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シナリオ詳細

『馬車とドラゴン』の著者。或いは、フフとプティと奪われた馬車…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●疾走する商会馬車
 ラサの街中に砂埃が舞った。
 疾走するのは1台の馬車。
 御者台に乗るのは、青髪の女性と、茶色い髪をした少女の2人だ。
 馬車の車体には「フフ&プティ商会」の文字が刻まれている。
 通常、商人の馬車といえば積荷は「売り物」と決まっているのだが、今回に限っては少々違う。
「おぉぉ! 追ってきますよ! そこの角曲がって! 曲がらなきゃ、追いつかれちゃいます!」
 荷台の幌を取り払い、現れたのは白い肌をした痩せた女だ。
 唾の広い黒い帽子に丸眼鏡。
 頬を紅潮させ、口元は笑みの形に歪んでいる。
「いやぁ、上手く釣れましたね! ちょっと釣れすぎたけど、まぁ構いません! みぃんな纏めて、参考資料にしてあげます!」
 荷台に積まれた木箱の間に座り込み、眼鏡の女は脇に何かを抱え上げる。
 ライフルだ。
 それも、固定して使う大口径かつ連射可能のものである。
 となれば、詰まれた木箱の中身は全て弾薬だろうか。
「上手く釣れたって何!?  貴女を荷と一緒に目的地まで運ぶだけの仕事だったはずでしょう!」
 手綱を握る青髪の女……フフが悲鳴混じりに叫ぶ。
「どうして……飛竜の群れに、攻撃なんてっ」
 次に言葉を発したのは、フフの隣に座った少女……プティであった。
 ラサの各地を旅している小規模な商会馬車が、一体どうして町の中を疾走しているのか。
 その原因は、荷台に乗った女にある。

「おいおい! 街の奥に入り込むんじゃねぇ! 飛竜を何匹、引き連れてやがる!」

 街の住人が怒声をあげる。
 疾走する馬車を追いかけるのは、体長2メートルほどの小柄な飛竜の群れだった。
 迎撃のためか、丸眼鏡の女がライフルを撃つが……悲しいかな狙いは滅茶苦茶だ。飛竜は益々、怒り狂うと馬車へ向かって極小さな火球を吐く。
 フフは咄嗟に馬車の進路を右へとずらし、ギリギリのところで火球を回避。
「すぐに……な、なるべく早く街から出るんで!」
「これを、ローレットっていうところに、渡してほしい」
 馬車を疾走させながら、フフは謝罪を、プティは瓶詰めの手紙を住人へと投げた。
 
●『馬車とドラゴン』
「というわけで皆さん、お仕事の時間っす。街に入り込んだ飛竜の群れを追い払って、フフさんとプティさんを助けるっすよ」
 そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はポケットの中から手紙を取り出す。
 疾走する馬車の上でしたためたのか、文字は激しく乱れているが、辛うじて文章は読み取れた。
「フフさんとプティさんは、これまで何度かローレットに依頼を出してくれているっすね。トラブル体質なのか、本人たちの意に添わない危険に巻き込まれています。きっと今回も……」
 トラブルに巻き込まれる度に、フフとプティはイレギュラーズに助けられてきた。
 依頼を出すのも、すっかり慣れたものである。
「今回の経緯を説明すると……」

