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シナリオ詳細

ああ、誇り高き犬狼よ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●猟師の危機
 砂漠――生きるものなきように見えるこの砂の大地にも、確かに生命の鼓動はあり、そしてそれを狩る狩人たちも存在する。
 その狩人=ドロシィ・レーンが獲物としたものは、ラサの砂漠にすむ砂塵牛・ロックバッファローだ。まるでラクダのように体中に水分を含む脂肪を蓄え、砂漠にて生活するその奇妙な牛は、肉質も上等であり、食肉用として珍重される野生動物である。
 その日、ドロシィは相棒にして猟犬のハサウェイと共に、荒野を進んでいた。手にしたのは、古めかしい猟銃。脂肪の『こぶ』によって鎧のような硬さを誇るロックバッファローの身体すら貫けるほどの、それは強力な銃であり、彼女の長年の相棒の一つでもあった。
「ハサウェイ、嗅げ」
 ドロシィがそういうと、猟犬ハサウェイが鼻を鳴らす。オオカミの地を色濃く残す、調教の難しいながらも賢い犬狼である。彼はロックバッファローの匂いをかぎ取ると、友を案内するように道を進む。砂塵除けのマスクをかぶりながら、ドロシィが猟銃を握りつつ進むと、果たしてゆらめく砂塵の先に、大小の影が見えた。
「とまれ」
 ドロシィの言葉に、ハサウェイが止まる。うう、とハサウェイが唸った。様子がおかしい、と思ったのだ。通常ならば、このまま回り込ませて、こちら側に追い立てさせる。が、ハサウェイはこの時、強く身構えていた。ロックバッファローなどは、ドロシィたちならば相手にもならぬ、格好の『獲物』であるにもかかわらず――この誇り高き犬狼が身構えたのを、ドロシィは長年の勘から『異常』として察していた。
 目を凝らす。砂塵の中に揺らめく小さい影は、間違いなくロックバッファローである。では、その体長にして2mを優に超えるロックバッファローが『小さい』と感じるほどの、大きい影とは何か。
 結論から言えば、それはロックバッファローである。が、見るからに、異常である事を、ドロシィは理解した。それは、ロックバッファローを喰らっていた。ロックバッファローは本来基本的に草食性である。砂漠に生える、低木やサボテンを喰らって生きていた。肉食などはほとんどしない。ましてや、同族食いなどは。さらに目を凝らしてみてみれば、そのロックバッファローは、本来あり得ぬほどの、まるでナイフのような牙がらんぐいに生えていることが分かった。その牙が、ぐちゃり、ぐちゃり、と同胞を噛む。頭部の角は槍のように鋭く、しかし返しのようにネジくれて巨大化しており、それだけでもはや、これが異常な進化を遂げた個体であることが理解できた。
 進化、か。否、変貌、である。ドロシィは察した。『怪王種(アロンゲノム)』である。確か、滅びのアークによって生じた、反転した原生動物。その在り方は、人が反転したのと同様に変質し、元の存在とは全く違うものへと還る。思考も、行動も、強ささえも。そしてそれは、『一般人などではほとんど相手にできるような強さではない』。
「ハサウェイ、退け」
 ドロシィが小声で言う。そのまま身を隠すように伏せると、その場を立ち去るべく後ずさった――刹那、世界がひっくり返った。
 強烈な激痛。それが地面に投げ出されたことだと気づいたときに、視界の端から迫る、もう一体のアロンゲノム・ロックバッファローに気づいていなかったのだ。気配を消せるのか? ハサウェイすら気づかぬほどに? ドロシィは戦慄した。これはもはや、狩りの獲物などではない。それはこちらのことだったのだ。自分たちは、アロンゲノム・ロックバッファローの狩場にいる……!
「ハサウェイ、逃げろ!」
 ドロシィは何とか立ち上がると、ハサウェイに命じた。とにかく今は逃げるしかなかった。が、逃げられる見込みは正直薄い。二体のアロンゲノムににらまれ、生きて帰れる一般人などはいないだろう。だが、ハサウェイは、ヴぉう、と吠えると、勇敢にもアロンゲノムへと襲い掛かった!
