シナリオ詳細
ふわふわパンとちいちゃいねこさん
オープニング
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その宵の仕事は、パン屑ほどの価値もねぇ男を観念させる仕事だった。
俺の名は『厚切り』のジョー。対人専門の荒事屋だ。この居合刀とバターの乗ったふわっふわ厚切りトーストを相棒に数多の依頼をこなしてきた。
ほら、闇市でも時々見かけるだろう? ノービスアイテム『口元のトースト』。
素人が見ればただのアクセサリーに過ぎないが、俺のような『闘スト真剣』――厚切りトーストを口にくわえる事で剣技が冴え渡る流派だ――の使い手には、見かけたらマストバイの必須アイテム。剣士としての生命線だ。
事前にこの町にパン屋が無いのはリサーチ済。宿泊中の宿屋には、明日も仕事ができるように食パン一斤を持ち込んでいる。俺に死角はない……そんな慢心は、宿屋の前で遭遇した盗人の姿で打ち砕かれた。
にゃーん!
「ぐっ……! そのビニール袋は、俺の食パン!?」
にゃごにゃご! みゃーん!
「複数犯か! ちくしょう……予備まで持っていかれたぁッ!!!」
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「――という訳で、今回はアンタら特異運命座標を頼る事にしたって訳だ」
『パンをもっていった ちいちゃいねこさんを さがしてください』
ファンシーなタイトルの依頼書を手がかりに依頼人の元へたどり着いた特異運命座標は、低く野太い男の声に迎えられた。
事件のあらましは何ともまぁ間抜けな物だが、この凶悪な見てくれの男は、
『血溜まりにパン屑が浮いていたら奴だと思え』
『奴と曲がり角でぶつかったが最期、恋する前に死を突きつけられる』
……などと"その界隈"では恐れられている人物である。それが今回、ギルド「ローレット」を頼ってきたのだ。
蓋を開けてみれば裏社会の人間からの仕事という事実を疑うほどに平和な依頼だが、ジョーにとって、今回の事態は深刻なのだろう。
「一応言っておくが、食パンだけ適当な場所から取り寄せて解決しようってのはナシだ。必ず食パンとねこさん両方の確保をして来い」
必ずだ、とすごみを増して念を押すジョー。
――連れ戻すのは報復のため?
ざわつく気配を感じ取り、ジョーは心外だとばかりに居合刀を壁に立てかけ、ちょっぴり口を尖らせる。
「腹が減って盗んだんだろ? まだ世の中の作法も知らねぇちいちゃいねこさんからブツだけ奪う事なんて、俺にはできねぇんだよ。
食パンはやれねぇが、他のパンを食わせてやろうって訳だ。特異運命座標、お前らも食いたいモンがあるなら、今のうちにリクエストしておきな」
- ふわふわパンとちいちゃいねこさん完了
- NM名芳董
- 種別カジュアル
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月02日 22時20分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
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「ジョーさんは厚切りトーストよりも義理人情に厚い方なのですね。筋を通す方は嫌いではありませんよ」
分かりました、子猫探しをお手伝いしましょうと『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は前置きした上で、まっすぐにジョーを見つめて問う。
「子猫というのはあれですよね。液体で狭いところが好きでにゃーんと鳴く生き物、という理解であってます?
じつは頭が3つあってこちらを見つけ次第襲いかかってくるなんて事はないですよね」
「それはどう聞いても、猫じゃなくてケルニャロスにゃ! そんな事あり得るのにゃ!?」
『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)は、相談を受けた時から"ふつうのちいちゃい猫さん"だと信じて疑う事すらなかった。ママ猫どうしたのかにゃなんて心配していたぐらいで、追いかける側が追いかけられる側になるなんて、考えてもみなかった事だ。
「世の中には、鋼の様な鱗の巨大蛇にとって付けた様にうさ耳が付いてる魔物を『うさぎ』と読んだり、
虹色に輝いて地面から生えて空中へと打ち上がるカジキマグロを普通だと思っている地域もあったりするからな」
「凄いにゃ、僕もそろそろローレットのベテランだと思ってたけど、皆の方が目のつけどころがドープだにゃ!」
「いや、普通に猫探しだろ今回の依頼は!」
同調しはじめた『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と真に受けはじめた『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)に、そろそろ軌道修正をした方がいいかと『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)がツッコミを入れる。
……ちなみに、今回の依頼は普通の猫探しです。よかったね!
襲われるリスクが無くなったのはいいものの、楽な仕事にはならないと、四人はこの時から直感していた。
零が資料検索で持ち出した町の地図をテーブルに広げてみると――もう広いのなんのって!
