PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<深海メーディウム>海辺の恋を滑らせるメッチャスベルナマコ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 柔らかな光をその生き物は飲み込んだ。
 それは、命をはぐくむ環境をほんの少しだけ後押しした。いつもより育ちやすく、いつもより死ににくく、いつもより回数が多く。
 ほんの少しがほんの少しを産み、更にほんの少し。
 気が付くと、そこはいつもよりだいぶたくさんのそれがゴロゴロする環境になっていたのだ。

「水、気持ちいいわね」
 いつもつつましやかな彼女が今日はちょっぴり大胆な水着姿。
 日焼けではない頬の赤み。恥じらう姿がまたかわいらしい。
 こちらも普段は着込んでいる鎧を脱いであらわになっている胸元から彼女が視線を逸らす。
 腰のあたりまで海水につかり、揺らめく水にいつも隠れている足がとても白い。
 夏の気分に後押しされて、勇気を出して互いの関係を進めようと一念発起した甲斐があった。
 あらゆる意味で踏み出した足の裏がむにゅるりりと滑った。
 視界にパンする抜けるような青空。おそらきれい。
「きゃっ」
 彼女が小さく声を上げる。
 ばっしゃ~んっ!
 大開脚へそ天フォール・イン・ラグジュアリービーチリゾート。
 空高々に蹴りあげられた黒くてぬるぬるしてぬにょにょしたそれは、ポテンと彼女の頭の上に落ちた。


「皆様。更なる宝探しに興じていただけませんこと?」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)が茶をあおりながら言う。
 なぜ、お嬢様言葉。
「地上の楽園ことシレンツィオリゾートは開拓二周年の時を迎え、各国の威信をかけたクルーズツアーが始まろうとおりますの」
 要するに客の取り合い、ゼロサムゲーム。うちのお船に乗っていってよ。
「ですけれど、クルーズ最初のルートにしてフェデリア南島に広がるダカヌ海域には未知なる『深怪魔(ディープ・テラーズ)』が。後は御察し下さいませ」
 大体、数年前死闘を演じたのだ。その上の方にいたのをイレギュラーズが片付けたのだからその下からさらに浅い海に縄張りを拡充しようと及んでもさもありなんだ。
「困っておりましたら、深海の『都』なる場所からある少女がいらっしゃいましたの」
 異邦者である。
「彼女の都もまた深怪魔に脅かされており、都に伝わる神器『玉匣(たまくしげ)』をもってすれば深怪魔を追い払うことができるとのこと。そういうものがないと、『都』など維持できるわけもありませんものね」
 ですけれど。と、お嬢様言葉を駆使しながら、いつもの調子で菓子を食うのでバグ感がひどい。
「玉匣は破壊され、その力がコイン状の竜宮幣(ドラグチップ)となって周辺の海底や一部の島へと散ってしまったとおっしゃいますの。悲劇ですわ」
 竜宮城からの願いはこの竜宮幣を集め、再び玉匣を完成させること。
「急激な開発などで各方面ひずみも生じておりますから、ローレットしても稼ぎ時ですの。『天浮の里』や『虚滅種(ホロウクレスト)』と一戦交えるときに政治に横やり入れられるのも面倒でしょう? 地道ながらも重大な仕事が、後にプライスレスを生むのですわ」
 励みましょう、皆さま!