「ハサウェイ、なにをしてるの!」
 ドロシィが焦った表情を見せた。ハサウェイはこちらを一瞥すると、ヴぉう、ヴぉう、と吠え、アロンゲノムたちの注意を引く。知能はさほど高い方ではないのだろう、アロンゲノムたちはハサウェイを追って、移動を開始した。
「莫迦……逃げろって言うの、ハサウェイ!」
 呟くように、ドロシィは言った。叫ぶことも止めることもできなかった。勝てる見込みはなかったし、ここで騒げば、ハサウェイの意を無駄にしてしまうだろう……。
「ゴメン、ゴメン、ハサウェイ……」
 ドロシィはそう呟くと、痛む体をおして走り出した。近くのオアシス都市、そこにローレットの支部があったはずだった。

●アロンゲノム迎撃
「すみません、動ける人はいますか! 緊急でーす!」
 と、飛びまわるのは、ローレットの情報屋、ファーリナ(p3n000013)である。たまたま支部に滞在してたあなたや、他のメンバーが手をあげるのへ、ファーリナは頷いた。
「すみません、ここから北の砂漠でアロンゲノムが発生したようです!
 襲われた狩人さんは何とか逃げ出しましたが、彼女の相棒である猟犬が、アロンゲノムを引き付けて逃亡中のようです」
 そういうと、ファーリナは付近の地図を取り出した。
「猟犬、ハサウェイ君って言うらしいですが、とにかくハサウェイ君には、魔力タグがつけられていて、この受信機で大体の位置が識別可能です。今はこの辺の荒野にいるようですね。
 となれば、アロンゲノムも此処にいる可能性が非常に高い。速やかに向かって討伐する。これが今回の依頼です!」
「悪い、イレギュラーズさん達。あたしが倒せればよかったんだが……」
 包帯を腕やら足やらにまいて、ハンターのドロシィがそういう。
「しょうがないです。アロンゲノムは並の冒険者でも倒せないような相手ですから。
 それから、一応今回の依頼は、アロンゲノムの撃破が成功条件ですが――」
「分かってる。ハサウェイって猟犬も救ってやらないとな」
 そういう仲間に、あなたも頷いた。
「ですです! 皆さんならさくっとやってくれると信じてますよ!
 では、よいことをして、ついでに依頼料で儲けましょう!
 ご武運を!」
「あたしからも、気をつけてくれと言わせてほしい。
 頼んだよ、イレギュラーズさん!」
 ファーリナ、そしてドロシィの言葉に、あなたたちは頷いた。
 かくしてあなた達は、砂塵の大地へと踏み出す。吹き荒れる砂嵐の中に、誇り高き犬狼の遠吠えが聞こえたような気がした。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 アロンゲノムが現れました! これを撃破し、勇敢な猟犬を救いましょう。

●成功条件
 ハサウェイが生存している状態で、すべてのアロンゲノム・ロックバッファローを撃破する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ラサの砂漠地帯に、アロンゲノム・ロックバッファローが発生しました。居合わせたハンタードロシィを襲ったロックバッファローは、ドロシィの猟犬ハサウェイの機転で、砂漠に追い立てられます。
 とはいえ、放っておくことはできません。ハサウェイも賢いとはいえ、ただの猟犬。アロンゲノムを相手に勝利することなどは無理ですし、ハサウェイを殺したアロンゲノムが、集落の方にやってこないとも限りません。
 皆さんは速やかにハサウェイのいる場所に向かい、ハサウェイを救出、そのままアロンゲノム・ロックバッファローを完全撃破してください。
 作戦決行エリアは、ラサの砂漠地帯。周囲は砂地になっている他、少々砂嵐が発生しており、視界が良くない様子です。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●エネミーデータ
 アロンゲノム・ロックバッファロー ×3
  アロンゲノム化した、自然動物のロックバッファローになります。
  元々堅かった、こぶのような皮膚はさらに固く、鎧のように変貌。防御技術が高くなっています。
  脚は異常に筋肉質になり、速度も増強。必然的に『移』を持つ体当たり攻撃などは、殺人級の加速攻撃になっています。
  牙や角は『出血系列』を付与するほどに鋭く、油断ならない攻撃力を持ちます。
  半面、BSへの抵抗力は低く、搦め手には弱くなっています。
  前衛と後衛でうまく連携をとれれば、勝ち目はあるはずです。

●味方NPC
 猟犬ハサウェイ
  オオカミの血を濃く残す、賢い猟犬です。
  回避面に秀でており、アロンゲノムたちを引き寄せて移動中です。
  賢いとはいえ、あくまで犬は犬。アロンゲノムに太刀打ちできるわけではありません。
  速やかに助けてあげてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • ああ、誇り高き犬狼よ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ウルファ=ハウラ(p3p009914)
砂礫の風狼
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ

●デザーテッド・ブルース
 砂塵渦巻く渇いた大地を、一台の戦車が行く。先頭に立つは、運搬用の亜竜。その背にひく巨大な戦車は、内部にのせたイレギュラーズ達を激しく揺らしながら、全速で駆けていく!
