PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<深海メーディウム>フリーパレットとダーティバニー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ダイイングメッセージ
「ぼくは、ぼくたちは、にくしみを、はらしたい」
 老若男女、無数の声が混ざった形でそれは……フリーパレットは語った。
 語ったのだ。決定的に。
「ぼくたちを、ころした。ぼくたちをころした!」

 それはシレンツィオの未開拓エリアでのこと。自然にできたであろう大きな洞窟の奥に、その『おたから』はあった。
 巷にいくつも発生し『フリーパレット』と呼ばれたそれは、なんだかやさぐれた格好のバニーさんと一緒に宝箱に入っていた。
「おいバニー、あんた……あー……」
 名前を呼ぶかどうかで迷うキドー(p3p000244)に、バニーはべっと舌を出して見せた。
 耳にはピアス。舌にもピアス。おまけに腕に薔薇のタトゥーまではいった彼女は、ただいま巷で噂になっていた竜宮城のマール・ディーネーとは(同じバニーでありながら)真逆の存在に見えた。
 シャドウをかけすぎておよそ人外めいてしまっている目を二度ほど瞬きしてから、バニーはやっと自己紹介をした。
「サラバンド。あーしの名前はサラバンドっす。セカンドネームは知らなくていいっすよ、あーしにカンケーないから」
 よっ、と言って箱から片足を高く掲げるように出す。
 そう。彼女は今まで宝箱の中に身体を丸くして横たわるように入っていたのだ。
 よくそんな状態で生きていたなとおもう所だが、おそらく彼女なりに生存するための技能があるのだろう。
 勢いをつけてぐるんと身体を起こし、今度は箱の縁に座る格好になるサラバンド。
「サラバンドさん。話の続きを聞いても?」
 バルガル・ミフィスト(p3p007978)がキドーの肩にポンとてを置きながら話に加わってきた。
「ん、あー」
 サラバンドとバルガル、そしてキドーはそれぞれ振り返り……フリーパレットを見た。
 まるで怒りを露わにするようににょきにょきと伸びた頭部からの赤いカラー。表情はシンプルな笑顔を象っているが、全身はみるみる赤く変色していく。
「ぼくたちを、ころした。ぼくたちをころした!」
 サラバンドがフリーパレットに適当な質問をなげかけたっきり、この有様だ。
「このフリーパレットの目的は復讐、といったところでしょう。しかし……誰が殺したのです?」
「ぼくたちをころした。ぼくたちをころした!」
 フリーパレットの返答はそればかりだ。
 おそらくこの存在に故人の記憶や感情というものが殆ど残っていないのだろう。竜宮幣を核として砂鉄のように集まった思念の集合体にすぎないのだろうから。
 もうヒントはないだろう。そう思った矢先。
 ある決定的な一言を、フリーパレットは言い放った。
「『無番街』! ぼくたちをころした!」

●無番街の殺人鬼(アウトキャスト・マーダー)
「くんくん、焦臭くなってきたっすねー、くんくん」
 わざとらしく鼻をならすイルミナ・ガードルーン(p3p001475)。ここぞとばかりにバニースーツである。
 竜宮幣がある程度集まったからということで、水着姿にならなくとも加護は得られるのだが……こうしていると相手が油断するというたいへんよろしいメリットもあった。
「無番街で『ぼくたちをころした』? その犯人を見つけ出して復讐したいって言ってるんすか、あのフリーパレットは」
「そゆことっすねー」
 結構にヘビーな煙草をくわえ、ぷはあと口の端から煙を吐くサラバンド。
 見れば見るほどマールと真逆の女である。
「まあ、ざっとは調べてみたッスよ?」
 若干近いがやさぐれのない口調で、イルミナはメモ帳を広げた。

