シナリオ詳細
しゃくしゃくのかき氷を求めて――。
オープニング
●天義の氷室
天義――静謐なるこの都市にも、当然のことながら夏は来る。夏は暑い。これも当たり前のことだ。
「今年の夏は特に暑いものですね」
ふふ、とあなたの隣で笑うのは、イレーヌ・アルエである。幻想大司教が何でこんな所に――と言われれば、天義で行われる夏の宗教大祭、その来賓として訪れたのである。
貴方を始めとしたイレギュラーズ達は、その護衛。護衛と言っても、天義も中央教会も総力を挙げてイレーヌを守るわけであり、そんなイレーヌを狙うような根性の入った悪党も昨今は存在しない。というわけで、「万が一のための直掩」として呼ばれたあなたたちだったが、実際そんなような事態が起こることはあり得なかった。ローレットの情報屋をして、「楽な仕事。夏休みみたいなものだと思え」と言わしめる、そんな仕事であった。
イレーヌの乗った馬車と共に、天義の大聖堂へと入る。すぐに高位司祭から直々に奥へと案内されるが、イレーヌの視線は、あたふたと慌てふためく、下位のシスターたちに視線を注がれていた。
「お忙しいようですね」
イレーヌが言う。それは、あなたも感じたことだ。何だが、少々込み入った事情がありそうだ、と、冒険者としての勘が騒ぐ。
「よければ、お話を聞かせていただいても?」
イレーヌが尋ねるのへ、高位司祭は「ええ、ですが、お気になさるほどのことではございませんよ」っと前置きをして、続けた。
「と、言いますのも、イレーヌ殿も参加される宗教大祭、その催しの一つとして、参加者にかき氷を配ることになっているのです。これは好評で……特に子供たちは、大喜びで食べてくれます」
「ああ、存じていますよ。実は私も楽しみにしていまして。こっそりと分けてもらっているのですよ」
イレーヌが笑うのへ、司祭も頷く。
「ええ。恒例の行事となっておりまして、子供たちも毎年楽しみにしているものなのですが――氷が」
「足りないのですか?」
「というより、採取ができないのです。街の北東に氷室、つまり天然の氷の貯蔵庫があるのですが、そこにどうにも、ヨトゥン共が住み着いてしまいまして……」
ヨトゥン。霜の巨人、とも呼ばれる、氷を好む巨大な怪物だ。巨人と名はついているが、先般幻想を騒がせた巨人どもとは関係のない、魔物、と呼んでもいい存在なのだという。
毛むくじゃらの身体に、薄汚れた棍棒や己のような武器を持つ。知能はほとんどなく本能ママだが、いかんせんその身体自体が強靭な鎧であり武器であり、歴戦の冒険者も手を出せないような相手なのだという。
「今から聖騎士団に討伐を向かわせるにしても、編成から動かさねばならず、時間がかかりますぎます。氷を運ぶ職人たちはすでに洞窟の氷室の入り口で待っているのですが、巨人どもがいるため中に入ることはできません。このままでは、子供たちに氷菓子を振る舞うことができなさそうです」
そういうのへ、イレーヌはくすりと笑った。
「では、私の護衛の皆さんをお貸ししましょう」
と、イレーヌがあなたと、そして仲間達へと視線を移す。
「良いのですか?」
と、仲間が尋ねるのへ、イレーヌが頷いた。
「ええ、大聖堂に入ってしまえば、賊が私を狙うことは困難。これから打ち合わせに入りますから、皆さんも退屈な時間となるでしょう。
であれば――運動がてら、巨人退治などはいかがでしょう? もちろん、しっかりと依頼料はお支払いします。
それに」
「それに?」
「私も、かき氷を食べたいものです。皆さんにもおすすめですよ。天義の名産のベリーを潰したシロップがまた絶品でして」
「ははは、子供たちにも人気のものですな。
というわけで、私からもお願いしたいのです、イレギュラーズの皆さん」
そうとなれば、断る理由もあるまい。それに――イレーヌも絶賛するかき氷とあれば、興味がわくというものだ。
「では、早速行ってまいります」