「はっはっは、豪胆であるな!」
 愉快そうに笑う『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)。がくがくと荷馬車は揺れど、百合子の『体幹』にブレはない。このような場所でも、まるで静止したように組手すら行えるだろうことは想像に難くはあるまい。
「豪胆って言うか、……速ッ!」
 そう言って口元を抑えるのは、『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)。うかつにしゃべったら、舌を噛みかねない。
「悪いな、最大船速、って奴だ。船じゃあねぇがな。とにかく、今は乗り心地は二の次でな!」
 ははは、と笑う『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は御者を演じている。操るドレイク=四足歩行の亜竜が、ぎっ、と鳴いた。さらに踏みしめるように四肢で大地を蹴ると、がこん、と戦車が揺れて、燦火の身体も飛びはねた。それからどしん、と座席にお尻を打ち付ける。
「まったく、クッションでも持ってくればよかった!」
「確かに、これは凄いな」
 苦笑するオコジョ……いや、『努々隙無く』アルトゥライネル(p3p008166)である。ギフトにより姿を変えたアルトゥライネルは、積載量の低減を考えてのものだったが、しかし身体が小さくなった分、揺れも激しく感じるような気がする。
「だが、これだけの速度で横転しないのは流石というか。ルナの腕も足も、素晴らしいものがある」
 アルトゥライネルの言葉に、ルナが笑う。
「ありがたく受け取っとくよ。何も出ないけどな」
「この程度の言葉で礼をよこせなどとは言わないよ。ただ、前は見ておいてほしいな」
 ふふ、と笑うアルトゥライネルへ、ルナも、ハッ! と楽しげに笑う。
「皆意外と涼しい顔してるのね……」
 燦火が言うのへ、ふむ、と唸ったのは『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)だ。
「いついかなる時も平常心……と行きたい所でござるな。まぁ、こうした『備え』もしておるのが忍びというものでござるよ」
 ふふ、と笑う咲耶。
「なんだったら、ラダ殿の背にのせてもらってはいかがかな?」
 そういうのへ、燦火が外を見やれば、『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)が戦車に並走するように奔っている。その背中(ラダはケンタウロス型の獣種である)へ乗っていて、『( ‘ᾥ’ )』という顔をしているのは、『お師匠が良い』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)だ。
「すまないな、リコリス。鞍がないから、少し乗り心地は悪いだろうが――」
 リコリスが『( ‘ᾥ’ )』という顔をしつつ、ぴっ、と親指を立てた。大丈夫、のジェスチャー。口を変えたら、砂埃が入ってきそうだし舌も嚙みそうだ。あんまり余裕はない。
「しっかり抱き着いていてくれ。振り落とされたら怪我じゃすまないぞ?」
「( ‘ᾥ’ )」
 リコリスが頷く。走る振動で、( ‘ᾥ’ )が上下にびょんびょん震えた。
「あっちはあっちで大変そう」
 燦火がため息を吐いた。
「まぁ、そうであろうな」
 ふふん、と『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)が笑う。
「大変なのは察するが、さて、状況確認と行こう。
 敵はアロンゲノム。ロックバッファローが変異したタイプであるな。数は、3。ここまでは問題ない」
「うむ。ちょっとした砂漠での闘牛ごっこという所であるな」
 かかか、と百合子が笑う。では、何が問題かと言えば、
「勇敢な犬っころのお話だ」
 ルナが声をあげた。
「今も走り回って、ロックバッファローを引き付けてんのか?
