シナリオ詳細
<Stahl Eroberung>光が輝き、深淵を臨むなら
オープニング
●
その場所は、一切の静寂の中にあった。
しん、とした無音は 自身の脈動、呼吸はおろか、隣のそれすら聞こえかねないほどで。
驚くほどの静寂の中を歩けば、足音が無限に続くように反響していく。
白で塗り潰されたその空間は距離感が掴めにくく、入ってきた入り口の反対側、正面に向かい合う位置には扉が1つ。
その扉の上には『汝、霊核を示せ』という判然としない文字が記され、その文字の上には1枚の壁画が存在する。
1つの大地を4つに分割したかのようなその絵は、1つは燃え盛り、1つは凍土が広がり、1つは雷霆が降り注ぎ、1つは湿地帯が無限に広がっているようにみえるのだ。
それらの中央には煌々と輝く光があり、その光の真下には輝きに照らされるように濃い闇が広がっている。
「秘密があるとすればこの絵だと思うのですが……」
フロイント ハイン(p3p010570)は壁画を見上げながら呟いた。
「霊核とは結局なんでしょうか?」
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)はハインの横で小首をかしげる。
壁画の下にこれ見よがしに書かれている以上、それは無関係というのはないだろう。
「汝、霊核を示せ……ということは、何かしらの提示が出来るものではあると思うのです」
いいつつ、じぃっと壁画を見上げていたハインは、ふとその目を細めた。
「あとはそうだな、ここに来るまでにあったあの氷の部屋が通れていたら何か変わったのか?」
そう呟いたのはヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)である。
「……氷の部屋……待ってください。よく考えたら、この絵で4つに分かれた部屋、
それぞれここに来るまでにある部屋を表現しているのではないでしょうか?」
ヤツェクの言葉を聞いたハインは、見上げていた絵を少しばかり離れ見て、改めて頷いた。
「おおっ! そう言われてみれば。
扉そのものが燃えていた部屋
冷気に包まれていた部屋
触れたら稲光が走った部屋
泥のように体の沈んだ部屋、と。
対応しているようにも見えますぞ!」
ヴェルミリオも頷いたところで、ヤツェクは思案顔。
「あぁ、だとすると……真ん中の光は……ここか?」
一切の無音に満ちた、静寂の白。
あり得ざる光量に照り付けられ、全てが白に塗りつぶされているかのような部屋――そうも思えた。
「そういえば、最初に入った炎の部屋には、炎で出来た何かがいませんでした?」
「あれは高位の精霊に見えましたぞ」
「高位の精霊……なるほどな。そういえば、以前にここに来た時、
入ったばっかりところで光の塊みたいなのとも会わなかったか?」
ヴェルミリオに頷くヤツェクは2人に問いかけてみれば、2人も頷いた。
3人は各々が情報を纏め合いながら――ふと、思うのだ。
「霊核……もしかするとそう難しく考える必要はないものなのではないでしょうか」
その結論に至ったのはハインだった。
「どういうことでしょう?」
「……霊核、精霊の核、心臓部、ってのはどうだ?」
ハインに続けるようにヤツェクもその結論へと至る。
「なるほど! では、霊核を示せというのは……ここまでくるのにあった、
あの全ての部屋にいる精霊をそれぞれ倒して心臓部をもらい受ける必要がある! と?」
ヴェルミリオは合点がいったところで、きつく締められた扉が眩く輝いた。
『――よくぞ、見抜きました。
大地の子らよ。汝らの力を示しなさい
――この地に眠る恐ろしき扇動者と先兵を、打ち倒せるだけの力を見せるのです』
それは光の塊だった。
以前、この地に訪れた時に見た、あの人型の光。
だが、その姿は以前とは微妙に異なる。
煌々と輝くその手元から、全てを呑むような闇が零れ落ちていた。
●
そこは深淵のようだった。
隠し通路とはこうでなくては――といわんばかりの、細く天井の狭い長方形の廊下。
その先にソレらはいた。
肉体の首から下半身にかけてをまっすぐに切り裂いたような皮を、まるでジャケットのように羽織った細身の存在は、マリオネットを弄ぶように指を振るい。
「――呵々、愉快な事よ。この道を封ずる扉、その封を為した物が堕ちんとしている。
その霊核を穢し、私の手の内に……」
そう笑ったソレは、動かしていた腕をびくりと振るわせた。
「そう、それでこそよ……愉快愉快」
それは、己の手から離れんとする健気な光の権化は見せた意地。
楽し気にそれを弄びながら、ソレはそこで笑っている。
「個体差があるとはいえど、些か癖が歪んでおられぬか?」
そう言ったのは骸骨だった。ちょっと……けっこう、かなりドン引きしながら胡乱に見るその眼には青い炎が揺蕩っている。
「……しかし、勇者、勇者でござるか。微力慣れど、四天王の末席としてここは一手、某も剣を振るわねばならんか」
そう言ってカチカチと歯を鳴らしながら笑う。
影に満ちたその場所で、それらはその時を待っていた。
●
浮遊島アーカーシュの探索は、完全ではないまでも、ほとんど全ての地域に調査の手が入っていた。
島内で確保されたゴーレムの修繕も完了し、それらは命名者たちによく懐いているという。
――そんな現在、目下最大の問題は2つ。
1つは魔王イルドゼギア――古の勇者王が打ち倒したという魔王、その後詰の城たる『エピトゥシ城』の攻略。
もう1つは強力な防衛機構を持つ遺跡深部『ショコラ・ドングリス遺跡』の探索。
いよいよ大詰めに向かわんとする状況下、鉄帝国は大規模な攻略作戦の実施を決定する。
それこそが『Stahl Eroberung』――鉄帝国とローレットの連合軍を以って、一気呵成の大攻勢をかけるというものだった。
