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シナリオ詳細

<Stahl Gebrull>吹き荒れるは嵐 舞い狂うは鳥

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●機甲部隊は壊滅せり
「『鋼の咆哮(Stahl gebrull)』か。いい作戦名じゃねぇか。
 ならば、俺達が一番乗りして存分に咆えなきゃな。なぁ、お前ら!」
 アーカーシュはショコラ・ドングリス遺跡に進撃せんとする、戦車の車列。その先頭を進む戦車の中で、鉄帝軍人コーハ=カン少佐が通信回線越しに呼びかけた。「おおっ!」と返す部下達の声が、回線を通じてコーハ少佐の耳に届く。
 勇将、あるいは猛将と言う言葉が似合うコーハ少佐は、これまで機甲部隊を率いて幾多もの戦いで先陣を切り、武勲を挙げてきた。しかし、パトリック・アネル大佐率いる特務派に属していたことが、コーハ少佐の軍歴を汚してしまった。よもや、魔種に唆されて友軍に砲口を向けていたとは――!
 この屈辱を雪ぐには、魔種パトリックを討伐するこの作戦で活躍し、武勲を上げるしかない。そう考えたコーハ少佐は、ショコラ・ドングリス遺跡に一番乗りして砲口による咆哮をあげるべく、強行軍とも言えるペースで進撃していた。
 だが、ショコラ・ドングリス遺跡まであとわずかと言うところで、コーハ少佐の機甲部隊は足を止められた。
「ええい、動け! 何故動かん!」
 コーハ少佐が、苛立ち交じりに叫ぶ。少しずつ強くなり、今は猛烈に吹き付けるほどの嵐となった風が戦車の前進を阻止しているのだ。だが、戦車の馬力がありながらこの程度で動けなくなることはありえないとコーハ少佐は考えている。何より、ショコラ・ドングリス遺跡を目前にして足止めされているわけにはいかなかった。
「コーハ少佐! 上です!」
「何だとぉ!? ――撃てぇ!」
 部下が回線越しに呼び掛ける。その声にハッとしたコーハ少佐は、嵐に乗って急接近してくる十一羽の鳥――正確には、鳥の形をした兵器を見つけ出し、砲撃の命令を出す。
 だが、鳥の形の兵器は迫る砲弾を悠々とかいくぐり、コーハ少佐の機甲部隊の上から爆弾を投下する。嵐によって動きを止められている戦車はただの的でしかなく、爆弾を受けると次々と爆発炎上していった。
「くっ……俺は、こんな、ところで……ぐはっ!」
 火傷を負いながらも戦車から脱出したコーハ少佐だったが、その腹部を貫かれて絶命した。急降下してきた鳥の形の兵器が、嘴でコーハ少佐の腹部を串刺しにしたのだ。
 ――三十両を有したコーハ少佐の機甲部隊のうち、最後方にいて鳥の形の兵器の爆撃から辛うじて逃れえた三両ばかりが、どうにかエピトゥシ城に帰還した。

● エピトゥシ城内部にて
「そんなわけでね、アンタ達にはショコラ・ドングリス遺跡への道を阻むこいつらを排除してほしいんだよ」
 『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203) が目の前に集まったイレギュラーズ達に告げる。
 ユメーミルの言う「こいつら」には、鳥の形の兵器だけでなく、嵐を起こしている風の精霊達も含まれていた。
「精霊達は、魔種パトリックの影響で暴走しててね。特に、上位精霊まで混ざってるんであんなことになってるって話だ。
 精霊達を倒せば、嵐は止まると見られてるけどね」
 ただ、その嵐自体が問題だった。鳥の形の兵器はその嵐に乗って俊敏に動いてくる一方で、こちらの行動を阻害してくる。特に、遺跡に向けて歩みを進めるのは非常に困難に思われた。
「飛んでる敵ばかりなのもあるし、最低限、何かしら遠距離攻撃の手段は用意しておいた方がいいかもしれないね」
 ざわめく者、思案顔になる者。そんなイレギュラーズ達の様子がある程度落ち着くのを待ってから、ユメーミルは続けた。
「あと、上位精霊の方は死亡……と言うか、消滅させないように気を付けておくれ。
 そいつが消えちまったらその後、周囲の環境にどんな影響が出るかわからないって話でね。
 ――それじゃ、アタシからはこんなところかね。単純にぶん殴ればいいとはいかなくて難しいとは思うけど、アンタらなら何とか上手くやってくれると信じてる。
 だから――よろしく頼んだよ」
 依頼の成功を確信しているかのようなしっかりとした声とともに、ユメーミルはイレギュラーズ達に向けて頭を下げた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は全体依頼<Stahl Gebrull>のうちの1本をお送りします。
 ショコラ・ドングリス遺跡への進撃を阻止せんとする、敵の撃破をお願いします。

