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シナリオ詳細

Holy Holy Holy

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●祝福されたケミカル
 金色の懐中時計が一秒ごとを刻む。
 針が昼の十二時をさすと同時に閉じられる蓋。
 ネメシス正教会の紋章と祈りの言葉が刻まれた蓋。
 表面に歪んで映ったのは薄い髭をたくわえた男の顔だ。
 男は時計をポケットにしまい、入れ替わりにタブレットケースを取り出した。
 錠剤をひとつ、口に含んで飲み込む。
 深く、深く、深く呼吸をして……タブレットの裏に刻まれたネメシス正教会の刻印に口づけをした。
「聖なるかな、聖なるかな」

 幻想繁華街のカフェテーブルにタブレットケースが置かれた。
 フタを開いてみると、じゃらりと鳴ったうす青色の錠剤が入っている。
「この錠剤の名前は『Holy』。ネメシス正教会が認可したきわめて正義性の高い倫理的な精神安定薬だ」
 錠剤をひとつ手に取り、指先でもてあそぶ『黒猫の』ショウ(p3n000005)。
「効能は複雑なんだけど……一言でいうと倫理性が向上する。不正義な行ないに対して敏感になり、罪悪感を得やすくなり、興奮を抑える。
 ……ああ、断わっておくと、ネメシス正教会はこの服用を求めているわけじゃない。誰にもね」
 周囲からの嫌な視線にショウは笑って応えた。
「ただ人より興奮しやすかったり、罪悪感を感じづらかったり、『国のしくみ』に順応しにくい子供が育ってしまったとき、万一のリスクをさけてこの薬を定期服用させることがある。彼らなりの安全装置なのさ。危うい素質があるだけでのど笛を掻き切ってたら、人間が何人生まれても足りないだろ?」
 錠剤をケースに戻し、ショウはそれをテーブルの向かい……イレギュラーズたちへと突きだした。
「今回、『邪教徒によるholy製造工場の襲撃計画を察知したので、徹底的な武力によって撃滅してほしい』……というのが、依頼内容だ。依頼主は勿論、工場の管理者だよ」

●神を見たことが無いなら
「襲撃を計画しているのは天義の地下組織『グリーンエイジ』。
 人間は生きながらにして自由であり何者の束縛もあってはならないという主張のもと、この施設の襲撃を行なうらしい。
 ま、俺もこの薬を歓迎しようって気持ちはないけど、だからってテロリズムはどうなのかな。
 ……なんてね。思想や主義は関係ない。これはローレットの受けたオーダーであり、それを遂行することがルールだ。
 話を進めるよ?」
 襲撃に参加するグリーンエイジの構成員は分かっているだけでも10名。
 実際には10~15名と予測されている。
 そのうち中心となる人物は3名で、他と比べても特に強い戦闘能力を持っているという。
「彼らはコードネームで呼び合っていて――ザクセン、フランク、アレマンという。
 それぞれ部下を率いた小部隊を組んで別々の方向から攻撃するとみられてる。
 ザクセン率いる陽動部隊は正面から。フランク率いる破壊部隊は裏から、アレマン率いる遊撃部隊は状況に応じてどちらかに加わる仕組みだ。
 わかってるのはここまで。これ以上は現地で対応するしかない。いいね?」
 holy製造工場は正方形のきわめて整った建物だ。やや高い金属フェンスで覆われており、フェンス内部への立ち入りは一応禁止されている。
 防衛はこの周囲に展開する形で行なわれることになるだろう。
 土地は木々の多い森とやや開けた道路に面しており、正面入り口は道路に面している。
「念を押して置くけど、オーダーは徹底的な武力による撃滅。その場で殺しても引き渡してもいいけど、どちらにしても殺される筈だ。そこの判断は任せるよ」

