シナリオ詳細
<深海メーディウム>虹色珊瑚と夏の思い出
オープニング
●海に咲く華
それはそれは美しいものなのだ、と人は言う。
何処までも続く碧の世界に、色とりどりの熱帯魚たち。優雅に泳ぐ熱帯魚たちの横をすり抜ければ、戯れるようにくるりと纏い付く銀色魚たちの群れが優しく頬を撫でていく。鮮やかな色彩を纏って手を広げるのは珊瑚礁。ぽこりと昇っていく泡沫は水中光芒の中に揺れ、揺らぐ海面へと消える――そんな、海中世界。
そこに、それはあるのだという。
虹色の光沢を持つ、『虹色珊瑚』が――。
●フリーパレットが言うにはね
「みたいものがあるの」
そう言ったフリーパレットは、最初は何が見たいのか名前が出てこない様子で、身振り手振りでクネクネと何かを表していた。
散歩をして色んな物を目にすれば見たいものの名前を思い出すだろうか。劉・雨泽(p3n000218)は保護したフリーパレットを連れて三番街(セレニティームーン)を散策し、暫く歩き回った後に、休憩しようと通り沿いのテラス席でフリーパレットとトロピカルジュースを注文した。
散策中にフリーパレットが様々な物を見て零した言葉は、
『きれいなものなの』
『えだみたいなの』
『おはな……ううん、いきものかも?』
『キラキラゆらゆらなの』
……と、さっぱりと判断がつかない。次はお土産物屋さんでも覗いてみようかと考えながら、雨泽はテーブルの上で指をコツリと遊ばせていた。
そこに、色鮮やかなトロピカルジュースが届いた。南国の果物色をしたジュースに、グラスの縁には鮮やかな果物たちが飾られ、紅い大きな花まで添えられている。それを見た瞬間、フリーパレットが「あ!」と声を上げた。
「にじいろさんご!」
「虹色珊瑚?」
「うん。ぼくたち、にじいろさんごがみたいの」
「普通の珊瑚ではなく」
「にじいろなの」
「虹色かぁ」
普通の珊瑚とは違うらしい。しかし、虹色の珊瑚なぞ雨泽は見たことがない。
この海で採れるものなら、矢張りお土産物屋さんでも覗くべきかな。
そう、思った時だった。
「今、虹色珊瑚の話をしましたかな?」
雨泽の背後の席から、紳士めいた声が掛かったのだ。
「ちょっとちょっとダメよぉ、ミケくん。知らない人の会話に急に入っちゃ」
「ああ、いえ。お構いなく、此方ももしご存知ならば教えてもらいたく――」
「あら?」
「おや」
振り返った雨泽とアーリア・スピリッツ(p3p004400)が顔を合わせて一息分固まった。
「あらぁ、雨泽くんじゃない。観光? お仕事?」
「久しいね、アーリア。楽しいお仕事の方だよ」
「領主殿、この御仁とはお知り合いですか?」
「ローレットの情報屋さんなのよぉ」
「成程、仕事の付き合い、と。
となればお相手も、知らぬ相手でも怪しい相手でもありませんね」
うむうむと頷くアーリアの同行者の名は、勘解由小路・ミケランジェロ。健鶏王国の王子――もとい、アーリアの保護下にある(美味しそうな)旅人である。
「君、虹色珊瑚のことを知っているのかな。フリーパレットが見たがっているから、良ければ教えて欲しいのだけれど」
美味しそうな見た目だなと思いつつも口にせずに雨泽が願い出れば、「よろしいでしょう」とミケランジェロは羽をパタパタ。実に美味しそうだ。
「私は領主殿について観光に来ているのですが、そうあれは何日か前――」
海の美しさを讃え、泳ぐ魚の美しさを讃え、珊瑚礁の美しさを讃え、更にはお魚に追いかけられた――とかいうとても長い話なので割愛するが、ミケランジェロ曰く、ニュー・カリュプス島のアレグロ・ビーチで虹色の光沢のある珊瑚を偶然見つけた、とのことだった。
「えっ、そうなの? 私、知らないわよ?」
「領主殿はホテルでシエスタを」
王子様らしく(美味しそうだと狙ってくる獣たちから避けるように)お忍びで人気のないビーチへと足を伸ばしたのだそうだ。
「アーリア、時間が大丈夫そうならフリーパレットのことをお願いしてもいいかな?」
「勿論よぉ。よろしくね、フリーパレット……くん? ちゃん?」
「魂の集合体だから性別はないみたいだよ」
けれどもフリーパレットが『ぼくたち』と口にしたことから、『くん付け』で良さそうだ。
「では、早速参りましょう! 碧く煌めく珊瑚礁の海へ!」
「ローレットで皆に声を掛けてからね」
「ダイビングなら水着の準備も必要よねぇ」
ミケランジェロがパタパタと翼を動かし、何だかお腹の空く匂いが夏の太陽の下で漂った。
- <深海メーディウム>虹色珊瑚と夏の思い出完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月31日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC2人)参加者一覧(10人)
リプレイ
●極彩に染まる