 ふん、お涙頂戴な話だ」
「嫌いじゃないくせにね」
 ラダが笑った。
「猟犬……ハサウェイと言ったか。彼も出来れば救出したい……いや、救出する。私たちならそれができる、と今は己惚れよう。
 猟師のドロシィから、普段使っているジャケットを借りてきた。彼女の匂いがついいているから、ハサウェイもこっちを味方だと認識してくれるだろうね」
「そうじゃなくても、狼の血を引いてるなら、賢いはずだからね」
 ( ‘ᾥ’ )な顔をがくんがくん揺らしながら、リコリスが言う。
「うむ。確かに、賢い子であろうな。主を逃がし、自ら囮になるとは、勇敢なものである。
 水と、うまい肉で、その労をねぎらってやりたいものだ」
 ウルファの言葉に、百合子が頷く。
「ジャーキーなどをたらふく食わせてやらねばな!」
「そのためにも、まずは合流でござる」
 咲耶が言う。
「正直、砂嵐が酷くて音は拾いづらいが――確かに、砂漠の先から、何か獰猛な息遣いを感じる。
 これはおそらく、アロンゲノムでござろうな」
「近くに、ハサウェイもいるはずだ」
 アルトゥライネルがそういう。
「受信機の反応も近い……そろそろだと思う。警戒を」
 その言葉に、仲間達は頷いた。果たしてそのまま進んでみれば、砂塵の中にいくつかの影を見つける。それは、巨大なバッファローのような怪物である。体のあちこちに脂肪のこぶが浮かび、それはまるで巨大な鎧のようにも見えた。ねじ曲がった角は返しのついた槍のように、一度突き刺した獲物を決して逃がさぬという悪意に満ちている。目は赤く血走り、口元には草食動物にはあり得ぬ、ナイフのような乱杭歯がいくつものぞいていた。見るだけでも、悍ましさと醜悪さを感じる。生命の造形が神の御業なら、それをいじくりまわして生み出したのだろうという、冒涜的な存在。生命を魔に転じた、それはまさに魔の怪物、である。
「あおーん! みつけた!」
 リコリスがきっ、と瞳を見据えるのへ、咲耶が頷く。
「うむ、犬種の息遣いでござる……だが、異常に荒い! やはり、相当消耗している様子!」
「目視でも確認、ってやつ! 距離が開いてる! 乱入するなら今!」
 燦火の言葉に、皆は頷いた。
「ルナ殿、燦火殿! 貴殿らお二人は『素早い』! まずは敵の足を止められよ!
 吾がハサウェイ殿を引き受ける!」
「おう、まかせな!」
 ルナが亜竜に命令を下す。このまましばらく走って戦場を離脱、そのまま待機。亜竜がぎゅ、と鳴いてその指示を受け取った。
「後はすきに飛び出しな!」
 ルナが言う。
「リコリス、私達はこのまま遊撃だ。
 百合子、ドロシィのジャケットを! ハサウェイは賢い、状況を理解するはずだ!」
 ラダの言葉に、百合子は頷いた。
「承知! 借り受けた!」
 それを受け取り。うでにぎゅっ、と巻き付ける。ばたた、と時結ばれたジャケットのすそが砂塵の風に舞った。
「往くぞ!」
 百合子が叫ぶ。同時、皆が一斉に、戦車から飛び降りた!
