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シナリオ詳細

夏のゴブリン・シーズンフィナーレ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●明かされた真実
 海洋、首都リッツパークにて。とある海洋生物研究所が何者かに襲撃された。
 襲撃者は一点の研究資料のみを焼き払い、多数の怪我人を出して研究対象の一つだった『怪魚』を連れ去ったのである。
 研究所は連れ去られた『怪魚』の持つ研究価値からローレットへ奪取を依頼する……

 ……はずだった。

「馬鹿な奴等だ、ただの研究畑の連中の癖に自らローレットへ赴いて依頼しようとするからこうなる」
 マグロの仮面を被った筋骨隆々な大男はそう嗤い、催眠術によってボーっとしている白衣を着た男達を見下ろした。
 余程焦っていたのだろう、彼等に護衛は無かった。
「さぁて、それでは今から此奴等にその辺のゴブリン討伐依頼でも出して貰って帰って頂こうか……くくく」
 男達の頭に手を当てて何かの魔術を発動する。彼等はその後ピヨピヨしながら幻想王都へと向かって行った。
 大男は満足げに頷いて背後で待たせていた人影に近付いて行く。
「待たせたな……これで私達を狙う者はいなくなった。
 例え催眠魔術に気付いても、既にその時には我々は海の向こう……海洋の連中が来れない深海で穏やかな生活をしているといった所よ」
 マグロの仮面を、大男は静かに外して見せる。
 その下に浮かび上がった相貌はマグロの頭部そのものだった。
 というかマグロに手足が生えていた。
 海種……のように見えるが、どうやら違うと分かる。何が分かるって、目が死んでる海種がいるわけがない。
 逆に言えば、そう……つまり彼は『生きていない』のだ。

「怪魚、通称ディープブルー……か。良い名だな、我が息子よ」
「……じょう?」
 対する人影も日の下に晒される。
 その頭部はマグロ。しかしこちらはまるでチグハグな印象を与える魚人だ、確かに隆々とした手足や腹筋があるが、所々に別の魚の特徴が出ていたのだ。
 それはそうと怪魚ことブルーは自身を研究所から助け出した人物の言葉に首を傾げた。
「驚くのも疑うのも無理はない。似ているのは私とお前の顔だけだろうからな。
 だが聞け、そしてあとでお前にも声帯魔術を施してやろう……いいかブルー、お前も私もかつてはただの異世界から来た魚だったのだ」
 明かされる衝撃の真実。
「だがある時、私達は環境の変化に耐えられず死んだ……そこを、頭のおかしい魔術師に拾われてアンデッドとして蘇ったのだ。
 私は歴戦の戦士の体を、ブルーは多数の魚の集合体として生まれ変わり。頭のおかしい魔術師に放流されて適当に暮らしていたわけだ」
 明かされる衝撃の真実。
「お前は記憶が当時は混濁していた事で近海へ飛び出して行ってしまった様だが……今はハッキリとしているな? お前の母さんも深海で待っているぞ、さぁ帰ろう」

 そう言いながら彼はブルーを連れて海へ入って行く。
 数分後、まさかゴブリン達に網で獲られるとも知らずに……。

●とばっちりゴブリン、狙われる

 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はホクホク顔でもぐもぐしながら卓に着いた。
「依頼なのです! 今回は……例のゴブリンさん達みたいですね?
 調べて見た所、またサーフィンしてるようなのですが! もう皆さん慣れましたよね!
 というわけで、近海で密漁を重ねているサーファーゴブリンの住処を直接叩いて欲しいのです」
 依頼主は海洋のとある研究所。報酬は普通。相手も普通。警備隊との連携も取り次いだのでサーフボード支給、普通。
 卓に集まったイレギュラーズは何事も無く相談を始められそうだ、と一同安心した。その時、ユリーカが甘いお菓子を口にポイしながら指を立てた。


「ただ、調査してみたら何だかおかしなのが捕まっていたのですよね。皆さんはご存知です?」
 出された写真には天日干しされて死にそうな顔になってるムキムキのマグロ二匹が居た。

GMコメント

 夏が、なつが、おわる……?

