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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>霧夜ゲシュペンスターシフ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●休暇を楽しむために
 青い空に白い雲。
 みゃーみゃーと鳴く鳥たち。
 ――それはきっと、ネオ・フロンティア海洋王国にとっては何も特別ではない『ごくありふれた日常』だ。
 けれども、場所が変われば気分も変わる。それが新しく――しかも三国が力を入れて世界最大級のリゾート島としたシレンツィオリゾートならば、尚の事。海洋に住まう人々も、『非日常』を楽しみにシレンツィオリゾートに訪れていた。
 ラ・ヴェリタ領を治める辻岡 真(p3p004665)とその内縁の妻アリア=ラ・ヴェリタのふたりも、その枠組だ。深海色の柔らかな髪を風に遊ばせ、楽しげに瞳を細めるアリアを見つめる真の瞳は優しい。
「あなた、次は何処に行こ――あら?」
 腕を絡めてシレンツィオリゾートを満喫していたアリアの視線が、ブティックとは違う方角へと向けられた。漁師や観光用の船の漕ぎてらしき数名の人々が集まり、何やら顔を見合わせている。剣呑な雰囲気は野次馬をしている人々に伝わり、ざわざわと漣のように不安が揺れていた。
「例のアレ、また出たんだってよ」
「またって……幽霊船? やだ、怖い……」
「こないだ帰ったって……」
「安全だって聞いたから聞いたから来たのに」
 ひそひそ、ざわざわ。
 広がる小声に、真とアリアは顔を合わせた。どうやらリゾート地を満喫するためには目先の問題をどうにかしたほうがよさそうだ。

●ローレット
「出たんだって」
 いつだって楽しそうだが、妙に楽しそうな劉・雨泽(p3n000218)がシレンツィオリゾートのローレット支部でそう口にした。
「何がって、幽霊船が。君たちには是非幽霊船に行ってもらいたいんだ。
 僕はまだ見たことがないけれど、君たちは以前、遭遇したことがある人もいるのかな?」
 かつて『絶望の青』にて敵勢力として現れ、軍船と砲弾の応酬もしたと話に聞く、幽霊船(ワンダーサーペント)。豊穣に伝わる幽霊船とはまた趣が違いそうだよねと口にした雨泽はそれでね、と告げる。
「そこに、どうやら『竜宮幣(ドラグチップ)』があるみたいなんだ」

 ――竜宮幣。
 その話を齎したのは、深海の都――『竜宮城』なる場所からやってきた少女だった。
 開拓二周年を迎え、各国の威信をかけたクルーズツアーが始まろうとしていたこの時に、何故かダカヌ海域には未知なる怪物たち『深海魔(ディープ・テラーズ)』が出現し、各国はその驚異を取り払うことができなかった。
 原因も対抗策も解らぬ首脳陣に、深海から訪れた少女は告げた。
 竜宮城に伝わる神器『玉匣(たまくしげ)』をもってすれば、深海魔を追い払うことができる、と。
 しかし現在、それは叶わないことも同時に告げられた。玉匣は破壊され、その力が竜宮幣となって周辺の海底や一部の島へと散ってしまったのだ、と。
 再び玉匣を完成させて深海魔を追い払うことが少女の願い。
 そしてそれは各国代表者たちの願いでもあった。
 こうして各国代表者たちはイレギュラーズたちに竜宮幣の回収を依頼した。
 ――されど、ここはリゾート地。困った事態とは言え遊び心は必要であるし、祭りのようになればこの地は賑わう。
 各国はマニフェストを掲げ、どの国が一番集められるかを競いあうのだった。

 乙姫はこれの在り処をなんとなく感知することができる。そうして今回感知されたのが、港を騒がしている幽霊船なのだそうだ。
 その幽霊船は夜になると現れ、明け方近くになると霧の奥へと消えていく。
 住民や働き手たちは幽霊船を恐れ、早朝や夜半の漁に出れなくなってきた。
「幽霊船の中にあるだろうから、幽霊船を破壊せずに見つけてきてほしい、かな。見つけた後は好きにしてしまっていいよ」
 可能ならば破壊が最善だ。
 港を彷徨かれては仕事にもならなければ客足も遠のいてしまう。
「幽霊船での宝探しって、少しワクワクしちゃうよね」
 お願いできるかな?
 問いかける雨泽に真が頷くと、アリアはそっと彼の腕に手を乗せる。
「あなた、早くお仕事を終えてね」
 そうしてまた、休暇を満喫しましょうね。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 海……とくれば、幽霊船! 幽霊船内で宝探しゲームをしましょう。