GMコメント

【オーダー】
 『グリーンエイジ』の撃滅。

 詳しくは生死不問とされていますが、最終的には全員死ぬことになるので倫理的ないしは依頼人の利益を鑑みて捕獲を試みたい場合は戦術的に余裕ができてからにしてください。今回は不殺スキルを使用して倒せない限り大体死ぬものとします。
 ざっくり言うと、相談の優先順位的には最後にしてください。
 なお、とらえて情報的価値があるのはザクセン、フランク、アレマンの中心人物三名だけです。

【グリーンエイジの作戦】
・正面陽動チーム
 ザクセン率いるチーム。
 獣種が多く、ザクセンも蛇獣種。
 武装は主に神秘攻撃型に寄っており、R1~4までバランスよく組まれている。
 少数はタンクおよびヒーラーの構成。勿論ヒーラーの護りは堅い。
 ザクセンは味方の強化と回復を得意とし、扇動や鼓舞などによって味方を活気づける。

・裏側工場破壊チーム
 陽動が動いたの同時に仕掛けるチーム。
 ぶっちゃけ同時に仕掛けた時点で陽動が陽動になってないので、計画がバレても問題ない作戦な模様。
 森に紛れてすぐ近くまで接近し、機動力や反応、回避を上げての正面突破を仕掛けてくる。
 リーダーはフランク。クローバーのはえたハーモニア。そんなわけで植物と意思疎通できる。
 コツは『ブロックを増やす』こと。ラインを突破されると手出しがしづらくなるので、極力フェンスの外側で彼らを倒そう。

・遊撃チーム
 アレマン率いるスカイウェザーチーム。
 全員飛行可能。メンバーで連携して視力聴力嗅覚をブーストしており、複数のファミリアーによって戦場を広く観察している。
 戦力的に足りない所に加わる計画になっており、場合によっては二手に分かれることも。
 アレマンはレイピアを使った近接戦闘型。強い再生能力をもち味方を二人同時に庇うことができる。
 部下は攻守バランス型。攻撃と回復を大体のメンバーがスイッチできる。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • Holy Holy Holy完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月24日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
ノワ・リェーヴル(p3p001798)
怪盗ラビット・フット
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

リプレイ

●Holy Holy Holy
 フェンスに囲まれた真っ白な正方形。
 窓の無いその建物は大地にめりこんだ異物のようにも、いびつなものをしまう箱のようにも見えた。
 風にのって流れるのは土と草と無香料消臭剤のにおい。
 その中に混じるわずかな消毒用アルコール臭に、『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は黙って眉を動かした。
「精神安定薬ねえ……」
 『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)は腰に手を当てて、ルチアーノと同じように建物を見ている。
 詳しく調べたことはないが、幻想にしろ天義にしろ精神医療がさほど普及しているようには見えなかった。
 彼がかつていた世界にはそういう施設が山ほどあって、それを利用する者や利用を必要とするであろう者が山ほどいたように思う。
 そのうえで。
「どうにも都合のいいように物事を運ぶために使ってるように聞こえてならねぇなぁ。今回のオーダーには従うけど、釈然としねぇ……な?」
 意見を求められて、『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は小さく首を傾げた。
「この国の在り方は共感できずとも、少なくとも、この薬は、国に取っては必要なのでしょう」
 なんとなくの印象として。
 建物はネメシスという国が民を従順ななにかにしようとしている象徴にも見えた。とはいえ目に見えているのは箱の外側だけで、それがどんな使われ方をしているのか、実際どんな人が使って、どう生きているのか。知らぬ以上、印象でしかないのだけれど。
 あとは任せますよと言って、雪之丞が建物の裏手へと歩いて行く。
 入れ違いに『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)がやってきた。
「人にはそれぞれの正義がある。故に、私は『グリーンエイジ』たちの正義を否定するつもりはない。――だが、この薬品の製法、副作用、諸々の知識はあまりに惜しい。故に知識を集めるという――『私自身の正義』に従い、妨害させてもらうとしよう」
 なるほど、そういう考え方はしっくりする。
 みつきは複雑な表情のまま、表に顔を向けた。

