シナリオ詳細
海の平和を守るため。或いは、海ガール部隊の善行…。
オープニング
●密猟者たち
「さて……ここら辺にいると聞いていたんっすけど」
そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は頭を左右へと振った。
潮の匂いが鼻腔を擽る。
熱気を孕んだ夏風が、イフタフの髪を躍らせた。
ところは幻想。
海開きも間近に迫った、ある海岸線。
「まったく、密漁のために危険な罠なんて仕掛けるから、こんな風な手間が増えてしまうんっすよ」
やれやれ、と。
頭を掻いて、溜め息を1つ。
イフタフが海岸を訪れたのは、密猟者たちを捕えるためだ。
正確には、密猟者たちや仕掛けられた罠に関する情報収集のためである。実際に捕縛へ向かうのは、イフタフに呼集されるイレギュラーズたちである。
「んー……ん?」
おや? と首を傾げたイフタフは、吹きすさぶ潮風に耳を澄ませた。
遠くから人の声が聞こえる。
『タスケテ。ダレカイナイノカ? タスケテクレ!』
微かな声だが、確かに助けを求めている。
声のした方向は海の上。
遥か遠く、波に攫われていくイカダが見える。
イカダの上には、拘束された男たちが数名。
「えー……何っすか、これ?」
遭難目前といった様子の男たちを前にして、放置するという選択肢はない。
救助された男たちこそ、イフタフの捜索していた密猟者たちに他ならない。
イレギュラーズが出動するまでもなく、こうして密猟者グループは捕縛に至ったのであった。
しかし、密猟者たちの捕縛は新たなトラブルの始まりに過ぎない。
得てして、世の中とはそう言うものだ。
問題は、新たな問題を呼ぶのである。
「俺たちを縛って、海に放流したのは“海ガール部隊”を名乗る変な女たちだった」
密猟者たちのリーダーだった男は告げる。
海ガールを名乗る女たちは、颯爽と姿を現し、あっという間に密猟者たちを捕縛して、迅速にイカダを組み上げると、全員まとめて海へと放流したという。
「なんだったか……海の平和は私たちが守ります、とか言ってやがったが……海開きなら暫く後にした方がいいぜ? 海中やら海岸やら、連中の仕掛けた罠だらけだからよ」
「えー……それ、聞いたからには対処しなきゃならないっすよね」
面倒ごとがまた増えた。
がっくりと肩を落として、イフタフはそう呟いた。
●海ガール部隊
大戦のさなか、わずか8名の部隊で敵軍を壊滅寸前にまで追いつめた集団があった。
しかし、大戦終結とともに部隊は解散し、消息を絶つ。
今や伝説となった部隊の名は……。
「さて、まずはこちらの写真を観てもらいたいっす」
そう言ってイフタフは、数枚の写真をテーブルに広げた。
映っていたのは、青や紺、グレーの迷彩スーツを纏った女たちの姿である。
目を覆うゴーグルに、口元にはシュノーケル。
背には酸素ボンベを背負って、砂浜を匍匐前進していた。
「果てしなく目立つっすけど、どうやら彼女たちはこれで隠れているつもりらしいっす。マリン迷彩と呼ばれる装備っすね」
彼女たちの目的は、かつて存在した伝説の戦闘小隊の再起である。
幻想の平和を守るため、各地で作戦を実行しているとのことだ。
今回は、件の密猟者の噂を聞きつけ、海岸へとやって来たのである。
「海岸の平和を守るために……という理由で、砂浜や海中に地雷とか機雷とかの罠を仕掛けているみたいっす。触れると爆発して【業炎】【ショック】の状態異常を受けるっすね」
結果的に、密猟者は愚か、一般の海水浴客さえも近づけなくなっている。
事情を知らない者が海岸に近づけば、地雷を踏んでしまうかもしれない。
「それから、海中にはワイヤーネットを使った罠も仕掛けられてますね。そっちは【足止め】目的の罠っす」
通常“海ガール部隊”の8人は、海中や海岸のどこかに姿を潜めているという。
仕掛けた罠に獲物がかかった隙を突いて襲撃し、捕縛を実行するらしい。少なくとも、件の密猟者たちはそのような方法で、あっという間に捕まったと証言していた。
「リーダーはタンゴと名乗る女性っすね。それから部下が全部で7名。【ブレイク】や【必殺】を伴う砲撃や、【毒】【流血】を伴う銛による攻撃を得意としているとか」
