PandoraPartyProject

シナリオ詳細

みんなー! かわいいバニーさんと遊ぶ依頼だよー!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●残念だったな!
「俺だよ!!!!!」
 みなぎる上腕二頭筋。躍動する大胸筋。
 左右の大胸筋を交互にピクピクさせながら筋肉腹話術で『ザンネンダッタナ』と喋るこの男は巷で噂のバニー詐欺師である。
 竜宮城からバニーさんが来たという噂がここ海洋の楽園シレンツィオに広がったことで現れたこのバニバニ詐欺の手口はシンプル。『バニーさんがあなたに会いたがっています』とかいうメールをなげてホイホイやってきた所を筋肉で取り囲んで金を脅し取るというものである。
 ビキニパンツにスキンヘッド。申し訳程度に装着したウサミミカチューシャを左右にびよんびよんさせると、筋肉は哀れにも誘いに乗ってしまった子金持ち観光客に屈強なショルダータックルを浴びせ、ヘッドロックをかけ、最後は顔を掴んで吊り上げるなどしてボコすと相手の財布を一通り抜いて去って行ったのだった。

●許せねえよなあ! なあ!?
「そんなこといわれても……」
 カルネ (p3n000010)は困惑した様子でウサミミカチューシャを手にしていた。左右にびよんびよんさせてその様子をを観察している。
 ここはシレンツィオリゾート三番街、ブルジュ・アル・パレストホテルの一室。
 シレンツィオの依頼だってぇことでホテルを取ってくれたらしいが、ぶっちゃけ支部からワープできるので一泊する必要すらないローレット・イレギュラーズたちである。なのに高級ホテルて。
 依頼人の金持ちっぷりがわかるエピソードであるが……そうまでするだけの価値が今回の事件にはあるということだろうか。
「みんな、バニバニ詐欺は知ってるよね」
 そんなオレオレ詐欺みたいに常用語として出されましてもとあなたは思ったかもしれない。
 『なによバニバニって知らないの私だけなの!?』て思ったかも知れない。
 安心して欲しい。みんな知らないし私も今日初めて聞いた。
 カルネは誰も聞いたことがないらしい様子に頷くと、あらためて説明を始めた。
「たとえばシレンツィオリゾートへ観光にやってきたちょっとしたお金持ちがいるとするよね。ボディガードをつけない程度の、たまのバカンスに一人旅をしに来たような人だ。
 そんな人のホテルの部屋にこうして……」
 カルネは一度部屋から外に出て扉をしめると、ドアの下からスッとメッセージカードを滑り込ませた。
 バニーガールのシルエットが描かれたそれを裏返してみればこんなメッセージが書かれていた。

 ――素敵なあなたへ
 ――私は竜宮城のバニーです。あなたといわゆるバニー交際がしたくて連絡をとってみました。
 ――本気であなたとバニー関係を結びたいと思っているので話だけでも聞いて頂けると嬉しいです。
 ――恥ずかしながら社会的な立場もあってまともなバニー交際をできる相手がいないのです。その代わり、バニー限りの割り切った関係を結んでくれる相手を欲しています。
 ――まずは500万GOLD用意しました。一度会って頂ければお渡します。

「なんでこれで会いに行っちゃうかな」
 がちゃりと扉をあけて入ってくるカルネ。装着されているウサミミ。
「このメッセージカードは、実際この部屋に投稿されたものだよ。おびき出すために今日一日ボクがホテルをとってそれらしい振る舞いをしてたんだ……」
 割と不本意な行動をしていたらしく、カルネのウサミミはしょんぼりとたれていた。
「けど、幸いにも釣り餌にかかってくれた。あとは現場にいって偽物のバニーを倒すだけだね!」
 がんばろうね! そういってカルネはガッツポーズをとる。
 彼が真っ先に筋肉たちに取り囲まれる役になることを、どうやら忘れようとしているらしかった。

GMコメント

 やあ
 ようこそ、バニーハウスへ。
 このバニーカルネはサービスだから、まずは見て落ち着いてほしい。

 そう、また……なんだ。すまない。
 バニーの耳も三度までって言うしね。謝って許してもらおうとは思わない。
 でも、この依頼タイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せないときめきみたいなものを感じてくれたと思う。
 殺伐とした混沌世界で、そういう気持ちを忘れないでほしい。そう思ってこの依頼を作ったんだ。

 じゃあ、注文を聞こうか。

●オーダー
 偽バニー(筋肉)の集団をたおすよ!