 一方裏手側。本来の配置につくべくやってき雪之丞を横目に、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は既に戦闘の姿勢に入っていた。
「彼ら『グリーンエイジ』の言うこともご尤も、しかし無法を通すは騎士の名折れ。意志を押し通すのがどちらであるか、この拳にかけるであります」
 なぜ敵になげかける言葉をいま述べるのか?
 その答えを示すかのように、『麗しの黒兎』ノワ・リェーヴル(p3p001798)が上空を旋回飛行する鳥を見た。
 こちらがファミリアーを利用して周囲の警戒にあたるように、相手もまたこちらの戦力分布の把握を始めているのだ。
「申し訳無いがこちらも仕事なもので手は抜けないんだ。とは言え大人しく投降するならここで引導を渡された方がましかな? であれば……」
 足下を不自然にちょろちょろと走ったネズミを捕まえて殺し、近くに投げ捨てる。
「お望み通りに怪盗(僕)らしく今宵は君達の命を頂戴するとしよう」

「っ……!」
 『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)が思わず片目を瞑った。
 胸に走る痛みのようなものをこらえ、胸元を掴む。
「偵察に飛ばした鳥が殺されたみたい。探り合いはお互い様ってわけね……」
「ひぃー、普通の依頼は初めてなのに敵さんが何か怖いのよ。人と殺し合うのって初めてだし。やっぱり部屋でじっとしてれば良かったのよー」
 『魔女見習い』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)は盾を胸の前に翳すようにしていた。飛んでる鳥を(ファミリアーの制御下にありそうな気がするからと)いきなり殺すような人たちをまあ見たことが無かったのかもしれない。ファミリアーで使役していた黒猫も殺されては大変だといそいで解放して、自分の持ち場へと走った。
 一方でエスラは木々のざわつきを感じて身構えた。
「来るわよ。構えて」
 直後、無数の魔法弾が放物線を描いて飛来した。

●正しさと狂気
「みんな、バリケードの後ろに!」
 ルチアーノは予め作った簡単なバリケードの後ろに飛び込むと、剣形態になっていたシグを手に握った。
 バリケード越しに外を見ると、『グリーンエイジ』の正面陽動チームが杖や魔導書を用いて魔法射撃をしかけているのが見えた。
 それらの中央で支持を出しているのがリーダーのザクセンだろう。察するところ、味方の反応や回避といった能力を広く引き上げているはずだ。
 と思ったところでバリケードの板が吹き飛んだ。
「それじゃあ早速……!」
 ルチアーノは外へ飛び出すと、相手を挑発しはじめた。
「亡命した方が早そうなのに。何故『正義』の国に居ながら『不正義』するの?」
 ネメシスに反抗する過激派組織だけに正義というワードに敏感だろうと判断しての挑発だった。半分ほどは当たっていて、ルールや束縛といった部分に対してグリーンエイジのメンバーは過激に反応し、ルチアーノを優先攻撃対象に選んだ。
 ルチアーノと簡易的に契約していたシグがほぼ同時に異想狂論「偽・烈陽剣」を発動。『知識の魔剣』の力をもって、炎のエネルギー体が迸った。
 シグの炎とグリーンエイジたちの炎が交差し、互いを包む。
 みつきが急いでルチアーノの後ろへとまわり、ハイ・ヒールの魔術を施し始めた。
「おいおい、奴ら反応しすぎじゃないのか? 嫌なこと言われたからって急に群がるとか暴徒かよ!」
 対象の感情をざらつかせるタイプの挑発は訓練や統率のなされた兵隊には通用しないことがあるという。サラリーマンがヤなこと言われたくらいで仕事を投げないのと同じ理由だ。
 しかしそこはザクセンという扇動を得意とするリーダーが率いるチーム。
 ザクセンはすぐさま仲間たちに範囲BS回復と号令をかけると、ルチアーノへの攻撃を取りやめ回復担当らしきみつきへの集中攻撃を命じた。
「やっぱそうなるよな! 真面目過ぎんのもどうなんだ!?」
 大量の炎や魔術弾が飛来するなか、今度は自分に回復を集中させるみつき。
「長く持たねえぞ! さっさと終わらせてくれ!」
「そのつもりよ」
 エスラは指先に血色の魔術液を浸すと、空白の魔術書に花の文様を描いた。
 浮き上がった血色の魔術体が悪意の花となって咲き、ザクセンへと襲いかかる。
「お仕事なの。ごめんなさいね」
 ザクセンたちのチームにおける弱点は、ザクセンを中心とした円形+アルファに味方を配置していることだった。シグの烈陽剣をはじめ範囲攻撃のセッティングがしやすいのだ。
 シグから離れて走るルチアーノ。エネルギーウォールを拳に纏うと、グリーンエイジの一人を直接殴りつけた。
「今回のテロは封じさせてもらうけど、小さな火がまた立ち上り続ければいずれは大きな炎となるかもしれない。少なくとも僕はこの事件も、殴られた痛みも覚えておく」
 一方で再び烈陽剣を放ったシグはクルクルと回転し、地面に刺さる――ようにみせて、人間形態へとチェンジ。足から着地し、眼鏡のブリッジを中指でおさえた。
「契約履行。戦闘を続行しよう」