●成功条件
 敵の全滅

●失敗条件
 ウィンドエレメンタル・ロードの消滅(死亡)

●ロケーション
 ショコラ・ドングリス遺跡周辺の平原。時間は昼間。
 天候は晴天ですが、ウィンドエレメンタル・ロード達によって常人では立つことさえ困難な嵐となっています。
 具体的な処理としては、毎ターン開始時に【必中】【無】【鬼道】【足止】【泥沼】【停滞】【退化】を伴った攻撃が戦場にいる全てのイレギュラーズ達に対して行われます。この攻撃から誰かを「かばう」ことは出来ません。
 一方、全ての敵は【足止】【泥沼】【停滞】【退化】分のペナルティーをボーナスに反転した量のバフをこのタイミングで付与されます。
 また、この嵐の中で飛行戦闘する場合、飛行戦闘のペナルティーは2倍になります。一方、敵は飛行戦闘におけるペナルティーは受けません。
 ウィンドエレメンタル・ロードが倒されれば、この嵐は止みます。

●初期配置
 戦闘開始時は、全ての敵が高度20メートルで飛行しています。
  ハイアームズ・ストームライダーを中心に、セレストアームズ・ストームライダーがその左右に一列に広がっています。
 ウィンドエレメンタル・ロードは最後方におり、その周囲に4体のウィンドエレメンタルが侍っています。残り16体のウィンドエレメンタルは、ハイアームズ・ストームライダーやセレストアームズ・ストームライダーの後方に点在しています。

●ハイアームズ・ストームライダー ✕1
 アーカーシュ遺跡の深部に眠る、古代の防衛兵器です。嵐に乗るような動きをするため、「ストームライダー」と付けられました。
 鳥形態から人形態、あるいはその逆に変形することができ、形態によって能力や使用できる武器が変わります。変形に当たっては、行動は消費しません。
 能力はハイバランスで、鳥形態は回避が、人形態は防御技術が高くなります。

・攻撃手段など
 剣(人) 物至単 【出血】【流血】【失血】
 薙ぎ払い(人) 物至範 【出血】【流血】
 弓矢(人) 物遠単 【出血】【流血】
 ウルトラソニックボイス(人) 神特特 【変幻】【防無】【疫病】【背水】【復讐】【乱れ】【崩れ】【体制不利】【崩落※】
  超音波を放って敵を攻撃します。射程は戦場全域。効果範囲は単体から戦場にいる敵全員まで選択できますが、威力や【復讐】の倍率は効果範囲が広くなるほど低くなります。
  なお、【崩落】については単体が対象となった場合のみ適用されます。
  威力は絶大なのですが、内蔵エネルギーの大半を消費するため、一度しか使えません。
 バードストライク(鳥) 物超単 【移】【弱点】【邪道】【出血】【流血】【失血】【滂沱】
  敵に向かって突撃し、敵に嘴を深く突き立ててそのまま貫こうとします。
 ウィングカッター(鳥) 物超単 【移】【邪道】【出血】【流血】【失血】
  敵とすれ違いざまに、翼に仕込んだ刃で敵を斬ります。
 爆弾(鳥) 物特域 【多重影】【火炎】【業炎】【炎獄】【紅焔】
  広範囲に多数の爆弾を落とします。
  いわゆる対地爆撃であるため、 標的が地上にいて、ハイアームズ・ストームライダーがその上を飛行している状態でないと使えません。
 シールド(人)
 【怒り】無効
 【毒】系BS無効
 【出血】系BS無効
 BS緩和
 飛行

