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シナリオ詳細

残暑と秋祭りと脅迫状

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天義領、ヴァレ・デル・オルソ市にて
 夏が過ぎれば秋が来る。
 それは神の定めたもうた摂理であって、何人たりとも覆すことは叶わない。もしも秋の訪れの後に再び夏の来るようなことあれば、それは神に楯突く悪魔の所業であって、ひとえにかの邪悪につけ入る隙を与えてしまった、人々の信仰の乱れの証左なのである。

「すみません司祭様……暑さのせいか、ひどく疲れて仕事ができません」
 ここヴァレ・デル・オルソの秋祭りを準備していた人足のひとりが、視察にやってきた老司祭の前でひざまずいた。彼は平民ながら善良な神の信徒であり、神に1年の収穫を感謝する祭りの準備を率先して手伝っていたさまは、老司祭のみならず街の誰もが知っていた。
 ゆえに人徳者として知られる老司祭は、恐縮する彼のもとに屈みこみまでし、その信仰に応えてみせるのだ。
「どうぞ、良くなるまでお休みなさい。そして機を見て、いつでも私のところへおいでなさい……この異常な暑さは人々の心が神から離れかけている証拠。そして貴方がその暑さに参ってしまうのは、貴方の中の信仰が、知らぬ間に揺らいでいるためなのです。
 もちろん、信仰の揺らぎ自体は誰にでもあることです。神を知らぬ赤子が罪人ではないように、信仰が揺らいだからといって即座に罪になるわけではありません。
 しかし、それに向きあおうとしないのであれば、それは紛うことなき大罪と言えましょう。けれども、安心なさい――その大罪を人に犯させぬためにこそ、私のような司祭がいるのですから」
 おお、なんと有難いお言葉であろう! 司祭は人足自身ですら気づいていなかった神への猜疑にいち早く気づき、それを赦すばかりか力になるとまで仰ったのだ!
 人足はたちどころに奮起して、今までの倍も働いた。そしてその無理が大いに祟り数日寝込むことになるのだが……その様子は人足の息子にとって――ああ、そのような疑いが許されるのであろうか――司祭が祭りのために民を蔑ろにしたように映ったのだった。

●ローレットにて
「今回は、天義の司祭サマ直々の護衛の仕事だ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が机の上に広げてみせた依頼書の中には、1枚の不気味な手紙が添えられていた。
 定規で書いたような字で『秋祭りを中止せねば、司祭殿に災いが降りかかるであろう』と記された羊皮紙。天義の神殿はそれを邪教徒による脅迫状と断定し、特異運命座標らに秋祭り期間中の護衛と、可能であれば真犯人の検挙を要請したのだ。
「ただ……裏を取ったらどうやらこういう話らしいのさ。
 最近、現地は猛暑続きらしくて、予定どおりに祭りをやったら、死人が出てもおかしくない。けれども神殿のほうじゃ『神に感謝する祭りを中止や延期するなど言語道断』ってことになってるものだから、勇気ある少年が脅迫状を送ってでも止めようとしたワケさ」
 そんな背景があったゆえ、司祭が実際に襲撃されることはない。だが……司祭はかなりのご老体なので、脅迫状とは無関係に熱中症で倒れてしまう危険がMAX! そうなれば頭の固い天義の関係者どもが脅迫状と司祭の不調を関連づけて、依頼失敗だと騒ぎたててくることは想像に難くない。
「そんなわけで爺さんの健康管理、上手くやってやってくれ」

GMコメント

 熱中症こあい><。
 ……というわけで皆様、るうでございます。依頼の成功条件は『秋祭りを邪教徒から守ること』となります……ただし天義視点で。

●成功条件(客観視点)
 次のうちのいずれか:

(1)司祭の熱中症を予防する
(2)人足の息子(16歳)を、司祭を呪った邪教徒として告発する(探すプレイングさえあればすぐに見つかります)
(3)司祭が倒れた後、神に感謝する祭りの最中に倒れるなど偽司祭に違いないと主張して司祭を討伐する

●秋祭り
 豪華に着飾った司祭を屋根のない山車の上に乗せてのパレード(正午から3時間くらい)が見所です。特異運命座標たちは、望むなら世界の救世主として司祭とともに山車に乗ってパレードに参加できます。
 夕方には依頼も終わるので、無事に依頼成功したならば露店巡りなどもできるでしょう(あまり意味もなく聖人の名前にあやかった、様々な料理やゲームを楽しめます)。

