PandoraPartyProject

シナリオ詳細

最前線。或いは、脱獄犯を捕縛せよ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●採掘島
 海洋。
 とある鍛冶が盛んな島での出来事だ。
 島には幾つもの鉱山。
 島の港に並んだ鍛冶場からは、いつも濛々と黒煙が立ち昇っている。
「……随分と港の警備が厳重でござるな」
 積み上げられた鉄骨の影から空を見上げて如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はそう呟いた。

 島には大きな港が1つ。
 それ以外の箇所には高い岩壁や崖があって、とてもではないが出入りできそうにない。
 岩壁や崖は人の手で造られたものだろう。
「部外者の立ち入りや、労働者たちの脱走を防ぐのが目的でござろうなぁ」
 空を見上げて咲耶は言った。
 夜のうちに港へ忍び込んでから、結構な時間が経過する。
 東の空には太陽が覗き、辺りはすっかり明るくなった。
 耳を澄ませば、大勢の足音や怒鳴り声が聞こえてくる。
「……火炎瓶にピッケル、それに岩盤破壊用の爆薬でござるか?」
 大挙して港へ押し寄せるのは、どうやら炭鉱夫たちらしい。
 汚れた作業着に身を包み、手にはピッケルや金属の棒、それから火炎瓶やダイナマイトを持っている。
 口々に怒鳴りながら、港へ続くトロッコの線路を辿るように行進しているのだ。
『自由を勝ち取れ! 金貨を勝ち取れ!』
『労働環境の改善を求める! さもなくば、港を明け渡せ!』
『娘と妻にあわせてくれ! 俺たちを故郷へ返してくれ!』
 男たちの叫び声に耳を澄まして、彼らの主張を把握する。
 どうやら彼ら炭鉱夫たちは、半ば島に閉じ込められて強制労働に従事させられていたようだ。
 その中には、見覚えのある顔もある。
 海洋にて指名手配を受けている罪人たちだ。
「さて、どうするべきでござろうか?」
 咲耶は視線を港へ移す。
 島に1つしかない大きな港。
 ぐるりと周囲を囲む高い鉄の壁。その上部には見張りの姿が散見される。
 港へ至る鉄の門は閉ざされており、炭鉱夫たちの装備ではそれを破ることはできそうにない。
 既に何日、ここでそうして戦いを続けているのだろう。
 鉄の壁や門には幾つもの焼け焦げた痕跡が残り、港の前の地面には血の染みらしきものもある。
「港の警備員たちは、銃火器を装備しているでござるな。いかに体力に優れた炭鉱夫たちであっても、鉛の雨には適うまいよ」
 やれやれ、と。
 溜め息を零して、咲耶はその場を移動する。
 背後で爆音が轟いて、地面が激しく揺れ動く。

●2人の指導者
 咲耶が島に忍び込んでから早2日。
 島の調査もひと通りが終わっている。
「圧制を敷く島の管理者と、反乱する炭鉱夫たちの抗争でござるか。港へ至る鉄門付近が最前線……拙者が追う“脱獄犯”は炭鉱夫の側か」
 任務の過程で逃がしてしまった罪人を捕えるために島へと渡れば、図らずも別の騒動に巻き込まれてしまった。
 この騒動の中、罪人5名を捕縛するのは骨が折れるか。
「フィジカルに優れているのは炭鉱夫たち。ピッケルや鉄の棒を武器とした接近戦や火炎瓶とダイナマイトを駆使して港を攻め立てているけど……鉄の門と扉を突破できないでいるようでござるな」
 火炎瓶には【火炎】の効果が、ダイナマイトには【業炎】と【ブレイク】【飛】の効果があることは分かっている。
 一方、管理者側は港に籠城した状態で、迎撃に徹底しているらしい。
 装備は銃火器。直撃すれば【ショック】や【流血】を受けるだろう。
「人数は炭鉱夫たちがおよそ80名。管理者側は30名ほど……港の防御力に救われているでござるな。或いは……」
 島の管理者であるジェットとやらは、炭鉱夫の反乱をあらかじめ予想していたのかもしれない。
 劣悪かつ危険な労働環境。一たび炭鉱夫街へ送り込まれれば、滅多に島から出られない。そのような条件下での労働を強いれば、不満も当然に大きくなるのは当然だ。
「そして炭鉱夫側の指導者はフロットという人物でござるか」
 どちらかの陣営に協力するとなれば、ジェットやフロットに話を通す必要があるか。
 咲耶の手引きがあれば、仲間たちを島か港へ招き入れることは不可能ではないだろう。
 その後、選べる手段は大きく分けて3つほどか。
 1つ、管理者側へ付いて炭鉱夫ごと脱獄犯を鎮圧する。
 1つ、炭鉱夫側へ付いて騒乱の中、脱獄犯を捕縛する。
 1つ、第3陣営として行動し、脱獄犯の捕縛を試みる。
「まぁ、その辺りはお仲間と話し合って決めればいいでござるな。さて……しかし気になることもある。こんな状態でも港からは黒煙が上がっているでござるが……これはもしかして、鎮圧用の兵器か何かを造っているのではなかろうか」
 咲耶の予想が当たっているとするのなら。
 港で造っている兵器は、現在の拮抗した状態を打ち破れるほどのものであることは間違いない。