「――という訳で、依頼の詳細なんだが」
 メクレオは何の説明もなくいつもの様子に戻った。
「高級ビーチの足の立つ辺りにとある生物がいまして、例のコイン状の竜宮幣(ドラグチップ)を飲み込んでるっぽい。辺りというのは波に乗ってちゃっぷらちゃっぷら、人に蹴られてちゃっぷらちゃっぷら移動しているからで、飲み込んでるので例の光で判別しようがない体たらく。人海戦術で拾って揉んで感触を確かめるしかないかなーって――いちいち腹割くのも面倒でしょ?」
 生き物を拾うとは? イレギュラーズにやさしいんだか優しくないんだかわからない。
「その生き物とは、ナマコです」
 ぬるぬるぷりぷりして踏んづけると滑ります。と、情報屋が言った。
「このビーチ、なかなかいい感じのカップルがデートに使うビーチなのよ。波も穏やか、ファミリー向けからちょっと離れて、木とかが生えてて目隠しになってたりしてね。そこが、ナマコだらけなの。そして不幸な転倒事故が続出してるの」
 空に足を突き上げた格好で背中から落ち、痛打に声もなく水面に浮きあがる――大開脚へそ天フォールに、つきかけた恋の炎は水しぶきにあえなく消火の悲劇。
「口コミでガンガン評価が下がってるの!」
 そこで成立するカップル達がおゼゼを落とすはずだったのに。機会喪失。
「そういう訳だから、ナマコも拾って。というか、ナマコを拾って。おそらく、元凶の竜宮弊も回収して。みんなで幸せになろうよ。俺がナマコ引き取るからさ」
 干しナマコは、とても高く売れる。
「あと、浜辺がえぐれたり、海が煮えたりするから、海に潜って範囲攻撃一発、気絶療法は禁止な! 観光資源保全のため、丁寧な作業を頼む。誰かがしそうになったら止めろよ。万が一の賠償は連帯責任ということにするからな」

GMコメント

 田奈です。
 環境保全に努め、浜辺でちょっとぶくぶくっとしてナマコを拾うだけの簡単なお仕事です!
 ナマコは特に何もしない無害なナマコです。めっちゃ滑るだけです。踏んづけないようにだけ気を付けてくださいね!
 大開脚へそ天フォールした場合、田奈は粛々と描写するだけです。とはいえ、叫び声くらいは考えといたほうがいいと思うなあくまで保険として!
 ぶっちゃけ、いかに芸術的にあられもなく転ぶかにかかってると思うんだ。
 あらゆるいかれポンチ描写もどんとこい。「覚悟完了」と書いていただけた場合は、田奈は神妙な顔をしてうなずきます。
 自分を大切にしたい方は、描写NG項目は必ず書いてくださいね。そういう依頼です。わかりますね?

 すること。
 竜宮弊を回収し、平均的カオスシードのわきの下くらいまでの深さにあるナマコを素潜り、手拾いで全て回収する。

竜宮弊
 ナマコのうち、一匹が飲み込んでいます。それが女王固体になっているので、ナマコの密度が濃い所のど真ん中にいるので発見はしやすいでしょう。揉んでなんか固いものがあったらそれです。握れば内臓と一緒に排出してくれます。

 ひろうもの
 メッチャスベルナマコ×君は浜辺の砂の数を数えたことがあるのかい。
 すごくぬるぬるしたナマコです。めっちゃ滑ります。うっかりつかみ損ねて、あらぬところにちゅるんとか気を付けてください。無害なので、直接触れても何でもありませんが、ぬるぬるです。海水で洗えばどうということはありません。あくまでぬるぬるなだけです。
 ナマコなので、ぎゅっとつかむと防衛反応でそうめん状の内臓をぶっパしてきます。害はありませんが生臭いです。後、びっくりします。その反動でうっかりナマコを踏まないように。
 このナマコ、足を滑らせることに定評があります。踏んだら【態勢不利】BSと判定しますので、転びたくなければ対策スキルが必要です。アイテムでは効果はそれなりに。になります。
 観光資源保全の観点から、範囲攻撃は禁止です。単体魔法攻撃はコスパが悪いので、お勧めしません。
 
 
場所:ロマンティックなビーチ。
 穏やかな波。白い砂浜。遠浅で、離岸流もなく、浮かれポンチで痛ましい事故が起こりえない素敵スポットです。適度に植生されたトロピカルフラワーは、彼女の髪に一輪刺してあげるくらいは許される。そんなロマンティックビーチ。沈む夕日は二人の距離を近づけてくれること請け合いです。
 そして海中はびっしりナマコです。ナマコがいないのは、ナマコを拾ってできたスペースだけです。つまり、問題は、回避できるかどうかではないのです。滑るか滑らないかだけなのです。

