シナリオ詳細
<Stahl Gebrull>鶏は三度鳴く
オープニング
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エピトゥシ城に古代獣を送り込めという任務をその兵士は舐めていたのだ。
決して刺激しないようにという申し送りを無視したのだ。
結果。彼の前に鶏の顔が目の前にある。
体が動かない。気持ち悪い。最初は肩をくちばしでつつかれたのだ。同時に焼けつくような痛みととめどない吐き気に襲われて、動きが鈍くなってしまった。
体を二つに折りたくても、顎を跳ね上げるように鶏が蹴ってくるので崩れ落ちることもできない。
古代獣。白いのや赤いのや名姉の色の違いはあるけれど、とにかく見知った鳥に酷似している。でかい。
気難しげな顔。たふんたふんとくちばしの下の赤いのが揺れている。
鶏が首をわずかにひいた。
いやな予感がする。原隊に復帰しておけばよかったひょっとしたらうまい汁がすすれるんじゃないかと日和るんじゃなかっただってここは化け物がいっぱいで気が付いたら上官も化け物になっていてでも勝たないと殺されるから勝たないとだからこの化け物達を指定の場所に配置しないとでもこいつら全然強そうに見えないというか家禽じゃねえかよまじかとか思ってちょっと足を蹴っ飛ばしただけなのに。
「ぎゃああああああああああっ!」
ちょうどいい位置にあったのだろう。くちばしが目玉を集中的につついてきた。大人の拳ほどの短いくちばしが眼下にすっぽり入りこむように突き出されちょっと引いてはまた深く突き入れられ。
目玉はとうに破裂して、くちばしからあふれる毒は脳にまで達している。
「あああああああああああああ」
戦士は声を出すことしかできない。とっくの昔に逃げるどころか立つことさえも放棄しているというのに、膝をつくことも許されない。鶏型の古代獣にくちばしだけで体重を支えられているのだ。
早く死なせてくれ。
せめて脳みそを目玉の穴からすすられるような死に方だけはしませんように。
兵士の願いはかなえられた。
次の瞬間、兵士の体は通りすがりの成体に蹴り飛ばされて宙を舞い、地面に落ち、そのままゴロゴロと転がっていった。
内臓破裂。
その上を幼体たちが律儀に踏んで歩いていく。
兵士は少なくとも指定の場所に配置することには成功した。賞罰委員会は二階級特進をくれるだろう。そんなものが開かれるとするならば。
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「弔い合戦です」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)が笑顔で言った。
「特務大佐パトリック・アネル殿の弔い合戦です。ローレットも協力します。ひっくき魔種を打倒しましょうね」
笑顔が晴れやかで気色悪い。
「――という姿勢の下、粛々と状況と方針の確認をする。殉職なさったアネル大佐の亡骸を姑息にも利用している魔種を迎撃・討伐するのが、エッダ・フロールリジ(p3p006270)帝国群体探指揮する『鋼の咆哮(Stahl gebrull)』作戦。ここまでいいかな?」
情報屋はガイダンスを続ける。
「現在進行形で、浮遊島アーカーシュから古代伝説兵器『ラトラナジュの火』相当の超高温エネルギー砲が示威射撃され、大地にでっかいクレーターができている」
配られた資料には、クレーターのでかさの概要が記されていた。
「という訳で。俺らの拠点になってるエピトゥシ城の防衛。アーカーシュからの飛行機能持ち超兵器軍との空中戦、魔種パトリックアネルの目が帝都に向いてるうちに、遺跡深部に潜っていって向こうの駐在戦力を削り、次への布石にする再進撃の三本柱でやっていこうとこういう訳だ。それぞれ、個人の適性を鑑みて最も実力を発揮できるところに志願してもらいたい」
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情報屋はぐびぐびと茶をあおる。
「という訳で、エピトゥシ城をがっちり守るよ。もう、俺らのもんだからね」
そうなってくると黒曜石のとげとげ城砦が頼もしく思えてくる。
「で。ここ」
建物と建物の間の比較的開けた、かつての馬場――あるいはワイバーンの離発着場だったところだろう。各建物からの連絡もよく、逆に言えばここを抑えないと連携が分断される。