 たおすよ!
 あとカルネくんが誘われたテイで逆におびき出す作戦なので、カルネくんが筋肉に囲まれて圧迫されるところまではやるよ。

 なのでこの依頼にはカルネくんが同行するよ。
 彼は主に仲間の盾になったりそこそこの反応値で連鎖行動をとったりしてくれるよ。
 https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000010

●エネミー
 偽バニーだよ。
 主に筋肉でできているよ。多分この辺で荒稼ぎしてる悪党だね。
 吊し上げておまわりさんとこに持っていこう。
 あとフィールドはどっかの裏路地とかだよ。

================================
●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

  • みんなー! かわいいバニーさんと遊ぶ依頼だよー!完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

サポートNPC一覧(1人)

カルネ(p3n000010)
自由な冒険

リプレイ

●慟哭
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 血の涙を流し、大地を両手でぶったたく『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)がいた。
 世の悲しみっつーか不幸っつーか、歩いてたら箪笥の角とかに小指ぶつけたときの感覚をエンドレスで味わい続けていた。
「騙されても良かったんだよ僕は。
 ぱよんでぱつんのバニーさんなら、例え超絶高額な金銭を要求されても僕は喜んで払ったんだよ分かるかなぁ」
 黒人スキンヘッドのメンズバニーが大胸筋を交互にピクつかせながら言った。
「ワカルヨ」
「うるせー!」
 その顔面にデア・ヒルデブラント。
「責任をとらせる。出来るまでヤラせる。ダメなら筋肉を一枚づつ剥ぐ。無くなっても出来るまでヤッて貰う。納得行くまで。何度でもだ」
 覚悟の準備をしてください! て言いながら槍の柄の所でべしべし叩き続ける夏子。
 こうなった経緯をそろそろ説明したほうが良い気がする。

●カルネくんがいた時点でこうなるのは解ってた
「えぇ……」
 ウサミミを頭に装着したカルネ (p3n000010)の四方をバニーさんが囲んでいた。筋肉が囲んでいたって表現してもいい。
 その様子を影から見守る『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)。
「タダ酒とバニーは疑ってかかった方がいいってのは、俺はこの夏に学んだ。後者は具体的に言うと闇バニーあたりで」
 竜宮城からバニーギャルがやってくるという、なんか長く続きすぎてどうかしちゃった週刊漫画のネタみたいな現象がおきたせいでシレンツィオリゾートではちょっとしたバニーブームがおきていた。
 しかしバニーガールしか住んでないマンション(昔実際にあったんだよそういうのが)がシレンツィオにあるわけでもなく、高級カジノくらいにしかいない存在をテキトーに用意することもできないってんで各所ではずさんな管理のもと低品質なバニーが出回るという事件に発展していた。ていうか竜宮城から来たのは当時一人だけであり、バニーだらけの竜宮城とやらに飛び込むのはまだもうちょっと先のことなのだ。
「それはさて置き、カルネも大変だねぇ。
 久々に元気そうな姿…と言っていいのかわからんが――を見られて安心したぜ。夏の暑さは鉄騎種には辛いだろうからな」
 あとたまには仕事を選べよお前さん、と影から心に語りかける十夜。
「バニバニ詐欺。まさかこのような実態だったとは……。
 全く持って許し難い。バニーという言葉につられる存在を対象にした詐欺があるだなんて、全く持って許せません……」