●セレストアームズ・ストームライダー ×10
 アーカーシュ遺跡の深部に眠る、古代の防衛兵器です。嵐に乗るような動きをするため、「ストームライダー」と付けられました。
 ハイアームズ・ストームライダーの鳥形態と同じような姿をしています。こちらは、人形態に変形したりはしません。
 各攻撃手段の詳細については、ハイアームズ・ストームライダーのものに準じます。

・攻撃手段など
 バードストライク 物超単 【移】【弱点】【邪道】【出血】【流血】【失血】
 ウィングカッター 物超単 【移】【邪道】【出血】【流血】
 爆弾 物特域 【多重影】【火炎】【業炎】【炎獄】
 【怒り】無効
 【毒】系BS無効
 【出血】系BS無効
 BS緩和
 飛行

●ウィンドエレメンタル・ロード
 風の高位精霊です。本来は知能を持ち、ウィンドエレメンタル・ロードにその気があれば意思疎通も出来ますが、現在は魔種パトリックの影響で狂暴化しています。
 能力傾向として、高命中高回避。防御技術は皆無ですが、ロードだけあって生命力は尋常ではなく高いです。また、物理攻撃は無効です。
 ロケーションの項で説明した毎ターン最初の攻撃の直後に、嵐の刃を使ってきます。これは、いかなる反応値を以てしても割り込むことはできません。なお、EXA判定は発生しません。
 死亡させてしまうと周囲の自然環境にどんな影響を及ぼすか不明であるため、死亡させてしまわないよう【不殺】のついた攻撃で倒す必要があります。

・攻撃手段など
 嵐の刃 神特特 【多重影】【変幻】【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【失血】【滂沱】【乱れ】【崩れ】
  戦場にいる全ての敵に、嵐に交えて無数の真空波を飛ばします。この攻撃に対する「かばう」は(前のターンで宣言していれば)有効です。
 物理無効
 BS無効
 飛行

●ウィンドエレメンタル ×20
 ウィンドエレメンタル・ロードに従う風の精霊です。こちらもやはり、魔種パトリックの影響で狂暴化しています。
 能力傾向として、高命中高回避。防御技術は皆無で生命力もそれほど高くはありませんが、物理攻撃は無効です。
 こちらは、【不殺】で戦闘不能にする必要はありません。

・攻撃手段など
 風の刃 神/至~超/単 【変幻】【邪道】【出血】【流血】
  嵐に交えて真空波を飛ばします。
 物理無効
  物理攻撃に起因するBSも無効です。
 【出血】系BS無効
 飛行

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <Stahl Gebrull>吹き荒れるは嵐 舞い狂うは鳥完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年09月01日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ

●晴天、されど嵐
「ひどい風……きっと、精霊たちもどうすればいいかわからなくて混乱しているんだわ。
 待っていてね、アタシたちが絶対に止めてあげるから!」
 晴れ渡る空の下、ショコラ・ドングリス遺跡への道を塞ぐかのように吹き荒れる猛烈な嵐を、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はそう評した。 
 この嵐は魔種パトリックの影響により、ウィンドエレメンタル・ロードをはじめとする風の精霊達が暴走した結果だ。人と精霊が共に住む世界の出身であるジルーシャにとっては、心が痛む話である。なればこそ、ジルーシャはこの暴走を速やかに止めたいところであった。
「むぐぐ、この先に進みたいのに風が強くて進めなーいーっす!
 こうなったのも全てパトリッ……いえ、魔種のせいっす。おのれ魔種っす!」
 嵐の中で立っているのがやっとと言った様子の『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が、魔種パトリックへの憤りを込めて叫ぶ。
「なんだか笑っちゃうくらい逆風の、激不利な状況だよねー」
 同じく吹き付ける嵐に足を止められている『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は、自身で言ったとおり、可笑しそうに笑っている。
 だが、不利であるからこそ『暴走台風』として様々な逆境を覆してきたヒィロの出番と言えた。ヒィロは英霊の鎧を自らに降臨させると、嵐など関係ないと言う風に歩を前に進めていく。
「ちょっとやそっとの逆境なんて、皆で力を合せてもーっと強い嵐……雷陣を呼んで吹き飛ばしちゃおー!」
 そう仲間達に呼びかけつつ、ヒィロはレッドにも英霊の鎧を降ろし、歩みを進めることを可能にした。
「ヒィロさん、ありがとうっす!」
 嵐などものともしない英霊の鎧を纏わせてくれたヒィロに、レッドは嬉しそうに礼を述べた。