彼女たちの行いは、決して“悪”では無いだろう。
けれど、行き過ぎた“正義”は、時に単純な“悪”よりも性質が悪いのだ。
「まずはタンゴをとっ捕まえて、海岸から撤収させましょう。まぁ、大人しく話を聞いてくれるかどうかは不明っすけど」
あまりにもしょうもない依頼だ。
しかし、イレギュラーズなど戦闘能力を備えた者でなければ対応できないことも事実である。
- 海の平和を守るため。或いは、海ガール部隊の善行…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●犯罪の香り
白い砂浜、蒼い海。
寄せては返す波の音。
潮の香りを孕んだ風に、燦々と降り注ぐ陽光。
砂浜を走る可憐な少女……下半身は半透明の魚類であるが、器用に砂上を滑るように走っている……『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は常になく楽し気だ。
それもそのはず。
巨躯を揺らして追いかけて来る『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)とノリアの2人に、夏の海は貸し切り状態なのである。
任務の一環とはいえ、心が躍るのも仕方ない。
幸せな光景がそこにはあった。
もっとも、それは当人たちの主観であれば……と枕詞が付くけれど。
「ぶははは! 待て待てぇい!」
「うふふ! つかまえてごらんなさいですのー!」
砂浜を走るノリアとゴリョウ。
傍から見れば、いたいけな少女を襲うオークといった構図であった。
「くっ……仲間だと分かっていても、つい止めに行きたくなるっスね」
岩陰に潜む『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は、震える手で膝を掴んで今にも走り出しそうになる己の脚を抑え込む。
事情を知らずにこの光景を見たのなら、一も二も無くゴリョウを止めに走っただろう。
「ぬぅ……一旦止めますかな? ついでにスケさんはそこかしこに仕掛けられた罠を解除して回りますぞ」
「敵も姿を現さぬしな……それも1つの手かもしれん」
「地形の把握は出来てるが、罠は探さなけりゃいけねぇな」
イレギュラーズの心は一つ。
なんとも言えぬ胸のざわつきに背を押されたのか、『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)、『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)、『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)の3人が葵の言葉に賛同の意を示した。
「待つっス。あんたらまで出てったら、オレは自分を抑えきれる気がしないっスよ」
砂浜へと出て行こうとする3人を、葵は慌てて押しとどめた。
揃いも揃って、なんていうかこう……エネミー面の3人なのだ。なにしろスケルトンに、狼、そしてヤクザだ。
ゴリョウと合わせて4人が浜へと揃ってしまえば、すわ軍勢の出撃さえもあり得るだろう。
「もうちょっと待ってましょう。そろそろ2人が、地雷原に差し掛かるから」
耳元に手を添え『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)がそう告げる。
音の反響から燐火はおよその罠の配置を読めるようだ。とはいえ、砂中に埋まった地雷と、一抱えほどある岩の区別まではつかない。
「悪いと思うんだけどな、囮任せるのは」
囮を務めるノリアとゴリョウは、耐久力に長けている。
だからといって、2人が地雷を踏み抜く様を黙って見守るというのは『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)にとって、多少思うところがあるのかもしれない。
赤い瞳でミーナはじぃと砂浜を眺め……。
直後、ゴリョウが砂中の地雷を踏み抜いた。
●海ガール部隊、出撃!