「ここに、でっかい鶏が出る」
前提は古代獣だ。そのうえで、でっかい鶏だ。鶏型の古代獣だ。
「ちっこい方が2メートル。おっきい方が10メートル」
それみろ。おっきいちっさいが相対比だ。
「俊敏で、攻撃力が高く獰猛です。爪やくちばしに猛毒をもっています。俊敏にも色々あるけど、なんつうか、フットワークがいい」
したーんしたーん。
「さらにでっかい方は、かてて加えて、極端にタフで、攻撃力も高い。そして獰猛」
大事なことなので、二回言いました。
「獰猛なんだ。鶏の世話をしたことがある奴は分かると思うけど。とても好戦的で、執拗で地つき蹴飛ばし、顔面狙いでドロップキック掛けてくるぞ。目をつぶされないように。地形的には向こうに分がある。なんせ、隠れる場所がない。投入されてくる個体数は多くはないから確実にとどめを刺してくれ――あれだ。あまり多いと勝手に同士討ちするからな」
同種にも、いや同種にこそ容赦しない。それが鶏。
「いっそ、そこも利用できるといいんだけどな?」
- <Stahl Gebrull>鶏は三度鳴く完了
- GM名田奈アガサ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月31日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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偵察は大事である。ましてや、これから乱戦になるのだから。
『自称・豪農お嬢様』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)は、まあっと声を上げる。
「城の前庭が”学び舎のにわとり小屋”のでかい版みたいになってますわ〜」
つまり、無法地帯。
「無残な感じになった”兵士だったもの”を見る限り容赦はない感じですわね〜」
首から上が潰した柘榴のようになったものが転がっている。鶏に敵味方の別はなし。何なら自分以外はすべて敵である。
『命を抱いて』山本 雄斗(p3p009723)にも異様な光景に見える。
「――ていうか、一番大きいのなんか鶏というより恐竜って言った方が納得するけど、でも鶏なんだよねぇ、不思議」
再現性東京出身者にとっては――いや、とってもと言っていいだろう。
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)だって、こんな生き物は初めて見る。
「鶏にまで古代種がいるなんて、アーカーシュは本当に神秘の浮遊島ですね……」
時を超えた生き物。雄斗にとっての恐竜と同じ感覚だろう。
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は、その一番大きいのをどうにかする役目を負っている。
「やれやれ…魔種の前に鶏退治かい? いいだろう。ここで快勝して士気を上げていこうじゃないか!」
同じ任を負うシフォリィは、心して参りましょう。と、うなずいた。
「鶏とはいえ凶暴な敵には変わりありません」
同じ任を負うシフォリィは、心して参りましょう。と、うなずいた。
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、つかぬことをうかがうが。と小さく手を挙げた。
「鶏というのはそこまで狂暴な生き物なのかい? あまり触れあったことがないからわからないけれど」
剣が本体であるヴェルクリーズと鶏との触れ合い。一瞬後はズンバラリンな関係ではなかろうか。今後機会があったらおだやかな家禽との触れ合いにチャレンジしてほしい。
「ハイペリオン様ぐらい可愛ければいいんですが」
シフォリィのしとやかな言い様から、そうではないと言外ににじませられた。行間からくみ取れという修辞法である。
「流石にあのサイズの獣が危険なのは俺にもわかるよ。鋭い嘴に爪に激しい羽ばたき、これは油断せずにいかないといけないね」
「可愛げもなくただ戦闘能力に振った危険な相手でしょう」
シフォリィは断言した。
「鶏は里で育ててたわ」
