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シナリオ詳細

<Stahl Gebrull>古代兵器と城壁防衛戦線

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「なんだあれは!」
「あんなもの撃ち込まれたら死んじゃうよ!」
 魔王城『エピトゥシ城』の一角がざわついている。そこにいるのは一般人であり、アーカーシュ探索隊の者たちであるらしい。中庭で一時保管していたアーカーシュの諸々――石とか草とか、小動物だとか――を慌てて城内へ運び出していた。
 イレギュラーズと鉄帝軍人により制圧されたエピトゥシ城は、今やイレギュラーズたちの拠点となっていた。ローレット魔王城支部である。今のアーカーシュにおいて最も安全な場所と言って良い、のだが。
「急げ!」
「一つでも早く中に入れるんだ!」
 彼らが怯えるのは魔種により操られた古代兵器の数々だ。『ラトラナジュの火』と呼ばれる伝説の古代兵器は地面へクレーターを穿ち、古代決戦兵器たちが天を争うように舞い上がっていく。それらとともに鉄帝への進軍を行うのだと、宙空に出現した幻影のスクリーン越しで魔種が宣言したのだ。
 無論エピトゥシ城だってタダでは済まないだろう。外に面した場所はなおさらである。
「あああそれ気をつけてくださいね!? 貴重な魚なんですから!」
 その中に混じりながら、誰かが水棲生物を持った途端悲鳴をあげる青年がいる。
「クシー、大丈夫だ。これぐらい落としゃしないって!」
「扱いが粗雑なんですよ!」
 うっかり勢い余って水ごと魚をこぼしてしまわないか――心配で仕方がない。相手は脳筋鉄帝軍人である。別に水槽を落とす落とさないは落とさないと思っているので心配していない!!
「あれ、クシーくんだ」
 そんなやりとりが聞こえるからか、この非常事態の最中でもちらほらとイレギュラーズが顔だけ覗かせて去っていく。トスト・クェント(p3p009132)は見知った相手に思わず声をかけた。
「ああ、貴方は七色嫁魚の!」
 トストの発見した魚で覚えていたらしい。クシーは助けてくださいとトストに駆け寄る。
「あの古代兵器たちはこちらにも向かってくるんでしょう? このままでは全部を避難する前に木っ端微塵になってしまいそうなんです!」
 見れば、まだまだ外に置かれたものは多い様子。イレギュラーズも外へと駆り出されているし、新規発見物を避難させられる人手を割くのは難しいだろう。
 だがしかし、仮にトストがここへ加わったとしても焼石に水である。よくこんなに集めてきたな、探索隊も、イレギュラーズも。
「こちらに向かってくる古代兵器を重点的に倒してもらえませんか。そうすれば中へ運び込む時間稼ぎができる」
「なるほど。エピトゥシ城を守る一環で、ということだね」
 そうです、とクシーは大きく頷いた。正直彼にとって城はどうでも良いのだが、大切な水棲生物たちを守る盾になるのなら城を守る意味もあろう。
「皆が集めてきたものだしね。仲間に声をかけてみるよ」
「ありがとうございます! それでは私は彼方に混ざってきますの、で……あーーーッ!!」
 振り返って固まり、勢いよく叫ぶクシーにトストは硬直する。しかし彼はトストを気にする余裕もないほどの勢いで仲間達の方へすっ飛んでいった!
「どうしてそういう運び方をするんですか! サンプルがダメになってしまうでしょう!!」
「……あっちはあっちで大変そうだ」
 ぎゃいぎゃいと言葉を投げつけ合いながらも再開される運搬に、トストは苦笑いを浮かべる。そしてエピトゥシ城防衛線に混ざらなくては、と作戦会議が行われているだろう城内へ向かっていったのだった。