GMコメント

こちらのシナリオは「監獄島からの脱出。或いは、鉄仮面の囚人…。」のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8068

●ミッション
脱獄犯×5名の捕縛

●ターゲット
・脱獄犯×5
とある任務の過程で監獄から逃がしてしまった罪人たち。
採掘島へ逃げ込み、炭鉱夫の中に紛れていたらしい。
指名手配書があるので、顔を見れば分かる。

・島の管理者陣営×30
港に籠城している島の管理者とその部下たち。
ジェットという名の男性が陣営の指導者を務めている。
【ショック】や【流血】を付与する銃火器を装備している。

・炭鉱夫陣営×80
劣悪な労働環境に嫌気が差して反乱を開始して炭鉱夫たち。
人数は多く、フィジカルに優れる。
反面、装備が貧弱である。
ターゲットである脱獄犯5名は、炭鉱夫として行動している。
指導者はフロットという男性。
ピッケル、火炎瓶、ダイナマイトなどを装備している。
火炎瓶には【火炎】の効果が、ダイナマイトには【業炎】と【ブレイク】【飛】が付与される。

●フィールド
採掘島。
島には幾つもの鉱山と、1つの大きな港がある。
島の周囲は崖になっていたり、人工の壁があったりするため、容易に出入りは出来ない。
港の外周は鉄の壁に囲まれており、1つの大きな金属扉以外に侵入ルートは存在しない。
鉱山から港までは、トロッコ用の線路が敷かれている。
島の樹々はほとんどが伐採されているため、身を隠す場所は非常に少ない。
鉄材などが積み上げられているので、隠れるのならそこにしよう。
※現在、港では“兵器”らしきものを製造中のようだ。それが完成すれば、炭鉱夫たちに勝ち目は無くなってしまうだろう。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 最前線。或いは、脱獄犯を捕縛せよ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
アンリ・マレー(p3p010423)
亜竜祓い

リプレイ

●最前線
 砦のように頑強な港に、1隻の船が乗り付けた。
 船から降りて来たのは8人の男女……現在、島で起きている炭鉱夫たちの反乱を納めるために派遣された者たちだ。
 管理者VS炭鉱夫。
 既に重傷者も多数出ている状況だ。
 戦況としては管理者サイドが優勢だろう。しかし、炭鉱夫たちも怒りを胸に命がけ。油断をすれば、一気に戦況も覆りかねないとなっては、管理者たちも油断をしている余裕はない。
 外部からの協力者とはいえ、素性も把握できない者たちを島へと入れるわけにはいかない。帰還するか、事態が収束するまで沖で待機しているように使いが出された。
「まぁ、当然こっちもそういった対応を取られることは予想済み。そのための紹介状ですからね」
「反乱の鎮圧を手伝う代わりに脱獄犯の5人は引き取らせてくれるよう頼むって方針で問題ないんだよな? だったら、俺がナシを付けて来る」
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)の言う通り、強力が断られることは想定内だ。そのため、数名が有力者からの紹介状を持ち込んでいる。
 イレギュラーズの素性は知れないものの、紹介状は紛れもない本物。となれば、管理者サイドの首領……ジェットという男性だ……としては会わないわけにはいかない。
 挨拶へ向かう『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)を見送ると、残るメンバーは早速行動を開始した。