絶対忘れてはいけないポイント
<描写NGライン>
 で、具体的にあなたの描写しないでほしいとこってどこからどこまでよ。
 忘れると、がっさーに白紙委任と解釈します。その場合、淡々とした描写で終わります。色物シナリオで中途半端はよろしくありません。意思表明は明確に。



----用語説明----

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <深海メーディウム>海辺の恋を滑らせるメッチャスベルナマコ!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ツェノワ=O=ロフニツカル(p3p010170)
眠り梟
深海・永遠(p3p010289)
海の不発弾
ことはる(p3p010563)
かけだしのエイリアン

リプレイ


「ナマコ拾いなら任せろー!!」
 バリバリバリバリっ! 『海の不発弾』深海・永遠(p3p010289)は、とりあえず、マジックテープで脱ぎ着する服は選ばない方がいいんじゃないかな。
 勢いよく海に突進していく。ああ、ディープシーだから安心ね。という、根拠ゼロの安心感が――
「あぎゃーーーーーーっ!!」
 ただの幻想であることを知らしめる。そうだよ。人魚じゃねえかよ。大体、人間だって滑って転ぶのが人生のカルマみたいなのがいるじゃないか。先入観いくない。
 いや、ディープシーでも滑って転ぶクオリティ。ナマコビーチ。恐ろしい場所(コ)――!