●神殿関係者たち
 司祭以下全員、そこそこ奇跡は使えますが熱中症治療はできません。基本、信仰さえあれば病気にならないと信じている人たちです。

  • 残暑と秋祭りと脅迫状名声:天義0以上完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年08月28日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
アルト(p3p004652)
ほしよみ
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
舞音・どら(p3p006257)
聖どら
ロゼ(p3p006323)
聖ロゼ

リプレイ

 凶事を須らく悪魔に帰着する。それは、知識の未発達な文明が往々にしてたどり着く陥井であると、『パラディススの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)は語る。
 けれど信仰が規範を生むこともまた、彼女は確かに認めるのだった。では、その規範とはいかなるものか……膨大な教義を紐解いてみたところ、彼女は同じ文言が正反対に解釈されてたり、原則論と例外論とが混同されてたりという天義の宗派沼の前に立ちつくす羽目になるのだが!
(倒れるまで放置して、「この司祭殿は偽物だ!」と言ってしまうのが、一番確実で天義らしい解決法なのかもしれないけど)
 そんな可能性を想像はするものの、やはり『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)にとって、自分の信念に嘘つけはしなかった。メイドとは、主人に仕え守る者である。たとえ全てを丸く収めるためだとしても、主人を見殺しにすることなど選べはしない……。
 実際、神殿を訪れた特異運命座標たちを自ら出迎えた司祭は、優しい笑顔を浮かべる好々爺なのだった。こんなおじいちゃんが苦しむような未来があってはいけない、かならず助けなくてはならない……けれどもそれ以上のことを語ってはならないことを、アルト(p3p004652)は本能的によく知っている。
 もしも、彼女が違った育ち方をしていれば、『わるだくみ』舞音・どら(p3p006257)のようになんでそんなに神サマにハマれるのかなどと疑問もさし挟めたのかもしれない。もっともどらだって口をもごもごさせていただけで、どうにか口に出すのだけは我慢していたわけだけど。
 どうした、何か言いたいことでもあるのか……つめ寄ろうとしたひとりの侍祭の袖を、誰かがくいくいとひっぱった。
「僕たちがこうして出会えたことも、司祭様の計らいと神様のお導きなのかな?」
 指先の主の姿を見おろしたなら、そこには『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)の眩しい笑顔。無垢なる少女の純粋な言葉は、侍祭に信仰を問うている……まさか司祭様と神様がお選びになった僕たちを疑うなんて、不信心なことはしないよね、と。
 ひき下がる侍祭。それが納得してもらったというよりも、この国にありがちな逆神様アレルギー的な何かに見えたことだけが、『特異運命座標』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)の気がかり種だった。
(ここは、どうにかして司祭様を助けてさしあげなければいけませんねー。今の司祭様がいなくなってしまったらー、次に新しく来る司祭様が、もっと話のわかる方とは限りませんしー)
 ぐっと意を決してみせたところで、彼女の内心など司祭らは知らぬ。だから司祭は、これは頼もしいと頷いて、皆を神殿の中へと案内してくれるのだった。

●神の試練
「お暑い中、ようこそおいでくださいました。この地方では元来、時期的にとうに涼しくなっているはずなのですが」
 これも人々が神を忘れた証拠でしょうかと嘆いた司祭。街には午前中だというのにむっとした暑い風が吹き、午後からのパレードに備えて純白の祭祀服を着こんだ老人は、まだ金刺繍の入った上掛けを着る前だというのに、額にじっとりと汗を浮かべている。
 『銀凛の騎士』アマリリス(p3p004731)も天義の生まれ。司祭や人々の神への祈りが、どれほど大切ものかを知っている。
 けれども……信じるだけでは無力であることも、彼女は痛いほどよく知っている。
「司祭様」
 アマリリスは自身が守護騎士であることを明かし、強い瞳で司祭を見すえた。
「このような時、民の健康を守るのも司祭の役目。ですので、司祭様も無理されないでください……貴方が頑張ると、信徒も頑張りすぎてしまいますから」
 そこへ『特異運命座標』ロゼ(p3p006323)が何やら持ってくる。それは……塩味強めの野菜たっぷり冷製スープだった。
「これ、皆さんでお食べください。精が出てお祭りも元気にやれると思いますよ!」
「おお、貴女と、貴女とめぐり合わせてくださった神に感謝を……依頼したことは護衛でしたのに、ここまで心配りをしていただけるとは」
 司祭にはそんなふうに感謝されたけど、これがないと『護衛』できないと知らぬのは神殿関係者ばかり。
 だから予防だけでなくパレード中も口に含んでもらうため、エトの手には、さらにの塩飴や干しワカメがいくつも抱えられていた。
「聞いたことがあるんです、こんな暑い日はこうやってお水や塩っ辛いものを飲むと悪魔の力をふり切れるって! あたしは体が楽になったんですけど、司祭様はいかがですか……?」
「それは、司祭様はすでに悪魔の手に落ちているとでも申しているのか!」
 血気盛んな神殿騎士が、エトにつめ寄らんとして……そこへ響くのは鈴のような音色。