「『無番街の殺人鬼(アウトキャスト・マーダー)』――無番街では有名な都市伝説ッス。
 あるひ無番街でおきた一家虐殺事件。
 ある夜にそのエリアの顔役だったフリアン・ジェパーソン一家が殺害された事件ッス」
 調べによると、ジェパーソン一家は妻と夫、老いた母。そして三人の子供が揃っていたという。その夜は一番下の子供の誕生日ということで、ケーキを買ってきてリビングでそれを囲んでいたところ――玄関にて配達の呼び出しがあったという。これは当時隣家の住人が呼び出しの声を聞いていたのでわかったことだ。
 だがドアを開くよりも早く、銃声が鳴った。ドア越しに撃ち抜かれた弾は家長であるフリアン・ジェパーソンの心臓部へ命中。
 その後家族が追って銃殺され、彼らはバラして食卓にケーキと共に並べられたというのだ。
「虐殺が行われたのは銃声がしてから僅かな間でしょう。なにしろフリアン・ジェパーソンは当時周辺のラダ系マフィアを仕切っていた存在です。銃声が放置される筈がない」
 バルガルの言葉に、イルミナは頷きながら手帳のページをめくる。
「その通りッス。見張り役でもあった隣家の住人がすぐに通報しましたが、手下の連中が駆けつけた時にはもう『酷い有様』ができあがっていたそうッス」
「そんだけやられりゃキレるのも無理ないっすねえ」
 サラバンドがフリーパレットのことを思い出す。あの洞窟から動いていないので、とりあえず事件を解決してからまたあの場所へ訪れようということになったのだが……。
「手際からして相当な手練れか、あるいは複数犯で間違いねえ。でもって、そのひでー有様を作るってことは後から見た連中へのメッセージでもあったんだろ?」
「ッスね……フリアンの一派はそれを警告と受け取って、無番街を撤退したッス。だから、容疑者は絞られるッスね」

●うそつきのゲーム
 フリアン・ジェパーソン一家を殺害した容疑者は三人に絞られている。

 ――鉄帝系ギャング『COBRA』の長、POISON
 ――ラサ系マフィア『ロンタイグー』の長、ジャカ
 ――豊穣系極道組織『玄龍会』の長、玄堂 仁臣
 ――海洋系カルテル『コンパーニョ』の長、カルロタ・ディバーノ

「フリアンはラサ系の組織『ナハッシュ』を率いていました。けど後発のラサ系組織『ロンタイグー』が一番利益を得たかといえばそうではありません。
 当時からあったCOBRA、玄龍会、コンパーニョもかすめ取るように縄張りを広げましたから、これら四組織の利益は均一といっていいでしょう」
「他の組織は……?」
 イルミナの質問に、キドーとバルガルは顔を見合わせた。
「まあ……?」
「ちょっと……?」
 すっごい斜め上を見ながらいったので、おそらく彼らのグループも利益は得ていたということだろう。
 無番街の住人は全員がはみ出し者であり、ある側面から見れば全員が悪党だ。
 死ねば喜ぶヤツは沢山いる。だが、そんな彼らがいなくてはカジノや歓楽街のガードはできない。
 それだけではない。『法で守れない治安』を闇側から守るために彼らはいるのだ。
 キドーのグループは『ルンペルシュティルツ』。アクエリア近海の自領に集めた小悪党たちをスタッフにした『派遣会社』。
 バルガルのほうも『昏迷都市』という領地の名前そのままの派遣業を営み、荒くれ者やはみ出し者たちをシレンツィオに派遣している。
「俺たちに求められてんのは犯人捜しか? 犯人を見つけて締め上げて洞窟の奥に引きずってくまで、今回の一件で全部やれってんじゃねえだろうな」
 キドーが苦い顔をしたが、どうやらそうはならないらしい。
 容疑者としてあげられていないいくつかの組織が共同で報酬の金を、そして何かしらのルートで手に入れていたであろう竜宮幣をそれぞれ報酬として出すという。
 オーダーは情報の収集。
「なるほど? つまりは……今回の仕事は『情報集め』か。犯人はわからなくてもいいってこったな」
 とはいえ危険な無番街での調査。組織ぐるみの犯行を嗅ぎ回れば、それを不都合に思う複数の組織から妨害に遭うことだろう。実際、容疑のかかった四組織それぞれがあの事件をひっくりかえされることを嫌がるはずだ。
「で、自分の身は守れってか? なるほど、情報集めだけで金が出るわけだ」