 以下情報

●依頼内容
 サーファーゴブリンの掃討

●ロケーション
 今回は海洋首都から南下した沖にある小さなマングローブ森林に似た島へ向かいます。
 陸が存在しない為、基本的に船上または後述のボード上での戦闘となります。
 島の中央に行くほどゴブリンの数が増します。
 小型船で行くのですが、操舵手がNPCか皆様の内の一人かによって戦闘時の船上での状況が変わります。(場合によっては戦闘に有利な判定も)

●ゴブリン×20
 サーフボードに乗ってやけにハイテンションに襲って来るゴブリン。
 どこで手に入れたのか、曲刀二本による威力高めの至近での斬りつけやボードジャンプでの飛び斬り(レンジ:近)での攻撃をして来る。
 島に住み着いた規模から見て、今回の依頼で恐らく最後のサーファーゴブリンとなるでしょう。多分、恐らく。
 とはいえ数が多いため、慎重に攻めるか何らかの策が必要となります。

●え、なに、増えてる
 どこかで見覚えのある怪魚らしき魚人が二人捕まっているようです。
 特に救出依頼はされていませんが、もしかすると戦力になってくれるかもしれません。つよそうでした(ユリーカ談)

●支給品、判定について
 『サーフボード』
以前にゴブリン達から回収した八基のボード。後部に取り付けられた魔石がブースターの如く水圧を放出してジェットスキーさながらの解放感を味わえる。
イレギュラーズが希望するならば貸し出すが扱いはそれなりに難しいので気を付けた方がいいかもしれない。
(【超反射神経】または【反応が15以上】ある場合、海上における各補正が上昇します。具体的には命中、回避、反応、機動力の四点。
今回ボードに乗る場合、上記スキルステータスが無くても、プレイングで他スキルやギフトを交えたりして乗りこなそうとする記述があれば乗れます)

 『マングローブ森林?』
 島の内部は樹木が多く、足場として利用できそうな枝が頭上に広がっています。
 中距離程度までの高度ならば【飛行してもデメリットが発生しない】ものとして判定します。

 以上、情報精度A。

 皆様のご参加をお待ちしております。
 ちくわブレードです、宜しくお願いします。

  • 夏のゴブリン・シーズンフィナーレ完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月01日 20時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered
ホリ・マッセ(p3p005174)
小さい体に大きな勇気を
Melting・Emma・Love(p3p006309)
溶融する普遍的な愛

リプレイ

●潮風は冷たく、その胸は熱く!
 夏季も深まるにつれて暑くなり続ける、というわけではない。
 次第に肌を焼き胸の内を蒸す様な暑さは潜め、風の中に一滴の冷気を含んで撫でた者に寒気を覚えさせる事もあるのだ。
「ヒャッホウ! いいねいいね、やみつきになりそうだよ!」
 だが、肌を撫でる風が如何に冷たくとも心さえ熱ければ何も問題は無い。『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)は自身が風になる様な疾走感に興奮しながら勢い良く波乗りジャンプする。
 着水する寸前にボード後部の魔石から大量の水を噴射した反作用で波を切り裂き、足元が濡れる快感に震える。そんな史之の背後を鋭角に動き、ドリフトターンを決めている『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が頷いた。
「うん、これなら結構鋭く敵に迫れるかも!」
 持ち前の反応の良さを活かして小刻みに動き、水上を板と舞いながら。彼女は史之の隣を一気に抜けて行く。
 辺りに陸は存在しない、マングローブ森林が分かる者なら似ていると言うだろう。海中から伸びる無数の樹木らしき植物を彼等は上手くボードを操り、躱しながら陸無き島を駆け巡っていた。
「おぉ、これは……楽しいね!」
「このサーフボード、中々に面白いのぅ! ゴブリン共をさっさと片付けたら、これで思いっきり遊んでよいか?」
 『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)と『Hi-ord Wavered』ルア=フォス=ニア(p3p004868)が交互に入れ替わる様に交差し合い、時折目の前に迫る樹木の枝を手刀で断ちつつルアが仲間へ首を回した。
 かかった水飛沫を舐めて『水面の瞳』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)は「しょっぱいなー」と呟く。
「まあ気持ちは分かるよ。このボードも思った以上に使いやすいし楽しいね。なんなら、一つ欲しいぐらいだ」
 枝を軽々と飛び越えてボードへ着地するニアはそう言ってどちらとも言えない応えをルアに返した。
「サーフボードは初めて見るね」
『船には何回か乗っているがな』
「これ加速できるんだ?」
『加速し過ぎてぶつからんようにな』
「そこまでドジじゃないもん」
(……大丈夫かな?)
 横をヴゥゥゥゥウウンンン……とドップラー効果全開で通り過ぎて行く『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)を史之が目を点にしながら見送った。
 しかもよく見たらもう一人。
『サーフボードというのは初めて見たの。今回はこれに乗ってゴブリンを倒せばいいのね?』
 ティアと並走する、板の上で風に煽られて形状が『ぶあああ』となってしまっている『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)に、史之は今度こそ噴き出した。
 今にも体積が減りそうだが大丈夫なのだろうか。
 だが遠目に見ても彼女はどこか楽しそうなのは分かる。ティアと仲が良いのだろう、微かに聞こえる【テレパス】の声も明るいイメージを持っていた。
「そういえば所変われば品変わるって言うけれど、ゴブリンも海洋仕様とは吃驚だ」
「まったくもって、サーフィングを楽しむ海ゴブリンの退治とはね」
 そんな仲間達を見やりながら『小さい体に大きな勇気を』ホリ・マッセ(p3p005174)はルアの後ろを疾走していた。枝を潜り抜け、時にボードごと軽々と飛び上がってフリップ。またある時はターンを決めて水上の疾走を見事に演じていた。
「それにしても、奴らのねぐらを潰すってところか。まぁ、いいけどさ」