 事の経緯は以下の通りだ。
 フフとプティの前に現れたのは、シージ・スキャンパーと名乗る1人の女性であった。
 職業は小説家。
 依頼の内容は荷の運搬。
 荷とはつまり、シージ本人のことである。
 参考資料を得るために、ラサの辺境にある“飛竜の巣”という場所へ運んでほしいという簡単な依頼だ。その割に報酬はいい。“飛竜の巣”は少々危険な場所ではあるが、ただ近くまで行くだけならば問題ないと、フフとプティはその依頼を受けることにした。
 それが大きな間違いだったと知るのは“飛竜の巣”に到着してからのことである。
「じゃあ、仕事を始めましょっ!」
 そう言って、シージはあろうことか“飛竜の巣”へと銃弾を撃ち込んだのである。
「な、何を!?」
「うぅん。違うんですよね。私が見たいのは、ぐったりと弱った飛竜なんです。そうして、弱った飛竜を看病する荷馬車……最初は飛竜を心配していた荷馬車は、次第に内なる黒い欲望を抑えきれなくなり……最後には……みたいな」
「何を、言っている……の?」
「貴女……正気?」
 シージの言動は理解できない。
 しかし、彼女のやってしまったことに関しては、十二分に理解できた。
 平和に暮らしている飛竜へ、突然攻撃を仕掛けたのだ。
 当然、飛竜は激怒する。
 慌てて馬車に乗り込んだフフとプティ、そしてシージの3人は逃走を開始。飛竜を連れたまま、街へと逃げて来てしまったというわけだ。

「シージさんの代表作『馬車とドラゴン』は、その名の通り“馬車”と“ドラゴン”の恋愛模様を描いた一部で人気のシリーズ小説っす。何を言っているか分からない? わたしも分かんねーっす」
 分からないが、人気作であることに間違いは無い。
 発売当初は『人類には早すぎる』『作者はハーブをキめている』『どうして書こうと思ったのか』などと酷評されていたらしい。
 けれど、そのうち一部の読者から『新時代の幕開け』『奇才の中の奇才』『馬車×ドラゴンが至高』などの声があがりはじめる。
 そうした熱心なファンの支えもあり、シリーズは順調に巻数を増やしていった。
 今回は、最新作の執筆にあたり参考資料が必要になった……というわけだ。どういうわけだ。
「弱り切った飛竜と、それに寄り添う荷馬車をその目で見たかった……だそうっすよ」
 結果、飛竜を怒らせた。
 追いかけて来る飛竜は7体。
 【業炎】の火球と【飛】【ショック】を与える暴風を叩き込まれながら、街まで逃げて来られたのは大したものだ。幸いなことに、現状、怪我人はいても死人は出ていない。
「一方、荷馬車に積まれた武器は固定式ライフルが1丁だけ。連射は効くし【ブレイク】の効果も付いてますが、悲しいかな扱う人間に狙撃技術が無さすぎるっす。飛竜に対しての有効打は望めないっすけど、うっかり誤射される危険は伴うっすね」
 フフとプティ、シージを救助し、飛竜を追い払う。
 それが今回の依頼の内容だ。

GMコメント

●ミッション
飛竜×7体の撃退

●ターゲット
・飛竜×7
2メートルほどの小柄な飛竜。
フフとプティ、シージに対して【怒り】を抱いた状態にある。

業火球:神遠範に中ダメージ、業火
 火炎弾。狙いはあまり正確ではない。

吹き飛ばし:神中範に小ダメージ、ショック、飛
 突風。暴風を巻き起こして対象を吹き飛ばす。

・シージ・スキャンパー
黒い帽子に丸眼鏡、白い肌の小説家。
代表作『馬車とドラゴン』は一部でカルト的な人気を誇る。

固定式ライフル:物遠単に中ダメージ、連、ブレイク
 連射可能なライフルによる銃撃。狙いは滅茶苦茶。 

・フフ&プティ
フフは青髪の商人。
プティは赤茶色の髪の小柄な少女。
各地を旅する行商人。
非常に運が悪く、トラブルに巻き込まれやすい。
シージ・スキャンパーの依頼を受けた結果、飛竜に追いかけ回されている。馬車を操るのに精一杯で、進路などを確認する余裕は無い。


●フィールド
ラサのとある街。
半径は2キロほどの小さな街だが、家屋や露店が多く、道幅は狭い。
現在、フフとプティの馬車は街の中央付近にいる模様。
街の中央付近に近づくほど、道は複雑化し迷路のようになっている。街から出ようとしているが、上手くいっていないのが現状だ。
街の周囲は砂漠に囲まれている。
街から南方へ数キロ離れた場所に“飛竜の巣”が存在している。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 『馬車とドラゴン』の著者。或いは、フフとプティと奪われた馬車…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
シラス(p3p004421)
超える者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
十善寺 百八(p3p010808)