GMコメント

●オーダー
 『フリアン・ジェパーソン一家虐殺事件』の犯人を見つけるべく、情報収集を行いましょう。
 今回のシナリオ内で犯人が判明したり、どころか直接押しかけて首根っこつかんだりできなくてOKです。(というかそこまでできるリソースを整えるのが無理そうです)

 主に聞き込みや交渉といったテクニックが必要になるでしょう。
 また、容疑のかかった四組織はこの事件の真相が『曖昧になっているから』自分達からの牽制効果が働いているという側面があるため事件を暴かれることを嫌います。そういった理由で手下を差し向けてくるでしょう。
 なので『調査を担当するメンバー』『戦闘を担当するメンバー』でバディを組んで動くのをお勧めします。
 また、このシナリオ内ではキドーさんとバルガルさんは無番街で顔が利くこととします。
 他にも無番街で一定の地位あるいは顔役としての立場をもっている(という心当たりがある)PCはプレイングでそれを宣言してください。

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●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●フリーパレット
 カラフルな見た目をした、海に漂う思念の集合体です。
 シレンツィオを中心にいくつも出現しており、総称してフリーパレットと呼ばれています。
 調査したところ霊魂の一種であるらしく、竜宮幣に対して磁石の砂鉄の如く思念がくっついて実体化しているようです。
 幽霊だとされいますが故人が持っているような記憶や人格は有していません。
 口調や一人称も個体によってバラバラで、それぞれの個体は『願い事』をもっています。
 この願い事を叶えてやることで思念が成仏し、竜宮幣をドロップします。

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

  • <深海メーディウム>フリーパレットとダーティバニー完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者

リプレイ

●花手折
 例えば木で出来たテーブルに、カップが一つ載っているとする。
 テーブルはその辺りの木を切り出し釘で打ち付けただけの、なんとも貧相な板でできていた。ニスなどの表面をケアする加工すらされていない、おそらく数年すればかびていくような代物だ。ここシレンツィオリゾートは小さな島上都市であるからして、潮風にあてられるエリアなどもっと物持ちは悪いだろう。
 カップだってそうだ。貴族様が扱う金だか銀だかの食器ではない。曲げた木材を金輪で閉じたカップだ。これもまた、えらく耐久年数の少ない消耗品であろう。
 中身もややぬるいエールと決まっている。粗末なカップに上等なワインを注ぐなど、むしろ無駄だ。
 『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)はしかしそんな酒場にあって、あまりに異質な色気と素っ気を放っていた。
 ともすればどこからか流れてきたお嬢様に見えるし、腕は小枝のように細くつつけば崩れそうな脆弱な身体をしている。
 同じようなテーブルについて酒を飲んでいる周囲の者たちは、男女問わずそれを見て顔をしかめる。そして、ちらりと壁を見るのだ。そこには弾痕や刀の痕が隠すことなく刻まれ、酒場が『こういう場所』であることをまざまざと示している。
 人によってはクシュリオーネを飲み過ぎたゆえの白昼夢かと思うほど、彼女はこの場で浮いていた。
 彼女ほどでないにしろ、テーブルの向かいに座る『つまさきに光芒』綾辻・愛奈(p3p010320)も同じだ。
 彼女が座って居るべきは本棚と本棚の間であり、図書館や古書店や、あるいはそれに類する場所に違いない。
 まるで花の蜜をすわせた絹のような、ほんのりとした色香がこの場所との不似合いさを際立たせている。
 無番街の女など、それこそ蜂蜜をぶちまけたような甘い香水をにおわせ、どこか尖った化粧やひどく露出の激しい服装をするものだ。
 そんな具合で。周囲からの奇異の視線を浴びながら、二人はカップにまるで口をつけるでもなく向き合っている。
「……今回の件。どう思われますか?」
 暫し続いた沈黙の末、愛奈が切り出したのはそんな言葉だった。
「そう、ですね」
 クシュリオーネはショートにした髪をいじって、視線を斜め下へむける。
「あくまで損得感情の上で行われた殺し……だと思います。
 それ故容疑が、得をした人間達だけに絞られるのは必然といえるでしょう」
 二人はここへ至るまで、声をかけてきた何人かの男達に『それらしい報酬』を与えて情報を集めていた。
 それらはクシュリオーネと愛奈の考えを概ね裏付けるもだ。
 しかし一つだけひっかかることがある。
 当時アン・ジェパーソン及びラサ系組織『ナハッシュ』の存在によって各組織が受けていた損失。消えたことによって得た利益。
 ――それらが『釣り合っている』のだ。
「あまりに、釣り合いすぎています。サイコロを転がして、全ての目が同じ回数だけ出るなどありえるでしょうか」
「…………」
 口を閉じ、うつむく愛奈。
 もし出目が均等であったなら、それはそうなるように振られたという事実を濃厚とする。
「なあお嬢さんがた、観光かい?」
 話を遮るように、男がテーブルに手を突いた。
 テーブルを挟んで反対側からも男が現れ、無遠慮に愛奈の肩に手を置く。
 繰り返してきたやりとりだ。愛奈は首をかしげ、胸元をわざと相手の視線に晒すと微笑んだ。
「すこし、調べごとを」
「愛奈さん」
 クシュリオーネが一言、低いトーンで述べたことで、愛奈は事情が変わったことを悟った。
 店のなかにぞろぞろと、五人ほどだろうか。男が新たに入ってくる。
 周囲でくつろいでいた客たちは慌てた様子で席を立ち、店を出て行く。
 立ち上がろうとしたクシュリオーネの両肩を、男ががしりとつかんだ。
「あんたら。ちょっと調べすぎだな」
 クシュリオーネと愛奈は顔を見合わせる。
 どうやら自分達を始末しにきた何者かの手下、と言ったところだろう。
 しかし。
 ああ。
 よかった。
 ――彼らはまだ、自分達を容易に手折れる花だと思っているらしい。