 今回彼等がこのマングローブ島(?)へ来たのは例の如く依頼の為である。この島には多くのゴブリン達が潜んでおり、ここからサーファーゴブリンが発生していたのではと調査によって明らかにされていた。
 更に近海では密漁被害もあるらしく、ローレットへ仕事が来たというのも頷ける話だった。
「密漁なんて漁師さん達困っちゃうよね、絶対ゴブリン達を倒して、漁師さん達を助けてあげようね!
 ……でも、依頼主は漁村じゃなくて研究所なのは……なんでだろう? あの捕まってるお魚さんが関係者だったりして」
「或いはマグロ故に狙われたか。仕方ない、大トロは魅力的じゃしな!」
 笑うルアが並び、そして同時にバックアームから二丁の拳銃型マナ変態制御機を抜き取った。それに気付いたヒィロは前方を見上げる。
 普段と違う空気に勘付いたのか、ゴブリン達が続々と出て来たらしい。
「ヒューウィーゴォォオオオオオ!!」
「わあ……ほんとにサーフィンしてる……」
 自分達と変わらないか、それより乗りこなしてる風なハイテンションで迫って来るゴブリン達を前にして史之が虚を突かれる。
 だが、何も問題は無い。
「これは依頼、女王陛下のためにもデストロイあるのみ!」
 かの海洋を統べる女王を思い出して燃え上がって来た史之はフルスロットルでボードを疾駆させる。今、少年を突き動かしているのは正しく夏のロマンスだった。
 一夏の、最後の戦いが今始まる……!

●ジェットストーム・ゴブリン
 着水した史之を左右から挟んで襲うのは緑肌をほんのり焼いた小鬼。背中の曲刀を二本構えたチンピラゴブは一気に重心を傾けて迫る。
 水飛沫を上げて回転切りを放つ。しかしその瞬間、史之の後足が反射的に沈み。一気にその場から水圧による跳躍で宙返りして刃を間一髪でボードで躱してみせた。
『よーし、撃つぞ!』
『はい!』
 繋がった思考が交わされる。史之からかなり離れた位置から飛んできた『声』はルアの【ハイテレパス】というスキルによる念話だった。
 合図を受けた史之は引き付けていたゴブリン達から僅かに離れる。