仲間が告げるのへ、イレーヌは頷いた。
「どうぞお気をつけて。吉報をお待ちしておりますよ」
イレーヌ、そして天義の司祭に見送られ、あなたたちは天義の氷室へと向かうのだった――。
- しゃくしゃくのかき氷を求めて――。完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●天義の氷室
氷室。夏場などに氷を溶けないように保存するための保存室のようなものである。練達であれば冷凍庫を使うだろうし、高名な魔術師なら氷雪系の術式を使って保管するだろうか。様々な様式が混沌世界には存在するが、今回訪れた氷室は、天然の氷室だった。
「おっきい洞窟ね。これなら、ヨトゥンとか言う奴が入り込んだって言うのも納得できるわね」
ふーん、と感心するように言うのは、リエル(p3p010702)だ。ここは氷室の入り口。イレギュラーズ達の姿はもちろん、氷を運び出す職人たちの姿も見える。氷室の入り口――これも大きくて、巨人が出入りしたといわれても違和感はない――には申し訳程度に布がかけられていてるだけで、外にまで涼しい空気が漂ってくる。
「えーと、一応聞きたいんだけど。ヨトゥンがいるから、氷室として成立してた……とかある?」
リエルが心配げに尋ねるのへ、職人は頭を振った。
「いえ、此処は元々、氷の精霊のようなもの達が多く集まり、力の強い場所だったんです。ここが冷えている理由は、その氷の精霊たちのおかげなんですよ。ただ、おかげでヨトゥンを呼び寄せてしまったようですが……」
「どうやって来たのかしら。流石の氷室も暑さで機能不全を起こして、それで生み出しちゃった……とかかしら」
「どうなのでしょう。魔物の発生条件などは、私たちにはわかりません。
中で生まれたのかもしれませんし……そうでないのかも」
「ふーん。ま、いいわ。とりあえず、ヨトゥンは倒して問題ない、って事が分かれば」
リエルの言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。後顧の憂いはない。とにかくシンプルに、邪魔者を排除すればそれでよさそうだ。
「まぁ、霜の巨人といえど、暑くて逃げてきたのかもしれないからな。こう暑いと、その気持ちもわかるよ」
苦笑するのは、『鍛えた体と技で』コータ・ヤワン(p3p009732)だ。
「氷室の入り口あたりは少し涼しいけど……此処で長く、作業員の皆に待っててもらうわけにはいかないからな。
そうだ、作業員さん、防寒グッズとか、氷を持ちだすアイテムとか、貸してくれたら助かるんだが……」
「いいですよ。サイズを気にせず使えるグッズならお貸しします。ちょっとしたカイロみたいなのがあれば、多少はマシでしょう」
コータが受け取ったマフラーや、簡単なカイロを借りる。これなら、準備無しで突撃するよりははるかにマシだろう。
「よし! では、早速行きましょう!」
うんうん、と頷きながらそういうのは、『(自称)将来有望な騎士』シルト・リースフェルト(p3p010711)だ。
「かき氷、とやらがどんなものかは知りませんが……ええ、子供たちが好んでいるというのなら、それが得られないのは酷というもの。
子供達のために戦うのは、騎士の務めですからね!」
にっこりと笑うシルトに、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、ほう、と声をあげた。
「なんだ、かき氷、知らんのか?」
「はい! 実ははじめてです!」
シルトが頷く。汰磨羈は「なるほどな」というと、笑った。
「なら楽しみにしておくといい。労働後のかき氷、この暑い時期は特にうまいからな!」
はっはっは、と笑う汰磨羈に、シルトは「はい!」と頷いた。
かくして準備を行って、氷室に入る。びゅう、と冷たい風が、イレギュラーズ達を迎えてくれた。洞窟の中で風が吹くとは奇妙だが、これも氷室を維持している精霊の力なのだろう。