「――諸君、私と共にある遺跡を踏破してほしい。
ヤツェク君、ヴェルミリオ君、ハイン君……君達と共に以前踏破したあの遺跡。
……もしかすると、だが。あの地は魔王イルドゼギア勢力の前線拠点の一種だったのかもしれない。
あるいは、あの遺跡の奥深く、私達が辿り着けなかったあの扉の向こう側に、エピトゥシ城へと通じる隠し通路がある……かもしれないのだ」
そう言ったのは鉄帝軍人のユリアーナである。
「未到達領域――そこにあった扉の向こう側から溢れていた異質な闇について。
君達の同僚、ローレットの報告書を見せて貰って気づいたのだが、
あの遺跡の扉の向こうから感じたものは、ネピリムなる魔物の漂わせた泥のようにも思える」
故に、あの遺跡の奥はエピトゥシ城へと通じている――可能性があると。
ユリアーナは推測をつづけた。
「それに……君達3人の追加調査を見るに、どうやら遺跡の最奥は徐々に外に影響力を零しているようだ。
――という事は即ち、近いうちにあの扉は開かれかねないということではないか?」
――だったら、今回の大攻勢に乗じて一気に踏破してしまえ。
そう、かなり脳筋気味な結論を、ユリアーナは軽く笑いながら告げてきた。
- <Stahl Eroberung>光が輝き、深淵を臨むなら完了
- GM名春野紅葉
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年07月24日 23時20分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
『大地の子らよ――よくぞ参りました。挑まれるのですね』
遺跡へと脚を踏み入れて少し。都合3度目の訪問となる3人は3度目の声に視線を上げる。
そこに立つは極光を放つ人型の誰か。その両腕と髪の一部は異質に闇に呑まれている。
「貴女みたいな精霊たちに認めてもらう必要があるのね。
ふふふ、試練って感じ嫌いじゃないわ」
姿を見せたそれに笑って見せる『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は同時にこの先に待つ彼女?と同様の存在に思いを馳せる。
「本当は他の精霊たちにも挨拶して回りたかったけど、そういうわけにはいかないものね」
それを思えば少しばかり気落ちもするが……そうは言ってはいられないのだから。
「何やら御身に異常が発生しているようにお見受けしますが……大丈夫ですかな?」
精霊の腕を見やり『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が問えば、光の権化は静かに首を振った――ように見える。
『時はそれほど残されていないでしょう。この身もいつまで最後の鍵を務められるやら』
「では、先に貴女が担当しているであろう部屋に戻ってください。
僕とスケさん、それからユリアーナさんが貴女と戦います」
「うむ! 今度こそ踏破させていただきますぞ!」
続けてそう述べた『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)に、ヴェルミリオが同意を示せば。
『……良いでしょう。では、先に行ってお待ちしております。――全霊をもってお相手致しましょう』
思わず目をつぶるほどの光量の輝きの後、何処にもその姿はない。
「それにしても、このダンジョンが『エピトゥシ城』に通じている可能性があるとは……」
「あぁ、隠し通路たぁおもしろい。調べ直したかいがあるってもんだ」
ヴェルミリオが言えば、それに頷いた『奏で伝う』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が答える。
「遺跡探索、未知の領域……ふふっ、実に私好みの依頼だ」
ヤツェクの話に自らの好奇心を燻られる『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が答えれば。
「連戦に次ぐ連戦だが、……速攻で片付けて魔王の手先どももついでにのしてやろう」
「確かに、最終的に戦闘で力を示すだけというのも些か味気ないけれど、だからといって退く理由はないね」
ヤツェクに繋ぎ、ゼフィラはそう言って銃を抜いた。
「ショコラ…どんぐり…おいしそう」
じゅるりと口元を拭ったのは『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)である。
それはローレットの一因によって名付けられた遺跡の名前。
「この先がエピトゥシ城に通じてるかもしれないんだね!
でも穏やかじゃなさそうな気配がいっぱいするかも……」
はっと我に返ってふるふると頭を振ったリュコスは、遺跡の奥の気配を感じ取る。
「あおーん! 深淵がボクを覗いている時は、ボクも深淵を覗いているんだよ。……あれっ?違うの?」
首を傾げた『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は遺跡の地図を見下ろす。
「それにしてもここ、部屋がたくさんあって迷うね。
とりあえずボクは耐性のある泥沼の間でおやつ……じゃなかったや、エレメンタルの相手をしてくるよ。
大丈夫、すぐ終わらせるから」
フードを被り、リコリスは視線を遺跡の奥へと投げかけた。
「慌てずに、コンディションを整えて進みましょう。長期戦のための準備は出来てるのだわ」
そういったのは『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)である。
その瞳に燃え盛る炎を宿す巫女はそっと柔らかに笑う。
●業火に纏われる
歩を進めて肇に見えてきたのは燃え盛る一枚の扉。
「さて、ここが業火の間ですね……聞いた通り扉そのものが燃えているようです。