 『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)はおひねり用に丁度良く束ねられた紙幣を手の中でくしゃっと握りつぶし、両目から黒い涙を流した。
 アイシャドウひくまくってるんでもないのになんで涙が黒いのかぜんぜんわからんが、似合いすぎてるので誰も突っ込まなかった。
「個人的にバニーであれば老若男女問いませんが、兎耳カチューシャを付けているだけの存在はバニーでも逆バニーでも無い存在。これはしっかり仕立て上げないといけませんねぇ」
「えっ」
 『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)がビミョーな顔で振り返った。
「男性のバニー……それもいいと思いませんか」
 黒い涙を流しながら目を見て語りかけてくるバルガルに、アーマデルはいやいやまさかと首を横に振った。
「アーマデルさんがなって頂いても構わないんですよ」
「フッ、ありえんな」
 アーマデルは今日一番のイケメンフェイスで目を光らせ、被っていたフードをふぁさっとあげた。
「仮に竜宮城と交流をもったとしても、文化的に混じり合うかといえば話は別だ。
 俺は絶対、バニーになどならない!」
 → https://rev1.reversion.jp/illust/illust/69190
 いま未来のネタバレをくらった皆。実現する日を楽しみにしててね。
「最初に聞いた時はその内容に困惑しましたが……偽バニーの慣れたやり口を見るに、カモにされた人は割といるようですね。
 『騙される方が悪い』という言葉もありますし、実際に犠牲者の警戒心が薄いのは確かですが、しかし僕は騙す方が100%悪いと思います」
 ですよね! と後ろにいる仲間に同意を求めるように振り返る『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)。
 『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)と『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)が顔を見合わせ眉を動かす。
「私もね……、公序良俗に反するのがTPO弁えずに出てきたらそれはどうかなぁ、ってコメントしようと思ってたんだけどね……」
「バニバニ詐欺って……。今更、こんな美人局もどきの詐欺に引っかかる人がいるのが驚きだけれど、開放的な観光地だと気も緩むのかしらね」
「世の中予想できないような事が多いとは思うけど、こんなあからさまなのに引っ掛かる人っているんだねえ……」
 『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)はそんなふうに呟いてから、ふと『生存バイアス』という言葉を思い出した。
「バニバニ詐欺とかもう仕掛ける方も引っ掛かる方もしょうもないように思ったけど、実際そうなのかな」
 イリスはウーンと悩むように唸った。いかにもすぎる詐欺メールは、それに引っかかるくらい愚かな人間を数打つことで捜し当てているという話もある。バニバニ詐欺もおそらくめっちゃ沢山のお手紙がゴミ箱に叩き込まれてきたのだろう。
「とりあえず、目の毒にしかならない偽バニーはさっさと殲滅しておきたいところよね。カルネ君の精神衛生は心配だけれど……」
「あとシレンツィオの品位も心配だわ」
 ルチアは『品位?』と小首をかしげたが、イリスの背景を考えればわかることである。
 なんといってもイリスのパパはフェデリア総督府の総督である。
 『そうとくー、バニバニ詐欺の対策はどうなってるんですかー?』とかマスコミに質問される父を見たくないだろう。誰だってそうだ。それがあのひたすらに格好良い総督となればなおさら。
「やるわよ皆、兎狩りよ」
 囮として偽バニーに囲まれてわっしょいわっしょいされているカルネ君をみながら、イリスや悠たちは重い腰をあげるのだった。