●目的
 幽霊船内の『宝物庫』へと辿り着き、『竜宮幣』を探し出す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド:幽霊船
 決行は夜。幽霊船とともに霧が発生しています。
 幽霊船に気付かれないように近付き、乗り込みます。気付かれると砲撃を食らい、乗り込むことがとても難しくなります。その際はそれなりのアイデアがないと乗り込めずに終わる可能性があります。
 基本的には、『明かりを灯さない』『極力音を立てない』を守って手漕ぎ船で近付けば大丈夫です。
 宝物庫へは船長室の奥から行けます。まずは船長室を探しましょう。
 幽霊船内には多くのクルーがウロウロと徘徊しています。戦闘を多くしてしまうと時間超過で朝になり、幽霊船は皆さんを載せたまま海域を離れてしまいます。

●幽霊船(ワンダーサーペント)1隻
 絶望の青が解放されたことで若干残っているアルバニア勢力の残党です。
 亡霊のクルーが多数乗っています。彼等は生者に酷く嫉妬し、取り分け絶望の青を攻略せんとする者を、己が果たせなかった夢を追う者を酷く憎悪しています。見つかると襲われますし、仲間も呼びます。
 幽霊船は『竜宮幣』をゲットしたら爆破等、破壊の限りを尽くしてOKです。

・『クルー』骸骨水兵、バッカニアレイス
 ウロウロ徘徊しています。
 銃やシミター、HA吸収攻撃や、呪いや不吉系BSを伴う神秘攻撃をしてきます。
 倒しても暫くすると復活することが多いですが、頭が良くないので周囲にイレギュラーズがいなくなるとまたウロウロ徘徊し始めます。(特別にイレギュラーズを探している訳ではないです。業務に戻っています。)

・シラヌイ
 鬼火。たくさん飛んでいます。ひゅーどろろー。
 火、スピリチュアル属性。簡単に蹴散らせますし、あまり害はありませんが追いかけてきます。追われているとクルーに気付かれます。

●名声に関する備考
<潮騒のヴェンタータ>では成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の2つに分割されて取得されます。

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネーによる竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。
 拘りの水着である場合は、『水着イラストタイトル』をプレイングで指定してくだされば見に行きます。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

 それでは、素敵なプレイングをお待ちしております。

  • <潮騒のヴェンタータ>霧夜ゲシュペンスターシフ完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時14分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者

リプレイ

●霧中に浮かぶ
 観光が盛んな港から程近く。いつの間にやら、今宵も霧の中から幽霊船が現れていた。
 何故幽霊船が現れるのか、人々は知らない。祟りだと言う人もいる。呪いだと言う人もいる。けれども幽霊船は暫く彷徨うだけで、港自体に何かをするわけではない。――今のところは、だ。いつ牙を剥くかは解らない上に、観光客を集めたい観光地での醜聞はよろしくない。
 けれども、どうにかしたいと考えても現れるだけで気味が悪く、幽霊船に近付こう等と考える奇特な者などいない。
 ――そう、イレギュラーズたちを除いては。