『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)の経験則。
「朝起こしてくれて大事な卵と肉をくれて――で、狂暴!」
言い切る笑顔がまぶしい。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、そうだねぇ。と、頷いた。
「闘鶏……という競技がある。名前の通り、鶏同士を戦わせるんだね。ま、そんな競技が生まれるくらいに鶏というのは潜在的に獰猛たりうるわけだ」
「それがあの大きさで毒まであるとなると、手に負えないのも頷けるというものだよ。ま、その性質のおかげで同士討ちしてくれるのであれば使わぬ手はないよねぇ?」
悪い大人の顔である。
「その戦法を取れる我(アタシ)がいるんだったら、尚更に」
悪い大人って、サイコーだ。
「弔い合戦上等よ、殴って殴って殴りまくって食材適性を付与して、アタシが美味しく調理してやるわ!」
鈴花の好きな言葉は「弱肉強食」、好きな鶏料理はからあげ。
勝利の一杯・ゴールデン・ゴリラエールも持参しているのだ。ビールをちょっと衣に入れると仕上がりがふわっとする。ただ、スモールレックスは鉄帝兵士の脳みそをジュルジュルしたばかりだっていうことを口に入れる前に思い出してもいいかもしれない。
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「フォーム、チェンジ! 暴風」
チュィーン、キュンキュンキュン。ローングレンジフォーム・ボウ=フウ! ジャキーン! 積みあがる瓦礫の上、ナノメタル粒子で構成された戦闘スーツが文字通り雄斗の体を包む。
「偽神ストライカー・エクストラ!」
色々光ったり、手の内が聞くものによってはバレバレになるが、示威効果の方があるというのが古からの経験則だ。
火器管制システムも良好。
「――味方を巻き込む様なら識別付きの【プラチナムインベルタ】。巻き込まないなら【リコシェット・フルバースト】」
射撃姿勢制御の選択肢を音声入力。後は、技名を叫ぶだけ。
『つまさきに光芒』綾辻・愛奈(p3p010320)は、散開していくパーティーの背に声をかけた。
「死人も出てます。気を引き締めて」
回復役が言うとシャレにならない。愛奈は今回のパーティーを「前のめり」と理解していた。
「我(アタシ)のことは――そうだね、必殺でも食らってくたばるってときまでは後回しにしてもらって結構だ。やせ我慢ではなく、そうしないと使えない大技があってね。頼んだよ」
愛奈にそう言いおいて、武器商人ががれきの中に降り立ったとき、印象は確信に至った。
理由はわかるがそういう訳にはいかない。首肯しかねるが、今この段階で論戦を繰り広げる時間がない。
「――…武器商人さんは凄くタフなんですね……回復はHP残2割以下になったらで……」
非常に不本意。
武器商人は、まぶたを上下させる程度に同意を示した。あの様子はこちらの葛藤をわかってないと愛奈は判断する。
「あの方は別格として――その他の前のめりな方々が十全に戦うためのサポートが私の仕事です」
死体をついばんでいたスモールレックス達が首をもたげる。
武器職人の足取りに鶏達の首が右へ左へ忙しなく動く。巨大な鶏達全てが一時にとびかかったら、武器商人は野良犬に食い破られる布人形のようにボロボロにされるだろう。
混沌中に商売の手を広げる人物が何を原動力に動いているのか。
復讐心はやまず、憎悪の念は収まらず、執拗に戦場を練り歩いた結果、ついには因果の糸の端をつかむに至った。
この胡散臭い人物は、どうしてだか鶏どもがどこをつつこうとしていて、自分がどう足を動かしたら哀れな人間の眼窩ではなく隣の鶏の目玉をつつくに至るか手に取るようにわかってしまっているのだ。
果たして、その通りになる。小さな小さな因果のもつれが積み重なってそういうことになった。
鶏どもの怒号と混乱。つつかれた鶏は怒りの矛先を自分の血でくちばしを濡らした鶏に切り替える。
眼鏡の位置を直す手の下で、武器商人は口角を吊り上げる。
「やれ、啄むのはいいが……腹を下しても知らんよぉ? ヒヒ!」
鶏の混乱を見て取って、イレギュラーズたちは行動を開始する。
「鶏ちゃんシバきの開始ですわよ!」
フロラは五月の若芽色ざわめく大鎌を振りかぶった。足を踏ん張り、刈り取る者は刈り取りたい者だけを切り裂くのだ。