「で、配属されたのが見事にここなわけなんだけれど」
 トストは城壁の上に立ち、中庭を見下ろす。まだまだ運ぶものはありそうだし――うん、やっぱり賑やかだ。
 賑やかと言えば、周囲も周囲でハイアームズと呼ばれる古代兵器たちが飛び回り、こちらを警戒しているようである。
 場所によって既に交戦の始まっていそうな音も遠く聞こえていた。細いビームが城壁前の地面をえぐり、爆発を起こしていく。イレギュラーズの怒声や魔術の光が放たれる。
 まさに、戦場と言って良い惨状だった。この状況で一般人が被弾したらひとたまりもない。
 未だ中庭で運搬を続ける者たちは、何を言ってもそれらを置いて避難する選択をしないだろう。ゆくゆくの鉄帝を豊かにするかもしれないものだって沢山ある。命をかけてでも守るべきものなのだ。
 トストをはじめとしたイレギュラーズは、何体かの古代兵器がこちらを向いたことに気づく。戦いの始まりだ。
(城も、クシーくんたちも、守るんだ)
 その助けの声が例え"自分自身だけに"かけられたものでないとしても。トストはしかと得物を握りしめた。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの撃破、あるいは撃退

●失敗条件
 成功条件を満たさない
 中庭に残る新発見物サンプルの破壊

●情報制度
 このシナリオの情報制度はBです。
 不明点も存在します。

●フィールド
 エピトゥシ城の外壁の上。凹凸のある壁があり、身を隠しつつ戦闘が可能です。天井はないので上空まで敵が来ると身を隠せません。
 また、外壁から中庭、あるいは城の外側へは飛び降りることが可能です。……が、落下ダメージがあり、外壁へ登り直すには時間がかかります。中庭から外壁の向こう側などは当然ながら見通せません。
 皆様は初期時点で外壁の上・中庭・城の外側のどこにいるか選ぶことができます。

●エネミー
・ハイアームズ(天空闘騎)×1
 アーカーシュ遺跡深部に眠る古代の防衛兵器です。魔種パトリックによりエピトゥシ城を侵攻するように操られています。飛行能力を持ちます。
 この個体はハルバードを握っており、至近〜近距離の攻撃に長けています。非常にパワフルかつタフです。
 また超高熱の細いビームを放ちます。直線貫通攻撃になります。
 基本的にラースゴーレムは巻き込まず戦いますが、後述の方法にてイレギュラーズの友軍となったラースゴーレムは標的になり得ます。

・ラースゴーレム×15
 アーカーシュに眠っていた古代のゴーレムです。
 本来の戦闘能力は高くありません。しかし魔種パトリックの力によって制御権を奪われ、また限界を超えた出力をさせられています。イレギュラーズにより修復された個体も混ざっています。
 素早く、強力な近接攻撃を繰り出します。周囲に対象となる人間がいないのであれば、エピトゥシ城の外壁を破壊しようとします。
 イレギュラーズに修復された個体は、呼びかけを行うことで正気に戻り、友軍に転じる場合があります。

●NPC・中庭状況
・クシー
 トスト・クェント(p3p009132)さんの関係者。アーカーシュ探索隊の1人であり、生物学者として採用されています。
 特に水棲生物、淡水魚に関する熱意は執着と言えるほどでしょう。
 水棲生物のサンプルに敵の攻撃が迫れば、それこそ命を賭してでも守ろうとするでしょう。ただの一般人です。攻撃が当たれば大怪我、当たりどころが悪ければ死にます。
 基本的には粗雑な鉄帝民たちにやいのやいの言いながらサンプルの運搬を手伝っています。

・中庭状況
 クシー含む探索隊のメンバーで新発見物となる動植物などのサンプルを城内へ運び込んでいます。
 エピトゥシ城が制圧され、安全が確保された拠点となったために、ローレットに掛け合って一部の区画を探索員たちが借りている状況でした。
 本来であればここから少しずつ別所へ運ばれ、命名などがされたのちにアーカーシュアーカイブスに登録されることとなります。