「強制労働かあ。だいたいこういうのは領主があくどくて民草を使い潰すのがお得意なんだよね」
 港の隅から周囲を見渡し『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は苦笑い。然りと1つ頷いて『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)は、足元に転がっていた空の薬莢を爪先で蹴る。
「反乱というか噛みつかれるのも当然というか……働いてくれる人たちを安いお金とかで使い潰すなんて古い考えにも程があるよね」
 管理者サイドの主な武装は銃火器だ。
 一方、炭鉱夫たちが武器としているのは火炎瓶やピッケルといった火力に欠けるものばかり。鉱山を開くためのダイナマイトなども装備しているようだが、銃火器を相手にするには分が悪すぎた。
 分厚い壁に阻まれて、港へ進行出来ないでいるのだ。

 港の中央には、トロッコを運ぶためのレールが敷かれている。
 現在は封鎖されている正面ゲートを通過して、レールはまっすぐ鉱山まで続いていた。
「噂にきく新兵器とやらはどんなもんかな〜?」
 レールを中心に積み上げられた鉄材や木材。
 それから、ビニールシートをかけられた何か。
 開発中の兵器であろう。それを厳重に警備する数名の男たちへ、『元憑依機械十三号』岩倉・鈴音(p3p006119)が近づいていく。
「っと、あんたらか。他所から来た協力者ってのは……悪いんだが、開発中の兵器だ。見せるわけにはいかない」
「あー、まぁそう言わずに進捗みたいんだけど~」
 仲間でしょう、なんて言いながら鈴音は男性の肩に腕を回した。
 そうしながらも男のポケットへ数枚のコインを滑り込ませる。いわゆるひとつの賄賂である。
「……ま、ぁ、協力者に何も教えないというのも問題か」
 数瞬の迷いを見せたが、男は結局、欲に従うことにしたようだった。
 
 青い空に鳥が舞う。
 その目を通して、地上を見下ろし『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は肩を竦めた。
「労働環境の改善の為に、この島の事を色々と調べましょうか。どんなヤバい事例が見つかるか楽しみだわ」
 港の近くには、炭鉱夫たちが組み上げたバリケードが張られている。
 港を囲む壁の上からでは、バリケードの向こうの様子は窺えないが、空からとなれば話は別だ。
 都合80名の炭鉱夫たちが今なにをしているのか、どのような配置となっているのか。
 鳥の視界を通して事前に知ることが出来た情報は多い。
「何を作っているみたいね。あれは……火炎瓶?」
「ダイナマイトや火炎瓶は厄介だよね。火が着いたら早めに消火しとかないと怖いなぁ」
 イナリの隣に降り立ったのは、白い翼のドラゴニア。『亜竜祓い』アンリ・マレー(p3p010423)だ。
 実戦においては、主に斥候として活動する予定となっている。そのためこうして、イナリと2人で港周辺の状況把握へ出向いているのだ。
「……やけっぱちになって石炭とか狙って着火とかされると怖いよね? 兵器の方に運び込んでたみたいだけど」
 なんて。
 アンリはそう呟いた。

 広い部屋だ。
 港の管理者・ジェットの執務室である。
「協力を申し出てくれたのはありがたいが……真意が見えんな。紹介状は本物のようだが」
 きつい目をした中年男性は、十夜と咲耶をじろりと睨んでそう問うた。
 戦力が増えるから、と素直に喜べない理由があるのだろう。おそらく、労働環境や炭鉱夫たちの扱いについて、余計な詮索を避けたいのだ。
 睨み合いが続いたのは20秒か、30秒程度だろう。
 はぁ、と先に溜め息を吐いたのは咲耶であった。
「隠し事をしても仕方ないでござるな……炭鉱夫として紛れ込んだ脱獄囚を引き渡して頂きたい。代わりにこの反乱の解決に拙者達が手をお貸しするでござるよ」
「脱獄囚を5人か。正直、ここの炭鉱夫たちの大半は他所で罪を犯した者だ。名前や顔は分かるのか?」
 炭鉱夫たちの名前や顔を、1人ひとり確認したりはしていないらしい。
 実際のところ、過酷な環境に耐えきれず命を落とす者も多いのだ。使い捨ての駒を1つひとつ覚えておく必要はない。ともするとジェットは労働者の正確な数さえ知らないのかもしれない。
「まぁ、そいつらは勝手に回収するからよ。邪魔をしないでいてくれりゃいい」
「ならいい。5人減った程度ならどうとでもなるからな」
 十夜へと頷きを返し、ジェットは手元のペンを取る。
 5名の脱獄囚を引き渡す旨を2枚の紙へと記した彼は、その片方を十夜へ渡した。
「契約だ。反乱の解決に尽力するのを忘れるな」