●裏歓楽街より
「マフィアだのなんだの、血なまぐさい事になってきましたねえ」
 『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は無番街東部、通称『裏歓楽街(ロストインパラダイス)』の通りを歩いていた。
 なんというか、いかにも目に毒なネオンサインがギラついていて、噂に聞く竜宮城を彷彿とさせるのだが……。
「ここは、なんていうか、あれだな」
「そうですねえ……」
 あまりにも強い商売っ気というべきか。あまりにも強烈な自己主張というべきか。
 通り全体に甘い香水の匂いがして、外に出てこちらを見ている女性達はただ黙ってこちらの様子を観察している。
 深く突っ込むと火傷しそうな雰囲気だ。
「仕事、できる限りはやりたいんですけどね……どうなることでしょうかね」
「さあな。出たとこ勝負だ。少なくとも、立ち止まってても得られるものはなさそうだしな」
 悩んで停滞してあとで名案が閃くより、粗末でも動いたほうがいい。ライは長い経験の中でそう学んでいた。といっても、彼がこんなファンシーな見た目になる前の話だが。
「憎しみに囚われたフリーパレットを解放してやらなきゃいけないし。たとえ真実までは届かなくても未解決事件の真相を探るってだけで面白そうだしな」
「あー……それは、ちょっとわかりますねえ」
 ベークは相変わらずのテンションで同意をしめしてくれた。
 いや、本心のところはよくわからない。素直で素朴な印象をもたれがちな彼(?)だが、真に感情をむき出しにするケースは実は少ないのだ。

