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シナリオ詳細

<Stahl Eroberung>星の城

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 アジュールブルーの空に浮かぶ白い雲を眺め、背の低い木々の痩せこけた緑に触れる。
 かつて、栄華を極めた精霊都市『レビカナン』は、今や廃墟同然の有様だった。
 薄れ往く彼方の記憶では、此処には沢山の人と美しい町並みが広がっていたのだ。

「うーん、困ったわね」
「マイヤどうして、コマってる?」
「どうして?」
 この精霊都市レビカナンの管理を任されている精霊マイヤ・セニアは、お供のゴーレムクロスクランチとフローライトアミーカを連れて、ショコラ・ドングリス遺跡にやってきていた。
 幾つもの立方体が膨大な空間に広がっている場所。
 常に形を変えて侵入者を阻むその機構ではあるが、都市部の管理を任されているマイヤには、直通ルートのアクセスが許されていた。
 しかし――
「無いのよ!」
 頬を膨らませて、眉を寄せたマイヤは遺跡にあるはずの『都市管理機構集積回路』モアサナイトが失われていることに憤慨していた。
「モアサナイトが居ないと、継続的な都市の稼働が出来ないの。循環とかそういう大切なヤツ。あの子、すごく輝いてるから、すぐ分かると思うんだけど……クロスランチとフローラアミーカは、なんかピカピカしたの見た事無い? お星様みたいにぴかぴかの」
「ある……!」
「本当!? 何処にあったの?」
 クロスランチに飛びついたマイヤは期待の眼差しをゴーレムに向ける。
 ゴーレムは指を上に向けて天を仰いだ。
「上にあった……トゲトゲの所」
「トゲトゲの所……もしかして、『エピトゥシ城』のこと!?」
 マイヤの手伝いで、レビカナンの見回りをしていた時に、エピトゥシ城のあたりで眩い光を見たのだと、クロスランチは説明する。

「ってことは、ここからエピトゥシ城へ連れ去られたってことよね。何てこと! すぐ取り返さないと」
 マイヤはクロスランチとフローラアミーカを見上げたあと、自分の手を見つめる。
「でも、私達の力じゃきっと無理だわ」
 本来であれば精霊都市レビカナンの管理を任されているマイヤが解決しなければならないことである。
 しかし、エピトゥシ城は今古代獣等の製造プラントになっていると聞く。
 三人で行った所で、一方的に倒されて終わりだろう。

「……あの、前にあった人達助けてくれるかしら?」
 レビカナンの来訪者(ビジター)――つまり、イレギュラーズだ。
 少しだけ不安ではある。マイヤたちの為にイレギュラーズが動いてくれるのか。
 地上の人々ならば、もう何年もイレギュラーズが世界を守る為に戦っている事を知っている。
 けれど、長い間空を漂っていたマイヤ達にはそれが分からない。
「助けて、くれるかな……」


「――もちろん、手助けするに決まっているだろう!!!!」
 威勢の良い声がレビカナンの遺跡の中に響き渡った。
 精霊マイヤを持ち上げた『黒顎闘士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)は高い高いをしながら少女を振り回す。
「あびあ……、ありがとう、ござ……います」
 ぐるぐると目を回したマイヤはぺたりとその場に座り込んだ。

 ラド・バウの闘士であるアンドリューは、一時的な軍属となり、鉄帝国南部の街ノイスハウゼンの上空に発見された伝説の浮遊島アーカーシュの調査に同行していた。
 アーカーシュには鉄帝国の食料事情を改善と、軍事力の更なる強化も期待されている。
 現代人が『アーカーシュ』と呼んでいるこの島は、厳密には超古代アーカーシュ文明と呼ぶべき高度な精霊都市『レビカナン』であり、さらにはやがて無人になり滅び去ったその都市を、これまた古い勇者アイオンの時代に魔王イルドゼギアなる存在が魔王城を建造したことが分かった。
 魔王は勇者アイオンによって討伐されたが、この地にあるのは『後詰めの城』だ。
 つまり、勇者が到達しえなかった『未踏破の裏ダンジョン』となるだろう。

 アーカーシュの探索は完全ではないまでも、殆ど全ての地域に調査の手が入っている。
 島内で確保したゴーレムの修繕も完了し、命名者によく懐いている状況だ。
 目下、最大の問題は魔王イルドゼギアによる後詰めの城『エピトゥシ城』の攻略。
 もう一つが強力な防衛機構を持つ遺跡深部『ショコラ・ドングリス遺跡』の探索であった。
 そこで鉄帝国は大規模な攻略作戦を行うことにした。作戦名は『Stahl Eroberung』。
 鉄帝国とローレットの連合軍をもって、一気呵成の大攻勢により完全征服せしめるのだ。
 しかし、その作戦の中で、特務大佐パトリック・アネルの独断が報告される。
 有能な軍人だったはずのパトリックが作戦決行日当日、彼は突如『地上にあるノイスハウゼン基地との通信網を遮断』、そして『力をもってイレギュラーズを作戦から排除する』行動に出たのだ。
 ――パトリック・アネルは魔種となった。
 そうローレットのイレギュラーズは判断した。
 妨害行為も行ってくるだろう。イレギュラーズは特務派軍人達を相手取りながら、アーカーシュの制圧作戦を完遂せねばならない。