こういう時は、速攻で撃破するのが最善手というもの」
愛剣を抜き身に『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は一気にその扉を蹴り破った。
刹那、炎の弾丸がオリーブに向けて放たれるが、それを剣の腹で弾き飛ばすと、中へ踏み込んだ。
やや狭い正方形の部屋の中は、散りつく炎が燃え盛っている。
「サポートはお願いします」
揺蕩うように立つ、炎の化身。あれが目標かと、判断した瞬間にはオリーブの体は跳ねていた。
『はんっ、真っ向から攻めてくるとは、おもしれえ!』
精霊の声か、そんな言葉と同時、紅蓮の炎が剣身を形作り、舞うように踊り狂う。
鮮烈に刻む炎の軌跡を、掻い潜り、或いは受け、いなし。
現れた一瞬へ、割り込むように踏み込んでいく。
そのまま切り込んで、払うは覇竜を穿つ斬撃。
愚直に走った剣が精霊の炎を僅かに払う。
散った火の粉が戦場に新たな炎を生んでいた。
「元素の試練たあ、古典的で詩情がある。冒険者魂がそそられるってもんだ」
ヤツェクは真っ向から殴り合うように戦うオリーブと精霊の間に立ちながら刹那の旋律を掻き鳴らす。
燃え盛る戦場、それを気にせず剣閃払う相方を支える為にはその旋律は必要不可欠。
困難を解決し、前に進むための魔法の旋律は相方の動きを洗練させて呼吸を入れる隙を作る。
続け、ヤツェクは一曲を響かせる。
その旋律は無常にも炎の化身の身体を構成する炎を燃やし散らし、その身体に不協和音を押し付ける。
『――はっはっ! おっさん、おもしれえことをするな!』
両手に炎を握り締め、精霊が興味深げに笑えば、景色と同化する炎の斬撃が乱れ舞う。
体捌きで傷を最低限の物に落とし込みながらも、寸分狂わぬ太刀筋はヤツェクの身体に深い傷を残していく。
「――時間を掛けるわけには、いかないのですよ」
猛攻を駆ける紅蓮の炎、そのがら空きの背中にて、オリーブは小さく。
穿つべきは竜。人は竜をも墜とせるのだと、その剣に力を込めて振り払う。
大きく切り開いた斬撃は精霊の背中を真っ二つに断ち割った。
『がっ……ちくしょう、俺としたことが……真っ向から攻めてくる戦士に背を向けるなんて馬鹿なことしちまった。
わりぃなぁ……あんたとも戦ってやらなきゃよぉ!』
振りむきざまに向けられた炎剣と競り合いながら、オリーブは体勢を立て直すと。
「いえ、これで十分です」
くるりと回転、静かに長剣を振り下ろした。
「助かった。外に出たら治療しながら降りよう」
ヤツェクはその身を焼く炎を振り払いながらそう言えば、こくりと同意が返る。
●吐息すら凍てつき
そこはすべてを凍てつかせる永久凍土。
しもやけがかった壁面はまるで鏡のようになっている。
(さむさむ……寒いところ用のそうびにしてなかったら危なかったかも
でもあの冷たそうな人の攻撃は暖かいかっこうだけでなんとかなるものじゃないみたい)
リュコスはふるると身震いして。
『――面白い、同時侵攻というわけか』
そこに立つのは男装の麗人を思わせる氷の人型精霊。
『私を越えてみせるというのだったな』
氷の剣を召喚しようとする精霊が動き出すよりも前に、2人は既に動いている。
死角より飛び込んだリュコスの足元より踊りこんだDoが精霊を食らいつかんと牙を剥いた。
反応に遅れた精霊がかばうように出した腕にがぶりと食らいつく。
そのまま食らいつき続けた影は、やがてみしりと音を立てた。
『むっ――』
食らいついた精霊の腕が反射の要領で腕から氷柱を出す。
真っすぐに伸びた氷柱はリュコスの体を微かに裂いた。
同時、大きく食らいついた影がパキリと音を立て、精霊の腕を作っていた氷が砕け散った。
「私、長期戦は得意だわよ」
華蓮はそう告げれば、最速で飛び出したリュコスに続く。
そのまま、精霊の前へと躍り出れば、失敗など有り得ざる極限の集中力をもって祈りを捧ぐ。
柔らかな歌声で紡がれる祈りはやがて温かな帳を下ろす。
天使の梯子はリュコスの身体に刻まれた反撃の凍傷を優しく癒していく。
照らすべき陽光などなくとも、降り注ぐ光。
キラキラとした輝きは、戦場の氷の硝子を反射して美しく輝く。
『前に立つか、巫女。
――いいだろう、その心意気を認めて尋常にいかせてもらおう』
剣と化した精霊の冷気が軌跡を描く。
美しき氷の乱舞が華蓮の身体へと走り抜ける。
しかれども、それらのすべては華蓮の体に傷の一つさえ入れることはなかった。
ある太刀はどこからか吹き付けた風にあおられ、ある太刀は当たるよりも前に止まる。
目を瞠る精霊に、華蓮は静かなもの。
「こう見えても、守りには自信があるのだわ!」
告げた華蓮に合わせるように、精霊の足元から茨が姿を見せてその身体を包み込まんとする。
『くっ――』
唸り、放った反撃の氷柱は、傷のうちにも入らぬほど小さく腕を掠めた。
華蓮は一息を入れると再び祈りを捧げる。
温かく、穏やかな歌声で紡いだ祈りの歌はリュコスの傷を再び癒していく。
その応援のような歌に導かれるように、リュコスは立った。
戦場を爆ぜるように駆け抜けたのは2つないし2匹の影。
溶けあい、交じり合って1匹の大きな狼のようになったそれが精霊に食らいついた。
●雷光は迸り
雷光迸り、扉の向こうからは落雷の音が轟いている。
「ここのようだね。……では、証明しようか。未知への探究心を以って、私の力をね」
扉の前に立ったゼフィラはちらりと後ろの相方を見やれば。
「OK。雷相手だ。こちらも速攻で終わらせようか」
肯定するように頷いて見せたのは『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)である。
「あいにくと速さばかりはどうしようもないが、まっ、精霊ぐらいであればどうとでもなるさ!