砂浜が弾けた。
炎があがる。
爆発の衝撃に乗って、ノリアが海へと飛び込んだ。
爆炎と衝撃に煽られて、ゴリョウが数歩、後退る。
よろめいた拍子に2つ目の地雷を踏み抜いたのか、再び爆炎があがった。
「ぶはははは! 一般人まで事故るような罠の張り方はよくねぇわな!」
背負った盾を下ろしたゴリョウは、それを一閃。
纏わりついた炎を四方へ掻き散らす。
その直後……。
「一斉砲火! 開始!」
凛とした女の声が海へ響いた。
空気を震わす轟音は、まるで落雷のようだった。
ゴリョウの腹や胸に無数の銛が撃ち込まれる。
射線を追えば、砂浜の奥から銃撃されているのが分かる。砂上に伏せた女は5人。マリン迷彩のスーツを着込み、ゴーグルとシュノーケルを装備した女たちである。
「ターゲットは未だ健在! 射撃を続けるであります!」
「「「「了解!」」」」
銃撃を続けながらも、5人は砂上に立ち上がる。
ゴリョウから視線を逃さぬまま、左右へ分かれて駆け出した。
「ぶはははッ! 豚一匹仕留めきれねぇたぁ練度が足りねぇな! 気合入れて来な! 教練してやるぜ!」
盾を構えて、ゴリョウは腹を強く叩いた。
肉を打つ音。
それから燐光が飛び散った。
ゴリョウの負った傷がみるみる癒えていく。彼を落とすには、まだまだ時間が必要そうだ。
きらきらとした光が散った。
揺らぐ視界に、気泡が舞う。
綺麗な海水だ。
流れは少し速いだろうか。
『機雷が……4つ。ネットトラップは……あちらですの』
尾ひれを大きくうねらせてノリアは旋回。
視界の端のネットトラップへと向けて、逃げる風を装いながら泳いでいった。
つるりとしたゼラチン質の尾が、陽光を浴びて微細な粒子を放つようにも見えている。
ネットトラップで、ノリアを捕えることは至難。
しかし、海底からそれを見上げる海ガールたちには、そのようなことは分かるまい。
『かかった!』
『接敵開始! 密猟者を捕縛せよ』
森ガールたちが浮上を開始したようだ。
「海ガールなんて名乗っても、けっきょくは泳ぎも道具だよりの陸そだち」
体に巻き付く網を引き摺り、ノリアは陸へと方向転換。
行きがけの駄賃とばかりに、尾を一閃させ近くの機雷を引っ叩く。
海面が弾けた。
ノリアが機雷を爆ぜさせたのだ。
「あそこか」
機雷の威力はなかなか高い。
あんなものが浮かんでいるとなると、近海に済む生物たちにも危険が及ぶ。
海ガールたちは、密猟者たちを捕えるためにそれを仕掛けたのだというが……どうにも独善的な正義に、視野が狭くなっているようである。
しかし、おかげで海ガールたちの居場所が分かった。
ウルフィンは亜竜に跨り、海へ向かって飛んでいく。
「海中には罠が沢山あるようだが空中には仕掛けられたか?」
海面近くに揺らぐ白い影はノリアのものだろう。
その真下から浮上してくる3つの影が海ガールたちか。
「相手を如何に自分の有利な場所へ呼び寄せるか。それが戦いだ……」
手にした骨槍を振り上げて、ウルフィンは亜竜の手綱を引いた。
燐火はまっすぐ砂上を駆けた。
地雷を踏んで、爆炎に飲まれ、頭から盛大に砂を被って……しかし彼女は止まらない。
「大丈夫、私に炎は効かないわ! ……爆発自体は痛いけど!」
「やっぱり総攻撃を仕掛けて来やがった。二人が無事ならいいんだが……」
燐火の後に続く義弘が、額に腕を翳して砂と炎を防ぐ。
地雷の爆発に紛れ、5人の海ガールたちは砂浜へと伏せている。総攻撃を一時的に中断してまで、潜伏に移行したのだ。
予想外にゴリョウが硬く、速攻で落とせなかったことにより予定の変更を余儀なくされたのであろう。
「海開きできなきゃ地元のカタギの方々に迷惑がかかるし、ヤクザも商売あがったりだ。気合い入れて……っ!?」
義弘の肩を銛が撃ち抜く。
地雷の爆発に紛れ、海ガールが再び狙撃を開始したのだ。