「もうっ、ミケくんったら。そんな素敵なところを見つけていたのなら、もっと早く教えてくれたっていいんじゃない?」
「本当は領主殿にサプライズプレゼントをしたかったのですが……」
「み、ミケくん……!」
いつもお世話になっているお礼に……なんて甘く微笑んでくれる――表情だと思うのだが、何せ彼の見た目はフライドチキンだ――勘解由小路・ミケランジェロは流石王子様である。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)だってちょっぴり感動してしまった。
「やあミケランジェロ、いつも手紙を届けてくれてありがとう」
「久しぶりだなぁアーリア。やーミケ君! キミと仕事の場で会うのは初めてだね。ふふっ、ミケ君はマーメイドスタイルが良くお似合いで!」
つんつんと軽く『紅獣』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)がミケランジェロの頭をつつけば、慌てたミケランジェロは「食べないでください!」とビョンと跳ねて頭を押さえて防御姿勢。からかっちゃだめだよ、なんて『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は嗜めるけれど、お腹はぐぅと正直だった。
「虹色珊瑚……この世界にはずいぶんとまだ見ぬ神秘が隠されているものだな。センスオブワンダーというやつだ」
ラッシュガードに覆われた腕を伸ばすストレッチをしながら海を覗き込むのは、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)。皿倉 咲良(p3p009816)も彼の隣で同じように一緒に覗き込んでいた。
――もしかしてこれって……デート?
そんな言葉が咲良の頭に浮かんではいるが、エーレンは彼女の気持ちに気付いているのかいないのか――今日はよろしく頼むぞと竜宮イルカをぽんぽんやっているから、おそらく後者だろう。
「虹色珊瑚か。俺は海によく来る方だけれど、虹色の珊瑚はまだ見たことがないな」
「俺も海洋で暮らして長ぇが、虹色珊瑚なんてのはこれまで見たことも聞いたこともなかったな」
『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)の言葉に、顎を撫でた『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が同意を示した。ふたりとも、海洋の困りごとではでしょっちゅう顔を合わせる、所謂知れた仲である。そんなふたりだって虹色珊瑚にはお目に掛かったことがない。それを見つけるとは、流石は王子様。“持っている”。
「ほんとう?」
「うん。俺もその珊瑚を見てみたいや」
いっしょだねと無邪気に笑うフリーパレットにはそうだなと史之が笑みを返した。
「僕はメーアだよ! 今日はよろしくねっ」
「ぼくたちはフリーパレットだよ。よろしくね」
ぎゅっと握手をして『おはようの祝福』Meer=See=Februar(p3p007819)が告げれば、フリーパレットも真似て挨拶をしてくれる。一番表面に出てきている魂は、真似するのが大好きなお年頃だったようだ。
「よし、ファニー。絶対に見つけてやろうぜ!」
「ああ、そうだな」
片方は骨だが手の甲と手の甲をコツンと合わせ、『スケルトンの』ファニー(p3p010255)と『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)はニッと笑みを見せあった。ふたりは、第一はフリーパレットのためだが、出来ればもっと見つけて共通の知人のお土産にしたいと思っている。
その知人は――エドワードは友人だが、ファニーは実はとても嫌われている。けれども「虹色珊瑚をお土産に持って帰ったら喜ぶんじゃないか? 心のこもったプレゼントを喜ばない人なんていない!」とエドワードが力強く言ってくれたから、ファニーは背中を押された心地で此処に立っていた。
「それじゃみんな! 虹色珊瑚を探しにレッツ水中探検だぜー!」
元気な『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)が、さあオイラに続けーっと海へと飛び込んで、友人のために虹色珊瑚を見つけられたらなとやってきたジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)も彼に続いて飛び込んだ。
「えっ、飛び込むの? ここから?」
「はい。海の中から回り込むとよくわからなくなるので」
怯えるアーリアの隣を、先に行くねと友人たちが飛び降りて。
变化を解いて本性のウィーディーシードラゴンに戻った縁も気にすること無く飛び込んでいく。
え、いくの? 本当に? 大丈夫なの?