待たせるのもなんだし、手早く済ませてしまおう」
「あぁ――もちろんだ」
触れた義腕にびりりと電流が走る。
構わず扉を押し開いて、その向こうに一人の女。
見ようによっては幻想種のようにも見えなくはない雷光の塊が動く――よりも前。
「この部屋の雷は中々堪えるが……生憎と今更、多少痺れた程度では、私の耐性には大差がないからね。
速攻で押しつぶすとしよう――まあ、やせ我慢ではあるけれど」
『挑戦者よ――私の雷光に耐えきれますか?』
嫣然と嗜虐的に笑った精霊が掌を天井に掲げるころには、既にゼフィラは動いている。
「この程度で怯んでいる暇はないからね。悪いけど、先に進ませてもらうよ」
魔力を通した魔銃に籠るは滅びの賛歌、放たれるは終わらざりし蹂躙の魔弾。
神秘に満ちた壮絶な弾幕が一斉に雷光を覆いつくさんばかりに戦場を包み込んだ。
『――なるほど、挑戦するだけはあるようです。
なれば、此方から行きましょう――』
「せっかくの手数だが、素早くはないけれどね。
でも、君よりはまだ速く動けるようだ!」
護戦扇を広げ、悠と笑えば、既にその位置は精霊の眼前。
放つは桜花のごとき無数の炎片。
天をも破らばかりの炎の砲撃を2度、3度と見舞い。
「速さと手数、おや、案外似たもの同士なのかもしれんな。私たち」
薄く笑ってみせれば、精霊の周囲を炎が渦を巻く。
それらは炎の欠片。計算づくで放った1つ1つの魔弾が魔空間を描き出し、精霊を呑み込んだ。
雷光が迸り、スパークが爆ぜる。
雷鳴が轟き、姿を見せた雷の精霊は、それでもあきらめることなくそこにあった。
『見事――ですが』
精霊の全身にあふれる雷が1つへと集束。
魔方陣を描き――束となった雷光が降り注いだ。
手数の多さを感じさせない雷霆は、その一撃に満ちた魔力がいかほどかを物語る。
「流石に雷の化身か――だけど、とまらないよ。
なに、封印を解こうとも、そうそう負けはしないさ。
再度の砲火が火を噴いて炸裂していく。
「随分といい一撃を持っているね。だけど――おかげで力が溢れるというものだよ」
続くメーヴィンはそう言いながら再度の桜花破天と鮮血乙女を繰り出せば。
『――その言葉に偽りなしと判断しましょう。お見事です』
そういった雷の精霊が一層の光を放ち炸裂。
霧散するがごとき雷は姿を見せた菱形の結晶へと吸い込まれていき、最後にはコロンと地面に落ちた。
「これが霊核ってやつか? ふむ、なるほど。これを部屋にもっていけばいいのか。
大変面倒なキーシステムなことで」
拾い上げたメーヴィンはそれを眺めて一息を入れる。
「……傷は癒さなくていいんだったな?」
「あぁ、背水用に残しておきたいからね」
「分かった。それじゃあ……降りようか」
言葉少なに頷きあい、2人もまた、最奥へと歩み出す。
●深く沼の奥地へと
「ここね――」
触れた扉が、どろりと崩れ落ちたその先へオデットはリコリスと共に踏み込んだ。
土人形がこちらに顔を向けている。
『だ――れ――?』
言葉の端々に泥を吐き、認識し難き声になった精霊が小首をかしげる。
「おやつ……ちょっとまずそうだけど」
抱いた感想を口の漏らして、リコリスはフードを被り直し――消えた。
天運を抱き、天性的な直感とともに脚を取る沼地を物ともせずに、人狼は血肉を目指して駆け抜ける。
リコリスを狙わんとするすべての土塊は掠りもせず、到達したその場で獲物を狩るべく銃から伸びたワイヤーで切り刻む。
始まった応酬、その意識が相方に集中している隙を突いて、オデットは瞬いた。
あふれる太陽の輝きは汚泥の中を思わせる小さな箱庭を照らしつけている。
「その泥を乾かしてただの土にしてあげるわ」
煌々と輝く火の温かさを掌に、齎す陽光は極小の太陽を形作った。
『温かい……光……こんなところまで……』
朴訥とした言葉を精霊が呟く。
それを聞きながら、肉薄したオデットは鮮やかに輝く太陽をその懐?へと撃ち込んだ。
炸裂するゼロ距離の極光が纏わりつく泥を振り払って穿つ。
『……挑戦者……挑戦者を……』
手を伸ばした泥人形が全身から汚泥の山を全方向へと走らせる。
2人減纏わりつかんとしたそれなど気にしない。
「ボク狼だからさ、足場の悪い所は慣れっこなのさ!」
驚いたように身動きを止めた精霊へそう告げたリコリスが銃の引き金を引いた。
泥人形はそれの弾丸を呑み込み、勢いを殺さんと試みるも、弾丸は奇跡的に泥人形を貫通する。
「終わらせるわ」
続けて放ったオデットのフルルーンブラスターが炸裂すれば、泥人形の上半身が吹き飛び菱形が露出する。
形を保てなかった下半身が途端に渇いて砕け散る。
リコリスがそれをキャッチすれば、核は身動きを止めた
●極光は眩く
『――各所で戦いは始まったようですね。
なるほど、全ての精霊を一斉に撃破する作戦ですか……』
無音の如きその部屋に、極光の響きが紡がれる。
「いやはや、静寂が染みますな」
ヴェルミリオは精霊の言葉に頷きつつ、その音色に肩をすくめた。
「静かな部屋です。僕もスケさんも呼吸や鼓動をしないので、余計に骨身に染みます」
それに応じてハインも頷いた。
同様に極光の化身たる精霊もまた音を出すような要素がないこともあって、その静寂は驚くべき程だ。
下手をすれば上層での仲間達の戦いが聞こえてもおかしくはないという気にさえなる。
ハインは、精霊に視線を向ける。
両腕や髪の一部を深い闇に塗り替えられ、そこ以外もじくじくと闇に塗り替えられつつある精霊はそれを気にしていないようだが。
『それで、貴方達はどうするのです? 他の部屋の者達が来るのを待ちますか?