「────飛んで火にいる夏のゴブリンじゃな。まるっと纏めて吹き飛ぶが良い!!」

 刹那、轟雷の一撃が樹木すら巻き込み一直線に突き抜けた。
 凄まじい稲光から目を背けた仲間達と違い、無防備に誘い出されたゴブリン達は直撃を受け肉体を四散させて沈んだのだった。
「ルアさん、やるぅ!」
「あたし達も負けてられないなぁ。後ろは任せたよLove、何かあったらよろしくね」
『うん、ニアさん達が怪我したら愛が治してあげる』
 ヒィロと威降へ後衛に近付かせない様に頼むと、ニアが一直線に前へ出る。
 全速力。それも短剣で樹木を傷付けて声を挙げる。
「さあ、追いかけっこの時間だ! ま、捕まってやる気はないけどね!」
「ゴオォォッブ!! ウィーァー!!」
「思ったけどなんだその声!」
 名乗りを上げた彼女を追う影が複数、樹木の向こうからやって来る三騎のサーファーが曲刀と涎を垂らして迫って来る。
 運良く障害物の無いルートを通って近づいて来たゴブリンが曲刀を薙ぐ。が、ニアも同じく一閃させた小盾が火花すら散らさずに受け流した。
「??」
 手応えが無い様ははたまた風を切るかの如し。ゴブリンは手元を見てから再び斬りかかる。
 ところがそこへ再び先ほどの轟雷が流れ込んで来たのである。凄まじい雷撃は空気中に龍の咆哮を思わせる渦を巻いて、大気を揺さぶってから初めて収まる。
 今度は二体のゴブリンが幸運にもルアからの雷撃を生き延びた。ボードを沈ませながら水中へ直進して疑似潜水行動を起こしたのだ。
「お昼の時間だけど、お前らは、この世からおやすみだぜ」
「ゲェエア!??」
 しかし、そのまま逃げ果せる筈も無い。ルアの雷撃が収まった瞬間に突撃して来たホリが手甲を嵌めた小さな拳でゴブリンの顎を打ち抜いた。
 そしてそれを見て激昂するもう一方のゴブリンが曲刀を振り回すが、上手く慣性を利用して避けたホリの毛先すら切れない。ホリの目が光る。一気に加速した彼のボードが半ばゴブリンの板へ乗り上げると同時に再び拳が同じく小柄なゴブリンを打ちのめした。
 グラつき、動けなくなる小鬼。
「一気に行くぜ!」
 直後、小さな勇者の拳が紫電を纏って一閃────
 仲間の助けに入ろうとして駆け付けて来たゴブリンがホリの肩口に一太刀入れるも、衝撃波を伴った一撃に頸椎から先を仲間共々吹き飛ばされ、足元へ崩れ落ち底へと沈んで行くのだった。

「GOBBBBB!!!」
──「GOOOOB!」
──「GOBHHH!」

 その時、不意に島にゴブリン達の声が幾つも木霊する。
 恐らくは純粋な声による伝導だけではない、スキルを用いたものだった。
「仲間を呼ばれそうだね」
 威降が身構える。彼の予感は的中した。
「一気に出て来たよ! 数は……十三!」
「総出ですね……! ルアさん、後何回さっきの出来ますか?」
『儂の今の感じじゃとな~、多分七、八回は余裕じゃな!』
「それなら作戦は続行しよう! ボクも前に出るよー!」
 水飛沫上げて集まるイレギュラーズ達がそれぞれ気合を入れる。まだ形勢は不利ではない。
 と、その時だった。
「…………あれ、あれってもしかして写真の魚?」
「!」
 威降が指差す方向へ目を向ける史之。先ほどルアの雷撃で開けて道の様になった先で、一際大きな樹木の枝に吊るされている二体のムキムキな魚人が確かにいたのだ。
 ヒィロが一瞬の逡巡を見せる。
「お魚さんだ……! どうしよう、助けに行く?」
「その余裕がある人が行くのはどう?」
『それだと自分が行く事になるのではないか?』
「そっか」
 全員の意見は一致していた。ならば迷うことは無い、後は波に乗るだけなのだと。
 ホリの傷をLoveが癒している横を一気に加速して向かうティアに続き、その場に居る者達が一斉に板を発進させる。