「む……! どういう事だ、カイト!?」
 行きよい良く振り向いたアンドリューは友人の『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)へ視線を向ける。
「あー、まあ、俺達はその『エピトゥシ城』へ行って、モアサナイトを取り返せばいいんだな?」
「それで合ってるわ…………ごめんなさい。訪問者であるあなた達に手伝わせてしまって」
 しょんぼりと項垂れるマイヤの頭を『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が優しく撫でた。
「問題無い。俺達もエピトゥシ城を攻略しないといけないんだ。目的は一緒だ」
 イズマの声にマイヤは花を咲かせたように笑顔を見せる。
「ありがとう! もちろん、私も一緒に行くわ! ゴーレム達もね! 罠があるみたいなのだけど、それも気を付け無くてはいけないわね」
「罠もそうですが、特務派軍人もいます。気を付けませんと」
 赤い瞳を上げた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は魔種となったパトリック・アネル達特務派軍人からの妨害を懸念する。

「つまり、罠をぶっ壊して、敵をぶち倒せばいいんだな!?」
 未踏派のダンジョン攻略に子供みたいな純粋な瞳で嬉しそうに笑顔を見せるアンドリュー。
「もうちょっと難しいような気もするが……いや、まあ結局の所。全部、倒すで良いと思う」
 友人の脳筋ぷりに頭を抱えるカイトは難しい説明を諦めた。
「ならば、行こう! エピトゥシ城へ!」

GMコメント

 もみじです。
 アンドリューが右大胸筋ダウジングで強い罠を見つけてくれます。
 それをイレギュラーズは、全力で叩きのめし、エピトゥシ城の奥までやってきました。
 この部屋にも罠が仕掛けられています。全力で敵諸共、ぶち倒しましょう!

●目的
・敵の撃退
・モアサナイトの回収
・マイヤの生存

●ロケーション
 エピトゥシ城の五階層。マーズキャッスルと呼ばれる場所です。
 この部屋に入った瞬間、辺りは夜空に浮かぶ星の城になりました。
 最奥に見える白亜の城にはモアサナイトが吊されています。
 戦場となるのは、城の前にある夜空の平原です。

●敵
○『マーズキャッスルの王』ルーファウス
 煌びやかな装飾と、刺々しい王冠。美しい見た目の王です。
 火輪のシールドがルーファウスを守ります。
 モアサナイトを縛る銀の鎖の鍵を持っています。

 美しいモアサナイトをショコラ・ドングリス遺跡から奪取し愛でています。
 モアサナイトの能力も気に入っていますが、二人は愛し合うのだと勘違いして、それを邪魔するイレギュラーズを排除しようとしています。

○罠
 夜空の平原にランダムで現れます。

・凍結床:凍結しつつも表面は僅かに濡れており、転倒(乱れ系BS)の恐れがあります。また戦闘が長引くと凍結系のBSを受ける場合があります。

・ダートトラップ:夜空に瞬く星が突然降り注いできます。ダメージトラップです。

○特務派軍人×20
 このマーズキャッスルとモアサナイトを手に入れようとしています。
 イレギュラーズを排除するのを手伝うとルーファウスに取り入りました。
 銃やナイフで武装しています。連携が取れた行動をします。

○『マーズキャッスル』の兵士×20
 煌びやかな装飾を身に纏った、美しい見た目の男たちです。
 弓矢や魔法で攻撃を仕掛けて来ます。
 近づくと剣を抜き、斬り合いを仕掛けて来ます。

●NPC
○『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)
 ラド・バウのC級拳闘士。
 筋肉を見せつけてくる気さくな青年です。
 一応、軍の指揮下に入り探索をしているようです。
 笑顔と持ち前の明るさで、パーティを盛り上げてくれるでしょう。
 なぜか右大胸筋ダウジングで強い罠を見つける習性があります。
 拳で戦います。

○精霊マイヤ・セニア
 アーカーシュの精霊都市レビカナンを管理する精霊です。
 見た目は可憐な少女です。
 酷い有様になったレビカナンに心を痛めています。
 眠って居た間の事は分かりません。
 後衛にてゴーレム達を指示します。

○ゴーレム
 クロスランチとフローラアミーカという名が与えられたゴーレムです。
 修理が終わり、イレギュラーズ達に友好的です。
 マイヤやイレギュラーズの指示に従い戦います。

○モアサナイト
『都市管理機構集積回路』をその身に宿す精霊です。
 美しい見た目をしています。眩しく輝きを放ちます。
 星の城に鎖で繋がれています。
 ルーファウスはモアサナイトを手に入れるため、回路を上書きしようとしています。
 支配すること、それが愛し合うことだとルーファウスは疑っていないのです。
 このままでは、モアサナイトの心身が壊れてしまいます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Stahl Eroberung>星の城完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年07月25日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
皇 刺幻(p3p007840)
六天回帰
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

リプレイ


 刺々しい様相を眼前に広げる黒き魔王の居城『エピトゥシ城』に紫電が迸る。
 幾つもの罠をくぐり抜け、イレギュラーズは第五階層へと足を踏み入れた。
 重い扉を開けると、其処には視界を覆う満天の星空が広がる。
 空間自体が夜空の平原となり、時折空から星が降り注いだ。