「こわい? ぎゅってする?」
「ぎゅってして!」
差し出したアーリアの手をフリーパレットとミケランジェロはぎゅっとして、ドボンっと勢いよく海へと飛び込んだ。
ごぼごぼと耳のすぐ近くで泡が音を立てて、アーリアの水着がひらひらと尾びれのように揺れているのが解る。恐ろしく思う気持ちが勝って目をギュッと瞑っていたけれど、傍らから「領主殿」とミケランジェロが声を掛けて促してくる。
「どうぞ恐れずに」
「うみのなかねぇ、きれいなの」
「まずは上を見上げてみるといいぜー!」
「見事なモンだろ? 俺はこの景色が一番気に入ってるのさ」
「すごーい、きれーい」
「綺麗な色だな……」
ワモンと縁の勧めで、フリーパレットや、竜宮イルカの背に跨ったエーレン、それから近くのイレギュラーズたちもが青の世界を仰ぎ見る。
頭上を泳ぐ魚たちの影と、光を浴びてゆらゆら煌めく海面。
その瞬間、誰もがその青の世界に魅了されていた。
「さあ参りましょう。皆さん、逸れずについてきてくださいね」
美しい景色に気を取られたとしても、賢い竜宮イルカがミケランジェロの後追ってくれて心強い。
「虹色珊瑚、どんなだろう? フリーパレットくんみたいにキラキラしてるのかな?」
アーリアと手を繋いで泳いでいたフリーパレットの手が離されるのを待ってから、Meerは手を繋いでもいい? と尋ねにいく。返る言葉は、うんいいよの承諾の音。
「フリーパレットくんは見たことある? それとも、噂で聞いたの?」
「うーんっと、わからないの。けど、あたまのなかにね、うかんだの」
「それってどんな感じ?」
「えっとねぇ、ぽんっピカピカってかんじ」
たぶんきっと、閃いた感じが近いのだろう。
拙いフリーパレットとの会話を楽しみながらMeerはかれの手をゆっくり引いて、フリーパレットを連れたまま時折くるりと自由に廻る。綺麗な魚を見つけたら指をさして教えて、大きな海藻が流されてくるのだって華麗に回避。
「メーアはうみになれているの?」
「へへへ、そうだよー。……もっと冷たい方が好みだけど」
Meerの好みはもっと冷たい海。南国の海はメロンソーダみたいな色をしているところが好きだけれど、どうしたって故郷の海が一番って思えてしまうのだ。
「よーし、絶対みつけちゃうからね! えいえいおー!」
「おー!」
海の中の冒険は、まだまだ始まったばかりだ。
「わかんねぇことがあったら何でも聞いてくれよな!」
オイラがすぐに答えてやるから!
