じゃああれ」と、笑って金魚の飴細工の店を指した。

 たこ焼きを冷ましながら食べていたミレイに、クウハが感想を溢す。
 こういう時に食べるたこ焼きは何故か特別美味い。
 これも夏祭りの不思議な雰囲気なのかと。
「なぜか……懐かしさを感じるのは気のせいかしらね?」
「レディも覚えてないだけで、昔来たことがあるのかもしれんな」
 何か得られる物があればいいと、クウハがたこ焼きのパックを片付ける。彼が橋へ行くまでの付き合いという約束だ。
「今宵はひと時のお付き合いをお誘いいただき、ありがとうございました。帰りは、クウハさんもお気をつけて」
 また丁寧に礼を述べると、クウハも「そっちもな」と片手を挙げて別れたのだった。

 *

 向かった先の『八三二橋』。
 池の中でクウハの隣にいたのは、元の世界での昔の旅仲間だった。
 相変わらず、男なのに女のような外見で――。

(まぁ、幻覚の類だろうな)

 『彼』の歌声が好きだった。
 耳にすれば無いはずの郷愁を覚え、かけがえのない存在だと錯覚させられる。
 不思議と、心地良かった。
 人間共はそんな『魔』を宿す『彼』の歌声を利用し、終には悪魔と迫害した。
 『彼』自身は、少し変わった力を持つ唯の人間でしかないというのに――そう伝えた時の、穏やかな顔と言ったら。

 その魂を、喰った。死の間際に『彼』が歌声ごと差し出したのだ。
「……後悔してるか?」
 喰らわれた魂は霊どころか、輪廻転生も叶わないのに。
『してるわけないよ』
「即答かよ」
 きっと、本物もそうなのだろうな――と。小さな苦笑が零れた。

●こいしく、さよなら
『ジョシュ君』
「お久しぶりです、エリュサ様」
 ジョシュアが池に見たのは、白い長髪の女性。
 嫌われ者の彼を大切にしてくれた、コケモモ精霊のエリュサだ。

 池では二人の頭上に花火。
 病で伏していた『彼女』とは叶わなかった光景。その中で、ジョシュアは語る。

 イレギュラーズになって色々な場所に行ったこと。
 世界は広く、色々な人がいて。
 自分が毒の精霊と知っても受け入れてくれる人にまた出会えたこと。

 『彼女』は微笑んで聞いている。
 それだけで、瞳からは想いが零れてしまう。
「おかしいですね……もう大丈夫だと……」
 ――ただ貴女に生きていてほしかったのです。
 ――もう少し側にいたかったとか、そんな我儘よりも……。

 今はまだ、真なる妖精郷へは行けない。『彼女』とはここまでだ。
 生きて、約束のあの花を見つけて、いつかまた会う日まで――。

 *

 人もいなくなった橋は静かで、心地の良い夜風が吹き抜けていた。
「……あら、あなた。そこにいらっしゃいましたのね」
 普段は骨壺として傍らにある愛しい夫。
 ヨミコは片時もその顔を忘れはしないが、今夜はいつにも増してくっきりと見える。

 誰もいない夜の橋。二人きりの逢瀬。
 水面と同じように、広い胸へ体を預けられたらどんなにいいか。
「触れることは……叶いませんのね……」
 水鏡の像へ伸ばした手を、ゆっくりと収める。
「あなたとこうしてまた会えて、わたくしは幸せでございましたわ。
 次は何処で再会しましょう。地獄か浄土か……あなたのいらっしゃる場所なら、わたくしは何処でも参りますわね」
 ――あの幼子が、満たされて親の元へ行けたように。あなたのおられる場所が、わたくしにとっての。

「それでは、ごきげんよう」

●あるもの、かかえて
 橋へ向かわなかったミレイは、クウハと別れてからもう少しだけ一人で露店を回ってみた。
 購入したラムネの瓶を開けて、『八三二橋』の方を眺めてみる。
『ねえさんは行けへんの?』
 煙管を手にした狐面が問う。
「私には、死者と呼べる人が居ないから向かう理由は無いの。もし、あの橋に行く人達のように私にも居たら……縋りつきそうね……」
『誰も闇路におらんの。それはええねぇ』
「でも、忘れないようにしたいわ。元の世界の事」
 例え思い出せず、未練を抱きにくくても。
 この混沌世界で生きていく以上は、自分が生まれ育った世界が他に存在していたことは、覚えていたかった。
『ええねぇ。覚えてたらあるし、忘れたらのうなるしな』
 もうじき『葉月』が明けるえ、と狐面。
 気付けば、夏祭り会場は薄れ始めていた。

●わすれじのやみじ
 夏が終わり、秋が来る。
 葉月は三十一で終わり、終わりと共に会場が薄れていく。
 花火も、屋台も、祭り囃子もぼんぼりも。
 会場にいた祭りの参加者のほとんどは、『八三二橋』のあちらへ還っていった。
『にいさん方。ねえさん方』
 煙管の狐面は、最後に残った小さな社の前に現れた。
『『八三二橋』はどない? ええもん見れた? 渡ってもうた御人はおらん? 渡り損ねた御人は?
 こっからは『葉月の三十二』。進むことも、後戻りもでけへん人らが集まるお祭りえ』
 ただ、今回はその中からいくつかの魂がイレギュラーズの行動により抜け出すことができた。狐面は軽く頭を下げて礼をする。
『金魚掬いの金魚も。ぼんぼりも花火も。屋台の主人も、迷子も。みぃんな袋小路の魂なんよ。
 あっちに還る皆さん方は、忘れんといたってね。このちっこいお社もな』
 ほな、と言い残すと、煙管の狐面が軽く跳ぶ。
 次の瞬間にはどこにも姿は見当たらず、広い祭り会場だった場所は四方をビルに囲まれた狭い空き地となっていた。祭りの痕跡と言えば、煙を燻らせる線香が一本供えられた小さな社が空き地の隅にあるだけだ。
 イレギュラーズは来た時と同じように鳥居へと戻り、現実へ還る。

 八月が――終わっていた。


 夏がゆくゆくたそかれに。
 かたわれずつが出会うはち。
 吾もゆこうかみそふつか。
 きみをおくりてやみじばし。

成否

成功

MVP

冬越 弾正(p3p007105)
終音

状態異常

なし

あとがき

久し振りのPPPシナリオでした。楽しかったです!
夏の終わり……8月32日……某ゲームでそんなバグがあったなという着想でした。
闇路に還っていった人達は、終わらないお祭りを続けるのでしょうか。
実際にどんなお祭りなのかは、闇路の人のみぞ知る――。
煙管の狐面さんは何なんでしょうね。ただの怪しい人かもしれない。
この度はリクエスト、並びにご参加ありがとうございました!

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