 遠くに見える星の城に取り付けられた大きな鳥籠の中に、ひときは輝く光が見える。
「モアサナイト……っ」
 今にも飛び出して行こうとするレビカナンの精霊マイヤ・セニアを『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が手を引っ張って止めた。
「どう、どうっす。今、走り出しても袋だたきっす」
「そうね。ごめんなさいあの子の姿が見えたらつい」
「町内掃除から迷い猫探しまで! 困った人の依頼なら手助けしちゃうのがイレギュラーズっす! だから、マイヤさん任せるっす。お友達の精霊さん助けにボクも頑張るっす!」
 レッドが「えいえいおー!」と手を上げれば、マイヤとゴーレム達も一緒に連なる。
 そのゴーレムの一体『フローライトアミーカ』の背をぽんと叩いたのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だ。イズマと『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が見つけたゴーレム達は、都市管理を任されているマイヤを手助けしているらしい。
「これからも良き友であってほしいな」
 そう呟いたイズマにフローライトアミーカは同意するようにマイヤの頭に手を置いた。
「さあ、皆で協力してモアサナイトを助けに行こう! 頼んだよ、フローライトアミーカ!」
 マイヤを守るようにゴーレムへ命令を下し、イズマはタイニーワイバーンに飛び乗る。

「袖振り合うも多生の縁と言いますし、此度の事は力になりましょう」
 柔らかな笑みを浮かべた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)にマイヤは嬉しそうに頬を染めた。それにしても、とリュティスは星の城で輝く精霊を見上げる。
「モアサナイトを持ち出すとは礼儀を知らない輩ですね。きついお仕置きをせねばいけませんね」
 リュティスの言葉に頷く『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は剣柄に力を込める。
「俺達は最奥に囚われた精霊を助ける騎士と言った所か」
 遠くへ降り注ぐ星光がベネディクトのガントレットに反射した。
 その隣には『黒顎闘士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)の姿もある。
「罠はこの右大胸筋に任せろ! ドーンと潰して、敵も叩きのめす!」
「単純明快だな。アンドリューとは共に戦うのは初めてだったか、宜しく頼む」
 頼りにさせて貰うとベネディクトはアンドリューと拳を突き合せた。

「私、難しいことはあんまり得意じゃないみたいです。最近気付いてしまいました」
 指先を口元に当てた『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)は、ここまで積み重ねて来た依頼の数々を思い出す。そのどれもがユーフォニーにとって、目を瞠る程の経験ではあるけれど。
 否、この依頼とて複雑な背景がある様な気がするのだが。
「――なるほど。つまり、罠をぶっ壊して、向かってくる敵をぶっ飛ばして、最終的に囚われのお姫様を助け出せばいいって事だよねっ!?」
「その通りだ!!」
『竜交』笹木 花丸(p3p008689)の声に元気よく応えるアンドリューを見ていると、難しい作戦では無いようなきがしてしまうユーフォニー。
「花丸ちゃん、完璧に理解しちゃったぜっ!」
「は、はい! 私もわかりました!」
 敵を撃退して、モアサナイト助け、マイヤを守る。
 それさえ分かっていれば、きっと何とかなる。そんな気がする。しかし、アンドリューの後で少し難しそうな顔をしているカイトにユーフォニーは気付いた。
「……どーすんだよコレ」
 頭を抱えたカイトは前方を進んで行くアンドリューの背を見つめ眉を寄せる。
 この戦場に特務大佐パトリック・アネルの命令を受けた特務派の軍人がイレギュラーズより先に、モアサナイトの奪取の為、配置されていた。魔種になったとされるパトリックの独断専行。
 一時的な軍属となっているアンドリューにまで余計な指示が回っていないことは一安心だが。
「……後で覚えとけよ、特務派」
 カイトは忌々しそうな瞳で戦場を見渡した。

「むむ……ッ! 右大胸筋が反応している! 右前方に罠があるぞ!」
 戦場に響き渡るアンドリューの声と共にイレギュラーズが一斉に顔を上げる。
「罠も敵も破壊すれば良いんっすね。よしやるぞーっす!」
 レッドの靴から星屑が跳ね上がり、夜空の平原に奇跡を描いた。
「右大胸筋ダウジングすごいです……!」
 ユーフォニーは右前方にある罠目がけ、レッドの魔法が駆け抜けるのを見つめる。
「す、凄い……アンドリューさんの筋肉は罠の発見にも使えるんですか?」
 破壊された罠を見遣り『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)がアンドリューへと振り返った。
「うむ! 敏感に感じ取るぞ!」
「なるほど。鍛え続ければ、いつか俺もこうなれるのだろうか……」
 真剣な表情でアンドリューの胸筋に注視するルーキス。
 アンドリューはここに来るまで仲間の筋肉をしっかりと観察していた。
 ルーキスやカイト、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の筋肉は分厚くよく鍛え上げられたイイ筋肉だ。ベネディクトや花丸はよく伸びて瞬発力や持続力のバランスがイイ。
 もちろんリュティスやユーフォニー、イズマのしなやかな筋肉も素晴らしいし、レッドや『灼滅斬禍』皇 刺幻(p3p007840)の赤き血潮滾る筋肉も堪らない。
 この戦場にはイイ筋肉が集まっているとアンドリューは嬉しくなった。

「それにしてもどういう仕組みなのでしょうか?」
 アンドリューの右大胸筋ダウジングを不思議そうな瞳で見つめるリュティス。
「何だろうか。武者震いに近いものだと思うぞ!」
「左大胸筋はどうなってるっすか?」
「私も気になりました。左はどうなってるのかなって」
 レッドとユーフォニーの純粋な眼差しに、左大胸筋をぷるんと叩いたアンドリューは「こっちはちょっと寒さに弱い」と申し訳なさそうに眉を下げた。
「兎に角、こうして共闘出来て嬉しいです。救出作戦、共に往きましょう!」
 アンドリューの左大胸筋を暖める為、そっと手を当てたルーキス。もう片方の拳は勢い良く掲げられる。