「『上手くやってくれると信じてる』じゃねーんだわ……無茶苦茶よ」
 ヒィロのパートナーである『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は、この状況にうんざりしたようにぼやいた。心なしか、普段よりも語調が荒い。もっとも、普通であれば歩みを進めることさえ困難であり、地面に立っているならまだしも飛行しようものなら戦闘さえままならなくなるような嵐が吹き付け、しかも敵はその嵐に乗ってくるとあっては荒れたくもなろうというものであった。
「まあ請けた以上は、やるのがプロってもんだけど!」
 そう言うと、美咲は一歩足を進めた。絶望の青の全く先が見えない絶望の中でも希望を見出さんとする想いを象徴する装飾品が、嵐に負けずに歩いていく力を美咲に、いや、美咲達に与えていた。
 依頼に参加したイレギュラーズ達の多くが事前にこの装飾品を用意し、そうでない者も何らかの方法で嵐に負けないように準備をしていたのは、まさにプロと言うに相応しい。
「さて、状況は厳しいね。兵器だけならまだしも、エレメンタルのお陰で敵は好き勝手に動き放題じゃないか」
 そう『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は嘆息したが、そうしたところで何かが変わるわけではない。
「学者の端くれとしては、この戦いを終わらせて思う存分に学術調査を行いたいし、全力で片付けるとしよう」
 ゼフィラはそう言うと、遠方の空を舞う古代兵器――ハイアームズ・ストームライダーやセレストアームズ・ストームライダーの姿を見やった。
「ストームライダーだけでも厄介だというのに、ウインドエレメンタルまで暴れるとは」
「前門の虎、後門の狼なんて言うけれど、まさにそんな気分だわ」
 状況の困難さに頭を抱える『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)に、『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)が同調する。
 常人なら歩みを進めることさえままならないこの状況下で戦おうなど正気の沙汰とは言えず、実際に先行した機甲師団はまともに戦えずに壊滅の憂き目に遭っている。
「だが……弱音を吐いてばかりはいられない。どんな状況だろうと覆す、それがオレ達だ。違うか?」
「ええ、私達はイレキュラーズだもの。全てを収めて帰ってみせるわ」
 紫電の問いを、ルチアは首肯する。紫電もルチアも、絶望の青さえ乗り越えてきたのだ。ならば、こんな嵐程度に屈するわけにはいかないと、紫電もルチアも気合いを入れた。
「ただでさえ大群と厄介な戦場の組み合わせなのに、殺してはならない相手もいます。こういう依頼が最も面倒です」
 自身に言い聞かせるように、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は独り言ちた。もっとも、どれほど面倒な依頼であろうとも受けた以上は、オリーブとしては尽力するまでだ。それにしても、とオリーブは思う。
「ムカつくほどに、厄介な連中が集まっていますね」
「そうね、本当に厄介な相手ね!」
 オリーブの言に、『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が同意する。だが、どれだけ厄介であろうともヴィリスのやることは変わらない。いつもどおりに華麗に踊り、邪魔な相手を片付けてさよならを告げるだけだ。
 オリーブの方は、厄介な敵であるからこそ、ここで無力化すれば後々<Stahl Gebrull>作戦全体の展開も楽になりそうだと考えた。ならば、全て叩き落とすまでだ。
「オレもゼシュテル人だからね。このジタイが鉄帝のタメに暴走した結果だってことなら、後始末はオレの仕事さ!」
 胸の前でパン! と拳を掌に打ち付けながら、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は意気込んだ。
 イグナートは、パトリック・アネル大佐は魔種になった時点で死んだものだと考えている。ならば。
「もうドコにも居ない不器用な軍人のタメにも、この戦いは負けられないんだ!」
 気炎万丈な様子で、イグナートは咆えた。