●反乱の好機
 フロットという厳つい男が、炭鉱夫たちの指導者だ。
 荒くれ者を纏め上げるだけのカリスマ性と実力を兼ね備えた偉丈夫で、イナリが空から見た限りでは、炭鉱夫たち全員が彼を中心に動いているようだった。
「正面入り口以外からの出入りは難しそうだったわね。港が海へ突き出すような形をしているからかしら……当然、正面入り口のガードが硬いことは炭鉱夫たちも承知しているわ」
 分厚い壁と正面扉を突破できずに、炭鉱夫たちは数日間を無駄にしている。
 時刻は夕時。
 もう数十分もすれば、辺りは闇に包まれるだろう。
「日中の間、攻め込んで来なかったのは火炎瓶やダイナマイトを用意していたからかしら。それもつい2時間ほど前には準備完了していたみたいだけど」
 港の隅に集まって、イレギュラーズは作戦会議の真っ最中だ。
 鈴音が確保してきた見取り図に、イナリは小石を並べていく。
「港から100メートルほど先……銃火器の射程外に陣地を構築しているわ。それから……ここね」
 並べた小石は、炭鉱夫たちの配置を示すものだろう。
 次いで、イナリが指で指し示したのはジェットの執務室と港の管理棟である。
「作業日誌や作業計画書、それから取引記録や死亡者の記録を回収したいから、この2カ所は守り抜きたいわ」
「逃げたやつらを捕まえた後は、島の管理者側にもお説教が必要だもんね」
 イナリの言葉を引き継いで、アンジュは視線を管理棟へと向けた。
 港の西側……夕日を背に立つ2階建ての家屋がそれだ。
「どちらも人が詰めていますね。資料を盗み出すなら炭鉱夫たちが攻めて来た混乱に乗じて……となるでしょうけれど。いつ来ますかね? やはり明日の夜明けとともに?」
 顎に手を添え瑠璃は言う。
 しかし、咲耶の意見は違っていた。
「否……攻めて来るのなら、今夜遅くになるでござろう」
 そう言って咲耶は空を見上げる。
 遠く、東の空の向こうに厚い雨雲が見えた。

 深夜0時を過ぎたころ。
 空が雲に覆われた。
 しっとりと空気が湿って来た気がする。雨が降り出すとすれば、夜明けごろになるだろうか。
 空から地上を見下ろして、史之は重たいため息を零した。
「こうも暗いと誰が誰だか分からないな。けど、咲耶さんの言っていた通り、連中が動き始めた」
「松明に火を着けたね。どうする? 一旦、戻って戦線に加わった方がいい?」
 クロスボウに矢を番え、アンリはそれを地上へ向けた。
 この状況で矢を射れば、1人か2人は討てるだろうか。
「いや。アンリさんはここで待機で。伝令は俺が行くよ」
 眼下に灯った松明の明かりが、ゆっくりと移動を開始する。
 港の方でも状況は把握しているだろう。
 作戦開始を告げるため、史之は港へ戻って行った。

 夜の闇へ赤が舞う。
 同時に投げられた火炎瓶の軌跡であった。
 その数はゆうに20を超えるが、イナリの調べではその数倍は準備されているはずだ。
「来やがった。志気がたけぇな。連中“波”に乗っていやがる」
 腰の刀に手を添えて、十夜が疾走を開始した。
 一斉に押し寄せて来た炭鉱夫たちを、壁の上から警備員が迎え撃つ。銃器による牽制は、炭鉱夫たちの接近を抑えることに成功していた。
 だが、それがいつまで続くだろうか。
「枯れ木に火を着けろ! トロッコごと門にぶつけてやれ!」
 割れ鐘のような怒声に呼応し、男たちが吠え猛る。
 今の声はフロットだろうか。
「十夜さん! 連中、枯れ木を積んだトロッコを運んでる! 放っておくと煙で視界が遮られるよ!」
 上空から響く史之の声に、十夜は小さな舌打ちを零した。
 港の防衛能力は、その大半が壁と門によるものだ。
 一方で攻撃性能には乏しく、せいぜいが壁の上に並んだ銃兵程度のものである。接近して来る敵を上から狙い撃ち、壁と門を守るというのが管理者サイドの戦略だ。
 しかし、煙で視界が遮られては狙撃の効果も半減だろう。
 万が一、敵に門へと辿り着かれてしまったとすれば……ダイナマイトの一撃で、門が突破されかねない。そうなってしまえば、戦線の崩壊は避けられない。
「指導者のフロットとかいうやつは優先的に対処する。ついでに火も消しておくよ」
 鉄の門を僅かに開き、十夜は外へ飛び出した。