「むむむっ」
 レッドは近づいて来る気配に顔を上げる。
 罠を避けた先に特務派の軍人と煌びやかな武装を身に纏った兵士が現れたのだ。
「ライバル攻略班を退けて隙をみてこの場所とモアサナイトを一番乗りで攻略して手に入れようなんてそうはいかないっす! 手に入れるのはボクらが一番乗りっす!」
 星の城にまで届くような大きな声で、レッドは疑念の種を蒔く。
「何を抜かすか、白々しい!」
 特務派の軍人がレッドの言葉へ反論するように吐き捨てた。
 今はまだ城の兵士と軍人はイレギュラーズという共通の敵が目の前にいる共闘状態だ。
 けれど、レッドが蒔いた種は、戦況が進むにつれて芽を出す遅延性の毒そのもの。
「手助けしないかもって!? 見くびってもらっちゃ困るね! 義を見てせざるは勇無きなり、だよ! そしてゼシュテル人に勇無きこと無し!」
 イグナートは特務派の動きも気に入らないと拳を前に突き出した。
「全員ぶっ飛ばして正気に戻してやるよ!」
 反響する音の重なりをイグナートの耳が捉える。
「結構な数がいるみたいだね。みんな気を付けて!」
 イグナートは兵士達が此方の数を大きく上回っているだろう事を仲間へと告げた。

「奪還が依頼ではあるが……少々私は別だ。あのルーファウスとかいう変態野郎、私とキャラが被っているじゃないか。その愛の形が、美しいとでも?」
 刺幻は眼光鋭く星の城に刀を向ける。
「ふざけてくれるな、そのブス面に何千発でもくれてやるぞ……!!」
 高らかに宣言した刺幻は、イグナートへと視線を流した。
 一部の罠は残し、それを利用して兵士や軍人達を誘い込むのだ。
「間違って踏むのは無しにしてくれよ」
 刺幻の声に頷いたイグナートは特務派軍人へ向かって雄叫びを上げる。
「友好的な島のミンナを騙し討ちするような形で火事場泥棒するような任務、恥ずかしくないのか!?」
 軍属であれば上の命令に従うのが掟である。統率の取れた群であるからこそ、個では成し得ない成果を得ることが出来る。それでも、一人の人間としての矜持は無いのかとイグナートは問いかける。
 軍人の眉がピクリと動いた。
「ゼシュテル軍人は鍛えた強さが誇りじゃないのか!? 弱い者から掠め取った力で何を誇る気だ!? ゼシュテル人の誇りを思い出せないって言うのならオレが今から見せてやる! かかって来い!!」
 イグナートの気迫に軍人達は己の中から湧き上がる怒りに、鼻息を荒くする。
「くそが! 言いたい放題いいやがって!」
「やってやろうじゃねーか!」
 吹き上がる憤怒の勢い、軍人達は大きなナイフを手にイグナートへと走り出した。
 その先には壊していない罠がある。
 イグナートはそれを軽々と飛び越え、挑発するように笑って見せる。
「かかれー!」
「うおおおおお!」
 怒号と共に押し寄せる軍人達は凍り付いた足下になど見向きもせず、一直線に奔った。
 ずるりと先頭を走る軍人の靴底が滑る。
「うお!?」
「止まれ! 止まれ!」
 勢い良く雪崩れ込んだ軍人達が次々に転倒するのを、イグナートはしてやったりと拳を掲げた。
 そのまま、イグナートは仲間の盾となるべく、軍人達を迎えうつ。
「さあ! お前達の相手はオレ達だ!」
 イグナートはルーキスへと視線を向ける。
「こちらは任せてください!」
 マントを翻しルーキスがマーズキャッスルの兵士へと二刀を抜いた。
「いざ……!」

 ――――
 ――

 イグナートとルーキスが押しとどめた敵にカイトの死を纏う氷雨が降り注ぐ。
 貫かれる兵士達の身体。氷花を咲かせるように傷口から凍っていく。
「ぐう……」
 カイトの攻撃により、身動きが取れない敵へレッドの魔法が迸った。
「おりゃー! 狂い逝け裏切りクソ軍人共ーっす! ついでに逝ってしまえこの誘拐集団犯共ーっす!」
 まるで流星の如く煌めきを帯びたレッドの砲弾は戦場に光を散らす。
 刺幻は手にした刀を兵士へと突き立てた。
 効率よく魔力を循環し、その身へと返す回路を備えた刺幻にとって、この戦場は『大暴れ』出来る場所でもあった。仲間が星の城へ辿り着くその道となるため。降り注ぐ星の光が刺幻の刀へ走る。
「――押し通る!」
 刺幻の刀は兵士の胴を穿ち、その強靱な鎧を突抜け、肉を断った。
「たまには裏方もいいな……しばらくは残党を潰して回るバイトでもするか?」
 飛来する矢を刀身で弾き、飛び上がった刺幻は続けざまの矢を躱し、敵の懐へと地を蹴る。
「おっと……それはそれとしてルーファウスは別だ、キャラ被りは許容しかねるのでな」
 口の端を上げた刺幻の視線の先。星の城から『王』が舞い降りた。