 もしも あなたが かみのこならば♪
 ここから とんで ごらんなさい♪
 かみは あなたの ためならば♪
 みつかい よこして たすくだろう♪

 それはカタラァナの歌声だった。彼女は神殿に美しき旋律を響かせた後、微笑みを浮かべて司祭へと囁く。
「……気をつけて下さい、司祭様。主の御心を試そうとしている人が、いるよ」
 どちらに与したとも定かでない言葉。それから、僕は信じていますと司祭を見つめる。
 嘘偽りなどどこにもない。司祭への無限の絶対肯定だけがそこにある。
 それははたして信仰だろうか? それとも、深淵に潜む狂気だろうか……?

「……司祭様は、だいぶお年を召されていますがー」
 沈思黙考する司祭が生みだした静寂を破った声は、ユゥリアリアのものだった。
「老いは、信仰の衰えではございませんですわよねー?」
「もちろんです。老いとは神の思しめし、人の心で変わるものではありません」
「同じように、身体の具合が悪くなることも、決して信仰の揺らぎだけが原因で起こることではございませんわー」
「悪魔に蝕まれたわけでなくとも、人は病に倒れる、と仰るのですね?」
「そのとおりですわー。こちらではこの暑さは珍しいのかもしれませんけれどー、夏の海辺でも、こうも暑いと体調を崩す人も多くいましたわー」
「だとすればエト殿の仰った話も……実は悪魔を遠ざけるものなのではなく、神の定めたもうた試練を克服するためのものであったのかもしれません」
 司祭は、ユゥリアリアの言葉に納得したようだった。神殿の者たちも多くが司祭に倣い……けれどもそうでなかった者もまた多い。
 先の神殿騎士が激しく異を唱えた。
「しかしこの度は明確に邪教徒どもの仕業でしょう! 司祭様はそれを混同なさるおつもりですか!」
 それを聞いた時のどらは……ふと、気まぐれな真剣さを表情に帯びてみせる。
「今回の祭りは神に捧ぐ大切な催し。邪教徒だけではなく全ての憂いを除き、万全の状態で臨んではいかがでしょう……市民たちも心配して不安がっているようですし」
 どらのシリアス時専用の顔を、司祭は睨むかのようにじっと見すえ……それから、集まる神殿関係者らに向けて語りはじめた。
「お聞きなさい。この方々は私たちに、邪教徒を滅ぼすことのみが信仰の証となるわけではないことを教えてくれているではありませんか。
 邪教徒は、除かれねばなりません。しかしそれだけを神の試練と考えるのならば、私たちは神の御心をとり違えているのかもしれません。
 よろしければ特異運命座標の皆々様……私どもに、皆様のお考えを教えてはいただけませんかな?」

●大事の前に
 事前に為すべきことは全てやった。アマリリスが提案したとおり、パレードには塩と水の車を用意して、信仰心ゆえに無理をしている者――特に元来の生命力ゆえに体調不良が裏に隠れがちな子供たちを積極的に探し、それらをさし出すことにした。
 今年は流石に間にあわずといえども、来年からは準備期間にも時間を決めての休憩と、特に暑い時間帯には涼しい屋内での昼食と祈りの時間が設けられることだろう……そこで天義人ならば誰も拒否できぬ祈りを持ちこんだところが、アマリリスの提案の見事なところか。
 そして、山車の日除け屋根……はどらが作ろうとして、方向の揃ってない棒の間を折れた針金が巡りその上に不恰好に布が張りついただけの謎オブジェになった。司祭様の姿が隠れて威光が陰るとの周囲の文句を「司祭様の姿ではなく存在こそが大切」と退けたどらですら、こればかりは抗議をどうにもできずに、今、彼女は司祭の隣で、日傘を支える役割に就いている……司祭の体調チェック係を兼ねて。