それとも――こちらも先に?』
「どうやら時間は惜しいようですし、先に初めておきましょう!」
精霊の問いかけにヴェルミリオが告げる。
最初からそう決めていたことではあるが、改めての宣告に精霊は薄っすらと微笑みを浮かべた。
『では――始めましょう』
「よろしく頼む、2人とも」
ユリアーナが最速で走り出し、急接近ののちに刺突を叩きつける。
僅かに精霊がぐらりと体勢を崩した刹那、ヴェルミリオは自らの再生能力を活性化させると、両者の間に割り込むようにして立つ。
肉薄して堂々と向かい合えば、精霊の手が強烈な光を帯びた。
『その立ち振る舞い、まさしく勇者というにふさわしい』
極光が爆ぜ、体勢が崩れかける。
同時、その光はヴェルミリオの身体を侵すと、活性化した再生力を静めてしまう。
「やられているだけではありませんぞ!」
傷つけられた傷の分だけ、不死者は反撃ののろしを挙げる。
返すように撃ちこんだ傷に、精霊が目を瞠ったようにも見える。
続けて攻め立てるはハイン。
其がもたらすは開闢の時。
「貴方の光と僕の光、どちらが強いか勝負しましょう」
肉薄の後、テートリッヒェ・リーベの穂先が美しく輝きを放つ。
鮮やかに烈しく、逃れえぬ妄執が抱くは星の輝き。
振り抜かれたるは演算より導かれた創世の極光。
精霊の輝きをも呑み込む大いなる閃光が戦場に迸る。
『私を呑むほどの、温かな光……ふふ、ふふふ……あぁ、何んという素晴らしきものを見たことか!』
嬉しそうに笑った精霊が、その光の圧を増していく。
『大地の子よ、大地の子よ、英雄よ、素晴らしき力です!
あぁ、この身の汚染が酷く、心が躍ってしまいますが、それもいいのかもしれませんね!』
迫力を増した精霊の視線が3人の遥か後方を見る。
気付けば、足音が幾つか。
他の部屋の面々が少しずつ降りてきているらしい。
●深淵が溢れ出す
極光の精霊との戦いはほかのイレギュラーズの合流後、直ぐについた。
他の部屋と違い、11人でも広々と使えた空間の所有者だけあり、その実力は他の部屋の精霊よりも高かった。
だが、それも誤差の範疇とでもいうべきか、ほかの部屋よりも時間はかかっても2人で十分対処できる程度であった。
『――――ふ、ふふ……お見事です。
貴女達ならば、あの先兵と扇動者を滅ぼすことも出来ましょう。
準備が出来たのなら、霊核を示すのです。さすれば扉は開かれ、闇は零れだすでしょう』
極光の化身は穏やかに笑い、一際大きな閃光を放ち、菱形の霊核を露出させた。
ことり、と落ちた菱形を拾い上げる。
全て揃った霊核。直ぐにでも扉が開かれる――というわけでもないようだった。
最後に極光の精霊は『準備が出来たら』と言っていた。
「どうやら、霊核をただ持ってくるだけで開くというわけでもないようだ。
……少しは待ってくれるというだね」
ユリアーナが言えば、小休止の時間が訪れる。
「それなら少しばかり休憩するのだわ」
そういうと華蓮は調和の祈りを捧げた。美しき祈りの歌が疲労感を取り除く。
「今回は充填と治癒に秀でた方がいてくれましたが、いなかったらあの精霊はどうするつもりだったのでしょうか」
そう呟くのはオリーブだ。
その懸念は最もであるが――恐らくはここである程度の休息を取って向かうという形は変わらなかっただろう。
ここである程度の自然回復を待ってからだったのかもしれない。
もちろん、ただの核になった精霊からの返答がない以上、予測に過ぎないのだが。
「私は体力の方はこのままで構わないさ。出来れば魔力は取り戻したいが」
それを必要としない者は例えばメーヴィンである。
背水による攻め手を有すが故、敢えて体力を削って起きたかった。
そんな彼女に魔力の循環がもたらされていく。
「おやつでも食べよー」
リコリスはどこぞから取り出した肉に食らいつく。
ハインは今のところ澱みを零しながら閉ざされたままの扉に視線を向けていた
(それにしても、ネピリムですか。天使と巨人の間に生まれた子という伝承もあるようですが、さて)
首を傾げる。聞いたことのある逸話。他所での報告書によれば、どうやら泥のような存在であったというが。
「落ち着いて陣形を整えて……皆、準備は良いかしら?」
やや時間を経て、万全の体勢にまで回復を果たしたところで華蓮は声を掛ける。
頷いた面々の視線が華蓮に返ってきたので、こちらも頷いてから、壁画の方へ歩みを進めた。
壁画の眼前、各々が菱形――霊核を取り出すと、それらは自分でゆっくりと起き上がる。
壁画のそれと対応する箇所の前まで浮かぶと、くるくると高速回転を始めた。