 ユーフォニーはマイヤへと振り返り「援護をお願いします」と指示を出す。
「わかったわ! 任せてちょうだい!」
 元気よく手を上げたマイヤの指先が差す方向へゴーレムが駆け出した。
「うおお! 俺も一緒に戦うぞ!」
 アンドリューはゴーレムと共に兵士達の行く手を阻むように対峙する。
 その後方にはベネディクトとリュティスの姿があった。
「リュティス、行くぞ!」
「はい」
 ベネディクトの声と共に先に動きを見せるのはリュティス。メイド服のスカートを翻し、飛んで来た弾丸を避け、己が主人へ視線を向ける。
「後衛と思って甘く見た事後悔させて差し上げましょう」
 リュティスの影から広がった黒泥はベネディクトが狙う照準を覆う様に展開した。
 足下を掬う泥に注意を引かれた敵兵の頭上に降り注ぐは、必殺の槍――
 ベネディクトが放ったそれは、夜空を切り裂く狼の咆哮と共に穿たれる、黒き牙の槍だ。
「油断するな。一気に畳みかける!」
「はい」
 ベネディクトは瞬時に反応を返すであろう軍人の挙動を見切り、その場を飛び退く。
 間髪入れずに着弾する弾丸が地面を抉った。

「――まぁ、排除するのを手伝うって言っても、それが手伝い終わったらそれまでの関係だろ?」
 カイトはマーズキャッスルの兵士達に、隣で一緒に戦っている特務派の軍人は『取り入っているだけで裏切る可能性は十分にある』と暗に示唆する。
「本来、三つ巴になってしまっているだけなのに、何故ほいほい連中の言の葉を信じて協力出来るのか?」
 彼の言葉は兵士達の心を揺さぶった。疑念が攻撃の手を緩ませる。
 カイトはこ自分自身をこの戦場において『下支え』だと定義していた。
 敵を強く叩きのめすようなヒロイックな戦士の役は仲間が頑張ってくれている。
 されど、カイトの神髄はその『場作り』にあるのだ。
 術だけではない。言葉を繰り相手の心を掌握する『役割』の上でも真骨頂――
「なあ、その隣のヤツは本当に、仲間、なのか?」
「……敵を自ら懐に入れるなんて王様は随分と優しいんだね。でも、その兵士さん達の目的はモアサナイトさんを手に入れる事だよ?」
 カイトと花丸の言葉に兵士達は軍人を見遣る。
「今は私達と戦って貴方達が消耗したところを背中から刺そうと狙ってるんじゃないかな。そんな人達と貴方達は一緒に戦えるの?」
 動揺は攻撃を鈍らせ、逆に花丸達の拳が容赦無く身体に打ち込まれる。
「俺達を排除したいって点では一致してるようだが、そこの軍人達の目的もこの城とモアサナイトだぞ? つまり本当は三つ巴な訳だ」
 花丸の言葉に重ねるのは、イズマの声。
 イレギュラーズと特務派の軍人の目的は同じなのだと兵士達に知らしめる。
「本当なのか?」
「今はそんな事どうでもいいだろう! この侵入者達をやっつけねぇと!」

 兵士と軍人の不和の波が広がり欠けたその時。
 星の城から光が差し込んだ。
 戦場を迸る星の王ルーファウスが放った魔法だった。


 ルーキスは冷静な瞳で戦場を見渡す。
 敵の半数がイレギュラーズ側の火力に押され、戦闘不能になっていた。
 こちらの損耗も多いが、状況を有利に進められている手応えがある。

「戦線に疲労と停滞が見える。このまま戦闘を続ければ、結果は火を見るよりも明らかだが……それでも続ける気か?」
 ルーキスは特務派の軍人へ問いかけた。
「あの王とて、何時そちらに牙を剥くか分かるまい」
 仲間割れとは行かずとも、敵の不安を煽り連携や統率を崩す波紋となればとルーキスは白百合と瑠璃雛菊を手に戦場を駆ける。
 風が吹き抜けたと同時にルーキスは、星の王の前に立った。
「……随分と歪んだ愛情表現だな。上書きされた感情など、まやかしでしか無いというのに」
「黙れ小僧。この先は一歩も通さんぞ!」
 数度の剣檄が弾け、ルーファウスとルーキスが刀身から火花を散らす。
「そもそも、力で相手を支配しようとする行為が『愛』である筈などない。言葉が通じぬのならば、力付くで止めるまで!」
 ルーキスの二刀がルーファウスの懐へと走り、赤き血が地面に跳ねた。

「ふーん? 支配するのが愛し合う事っすか。ならボクもルーファウスを支配(愛)してあげるーっす!」
「たわけ……! お前如きか弱き者に、この私が守られるだと?」
 ルーファウスの言葉にレッドは小さく首を傾げるも、攻撃の手を緩めはしない。
 星の王の周りに浮かぶ火輪の盾に照準を合わせ、解き放つ魔力の奔流。
「どうっすか! これでもボクが弱いと?」
「小癪な……」
 破損した盾に忌々しげに眉を寄せるルーファウス。
「もちろんそれも愛し合うことなら喜んで受け取ってくれるっすよね!」
 魔法の煌めきがルーファウスの前で弾け、爆煙を生み出す。
 その煙の間から花丸が拳を突き入れた。
 一人では力尽くで押し切れる相手では無いのかもしれない。
 けれど、花丸にはリュティスやベネディクトという仲間が居る。
 それだけで心に力が湧き上がる。拳に纏う勇気になる。
「――行くよ!!」
「ああ!」
 花丸の声に重なるイグナートとイズマの鼓動。
 拳は唸りを上げてルーファウスの胴へとめり込んだ。骨が軋み折れる音が拳に伝わってくる。
「ぐぅ……!」
 肩で息をする星の王にリュティスは冷たい声音で「気持ち悪い」と告げた。
 誰かが言わねばこの分からず屋の王は気付かない。
「何を……」
「一方的に愛を告げて拘束するのはいかがなものかと思います」
 此方がどれだけ間違っていると叫んでも、否定するように頑なだったルーファウスの瞳が揺れる。
 リュティスの冷静な声色と端的な物言いに、一瞬考えてしまったのだ。
 己の在り方が、誰かから見れば『異様』なのかもしれないと。
「モアサナイト様! もう少しです、頑張ってください!」
 自分が大切にしているモアサナイトを『気に掛ける』声に、この時初めてイレギュラーズという存在を敵では無く人として認識したのだろう。