「これなら巻き込みませんわ!!」
鼻先を小手先の調整一つで刃先がかすめていった。無言でスウェーバックする武器商人にフロラは小さく悲鳴を上げた。
「武器商人様、そんな疑いの顔で見ないでくださいまし!」
つつき合う相手に恵まれなかった鶏は、まったく背後に気を配っていなかった。いつもなら、とめどなく首を動かし、四方八方見ているというのに。
押し付けられた怒りに我を忘れていた。
「――囲まれるのはきっと一番まずいから、出来れば他の仲間と協力して一匹ずつ確実に倒していきたいところかな」
「最強」という名の幻想をまとった剣を炯炯とした光が包む。
「幸いエクス・カリバーは多少射程の長さがあるから至近には近寄らないようにしよう」
爪や嘴がメインウェポンなら近づいたら危ない。と、繰り出された刃が鶏の首をドムリと刺して、横に割り裂いた。
「――――――ッ!」
声帯を通さない空気が血と一緒に吹き上がる。
皮一枚で首がつながった鶏が血染めの羽毛をまき散らしながら断末魔の声を上げて、ヴェルグリーズに末期の飛び蹴りを試みる。バインバインと跳ね上がる首。嘴はまだ開閉を繰り返す。
「ほんとに恐竜だ……」
雄斗は小さく呟いた。
情報屋は、獰猛でタフだと言っていた。ヒトとて、首をはねられてもしばらくは体は動いているという事案はいくらでもある。
しかし、体の隅々にまで死が行き渡らない限り攻撃をやめないほどとは。
「ターゲットロックオン! プラチナウムインベルタ!」
繰り出された鋭い爪は鋼の驟雨でひき肉になった。
雄斗の四連奏ガトリング砲が火を噴いたのだ。
ヴェルグリーズに親指を立てて見せながら、雄斗は、はたと気が付いた。
「俺、焼鳥ならももタレ派なのに。あれで、焼き鳥ってつくれるかな」
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とさかの一部が、三階の窓の上にある。
ギガレックス。
直下で見上げると、羽毛しか見えない。後は大木のような足。
物理的に息の根を止めるのは難しいとイレギュラーズたちは判断し、足止め役はこの二人になったのだ。
「皆がスモールレックスの相手をしてくれている間、ギガレックスのAPを削りつつ足止めしよう!」
「先に接敵いたします!」
シフォリィの気配が令嬢然とした柔らかなものから、喉の奥からしみわたり息をするのも嫌になるほど冷たいものに変わる。
漆黒の刺突剣がただひたすらに殺意を載せて、巨大な古代獣の動く力を切り崩す。
「たとえ頑丈でも精神に作用するこの攻撃に対抗するのは難しいと思いますの!」
「私もそう思う!」
マリアの足元で爆ぜる紅雷の出力が限界に達して青みを帯びる。もはや加速の域にあらず。その実を砲弾と見立て、雷をまとうつま先を弾頭にせしむる。
早い話が、限界まで勢い付けて真っすぐぶっ飛び、勢いでぶっ飛ばし、興が乗ったら余計に殴る。だ!
その様子を見上げる愛奈はめまいを感じていた。前のめりが過ぎる。攻撃すると自分まで負傷するのが前提の技なのだ。衝撃波で露出しているマリアの頬や耳に裂傷が起きている。吹き出す血さえ、パチパチと火花をまとっているのだ。
「……実は変なシンパシーがあるんですよね、マリアさんに対しては」
誰かの耳に入っただろうか。鶏の断末魔に紛れたかもしれない。
「――誕生日一緒で」
異世界から召喚されたウォーカーの身で、誰かと何かが一緒だということはささやかな寄る辺となる。
元々は古書店の店主だ。命のやり取りとは無縁。だからこそ、全ての方向に癒しを届ける理想を諦められない。文字通り戦場のど真ん中に立つ。
「――とてもお強いと聞きますし、今日は闘いぶりを近くで勉強させて頂きます」
愛奈の視線の先、無数の花びらのような炎片が巨大な鶏を包み込み、羽毛と気力を燃やされる巨鶏は甲高い声を上げた。
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現在エピトゥシ城はローレットの砦である。ぶっ壊した場合、困るのはローレットの方だ。
「ほ、ほほほ保護結界張ったから崩れる心配もないはずよ、たぶん、きっと」
鈴花は誰に言うでもなく呟いた。全身のすべての力を魔力変換して放出する――全方向大迷惑系イヤボンだ。わざとじゃなければ、砦は大丈夫だもん!