そのまま菱形の形を解いたかと思えば、再び収束し小さな宝石にまで形を変え、壁画へと吸い込まれていった。
まるでそこに最初からあったが如く嵌めこまれた刹那――声が響いた。
『汝、霊核を示せし者よ。我らが魔王の祭壇への道は開かれた。
双天を越え、四天を砕き、我が王は汝らを待つ』
誰でもないその声が静寂を裂いて告げれば、扉が軋みながら左右に押し開き――闇が溢れ出す。
「ふぅむ? 光が見えたぞ、扉の門番を倒して直ぐに来るかと思ったが……随分と時間がかかったものだ」
その声は闇の向こう側から聞こえてきた。
「随分と堅実な方々のようでござる。これは強敵やもしれませぬぞ」
警戒を強め、その声の方へと歩き出せば。
●
「む。むむむ? 某のクローン……ではござらんか?」
「残念ながら違いますぞ! スケさんはスケさんですぞ!」
「……おや、これは失敬した。同じような姿形であるだけでござったか。
いやはや、御無礼を。どうにも某もまぁ、随分と数が増えたものでしてな」
毒々しい瘴気に満ちたその空間で、骸骨が後頭部を撫でるように掻きながらぺこりと頭を下げる。
「それで、お主らが封印を乗り越えた勇者ということで間違いござらんか?」
「間違いないですぞ! 勇者というとむず痒い物でありますが」
「……そうでござるか。なれば、一手、御頼み申す。
某の名は『骸騎将』ダルギーズ――など、言わずとも既に知れておるのかもしれませぬが」
答えた刹那――骸骨の全身から闘志と殺気が溢れ出す。
その手に抜剣した剣が紅蓮の炎を照らしつけた。
「あなたはスケさんがお相手しましょう! 同じ骸骨同士仲良くやろうではありませんか!」
「――なれば、いざ、参る!」
振り抜かれた剣を杖で弾き、反撃の魔弾がダルギーズへと襲い掛かる。
「――呵々、宣言などする必要もなかろうに、あの封印を解いた者達が油断して此処まで至る前に死ぬ、などということはあるまい。
あなた達の魂の美しき色を私に見せてくれたまえ――」
ダルギーズとヴェルミリオが交戦を開始する一方、そう高らかな愉悦の声を漏らすは肉体の首から下半身にかけてをまっすぐに切り裂いたような皮を、まるでジャケットのように羽織った細身の存在。
「『魂の監視者』セァハ。私もまた、既に名乗るべくもなかろうか。
されど、覚えておけばよい。あなた達の魂の色を貶める者の名である」
「負ける気はない、そうあの精霊に言ったからね」
他の誰をも置き去りにして、ゼフィラはセァハの眼前へと走り込む。
肉薄の勢いのそのままに、乗せられた速度を銃弾に変えて、セァハの目らしき部分目掛けてぶっ放す。
ゼロ距離で放たれた魔弾にセァハの体がぐらりとぐらつき、混乱したように瞬きを繰り返す。
「勇者とか魔王とかよくわかんないけど……これでも食らえー!」
ゼフィラより続く圧倒的な先手の速度に続けとばかりにリュコスの影が走り出す。
宙に浮かぶセァハにとっては最悪な相手といえるだろう、その影の牙は最高速度でセァハの身体へと食らいついた。
思わぬ死角から放たれた至近距離の獣の牙にセァハの無防備な身体が悲鳴を挙げる。
「手負いの獣のひと噛みを侮ってると、野生では生きていけないんだよ?」
それはリコリス自身の此処より始める狩りの通告であり、先を駆けたリュコスの強襲を言うもの。
ゼロ距離より放たれた二発の銃弾がセァハのほっそりとしたその身体に食らいつく。
それに続くは栄光という名の封じ手の一射。
もたらされた銃弾にセァハの体が軋みを挙げる。
「ふむ。なるほど。オーケーあの二人を倒せば良いんだな」
始まった戦闘にメーヴィンは走り出す。
放つは担当した雷の精霊へと叩き込んだ桜花の乱舞。
鮮やかに瞬く炎の桜吹雪を数度に渡って打ち込めば、美しき繚乱の舞となってセァハの身体に迸り続ける。
「多少の無理など承知の上です――」
オリーブはセァハの背後を取ると腰を落として力を入れた。
集めた闘気が長剣に伝わり、全身が熱を帯びたように熱くなる。
振り抜いた斬撃は対城絶技。城門さえ切り裂く守りを砕く攻城戦技――鉄帝国の武技が一角を振り払えば、そのままの勢いに任せてもう一度。
「毒と瘴気でダメージを受けないのが不思議なもんだな」
ヤツェクは戦場の様子を思いながらセァハの眼前に立つと旋律の音色を刻む。
邪を穿つ裁きの旋律は耳があるのかさえ定かではないセァハの身体に浸透するように響き渡り、無常なる思いをもたらすものだ。
決死の大壁と化したヤツェクはその旋律を以ってセァハの身動きを止めんと立ちふさがる。
「あぁ、精霊……いや、妖精の類であろうか? あぁ、なんという輝き、なんという光!