 神殿の前の通りには、暑い中でも歓声を上げつづける人々が、山車の登場を今か今かと待っていた。
「司祭殿」
 上衣を羽織ったところを呼びかけられてふり向いた司祭の眼差しと、メートヒェンの視線が交差する。
「司祭殿が神を信仰し教えを広めるのに誇りを持っているのと同じように、私もメイドとして誰かのために働けることに誇りを持っているからね」
「良からぬことを考える者を、探してくるのですね」
「メイドとして、なすべきことを」
 メートヒェンが人々の間で冷たい紅茶を振舞いながら、脅迫状の差出人を探せれば探す――司祭の愛する人々を救うことこそが、今の主人である司祭を助けることだと信じ。

 かくして……パレードは始まった。
 あとは、アマリリスには祈ることしかできない。運命が、猛暑と戦う特異運命座標たちに味方せんことを。

●パレード
 大歓声が通りを埋めつくす中で、山車はその中をゆっくりと進む。
「司祭様ー! お顔をこちらへー!」
「ありがたやありがたや……毎年、これがなければ始まらんねぇ……」
 揃って熱狂する老若男女。その中にはすでに、暑気に当てられふらついている者たちもいる。
 その中の1人を指差して、カタラァナは聞こえよがしに司祭へと訊いた。
「あそこに、暑さで倒れかけている人が、いるよ。あれは、信仰心の揺らいだ人なんだよね?」
 対して司祭はこう返す。
「あの者は、自らの罪深さを知っているのです。さあ皆、あの者たちを、聖水と聖なる塩で祝福なさい」
 なんとありがたいことだろう! その言葉を耳にした人々が、次々に塩水をいただいてゆく。倒れそうな者にとってもそうでない者にとっても、塩分と水分の補給は熱中症予防には欠かせない。
 一方で当の司祭や山車引き人夫は、人々のようにいつでも水を飲むことなどできはしなかった。そんな時……道の先、山車の前でひざまずくひとりの少女。まさか、祭りを邪魔しようなど……人々の仰天の目が彼女に釘づけになった、その時。
「司祭のおじいちゃん! どうか……これを受けとってください」
 自らが人々に拒絶される恐ろしさに抗いながら、少女――アルトが司祭に捧げたのはかき氷だった。雪みたいにふわふわで、たっぷりと甘いシロップのかかった、少女にとっては目玉がとび出るほどの高級品であるはずのそれ。
「わたしの信じてるかみさまは、かみさまに仕えている人にものをわたすと、仕えている人がしんこう心をかみさまに伝える、と、いわれてます」
 信仰が異なるほど遠くからやってきた少女が、この街で司祭にひざまずく理由。そこに至るまでの物語を、人々は思い思いに想像を巡らせる。
「そうやって、しんこうをかさねてゆけば、死んじゃったときに天国に行けるんだって。だから……『これはわたしの、しんこう心のあらわれです。どうぞ、おおさめください』」
 そして自身も少女の祈りの力になりたいと、誰もが心に願ってしまう。
「次は、下の人たちのぶんまで持ってきますから」
 アルトの懇願が呼び水となった。幾人かの人々が心を打たれて、山車引き人夫のためのかき氷を用意する!
 そんな人間の美しさを祝福するかのように、ひとつの虹が大空にかかった。
「みんなの思いやり、素敵なことだよね!」
 司祭をデフォルメしたような人形を操って水芸をしてみせたロゼを中心に広がってゆく、涼しげな空気。その水がかかって顔をしかめた人々が、ロゼの「地元だと水ぶっかけて祝いごとするんで!」なる言い訳をどう感じたかまでは知らないが、パレードの喧騒は大きな事故もなく、もちろん司祭様が倒れることもなく、夕方以降の賑わいへと姿を変えてゆく……。

●罪の行方
 街は、夕闇に包まれつつあった。それでも祭りの本番はこれからと言いたげに、通りには灯りが並んで人々を誘う。
「このとおり、『邪教徒』は何もしてはこなかったね」
 その喧騒を神殿の控え室で聞きながら、司祭へと問うメートヒェン。
「ただ……それとは別に、信仰心と快適に過ごすための工夫は別の問題。今後はそこにも気を使ってみてはくれないだろうか?」
 司祭の首が縦に振られる。
「日陰に水。思えばどちらも、神が我々に与えたもうた涼でありましょう。しかし私は神に直接の救いを求めるあまり、それらの恵みを忘れてしまっていたようです……司祭として恥ずかしい限りです」
「だとすれば、司祭様」
 面白そうにカタラァナが訊いた。
「なら、今までの信仰は、間違ってたの? 今まで貴方を信じていた人は、どうなるの?」
「誤りを認めて、進退を問えば、神と民たちが運命を定めるでしょう」
 強い目だ、とロゼには感じられた。……だから。
「おじいちゃまは、神様をこんなにも強く信じていて、神殿のほかの人の考えも、上手くまとめることができるのに、自分の罪を認めることもできる。そんな尊敬すべきおじいちゃまに、相談したいことがあるんだけど……」
 願い出るロゼ。彼女の相談とははたして何か……この時の老人はすでに、おぼろげながらも悟っていたのかもしれなかった。