「さむ……い、ですね」
僅かに身体を震わせる、『青薔薇の御旗』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)へ、『優しい絵画』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が声をかけた。
「ほら、マフラーをかけておけ。少しはましになるだろう。オッサンの手作りってのは、ま、我慢してくれ」
ベルナルド手製のマフラーを受け取り、レイアはそれを巻いた。
「ありがとうございます。あったかいですよ」
「そう言えば、レイアは、こう言う戦闘が絡む仕事は初めてと言っていたな。緊張しているかもしれんが、そう気負わなくていい。
俺たちもサポートをするし……力を借りることもあるだろう。
しかし、災難だったな。イレーヌの護衛で楽な仕事と聞いていたら、冷凍庫の中か」
苦笑するベルナルドに、レイアは微笑んだ。
「ええ、ありがとうございます。ですが、これも立派なお務めです。やり遂げてみせます」
「おお、その意気だ。特に今回のは良いぞ。お偉いさんにコネもできるだろうしな」
そう言って肩をすくめてみせる『竜剣』シラス(p3p004421)。お偉いさん、つまりイレーヌ直々の仕事だ。しっかりと成功させれば、ローレットの覚えもよくなるだろう。まぁ、幻想中央教会、特にイレーヌは、そうでなくてもローレットのイレギュラーズにはよく頼り、好意を持っているのではあるが。
「それはさておき、索敵を頼む。こっちは……氷を壊さないように意識しておくよ。
なるべく荒らさずに片付けたいところだな」
シラスの言葉に、レイアは頷いた。意識を集中すると、辺りの『敵意』を感じ取れる。今のところは、入り口という事もあって、敵の姿は見受けられない。
「そうですね。子供たちも楽しみにしている氷ですし……結構、大人たちも楽しみにしてるものだったりしますよ」
にっこりと、『古竜語魔術師(嘘)』楊枝 茄子子(p3p008356)が言葉を紡ぐ。
「……この時期の大祭は、多くの人が参加していまして。宗教行事なのは事実ですから、子供たちには退屈でしょうが……やっぱり目当てはかき氷で」
少しだけ懐かしむように、茄子子が言うのへ、ベルナルドが頷いた。
「そうだな。孤児院の子供たちなんかは、特に……甘い菓子なんて、そうそう手に入るもんじゃあないからな」
「ちゃんと届けてあげないといけませんね」
レイアの言葉に、二人は頷いた。
「よし、準備はよいな? では、行こうか。
……しかし、炬燵が恋しくなる寒さだ。皆は風邪などひくなよ?」
汰磨羈の言葉に、仲間達は頷いた。そして冷えた氷室の奥へ、一歩を踏み出した。
●氷室と巨人
氷室の中は、蒼い幻想的な光が輝いている。これも魔法か、或いは精霊の力なのだろう。熱源を持った光では、氷は解けてしまう。美しい光景だが、今はそれを楽しんでいる余裕はない。
「結構入り組んでるんだな。本格的なダンジョンよりはましだが」
シラスが言う通り、広大な氷室は、少しばかり入り組んでいた。迷うような意地の悪い形はしていないが、それでも広い。あちらこちらには氷の塊が置いてあって、それは四角く整形されたものと、そうでない、自然に生み出されたような塊の二種類があった。前者は、よそから人の手によって運び込まれた氷で、後者は、この氷室で生み出された氷らしい。
「ふーむ、広いのは助かりますね。動きやすい」
シルトが言うのへ、リエルが頷いた。
「そうね。戦闘の邪魔になるって事はなさそう。それは、ヨトゥンにとっても、だけど……」
リエルの言う通りだ。此方の障害になるようなことはないが、それは相手も一緒とは言える。まぁ、単にイーブンな戦いになっただけだ。足を引っ張られないだけいいだろう。