「ルーファウスよ、あなたにとっての愛は相手を支配し、あなたの望む反応を求める事なのだろう」
「反応、か……確かにそうかもしれない」
 剣を交える最中、ベネディクトは星の王の僅かな変化に気付いていた。
 怒りに満ちていた表情に迷いが見えたのだ。
「……支配することこそ、相手を守る術ではないのか?」
「愛の形が一つだとは言わない、だが俺はそれを愛とは思えない。例え一方通行であろうとも、相手を慈しむ事こそが俺はそうだと思うからだ」
 慈しむこと。ルーファウスの心に響くベネディクトの言葉。
 ルーファウスがこの先に進めば、きっとどうしようもなく取り返しの付かない場所へ堕ちてしまう。
 なればこそ、モアサナイトを星の王の元へ置いておく訳にはいかないのだ。
「彼女の心も体も、彼女の物だ。決して支配して手元に置くべき物ではない――!」
 光と共にベネディクトの剣がルーファウスの身体を突抜ける。
 溢れ出た血が地面に落ちて、悲しげな瞳がベネディクトを見つめた。

 刺幻とイグナートがルーファウスに組み付く。
「これでもう抵抗は出来ないだろ! 俺達の勝ちだ!」
「大人しく鍵を渡しやがれ! この変態野郎!」
 刺幻はルーファウスの顔面に拳を叩き込んだ。頬は赤く変色し、口の中が切れて血を吐く星の王。
 きっとこの痛み以上にモアサナイトは苦しんでいるだろうから。囚われの精霊の代わりに刺幻はルーファウスを殴り付ける。
 胸元に着けられたペンダントキーが、モアサナイトの鳥籠と鎖を開く鍵だ。
「ルーファウスさん、愛し合うってのはお互いが愛情を持つ事だ」
 イズマは星の王の前へ立ちその胸へ手を伸ばす。
「支配して書き換えるなんて一方的な方法ではそれはできない」
 ペンダントキーを掴み、力を入れて細いチェーンを引きちぎった。
「何より、縛られたモアサナイトが苦しんでるのが分からないのか? お前はモアサナイトの気持ちも知らずに、それでも愛すると言うか!?」
「気持ち……」
 イズマの言葉に唇を噛みしめるルーファウス。
 イレギュラーズの言葉が彼の心に槍のように突き刺さり、暗雲を巡らせる。
「間違っていた、というのか?」
「うん、君は間違ってる」
 イズマはベネディクトへと鍵を渡し、星の王が暴れないよう注視する。

 鎖に吊された鳥籠は、カイトと花丸、地上で待ち構えたアンドリューによってゆっくりと星空の草原へと降ろされる。
 ペンダントキーを使い、鳥籠とモアサナイトの鎖を解いたベネディクトは囚われの精霊を抱き上げて、檻の中から出て来た。
「モアサナイト!」
 鳥籠の中から救出されたモアサナイトをマイヤがぎゅっと抱きしめる。
 口をぱくぱくさせて、首を振るモアサナイト。
 長い間言語を介さなかったせいで、声帯にあたる部分が壊れているのだろう。
「大丈夫、任せて」
 モアサナイトの首をゆっくりと撫でるマイヤ。
「マイヤ様、モアサナイト様の具合は大丈夫でしょうか」
 リュティスは床に膝をついてモアサナイトの背を支える。
 侵食されている回路は末端なのだろう。意識はしっかりとあるようだ。
「ええ、怪我は無さそうよ。良かったわ」
 その声を聞き、レッド達も胸を撫で下ろした。
 ユーフォニーはモアサナイトの掌に金平糖を転がす。
「どうぞ。甘くて美味しいですから」
「……ん」
 ぱくりと金平糖を口に入れたモアサナイトは安堵したように息を吐いた。

「愛とは……難しいですね。私もわかっているわけではないんですけど……」
 ユーフォニーは刺幻とイグナートに押さえつけられているルーファウスの元へ座り込む。
 空色の瞳を真っ直ぐにルーファウスへ向け。
「ルーファウスさんが愛し合うことは支配することだと考えた経緯や原因は何ですか?」
 何処かで読んだのだろうか。誰かに教えられたのだろうか。
 其れとも元からそういう考え方なのだろうか。
 ユーフォニーの問いかけにルーファウスは張っていた力を抜き、降参の意を示す。
 戦意を無くしたと見做した刺幻とイグナートは、ルーファウスの上から退いて城壁にもたれ掛かった。それでも、視線は逸らさずに注意は怠らない。

「愛し合うは『し合う』で双方からだけれど、『支配する』は一方的です」
「……支配されることは、『幸せ』なのだと思っていた。強き者が生き残り、弱き者が死んでいく過酷な島において、『支配する』ということは、揺り籠の中で外害から守る事なのだと信じていた……だが、私が間違っていたのだな」
 イレギュラーズが自分へと語りかけた言葉の数々は、自らの行いを否定するものだった。
 今まで、それが正しいと思っていたルーファウスにとって、彼らの言葉は新鮮で衝撃的だった。
 何方にしても、今からモアサナイトの信頼を取り戻すのは難しいとユーフォニーは眉を寄せる。
 けれど。否、と。首を振るユーフォニー。
 信頼を取り戻す事が難しいなんて、自分達(まわり)が一方的に決めたもの。
 ユーフォニーは息を吐いて言葉を乗せる。