「あと最悪商人は巻き込んでも必殺がないから平気よ」
ビビり散らかしているが、それが最善なのだ。躊躇してる暇はない、吹っ飛ばしたら危ないっぽいヒトには当たらないよう角度は調整してるっていうか、武器商人のそばにはフロラが立ってて、そこには当てたら大惨事なのだ。今やらないと巻き込む!
チュッドーン!
結界がギシギシきしむ。武器商人は巻き込まれている。だって! 鶏密集地帯にいるから。いるからっ!
「生きて――ヒィ! 立ち上がった!」
立ち上がってなければ大事故である。
「気を取り直して! さあ、いっくわよ。血抜きよ!」
鈴花は飛び立った。鶏の只中、武器商人のすぐわきに降り立つ。
「巻き込んでごめんね! 得物当てたりしないから心配しないでね! あ、でも血しぶきは飛ぶかも!」
滅海竜より零れ落ちた破滅の楔を鈴花は両手で持ってぶん回す。
魔砲ぶつけられるよりはましである。毒の可能性もあるので何とも言えないが。
「やっぱり、【H・ブランディッシュ】ですわよね!」
「乱戦では、これ一択よね!」
意見の一致。
武器商人は、至近で嬉々として大鎌と楔を振り回すお嬢さん二人をかばいつつ、もう少し鶏とポルカを踊らなくてはならないのだ。
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「悪いが私に毒は効かない。状態異常への強固な耐性を持っているからね」
マリアがギガレックスに獰猛な笑みを浮かべた。
常在戦場の強力な個体を撃破するのに有効なのは毒なのだ。当然、対応するのも必然。
磁力を巧みに操り、ギガレックスの頭上を取り続けるマリアを凝視する鳥の足元は確実にお留守だ。
ギガレックスの気力をゴリゴリと音がするほど削り上げても、その基本的な膂力が失われた訳ではない。緩慢に振り回される首の一振り、空が飛べるわけでもないはばたき一つで、戦場が一変する。
「シフォリィ君! 今だよ!」
シフォリィと自分との間――地上と空中で疑似的な挟撃環境を作り出し、プレッシャーをかけるマリアの動きに、シフォリィは最大限応える。
ギリギリまでひきつける。興味を途切れさせることの内容に牽制し、細かく足を踏みかえ、先ほど武器商人が語った軍鶏のよう。頭に血を登らせ戦闘計算を読み違えた方が滅びる死の舞踏だ。舞台を降りることは許さない。
「さあ、もう泥沼の中ですよ」
気が付けば、ギガレックスは瓦礫の隙間に誘いこまれていた。
「わたくし、土木工事に従事してしまいました。マルチタスクお嬢様ですわ~!」
フロラが、さわやかに汗をかいていた。つい今しがた、魔性の一撃をブルドーザー代わりに瓦礫を崩して、レックスを分断したのだ。
「ターゲットロック、ファイア!」
雄斗にターゲットだけ設定され出鱈目に撃ち放たれた弾丸が、ナノメタル粒子散布空間で乱反射。結論だけ言えば、スモールレックスはミンチだ。小さい方のももタレは諦めるしかない。
「もう、本当に――」
誰もかれもが自分の体を保全しようとしない。反動技のオンパレードだ。毒を含んだ血を浴びながら、返す刀で切り倒す。
誰も自重しない状況に、愛奈は肉体と精神の調和を転写する。
「私が立っている限り脱落者は許しません。大人しく治療されてください」
足を止める暇もないから、投げキッスでもするような勢いで。
「元気になったら私の分も殴ってきてください」
この調子なら、熱烈な口づけは必要はなさそうだ。誰にしても大騒ぎになりそうだが。
「翼の力で飛んでいるというよりは、脚での跳躍だろうからね」
ヴェルグリーズは、きちんと事象を積み上げていくタイプだ。
上空からの三次元攻撃を防ぐ為にも。と、大木を切り倒す光輝の横薙。
「動き回る力を削ぎたいのと、視点の関係から足を積極的に狙おうかな」
そういった時にはもう斬っている。
「なんであれ、この拠点を落とさせはしませんよ!」
癒し手も、囮も、ここぞとばかりに魔力を練り上げ、追い詰められた巨大な鶏にあらん限りの攻撃を叩きこむ。
肉体も精神もたっぷりと枷をくらわされた鶏は、百を超える斬撃にあい、ろくに動くこともできぬまま瓦礫の中でこと切れたのだ。
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「討伐完了! ですわ」