リプレイ

●シージ・スキャンパー
 職業は小説家。
 黒い帽子に丸眼鏡、白い肌をしたいかにもひ弱な女性である。
 頬を紅潮させた彼女は、馬車の荷台から身を乗り出して、追走して来る飛竜に熱い視線をじぃと注いでいた。
「熱に浮かされ、愛しい馬車へ襲い掛かる飛竜。馬車は飛竜から逃げながらも、その胸にあるのは愛しい人へ向けた心配ばかりで……そしていよいよ飛竜に追いつかれ、組み敷かれた馬車は、あぁぁぁ~! そういうのもいいかもしれないですねぇ! ちょっとフフさん! 一回、飛竜に捕まってみてくれないかしら!」
 ぐるりと首を後ろへ向けて、馬車を操る女商人・フフへと叫ぶ。
「ふざっけんな! 食べられたいのぉ!?」
 手綱を離すわけにもいかず、フフは怒鳴り返すのだった。

 ラサの街を一心不乱に馬車が行く。
 追いかけて来る飛竜から逃げて、街の奥へ、奥へと進む。
 飛竜の怒りが馬車へ向いていることもあり、現状、建物や人には大きな被害は出ていない。しかし、それも今だけのことだ。
 馬車が走る道の幅は、次第に狭くなっている。
 いずれ、馬車は走行を止めて飛竜に追いつかれるだろう。
 そのことが分かっているのか、馬車を追う7匹の飛竜は先程からどこか楽し気だ。それはまるで、鼠をいたぶる猫のようでさえあった。
「おいおい、死ぬわあいつら」
「この先って、街の役場だろ? 馬車ごと役場に突っ込むつもりか?」
「そうはいっても、どうやってあれを町の外に誘導するんだ? 俺ぁ、怒ってる飛竜の前に飛び出す勇気はねぇぞ?」
 悲鳴をあげて、不安そうな顔をして、住人たちが言葉を交わす。
 その眼前を、びゅおんとまるで疾風のごとく1匹の鮫が駆け抜けていった。
「フフさーん! プティさーんっす!」
 赤い髪を風に躍らせ、鮫に跨る小柄な女。『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が馬車を追って疾駆する。
「っ! 良かった! 助けに来てくれたんですね!」
「し、死ぬかと……思った」
 レッドの声が届いたのか。
 フフとプティの表情に、幾らかの余裕が戻ったようだ。
「誰です? もしかして、2人の仲を引き裂こうとする……恋敵!? 恋敵は鮫なんですか!? もしかしてフフさんとプティさんは、私のために……!」
 シージだけは、別の理由で興奮していた。
 馬車から身を乗り出して、今にも落下しそうなぐらいに不安定な体勢でレッドへ熱い視線を送る。思わずレッドは、鮫の速度を緩めかけるがギリギリのところで耐えきった。
「飛竜との戦いは望むところだけれど思ってたのと違うぜこれ!」
「フフとプティはいつもいつも不運なものね……さ、今回もサクッと解決してあげましょ!」
 『竜剣』シラス(p3p004421)と『青鋭の刃』エルス・ティーネ(p3p007325)は視線を交わすと、それぞれ走る速度をあげた。
 フフとプティを町の外へと出すにしろ、この場で飛竜を仕留めるにしろ、まずは追いつかなければ話は始まらない。