しかし、初期の総攻撃と異なり銃撃は断続的である。数発撃つごとに匍匐前進で移動して、潜伏場所が割れないようにしているのだろう。
「っ……今度は横からか」
脇に刺さった銛を引き抜き、義弘は拳を硬く握った。
足を狙って撃たれた銛を、拳の甲で撃ち落とす。
前進しながら、上半身を滑らせるように右へとずらした。
頬を掠めて、銛が背後へ飛んでいく。
次いで、拳を高く振り上げ……。
「ちっ……遠いな」
だが、振り上げた拳を降ろす先が見つからない。潜伏している海ガールたちを炙りださねば、拳骨の1つも叩き込んではやれないのである。
「砲撃? いいわ、撃ち合ってあげる!」
ピンクの髪を靡かせながら、燐火が低く腰を落とす。
その手に灯る蒼い燐光。
大気に漂うマナを集めて形成した光弾を、砂浜へ向けて撃ち出した。
地面を蒼い光線が薙いだ。
砂塵が飛び散り、爆音が響く。
燐火の放った魔力砲が、砂浜ごと地雷を撃ち抜いたのだ。
「っ……遠距離攻撃を確認! 後退! 後退であります!」
砂浜のどこかで誰かが叫ぶ。
その声を聞いた海ガールは、地面を這うようにして海へ向かって移動を開始。
頭から被った砂を落とすことはしない。
砂に塗れていた方が、身を隠せると判断したのだ。
けれど、しかし……。
「さあお嬢様」
サクリ、と。
海ガールの眼前に、大鎌の刃が突き刺さる。
「……エネミーと遭遇。交戦開始であります」
見上げた先には、白い肌の小柄な女。
片手に鎌を、片手に剣を構えたミーナが冷たい視線を海ガールへと向けていた。マリン迷彩のスーツを纏っている海ガールだが、これほどまでに接近されては迷彩は何ら意味をなさない。
「えぇ……では、こちらで遊んでいただきましょうか」
一閃。
振り抜かれた大鎌を転がるように回避して、海ガールは腰のナイフを引き抜いた。
後退していく女の頭部を、サッカーボールが撃ち抜いた。
後頭部に衝撃を受け、海ガールは顔面から砂浜へ転倒。その拍子に、海ガールの手からスピアガンが転がり落ちた。
「オラこっち来いよ、逃げるんじゃねぇ!」
「ぬぅ……やってやろーじゃねぇかであります!」
葵の挑発に乗って、海ガールは踵を返す。
「待つであります! 命令は一時撤退だったはず!」
撤退を中断した仲間を別の海ガールが呼び止める。
だが、すっかり頭に血が昇った海ガールの耳に、制止の声は届かない。
「あの2人はタンゴって奴じゃなさそーッスね。とりあえずタンゴを捕まえれば他の連中も言うことは聞くはずだが」
足を振り上げ葵は呟く。
狙いを定め、サッカーボールを蹴り飛ばす。
まるで砲撃のように。
大気を穿って飛んだボールが、海ガールの顔面を打つ。
「ぷ……げ!」
「まぁ、数は減らしとくべきッスね」
まずは1人、戦闘不能に至ったはずだ。
もう1人の海ガールは、撤退命令と仲間の救援のどちらを優先するべきか、判断に迷っているらしい。棒立ちになった海ガールへ向け、葵は3度、サッカーボールを撃ち込んだ。
銃声、爆音、怒声が飛び交う砂浜に白骨死体が転がっている。
否、死体ではない。
砂浜に伏せ、次々と地雷を撤去しているそれの名前はヴェルミリオ。
「おや、こんなところにも罠が。まったく、これでは罪のない一般人までお陀仏ですな。海を守るという決意は立派なことですが、この有様では元も子もないではありませぬか!」
はぁ、とこれ見よがしに溜め息を1つ。
肺など無いのに、どうやって溜め息を吐いたのか。
なにはともあれ、1つ、2つと解除した罠は増えていく。踏めば爆発を起こす地雷も、掘り返してしまえば脅威は半減だ。
罠とは隠してこそ意味を持つ。
目に見える罠にかかる者も滅多にいない。
「おや?」
潮の流れが変わったのか。
波打ち際にネットトラップが打ち上げられた。
ヴェルミリオは網に近づき手を伸ばす。
「うむむ……もし、海洋生物たちが罠にかかってしまったらと考えているのでしょうか?考えていないのであれば」