●墜ちる古代兵器、消失する精霊
 さらに歩を進めたイレギュラーズ達は、古代兵器や精霊達との戦闘に入った。まず、ウィンドエレメンタル・ロードが嵐に交えて無数の真空波を飛ばし、イレギュラーズ達に傷を負わせていく。
「迸れ、紫電の太刀よ! 大空駆ける嵐騎に、天よりの雷霆を!」
「まずは、ここだね。頭を抑えておくとしよう。」
 イレギュラーズ達の中では、紫電とゼフィラが真っ先に動いた。
 紫電はやや前進すると、ハイアームズ・ストームライダーを見据えて特式・紫電影式【黒猫】改を抜刀し、横薙ぎに一閃する。すると、紫電とハイアームズ・ストームライダーとの距離は離れているにもかかわらず、ハイアームズ・ストームライダーとその左右にいるセレストアームズ・ストームライダー四機の装甲が空間ごとスッパリと斬り取られた。さらにその一閃の持つ圧が、ハイアームズ・ストームライダーやセレストアームズ・ストームライダーの行動を阻害し、空中に縛り付ける。
 紫電よりも先へと前進し、ウィンドエレメンタル・ロードの真下に至ったゼフィラは、ウィンドエレメンタル・ロードに向けて邪悪を灼く聖光を放った。破邪の聖光はウィンドエレメンタル・ロードとその周囲に侍る四体のウィンドエレメンタルを灼き、その身体を削っていく。
「さぁ、舞台の幕は上がったわ! 踊りましょう!」
 ヴィリスはやや前進し、文字通りに踊る。だが、その舞踏は当然ただの舞踏ではない。不可視の穢れた泥を纏わり付かせることによって、「観客」の運命を漆黒に塗り替える舞踏だ。
 踊る、踊る、ヴィリスはただひたすらに踊り続ける。その度に、不可視の泥はハイアームズ・ストームライダーやセレストアームズ・ストームライダーに纏わり付いていく。それも、七度。
 ハイアームズ・ストームライダーはまだしも、四機のセレストアームズ・ストームライダーは纏わり付いた穢れた泥により、耐久力を大きく削られていた。
 動けるセレストアームズ・ストームライダーとウィンドエレメンタルは、それぞれゼフィラとヴィリスを狙って反撃に出る。さすがに数もあってかゼフィラもヴィリスも全ての攻撃は避けきれず、深くはないが傷を負うことになった。
 なお、ウィンドエレメンタル達のうちウィンドエレメンタル・ロードの周辺に侍る四体は、ウィンドエレメンタル・ロードを身を挺して護る盾となった。
「ボクに力を貸して、雷陣!」
 愛剣星天に轟雷を宿したヒィロが、ヴィリスによって穢れた泥を受けたセレストアームズ・ストームライダーの一機にその剣先を向ける。すると轟雷がセレストアームズ・ストームライダーに向けて迸り、直撃した。再度ヒィロが星天から轟雷を放つと、セレストアームズ・ストームライダーはダメージに耐えきれずに機能を停止し、地上へと墜ちていった。
 さらに別の穢れた泥を受けたセレストアームズ・ストームライダーを狙ってヒィロは轟雷を放ったが、これは撃墜には至らない。
「もう逃げる余裕はないでしょ? 撃ちぬいてあげる!」
 だが、ヒィロが動けば息を合わせて美咲が動く。ヒィロの轟雷を受けたセレストアームズ・ストームライダーを、美咲は「視」た。既に穢れた泥に塗れ、さらにヒィロの轟雷から回避行動を取ろうとしたセレストアームズ・ストームライダーに、美咲の視線から逃れる余力は、美咲の言うとおり残っていなかった。魔眼からの殺意を込めた視線を受け、セレストアームズ・ストームライダーは機能停止して撃墜された。