 ごう、と地面を激しく揺らし、膨大な量の水が辺りへ降り注ぐ。
「では、予定通りに」
「脱獄囚を探してくるでござるよ」
 瑠璃と咲耶はまっすぐ夜の帳へ身を沈ませた。戦線を離れた瑠璃と咲耶を先導するのは、イナリの呼んだ1匹の鼠だ。
 ひっそりと。
 誰に知られることもなく。
 2人は敵陣へと潜り込む。

 燐光がパッと散らばった。
 海面を跳ねるイワシのように、光の粒子が地面を跳ねる。
 まるで意思を持つかのように、傷ついた男へ降り注ぎ、その身に負った傷を癒して、痛みを取り除くのだ。
「とにかく相手の数が多すぎる……どんどん削られていくだろうし、少しでも崩れたらきっとジリジリ押し負けるね」
 管理者陣営の戦力は30。
 一方で、相手は80人を超える大群。
 高い壁の上から攻撃を仕掛けているとはいえ、投石や火炎瓶がそこに届かないわけではないのだ。
 アンジュが回復を担わなければ、そう遠くないうちに戦線は崩壊するだろう。
 持てる物資と人員のすべてをつぎ込んだ炭鉱夫たちの猛攻には、それだけの力と勢いがあった。
「向こうも追い詰められてるってわけね」
 余裕がないな、と額に滲んだ汗を拭った、その直後。
 門の向こうで、業火が爆ぜた。

 2度の津波で7割ほどの火器を無効にしたはずだ。
 そのうえ、壁上からの射撃と十夜の連携で炭鉱夫たちは門に近づけないでいた。
 しかし、ここでフロットは賭けに出る。
 枯れ木を積んだトロッコに3つほどのダイナマイトを紛れ込ませて、門へと突っ込ませたのである。ご丁寧に十夜の相手をフロット自らが請け負ったうえでだ。
 フロットに気を取られている隙にトロッコは門の手前で爆発。
 門の破壊は叶わなかったものの、かなりの数の銃兵と十夜に大きなダメージを与えた。
「突っ込め! 力づくで押し通れ!」
 地面に横たわったままフロットが叫ぶ。
 爆発に巻き込まれたのだ。
「っ……なりふり構わねぇな」
「それだけ追い詰められてるんだろ」
 十夜の援護に、史之が地上へ降りて来る。
 接近して来た炭鉱夫へ手を翳し、斥力によって弾き飛ばすと次の相手に狙いを定めた。炭鉱夫たちの残りは40名ほど。2人で抑えきれる数ではない。
 けれど、しかし……。
「退いた退いた~!」
 地響きと共に門が開いた。
 次いで、鈴音の叫ぶ声。
「……何だ」
「これが新兵器?」
 門の内から現れたのは、見上げるほどの巨大トロッコ。その上には鈴音とアンジュが乗っている。
「新兵器、堂々投入す!」
「これ相当ヤバイよ、お願い、もう武器を捨てて! 絶対ここにいる皆を悪いようにはしないから!」
 十夜を治療するべくアンジュはトロッコから飛び降りた。
 一方、鈴音はトロッコの上から操縦手へと指示を出しているようだ。声を張り上げ、腕を大きく振り回す。
 鈴音の指揮に従って、トロッコに積まれた巨大な砲身が稼働する。
 石炭の煙を噴き上げながら、砲身が炭鉱夫たちを向く。
「トロッコ砲のお通りだ!」
 堂々とした鈴音の宣言に、炭鉱夫たちが動きを止めた。