「アロンゲノムの群れか、群れがアロンゲノムとなったのか、興味はあるが今はどうでもよい」
 ウルファが、ふ、と笑う。その目に宿るは、狩りの意思。獰猛たる、猟犬の瞳。
「良き忠犬には相応の良き巡り合せがあるものじゃ。さぁ、狩りの時間じゃ」
「ルナ、やってくれ!」
 アルトゥライネルが叫ぶ! 応! ルナは頷くと、一気に駆けだした。その様は地上を走る雷のごとくか。黒い雷光が大地をかける! それは、大蛇――否、雷の東洋龍とたとえるべきか。合法をあげて駆ける雷は、最も先頭にいたアロンゲノムを横合いから撃ち抜く! ばぢん、と音を立てて、雷がアロンゲノムのこぶの鎧を焼いた。ばぢ、ばぢ、ばぢゅうう、と強烈な音と臭いが巻き起こり、アロンゲノムが「ぶおうう」と悲鳴を上げる。が、それでもなお、アロンゲノムの生命を断つには至らない。ルナが足を止めると、「やりな!」叫んだ。
「了解っ!」
 燦火だ! その手を鋭く振るう。同時、ゆらゆらと揺れるように放たれたのは、悪意の糸だ。それが踊る触腕のようにアロンゲノムへと触れる。じゅう、と強烈な音が鳴って、悪意がアロンゲノムの表皮を焼いていく!
「足、止めないで! 向こうも動き続けてる!
 多分、ハサウェイの資格から狙ってくるはず!」
 燦火の言葉通りだ。果たして本能だろうか? いや、狩りを行わぬバッファローだ、ならばこれは、魔的な知恵というべきか。いずれにせよ、襲撃を受けたと察した時点で、アロンゲノムたちは散開していた。巨大な体が、砂塵を巻き上げながら二方向に分離! 上下から挟み込むような移動!
「リコリス、背中に乗っていてくれ! このまま二人で狙い撃つぞ!」
「了解、了解! あおーん、かみつくぞーっ!!」
 ラダ、そしてリコリスがその銃を構えた。だだん、と二つの銃声が鳴り響く。片や、その弾丸の鋭さは、殺人剣の飛刃のごとし。かたや、その弾丸のはあざ笑う死神の手がごとし。二つの銃弾は、まさに間髪入れず、と言った様子で中央から見て北側に走ったアロンゲノムを撃ち抜いた。つまり、イレギュラーズから見て最も遠い側である。ぎゅあ、と悲鳴を上げたアロンゲノムがたじろぐ。脚を止める! すぐさまの追撃は、アルトゥライネルの手からこぼれたテリハノイバラであった。這うように咲くそれがアロンゲノムの脚を捉えるや、同時、一足飛びで接触するアルトゥライネルの姿!
「ふっ――」
 鋭き呼気と共に、放たれる蹴撃! それがアロンゲノムの側頭部をぶち抜いた! 頭部への打撃は、それが生命の姿をとっている限り致命打につながるに違いあるまい。頭蓋骨に包まれた柔らかい脳を衝撃から守るすべを、ほとんどの生命は持たない。常識の埒外にいる存在相手ならともかく、如何に魔的なものに変わり果てたとはいえ、そのバッファローはまだこちら側の常識を残していた。つまり、頭を殴れば、強烈にダメージを受ける。
 ぐ、ぐえぇ、とバッファローが吠える。ぐらり、とバッファローの身体が揺れた。が、ずだん、と音が響く。倒れ込む寸前、バッファローは踏ん張った。まだ倒れない。魔的な生命力の発露が底にあった。
「で、ござるがッ!」
 飛び込んだのは、咲耶だ! その手に輝く絡繰手甲! ぐっ、と手を握れば、かしゃかしゃかしゃん、と絡繰りが声をあげ、鋭い刃を飛び出させた。忍刃、近接戦闘にて、急所を抉るためのアサシン・ブレード。
 すぅん、と空間を断裂するような音が響いた。悪刀乱麻の刃よ、悪しき生命の乱れ縄を切り裂け。放つ斬撃は、アロンゲノムの首を切り落とした。ぶつん、と音を立てて、アロンゲノムの首が落下する。どん! 落ちる、首。どん! 手折れる、身体。
「百合子殿! 一体!」
 咲耶が叫ぶ!