 ベークとライ。見るからにファンシーな彼らが入っていったのは裏歓楽街の中でも独特の雰囲気があるエリアだ。
 和洋折衷というのだろうか。花魁風の女達が洋風建築の、それも入り口の狭いバーの外に椅子を置いて座っているのだ。
 豊穣から流れ着いたこういった女たちが海洋から流れ着いたその手の商売人と手を結ぶことでできあがった、ある意味シレンツィオでしか見かけないような風景だ。
 この辺りをシマとしているのは豊穣系極道組織『玄龍会』――だけではない。海洋系カルテル『コンパーニョ』も入り込んでおり、仮に縄張りに色をつけて地図にしたなら異様なまだら模様になることだろう。
 なぜなら、元々このエリアを支配していたのは『ナハッシュ』であり。フリアン暗殺からすぐに両組織が我先にと支配権を奪っていったからだ。
 両者の力は結果として拮抗し、混ざり合ってしまったが故に互いに手を出しづらい状況となってしまっている。
 そのためか店は比較的お行儀良い。隣家とモメただけでマフィア同士の抗争になるのだから当然といえば当然だろう。
 ベークとライがわざわざこんな場所にやってきたのには理由がある。
 積極的な聞き込みの結果、この場所に『ある人物』が居るという情報を掴んだのだ。
 だが……。
 道を塞ぐように、刀をさげたシャツ姿の男が行く手を塞いだ。すぐに後方へ同じような集団が現れる。
 ライとベークは即座に構え、相手もまた構えた。
「さて、出て来るのは埃でしょうか、蛇でしょうか……」
 ベークがキッと相手をにらみ付けると、何人かが刀で斬りかかる。ベークの堅い装甲(?)を刀がやぶることはないが、それを重々承知しているのだろう。男達のひとりがスタンガンをベークへと押し当てた。防御を貫通して激しいしびれがベークを襲う。これで動けなくなることはないが、はしった痛みは本物だ。が、ベークはそれを無理矢理修復させた。彼を傷つけることは、リヴァイアサン戦のとき以上に困難だ。
 戦いが始まったなら、『倒そうと思わない』ことが必須の人物なのだ。
「リヴァイアサンを食いちぎったっていう与太話、本当かどうか貴方達で試してみてもいいんですよ?」
 故に、ベークに気を取られてしまったらおしまいだ。彼らがベークの危険性に気付いて方針を変えるよりも早く、ライはルビー色の魔法弾を発射して男達を撃ち払う。
 彼らはチッと舌打ちをし、すぐに退却を始めた。
 命がけで止めようとまでは思っていないらしい。
「ライさん……」
「ああ。どうやら『当たり』だったらしいな。行こう」
 二人がそのまま進み、目的の建物へと入っていく。
 そこは……所謂『闇医者』の住処であった。

●ヒト・モノ・カネ
 ガラス製の灰皿がある。
 これの側面を握り、人体のどこにむけて振るとするなら、どこがもっとも効果的だろうか?
 『風と共に』ゼファー(p3p007625)の答えはこうだ。
「膝がっ!?」
 ボーリングでも投げるようなアンダースローフォームで、ゼファーはガラスの灰皿を目の前にいる男の膝の皿を砕くために放った。
 回転の加わった灰皿は相手の体勢を見事に破壊し、下向きにバウンドして転がっていく。
 周囲にいた男達は思わずその灰皿を見るべく視線を下げてしまった。そのせいで反応が遅れる。膝を割られた男とはまた別の。反対側の男めがけて後ろ蹴りが飛び、下腹部を撃ち抜かれたかのように男は体勢を崩して壁際へと吹き飛んだ。
 あまりのことが二連続で起きたせいで、男達は警戒する。一歩ずつ後退し、包囲していたはずの輪をひろげる。
 ゆえに最初に膝を割られた男だけが孤立した。ゼファーは今度こそ彼の頭髪を掴み引き下ろすと、膝を鼻頭に叩き込んで黙らせる。地面に伏すまでの僅かな時間、男が思わず抜いていたグルカナイフを奪い取っていた。
 丸腰だった相手が二人ものして、灰皿よりも上等な武器を手に取った。誰が最初に襲いかかるべきかと顔を見合わせ……その顔に。いや首にグルカナイフが突き刺さる。
 回転をかけて投げたナイフが首筋へとざっくりと食い込み、開いた喉笛からひゅーひゅーと音を立て血を流しながら男はのたうち回る。
「そう『わめく』んじゃないのよ。頸動脈が切れたくらいで人は死なないわ」
 ゼファーはやっと、首をこきりと鳴らして残る男達の顔を見る。
「ジェパーソン一家の件、知ってることを洗いざらし話して頂戴な?
 口で駆け引きするより『こっち』の方が得意でしょ?
 但し、私が勝ったなら……言うまでもないわね」
 ゼファーがたったいま乗り込んでいるのは、鉄帝系ギャング『COBRA』のアジトである。
 アジトといっても無番街にあるクラブハウスで、ギラギラとしたサイケデリックカラーの照明と音楽が場内を反響し続ける空間である。
 その中心で、ゼファーはCOBRAの構成員たちに囲まれていた。
 いや。囲いは既に解かれつつある。
 サングラスをかけ、椅子に腰掛けていたギャングの長『POISON』は、そのサングラスを下ろして……。
「だれ? 『相手は一人だ』とか言った奴」
 思わずそう呟いた。