「ねぇ、レイア。敵見つかった?」
リエルの言葉に、レイアが頷く。
「……はい。この先、三つ……敵意を感じます……!」
「という事は、既に見つかっているという事でもありますね」
茄子子の言葉に、シラス、汰磨羈が頷いた。此方に敵対心を持つ、初対面の相手……となれば、すなわちこちらを発見し、危害をくわえようとしているという事になる。
「よし、構えろ! 不意打ちされるのは避けるぞ!」
「じゃ、デコイを飛ばしておくか」
汰磨羈、シラスが言う。
果たしてすぐに、三体の毛むくじゃらの巨人が姿を現した。巨大な棍棒のようなものを持った巨人たちは、ごうごうとわけのわからぬ鳴き声をあげている。知性はないというのは事実のようだ。
巨人たちは、シラスが飛ばした『幻影(デコイ)』に群がっている様だ。だが、振り下ろした棍棒は幻影を捉えることはない。攻撃のチャンスだ。
「やれやれ、この幻想的な風景には無粋な図体だ」
ベルナルドが言う。確かに、この美しい光景に、この様なケダモノはふさわしくないといえるだろう。
「かかったな、単純な連中で助かるぜ。
コータ、盾役頼むぜ。シルトもだ」
シラスがそういうのへ、コータ、シルトが頷く。
「ああ。大役、務めてみせよう」
「僕もサポートいたします!」
「よし、リエル! まずは一気に巻き込むぞ!」
シラスが叫び、その手を掲げる。呼び出すのは混沌の泥。それは濁流となって、巨人たちを飲み込む! 不意を打たれた巨人たちが慌てふためくのへ、
「泥だらけでかわいそうね。洗い流してあげる!」
リエルの放つ水流撃が、二つ目の濁流となって解き放たれた! 混沌の泥を払う、タイダル・ウェイブ。二つの濁流にのみ込まれた巨人たちが、たまらずしりもちをつく。ずしん、と大地が揺れた。
「いくぞ、シルト!」
「はい! 寒いですがこれも騎士の務めです! 頑張ります!」
飛び込む、コータとシルト。コータはその身体で、巨人の前に立ちはだかり、その動きを止めて見せた。
「さぁ、来い! 巨人と言えど、オレを突破できることはできないとしれ!」
ふっ、を気合と共に呼気をはく。そのまとう闘気は、巨大な壁のように巨人たちを圧倒する。動けず、たじろぐ巨人たちが、雄たけびを上げて棍棒を振り上げる! 振り下ろされた棍棒が、コータに迫った! コータは後方へ跳躍して回避! だが、地面に突き刺さった棍棒が地面を砕き、その石片を礫として弾き飛ばした! コータはそれを受け止める。体に痛みが走るが、しかし倒れるには至らない!
「はぁい、いたいのいたいのとんでいけー、なんて」
茄子子がその手を振るうと、神聖なる陽光が、蒼い氷室に降り注いだ。氷を解かすことなく、悪しきを払い、人の傷をいやす陽光だ。コータの痛みが引いていく。
「レイアさん、此方の手が足りなくなることが予想できます。サポートをお願いしますね」
「はい!」
レイアが回復術式を編み上げる。邪悪を打ち消す閃光が、巨人と相対するシルトの身体を包み込んだ。
「勇気百倍です!」
シルトが、巨人に斬りかかる。その斬撃に、巨人がぐう、と呻くのへ、
「シルト、御主がひきつけている一体から潰すぞ!」
汰磨羈が叫び、飛び込んだ。
「任せてください! このまま抑えます!
大きければいいってもんじゃありません! やっつけましょう!!」
壁を蹴り、跳躍。巨人の首目がけて、その刀を振り下ろす。
「せいっ!」
呼気と共に振り払われた刃が、巨人の首を切り落とした。ずん、と首が落下すると同時に、巨人の身体が瞬く間に霜に覆われ、ばぎり、と砕けて消える。
「ベルナルド、もう一体を攻撃するぞ!」
「任せろ。わりぃが、同情してやる暇はねぇ。外に人を待たせてるんでな!」
ベルナルトがその拳を突き出すと、指輪が怪しく輝き魔力を放った。同時に召喚された熱砂の砂塵が、重圧を伴って巨人を穿つ! ぐおお、と巨人が砂塵に打ちのめされ、雄たけびを上げる!