 ざばん。黒い海に浮いた『異物』に、波が音を立てる。小刻みな波も、緩やかな波も、ざばん、ざばん。
 古めかしいガレオン船は朽ちている――もしくは朽ちかけているように見えて、小波ごときではぐらりともせず。時折大きな波で船体が大きく持ち上げられることで揺れて見えるくらいであった。
「近付くと大きいね」
 櫂を手にした『旅慣れた』辻岡 真(p3p004665)が、手漕ぎ船の船尾から小さく呟いた。イレギュラーズ8人を載せた手漕ぎ船は流石に一人の漕手では推進力が足りず、数人の手に櫂があった。
 極力音を立てず、静かに。
 明かりを灯さず、暗闇に紛れて。
 イレギュラーズたちは密やかに幽霊船へと近付いていく。
 低い位置にある手漕ぎ船からでも霧の中にある幽霊船が見えるようになる前まではローレットで予め決めておいたハンドサインの最終確認をしていた『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)と『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)も口を噤み、ぼう、とまるで唐突にそこに現れたかのような、おどろおどろしい船体を見上げた。
 時折船上や窓が仄かに明るくなり、その明かりが移動していくのは、明かりを手にしたクルーではなく鬼火だろう。実に幽霊船らしく、夏らしい。『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が瞳を細め、薄く笑みを佩く。流石は歴戦のイレギュラーズたちというべきか。心躍らせる者等は居ても、震える者は居ない。全員水着姿で笑みを浮かべる姿は、さながらどこぞの遊園地のアトラクションに挑むようですらあった。
 イレギュラーズたちを乗せた船はゆっくりと、しかし気付かれること無く幽霊船へと近付いていく。手漕ぎ船を着けるのは、幽霊船の船尾。異世界の近代的な船を除き、帆船であるならば船長室は船尾が一般的であるからだ。船首は一番揺れる部分で、甲板の下にはクルーたちのハンモックが揺れ、一番揺れない船底の中央は大砲等の積み荷、そして比較的揺れない船尾に船長室、となる。
 斥候はヘイゼルと汰磨羈と『夜を斬る』チェレンチィ(p3p008318)――と、綾辻・愛奈(p3p010320)とお揃いの麦わら帽子を被ったドラネコが向かう。ぴたりとくっついた状態からでは甲板にクルーが居るかどうかは見えないが、足音やシラヌイの灯りの無いタイミングでふわりと浮かび上がる。甲板の高さまで飛べば顔を半分覗かせ、暗視を用いて視覚でも確認し、クルーたちやシラヌイが居ないことを確認すると素早く樽の影へと身を滑らせた。
 かちゃり、かちゃり、音がする。これは甲板を歩く骸骨水兵の足音だ。
 ふわりと灯る明かりが身を潜ませている眼前を通り過ぎていくのをやり過ごしてから幽霊船内にあるロープを収奪――拝借した汰磨羈がそれを暗い海へと放り投げ、中空でぱくりと咥えてキャッチしたドラネコが愛菜の元まで運んでいった。
「(ドラちゃん、ありがとうございます)」
 小さな声でドラネコを撫で、小さくても働き者のドラネコには後からご褒美にマタタビをあげようと決めて。いきましょうと向けられる視線を受けた史之は、仲間たちに浮力を与えようとし――やめる。付与を受けた者の周囲を飾る赤いプラズマを纏えば――しかもそれが5人も連なるとなれば、かなり目立ってしまうことだろう。
 行こうぜとハンドサインをしてからロープを掴み、先頭を務めるのは『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)。涼やかな表情をしているが、英雄の冒険譚のようでワクワクと胸を弾ませている。
(幽霊船に侵入するだなんて! ちょっと楽しみね!)
 登っていくルカを見上げる『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)もゴーグル下の形良い唇の端をキュッと上げ、後に続く。水中に入るならばフィンが良いが、今宵は幽霊船で宝探し。歩かねばならないため足はいつもの義足で、ロープが重みで切れないようにルカが登りきってからするするとロープを登っていった。
 一人ずつ登り、身を隠したり、近寄ってきたシラヌイを始末して。少なからず時間は経過しているが、クルーたちにはまだ気付かれてはいない。順調だ。
 さあ探索に行こう。という空気が流れたところで、ふとルカが口を開いた。
「(……昇っている途中、気になることがあったんだが)」
 クルーたちに悟られぬよう、会話はしない方がいいが、告げねばならない時もある。
「(それらしい部屋が途中にあったよな)」
「(私も……そうかなと思いました)」
 声を落としたルカが口を開けば、愛菜も同意を示して。
 ロープで上がった他の面々も考えは同じらしく、頷きが返る。
 そう、船尾から伝って昇った場合、わかってしまうことがあるのだ。

 ――あの大きな窓の部屋って、船長室だよね?