 空を見上げて誰かが言った。
「ありゃ何だ? 鳥か?」
「ひ、人が乗ってないか?」
「あれぁ、まさかワイバーンか!?」
 太陽を背に大空を舞う3つの影と、その背に跨る3つの人影。
 それは急に高度を落とし、馬車へ向けて迫っていった。
「いやはや、芸術家や作家とは突拍子のない奴が多いであるな。創作のためとはいえ護衛も付けずに飛竜の巣に手を出すとは剛毅と言うか向こう見ずと言うか流石に危ないであるな」
「資料集めが必要なのは解るが、やり方ってものがあるだろう! このまま街にいたら器物損壊で弁償まみれだし、何より住民が危ないぞ!?」
 ワイバーンに跨って『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は右へ、『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)は左へ飛んだ。
 馬車を追う飛竜たちの進路を塞ぐつもりなのだろう。
「っ!? は……ハーレムものもあり? えぇぇ、でも、ちょっと……過激すぎませんか!」
 シージはどうやら正気じゃなかった。
 或いは、いつもこんな風なのかもしれない。
「へい! モモちゃん、行きますわよ! 素敵なドライブと洒落こみますわよ~~~!!」 
 愛馬(竜)の首を優しく叩いて十善寺 百八(p3p010808)が降下する。
 建物の影を大きく迂回するようにして、彼女は馬車の真正面へと割り込んだ。そんな彼女の眼前を1羽の小鳥が横切っていく。
「小鳥を追ってくださいませ!」
 馬車の進路に割り込みながら、百八はフフへと指示を送った。

 道の真ん中に男が1人、立っていた。
 毛皮を纏い、斧を担いだ厳つい男だ。
「あ、危ない!」
「あーあー、問題ねぇ! ったく、まァたおめえらかよ!」
 さっさと行け、とフフとプティへ合図を送って『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は腰を落とした。
「イチイチこのおれさまを呼びつけやがって! 面倒くせ……ウオオオオアアア一面のクソトカゲァ!!」
 馬車を追って来る飛竜は7匹。
 先ほどまでより、多少馬車との距離が開いているけれどその怒りは未だ収まってはいないらしい。
 1歩、前へ踏み出して怒号と共に斧を振るった。
 飛竜はひらりと軌道をあげて、グドルフの斧を回避する。

 街の外周。
 人気のない砂漠の隅に『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が立っている。
「まるで異世界の戦史である、モガディシュの戦闘みたいね」
 指先に止まった小鳥へ向けて、イナリは重い溜め息を1つ。
 モガディシュの戦闘とは、車両部隊が入り組んだ街路を迷走したことにより、被害を拡大させた出来事の名称だ。
 なるほど、たしかに飛竜を引き連れ馬車が町を疾走している現状は、それに近いと言えるだろう。
「まぁ、あの話より随分とマシな状況だから、焦らずに丁寧に誘導しましょうか」
 そう言ってイナリは、小鳥へ次の指示を出す。
 馬車と飛竜を、街から外へと出すために。