●覚悟の準備をしておいてください
「責任をとらせる。出来るまでヤラせる。ダメなら筋肉を一枚づつ剥ぐ。無くなっても出来るまでヤッて貰う。納得行くまで。何度でもだ」
 そしてここに至る。
 夏子は悲しみのパンチで偽バニーを殴り飛ばすと、はあはあと荒い呼吸を整えた。
「というわけで一番手頂きました。このボブがかわいいバニーさんになるまで殴るからあとは宜しくね」
「う、うん……」
 ひとが変わったようにボブ(いま名前つけた)をいためつけはじめる夏子。
 助け出された側であるところのカルネは『触れたらダメな状況だな』と思ったのか夏子からススッと距離をとった。
 一方。
「ファック! 罠ダ!」
「コイツラ、カクレテイヤガッタ!」
 ボブ以外の偽バニー(バニーボーイとは間違っても呼ばない)たちが全身の筋肉を隆起させる。
 ただでさえ筋肉ムキムキのマッチョマンたちがダブルバイセップスっぽいポーズを取った途端、両足が突如ボンッとパンプアップし続いて腰、腹、胸と順にパンプアップ。最後に両腕を一気にパンプアップさせると、ハッと白い歯を輝かせて笑った。
 皆さんもうお気づきかもしれない。この時点でこのお話の美味しいところは全て食べきったということに。
 ゆえに――。
「i know the truth so i will kill you!!」
 それまでのカタコト発音は何だったんだろうってくらい流ちょうに叫ぶと金髪の偽バニーことカニンガムがショルダータックルを浴びせてきた。
「うるさいわね! ウチのシマ(ものすごい射程の広い広義の意味)で何してくれてるのよ!!」
 イリスはあえての徒手空拳スタイルで割り込み、タックルにタックルを浴びせるような格好でぶつかっていく。
 世界で通用するレベルの戦闘能力を持つイリスのタンクモーションである。常人であれば襲いかかった方が潰れるほどだが、しかしカニンガムとイリスのタックルは正面から衝突。互いのボディは一瞬だけギュッと細くなったかと思うとその衝撃を片側の腕を後方に伸ばしパッと手を広げることで逃がした。後方に放射状の破壊が広がり、側面の窓ガラスが二人の衝突地点を中心に割れていく。
「エッ!? 急に真面目な戦闘シーンが始まってる!?」
 夏子がハッとして振り返るが、そんな彼の反応をよそにバルガルとアーマデルがそれぞれ別の偽バニーたちへと襲いかかった。
 コーカソイド系偽バニーのアルデッセンとアジア系偽バニーのホンウンである。
 感情がわからないほど目を細め歯を見せた笑顔を作る。それが威嚇であり顔全体で力むことで全身の防御を固めているのだと、アーマデルたちは戦士の勘で直感した。
 が、攻撃をためらうことなどない。
「お前も立派なバニーにしてやる」
 バルガルは助走を付けて跳躍。ビル壁面を蹴って飛び、更に反対側を蹴って飛び、かなりの高度を確保すると懐から抜いたナイフ放りそこから伸びたロープを使って二度回転。真上へと飛ばす。
「すまない。俺は蛇推しだからしゅっとした体形が美しいと思う性質なんだ」
 一方のアーマデルもバルガルと交差するように壁から壁へと蹴って飛ぶと『蛇鞭剣ダナブトゥバン』を蛇腹状に伸ばす。バシュンと音をたて勢いよく伸びた刀身の先は、バルガル同様真上へと飛ぶ。
 狙いを間違えたわけでは勿論ない。なぜなら、アルデッセンとホンウンが更なる防御を固めるべく両腕を垂直に揃えて顔の前に翳すというボクサーのようなガード姿勢をとったためだ。
 そう、来るのだ。はるか高所より位置エネルギーと引き戻しのエネルギーそれぞれを伴った二人の強烈な斬撃が。
「――!」
 バルガルはロープにあるわずかな伸縮性を利用して『振り下ろす』動作をとると、自らの体重とロープの伸縮。そしてそれらのエネルギーが加わったナイフの重量すべてをアルデッセンへと叩き込む。
 たとえばあなたは自動巻き取り機能のついたメジャーを使ったことはあるだろうか。
 勢いよくシュッと戻るあの動きを初めて自分の手元で体感し驚いたことは?
 あるいは、うっかり指などをぶつけて痛い思いをしたことは?
 物体はその重量と速度によって威力を増し、充分な準備さえあれば糸ひとつで人体を切断することすら可能なのだ。
 それが、アルデッセンのガードした腕をまっすぐに走る。
 無論彼だけではない。
 アーマデルの放った蛇腹剣状態となったダナブトゥバンの根元が食い込み、引き下ろす動作と同時に内蔵したリールが起動。まるでチェーンソーのように高速で『引き切る』動作がはしった。
 ホンウンもアルデッセン同様にガードをするが、二人の攻撃の前に筋肉によって覆われた腕にまっすぐの裂傷がはしった。
 裂傷。つまりは、馬鹿でかいだけのかすり傷である。
「堅い……こいつ、ただの筋肉じゃないな」
「見たらわかります! 偽バニーをつけた筋肉ですよ! もし夢見る青年が見てしまったら、夢の代わりに心的障害と猜疑心を植え付けられてPTSDに苛まれることになるのは必至です! もう二度と筋肉などという単語を口にできなくさせてやります!」
 『テートリッヒェ・リーベ!』と叫ぶと天空から降ってきたかのように現れた大鎌をキャッチ。鎌を振るとパッと黒い花弁の幻影が散り、ハインはアルデッセンめがけて突進した。
 再び防御の姿勢を取るアルデッセンだが、ハインはなにも真正面から斬りかかってやる必要などない。