 光あるところには闇もある。その路地裏で壁に身を預けていた少年は、じっと空を見あげたままで物思いに耽っていた。
 いかに理由が理由であろうとも、犯した罪が消えるわけじゃない。証拠を残してはいない、と彼は信じていたが、罪を隠すことそのものの罪深さを思えば、逆に彼の心は乱れゆく。
 ……ふと何かの気配を感じて、少年は目の前へと視線を戻した。
「いたよ」
 そんな声で他の人を呼ぶどらの顔を見た瞬間……少年の表情が蒼白に変わる。いつかはそうなるであろうということを、覚悟していたはずなのに……けれど。
「神殿に告発するつもりは、ありませんよー」
 少年へと差しのべられる、ユゥリアリアの手。だって、と何故自分が罪深いのか語る少年を、誰も責めたりはしてこない。そればかりか騎士たるアマリリスでさえ微笑んで、司祭を疑ってしまったことは間違っていないと説いくではないか。
「司祭さまも、信徒を苦しめたいわけではないのです。どうか、司祭さまをお許しください。司祭さまだけでなはなく信徒にも心を配れる優しい子よ」

 そして少年自身の望みに従って、少年は司祭の元へと現れる。
「この人は神様に対して疑いを持ったわけじゃなく、おじいちゃんが民を使いつぶしてるように見えたらしいんだよ」
 ロゼが願いの続きを語ったならば、老人は少年の罪を問わないばかりか、私の不徳でしたと頭を下げた。少年もおのずと懺悔の姿勢をとって、司祭へと罪を告白しはじめる……どうやら、これ以上ロゼが心配する必要はなさそうだ。
「2人とも、皆をよくしたいって思ってたんだよね。なのに失敗してしまった弱さを認めることができた強さ、ボクは大切だと思うんだ……」

●祭りは続く
 かくして両者は和解して、今後は互いに互いの力になることを約束しあった。
「罪人になる覚悟で脅迫状を出すなんて危ない橋を渡らなくても、知恵を絞って側面攻撃って方法もあるのですわよー」
 そう少年を叱ったユゥリアリアに対し、少年は今やはっきりとした口調で、二度としないと誓いを述べて。

「今日の出来事は戒めとして、必ずや神が偶然という形で皆様をお遣わしになったこと、後世まで語りつがねばなりませんでしょう」
 そのために司祭が公務に戻ったならば、エトの猫かぶりも終わりの時間になった。ぐいと少年の手を引いて、今後はお父様を悲しませないよう、こんな時は特異運命座標を呼びなさい、とウィンクしてみせた彼女は……少年の耳元で魔女のように囁いてみせる。
「わたくしたちにも悪いと思うなら、お祭り……エスコートしてくださる? わたくし、こういった催しに参加するのは初めてなの」
 どらも、それを合図に通りへとくり出して、はて、何を食べて今日の疲れを癒そうかとうろちょろしていると……。

「聞いたかい、さっき司祭様が、神殿を訪れた特異運命座標の方々を聖人に認定されたってよ!」
 露店の主人が大声をはり上げる。え……とどらが驚いたのも束の間、主人の次の言葉は想像もしないものだった。
「そこで俺も新聖人様のおひとりにあやかり、新しい菓子を売ることにしたんだ……その名も、『聖どら焼き』!」
 列聖記念価格だよ、と笑うおやっさんは知るまい……目の前にいるこの少女こそ、その『聖どら』本人であることを。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 『邪教徒』から祭りを救っただけでなく、司祭に新たな『信仰のあり方』を授けたり信者の不信を拭ったりした特異運命座標の皆様は、ヴァレ・デル・オルソ教区のローカル聖人に認定されてしまいました。以降この街では皆様の名前の商品が売られているだけでなく、気づくと似ても似つかない肖像画が飾られてたり身に覚えのない聖なるエピソードが語られてたりすると思います……どうせこの街の周辺だけなので許してあげてください。
 ご参加、ありがとうございました!

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