白くてもっちりしそうな胸を張るワモンに、フリーパレットはうんと頷いた。
――しかし。そんなワモンに突然声を掛ける人物が現れだなんてワモンも思いもしなかったから、「ワモン!」と名前を呼ばれた時にはワモンもぴょいんと大きく飛び跳ねた。
「ってねーちゃん?! なんでねーちゃんがここに?!」
大きな鯛に載ったその人、タテゴト・E・デルモンテはワモンがニュー・カリュプス島へ行ったと聞いて来てくれたのだ。
「皆さん弟がお世話になってるわさー」
しっかりと他の皆にも挨拶をして。
「虹色珊瑚の髪飾りほしいと思ってたとこだからね、絶対見つけてもってかえるわさ!」
「ねーちゃん、そっちが本当のねらいかー」
本当に、しっかりしている姉である。
先行するミケランジェロには、様々な試練が襲いかかった。
珊瑚礁を覗き込めばカニがちょきんとハサミを出し、もう少しですよーなんて後ろを見ながら言えば前方から大きな口を開けた魚が泳いできたり……それもこれも、彼がおいしそうなのがいけない。
(……海水に鶏の出汁、おいしそうよね)
アーリアだってそう思うのだから仕方がない。
「あの魚は……図鑑で見たことがあります」
海の中は美しくて。そして未知の世界。
本の中にあった世界をこうして直に体験すると、ジョシュアの胸にも言葉にならない気持ちが溢れてきた。この青の世界から、虹色珊瑚を探すのだ。煌めく冒険への旅路の一頁を開けたような心地を覚えながら、ジョシュアは水に身を任せる。
「んー、アジやイワシはいねーかー」
「ほら、ワモン、アンタもキリキリ探す!」
姉のタテゴトには、ワモンがつまみ食いしたいなーっと魚を見ていることなんてお見通し!
「あのおさかなはなぁに?」
「ん。あれはな……あれは……ねーちゃん! なんだったけあの魚!」
「ん? あの魚はね……」
尾びれがひらひらと長い魚を指差したフリーパレットに、ワモンに変わってタテゴトが答えてくれた。頼りになるお姉ちゃんは、ワモンの自慢のお姉ちゃん。
「たまにはこういうのんびりできる仕事っていうのも面白いよねー」
「普段はやれクラーケンやら骸骨やら出てくるし……ルーキスが楽しそうで何よりだよ」
さり気なくルナールの腕にぎゅっと抱きつくルーキス夫婦は仲睦まじい。
「ルナール先生は楽しんでるかい?」
「俺か? うむ、ルーキスが居るなら何でも楽しいぞ」
「そういうことを聞いたんじゃないんだけどなあ」
「……ルーキスが居ないとつまらないともいえるんだけどな?」
「もうっふたりってば本当に仲がいいわぁ」
悪戯めいた笑みを見せたルナールたちの隣へ、ふわりゆらりとアーリアが泳いで近寄った。
「羨ましい限りですね」
「えっ、もしかしてミケ君、結婚願望が!?」
「うちの奥さんはダメだよ」
「それは心得ておりますが」
「あ、ミケ君丁度いいところに。モフらせて」
あれよあれよとギュッと抱きしめられたミケランジェロは、水中だからモフ度はたぶんあまりない。
「うちの奥さんとどっちがモフ度ってヤツは上かな?」
「陸に上がって乾いてから、競い合いましょうか?」
「まあ楽しそう。私がジャッジするわぁ」
果たして勝負の行方はどうなるのだろうか――?