「トドメは私が!」
リエルが飛び込む。手にした紅の剣が、魔力を帯びて輝いた。同時、踊るように放たれた斬撃が、巨人の腕を切り落とす。ずん、と落ちた腕が、霜につ生まれて砕けて消える。
「もう一撃!」
続いて放つ斬撃は、巨人の首を切り落とした。ばしゅう、と霜が広がって、爆発するように消えた。
「よし、コータ、もう少し抑えていてくれ!」
シラスがその手に魔力を流し込む。その隙間から、まるで糸のように魔力が漏れ出る。
「ああ! さぁ、ここから動けると思うな!」
爆発するような闘気が、巨人を圧倒する。巨人がたじろいだ刹那、シラスが撃ち放った魔力斬糸が、巨人を細切れに切り裂いた。ぼどぼどと落ちていく、巨人その身体が霜に包まれて消えていく。
「うむ、順調順調」
汰磨羈が笑った。
「そうだな。このままのペースで行けば、敵の全滅迄そう時間はかからんだろうな」
ベルナルドの言葉は、事実だろう。良いペースで討伐できたといえる。
「大丈夫ですか? レイアさん」
シルトが尋ねるのへ、レイアは頷いた。
「はい。何とか……」
「気を引き締めてね。まだあと何匹かいるみたいだから」
そういうリエルに、シルトは頷いた。
「では、先に進みましょう」
茄子子の言葉に、仲間達は頷いた。
●巨人とかき氷
かくして、一行は氷室を進む。時に敵の先手を取り、巨人たちを討伐しながらすすんだ。ベルナルドの言葉どおり、良いペースで進んでいった一行は、危なげなく巨人の討伐を完遂していく。そして今、最後の群れとの闘いは、問題なく、イレギュラーズ達の有利で終わろうとしていた――。
コータ、シルトが巨人を抑えながら、敵を追い込んでいく。リエルの放つ波濤が巨人をの身体を叩いて、転倒させた。その隙をついたベルナルドが、指輪の魔力で生み出した斬刃を振るい、踊るような一撃を見舞う。
「悪いな、これで終いだ」
無数の斬撃が、巨人を切り裂く。その身体に爆発するように霜が奔り、次の瞬間にはその通りに爆散した。氷室の冷気とは違う、霜の冷気があたりを包んだが、すぐに消えて失せる。
「うん。氷の精霊にききましたけれど、これで最後ですね」
茄子子がそういう。指をくるっと回すと、蒼い氷の精霊がそれ追うようにくるっと回って、それから消えた。
「なら、さっさと戻って、職人たちに伝えるか。ありがたいことに、巨人の死体を片付ける必要もないしな」
シラスが言う。
「おお、そうしよう……だが、なんだ。この氷室の温度になれてきたら、そのと暑さに身を晒すのが嫌になってきたなぁ……」
汰磨羈が肩をすくめて冗談を言うのに、コータは笑った。
「ははは、確かに。だが、これも子供たちのためだ」
「それじゃあ、戻りましょう!」
レイアが言うのへ、仲間達は頷いた。レイアがこっそりと、自分の掌を見た。手ごたえのようなものが、その掌に残っていたから、レイアはぎゅっ、とその手を握りしめた。
イレギュラーズ達から話を聞いた職人たちは、早々に氷室に飛び込んでいった。巨大なそりを複数人でひいて、巨大な氷をそのそりにのせていく。保冷の術式をガンガンに聞かせた布で覆って、次々と氷室から氷を運び出し、馬車を走らせていった。
「鮮やかなものね。手伝う必要なんてなさそう」
リエルの言葉に、職人の一人が笑った。
「巨人を退治してくれた皆さんに、手伝わせるなんてできませんよ。
それより、先に戻っていてください。いちばんいい氷を用意しておきますから!」
その言葉に、リエルは微笑んだ。シラスが頷く。
「じゃあ、戻るか。いや、急な仕事だったが、うまいこといったな」
「そうですね! いや、かき氷とやら、楽しみです!」
シルトの言葉に、仲間達も笑った。
街に戻ってみれば、大祭の準備もあらかた終わっていたようだ。先発した氷が、次々と納入されているのを確認する。
「お疲れさまでした、皆さん」
イレーヌがそう言って出迎えてくれるのへ、皆は頷いた。
「これでお仕事終わり……ってわけじゃなくてもいいですよ。
イレーヌ様。我々もご相伴にあずかる、もといカキ氷を振る舞うお手伝いを出来ますかね?」
シラスがそういうのへ、イレーヌがくすりと笑った。
「あなたのことはプルムからよく聞いていますよ、シラスさん? そうでなくても、あなたは有名人ですからね。