「ティアさん! この貝も一応持って行って!」
 史之が咄嗟にティアへ貝の入った腰巾着を投げ渡す。そこで彼は視界をチラついた鈍色の輝きに気付いてボードをクイックターンさせた。
「ゲェェェ!」
「ッ……」
 左右を駆け抜ける二対の凶刃。史之の胸元を浅く切られ、微かに熱い嫌な痛みが服の下に走った。
 しかし、ただ逃げて引き付けるだけの囮役というわけではない。ましてやかの女王に認めてもらう事を夢見るならば。
「負けるもんか……!」
 反転。ターン。襲い来るゴブリン達と向き合う彼は急加速させて風圧にバランスを崩しながらも駆ける。一方ではその姿を滑稽だと嘲笑い、侮る小鬼が波を使って一気に飛び上がり斬りかかって行く。
 史之もその瞬間を見極めて跳ぶ。……否、飛んだ。
 二刀の刃を前にし、足元には一面の海が広がる中。燃え上がる闘志と想いを胸に史之はボードから跳躍して無手を振るう。
 瞬間、彼の腕時計から展開された理力障壁は刃を防ぎ、更には展開されたその勢いを顔面へ直撃させたのだ。声も出せぬ中ゴブリンの体躯はボードから転げ落ちて、板へ見事着地した史之の後方で派手な水柱を立てて沈んだ。
「……よっし!」
 唖然とするゴブリンの目の前を通り抜けながら、彼は歓喜に拳を上げた。

 威降とホリが飛び上がり、美しい交差を描きながら互いのクロスアタックがゴブリンに致命の一撃を与える。
「吹き飛べ!!」
 瞬間、ルアが雷撃を放つ。
 ニアを囲んでいた集団が一気に散らされ、二体沈む。だがルアの顔色は悪い。
(こやつら……段々儂の攻撃に味方を巻き込む様に動き始めておる)
 ハイテレパスで無事を確かめるものの。それでもニアの様子は少しではないダメージを負っている様だった。
 最初こそマングローブ森林の地形は自分達に有利だと思っていたが、ゴブリン達の体格や乗り慣れたボードの操作能力等が手伝い、数の差も含め次第に押されつつあった。
 それでも勝利する事は容易いだろう。しかしその被害やダメージは……
『Loveがみんなを治すのじゃ、だめ?』
「回復役が少ないからね、そうでなくとも少し痛い目を見るのは覚悟した方が良いかな。後衛は勿論、出来る限り守るけどね」
 手傷をLoveに回復して貰い、威降が再び前へ出る。ルア達後衛にゴブリンを近付かせるわけには行かないのだ。
(そういえば、ティアさんの帰りが遅い……! 何かあったんじゃ───)

 不意に、不安を覚えた威降がティアの向かった先へ振り向く。視界に捉える水飛沫を上げて近付いて来る謎のシルエット。
 なんかムキムキの筋肉騎馬に跨って背中の翼をばたつかせているティアが手を振ってきていた。
「………ぇ……?」
 へんなこえがでた。

●シーズン・フィナーレ
 勝因は大量に買いがあった事だと、後にティアはいつもの調子で答えた。
 増え……増えていた、まずチグハグなマグロ顔にサメ肌のよく分からない怪魚、次にマグロの被り物をした変態にしか見えない魚人。そして先頭を担当してる貝殻ビキニを着たムキムキなマグロヘッド。やはり増えている、言い訳のしようが無い程に一体増えている。
 威降は余りの出来事を目撃してしまった隙を突かれてゴブリンに海へ落とされた。
「ぶは……!? そっちへ行ったよティアさん!」
「GYAAAAAAA!!」
「うわぁ!?」
 十メートル程吹っ飛んで水上を転がって行くゴブリン。ボードへ上がろうとしていた威降は眼前にいきなり飛んで来たそれに驚く。
「な、なんじゃあれは……! 儂もあれやってみたいのじゃ!」
『Loveもティアさんと乗りたいの』
「ひゃあ……!? な、あれ? さっき捕まってた数と合わないというか、増えてるよね?
 でもすっごく強そうだし一緒に戦ってくれるのは心強いかも!」
 微妙に違う所に反応する二人の横で、華麗にジャンプを決めながらゴブリンの剣戟を弾き、着水ターンによって飛沫を浴びせてから盾を叩き込むヒィロ。
 細かな傷が癒される状態の彼女でも底が見えつつある状況だったのだ。このタイミングで強力な味方が増える事に彼女は素直に喜んだ。