「ヤルね! オレも負けてられないヨ。合わせてもらってイイかい?」
「任せて下さい。負けていられないのは確かですからね」
 ヒィロと美咲がセレストアームズ・ストームライダーを撃墜した様に、イグナートはヒュウと口笛を鳴らして感嘆の意を示す。だが一方で、仲間が活躍しているのなら後れを取るわけにはいかない。
 イグナートはオリーブに連携を求めると、穢れた泥を受けたセレストアームズ・ストームライダーの一機に向けて石を投擲した。オリーブはイグナートに二つ返事で応えると、イグナートの狙ったセレストアームズ・ストームライダーにクロスボウを射る。
 気を練り込まれて螺旋状の回転を与えられた石と、クロスボウから撃たれたのが信じられないほどに猛烈な勢いで突き進む矢は、立て続けにセレストアームズ・ストームライダーを貫通する。度重なるダメージに耐えきれなかったセレストアームズ・ストームライダーは、機能停止に陥り墜落した。
「苦しいわよね、怖いわよね――アタシ達が来たから、もう大丈夫よ」
「風の精霊たちよ、自然ならざる嵐を吹かせているのは不本意でしょう。
 痛いと思うけれど、今は我慢して頂戴な。きっと──必ず、あるべき姿に戻してみせるから」
 精霊と意志を通じることが出来るジルーシャが、ルチアが、ウィンドエレメンタル達に語りかけていく。暴走している精霊達が応える様子はないが、それでも必ずこの声が届いていると信じながら。
「……お願いね、ティタちゃん。少しだけ、アタシにアンタの力を貸して頂戴な」
 暴走が止まらない以上は、力尽くで止めねばならない。その事に胸の痛みを覚えながら、ジルーシャは妖精の女王の助力を受け、香術――香りによる魔術を発動する。嗅いだ者を何処か物悲しい気分にさせる、冷たく澄んだ香りがウィンドエレメンタル・ロードの周囲に漂う。微かに、その範囲にいるウィンドエレメンタルがピクリと反応した。少なくともジルーシャには、そう見えた。
「──主よ、悩める子羊に力を与えたまえ」
 ジルーシャと同様に胸の痛みを覚えているルチアは、信仰を捧げる主たる異界の神に祈る。祈りは奇蹟を喚び、光の投槍を顕現させた。
 光の投槍はウィンドエレメンタル・ロードの方に飛んでいき、その周囲に侍るウィンドエレメンタルの二体を巻き込んで、ウィンドエレメンタル・ロードを貫いた。殺害ではなく無力化を願う祈りにより顕現した光の投槍は、二体のウィンドエレメンタルを消滅させることなく、この場から消失させた。
「……荒治療で悪いっすけど、少し大人しくしてもらうっすよ!」
 ジルーシャとルチアに続き、レッドがウィンドエレメンタル達を止めるために動く。範囲攻撃ではロードの側にいるウィンドエレメンタル達を消滅させてしまいかねないと判断したレッドは、両手を大きく上げて頭上で組んだ。そして、何者をも殺めることのない慈悲の白光をその手に纏わせると、ウィンドエレメンタル・ロードに向けて勢いよく振り下ろす。慈悲の白光はウィンドエレメンタル・ロードに向けて突き進んでいくが、それをロードの側にいるウィンドエレメンタルが盾となって受け止める。白光をその身に受けたウィンドエレメンタルは、やはり消滅することなくこの場から消失した。