「承知!」
 百合子が笑った。獰猛に。犬歯をむき出しに。猟犬、否、斗う獣の如き笑み。
 走る百合子に、アロンゲノムが近づく。巨大なその圧力は、巨大な岩石が転がって来るかのようなプレッシャーを与える。巨大な、岩石、と感じたか。百合子は胸中で笑った。岩石程度ならば、殴れば壊せるではないか!
「ちぇぇぇぃいッ!」
 百合子が突然と飛びあがった! そのまま、空中で回転するように、身体をひねる。いや、身体をひねったのではない、足を振るったのだ。強烈な、回し蹴り。我々には、その脚が回る瞬間を視認できず、ただ体をひねったように知覚したのである。
 ごうっ!? 悲鳴を上げたのは、アロンゲノムだ。強烈な回し蹴りを、横合いから直撃したのだ。頭部への打撃の有効性などは今一度語るまい。いずれにせよ、アロンゲノムは横合いに横転した。そのまま、ずざざ、と砂地を滑る。百合子はと言えば、楽しげに笑いながら、着地してみせた。足下に、狼の如き一匹の犬がいた。
「はは、間に合ったか。
 ……守るものがある戦いとは面白い!」
 にぃ、と笑う獣に、獣は、ばう、と吠えた。その鼻がかぎ取ったのは、百合子の腕に巻きつけらえた、主の匂い。
「察したか! 賢い子よな。
 ついてくるが良い、岩陰に隠れていてくれ――ここからは、吾らの狩りよ」
 百合子の言葉に、犬は――ハサウェイは、ばう、と吠えた。百合子と共に駆けだす。
「こちらは任せよ!」
「了解じゃ!」
 ウルファが叫んだ。
「賢いな、犬狼よ。
 終わればその功績、労おうぞ!」
 ウルファが笑う。そのまま、ゆっくりとアロンゲノムに向き直った。百合子の一撃を受けて、しかしアロンゲノムは未だ死すことなく立ち上がっている。
「ロックバッファローのアロンゲノム。こやつ一匹では腹も満たされんじゃろうに、追い立てたのが運の尽きじゃ」
 ウルファの傍に、包帯が舞った。いや、それは、風に踊る『骨組み』であった。包帯によって形作られた風は、ああ、狼の姿をしている。
「我の風狼も、ハサウェイ、君に負けず劣らずの忠犬である。
 さぁ、風狼よ、風狼よ。その姿を解き、弾けて、切り裂け」
 がぁう、と風は吠えた。風狼は駆けだすと、その身体を無数の風の糸へと変える。糸切傀儡。無数の糸、それは刃に等しき鋭さ。切り裂き、捕らえ、掌握する。風霊が牙、その一がアロンゲノムを喰らい裂いた。ぎゅあ、とアロンゲノムは叫ぶ。その身体から悪しき血を流しながら、断末魔の如き方向は、しかし反撃の咆哮であった。アロンゲノムは瀕死ながらも、強烈なタックルをお見舞いする! ずだだだ、と砂を駆けまわり、イレギュラーズ達を轢殺するかのような、強烈な突進!
「むうっ!?」
 ウルファが風狼の力で体を守る。ぶわ、と身体を纏う風の壁は、しかし巨烈なタックルの衝撃を殺しきれなかった。激痛が身体を奔る。
「なるほど、とんでもない一撃じゃな!」
 おそらく、ドロシィが受けたというそれの比ではないだろう。本気でこちらを殺そうとする、強烈な差ついて敵意が、ウルファを、そしてイレギュラーズ達を貫いている。わずかに口中に感じる血の不味さ。それを飲み下しながら、
「じゃが、その程度で! この盤面をひっくり返せるとは思うな!」
 吠える!