●ご挨拶
 愁と申します。
 エピトゥシ城、および城壁内のものを守りきりましょう!
 よろしくお願いいたします。

  • <Stahl Gebrull>古代兵器と城壁防衛戦線完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月01日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 辺りは既に戦火に包まれている。攻め立てるのはアーカーシュ遺跡深部に眠っていた古代の防衛兵器、モンスター、そして――いつかイレギュラーズたちが修繕したゴーレムたちもまた、含まれているらしい。
「俗にいうNTR? 洗脳や催眠ってやつかな」
 『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)はいやだね、と呟きながら英雄叙事詩を歌い上げる。仲間たちの位置が分散しているので全員にとはいかないが、それでも出来るだけ多くの仲間にこの詩が、力が届きますように。
 悠が詩を歌い上げる城壁の下では、造花回路を握りしめた『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)の姿。その表情はどこか苦し気だ。
(ゴーレムたちは、心優しい子たちばっかりだったわ)
 作られた時間から考えれば、ささやかな時間だっただろう。けれどその時間でゴーレムたちはリアと一緒に花を摘み、歌を歌った。少なくとも、このような戦いを好むとは思えない。物を破壊し、何もかもを踏みにじり――人を殺そうとする、なんて。
(早いとこ撤収終えて隠れててくれたらいいけど)
 そうはいかないよなあ、と『星灯る水面へ』トスト・クェント(p3p009132)は城壁の向こう側――当然、見えないけれど――の方を向いた。この分厚い城壁の反対では、今も探索班のメンバーたちが急ぎサンプルを運んでいる筈だ。あの膨大な量を全て撤収するのはそう簡単な事じゃない。なんならトストだけでなく、此処に居るメンバー全員が手伝ってもそれなりの時間がかかるだろう。
 撤収中に城が揺らされる可能性は十二分に有り得るが――想像されるクシーの反応を浮かべて、思わずトストは笑ってしまう。きっと彼は城が揺れたことになんて動じない。皆が揺れる城に怯える中、1人だけ「水槽が!」なんて水生生物のいる水槽を守りにかかるだろう。
「……守ろう。なんとしても、だ」
「――ええ。サンプルを置いて避難、というわけにはいかなさそうですしね」
 呟きに返事がくるとは思っていなくて、トストは視線をうつす。『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)が口元に柔らかな笑みを浮かべてトストの方へ顔を向けていた。
「きっと、撃退してご覧にいれましょう」
「ああ……そうだね」
 彼らが頑張るのは未来のためだ。まあ、クシーのような者も少なからずいるだろうが、あのサンプルたちひとつひとつが未来に繋がっていくのも確かである。
 悠長に話をしている間はなく、此方へ向かってくる敵影を『赤頭巾の為に』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)は確認する。空を飛ぶ防衛兵器が1体。それに地を進んでくるゴーレムが――それなりに。
(空を飛んでいる彼はともかく、残りの子たちは自我を失わされているのかな)
 ここの防衛戦線に配属された仲間たちの幾人かは、ゴーレムとの交流経験があるらしい。あのなかにそのような子が混じっているとしたら、随分と残酷な事をするものだ。
 しかし、あまり私情を入れてもいられない。今回の依頼は防衛戦――彼らを撃破ないし撃退しなければ、いずれ突破されてしまうだろう。加えて中庭に残るサンプルの死守ともなれば、あまり長い時間はかけられない。