「……なんだあれ??」
「援軍と考えていいのかね、水の上走ってるのはこの際見ないふりでもしとけばいいさ!」
 ホリがカーブし、それを追うゴブリン達。横合から突っ込んで来たニアがゴブリンの一人を落としながら彼女を追走していたゴブリン達と衝突させる。
 その隙を狙いホリがその場に散らばるボード上を伝い、駆け抜けて二体のゴブリンを相手に打ち合い薙ぎ倒してから板を奪って走り去る。
 彼等の周囲に居たゴブリン達の姿は今や少ない。ティアを乗せた魚人騎馬戦車が集めてしまっている様だった。
「そういえばいつ降りたらいいんだろう」
『考えていなかったのか……』
 魚人に近付けば蹴られ、時には衝術に似た波動で吹き飛んで行くゴブリン達。凄まじい惨状に「おお」と関心しながら的確なタイミングでティアの魔力撃がゴブリンを頭上から押し潰していく。
 勢い含め形勢は思わぬ形で逆転した。
 イレギュラーズ達が一気に攻勢に出た直後、僅か数分でサーファーゴブリン達は一掃されるのだった。


 ……戦闘が終わり、遂に二十体目のゴブリンを倒した史之が冷静に一言。
「で、何処から出て来たんですかそっちの魚人は」
 問われたティアはLoveを抱きながら魚人騎馬に乗って辺りを走り回っている。たまに先頭のビキニ魚人がすっころんでは上に乗ってる者達が吹き飛ぶ、という遊びを何やらルアも交えて始めていた。
 ティアの首飾りが半ばドップラー効果混じりで答えた。
『秋宮達に言われた通り、海水をかけてから貝を渡した。そうしたらだな』
 海面からうっかり顔を出してしまったサメが魚人の丸太の様な足に蹴られ、ぶっ飛んでイレギュラーズの乗って来た小型船【ぽこちゃか丸】に乗船する。
 色々と言いたい事がある史之だったが、もしや深く考えてはいけないのではと思い至って口を閉ざした。

「でもボク気になったんだけど、お魚さん達はもしかして研究所の人? 連れて行ってあげようか?」
 不意に聞こえて来たヒィロの声に立ち止まる騎馬。当然いきなり停止すれば沈むのが自然、ルアとLoveは悲鳴を出す間もなくザボンと浸かる羽目になった。
 すると、彼女の前にマグロを被った変態の様な魚人が水面下から顔を出した。
「命の恩人達に嘘はつけない、真実を述べよう。
 私達、私と貝殻が似合うナイスバディな美マグロの妻、そして向こうの……意思疎通がまだ出来ない方が息子だ。
 あの研究所には戻れない、戻れば息子に自由はないのだ。それに催眠術も今頃は効果が消えて大騒ぎだろう……妻も危険な目には遭わせられない」
「催眠術? まさか、金が出ないってことはないよな?」
 ホリがボードをちゃぷちゃぷと滑らせて詰め寄る。
「……困るか?」
「あたし達は構わないけど、あんまり大事になるのもねってところかな」
「しかしどうしようもないのだが」
「あらん、それだったらこの子を研究所に送ればいいんじゃないのかしら」
「お前……!? それではあいつは!」
「話を聞きなさいよぉん、それでね。その後にー……」

 魚人達はある策を提案する。
 イレギュラーズはその内容に首を傾げたが、もうこの際どうでも良くなってきていた。
「じゃ、難しい話が終わったら遊ぶのじゃ!」
 船からサメを叩き落としたルアが叫ぶと、それに続いて彼等は全員帰る前にひとしきり夏の海を楽しんで行った。

●~後日~
 漁村が密漁者の特定に未だ至らず、未解決だった問題。
 それをとある研究所が早期にローレットへ依頼をした事で、見事ゴブリンの問題も含め解決した事に関してローレット共々首都リッツパークのメディアで称賛の声が挙がった。
 これによってノせられにノせられた研究所は得意顔で『そういう事』にしてローレットへ報酬を支払うのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

のちに判明する、研究所が依頼したという情報を明かした証人が謎の怪魚だったとか。

皆様の活躍により依頼は成功となります、お疲れ様でした。

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