●道連れにせんとする声
 セレストアームズ・ストームライダーとウィンドエレメンタル達は、イレギュラーズ達の前にみるみるうちに数を減らしていき、戦場に残る敵はハイアームズ・ストームライダーとウィンドエレメンタル・ロードのみとなった。
 だが、イレギュラーズ達も嵐に紛れて放たれてくる無数の真空波を受け続け、その傷は徐々に深まっていった。特にレッドはこの時点で可能性の力の消費を余儀なくされている。ウィンドエレメンタル・ロードに物理攻撃が無効である以上、神秘攻撃を行えるレッドを戦闘から脱落させるわけにはいかず、イグナートが盾となってレッドを護ることになった。

(ここは確実に黙らせたいところだが……)
 既に耐久力の限界が近いハイアームズ・ストームライダーに向けて、紫電は一閃。彼我の距離を無視した一閃が、装甲の下から露出した部品を時空ごと斬り取る。だが、攻撃の圧はハイアームズ・ストームライダーの動きを止めるには及ばなかった。
「――チッ! すまん、しくじった!」
 ハイアームズ・ストームライダーは、受けている被害に応じて威力が増大する大技を一度だけ放つことが出来、それをまだ温存している。撃破が近い今、その威力が絶大なものになることは予想がつき、それ故に今は特にハイアームズ・ストームライダーの行動を阻害しておきたいところだった。
 紫電は詫びたが、仲間達はそれで紫電を責めたりはしない。紫電の行動阻害がなければもっと戦況が苦しくなっていたことは明らかであり、今回は運が悪かっただけに過ぎなかった。
(まず間違いなくここ、か。如何使ってくるかには興味はあるけど、とにかく使われてみないとわからないね)
 そうゼフィラは思案しつつ、義手の掌をウィンドエレメンタル・ロードに向け、無数の魔力弾を発射した。魔力の弾幕は、ウィンドエレメンタル・ロードの身体を削り取っていく。ハイアームズ・ストームライダーほどではないが、ウィンドエレメンタル・ロードもそろそろ限界が近そうだった。
「大技を使われる前に、カーテンコールの時間にするわ!」
 大技を放たれるよりも先にハイアームズ・ストームライダーを倒せばいい。そう判断したヴィリスは懸命に、しかし優雅にステップを刻む。ハイアームズ・ストームライダーは、舞に魅入られるようにその場で動きを止めた。その間にも、部品が次々と脱落していく。だが、ハイアームズ・ストームライダーを撃破するには至らない。
 ハイアームズ・ストームライダーは人型に変形すると、戦場全域に対して超音波を放った。それは、イレギュラーズ達を道連れにせんとする末期の声。この声から逃れ得たのは、神秘攻撃に対する結界を展開しているジルーシャとイグナートによって庇われているレッドのみ。さらに、この声を受けた者はヒィロとオリーブを除いて、可能性の力を費やすことを強いられた。ヒィロとオリーブにしても、辛うじて可能性の力の消費を免れただけであり、その傷は重い。
「美咲さん、大丈夫!?」
「ええ。大丈夫よ、ヒィロ……それよりも、ここまでやってくれたお礼はしなくちゃね」
「そうだね! よくも美咲さんを!」
 超音波のあまりもの威力に、常時意思疎通しているにもかかわらず、ヒィロは思わず口に出して美咲の状況を確認してしまった。そんなヒィロにクスリと笑い、美咲も口に出してヒィロに応える。そして美咲が「お礼」に言及してハイアームズ・ストームライダーを見上げると、ヒィロは大切なパートナーを傷つけられた憤りと共に、星天から二条の轟雷を放った。さらに、美咲が報復の殺意を込めた魔眼でハイアームズ・ストームライダーを睨み付ける。
 二条の轟雷、そして魔眼に込められた魔力を受けたハイアームズ・ストームライダーは、機体の至る所でスパークを起こし、幾筋もの煙さえ噴き出している。誰の目から見ても、後はとどめを刺すばかりであった。
「――これで、仕留めます」
 ハイアームズ・ストームライダーのボディの中央、胸部と胴部の中間を狙い、オリーブがクロスボウを射る。猛然と突き進む矢は、ハイアームズ・ストームライダーに大穴を穿って貫通。その至る所から連鎖的に爆発が起こり、部品がバラバラバラと脱落していく。そして最終的には、ハイアームズ・ストームライダーは大爆発を起こし、その残骸は地上へと墜ちていった。
「私に出来ることはここまでです。あとは、よろしくお願いします」
 残るウィンドエレメンタル・ロードに物理攻撃が通じない以上、ハイアームズ・ストームライダーを撃破した時点でオリーブにとっての戦闘は終了したも同然だった。あとは、精々味方の盾になるぐらいしかない。果たすべき役割を果たした達成感が半分、後は神秘攻撃を使える仲間達に任せるしかない歯痒さが半分、そんな心持ちでオリーブは仲間達に後を託した。
「ここまで来て、誰一人、落とさせてなるものですか」
 ルチアは福音を紡ぎ、仲間達の大半がパンドラを費やした直後の今「落ちる」危険性の高い者のうち、ゼフィラの傷を癒やしていく。
「ありがとう、助かったよ」
 ある程度傷が癒えたこともあり、人心地がついた様子でゼフィラはルチアに笑顔を向け、礼を述べた。
「そろそろ、正気に戻るっす! ほら、しっかりするっす!」
「そうね、そろそろ止まってくれないかしら……お願いよ」
 ウィンドエレメンタル・ロードも、既にその身体を少なからず神秘攻撃によって削り取られ、消失は近くなっている。それでもなお止まらずに攻撃してくるウィンドエレメンタル・ロードに、レッドもジルーシャももう止まるように必死に訴えかける。だが、未だウィンドエレメンタル・ロードが止まる様子はない。
 やはり一度力尽くで消失させてしまうしかないのかと、レッドはウィンドエレメンタル・ロードに向けて慈悲の白光を放ち、ジルーシャは妖精女王の力を借りて冷たく澄んだ香りをエレメンタル・ロードの周囲に漂わせた。エレメンタル・ロードの身体は慈悲の白光を受けてさらに削られ、香りが漂ってくるとやや希薄になっていった。