さっそくジョーの仮住まいで作戦会議をはじめた四人は、ペンや付箋で情報を書き込んでいく。きゅきゅ、と最初に表通りにバツ印を付けたのはアーマデルだ。
「事前に確認しておいたが、表通りには猫たちの姿が見えなかった。ヒトへの警戒が強そうだな」
「窃盗犯(子猫)が堂々と大通りを歩いてるとは考えにくいにゃ。盗品(パン)を銜えてる可能性も高いし、目立たない裏路地とかが怪しいにゃ」
ちぐさは点々といくつかの場所を指し示す。猫は縄張り意識が強く、犯人が子猫となると居心地のいい水場にはいないだろうと推測したのだ。
「優良物件は他の大人の野良猫が占拠してる可能性が高いのにゃ」
「流石ちぐささん、本家本元の猫さんの言葉は納得感がありますね。僕はあえて大人の猫さんを探して、相談してみようと思います」
交渉のキーは煮干しの入った大袋。睦月はこれを餌に聞き込みや交渉を行うのだという。皆の話を聞きながら、零は動物知識を巧みに使い、猫の絶対に近づかない場所を潰して捜索範囲を狭めていった
「ある程度は絞れたな」
後は直接、自分達の足で確かめるまでだ。再会場所をこの家にして、四人はまだ夏の香りが残る町の中へとくり出した――
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くんくん。
ちぐさが辺りの匂いを嗅ぐたび猫耳がピクピク揺れる。その様をアーマデルは興味深そうに眺めていた。
「パン探しならパンの匂いを探せばいいのにゃ。……にゃ! あれは炊き込みご飯の匂い!そしてあれはっ!カレーの匂いにゃ!」
「見事に米ばかりだな」
「なぜかパン屋さん無い町で助かったのにゃ」
「パン屋が無いのは小麦が高くて芋や豆を主食としているか、或いは各家庭で焼いているか……」
『美味しいパン』というのは意外と金と手間がかかる。生活に余裕が無いと維持できないランクの食品なのだ。アーマデルが町の食文化を分析しだした頃、ちぐさの鼻は小麦の匂いを捉えていた。あっちにゃ! と促し二人で路地を駆けていくと、やがて見たのは前情報通り、ビニール袋をくわえた二匹の子猫!
「見つけたにゃ。ベーコンエピ……じゃなくて、ジョーときみ達の幸せに、大人しくお縄を頂戴にゃ!」
子猫もどうやら、二人が追手である事に気づいたらしい。じりじりと様子を伺う様に後退しだすと、アーマデルが両手を広げて無害である事を子猫達に示す。
「俺はあのにゃんんだふるらいふの試練を乗り越え会員証を獲得した者。……猫よ、俺は安全だぞ。
――お前もそう思うだろう? くろねこ」
「黒猫にゃ?!」
一瞬にしてちぐさの耳が跳ね上がる。この依頼を手伝いに来るだなんて想像もしていなかった。大好きな情報屋。その名も黒猫のシーー
『そんな熱視線を向けられると困るにゃ』
「ちがう黒猫だったにゃ!」
アーマデルの背中をよじ登ってきた《くろねこダンジョー》と目があって、ちぐさは人間違いならぬ猫間違いに思わず叫んだ。子猫が驚いて逃げ出したのを見逃さず、持前の機動力と反応力で慌てて追いかけ、一匹ゲット!
「と、とりあえず一匹確保にゃ! アーマデルはどうにゃ?」
「こちらも確保は完了だ。パンの袋が破けていなくてよかった」
残りの一匹を説得で保護したアーマデルは、ビニール袋と交換でいいもの(ゆでささみ)を子猫に与えて速攻懐かれた。
右頬を子猫、左頬をくろねこに頬ずりされて、されるがままにむにむに頬を変形させている。
「残りは二匹か。睦月殿と零殿が上手くやってくれているといいのだが」
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外はカリカリ、中ふんわりなフランスパンを千切っては投げ、千切っては投げ。
「何やってるんですか? 零さん」
「子猫達はパンを持ち去るぐらい腹ペコだ。それなら俺のギフトでおびき寄せられるんじゃないかって」
Infinite bread――零が授かったギフトはフランスパンを幾らでも出せるという代物。パン好きの子猫をおびき寄せるにはこれ以上ないぐらい相性のいい代物だ。大通りから路地裏に向かってパンの欠片を置いていき、終着点に籠とついたて棒をセットする。シンプルがゆえに設置も簡単。後は猫を待つだけだ。
「あっ、もう何かが近づいてきましたよ!」
「後はいいタイミングで紐を引っ張って、棒をとっぱらって籠を落とせば……」
「でも心なしか子猫にしては影が大きく……あっ」
「今だーっ!」
どさーー!!
「ぐぁーーっ!」
籠が落とされるのとほぼ同時、聞いた事のある声で悲鳴があがる。
「何でジョーが罠にかかってるんだよ!」
「この町にいると小麦の香りが恋しくなってだな」
だからといって裏社会の人間が、こんな単純な罠にはまって大丈夫なのか。零が言及しかけたところで、暗視で見通せる路地の先に特徴的な尻尾を見つける。パンの匂いに惹かれたのは、ジョーだけではなかった様だ。
「鍵しっぽ……あいつか!」
「隣の子猫も犯人だ!」
男二人が追いかけようと身構える前に、二匹はこちらに背を向け駆けだしていた。よもや逃してしまうかと思った矢先、にゃーんとひと声、愛らしい声が路地に響く。そして――
「睦月!?」
「にゃにゃ、にゃおーん。にゃあ!(ボスネコさん達、お願いします!)」
なごなご、にゃーご。
逃げようとする子猫を複数の猫がとり囲む!