きらん。フロラの笑顔がまぶしい。
「はぁ……ここまで獰猛でタフだとなかなか精神的にも疲れる敵だったね……鶏の声を聴いたらしばらく思い出しそうだよ……」
ヴェルグリーズの耳に空をつんざく化鳥音と音にならない断末魔がこびりついている。今日はゆっくり眠ってほしい。
「捌いて親子丼……と言っても卵がありませんわね。まあでも大小いるので親子みたいなもんですわね」
このままフロラの案でいくと鳥の照り焼きとそぼろの二色丼の完成である。
「わたくしは砂肝を貰っていきますわ〜」
どう考えても、抱えられないほど大きい。
返り血だらけの満面の笑みで、解体作業が始まっている。確かにネクロマンサーでも表れてゾンビ・ギガレックス爆誕など目も当てられない。とっとと戦力外にしてしまうに限る。中途半端に放棄した敵武器は奪還の旗印にされるのだ。
「これだけ殴ってればきっと食材適性だってついてるはずよ」
鈴花が持ち込んだソウルオブガストロリッターの性能に期待しよう。あくまで「つくことがある」なのだ。それを知る術は実際食ってみないとわからない。
「動いてお腹空いたし、エピトゥシ城のキッチン借りて料理して、鶏パーティしましょ、鶏パ」
鈴花は食べる気満々である。ドラゴニアの胃腸の強さはカオスシードと差異があるのかないのか各位の証言を待ちたい。
「鮮度抜群よ! 何食べる!?」
「ももタレ!」
雄斗君は、きちんと答えが出せてすばらしいです。そのまま成長して下さい。
何食べる? と聞かれて、「何でもいい」と答えるのは思いやりではありません。
「あのひ弱な情報屋にも手羽先の一本お土産にしてあげましょ」
「本当に――」
愛奈は、自分の魔力の残量を計算し始めた。鶏型だけど、あんなに毒があるというのに。「食べられる」と「毒がある」は両立するのだ。免許がないとさばいちゃいけない魚の名前などが愛奈の脳裏をよぎる。
「本当に、みんな前のめり――」
だが、愛奈がヒーラーを務める限り、誰も倒れさせないと決めたので。ブレイクフィアーはどうにか人数分はぎりぎりいけなくもなかった。
後日。
対戦車ライフルのような手羽先が情報屋の下に届いた。謹んで拝領したという。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。砦に損傷なく、鶏はせん滅されました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。
GMコメント
田奈です
エピトゥシ城の防衛です。鶏のでっかいのと、すごくでっかいのをどうにかしてください。
ギガレックス(巨蜥蜴鶏)×1
十メートル程の巨大な鶏のような姿の古代獣です。
極端にタフで俊敏、攻撃力が高く獰猛です。爪やくちばしに猛毒をもっています。
飛行はできませんが、このサイズのジャンプは驚異的です。
上からの連続スタンプ攻撃、高速つつきなどに注意してください。
スモールレックス(巨蜥蜴鶏)×10
二メートル程の巨大な鶏のような姿の古代獣です。
ギガレックスの幼体で、俊敏で、攻撃力が高く獰猛です。爪やくちばしに猛毒をもっています。
ほぼ人と同サイズですので、顔面へのつつき攻撃、急所へのローキック、肝臓へのアイアンクロウなどが想定されます。
場所・エピトゥシ城・前庭馬場
城壁に囲まれた20m×30mの周囲に積み上げられたがれきが崩れた結果、開いている場所が砂時計型になっています。
くびれているところは先の戦いでがれきなどが積みあがっているところです。
一番くびれているところで7メートル。ギガレックスが無理なく通れるが手羽を広げることはできない程度の幅です。
足元は踏み固められ安定していますが、がれきが崩れてくる可能性はあります。
積みあがったがれき。
高さ五メートルほど。レックスのくちばしでは投擲は無理ですし、上に飛び上がるのも厳しい高さです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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