 程なくして、ウィンドエレメンタル・ロードも消失した。同時に、吹き荒れる嵐は止んで全くの無風となる。ショコラ・ドングリス遺跡への道を遮るものはなくなったのだ。
 勝利を、そしてウィンドエレメンタル達を一体たりとも消滅させずにすんだことを喜び合うイレギュラーズ達の間に、一瞬爽やかで心地よいそよ風が吹き抜ける。
 この風はきっと、一体たりともウィンドエレメンタル達を消滅させなかったことへの礼なのだろう。そう、イレギュラーズ達は感じたのだった。

成否

成功

MVP

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃

状態異常

レッド(p3p000395)[重傷]
赤々靴
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
ヒィロ=エヒト(p3p002503)[重傷]
瑠璃の刃
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
美咲・マクスウェル(p3p005192)[重傷]
玻璃の瞳
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)[重傷]
真打
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し
ヴィリス(p3p009671)[重傷]
黒靴のバレリーヌ

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によりハイアームズ・ストームライダーやセレストアームズ・ストームライダーは殲滅され、ショコラ・ドングリス遺跡への道を塞ぐように吹き荒れる猛烈な嵐も止みました。

 MVPは皆さん活躍が素晴らしく何方にするか非常に迷いましたが、神秘アタッカーのレッドさんを護りとおしたイグナートさんにお贈りします。

 それでは、お疲れ様でした!


【補足】
 ちょっとニュアンスがわかりにくいかと思いましたので、ウィンドエレメンタル達の生死に関して。

・消滅:存在自体が滅亡した、いわば死亡扱い。
・消失:存在自体は滅亡していないが、精霊としての顕現が一時的に不可能になり戦線離脱。いわばただの戦闘不能。

 こう言う使い分けだとご理解頂ければと思います。

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