「確保であります!」
「やー!」
網を取り上げようとした瞬間、女の声が響き渡った。
海中から飛び出したのは2人の海ガールだ。ネットトラップの両端を掴んだ海ガール2人が、一気呵成に砂浜を疾走。
ヴェルミリオの身体を網で包むと、再び海へ戻って行った。
ウルフィンの槍が、海ガールの1人を殴打する。
側頭部に強かな一撃を受け、海ガールは昏倒。気絶し、海面へと浮いた。
海中に潜む海ガールは残り2人。
ノリアを追って、陸へと泳ぐ。
『……もうじき陸ですの』
ハンドサインを海面へ送り、ノリアはウルフィンを陸へと返した。
海ガールたちを陸で捕縛するためだ。
浅瀬まで残り十数メートルに差し掛かる。
そこでノリアは、網に捕らわれ海底へと沈んだ白骨死体を視界に捉えた。
『罠にかかって命を落とした方でしょうか……ん? あ!』
哀れな遺体に黙祷を捧げようとした。
だが、ノリアは寸前で気が付いた。
網の端は海底の岩に結び付けられている。よくよく見れば、白骨死体では無くヴェルミリオだ。
「ヴェルミリオということは……白骨死体で合っているのではないか?」
高度を下げたウルフィンが呟く。
ノリアは海底へと潜り、ネットの端を手に握る。
ノリアの腕力では、岩ごとヴェルミリオを引き上げることは叶わない。
だが、網の一部を陸まで引っ張っていく程度のことは出来る。
「ゴリョウさん、これを!」
「おぉ!」
波打ち際に立つゴリョウへ、ネットトラップを手渡した。
以心伝心とはこのことか。
言葉は短く、けれど意思の疎通は叶う。
砂に足首までを沈みこませながらも、ゴリョウは網を力任せに引っ張った。
海ガールたちの放った銛が、ゴリョウの肩に突き刺さる。
「ぶはは! タンクの本領だな!」
意にも介さず、ゴリョウは網を強く引く。
海底の岩ごとヴェルミリオを陸へと引き上げたのだ。
ナイフがミーナの肩を貫く。
大鎌による一撃が、海ガールの胴を薙ぐ。
刃の背で胴を打ったのだ。
ミシ、と骨の軋む音。
あばらが数本、折れただろうか。
「あ……うぅ」
泡を吹いて、海ガールが気を失った。
砂浜に倒れた女を見下ろし、ミーナは肩に手を当てた。
燐光が散って、ナイフに抉られた傷が癒える。
「お前達の海への愛が悪いとはいわない。けど、いきすぎはダメだよな?」
なんて。
ミーナの言葉は、女の耳には届かない。
海面を蒼い光線が薙いだ。
直後、海面が爆ぜる。
燐火の放った蒼い魔弾が、機雷を撃ち抜いたのだろう。
「あ……っぶな!」
悲鳴染みた声を零して、海ガールが海上へ顔を覗かせる。
見れば、背負った酸素ボンベに大きな穴が空いている。
先の光線で撃ち抜かれたのか。
「よぉ、やっと追いついたぜ」
海ガールの頭上に影が落ちる。
見上げた先には厳つい顔の巨躯の漢が立っていた。
振り上げた拳に紫電が走る。
「っ!?」
海中へ潜るか、陸へ走るか。
判断に迷ったのは一瞬。
義弘が拳を振り下ろすには、十分すぎる時間であった。
●海開きにはちょうどいい日
タンゴは優秀な兵士である。
銃火器の扱いはもとより、訓練所では指揮能力や近接戦闘の技能についても高い評価をもらっていた。
海ガール部隊を纏め上げ、ここ1カ月ほどの間に数十名からなる密猟者や密入国者を捕縛してみせたのは、タンゴの作戦指揮があっての賜物だ。
だと言うのに……。
だと言うのに、既に数名の仲間が戦闘不能となった。
タンゴのナイフは、何度もウルフィンの身体を裂いた。
「っ……上には上がいるものでありますな」
ウルフィンの動きは、次第に速く、鋭くなった。
タンゴのナイフは先ほどからウルフィンの身体を掠めるばかり。致命傷を与えるまでには程遠い。
「せめてもう1人……無理でありますな」
チラ、と横目で見やった先には仲間の接近を阻む骸骨がいた。