 施設裏側でも戦闘は起こっていた。
 木々を割るようにジグザグに走って接近するグリーンエイジのメンバーたち。フランクをリーダーとするスピードタイプのチームだ。
 施設よりやや前に出た位置で待ち構えていたリェーヴルは、叩き付けるように大毒霧を発動。至近距離から放たれた毒霧がフランクを覆う。
 最低でも二人以上は巻き込んだはずだが、彼らは毒霧を回避してリェーヴルの横を駆け抜けた。
 リェーヴルはリーダーだけは逃すものかと剣を翼のように広げ、正面からぶつけ合う。
「そっちへ言ったよ」
「ひぃ……っ」
 リーゼロッテは通せんぼをするように立ち塞がったが、死なばもろともの勢いで突っ込んでくるグリーンエイジのメンバーを正面からうけることになった。
 翳した盾が相手の銃弾を弾く。直後に銃のストックを鈍器のようにしてぶつかってくる相手に、リーゼロッテは身を硬くする。
 激突したメンバーをおいて、更に先へと進もうとするグリーンエイジのメンバー。
 木の後ろから飛び出したエッダが、魔術手袋をはめた相手に拳を繰り出した。
 鋼の拳と魔術の拳が正面から激突。
 ふいた衝撃が周囲の木々と草を大きく払った。
 が、メンバーはあと二人いた。
 施設へと突入しようと走る二人。
 しかしエッダはそれを目で追うことすらしなかった。
 なぜならば、最後の一人の能力を知っていたからだ。
「――」
 空を切り裂くように走る水の魔力。
 振り切った刀をそのままに、大きく開いた手を突き出した雪之丞が立ちはだかった。
 彼女の存在は大きく、たとえ二人がかりであっても突破は難しいと思われた。
「どうやら、こちらの人数は足りたようですね」
 ならばと魔力を込めた剣で飛びかかるグリーンエイジメンバー。
 雪之丞はそれを刀で受けると、反対側から打ち込まれた魔術弾を自らの周囲を走る竜のごとき魔力体で弾いた。
「この薬を否定するならば……この薬によって、天義に断罪される人々が増えても、構わないと? 自由のためなら、自由の名のもとに犠牲を肯定するのでしょうか」
「人は何者にもとらわれない! それゆえにくたばるのなら、その者が弱いだけだ!」
「……それでは天義となにもかわらない」
 雪之丞は目を細めた。
 一方で杖による魔術乱射をひっしにしのぐリーゼロッテ。
「意思はあっても、何かを変えるには力が足りなかった。ただそれだけの話なのよ」
 身を裂かれるような痛みをこらえ、森の魔術を行使する。
 木々の葉が季節の香りにのって舞い、刃となって敵へ走る。
 その手前ではエッダが魔術系の格闘術を用いるグリーンエイジメンバーと真正面からの殴り合いを展開していた。
 鋼の腕を強化し、顔面を狙ってストレートを打ち込むエッダ。
 対する相手は魔術の拳に炎を纏わせ、エッダの顔面を狙う。
 拳の端がこすれあい、火花を散らし、クロスした拳が違いの顔面を打った。
 一方のリェーヴルはもっぱらの格闘戦だ。
 ナイフを用いるフランクの攻撃を、二刀流の剣さばきで対抗する。
 リェーヴルの皮膚が裂け、フランクの皮膚が裂ける。
 さらなる踏み込みで繰り出したフランクのナイフがリェーヴルの腕に突き刺さるが、リェーヴルもまた剣をフランクの足へと突き立てた。