子猫が委縮して動きを止めた直後、包囲した群れの中で一番でっぷり太った貫禄のあるブチ猫が、仏頂面で口を開いた。
「なぁご、なんなぁ?(これでえぇんか、嬢ちゃん)」
「にゃ! にゃにゃんにゃーにゃ(はい、ご協力感謝します)」
「睦月、ひょっとして猫の言葉が分かるのか?」
零の問いに、睦月は首を縦に振った。動物疎通で猫と話せた睦月は、子猫達が保護される前に縄張り争いに巻き込まれないよう交渉し、ついでに包囲も頼んだのだ。
「そのためにボスネコとコンタクトを取ってたって訳か」
「はい。高級煮干し15匹で交渉成立でした。郷に入っては郷に従え。猫の社会では猫を立てればにゃんとも上手くいく訳です」
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数時間後――
「そんなに水が少なくていいのか?」
ジョーの仮住まいの台所には、零とジョー、エプロンを着けた二人の男の姿があった。ジョーが生地に入れろと差し出した計量カップは、零が普段パン作りをする時よりも、明らかに水の量が少ない。驚く零にジョーはフッと口元を緩めてみせる。
「夏の生地は湿度が高く、湿気を含んでいる。レシピより少なくしないと生地がベタつくぞ」
「なるほど……」
「それにしても、パン作りの才能があるな、零。きっといい荒事屋になる」
「いや、俺は単純にパン屋だから作り方を教わりたかっただけなんだけど」
台所でジョーの指導が飛ぶ中、リビングでは――
「ベーコンエピがいっぱいにゃー!」
じゅるりそ。あむっ! ぱりぱりもきゅきゅ!
お惣菜パンにかぶりつき、ちぐさは至福の表情で尻尾をゆらゆらご機嫌に揺らしていた。
その横では猫耳の生えたチョココロネーーチョコネコロネを小さく裂いて口に入れ、紅茶で優雅な時間を過ごす睦月の姿も見える。彼女のひざの上では、煮干しをあぐあぐするボスネコ。アーマデルとちぐさの足元にもボスネコの部下や子猫が雑多に入り乱れ、煮干しと猫用パンを楽しむちょっとした猫まみれ空間が出来上がっていた。
「アーマデルさんのパンは不思議ですね。薄くて平べったくて……」
「これが食べ慣れてるんだ。睦月殿とちぐさ殿も味見してみるか?」
睦月の問いに応じて、アーマデルがベーコンとレタスを巻いたパンを差し出す。ちぐさが目をきらきらさせたところで、家のドアベルが鳴り響いた。
「僕が出るにゃ!」
ただいま開けるにゃ、とちぐさがガチャコン、玄関の扉を開く。そして見知った獣医――クティノスが、カーラーを着けた猫を抱えているのを見て、まあるく目を見開いた。
「街中で病気の猫を保護しまして。治した後に地元の人にこの子の事を聞いたら、子供がここにいると聞いたのですが」
にゃーにゃー、子猫達が鳴いてクティノスの傍に寄ってくる。子猫達の母猫だ!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
はじめてのカジュアル依頼、まずは猫探しから初めてみようと思います。どうぞよろしくお願いいたします!
●目標
食パンを持ち去った子猫×4匹の保護
ジョーの食パン×4の回収
●フィールド
幻想南部に位置する「ライスキー」町
王都からはそれなりに離れていますが、複数の馬車道が重なる場所にあり、補給地点としてそれなりに栄えている町です。
なのに何故かパン屋がないのだとか。レンガ造りの建物が多く遮蔽物や複雑な路地や多い中での捜索となります。辛抱強く地道な努力をして探し回る事もできますが、非戦スキルを駆使すれば発見や捕獲が早くなるでしょう。
●探し物の特徴
以下はジョーからの目撃情報です
食パンを持ち去った子猫
集団で行動する事がある
子猫だった。暗がりで模様などは見えていない
一匹だけ鍵尻尾だった気がする
食パン
白い紙袋に0.5斤入っている
紙袋には『ジョー印の男気パン』と書かれたロゴが記されている
小麦のいい匂いがする
●登場人物
『厚切り』のジョー
厚切りトーストを口にくわえる事で剣技が冴え渡るという妙技の持ち主。『パン屑ほどの価値もない奴』をターゲットにする事を条件に何でも引き受ける荒事屋。
剣技と共にパン作りの技術も研磨してきたため、パン作りにおいてはかなりの実力を誇る。
本名は米田丈二(よねだ じょうじ)
●その他
目標達成後にはジョーがパンをご馳走してくれるそうです。好きなパンをもぐもぐして楽しみましょう!
●情報制度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、よい旅路を!
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