 『COBRA』が鉄帝系のギャングであるということは、少なくとも話し合いで済むタイプの相手でないことは確かであった。
 下っ端が何か知っているとも思えないので、結局はアジトまで乗り込んでいくのが妥当だということになる。
 『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)がとった選択は、ゼファー単騎でアジトに正面から堂々と『道場破り』をさせて、自分はこっそりと裏から侵入するというものだった。
「いやあ……それにしてもえらい暴れっぷりッスね~。相手に同情するッス」
 ローレット・イレギュラーズはいまや世界的に有名な冒険者ギルドだ。その中でもトップクラスのレベル帯にいるゼファーたちは世界で通用するだけの個人戦闘力をもつ。
 『その辺のギャング』を鎧袖一触にする程度のことは、ゼファーならできるのだ。
 彼ら側からみればヒグマが玄関からのっそり入ってきたようなものなので、普通なら逃げるか隠れるかの二択である。どちらも選ばず立ち向かった彼らの勇気を、むしろ褒めるべきだろう。
 当然、彼らに裏に気を割いている余裕などない。立ち向かうか逃げ出すかの二択である。
 その間、バックルームへとイルミナは侵入できたわけなのだが……。
「裏帳簿……ッスね」
 そこで見つけたのは本命も本命。『COBRA』の裏帳簿であった。
 ぱらぱらとめくり、フリアン・ジェパーソン一家殺害事件当時の記録を見つける。
「人が死ぬ時、必ず何か物やカネの動きがあるはずッスからね。どれどれ……と?」
 イルミナは、見た。そして瞬間的に記憶した。

 金の異常な動きがあったのは、殺害事件が起きた『後』だけだ。
 それまで、一切異常な動きがなかったのである。
 まるで、この四つの組織たちが示し合わせたかのように。

●ハイエナたちの巣穴
 『最期に映した男』キドー(p3p000244)と『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は無番街の市場通りを歩いていた。
「正直。謎のままでいてくれるとこちらも楽というか……」
 バルガルが三日寝てないかのようなどんよりした顔で天を仰いだ。
「探してうっかり何か見つかっても面倒なんですけどねえ」
「まぁな。俺も真実にゃ興味はねェよ」
 デカい声じゃ言えないがな……と付け加えてから、あの妙にお行儀の悪いバニーガールを思い出す。
 彼女のテンションは、『不義理に鉄槌を』というものでも『殺人者に裁きを』というものでもなかった。
 フリーパレットという存在への、いわば厚意に近い。
 それが彼女にとって自然なことであり、施すことに躊躇がないのだ。
 恵まれて生きている……ような外見はしてないのだが。どういう思考の巡り方なのだろう。
 キドーは首を振って、考えをまずはフラットにした。
「要はだ。あのフリーパレットが納得できるような落とし所まで持ってく材料があればいいんだろ? 一家殺害事件の犯人捜しだの、法の裁きだのはもうあいつに関係ねえ」
「ハハ、死人に口なし」
 バルガルがどこにツボったのかけらけら笑い始めた。
「いずれにせよ、真相は武器になる。情報は力だ」
「ええ。その武器は、我々でちゃんと共有しましょう」
 バルガルは『シェア』のジェスチャーをしながら笑った。キドーは『情報を独占したほうが利益になるんじゃね?』と一瞬思ったが、ローレット間でゴタゴタを起こすリスクと天秤にかければまあ軽いほうだ。なので、シェアのジェスチャーを返した。
 そして。
 二人は立ち止まる。
 建設途中のホテルを改築(?)して作られたそこは、ラサ系マフィア『ロンタイグー』の下部組織であった。