「その通り! 結構痛かったけど!」
 ずざ、と顔面を砂まみれにしながら(アロンゲノムに轢かれて砂に埋まったのだ)リコリスが叫ぶ。アロンゲノムたちの反撃はイレギュラーズ達を相応に傷つけたが、イレギュラーズ達の戦意をくじくには至らない。
「右側のアロンゲノムは、俺が対応する!」
 アルトゥライネルが叫んだ。
「じゃあ、左側!」
 燦火が叫んだ。
「もう、アンタ達は狩られる側よ。絶対に逃がさない!」
 叫び、アロンゲノムの前に立ちはだかる。突き出した拳! 爆裂する魔力の奔流、それは竜の咆哮にも見た、鋼鉄の爆裂!
「ぶっとべっ!」
 轟! 燦火の拳から解き放たれる爆流。それがアロンゲノムを正面から殴りつけ、のけぞらせた。ぐあおう、と悲鳴を上げるアロンゲノムへ、ラダが駆ける。手にしたナイフ。毒の塗られたそれは、今は投擲はしない。首を落とす一撃、ナイフでは、首を落とすには長さが足りない。が、首の、どこを切れば致命打になるかはわかっている。冷徹な瞳が、その首筋を捉えた。筋。腱……それに隠された、太い血管。
「そこっ!」
 ラダの振るったナイフが、筋をよけながらその動脈を切り裂いた。それは、恍惚を覚えるほどの繊細にして素早い切っ先。なればこれは首を落としたがごとし。血流のパイプを断ち切られたアロンゲノムが、バシャバシャと血を流しながら絶命する。残敵、1。残るアロンゲノムへ、アルトゥライネルが接敵。その長布を振るった。
「一撃!」
 剣。
「そして!」
 魔。
 二振りの刃。長布は魔力を帯び、なによりも鋭き魔を断つ刃となす。斬! 長布が、アロンゲノムの『こぶの鎧』を切り裂いた。根元から、切りとされる、鎧。むき出しになるのは、柔らかい肉。胃かな重装の敵とて、その鎧をはげば、うちに残るは、ただ柔らかい肉である。
「終わりだ!」
 長布が、鋭い槍のように形状を変える。突き刺さる刃は、肉を裂いて心の臓腑を貫いた。止まる。ばちん、と何かが破裂したように、アロンゲノムは感じた。それが自分の命がはじけた音だと理解する間もなく、それはずしん、と大地に身体を横たわらせたのであった――。

「うむ! 良き狩りであったぞ!」
 百合子がそういう。その胸には犬狼=ハサウェイが抱き留められている。如何に勇敢な犬狼と言えど、美少女にとっては子犬同然なのかもしれない。
「おう、そいつがそうか。よくやったじゃないか、いぬっころ」
 ルナが笑うのへ、ハサウェイはワン、と穏やかに鳴いた。
「まずは水じゃな。肉は……帰ってからにしよう。いきなり食わせると胃に悪い」
 むぅ、とウルファが言うのへ、
「そうね。
 ……いろいろ、おやつ持ってきたんだけど。そうよね、すぐには」
 後ろ手に何かをを隠す燦火である。
「所で、こいつらの解体を手伝ってくれないか?」
 ラダが言った。
「肉は――食べられるかはわからないが。皮と骨、牙と角は十分に売り物になるだろう。
 ドロシィも、すぐには狩りに復帰できないだろうから、少しでもたくわえをね」
「うむ。まさに牛鬼、と言った化け物たちでござった。よい箔がついて売れるでござろうな」
 咲耶がそういうのへ、アルトゥライネルはがっかりした様子を見せた。
「砂塵牛の肉はうまいってのにな。流石に怪王種になったら、食べられないか……」
「えー、齧ってみちゃだめ?」
 リコリスが( ‘ᾥ’ )と言うので、
『だめ!』
 とみんなが言った。そんな様子へ、どこか安心したように、ハサウェイは「くぅん」と鳴いたのだった。

成否

成功

MVP

アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 勇敢な犬狼は、主の下へ。
 狩りの成果のおすそ分けも受け取り、ひとまず生き延びることはできた様子。
 彼の狩人と猟犬は、しばしの休息の後に、また砂漠の狩人生活に戻るのでしょう。

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