「いやあ、たしかに雰囲気のあるビーチだねぇ。これなら男女の距離が縮まることも請け合いだ、羨ましいことだね」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、悲鳴など聞こえなかったようにいい笑顔を浮かべた。透き通り具合が逆に不安になる笑顔だ。
「はあ……」
 ため息がくそ重い。過ぎ去った一夏どころか過ぎ去った人生丸々青春の日々くらいくそ重い。
「元の世界ではこんなビーチに旅行に来る機会なんて無かったし、情勢が落ち着いたら私も一度くらいはこういう場所でデートでもしたいものだ。まあ、今は相手居ないけど」
 まだ遅くないから、混沌世界で青春を謳歌していただきたい。良縁をお祈りさせて下さい。とりあえず、ナマコを拾ってもらうことに変わりはないのだが。
「わぁ。海って初めて来る……綺麗な色……」
 『眠り梟』ツェノワ=O=ロフニツカル(p3p010170)の感嘆の声はぶつ切りになり、潮風に吹かれて波の彼方に飛んでいった。
 透明度の高い水に、虚無のような黒が星雲のようになっている。厨二的感性を持っている者ならば暗黒星雲と例えかねない。
「あれがナマコなんだね!」
『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)の笑顔がまぶしい。決して、笑顔を向けられている『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)の欲目ではない。
「ナマコナマコふんふふ~ん♪ たのしみだね、しーちゃん。僕調理されたのしか見たことないの。本物を見るのはこれが初めて。どんななのかなあ。わくわくするね!」
 色白ほっぺにフリルの白ビキニがレフ板効果で物理的にきらっきらである。守りたい。この笑顔。
「かんちゃん――」
 白のサーフパンツにエメラルドグリーンのパーカーとさりげなくリンクコーデの史之は万感の思いをもって愛しい人の名前を呼んだ。
(ご主人さまのたっての頼みとあれば従うしかないよね。それに大事な大事な妻だもの。できればお願いはかなえてあげたいと思って――)
 そして透明な海を埋め尽くすナマコ。
(……え、めっちゃナマコだらけじゃん、こわっ)
 と思ってしまった。カンちゃんはキラキラ笑顔なのに。カンちゃんは本物の生きてるナマコにどんな反応を示すんだろう。もし、嫌いとかやっぱりだめっていうんだったら、即応で浜からナマコを排除しなくちゃならない。
「何かこう、極端な方向に振り切ってません?」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、海産資源豊かなリゾートビーチに思いをはせていた。先日、ぬめぬめぷりぷりの吸血触手的な海藻に熱烈なキスマークをたっぷりつけられて返ってきたばかりなのだ。
「俺の依頼だから、そういう系列になるな」
 薬師のネットワークで仕事集めてるから仕方ないね。
「――ところで、メクレオさんは一緒に来ないんですか?」
「俺はお前らが拾ってきたナマコを洗ってゆでて干す簡単じゃないお仕事に従事するんだよ」
 ゴム手袋ゴム長靴ゴム引きエプロンを付けた情報屋兼現役イレギュラーズは、水着姿のイレギュラーズを凝視していた。
 干したナマコは滋養強壮のお薬というか高級食材になります。
「――こっちも手伝ってくれるってんなら、話は別だが!?」
 ほっかむりの向こうの瞳孔が開いている。
 人をゆでられそうな大鍋で湯が煮えたぎっている。手にはオールのようなひしゃく。割と地獄の気配がした。海の方がましに思えた。
「ナマコは割と砂浜に打ち上げられると聞いたことがありますけどちょっと数多すぎません? アレですね、びっしりナマコがいるって」
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)にそういう言い方されたら、このあたりの海の精霊は羞恥のあまり姿を隠すだろう、見ないでぇ。
「報告書も読みましたよ、例のカップルの顛末が書かれたやつ。他人だけど他人事じゃない、そんな気がしましたね……」
 だって。社交場でナマコに恋を邪魔された令嬢を慰めるの嫌だし、風の噂で聞くのも嫌。情報収集も貴族の大事なお仕事なので拒否は許されない。
 親身に「お辛かったでしょう……」などと扇の陰でまなざしを揺らめかせたりしなくてはならないのだ。
 シフォリィの頭の上にナマコがランディングしている図は――思い浮かべたものは即刻忘れるように。
「これ以上、不幸な事故が起きない様に全力でナマコを獲りましょう」
 水着の上からTシャツ着用。シフォリィの覚悟がまぶしい。あらわな太もも的意味で。
「……えっ。あれ全部拾うわけじゃないよね?」
 眠たげな眼を見開くツェノワに、ルーキスは薄笑いを浮かべて首を横に振った。
「拾うんです」
「全部? 女王種だけ拾えばいいんじゃない?」
 全部だぞ~。契約書ちゃんと読め~。と情報屋から追い打ちがかかる。ちょっとくらい現実逃避させてくれたって罰は当たらないのに。
「はるにお任せでっす!この自慢のタコ足があれば例えどんなにヌメっていようと――」
『かけだしのエイリアン』ことはる(p3p010563)も、ぬるんぷるんだ。触手だから大丈夫と胸を叩く。波打ち際でナマコに頭の触手を絡め、きゅうっと締めれば――。
「チョチョイのチョイってうっわメッチャスベル!! まって!? 予想以上に滑る!」
 粘液と粘液で、めっちゃぬるぬる。むしろ、よりぬるぬる。いつからつかめると錯覚していた? 
「タモ! タモ持ってきて!! お客様の中にタモをお持ちの方はいらっしゃいませんか! ぎゃっっっ何かでだっ!!」
 金色の目にぬるりとした粘液がたまっちゃう。
「うう…『簡単な仕事じゃん! さっと終わらせて海水浴だー!』って考えてた仕事前のはるを殴り飛ばしてやりたいでっす……これは想像以上に過酷なお仕事になりまっすね……ヒンッ……」
「拾うの?」
 ヒンヒン視認できない鼻を慣用句的にならすことはるを見ながら、ツェノワが再確認する。
「ああ」
 ルーキスは今年の夏の一部の海の異常を文字通り肌と骨身で知っていた。
「拾うしかないんだ」
「お仕事を受けた以上、逃げるわけにもいかないからね……はあ」
 ゼフィラがこれまた深くため息をついた。
 改めて、海中からナマコを拾って真水のたらいにぶちまける仕事が始まるお。