それは陸に上がってからのお楽しみ。エールとチキンを握りしめ、めいっぱい観戦しよう。
「咲良、どちらが先にあそこまで着くか競争しないか?」
「ん? 競争? 良いよ! 速さには自信があるんだ!」
エーレンが指差す次なる珊瑚礁の塊を見て、竜宮イルカレースだって負けないよと咲良がキリリ。。
「よし、それじゃあフリーパレット。竜宮イルカにしっかり捕まっていてくれよ」
「なぁに? びゅんってする?」
「ああ、びゅんってするからな。よーい……ドン!」
「ってちょっと、スタートダッシュ決めて来てんじゃん!」
けれど咲良も負ける気なんてこれっぽっちもない。エーレンがスタートダッシュで離したのに、ぐんっと追いついてくる。
「アタシの勝ち――って、同着かぁ」
「流石、咲良だな!」
「ぼくたちもたのしかったの。イルカさんはやいねぇ」
走りきった爽快感。けれどもフリーパレットを連れて勝手に他の皆と離れてしまったから、心配させるかもしれないからとすぐに皆の元へと引き返す。海中で離れると地上よりも少ない距離で姿が見えなくなってしまうから、おおごとだ。戻る間も、フリーパレットは早くてキラキラだったよとイルカの背でご機嫌だった。
「あ、そろそろです。そろそろ」
たしか、この辺りだったはずです。
キョロキョロと辺りを見渡したミケランジェロが珊瑚礁を覗き込む。
青い世界に綺麗だな~っと笑顔を見せたエドワードとファニーのふたりもここら辺か? と珊瑚礁を覗き込むと、突然覗かれたことにびっくりしたのかポンと飛び出てきた魚が飛び出てきたため、顔にぶつかったエドワードがわぷっと目を瞑り、その姿を見たファニーはハハッと楽しげに笑った。
「あいつ、あんまし気持ちを表情にださねーけど、ほんとに嬉しくて笑った時はめっちゃ良い顔するんだぜ」
「マジか。見たことないな」
話に上がる知人に嫌われている自信のあるファニーがいつも目にするのは、冷ややかな流し目だ。正直、笑っている所なんて想像できないレベルだったりする。
「あいつのことにっこにこにしてやるぜ!」
「そうだな。俺様もどうせなら笑った顔の方が見てみたいぜ」
エドワードとファニーの意気込みは強い。
絶対に見つけてやるからなとフリーパレットにも声を掛ければ、楽しみ! と明るい笑顔が返ってくる。
「そうだ。コーラルって呼んでもいいかな?」
フリーパレットの元に泳いできた史之が尋ねた。虹色珊瑚を探しながら、ずっと考えていたらしい。
「こぉらる?」
「珊瑚って意味だよ」
「ふふふっ、いいよ!」
水中でくるんと周って、フリーパレットが喜んだ。
フリーパレットが動く度に虹色が青の世界に広がって、極彩色の魚たちとともに海中を彩った。
「うーん流石に真面目に探すとなると大変だね」
海は広くて、珊瑚礁の面積も広い。
これかな? と見つけたと思ったら普通の珊瑚だし……うーんっとルーキスは唸ってしまう。
「ルナール先生ー! 何か気付いたことはー?」
「そうだな……ん。あれは、普通の珊瑚か? 一瞬虹色に見えたが」
ルナールが指差すところを、どれどれと覗き込むルーキス。
そうして。
「あったよ、虹色珊瑚!」
「ほんとう?」
おいでと招かれて、フリーパレットがぴゅるるーと飛ぶように泳いでくる。
珊瑚礁と珊瑚礁の隙間にちょんと生えた桃色の珊瑚は、確かに光の加減で虹色の光沢が見て取れた。
「わあ! にじいろだ!」
うれしい、うれしい。ありがとう!
「ミケ君の言った通り、あったわねぇ」
「おおー、これが虹色珊瑚かー、色がカラフルできれいだな!」
「……この世のものとは思えない美しさってのは、こういうのを言うのかね」
他の皆も虹色珊瑚を覗き込み、それじゃあこの辺りに他にもあるはずだと探し始める。
生息しているのだから――運が良ければ折れた虹色珊瑚の欠片も浮かんでいたり、珊瑚礁の隙間に挟まっている確率が高い。
「うおー、さがすぞー!」
俄然やる気が出てきたワモンがぴょんと跳ねる。見つけたらタテゴトにあげて、もっと見つけたら父にもお土産に持って帰ってあげるのだ。
青い青い海の中。
カラフルの珊瑚礁の中。
そして時折きらきら輝く虹色珊瑚に囲まれて。
フリーパレットは折れたのないかなぁと一生懸命探している。
その姿は可愛いけれど、あの子は虹色珊瑚を求めて彷徨える魂の集合体だ。
アーリアは、この海に散っていった沢山の人たちのことを知っている。
「あ。ありましたよ」
「やだミケくんってばお手柄~」
「では、この第一号はフリーパレットさんに差し上げましょう」
「いいの?」
「ええ、是非」
貰って下さいと笑うミケランジェロは、流石は王子様と言ったところだろうか。
ちょっと貸してねと近寄ったアーリアは、フリーパレットのカラフルな髪――と思われる部分――に差してあげる。