 はじまったばかりの戦闘は、イレギュラーズたちの優勢だった。
 勿論、二つのチームを相手にしている間だけの話である。
「アレマン殿、我々は……?」
「戦力を分ける。同志ザクセンには貴様が、同志フランクには私が行こう。急げ!」

●きみの苛つきは無駄なんかじゃない
「こンのやろ……っ!」
 みつきは呪符を何枚も握り込んで固めた拳で、きたる魔術衝撃を殴りつけた。
 破壊した衝撃は半分。残る半分をくらって軽く身体が吹き飛んだ。
 ふと目をやれば、グリーンエイジの人間が死んでいる。
 数にものを言わせた正面突破は、シグやルチアーノやエスラたちの破壊力によって今大きく崩れつつある。
 それでも敵の猛攻は激しく、みつきは今や大粒の汗を流している。胸から酸っぱいものが上がってくるようで、口の中がずっと苦いようで、改めて舐めてみれば血の味ばかりした。
「リーダーを狙い撃ちしとけばよかったか? いや、これもこれで面倒そうだったしな……!」
 ザクセンのチームは味方の強化と回復を使い分け、人数との相乗的効果で引き上がる総合力をぶつけてきた。
 数が多く強化を継続的に行なう必要があるために敵は固まりやすく、そこを狙い続けていたが、かえってヒーラーの除去が後回しになって戦闘が長引いた側面もあった。
 そうなってくると……。
「俺が戦えるのはここまでだ。後は頼むぜ」
 倒れざま、視界の端に映る敵の死体を見る。
(捕まって嬲り殺されるよりは、信念を貫く戦いの中で散れて本望だったろうさ……)
 みつきが倒れるのと時を同じくして、アレマンたちの遊撃チームが戦闘に加わってきた。
 やや高所からアサルトライフルによる射撃。
 相手のヒーラーを狙って行動しはじめていたシグが横からの射撃に飛び退いた。
「このタイミングで遊軍か。意外と遅いな」
 ザクセン(強化役)を後回しにしたためかヒーラーへの【封印】攻撃がハマりづらいことに悩まされていたのだが、ここへ来て厄介ごとが増えた印象だった。
 だが、それでも戦力はまだこちらが上だ。相手の遊軍投入がワンテンポ遅いことが、こちらの勝因となるのだ。
 シグは魔方陣を展開し、相手の生命を破壊した。
「こっちは私がなんとかするわ……!」
 エスラがアサルトライフルで集中砲火をしかけてくるスカイフェザー二人に対して急速接近。
 壊れたバリケードを踏み台にしてジャンプすると、キルザライトの魔術を高速展開した。咄嗟に防御魔術壁を展開するが無意味。エスラの魔術は魔術壁を突き破って走り、相手の頭を吹き飛ばした。
 戦いはもつれ、何人も殺し、そして何人かは倒れた。
 残ったルチアーノは、仰向けに倒れるザクセンへと歩み寄る。
 ザクセンの片足はなく、立ち上がることも難しそうだ。
「何か言い残すことがあれば、聞くよ?」
「呪われろ、偽善者ども」
 ルチアーノは悲しげに目を細めた。
 ザクセンの目に、ルチアーノは映っていなかったのだ。
 仮に目が見えていたとしても、ルチアーノのことは見えていなかっただろう。彼には……彼らには、もう何も見えていなかったのかもしれない。
 なにか見えない巨大な陰謀を破壊して、『でっちあげた現実』に浸っていたのかも知れない。ありもしない敵と戦う正義に、浸っていたのやも。
 ルチアーノは首を振って、拳を振り上げた。