そんなあなたに手伝っていただけるなら、此方としても光栄です」
「それはどうも……」
肩をすくめてみせるシラス。ある程度は見透かされているのかもしれない。
「イレーヌ様、その」
ベルナルドが言う。
「かき氷をこっそりと分けてもらっていた、と伺いましたが……同じ方法で、アネモネに食わせてやれないでしょうか?」
「ああ……実はですね、小さな保冷箱を用意して、それを使って分けてもらっていたのです。
此方の司祭様にお願いしておきましょう。二つ分、で良いですよね?」
そういうイレーヌに、ベルナルドはゆっくりと頭を下げた。部屋に、シスターが入ってくる。その盆の上に、赤いベリーのシロップを乗せたかき氷を乗せて。
「皆さんの働きのおかげですからね。特別に一足早く、召し上がっていただきたいと、司祭様から」
そういうシスターの好意に、イレギュラーズ達は甘えることにした。早速齧ってみれば、ベリーの甘酸っぱさと、どこから透明感のある氷の味が、たまらない涼しさを与えてくれる。
「ふふふ、労働の後のかき氷はたまらないなぁ」
汰磨羈が笑うのへ、茄子子が頷いた。
「これは……懐かしい味、ですね。本当に」
少しだけ、顔をほころばせた。
「おおお!? 頭痛いです!! キーンとしました!! キーンです!!!」
そう言って目をつぶるシルトに、コータは笑った。
「勢いよく食べ過ぎだ……いや、俺もキーンと……!」
コータも頭に手をやる。
「でも、頭痛さえも愛おしい夏のかき氷……よね。
イレーネ殿はかき氷には何を掛けます?」
仲間達が談笑するのへ、レイアは少しだけ笑った。
なんだか心地よかった。
「特異運命座標ってこんな感じなんですね……」
初戦闘の余韻は、決して悪いものではなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様の活躍により、子供たちにかき氷は無事に配られました!
聖職者たちも氷をこっそり楽しんだようですよ。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
巨人を倒して、氷を振る舞いましょう!
●成功条件
すべての『ヨトゥン』の撃破。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
イレーヌの護衛として、天義の宗教大祭に向かった皆さん。
護衛はつつがなく終了し、手持ち無沙汰となった時、一つのトラブルに見舞われます。
宗教大祭で、参加者たちに配られるかき氷。そのかき氷のための氷が、手に入らないのだ、というのです。
氷を保管してある天然の氷室には、霜の巨人『ヨトゥン』が現れてしまい、氷室にはいれないのです。
このままでは、参加者――特に、かき氷を楽しみにしている子供たちが、残念に思ってしまうでしょう。
というわけで、皆さんの出番です!
氷室に向かい、巨人たちを倒し、職人たちが氷を採取する手伝いをしてあげてください。
上手くいけば、宗教大祭の際に、かき氷を食べたり、振る舞うお手伝いができたりしますよ。
作戦決行エリアは、『天義の氷室』と呼ばれる、石と氷の洞窟です。
非常に寒いため、防寒対策をしておくと、寒さに負けることなく動けるでしょう。
また、洞窟を移動しつつ巨人と戦うため、探索の用意も忘れずに。
●エネミーデータ
ヨトゥン ×12
霜の巨人、と呼ばれる巨大な怪物です。毛むくじゃらの身体に、巨大な棍棒や己のような武器を持っています。
体は強靭。HP、防技、EXFは高い方でしょう。体躯を生かした攻撃は強力で、防無を持った一撃などが特に強力。
半面、動きの方は鈍く、BSにも弱いです。搦め手がよく効く相手です。そこをつくのも良いでしょう。
総数は12体ですが、一斉に12体と遭遇するわけではありません。探索しつつ、3~4体の群れと複数回遭遇するイメージです。
その分、一体一体の戦闘能力は高めに設定されていますので、ご注意を。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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