「よく似合っているな、フリーパレット」
「ほんとう? うれしいな」
虹色珊瑚の煌きは、同じく虹色のフリーパレットにぴったり。
ファニーの言葉に、アーリアとミケランジェロに、一緒に探してくれたイレギュラーズたちに、たくさんたくさん感謝をして。
そうしてフリーパレットは幾つかの竜宮幣と虹色珊瑚を残して消えていく。
「満足したかい? ……なんて、聞くまでもねぇか」
縁が最後に見たフリーパレットの表情は、とても嬉しそうな笑顔だったから。
「いってらっしゃい、コーラル。どうかその旅路の安らかならんことを」
祈っているよと口にして史之は見送った。
「いつか出会えるよ、またこの海の中で♪」
Meerも歌って見送った。君のための虹の詩がちゃんと届いていますようにと願って。
取り残されてしまった虹色珊瑚が、ゆっくりと落ちてくる。
そっと手を伸ばして手のひらで受け取ったアーリアもまたフリーパレットの最後の笑みを見ているから、ただただ慈しむように穏やかに微笑んで。
「ミケくん、この虹色珊瑚は私が貰ってもいいかしら?」
覚えておきたいの。
フリーパレットのことも、海で散った沢山の命のことも。
彼等の想いも、生きた証も。
全部覚えておきたいの。
なんて、エゴよねぇ。
そう笑ったアーリアに、ミケランジェロは「想いを受け取るのは残されたものの宿命ですよ」なんて尤もらしい事を言っていた。
――おいしそうなチキンのくせに!
フリーパレットを見送ったのなら、後は自由時間だ。
そのまま海をのんびりと漂ってもいいし、大切な誰かの贈り物のために見つかるまで粘ったっていい。
「おーい、魚たち。虹色に光るサンゴって見てねー?」
エドワードは珊瑚礁を覗き込み、魚たちに聞いてみる。
魚たちは人間の定義した色はわからないから、珊瑚礁の上で尾びれを振って『何が違うのだろうか』と疑問の色を示した。
「おーーい、ファニー、そっちはどうだ?」
「……これか? いや、これは普通の珊瑚か」
でもこれでもいいか、とファニーは思う。
元より、プレゼントひとつでどうにかなるだなんて、そんな甘いことは考えていない。ただの話しかけるきっかけになりさえ良かった。
(そのおまけくらいで少し喜んでくれたなら……)
「ダメだぜ、ファニー」
「!」
驚いた。心の中を読まれたのかと思った。
「諦めないで探そうぜ。俺たちなら絶対に見つけられる」
な、そうだろう?
明るい笑顔は、無条件で信じたくなる笑顔だ。
「……そうだな」
何を俺様は”骨”の無い事を言っているんだ。情けねぇ。
周囲のイレギュラーズたちからも明るい声が響き始めた時、ふたりの手にもしっかりと虹色に煌めく珊瑚が握られていた。
(こいつは嬢ちゃんにやろうかね)
そっと指先で摘んだ虹色珊瑚。持ち上げて光芒に翳せば、キラキラと虹色の輝きが揺れている。
美しい虹色珊瑚は彫金師にアクセサリーにしてもらえば、きっと黒髪にも白い肌にも映えることだろう。
(……いや、これはだな、日頃の礼で……)
まだ渡した訳でもないのに、心の中で言い訳をして。
けれども無骨な指で潰してしまわないように、傷つけてしまわないように。
宝物を扱うみたいに、そっとハンカチに移して包みこめば、ふっと笑みが口端に浮かんでくる。
――喜ぶ顔が、今から楽しみだ。
(もし海で死んだとしたら、俺もフリーパレットみたいになれるのだろうか)
浮遊していた虹色珊瑚の小さな欠片に手を伸ばし、史之はそんなことを思った。
彷徨い続ける幽霊船に取り込まれるのはまっぴらごめんだが、彼等の恨みを沢山買っているだろうからその路線も捨てきれない。
けれど、もし。もしも叶うのなら。
(あの子のもとへ帰り着きたいな)
きっとあの子は、幽霊船の船員になっても会いに来てくれる。愛の形として、本当の終わりを告げに。
けれど泣かれてしまうのも解っているから、それは嫌だなって思うのだ。
(指輪はあるし……耳飾りにしようかな)
小さな欠片だけれど、お互いの耳に飾る分にはちょうどいい。
お土産楽しみにしていてねとここには居ない奥さんのことを思い、史之は目を閉じた。青の景色を閉じ込めるように。
イレギュラーズたちは虹色珊瑚を見つけてひと時喜んだら、手にした虹色珊瑚を思い思いに握って、記憶の中に大切に大切に、閉じ込める。
きみと過ごしたこの夏の、360度に広がる青の世界を。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
フリーパレットは虹色珊瑚を見ることが出来て満足しました。
フリーパレットのために楽しいひと時をありがとうございます。
虹色珊瑚は、皆さん見つけることが叶ったはずです。
皆さんにとっても素敵な夏の思い出になりますように!