 他の明かり取りの窓とは違う、窓枠の装丁も凝っている大きな窓。中は引かれたカーテンで見えなかったが、十中八九『そう』だろう。
 場所は解った。けれど、どう行くか。
 外から窓を蹴破るのが一等楽ではあるが、8人も入ればぎゅうぎゅうとなるはずの船長室に騒ぎを聞きつけたクルーも押し寄せることとなる。それは狭い室内での乱戦を余儀なくされることでもあり、逃げ場のない行き止まりでの戦いにもなる。
 やはり見つからずに船長室まで向かったほうが良いだろう。イレギュラーズたちは頷きあうと、静かに移動を開始した。
 船尾ということは、つまり。帆を除いて一番高い場所にいることとなる。
 船尾楼甲板にいるイレギュラーズたちは、3名程度ならば樽にも隠れられたが、既にそうは言っていられない人数。しかし、ロープで仲間たちが上がってきている間もイレギュラーズたちは協力して、階段を上がってきたクルーが階下から怪しまれないように倒してきている。身を低くして階下から見つからないように、一階層分降りた。
(この部屋は……?)
 小さな窓から覗き込めば、そこは物置のようだった。生者の船であれば、見張りの者たちが待機や休憩を取る部屋かもしれない。ハンドサインを駆使し、イレギュラーズたちは探索を進める。
 もうひとつ階段を降りれば、そこには舵。
 そして後ろを振り向けば、少し洒落た扉が見えた。
 周囲を警戒する者、前方を警戒する者、そして洒落た扉を窓から覗き込む者。互いに互いをカバーしあい、ハンドサインで『中に入りましょう』とチェレンチィが示し、速やかに全員は室内へと侵入を果たした。
「(会議室、でしょうか?)」
 暗視を持つ者たちには、大きな机の上に広げられた海図らしきものが見えた。『たぶん』と誰かが頷こうとした――その時だった。
 突如眼前に音もなくすぅっと現れた半透明な死者。
 ――バッカニアレイスだ。
 その姿に全員の肝が冷えたが、唇を引き結び、誰一人悲鳴を上げること無く速やかに対処する。
「(……レイスの存在を忘れていたな)」
 高火力の殺人剣で叩き伏せたルカが手の甲で顎を拭う仕草をし、視覚でも聴覚でも捉えられないレイスの存在だけには充分に注意しようと仲間たちへ警戒を促した。
 その部屋の奥にひとつの扉があり、イレギュラーズたちは警戒しながらもその扉を開けた。
 締め切られていた室内に空気が流れ込み、ぶわりと埃が舞う。奥にある大きな窓にはカーテンが掛かり、月夜には月光が美しく差し込むのだろう。
 雑多に物が置かれた机に、揺れても倒れないように打ち付けられた本棚、広めのベッド。――船長室である。
「私が見張りますね」
 船長以外のクルーたちは入って来ないようだが、中に人の気配がある場合にどうなるかは解らない。出入り口の扉横に背を預けたヘイゼルはカーテンが掛けられた小さな小窓から、先程通り抜けた部屋を暗視による警戒を続けた。
「扉はないようですが……」
 ドラネコを連れた愛菜が視線を彷徨わせる。入室前は船長が居るのではと少し警戒をしていたのだが、どうやらこの船は船長を喪っているようだ。もしかしたら、竜宮幣を見つけた際に負傷をして――。
「こういう所はだいたい……っと」
 史之が床や壁を叩いて回れば、仲間たちも成程と彼の行動の真似をする。
「……? あれ、この向こう」
 飛び上がって本棚の上の壁も叩いていたチェレンチィが首を傾げる。そこだけ、音が違う。
「それなら、仕掛けはここかしら――あら、当たりね!」
「本棚が……」
 本をどけた本棚の奥へと手を差し入れたヴィリスが何かを掴むと、ズズズと本棚が横にずれ、その奥に人ひとり分が通れる隙間と下層へと続く階段が現れたのだった。