「せっかくこんなに綺麗な場所にいるんです。
 ただ傍で、一緒にこの星空を眺めるのも良かったのではないでしょうか。
 ここの景色が嫌いなひとはそういないと思います。本物の星空を見に行くのだって素敵じゃないですか。
 出逢うことは始まりで、共にいることが大切で、一緒に同じことをして過ごすのは幸せだと思うんです。
 ――そんな時間も、きっと愛です」

 ルーファウスが本当にしたかったこと。
 それはユーフォニーの言うとおり、星空をただ傍で見て笑い合いたかった。語り合いたかった。
 星の王はゆっくりとモアサナイトに近づいて膝を折り、その白く柔らかな手を取る。
「……すまない。お前を傷つけてしまったこと。彼らを傷つけてしまったこと。嫌われてしまっても仕方が無いと思っている。けれど、もし。やり直せるなら、『私の友達』になってほしい」
 切実なる願いに打たれユーフォニーの瞳に涙が浮かんだ。
 一方的な支配する愛(守る事)ではなく、隣に並び歩いて行きたいと真摯に訴えかけるルーファウス。

「怖がりルーファウス」
 告げられた言葉にルーファウスは目を見開く。
「……モアサナイト、お前喋れるのか?」
「うん、壊れてたけどマイヤが直してくれた。……ねえ、怖がりルーファウス。鎖で繋がなくてもボクは逃げたりしなかったよ。だからね……」
 モアサナイトは星の王の手をぎゅっと握って、それから頬をぎゅっとつねって。
 ルーファウスは何が起ったのかと目を白黒させる。
「ふふ、これでおあいこ。……来訪者(ビジター)のみんな、ありがとう。ルーファウスを止めてくれて、ボクは大丈夫だから。ルーファウスはさ、ちょっと世間知らずで心配性の――『ボクの友達』なんだ」
 悠久の時を過ごす中で、誰も立ち入ることの無かったショコラ・ドングリス遺跡の中枢で、モアサナイトを見つけて話しかけてくれたから。
 幸せそうに微笑むモアサナイトに誰しもが安堵の表情を浮かべた。

 刹那、空気が震える――

「くそ……!」
 悪態を吐きながら現れた特務派の軍人の放った弾丸が――モアサナイトを撃ち貫いたのだ。
 スローモーションで流れる視界と、次弾、三弾と迫る弾丸。

 ベネディクトはその身を射線に滑り込ませる形で追撃を防いだ。
 注意深く周囲の気配に気を配っていたベネディクトだったからこそ、着弾の瞬間に身体を翻す事が出来たのだ。モアサナイトを振り向く事無くベネディクトは特務派の軍人へと駆ける。
 それは背を任せたリュティスの存在があったからこそ。彼女ならば、モアサナイトを的確に救う。そう信頼している証であった。
 赤い血溜まりの中へ倒れ込むモアサナイトを必死に揺さぶるルーファウス。
「モアサナイト! モアサナイト! 死ぬな、死ぬんじゃない!」
「ぅ……」
 痛みに小さく吐息を漏らしたモアサナイトにルーファウスは動揺を隠せない。
 これが失う事の怖さなのかとルーファウスは心が軋んだ。
 モアサナイトが大切な存在なのだと、改めて身に染みる。
 失いたくない。絶望と恐怖が星の王を蝕む。
「モアサナイト!」
「――大丈夫です。助かります。全力で助けます」
 ルーファウスの悲痛な叫びに、冷静なリュティスの声が届いた。
 その迷い無きリュティスの瞳は、ルーファウスにとって何よりも頼もしい救い手に見えた。
「ユーフォニー様支援をお願いします」
「はい! ルーファウスさん、モアサナイトさんは死にません。私達に任せてください!」
 リュティスとユーフォニーが手を翳し、生命の息吹を言葉に乗せる。
 薄緑の光を帯びた癒やしの加護は、白亜の城に草花を芽吹かせ、モアサナイトの周りに咲き誇った。

 ――――
 ――

「卑劣な!」
 ベネディクトは弾丸をその身に受けて尚、特務派の軍人へと剣を振う。
 手負いとは思えぬ剣裁きに、軍人は舌打ちをした。
「チィ! お前らに渡すぐらいなら、壊せと命令されてるからな! それに、俺らを殺してもパトリック大佐は止まらないぜ?」
 彼らを殺す事は容易いだろう。されど、死を厭わぬ者を御するには骨が折れる。
 特務派の軍人の言動に眉を寄せるのはカイトだ。
 正直な所、アンドリューの居る手前、こういった面倒な状況は避けたかったのだ。
 鉄帝という国の在り方として、問題は戦って解決することが出来るのは救いではあるが。
 それでも親友が国の陰謀のまっただ中に投げ込まれているのは我慢ならない。
「どうしたカイト」
「いや、何でもねぇ」
 ポーカーフェイスもアンドリューの前では形無しなのだろうか。否、親友だからこそ分かる微細な変化をアンドリューは持ち前の純粋さで見抜いたのかもしれない。口の端を上げるカイトは親友に視線を送る。
「あいつらをとっちばったら、終わりだ! 行くぞアンドリュー!」
「おうとも!」