「オレの体をぬめぬめにしたのはおまいかーー!!」
 波間から永遠の奮闘の声がする。
 時々ぼぶちゅうっと破裂音が聞こえる。破片も拾うんだぞ。それはそれでマキビシみたいになるから。
「わぁ、一面ナマコだらけダナー」
 ルーキスが心のない目をしている。
「素潜り漁はそれなりに経験がありますが、ナマコオンリー漁とか、この先もう二度と遭遇できないレア体験なのでは?」
 そう言って、ナマコ密度が高いところに突っ込んでいこうとするところ、素晴らしいです。
「海なんて縁が無かったから海の生物とも未知の遭遇だぞ! 実物見た事ないぞ!」
 ツェノワは、猛禽類の肢爪でもってナマコをつついてみる。目は好奇心できらっきらだ。
「……ぬめっとしてる……これの素材知りたいかも」
 足でつかみ上げると、くるくると器用に回してみている。
「こっちが口か。口を海に向けて潰すのも……あり……?」
 興味が尽きぬ海の生き物。それが急にうゾゾゾゾと大移動を始めた。
 ツェノワは振り返った。
 波打ち際の白ビキニがくるぶしを濡らして何をしているのかと言えば――。
(……聞こえますか、いま、あなたの心に直接語りかけています。どいてください。できれば山になってくれると拾いやすいです)
 ナマコが組体操を始めている。
 コロコロと足元に転がる黒いぬるぬるした形成生物を拾って袋へ。拾って袋へ。拾って――。
「……なんか、思ってたより地味だね」
 ぼそっと言う睦月に史之の方がびくっと跳ね上がり、フードがパサ……と落ちる音がやけに響く。
「でもこれがおいしいあのナマコで間違いないんだよね」
 むぎゅっ。やだ。ちょっと力強く握っちゃった! あ、そんなに強く握ったら!
「わっ、へんなもの吐き出した! なにこれ、気持ち悪い!」
 ぽちゃん。ナマコが海に帰っていく。思わず目で追えば、見渡す限りのナマコ。きぼちわるい。口に出すなよ、認識しちゃうだろ。
(うう、でもお仕事、お仕事だもの。がんばる。がんばってしーちゃんに褒めてもらうんだから)
 睦月はキチンと地面を踏みしめて――波打ち際、ナマコ、はだし。何も起きない訳もなく。
「ぴゃ――」
 足の裏にぬめる感触。
(なにこれえ、めっちゃすべる! 踏んづけたら最後背中痛打しちゃう!)
 何とか踏まないように無理やり足を動かし、該当ナマコを踏むことは回避したがバランスが崩れる。異様にひねられる腰。じゃぶじゃぶと海中に向けてたたらを踏む。足を出すとナマコ更にダストナマコ。まさしく。ナマコのベルトコンベアー。
(いだいいだいいだい、体勢を整え……いやあ! すべるー!って、あれ、僕のビキニ、ずれ……」
 大丈夫です。幻の免罪符は発券されてません!
「だ~いじょ~うぶ~?」
 転んだらかわいそうとツェノワが飛んできたのだ。このまま吊り下げて波打ち際まで移動させれば溺れない。
「ひゃあああ、見ないで見ないで」
 だが、今、睦月のビキニはずれている。そして、スカイウェザーとウォーカーの間には着衣がずれることで発生する羞恥心に関して深刻な落差がある。ありがたいけど、今、持ち上げられたら、とんでもないことになる。
 色々我慢してたものはあふれてほとばしった。睦月は、意を決した。
「――しーちゃん助けてえ!」
 その声を最後に睦月の姿が波間に消えた。頭から海に潜ったのだ。溺れる前にきっとしーちゃんは助けてくれる。信じてる!
「カンちゃんが犬神家になってるー!」
 素潜りの要領で、睦月の分までせっせとナマコを拾っていた史之イヤーは主にして愛妻の悲鳴を聞き逃す訳がなかった。
「まってまって今助けるから! ああっ、転んでばかりでぜんぜん近づけない!」
 人間は慌てると、飛行で海面の上飛んできゃいいとか一切思い浮かばなくなるのだ。
「このままじゃカンちゃんがおぼれちゃうよ。これが焦る心とは裏腹にってやつ?」
 がっぽんがっぽん海水飲みながら、必死に睦月救出に急ぐ。
「あだあ! また転んだ、背中いったあ! でも俺にはカンちゃんを守るという使命があるから! あるから!」
 愛が。そこに愛があった。ナマコまみれではあったけれども。
「――ぼくが足つっこんで引っ張り上げようか?」
 見かねたツェノワ、一応提案する。
「お気遣いありがとうございます大丈夫です妻は俺が保護します!」
 睦月は溺れる前に救出された。速攻パーカーを着せるのを忘れない史之は良き夫である。