 ――氷の狼の遠吠えを聞くがいい。

 その一発が、始まりの合図だ。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上!」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)はふわりとスカートを揺らして飛び上がる。誰にだってエピトゥシ城の人たちを傷付けさせない。守り抜くのだという気持ちが彼女を強くする。
「キミの相手はこのボクだよ!!」
 空を飛ぶハイアームズをブロックすれば、かの古代兵器は躊躇うことなくハルバードを手にセララへと襲い掛かる。初手のそれをなんなく避けてみせ、セララは地上への注意を逸らすべく上へと飛んだ。
 それを追いかけるように飛ぶ1匹のワイバーン。その背に乗ったリーディアがライフルを構える。
「飛び続けられるかい?」
 問うたリーディアにワイバーンは軽く喉を鳴らして見せた。なんてことはない、とでも言いたげに。ワイバーンの尽力を無駄にしないよう、リーディアはより狙いを絞っていく。
(飛行ユニット……噴射口なんかがあればそこを狙うのが一番だ)
 ハイアームズもセララも止まらない。止めどなく立ち位置の入れ替わる1人と1体を良く凝視し、リーディアはライフルの引き金を――引いた。
(あちらは大丈夫そうですね。問題は……)
 『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は空から地上へ視線を滑らせる。そちらから向かって来ているラースゴーレムたちを、イレギュラーズは説得し、正気に戻したいと方針を固めていた。勿論それに否やはない、けれど。
(もしものことは、考えないといけません)
 ゴーレムたちに情を持つ者が少なからず存在する。その情がこの場でゴーレムたちを味方につける鍵ともなろう。けれど、けれども。……情が刃を鈍らせることも、ままあることだ。
 幸いにして、と言うべきか。マリエッタは他の仲間達よりゴーレムと関わりが少ない。思い入れも少なく、皆ほどの情も――測るべきではないかもしれないが、ないと言える。故に、冷静に対処もできるだろうと。
 とはいえそれは万が一の事である。マリエッタは射程内に入ったゴーレムたちへ掌握魔術を展開する。高度に組み上げられた魔術は気糸の斬撃として、城壁に近づくゴーレムの足を止めていく。
「まったく、うーん……」
 足を止められた面々を見て苦笑いを浮かべるのは『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)だ。どうやら、修復したゴーレムの同胞であったらしい。
「アーカーシュの運営を任されていたのはキミ達だ、ふんぞり返ってる大佐じゃない。だろう?」
 造花回路がその言葉を、ゴーレムにも伝わる言葉として変えていく。しかしまだ言葉を重ねなければ足りないか。そこへ、サルヴェナーズの催眠魔術が彼らの敵視を誘導した。
「補修の痕跡がないゴーレムから対処しましょう。そちらは……任せてよろしいですね?」
「もちろんさ。助かるよ」
 全てのゴーレムを正気に戻し、味方につけることは難しいだろう。ならば、少しでも可能性のあるほうへ。サルヴェナーズとルーキスは視線を交わして頷いた。
 サルヴェナーズは引き寄せられたゴーレムの内1体へ幻影魔術をかける。ゴーレムの身体に巻き付く大蛇の群れ、それが段々とその身を締めつけ、軋んだ音を――立てているわけではないのだけれども。
 自身に巻き付く蛇の幻影を倒すべく、自傷行為を行うゴーレムを横目に、トストは多量の水でゴーレムたちを押し流さんとする。水辺が近くに無いのが残念だが、ゴーレムたちが集まっていたことで一気に体勢を崩すことができた。その津波に敢えて巻き込まなかったゴーレムへ、トストは口を開く。
「ねえ、……イレギュラーズの誰かに直された個体だろう? こんなことはやめてくれ」
 誰かが大切に直したのなら、すぐにわかる。丁寧に補修されて、直した誰かが贈った花が頭に飾られていた。……ずっとそのままだったのか、花は萎れてしまっているようだけれども。
「旋律が乱れてる……苦しいのね」
 リアは顔を歪めた。乱れに乱れた旋律が酷く訴えかける。何重にもなって、重くのしかかるように降り注いで、不協和音を聞かせ続ける。
 受けている此方が気分を悪くしてしまいそうなほどなのだ。当事者たるゴーレムたちはどれだけ苦しいだろう。
(大丈夫……皆、あたしの友人になる子。そしてあたしは、あたし達の友人を取り戻す!)
 調律し、旋律を正すのだとリアは真っすぐゴーレムたちを見た。聴きたいと願うのは、いつかゴーレムたちと遊んだあの穏やかな時――あの旋律だ。