「……で? ルンペルシュティルツとメフィストスタッフの社長さんがなんのご用かな?」
 モノアイのゴーグルを被ったような男。バイロンは椅子に座って足を組んでいる。
 テーブルを挟んだ向かいに、キドーとバルガルは立っていた。
 無番街でもかなり顔の利く二人である。一般人なら門前払いもいいところだったろうが、彼らならこうして目の前まで迫ることができる。
 仮にロンタイグーのアジトに直接出向いたとしても、同じ場所まで来れるだろう。
「『ナハッシュ』」
 バルガルがそう呟いただけで、バイロンのすぐそばにいた二人がぴくりと動いた。
 名乗られずとも知っている。刀剣使いのウーとガンマンのユェンだ。ラサでもそこそこ名の知れた傭兵だったが、今はこの組織のメンバーなのだろう。
「まあまあ落ち着いてェ。穏便にいきましょう」
 バルガルは酒瓶をテーブルに置き、ささどうぞと低姿勢で差し出す仕草をする。
「お察しの通りですよ。『ナハッシュ』について知りたいのです。COBRA、玄龍会、コンパーニョ……いずれも元から無番街にいた組織だ。しかしロンタイグーは違う。ナハッシュ撤退の折に入れ替わり、いくつかの組織も吸収することで新参にもかかわらず他三組織と拮抗するまでに至った。
 ……あー、そういえばあなたのバイロン製薬も吸収されたクチでしたっけ」
 周囲に、どんよりとした空気がつのる。
 ウーは刀に、ユェンは懐の銃に手をかけていた。
「なあオイ。お前らも大鴉みたいになりてェか?」
 キドーも既に、ククリナイフに手をかけていた。
 対して、バイロンは足を組んだまま余裕そうにしている。
「あんたらに秘密を喋ってもいいが……ここで殺しちまったほうが俺らにとっては得なんじゃねえか?」
 ユェンは高速で銃を抜き発砲。しかしキドーの首から下がった『アズライト』が輝き直径2センチほどの障壁を生成。銃弾を止める。
 既に飛びかかっていたウーがキエエと叫びながら刀を放つが、キドーはそれをナイフを叩きつけることで防いだ。
 邪妖精フーアがキドーの周囲に力の渦を巻き起こし、ウーとバルガルを壁際まで吹き飛ばす。
「ちょっとお!? 自分まで巻き込まないでくださいよ」
 ネクタイを直しながら立ち上がるバルガル。
 キドーは歯を見せて笑う。
「避けねえのが悪い」
「ハハハハハ」
 抑揚の一切無い笑い声をあげると、バルガルは再びバイロンの方を見る。
「さて、体裁は整いましたね? 必死に抵抗したが逆らえなかった……と」
 バイロンは、やはり余裕そうな態度を崩すことなく……。
「話の分かる男はいいねえ」

 バイロン製薬より得た情報。それは……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 無番街での調査により、『フリアン・ジェパーソン一家虐殺事件』について以下の情報が判明しました

・フリアン一家殺害ひいてはナハッシュ撤退によって、COBRA、ロンタイグー、玄龍会、コンパーニョの四組織は利益を『均等に』得ていた。
・一家の解体作業は玄龍会及びコンパーニョが抱える闇医者によって迅速に行われた。
・COBRA、ロンタイグー、玄龍会、コンパーニョの四組織間には何らかの協力関係があった。
・ロンタイグーは迅速にナハッシュの後釜に納まり、結果として四組織は無番街で拮抗した状態となった。

 以上のことから、四組織が結託して『フリアン・ジェパーソン一家虐殺事件』を起こした可能性が浮上しました。
 本件は次なるフェーズへと移行します。

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