骸骨をナイフで削る度、海ガールの身体に痛みが走る。
呼吸が乱れ、喉の奥から血の臭いがこみ上げた。
遥か東の国においては、痛みや傷を他人へ移す呪いの道具があるという。それは藁で組まれた人形だと聞いたが、目の前の骸骨兵士もきっとその類に違いない。
ヴェルミリオの胸をナイフで突いた。
胸に強い痛みを感じ、海ガールが膝を突く。
「命まではとりませぬ」
腕も足も上がらない。
赤い気糸に絡めとられて、彼女は意識を失った。
タンゴの意識はウルフィンだけに向いている。
否、近接格闘戦に持ち込まれた以上、ウルフィンの相手をするのに精一杯なのだ。
「熱意があるのは結構だけれど。視野が狭いようでは、先が思いやられるわね」
タンゴの背へと手を翳し、燐火は呆れたように言う。
その手に大気のマナを集めて……しかし、それが射出されることは無かった。
ウルフィンの振るった骨槍が、タンゴの胴を薙いだのだ。
数歩よろめき、タンゴは胃液を吐き出した。
パタン、と。
崩れ落ちるように、タンゴは意識を手放した。
罠は全て撤去した。
西の空が紅色に燃えている。
「海の平和のためって気持ちは分かるっスよ、でもアンタらの言う平和って何だ? 良いも悪いも取り除いたゼロの事を言うんスか?」
「そもそもやりすぎなきゃ、地元にも歓迎されてるだろうに」
串に刺さった肉を頬張り、葵とミーナがそう言った。
2人の前には、砂浜に正座した海ガールたちの姿がある。
説教を受ける海ガールたちの様子を、遠巻きに眺めてノリアは苦い笑みを浮かべているでは無いか。
一方、残るメンバーはと言えばゴリョウが焼いたバーベキューを貪ることに忙しい。
「頬っぺたが落ちそうですぞ」
骸骨に頬っぺたは無い。
舌も無ければ胃も無いが、食った肉は一体どこへ消えたのか。
「まぁ、なにはともあれこれで海開きも出来るだろ。海ガール部隊にライフセーバーみたいな事をやらせてみるか」
なんて。
酒を片手に、義弘は肩を揺らして笑う。
海の彼方に陽が沈む、闇の帳に包まれた。
ともあれ、明日には海開きと相成るだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
海ガール部隊は捕縛完了。
設置された罠もすべて撤去されました。
依頼は成功。
明日から海開きとなります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
“海ガール部隊”および、仕掛けられた罠の排除
●ターゲット
・タンゴ×1
海ガール部隊のリーダー。
マリン迷彩のスーツと酸素ボンベ、足ヒレを装備した女性。
ゴーグルとシュノーケルに覆われており容姿は不明。
見た目はともかく、実力はそれなりにあるようだ。
・海ガール部隊×7
マリン迷彩のスーツを纏った女性の集団。
全員が同じ装備を身につけているため、外見からどれが誰かの識別は難しい。
合言葉は“ホウ・レン・ソウ”
つまり、砲撃、連撃、総攻撃である。
砲撃:物超遠単に大ダメージ、ブレイク
スピアガンによる射撃。
連撃:物近単に中ダメージ、毒、流血
毒を塗布した銛による格闘術。
総攻撃:物遠範に大ダメージ、ブレイク、必殺
複数名の隊員による連携攻撃。
●フィールド
幻想にある海岸。
もうじき海開きを控えており、季節柄もあって人の往来は多い。
砂浜、岩礁地帯、海中などが主な戦場となるだろう。
海ガール部隊はそのいずれかに潜んでいる。
※砂浜、海中には多数の罠が設置されている。
【業炎】【ショック】を与える地雷と機雷、【足止め】を付与するネットトラップである。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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