「――ヴェルテントーア」
 小さく呟いたその途端、彼の背後から闇の扉が両開きに解放された。
 内側に凄まじい力が圧縮されていたのだろうか。開いただけで飛び出してくる激しい魔力が追い風となり、ハインは急激に加速。まるでその場からかき消えたかのように見えるそれは、気付けばアルデッセンの後方に立っていた。
 ハッとして小さく後方へ振り返ろうとするアルデッセン。が、一瞬遅れて五度の『斬撃』がアルデッセンを一週するように走った。
 花が咲くように一斉に飛び散る血。ここぞとばかりにアーマデルは『蛇銃剣アルファルド』に残響弾を装填、発砲。ダメージをこらえようと踏ん張るアルデッセンの胸部に命中したコイン状の弾から悲痛な音色が爆発した。
 悲鳴すらあげられずに吹き飛ぶアルデッセン。
 ホンウンが驚きの表情でそれを見たが、ルチアは隙を逃さず既に動いていた。
「屈強な男性は嫌いではないけれど、それでもこの格好はちょっと……ね」
 コデックスに鋲うちされたボタン式ロックを親指でパチンと外すと、風になびくようにはげしくめくれるページのうち一つを手のひらで押さえるように開いた。
「――『怒りの日、かの日は世界が灰燼に帰す日なり。そはダビデとシビュラが預言せり』」
 まるで魂にでもメモ書きされたかのようにすらりと暗唱したそのフレーズは、確かにそのページに書いてある。そして、まるで遺志をもつかのように文字が輝き――。
 衝撃と共にホンウンの頭上から激しい落雷がおちた。その音はドンでもドカンでもない、まったくのバリンである。大気を無理矢理に穿ってエネルギーが移動、激突したがゆえのこと。
 ルチアはそれで終わりではないとばかりに周囲に不思議な光る球体を生み出すと、そこから次々にホンウンめがけて放電した。
「だから真のバニーにして改心させてあげましょう
 はいこのバニースーツに着替えましょうねービキニパンツなんて甘えさ
 流行りの逆バニースタイルにしてやってもいいんだよ?
 あとは尻尾もしっかり付けて完成ってことで」
 割といつも衣装の概念を壊す(というか着ていない)悠がスッとバニースーツを取り出すと、仲間達へと振り返る。
「このあと……そうだね。『口直し』じゃあないけれど、カジノのバーで飲もうか。正しいバニーが見れるはずだよ」
 そんなフウに言いながら仲間達へと自らの世界を同調、反映、顕現しはじめる。
 まるで理想を形にしたかのような、誰かのためにあるかのような力が十夜やバルガルたちに湧き始める。
「それは素晴らしい」
 バルガルはナイフを逆手に握るとホンウンの肩へ突き刺した。刃をあれだけ拒んでいた筋肉を、今度はいとも容易く貫いた。
「今回は壮大な語り口が思いつかなかった。僕の腕もまだまだってことかなあ」
 等といいながら悠はホンウンを拒絶。己のための世界から切り離されたホンウンはその意義を失い膝から崩れ落ちた。
「悪いな、お前さん方の趣味にケチつける気はねぇんだが…生憎とバニーは見飽きちまってるのさ」
 残る一人、カニンガム。イリスと猛烈なパンチラッシュを撃ち合うその一人に向けて、十夜は刀の柄に小指をかけた。
 かけるのは、小指だけ。
 刀はたったの一㎜たりとも抜かれることなく、十夜は目を閉じ肩を落とした。
 背を深く丸めたさまはまるで酔いどれの有様であり、今にもその場に崩れ落ちてしまいそうなほど脆弱に見えた。
 十夜は「こんな時あいつなら笑うんだろうか」などと思いながら、ある男のマネをしている自分に苦笑した。
 カニンガムの意識が、十夜へ向く。
 ある人は言った。色気とは『すこし押せば落とせそうに思わせることだ』と。
 そういう意味でなら、今の十夜は色気たっぷりだったのだろう。
 そしてその色気が、カニンガムが十夜へ思い切り殴りかかるという――隙を生んだのだ。
「ああ、やっちまったな」
 十夜はいつのまにかカニンガムの懐へ入り、そして振る腕の下をくぐりぬけるように抜けていく。
 その際に、カニンガムの放った勢いの全てがそこにただ置かれただけのような、半分しか抜かれていない刀の刃にふれる。
 前述したように破壊は重量と速度だ。カニンガムはそれを、自らで作ってしまったのだ。
 鮮血をあげ崩れるカニンガム。その頭を踏み潰す勢いで、イリスのスタンピングがトドメをさした。
「あ、ああ……」
 カルネはというと、あまりにスタイリッシュアクションしていたことに気を取られて全然動けていなかった。

●偽バニーはもう出尽くした
 後日談というか、今回のオチ。
 イレギュラーズが動いたことで、街での偽バニー犯罪の検挙が始まった。こうなると早いもので類似する詐欺師グループが次々に見つかり、見つからなかった者たちもすっぱりとこの手法から手を引いたのだった。
「彼らはただ、劣悪な嘘を信じてしまう愚か者を探していただけなのかもしれない。
 本当にひどいことがあるとするなら……疑わず調べない無知と傲慢、そのものだったのかもしれないね」
 今回のお話をとにかく綺麗に収めたい一心で、カルネはそう呟いて報告書のファイルを閉じた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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