GMコメント
壱花からの夏の思い出はこれでラストになります。
●シナリオについて
フリーパレットの願いを叶え、竜宮幣を得ましょう。
今回の個体のお願いは『虹色珊瑚を見たい』です。フリーパレットとともに水中探索をしましょう。
まずはアレグロ・ビーチの岩場に向かい、3mくらいの高さの小さな崖の様になっているところから飛び降りてドボンと入水します。
海中へと潜れば世界は一変。美しい碧の世界に、色鮮やかな熱帯魚たち。そして視界いっぱいに広がる珊瑚礁たちがあなたを魅了することでしょう。
ここら辺で見たよという場所までミケランジェロが案内しますので、海中の美しさを楽しみながらフリーパレットとともに虹色珊瑚を探しましょう。
特にアイテムを用意しなくても、今回のシナリオでは『水着』を着ていれば【水中行動(弱)】が付与されている状態として扱います。
●フリーパレット
カラフルな見た目ですが、死んだ人たちの未練であったり、思念の集合体です。
竜宮幣に砂鉄のように結びつくことで実体化しているため、願いを叶えて未練を晴らしてあげることで成仏し、竜宮幣をドロップします。
●虹色珊瑚
ニュー・カリュプス島のアレグロ・ビーチからいける環礁地帯にあります。
珊瑚礁(六放珊瑚)の中にたまーに珊瑚(八放珊瑚)があり、その珊瑚の中に極稀に虹色珊瑚が見つかるようです。
見た目は普通の珊瑚のようですが、光の加減で艷やかに虹色の光沢が見られます。浜辺にも漂流したりするようなのですが、その頃には外の膜が剥がれて虹色に見えないそうです。
採捕(自然状態にある水産動植物を採取すること)は禁止されていますが、折れて漂っているのを運良く発見出来たらラッキー! 持ち帰る事が可能です。虹色珊瑚は貴重なので、加工してアクセサリー等のお土産物にすると喜ばれます。(竜宮幣がドロップする関係で虹色珊瑚のアイテム配布はありません。フレーバーです。)
●勘解由小路・ミケランジェロ
アーリアさんの領地にあるアルベール湖の守人をしているおいしいとり――どう見たってフライドチキンな旅人です。
健鶏王国の王位継承権3位に該当する王子様なので、泳げます。王子様なので。
王子様なのでリゾート遊びだってしまう。王子様なのでね。アーリアさんの知らない内に(多分泥酔してる時とかに)ひとりでウロウロして虹色珊瑚を見つけました。
●EXプレイング
開放してあります。
文字数が欲しい、関係者さんと水中で過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
可能な範囲でお応えいたします。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは通常参加者全員(サポートは含まれません)にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります
●サポート参加について
イベントシナリオ感覚でどうぞ。
フリーパレットとの触れ合いはありませんが、同じ空間でダイビングと虹色珊瑚探しを楽しめます。
恋人や友人が通常参加者にいる場合は、お互いに【お相手ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
サポート参加同士でも同上です。
シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。
※サポート参加者には竜宮幣のドロップはありません
●NPC
海中なので、雨泽は付いていきません。
フリーパレットは現地で見たいので付いていっています。
それでは、素敵なプレイングをお待ちしております。
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