●夏の風情なるもの
「竜宮幣も回収したしオサラバよ!」
 幸い、静かにことを進めたためクルーには気付かれていないようだ。
 が――。
「見つけた後は好きにしていいってことだが――」
 ルカの瞳が好戦的に、そして楽しげに仲間たちの顔を見渡した。
 言葉にするならば、『やるだろう?』と言ったところだろうか。
「残しておいても、また港に来られては地元の方や観光客にとっては厄介でしょう。破壊して、沈んで頂きましょう」
「時間は――まだまだ朝日が昇るには早い。大丈夫だね」
 懐中時計を確認した真がパチンと蓋を閉ざす。
「そうと決まれば、手当たり次第にぶち壊して脱出ね!」
「ええ。頂くものは頂戴しましたし、もう隠れる必要もありませんしね」
 隠れんぼの時間はもうおしまい。あとは存分に、派手に行こう!
「俺は火薬庫を探す」
 火を着けて、どかん! だ。
 ぐっと握った手のひらをパッと開いてみせたルカにヴィリスが「いいわね!」と微笑んで、チェレンチィと愛菜も着いていくと顎を引いた。
 火薬に火を付けるタイミングは、皆が船から離れてからでなくてはいけない。導火線を長くしたり、続けざまに誘爆できるように仕掛けられるようにしようと、悪戯を思いついた子供のように笑みを交わした。
「俺は皆が安全に帰れるよう、船を用意して待っているよ。無事に陸まで届けることが船長の務めだからさ」
 無事に仲間をシレンツィオリゾートまで送り届け、彼等がリゾートを満喫しに戻り、そして自身はアリアとの休暇を再開する。そこまでが仕事だと真が笑った。完璧な仕事をこなせば、最愛の人は「流石あなたね」と微笑んでくれることだろう。竜宮幣よりも何よりも、それこそが真にとっての報酬だ。
「でしたら私は皆さんが脱出しやすいように壁を破壊しておきますね」
 火薬を集めてセットする仲間たちが、脱出しやすいように。また、仲間たち側へクルーたちが集まりすぎないように立ち回るのはおまかせくださいと、ヘイゼル。
 ならば俺はと口を開くのは史之だ。
「船の底に穴を開けに行こうと思うよ」
 ただ開けるだけでも良いが、確実に沈めるためには竜骨も狙いたい。
 しかし竜骨は一番外側にあるため、狙うのならば内側からよりも外側からの方が効率が良い。船底にたどり着いたとしても、船底からジワジワ染み込んだ海水や船体に入り込んだ雨水を貯めるビルジや、マストや帆の重さで上部が重いな帆船を安定さるための重石たち――バラストより、竜骨は更に下にあるのだから。
「私は全員の脱出が完了したら竜骨を破砕しようと思うが、共に往かぬか?」
 もう見つかってもよいのだから、と汰磨羈が口にした。史之の《斥力操作》も使え、それがあれば80秒とは言え水中行動も可能だ。火薬を仕込む仲間たちが真の用意する帰り用の船へと戻る少し前から水中へ潜り、ふたりで息を合わせて竜骨を攻撃すれば、確実に幽霊船を沈めることが叶うだろう。
「ここからはお楽しみタイムだ」
 不敵に笑んだルカの一言で、イレギュラーズたちは己の為すべきことを成しに幽霊船内、そして海上へと散っていく。

「さぁ来い! 纏めて成仏させてやる!」
 そこからは本当に、ルカの言う通り『お楽しみタイム』だった。
 潜むことをやめたイレギュラーズたちは元気に船長室から甲板へと降り立ち、クルーたちの視線を大いに集めながらの大立ち回り。
 特に船内を駆ける予定のない汰磨羈と史之と真は甲板で暴れ、ヘイゼルは途中までルカたち爆発組に着いていってから彼等が退却しやすいように壁を壊して回った。
「大砲がある、ということはことですね」
「火薬、ありました!」
 スポーティな水着は動きやすい。今は何もない『ヤギの寝室』を抜けて素早く骸骨水兵を倒したチェレンチィに続いた愛菜が、ドラネコがクルクルと回る場所へと向かって。
「どかーんと派手にキメるわよ!」
 鼠ではそんな仕込みは出来ないから、勿論作業は自分たち。
 こういったものってなんて言うのだったかしら?
 そうだわ、夏休みの工作って言うらしいわ。
 ちょっと大きな(破壊)工作なので、間違っていない。
「じゃあな幽霊共! 成仏しろよ!」
 楽しげな女性陣と共に駆け回ったルカも楽しげにそう口にして、全員で脱出する瞬間、火種を投げつけた。
 その少し前、甲板への出入り口を守っていたヘイゼルから「皆がもうすぐ戻ってきますよ」の合図を受けた汰磨羈と史之は、赤いプラズマを帯びて船底へ潜り――。

 ドォォォォォォォォォォォン!!

 幽霊船から脱出したイレギュラーズたちの背後で、盛大に火の手が上がる。
 乱暴な荒波の中を真は小型船を操り、幽霊船から離れて安全な場所まで行くと、一度船を止めた。回収した史之と汰磨羈がタオルに包まれる中、ギフトでレモンスカッシュを取り出した史之が乾杯しようと全員に配って回る。
 ひと仕事終えた後の、涼やかな炭酸飲料。
 明るく笑う仲間たちに、炎の中で黒影となって沈んでいく幽霊船。
 炎の赫が、レモンスカッシュを手にした仲間たちの笑顔を照らす。
 やっぱり夏は、海と幽霊船と大きな花火がお約束、だね!

成否

成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
残りの夏もめいっぱい楽しんでくださいね!

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