●大捕物
 門前の抗争は、じきに収束を迎えるだろう。
 鳥の目を通してそれを確認したイナリは、1人ひっそりと執務室を訪れる。
「ジェットさん。そろそろ決着みたい。貴方の宣言がなければ収まらないわよ」
「うん? あ、あぁ……そうだな。いや、肝が冷えたが何とかなったか」
 イナリに促され、ジェットは部屋を出て行った。
 反乱の鎮圧を宣言するために、頭としての責任を果たしに行くのだ。
「はい。行ってらっしゃい」
 ジェットを見送ったイナリは、執務室の書棚へ近づき……幾つかの資料を手に取った。

 フロットの負傷とトロッコ砲の登場に、炭鉱夫たちの敗北は喫した。
 粛々と武器を捨てる仲間たちを横目に、5人の男が暗がりへと逃げていく。脱獄犯である彼らは、ここで身柄を拘束されるわけにはいかないのである。
 炭鉱は身を潜めるにはいい場所だった。
 しかし、こうなっては次のねぐらを探さなければならないだろう。
「なぁ、次はどうするか? 暫くは島から出られねぇぞ」
「機会を窺うしかねぇよ。監獄の時と同じ……あん?」
 ピタ、と男たちが足を止める。
 進行方向に、2人の人影を見つけたのだ。
「残念ながら次の機会はありません」
 暗闇に紛れるような黒い髪の女が2人。
 瑠璃と咲耶だ。
「現状、貴方方の立場は極めて悪いですが、情状酌量の余地がないでもありません。『脱獄犯に脅されやむをえず従っていた』という事なら、交渉の余地はあるかもしれません」
「っ……管理者どもか? それとも、監獄の使いか?」
 呆けていたのはほんの一瞬。
 男たちはすぐさま2人を始末することに決めた。監獄島に収監されるほどの悪党だ。人を害することに何ら抵抗も抱いていない。
 そのうち1人が、腰に下げた鞄からダイナマイトを取り出した。門の破壊用に準備されたものだが、数本をくすねていたらしい。
 だが、男がそれに火を着けることは叶わない。
 ザシュン。
 空気を切り裂く音がして、男の手に矢が突き刺さる。
「うっ……ぐぉ!?」
「おっと。大人しくしていてね。変なところに逃げ込まれると、探すのが面倒だから」
 頭上より声が落ちた。
 視線をあげれば、クロスボウを構えたアンリがそこにいる。翼を広げ、空から地上を見下ろすアンリから逃れることは出来ないだろう。
「このまま続けるならお主等の命は無いが今なら温情をかける事もできよう」
 さらに眼前には得物を構えた瑠璃と咲耶の姿もある。
 この距離に近寄られるまで、その存在に気付けなかったことからも、2人が手練れであることは明白。
 ダイナマイトに火を着ける暇は与えられないだろう。
 2人は無言のまま、男たちの出方を窺っている。
「どうする? ツルハシ構えて蹴散らすか?」
「数はこっちの方が多いが、無理じゃねぇか? 命を落としちゃ意味がねぇ」
 睨み合いの末、男たちはツルハシを地面へ投げ捨てる。
 それからゆっくり両手を頭の上へと挙げて、降参の意を示すのだった。

 翌朝。
 出航するイレギュラーズを見送るために、ジェットは船着き場へと訪れた。
 素性も分からぬ者たちであるが、5人の罪人を捕えに来たという話に嘘偽りはなかったらしい。任務を終えたので、すぐさま帰還しようというわけだ。
「では、息災でな。ご協力に感謝する」
「それはどうも。ところで、炭鉱夫たちを搾取し、弾圧し、得られた利益や儲けは何に使ったの? まさかあんな兵器を開発するために使ったの?」
 最後まで港に残っていた少女……アンジュは言った。
 彼女の質問や、その声音に滲む怒りの理由がジェットには理解できなかった。
「何を考えてるの? 大変な仕事なのに働いてくれる人達なんだよ。労働環境を良くしないとまたこういう目に合うよ?」
「……変えの利く駒に何を配慮する必要がある? 余所者に口出しはされたくないのだが?」
「……そう」
 交わした言葉は短く。
 アンジュは呆れたように島を去って行った。
 それから暫くの後、ジェットの元に海洋からの訴状が届くのだが……それはまた、別の話である。

成否

成功

MVP

長月・イナリ(p3p008096)
狐です

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
脱獄犯5名は無事に捕縛されました。
また、島の管理者ジェットには、何らかのペナルティが負わされるようです。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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