●障害が多いほど燃え上がる
「フフさん、プティさん! 見てください! 妨害を物ともせずに、追いかけて来る飛竜が3匹! 愛されてますね! 1回、捕まってください!」
 ライフルを構えてシージが叫んだ。
 イレギュラーズの妨害を抜けて、3匹の飛竜がすぐ後ろまで迫っているのだ。
「撃って! 早く!」
 シージは銃の扱いが下手だ。
 けれど、銃声と弾丸を撃ち込むだけでも牽制程度にはなるだろう。
 そもそもの話、素人がいきなり銃を使っても、命中させられるようなものでは無いのである。
 街に多少の被害が出るかもしれないが、人を撃たなければ問題ない。知らない誰かの家よりも、大事な自分の命の方が優先順位が高いのだ。
 フフの指示に従って、シージはライフルに弾丸を装填。揺れる馬車の荷台から、どうにか飛竜へ狙いを定め……引き金に指を引っ掻ける。
 と、そこでシージは何かに気付いた。
「あれは……恋敵!?」
「スキャンパーさんお邪魔するっすよー! don't shootっす!」
 つまれた木箱を突き倒しながら、陸鮫が姿を現した。その背に跨るレッドへ向けて、飛竜が2匹、高度を下げる。
「うわ、こっち来たっす!」
 思わずレッドが悲鳴を上げた。
 しかし、飛竜の爪がレッドを引き裂くことは無い。
「行くぞ吾輩の相騎トルメンタよ」
「全く……覇竜であんなに手こずった竜が7体も」
 後方から追いすがるのは、ワイバーンに跨る練倒。
 そして、黒い髪を靡かせるエルスが建物の上から跳び下りる。
 練倒の体当たりを受け、飛竜が1匹、バランスを崩して地面に倒れた。
 さらにもう1匹へは、エルスが鎌を振り下ろす。
 斬撃を寸前で回避して、ワイバーンは建物へ激突。そうして出来た幾ばくかの時間を使って、レッドは馬車へと追いついた。
「ちょっと! 倒れた飛竜に馬車を寄せてくださるかしら!?」
「違う、違う! そうじゃ、そうじゃないっす!」
 陸鮫から馬車へと跳び移り、レッドは慌ててシージを止める。
「仲間から指示があるっすから合図に合わせて左右に曲がるっす。街から出るっすよ……!」
 シージの手からライフルを奪って、レッドは前を指さした。
 建物の屋根伝いに移動して来たシラスが、馬車を先導するように走っているのだ。
「頑張れ、こんな馬鹿みたいなことでやられちまうなよ」
 そう言いながら、シラスは視線を左右へ走らせる。
 イナリの操る小鳥の姿を探しているのだ。
「こっちだ、俺についてこい」
 進行方向の道は左右に分かれている。
 シラスは小鳥の導きに従って、迷うことなく左方向へと向かう。
「道、狭くなぁい!?」
 馬車が通れるかギリギリといった道幅だ。
 少しでも車体が左右へぶれれば、馬や車輪が建物に当たる。
 だが、おかげで飛竜は後ろを付いて来ることが出来ない。
「でも……上から、来てるよ」
「マウントポジション!! そういうのも鉄板ね!」
 頭上を見上げてプティが呟く。
 興奮しているシージは一旦放っておいて、レッドはギリと歯噛みした。思っていたより飛竜たちは執拗で、そして頭がいいようだ。
 けれど、しかし……。
「飛竜の攻撃は俺が受けるから、操縦に集中してくれ!」
 青いワイバーンが、横から飛竜に突っ込んだ。
 ワイバーンの背に乗るイズマが細剣を抜いて、牽制するかのように一閃。翼を広げ、動きを止めた飛竜へと、ワイバーンがぶつかった。
 もつれるように、イズマたちが落下する。
 がしゃん、と建物の屋根が砕ける音が鳴り響く。
 だが、追いかけて来る飛竜は全部で7匹もいるのだ。
「もう1匹!」
「“特攻”んでやりますわ~!」
 シージが歓声を上げるのと、百八が飛び出したのは同時。
 騎竜の背を蹴り、飛んだ百八は拳を握り……。
「私の拳は飛竜をも貫きますわ!!!」
 一撃。
 渾身の殴打を、飛竜の横面へと叩き込む。

 馬の嘶き。
 人々の悲鳴。
 瓦礫の崩れる音が響いた。
「最短経路は選べたはず……多少の混乱は仕方ないとして、街を抜けるまで後数分ほどかしら」
 目を閉じて、イナリは移動を開始した。
 向かうは街の出口付近。
 このまま何事もなく、上手く事が運べばいいが……。
「そう順調には進まなそうね」
 思わず、暗い声が零れた。
 額にそっと指を添え、イナリは仲間へ指示を飛ばした。