 イズマは冷静に軍人達の動きを観察する。
「なあ、君達も本当は、急に過激な指示を出されて疑問に思ってるんじゃないか?」
 今まではアーカーシュの攻略という大儀があり、その元でイレギュラーズと協力していた。
 それをこの大規模攻略作戦の直前で、覆すような突飛な事が起こりえるのかと問いかけるイズマ。
「俺達や『保護対象』を排除する指示は明らかにおかしい。従う必要はない!」
 イズマの言葉にルーキスも諭す様に軍人へと言葉を掛ける。
「勝敗は決した。これ以上の戦いは無意味だと思うが?」
「うるせぇ! お前らの言う事なんてきかねぇよ! クソくらえだ!」
 譲歩の余地無く、交渉は決裂した。

「んじゃ、遠慮はいらねーよな?」
 刺幻は指を鳴らし、刀を特務派の軍人へと滑らせる。
 一直線に裂かれる皮膚から赤い血が飛び散った。
「クソ!」
 痛みに怯む軍人へ花丸の拳が叩き込まれる。
 空気を割く花丸の闘気は一度の応酬のあと、更に多段の攻撃を繰り返した。
「――皆、今だよっ!」
 花丸のかけ声と共にレッドの赤き魔法が夜空の草原を走る。
 瞬きを帯びた力の奔流が軍人を飲み込み、光の粒子をまき散らせながら広がった。
「くらえ! オレの拳――!」
 イグナートの猛烈な打撃が軍人にねじ込まれ。どっと星空の草原に伏したのだ。


「こっちは終わったよ」
 イグナート達が手を上げて戻ってくる。
「あいつらとっちめてやったっすから!」
 拳を上げたレッドが「にしし」と笑顔を見せた。
 抵抗出来ないように特務派の軍人を気絶させた花丸と刺幻は、彼らが再度変な動きをみせないように見張りに付いている。念には念を入れて射線を遮るようにカイトとアンドリューが間にたった。

「傷は塞がりました。ご主人様が初弾以外から守ってくれたお陰ですね。もし、全弾浴びていたら命が危うかったでしょう」
「はい。何とかなりました!」
 肩の力を抜いたリュティスとユーフォニーは深呼吸をして、モアサナイトの上半身を起こす。
「モアサナイト……」
「大丈夫だよ。ルーファウス。もう痛くない」
 笑顔を向けたモアサナイトをルーファウスは強く抱きしめる。

「ああ、ありがとう。異邦の民よ。モアサナイトの命を守ってくれて」
 ルーファウスは、ぼろぼろと涙を零す。大粒の涙を恥ずかしげも無く流した。
 その感謝の意は心から紡がれたものだと、イズマやルーキスには分かる。
「初めてだ。こんなにも涙を流したのは。私は間違っていた。危うく大切な者を失いかけた。しかし、お前達がいてくれたお陰で、モアサナイトを失わずに済んだのだ。ありがとう。本当に、ありがとう……」
 星の王として生まれたルーファウスは、他者を支配することこそ、彼らを守る術だと信じて生きてきた。
 されど、その方法は間違いであり、共に在りたいと願うならば隣に立つべきだと、イレギュラーズが教えてくれた。
「約束してくれ、もうモアサナイトを傷つけないと」
 ベネディクトは青い双眸をルーファウスへと向ける。
「ああ、約束する。盟約は此処に。星の城の王ルーファウスの名において、決してモアサナイトを傷つけず、この命を賭して守り抜くと誓う」
 剣を掲げベネディクトを真っ直ぐ見据えた星の王の心には――本物の『愛』があった。

 ――――
 ――

 回路の書き換えを行った部分を元に戻すため、ルーファウスはモアサナイトの所へ通う事になった。
 ショコラ・ドングリス遺跡の中枢で、いつも通り丁寧に回路の修復をする二人。
 そこへやってきやのはゴーレムを連れたマイヤだ。

「モアサナイト、ルーファウスに意地悪されてない?」
 心配そうに見つめるマイヤに、ルーファウスをじっと見つめるモアサナイト。
「意地悪ねぇ……されてるかも」
「おいっ!」
「ルーファウスどういう事なのかしら? モアサナイトを傷つけないと約束したはずよね?」
 モアサナイトとルーファウスの間に立ったマイヤは腕組みをして星の王を睨み付ける。
 ついでに両脇のゴーレムも腕組みをしていた。
「マイヤ……それはモアサナイトの『冗談』だ。見た目はこんなに美しいのに、口がきけるようになった途端揶揄うような事を言い出した」
 溜息を吐いたルーファウスは意外とお転婆なモアサナイトの頭をわしわしと撫でる。
「モアサナイトもだぞ。マイヤは素直なのだ。信じてしまうだろう」
「本当だもん。一人でお散歩したいって言ったら、危ないからダメって言った。ボクは大丈夫なのに」
「大丈夫な訳無いだろう! 外はモンスターが徘徊しているのだぞ」
 ルーファウスの困り顔とモアサナイトのふくれっ面に、ぱちくりと目を瞬かせるマイヤ。
 二体のゴーレムを交互に見上げ、心配なんて一欠片も必要無かったと肩を竦める。
 イレギュラーズがこの二人の在り方を変えてくれた。正しい方向へ導いてくれた。
「ありがとう……」
 マイヤは小さく呟く。ゆっくりと育まれる二人の『愛』のかたちに、笑顔を浮かべながら。



成否

大成功

MVP

ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

状態異常

ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
戦輝刃

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 連携や戦術、心情とても良かったと思います。
 皆さんのおかげで、二人とも救われました。
 MVPは最もルーファウスの心を打った方へ。

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