あなたのようなものが堕ちた時いかに美しくなるというのか――先の光の精霊の如く」
セァハの目のような部分が妖しい光を放つ。
それが見据えていたのはオデットである。
大鎌が魔力を帯び、頭上でぐるりと回転する。
広域へと迸るは毒性と汚泥、雷霆を以って多くのイレギュラーズを巻き込んだ。
同時、籠められた呪性がイレギュラーズの内側から牙を剥く。
「き、気持ち悪い! しかも、その口ぶり……精霊たちを何だと思ってるのよ!」
背筋がぞわぞわっとしたオデットは、自らの魔力を以って生み出した極小の太陽をその目らしき部分目掛けて叩きつけた。
鮮やかに輝く陽光のきらめきに、セァハが文字通り目を白黒と瞬かせ、呻き散らす。
勢いのまま、もう一発殴りつけてやれば、ふらふらと立て直しを図る。
「この個体は光を追い求めているということなのでしょうか……?」
ハインはオデットへの執着に首を傾げながらも、自らもその大鎌に光を放つ。
開闢をもたらす星の輝き、創世の瞬き。
飛び込んだままに振り抜いた大鎌が輝き、セァハの身体に痛撃を刻む。
「慌てたら相手の思うつぼなのだわ……」
深呼吸して、華蓮は祈りの歌を紡ぐ。
それは神でも仏でもなく、歌い終えた未来の自分自身を対象とした苦境を打ち破るための祈りの歌。
柔らかく、穏やかなその歌声が戦場に満ちていたどんよりとした気配を打ち消して鮮やかな光を放つ。
ソレに導かれるように、仲間達が奮い立った。
●
戦いは続いている。
セァハの攻撃は搦手が多く、広範囲へと届くものが多い。
それでも、イレギュラーズの連携の下で確かに追い詰めていた。
「これが勇者殿……うぅむ、武人として滾るというほかございませんな!」
ダルギーズの目が青く輝く。
「よそ見をされては寂しいですぞ!」
その様子にヴェルミリオは杖に魔力を籠めて闘気の糸をダルギーズ目掛けて放つ。
「むむ、これは……」
縛り上げる糸を振り払うようにして、ダルギーズが剣を振るい、斬撃を刻むのと合わせて、ヴァルミリオは杖で殴りつけた。
朱色の篝火に合わせて、蒼白なる鬼火が揺れる。
同じような骸骨兵、相反するような瞳の色をして、両者はせめぎ合う。
「美しきかな――美しきかな!」
笑うセァハの斬撃が戦場を駆ける。
猛毒を帯びた斬撃が至近距離にいる多くのイレギュラーズに傷をつけんと牙をむき――ヤツェクによって幾つかは防がれる。
「愉快、愉快! さぁ、光よ! 私の下に魂を晒しなさい!」
手を頭上に掲げたセァハが高笑いを挙げる。
「……あの動作は!」
「見覚えのある動きだね」
ゼフィラがメーヴィン言えば、雷光が瞬いた。
降り注ぐは束となった雷霆、眩く輝く光が戦場を焼く。
それは雷霆の間で確かに見た技であった。
パンドラが輝く中、ハインは肉薄する。
「なるほど……あの防衛機構はそうであると同時に、これらの個体の力を分割して提示しておいたということですね」
呪い殺さんばかりの締め付けを振り払い、その手に握りしめた大鎌に光を。
開闢の輝き、鮮やかに輝く斬撃を叩きつける。
嫌らしくそして壮烈に続くセァハの攻撃が続く中、ゼフィラは魔弾を天井に向けて放つ。
放たれた魔弾は光となって戦場に降り注ぎ、仲間達を癒す温かな輝きとなる。
「くらいついていくんだ……!」
それを受けて体勢を立て直したリュコスは一気に影を放つ。
放たれた両狼が一体となって遠吠えをあげ、セァハの身体を真横に食らいついて微かに引きちぎった。
「――皆が最後まで戦いきれるように支えるのだわ」
華蓮の祈りは戦場において重要だった。
継戦の要だった巫女の祈りが戦場に輝きを放つ。
その輝きが仲間達の状態異常を解き放ち、体力を振り絞るだけの余裕を与えるのだ。
「言ったでしょ、侮ったら駄目だよ」
冷たく告げたリコリスの食らいつくすような連撃が、奇跡的など真ん中を撃ち抜く斉射がセァハの体を致命的なまでに刺し穿つ。
ゆらゆらとするセァハは、ふるふると鎌を振り上げた。
そこへつけ、メーヴィンはセァハへと悪夢を押し付ける。
その上でその悪夢を増幅させる空間へと落とし込んだ。
鮮血に濡れる夢から覚めたセァハの声が室内に響き渡る。
「長かったがそろそろ終わりだろう……それはそれとして、私の火力は微々たるもの。後は頼むよ」
「承りました。確実に――」
応じるように、オリーブは走る。
審判の斬撃を振り下ろし、そのままの勢いで踏み込む。
再度振り払う対城絶技。
壮絶なる火力の一太刀が下段から上段に向けてセァハを裂いた。
「こっのっ――そろそろ、倒れなさい!」
オデットは四重の魔方陣を展開すると、執着を見せるセァハめがけて一斉に射出する。
眩く輝き、そして猛毒と旋風、雷を纏う四連砲撃。
「おぉ――おぉ、美しきかな――」
長い戦いが――終わりを告げようとしていた。
炸裂するそれらの魔弾に、恍惚としたセァハが両腕を広げ、受け入れるようなポーズを取った。
●
「さて、たしかスケさんとやらでござったな?」
「む、どうかしたのですぞ?」
「うむ、同胞の如き貴殿の健闘は素晴らしかった。だが、セァハ殿は討たれたようだ」
少しばかりしょんぼりしているような声色でそう告げたダルギーズのクローン体は、不意に剣の質が変わる。
横振りの斬撃がヴェルミリオを強かに斬りつける。
「すまぬが、退かせていただくでござる」
「なら、魔王に伝えときな。冒険者ってのは定命の集まりではあるが、生きしぶとさには自信がある。
精々首を洗って待っていな、勿論逃げるなんてことは、ないだろう? ――ってな」
旅人どもの中には怪しいのも多いが――と密かに思いつつ、ヤツェクが言えば。
「ははっ! 血気盛んで大いに結構でござるよ、冒険者殿! まぁ、それはご自身で告げられた方が良い気もするのであるが!」
そう言ってダルギーズは剣を納めると、そのまま踵を返す。
彼の消えた先にはそこには長く続く廊下が見えた。
「実のところ、ほとんど勘に近かったのだが……この不穏な空気。