 イナリからの指示を受け、グドルフは1人、進路を変えた。
 馬車を追っていた飛竜2匹が、何を思ったか急に追走を止めたのだ。なかなか追いつけない馬車を諦め、そこらの人を襲うことに決めたのだろうか。
「おぉ、いやがった! オラァ、トカゲども! これでも食って落ち着きやがれ!!」
 片手に斧を、片手に焼き鳥を掲げたグドルフが吠える。
 建物の扉を蹴りつけていた飛竜2匹が、グドルフへと視線を向けた。翼を広げ、低い位置を走るように飛竜は滑空。
 牙の並んだ口を開け、同時にグドルフへ襲い掛かった。
「オッすげェ牙だ! オリハルコンかな? そこまで研ぐにゃ眠れねェ夜もあっただろ!!」
 焼き鳥を頭上へ投げ捨てて、グドルフは両手で斧を掴む。
 腰を低く落として一撃。
 力任せに振るった斧が、飛竜の牙をへし折った。
「飛竜を弱らせたらあのバカ女の思い通りになっちまうぜ。そうはさせるかよ。こんだけコケにされてんだ、ブッ殺させてもらうぜェ!!」
 悲鳴を上げる飛竜へ向けて、まっすぐ斧を叩き込む。
 ガツン、と一撃、脳天を割ってまずは1匹の命を狩った。
 ついで、2匹目……獣のようなグドルフの笑みを見たことで、飛竜が何を思ったのかは分からない。
 暫し、威嚇するように唸っていたが……やがて疲れた顔をして、ゆっくりと何処かへ飛び去って行く。

 木箱や柵をなぎ倒し、馬車が街から砂漠へ飛び出す。
 その後を追って4匹の飛竜が飛び出した。広げた翼を羽ばたかせれば、砂塵が舞って辺りを砂色に染める。
「弱りきった飛竜をご所望ならオーダーに応えてやるっす……その分依頼料は上乗せでねっす!」
 シージの手からライフルを奪って、レッドは照準を飛竜へ定める。
 砂煙の中を飛び回る影の1つにまっすぐ狙いを定め、ゆっくりとトリガーを引き絞る。
 銃声。
 放たれた弾丸は、飛竜の翼を撃ち抜いた。
『ギャぁっ!!』
 悲鳴をあげた飛竜がゆっくり高度を下げる。
 そこへ飛び込む黒い影はエルスのものだ。
「飛竜なんて飛んでる事が一番厄介だけれど……私にだって手段が無いわけじゃないわ」
 低い位置から、頭上へ薙ぎ払うような斬撃。
 首を抉られた飛竜が、血を吐きながら地面に倒れた。
「さ、この大鎌の錆になりたい子から先に来なさい!」
 風が吹いて砂煙が晴れた。
 大鎌を地面に突き立てて、エルスは声を張り上げる。

 壁の影に身を隠し、イナリがライフルを肩に構える。
「牽制します。誰か数を減らしてください」
 放たれた弾丸が飛竜を襲う。
 飛竜はひらりとイナリの放った銃弾を回避。しかし、注意をイナリへ向けたのは悪手だ。
「私は本来は隠密とかが得意ですが……ぶっちゃけ、この状況だと隠密もクソもないですわ!」
 地面を駆ける百八が、飛竜の腹へ強烈な殴打を叩き込む。
 くの字に体を折り曲げて、飛竜が地面に落下した。その翼へとしがみつくと、鯖折りの要領で骨を砕く。飛べなくなれば、飛竜などただのでかいトカゲだ。藻掻く飛竜の首を押さえて、頭部へ拳を叩き落した。

 一方その頃、イズマは街の出口付近で1匹の飛竜と相対していた。
 吐き出された火球を赤熱する細剣で弾き落した。
 地に立つ飛竜に接近し、攻撃を捌き、飛び立とうとした瞬間に牽制を入れる。
 ゆっくりと、しかし着実に……飛竜はダメージを積み重ねている。
 やがて、これ以上は命の危険と判断したのか。
 ぐったりと首を下げて、飛竜はくるると弱々しく鳴いたのだった。
「……突然撃って悪かったな、巣に帰ってくれ」
 細剣を払い、イズマは告げた。
 そんなイズマに視線を向けて、飛竜はゆっくり飛び立った。