「範囲攻撃はアウトとのことですが、ダメージを与えない方向でなら纏めていけるのでは?」
 先生。シフォリィさんがなんか変なこと言ってます。
「無ダメージで怒り付与のアッパーユアハートでナマコを集めて回収しちゃいましょう。ナマコとのそれはもちろん戦いなので」
 今のシフォリィにつけるオノマトペは、イソイソしか思いつかない。
「……」
『足を踏み入れた瞬間ばしゃーんとなりそうな気がしました』と、のちにシフォリィは語った。
『ですが、気にしていられませんでした。今回はもう覚悟の上、むしろへそ天フォールのままナマコを回収してやろうと思っておりました!』
 怒りを付与されたナマコはシフォリィに殺到した。必然的にナマコで緩やかなスロープが形成された。そのうえで、耐性マイナスのシフォリィ。
 勢いあまって水面で宙返りした瞬間、空気の精のごとくだった。次の刹那、重力に逆らえず背中から着水したが。
「ふあっ!」
 溺れる者は藁をもつかむので、当然ナマコもつかむのだ。
「……あっ」
 つかんだナマコが滑ってシャツの中に!
「きゃああああっ!」
 さらに、シャツの中で内蔵ぶっぱ。
「ふえぇ――」
 で。細くてぬめぬめして滑りのよろしいものが色々凹凸が激しいシフォリィのすきまのあちこちに。
「なまぐさいですよぉ……!」
 違う。おやばいのはそのことじゃない。 
 その時、壮絶な水柱が急接近していた。
「ええい!! まどろっこしい!! こうなったら一気にワサーッと集めて捻り出してくれる!!」
 つかめないなら、ブルドーザーみたいに浜によせてしまえばいいじゃない。
 ことはるが、タコ足を前に突き出して、ナマコ密集地帯に突進してくる。
「伸びろ!タコ足!とりゃあああうおあああメッチャスベルううう!」
 体の構造上、タコ足を突き出すと、ことはるは前方が見えない。つまり、ナマコ密集地帯でへそ天しているシフォリィも当然見えない。
「ほえ?」
 したたか打ち付けた背中にタコ足がぶち当たり、ナマコにしてはおっきい感触にことはるがようやくシフォリィに気づき、反射であたふたした結果。
「あ"あ"あ"あ"あ"、タコ足が絡まったあ"ーーっ!!」
 なんということでしょう。間に無数のナマコを挟んだ状態でシフォリィとことはるがグネグネに絡み合ってしまったのです。触手的意味で。
 二人を回収するついでにかなりのナマコが一緒に回収され、結構効率がよく――今度は意図的に似たような態勢にならざるを得なくなったのだ。
「ええ、いいんです。私は覚悟を決めてきましたので。どんなことでもどんとこいです」
 シフォリィの視点が一か所から動かなくなっている。これもノブレス・オブ・リージュ。
「もうナマコなんて懲り懲りだあああああっっっ!!!」
 ことはるは、より端的に感想を述べた。