恐らく、この先はエピトゥシ城へと通じているのだろう。
進むとしよう、ローレットの諸君」
そう告げたのはユリアーナだ。
淀んだ暗き闇の向こう側へ――そう、彼女は告げている。
リュコスの耳はダルギーズの足音らしきものが遠くに消えていくのを聞いている。
実際、この向こうには道が続いているのだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
大変お待たせしました。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
長丁場な5連戦(予定)と行きましょう。
当シナリオは<チェチェロの夢へ>銀閃の乙女と未知への旅路
『https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7880』の続きとなります。
そのままでも読まなくとも楽しめます。
●オーダー
【1】極光の間の踏破。
【2】セァハ・クローン、ダルギーズ・クローンいずれかの撃退
●フィールドデータ
・共通項
【1】業火の間
部屋そのものが燃え盛る業火の空間です。
部屋が非常に狭いため戦闘時に3人以上で戦う場合、
身動きがとりづらくなり回避にペナルティと域攻撃では逃れようなく巻き込まれます。
部屋の中に入るとターン開始ごとに抵抗判定が発生し、
判定に失敗すると【火炎】系列BSが付与されます。
【2】凍土の間
部屋そのものが永久凍土で構成された空間です。
部屋が非常に狭いため戦闘時に3人以上で戦う場合、
身動きがとりづらくなり回避にペナルティと域攻撃では逃れようなく巻き込まれます。
部屋の中に入るとターン開始ごとに抵抗判定が発生し、
判定に失敗すると【凍結】系列BSが付与されます。
【3】雷霆の間
部屋そのものに稲妻が走り続ける空間です。
部屋が非常に狭いため戦闘時に3人以上で戦う場合、
身動きがとりづらくなり回避にペナルティと域攻撃では逃れようなく巻き込まれます。
部屋の中に入るとターン開始ごとに抵抗判定が発生し、
判定に失敗すると【痺れ】系列BSが付与されます。
【4】泥沼の間
部屋そのものが泥と湿地で構成された空間です。
部屋が非常に狭いため戦闘時に3人以上で戦う場合、
身動きがとりづらくなり回避にペナルティと域攻撃では逃れようなく巻き込まれます。
部屋の中に入るとターン開始ごとに抵抗判定が発生し、
判定に失敗すると【足止】系列BSが付与されます。
【5】極光の間
自分の鼓動どころか隣の人の鼓動すら聞こえてきそうな静まり返った無音の空間です。
実は凄まじい光に照り付けられ、全てが白く塗り潰されたかのようです。
イレギュラーズにとっての入り口から真向かいに扉が存在し、
扉の上に『汝、霊核を示せ』の文字と壁画が見えます。
部屋の中に入るとターン開始ごとに抵抗判定が発生し、
判定に失敗すると【乱れ】系列BSが付与されます。
【6】深淵の間
最深部、極光の間の扉の向こう側。
恐らくですが、イルドゼギア側の戦力が潜んでいるでしょう。
詳細不明ですが、毒々しい魔力と瘴気が零れています。
●エネミーデータ
・共通項
全てのハイエレメンタルはローレットのイレギュラーズが2人以上で戦闘すれば十分に勝算があります。
全てのハイエレメンタルは戦闘終了後に霊核と呼ばれる核部分を残して消え去ります。
【1】ハイエレメンタル〔炎〕
炎で出来た人型の精霊です。
防衛機構であると同時に、封印を解除しても抗えるかの試練でもあります。
【火炎】系列のBSを用います。
単体攻撃が多い代わり、命中率とEXAが高めです。
【2】ハイエレメンタル〔氷〕
冷気を纏う人型の精霊です。
防衛機構であると同時に、封印を解除しても抗えるかの試練でもあります。
【凍結】系列のBSを用います。
単体攻撃が多い代わり、物攻が高く【反】を持ちます。
【3】ハイエレメンタル〔雷〕
稲妻の塊で出来た人型の精霊です。
防衛機構であると同時に、封印を解除しても抗えるかの試練でもあります。
【痺れ】系列BSを使用し、範囲攻撃が多く、神攻とEXAが高め。
【4】ハイエレメンタル〔地〕
泥人形を思わせる土塊で出来た人型の精霊です。
防衛機構であると同時に、封印を解除しても抗えるかの試練でもあります。
範囲攻撃が多く、【足止】系列BSを用います。
【5】ハイエレメンタル〔光〕
眩く輝く光の塊が人型を為したの精霊です。
防衛機構であると同時に、封印を解除しても抗えるかの試練でもあります。
【乱れ】系列BS、ブレイクを多用します。
【6】
・共通項
セァハ、ダルギーズどちらかが撃退された場合、もう片方も撤退します。
・『魂の監視者』セァハ・クローン
肉体の首から下半身にかけてをまっすぐに切り裂いたような皮を、まるでジャケットのように羽織った細身の存在です。
遠近両用、多様な範囲攻撃と【災厄】属性を持つ魔術師タイプ。
【毒】系、【足止め】系、【感電】系および【麻痺】を多数付与した上で【呪殺】攻撃を使ってきます。
・『骸騎将』ダルギーズ・クローン
鎧を着た骸骨です。いわゆる剣士といった雰囲気です。
堅実な戦闘スタイルをした剣士であり、【反】を持ちます。
また、【ブレイク】、【単体必殺】を持つほか、
自身の剣を【火炎】系、【凍結】系、【乱れ】系のBSいづれかを付与した魔剣へ性質を変化させて攻撃してきます。
魔剣の力をフルで発揮し、神超貫の魔力砲撃を保有します。
パッシヴに底力系のステータス向上、復讐を持ちます。
●友軍データ
・『銀閃の乙女』ユリアーナ
軍務派の鉄帝国軍人。反応型EXAアタッカーです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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