 人気のない路地裏で、ごうと熱波が渦を巻く。
「ガーハッハッハ、戦いにおいて高所を取ることは定石。空を飛ぶ飛竜の上を取りその行動制限してやれば勝ったも同然であるな」
 口元を拭い、練倒はガハハと哄笑をあげた。
 先ほど落とした飛竜相手に、地上戦を繰り広げていたのだろう。腕や肩、腹には幾つもの傷を負い、流れる血が地面を赤く濡らしている。
 そんな練倒の足元には、焼け焦げた1匹の飛竜が転がっていた。
 激闘の果て、勝者は練倒に決まったらしい。
「……それにしても『馬車とドラゴン』。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている様な精神の削られる妙な感覚に陥ってしまうであるな」
 事切れた飛竜を見下ろして、感慨深げにそう呟いた。

●悲愛の果て
 その日、シージは奇跡を目にした。
 空を舞う1人の男。
 素早く虚空を駆け抜けて、視認できぬほどの速度で手刀を振るう。
 その度に飛竜の皮膚が裂け、雨のように血が降り注ぐ。
 シラスと飛竜の戦いは、どれだけの間続いただろうか。
 数度、シラスの拳が閃き飛竜は激しく身を震わせる。今の一瞬で、何発もの殴打をその身に受けたのだろう。
 内臓を傷つけられたのか、血を吐きながら飛竜はドサリと地面に落ちる。
「さぁ……お望みのやつだぜ、用があれば今のうちに済ませてくれよ」
 飛竜が事切れるまで、きっとそう長くない。
 額を濡らす血を拭い、シラスは言った。
 頬を紅潮させ、目を潤ませて、シージがフフの肩を掴む。
「馬車を! 馬車を寄せて! ハリー! ハリーハリー! この機を逃せば、もう2度とチャンスは巡って来ないかもしれないんですよ!!」
「いやぁ……無理ぃ。無理ですってぇ!」
「今回も散々な目に遭ったわね……でもまた何かあったら頼ってちょうだいね、何だかほっとけないから」
 手綱を奪い合う2人の姿を、呆れた様子でエルスは見つめる。
 正確には、現在進行形で「散々な目に逢っている」のだが。
 
 飛竜の討伐から暫く。
 街から離れた砂漠のどこかで、一行は休憩中である。なにしろ暴れすぎたので、あれ以上街に留まることは出来なかったのだ。
「まさかこのような所で『馬車とドラゴン』の作者に会えるとは思いませんでしたわ。ええ、ニッチな特殊性癖……私に負けず劣らずの煩悩っぷりは見所有りますわ。個人的には“馬車×ドラゴン”もいいですが“ドラゴン×馬車”も捨てがたいですわね。しかし、いくら原稿の為とはいえ、やっていい事と悪い事がありますわ!」
「あぁ? 何の話をしてやがる? どうせ書くならこの最強最悪イケメン山賊グドルフさまを題材にした、シブめのハードボイルドなヤツを書きやがれ!」
 シージへ賞賛の言葉を贈る百八と、自分を書けと迫るグドルフ。
 そんな2人の言葉を右から左へ流して、シージは一心不乱にペンを走らせる。
 今日、この日の出来事を、ネタとして書き止めているのだろう。
「空を飛ぶ戦士と、飛竜の恋愛譚! 2人は敵同士で……戦士の心は、飛竜では無く馬車へ向いていて! あははははは! 新作はこれで決まりですねぇぇぇ!」
 シージが正気を取り戻すまで、いましばらくの時間が必要そうである。


成否

成功

MVP

レッド(p3p000395)
赤々靴

状態異常

炎 練倒(p3p010353)[重傷]
ノットプリズン

あとがき

お疲れ様です。
飛竜は撃退され、フフ&プティは無事に生き延びました。
また、皆さんはシージから深い感謝の言葉を貰ったそうです。
依頼は成功となります。

この度は、ご参加いただきありがとうございました。
『馬車とドラゴン』はラサにて好評発売中です。

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