 しかし、ゴーレムへ心をかければかけるほど、イレギュラーズたちが不利になることは否めない。力加減などせず倒してしまった方が、依頼としてはどれほど楽だろう。
 サルヴェナーズと、時として悠がゴーレムたちを引き付けるが、それでもじわじわと押されていく。既に城壁のいくらかは破壊されつつあった。まだ完全に壊されはせず、壁としての役割を守っているが、それも時間の問題だろう。
「目を覚ましてください。貴方の望みは、こんなことではないはずです」
 戦闘の最中に発動されるそれの精度は決して高くない。けれども、かつて過ごした日々の幻影に何か感じるものがあったのか――ゴーレムたちは束の間動きを止めた。
「ゴーレムさん、争いたくないんだ! 思い出してよ!」
 そこへ空から少しずつ降下していたセララが声を上げる。ハイアームズはセララとリーディアに翻弄されながら地上へ近づいており、此処までくれば例えビームを放ったとしても直接サンプルを狙うことは難しい。
「一緒に遊んだり、色んな植物を育てたりしようよ! 料理でも、建物を建てるのでも……ボクは、君たちとそういう事をして過ごしたいんだ。一緒に歩んでいこうよ!」
 ゴーレムたちの動きは止まったまま。けれど暫くしてギ、ギ、と動き始める――壁を、壊す方へと。
(どうしてもだめなの? 諦めたくないよ……!)
 セララが唇を噛み、マリエッタが得物を握り、ゴーレムがその拳を壁へ叩きつけようとした瞬間。1体のゴーレムが素早く動き、両手でその拳を止めた。
「え――」
「まさか!」
 壁を壊させるものかと拳の眼前へ直前に身を躍らせたサルヴェナーズが見上げ、セララが歓喜の声を上げる。拳を受け止めたゴーレムは、その声に応えるように相手のゴーレムを押し返した。
「届いた、みたいだね?」
 ルーキスが笑って、言葉の響かなかったゴーレムに向けて攻撃を放つ。リーディアはハイアームズが地上へ顔を向けたことに気付いて、しかとライフルを構えた。
 彼らの邪魔はさせない。1体でも多くを取り戻すと言うのなら、リーディアは全力で以て応えよう。
「――墜ちろ」
 弾幕の雨が、ハイアームズへ向けて放たれた。

 イレギュラーズたちは修復跡のあるゴーレムを後回しにしながら、他のゴーレムを倒していく。少しずつ判断を付けなければならない時が近づいていた。
「どうしても正気に戻らなければ……倒すしかないのか?」
「汚れ役はお任せください。その分1体でも多く、正気に戻せるように……おねがいします」
 マリエッタの手にした影が伸びる。全てのいのちを刈り取る大きな鎌を、軽々と操るマリエッタの背を見て、トストは頷いた。まだまだ粘って、正気に戻すのだと。
 城壁の上から仲間たちへ回復を施しながら、悠はせめて心の休まるような歌をと奏で続ける。ゴーレムにだって心はあるはずだ。それを、イレギュラーズとともに得たはずなのだ。それならばきっと、いいや必ず響くのだと信じるしかない。
「上辺だけの薄っぺらい指令から目を覚ます時間だよ!」
 ルーキスがゴーレムに応戦する一方で、サルヴェナーズはセララの様子を見て加勢に回る。ここまで1人でブロックし続けたのだ、彼女がいかに強くて可憐な魔法騎士だとしても限度がある。
「大丈夫……まだいけるっ!」
 セララの手にはドーナツ。それをあっという間に口の中に収め、もしゃもしゃと咀嚼しながら再びハイアームズに対して張り付いてく。そしてセラフィンストールで純白の衣装を身に纏うと、ハイアームズへ向けて余裕の笑みを浮かべて見せた。
「さあ、まだまだボクと遊んでよねっ!」
 城壁を攻撃させず、仲間たちへの被弾も防ぐように立ち回るセララ。それより少し離れた場所で戦っていたリアは、修復されたゴーレムへ向けてなお言葉を重ねていた。
「あたし達は友達、でしょう! あたしはもっと、貴方達と遊びたい! 沢山の音色を一緒に奏でたいの!」
 苦しそうな旋律が渦巻いているけれど、こんなものは似合わない。リアは駆けだし、ゴーレムの少し手前で勢いよく跳躍する。
(あとはあたしの中の思い出(せんりつ)を直接ぶつけてあげるわ!)
 思い出、それは斜め45度からのドロップキッk「スター・ドロップよ!!!」