 アレマンの鋭いレイピアさばきを、雪之丞は刀で受けていた。
 刀身にはしる水の魔力がレイピアを流すように払い、返す刀がアレマンの首を狙う。
「負けはせぬ! 我らの自由のために!」
(自由とは、あぁ、実に。傲慢な考えでしょう。傲慢であり、共感するところでもあります。我ら鬼とは、もとよりそちら側ですから。ですが……)
 アレマンの刀が雪之丞の胸を貫く。
 だが、彼女を倒すにはあと数センチだけズレていた。
 そしてコンマ一秒足りなかった。
 雪之丞の刀が、アレマンの喉を貫いていた。
「力を伴わない自由など、妄言に過ぎません」
 横たわるグリーンエイジの死体。
 目に涙をたたえナイフを繰り出すはフランク。
 それを相手にしていたリェーヴルは、互いをめちゃくちゃに破壊しあいながら戦っていた。
 片腕がそろそろ上がらなくなってくる頃だ。
 リェーヴルは片手で剣を握り、もう一本を足下へ落とした。
「ネメシスのやり方は間違っている。人々は野に放たれるべきだ。国から与えられた家も、服も、立場も財産も全て捨て去るべきなのだ!」
「それを、僕に言ってどうするの?」
 小首を傾げてみせるリェーヴル。
「なぜ分かろうとしない! なぜ我々を理解しない!」
 ナイフを握って突撃してくるフランク……を前に、リェーヴルは足下の剣を踏みつけた。
 跳ね上がる剣。それを剣で払い、勢いよくはねとばす。
 フランクは回転しながら飛来した剣に刺さり、膝から崩れ落ちて動かなくなった。
「やり方のせい、じゃないかな?」
 真横をはしる魔術の衝撃。
 それはエッダとグリーンエイジのスカイフェザーが打ち合ったものだった。
 マジックライフルによる魔術弾が乱射される。
 エッダはそれを鋼の拳で右へ左へと打ち払い、無理矢理に突き進んだ。
 ダメージがないわけではない。むしろ彼女は虫の息とすらいえた。
 だが立ち、歩み、そして拳を握っていた。
「不正義な行ないに対して敏感になる。それはつまり畏縮させるということ。holyの効能はもはや倫理感の向上ではありますまい。ただの神経過敏だ。責任上、生まれ持つものの論議は置いておくとして、この薬が不誠実であるのは相違ないであります」
「その通りだ! 我々は正当なる主張のもと、こやつらを断罪しているのだ!」
「が、無法が通る世を許せば、次に流れるは自由を奪われた人の涙やも知れないであります」
 頭から血を流し、身体から血を流し、あちこちから流れる血で服を真っ赤に染めながら、エッダは相手の銃口を掴んだ。
「故に、お覚悟なさいませ」
 はしる拳が、相手の顔面を破壊した。

 深く、深く、息を整える。
 リーゼロッテはまるで生きた心地がしなかった。
 なじみ深いと思ったはずの芝も、木の皮も、蜜蜂の羽音も、なにもかも遠く思えた。かつて修行をした森は、もっともっと遠くに思えた。
 仰向けのまま横を見る。
 草地は血にまみれ、死体があちこちに落ちている。
 枝にひっかかった何者かの腕がぶらさがり、血がとめどなくしたたり落ちている。
 敵は全員死んだが、自分も仲間もまるで無事ではなかった。
「乗り切ったけど気分は最悪なのよ」
 身体を起こして、土を払う。
「この国から一刻も早く出たい感じだわ」
 出て、そして、どこへゆくのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――hallelujah!

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