 水着のゼフィラは、波打ち際に転がるナマコを黙々と拾い終え、いよいよ海の中にインするところだった。若干歩幅が小さい。恋におののく乙女のように。というか、海とのファーストコンタクトだ。初めまして。青い波。
「いや、大丈夫。この義足は海で使う分にも問題ない。多少ナマコを踏んだ程度で滑ることは……」
 ぎぎ。サポートセンターに連絡して下さい的異音。
 機械というのは持ち主の必死さを感知するらしく、ここ一番というときに誤作動するのである。
「こんな時にエラー!? いや、多少動作に影響はあるが、動けないほどでは……」
 またにしなよ。なんて誰が言えるだろう。初めての海なのだ。浮力がついて関節部への負担は軽減されるはず――と、踏み出した砂の下にナマコがいた。
「あ――」
 そのとき、遠くで、とんでもない水しぶきが上がった!
「あぎゃーーーーーっ!!」
 パートツー。派手な悲鳴を上げつつも、せっせとナマコを拾い続けていた永遠がついにブチ切れたのだ。
「オレは大体の海中の生物に優しいけどお前らは論外だかんな? 依頼になるってのはそういう事なんだからな?」
 陽気な奴がぼそぼそ早口でしゃべるようになったらだいぶおヤバい。
「【烈火業炎撃】で焼きナマコにする」
 はっちゃけた笑顔がまぶしい。
「お前らだけは……お前らだけは……!」
 また滑った、パート3。
「【マッスルパワー】込み【烈火業炎撃】でこんがりナマコにする」
 なんて決意に満ちた目なの。
「よせ! 商品価値が下がる!」
 悲鳴を聞きつけ、救助に向かっていたルーキスが羽交い絞めにした。殿中でござる。殿中でござる。海が煮えたら、連帯責任でござる。
「観光環境保全! 落ち着け、ディープシー! 母なる海を守れ!」
「俺は不発弾だ―!」
「猶更爆発するな―! 取り押さえろー!!」
「え、あ、そんな、滑る!」
「あんなところにバカでっかいのが!」
「吐け。お前が呑んだんだな。吐け!」
「いやあ、こんなおっきいの握りつぶせない!」
「焼こう」
「誰か。たすけて。たすけてー……」
「ない。おっきいのに、ない」
「竜宮弊はいずこに――」


「うー、もう浜辺でおとなしくします。背中痛いし。せっかくのビキニはすごいことになっちゃったし。ごめんなさい、ナマコなめてました。嫌いになっちゃうかも、うわあん」
 睦月、泣きぬれて、ゆでナマコを並べる。とりあえず、浜辺にのの字を書くよりは生産性がある。
「あれ。何か、硬い」
 ゆでナマコからなんか落ちた。
「ねえ。これ、竜宮弊でしょ。よかったぁ」
 浜辺には打ち上げられたイレギュラーズたちがごろごろ転がっている。もはや、ビーチはピッカピカである。
「ちゃんとリベンジしてきたよ」
 うっすらとほほ笑む史之の袋の中には見事につぶれたナマコが入っている。
「カンちゃんを落ち込ませたナマコはみんな俺がやっつけたからね。これから釜ゆでにしてくるから」
「もう、しーちゃんたら」
 私怨を晴らす、まさしくリベンジ。
 きれいになった浜辺で恋が始まったり終わったりするだろう。情報屋は覚えている。背中を真っ赤にしながらナマコを拾ってくれたイレギュラーズのことを。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。皆さんの献身のもとにビーチは美しさを取り戻しました。ナマコは有効利用されることでしょう。じっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

PAGETOPPAGEBOTTOM