「いい加減! 目ぇ覚ませ!!」

 容赦のないドロップキ……スター・ドロップがゴーレムの身体を大きく揺らす。その揺れに耐え切れずどしんと尻餅をついたゴーレムは、暫し経たないうちに顔を上げ、状況を把握する用に周りを見回した。
 その様子と、なにより旋律にリアは笑みを浮かべる。
「ようやく『おはよう』ね?」
 リアはゴーレムへ回復を施し、真剣な表情で空を見上げる。あらかたのゴーレムは無力化ないし味方につけた。あとはあのハイアームズだけだ!
「しつこい奴は嫌われるって知らない? この程度にしておきなさい!」
 ルーキスの凝縮させた高純度の魔力が炸裂する。その攻撃に地上へ意識がむいたハイアームズがビームを放つが、壁は味方となったゴーレムの守りで無事だ。
「とはいっても、あまり無茶はさせないよ。折角こっちに帰って来たんだもの」
 そのすぐ上から悠がゴーレムの体力を回復させる。再開したばかりで別れの悲劇は必要ない。
 それなりの量のゴーレムが味方に付いたことで、イレギュラーズがよりハイアームズへと注力する。空中へワイバーンとともに駆り出したトストは、リーディアとともに遠距離からの支援攻撃を放った。
「墜とせば結局同じことだ」
「逆に墜とされないように、は気をつけないとね」
 まったくだ、と頷いて、リーディアを乗せたワイバーンは止まることなく飛び続ける。動く的を狙うのは存外難しい。
 そして反対に、ハイアームズは皆の攻撃によってかなりの疲弊が見て取れる。マリエッタは自身の力を最大限に高め、落下してきたハイアームズへ向けて影の大鎌を振るう。
「――さようなら」
 死をもたらす血の魔術は、また一つのいのちを奪い去っていった。

「さて、やれるだけやりますか」
 ルーキスは腕まくりをして、ゴーレムを振り返る。見られたゴーレムたちはと言えば、きょとんとしたような様が可愛らしい。本来は戦闘に駆り出されるものではなく、気質もこうした優しいものであったのだろう。
「ほら、破損したゴーレムたちも直せば一緒にいられるかもしれないでしょう。キミたちも多少破損しているみたいじゃないか」
 少しでもゴーレムを多く味方につけられたなら、のちのちが楽になるだろう。それに、自分以外にもゴーレムへ情を持つイレギュラーズは少なくないようだから。
「し、染みる……」
「無茶をするからですよ」
 ほんのちょっぴり涙目なセララは、手当をするサルヴェナーズへだって、と口を尖らせた。そんな彼女にサルヴェナーズはわかっていますともと表情を和らげる。
 彼女の努力があったからこそ、ハイアームズによる被害は想定よりも小さかったはずだ。とはいえ、ある程度意図をもって誘導する以上、避けきれなかった攻撃があったのも事実であった。
 そして――サルヴェナーズが無茶を許したとしても、消毒液に容赦なんてものはないのだった。染みる。
「クシーは……」
 大丈夫だっただろうか、とトストは半分ほど抉れた壁の方を見やって、

「なんでそういう持ち方するんですか!?!? 水槽が割れるから下から持ってください!!! ああもう!!!!」

 ……などという声が聞こえたから、大丈夫そうだと安堵する。戦闘前と良くも悪くも変わりない。しかしその声は若干遠くから聞こえたので、城内の開いている場所から漏れ出た声だろう。少しでも役に立てたのならよかった。
(魚、また探して来ようっと)
 ああ、でもその時はクシーも連れて行った方が良いだろうか。きっと大喜びで探索に付き合ってくれるだろうから。

成否

成功

MVP

リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先

状態異常

セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)[重傷]
砂漠の蛇

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 壊れてしまった個体も、もしかしたら。

 それではまたのご縁をお待ちしております。

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