PandoraPartyProject

シナリオ詳細

はかなき慈愛

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 彼女は聖女だ。
 荘厳なる白の都で祈りを捧ぐ彼女は紛れもない聖女なのだろう。
 鮮やかなりし絢爛をその身に纏い、神の詔を届けんとするその行い――彼女を聖女と呼ばず何と呼べば佳いのか。
「私は主の言葉を伝えましょう」
 振り仰ぎ、銀の瞳を細めた聖女はころころ笑う。
 乙女は夢を見る。乙女は常に祈りを捧ぐ。乙女は常に執行する。
 代弁者として、例え理解無きものに『詭弁』だと罵られ様とも。神の詔がある限り。
 神託を。
 神託を。
 神託を――!

「私は伝えましょう。彼は、断罪すべき存在であるのだと」


 白き都で起きた些細な事件が発端だった。
 幼い少年が病気がちの母の為に薬を盗んだのだという。
 神に祈りを捧げ、その御心の儘に死を待つ母は息子の行いに甚く感激したが、同時に、忍び寄る断罪に怯える様に息子を家の中へと隠した。
 それが、神の逆鱗に触れたのだと白き都の端に聳えた聖堂に仕える一人の聖女は云う。
 神は云ったのだ。
 幼き少年の犯した罪には断罪が必要であると。
 そして、その罪をひた隠しにした母には同様の処遇を受けるべきだと――

「『そういう場所』ではあるけど、俺にとってはやるせないのは……まあ」
 死を宣告された女には薬の配当はなかったそうだと資料を見ながら『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)はそう告げた。
 その為、幼き少年は聖堂の管理する薬庫に盗みに入ったのだろう。少年が『私刑』を処されるのはお国柄だと『いやでも納得するしかない』のだが――幼き一人息子がそんな目にあうとなれば母も黙ってはいられなかった。
「私刑を手伝え、というのがクライアントからのご依頼。
 ……母と一人息子を私刑に処すが為に聖堂に連れてきて欲しい、と。病気がちの母はきっとそんなことに合えば耐えられないと思う」
 声を震わせ、小さく云う雪風の表情は暗い。母や息子を護るために憐れに思った村の自警団も『身分を隠して』聖堂より派遣される『神託の代行者』と戦うつもりなのだ。
「身分は隠して大丈夫。あくまで聖堂から派遣された『神託の代行者』なんで。
 ……まあ、『特異運命座標』が聖堂の指示に従ったって言えば市民は歓んでくれるはずッスけど」
 やるせないのは確かな事だと雪風は小さく告げた。
「誰かの評価の裏に誰かの死が付き纏うのは何時もの事なんだけど、さ。
 ……やるせねーな、って思うのは仕方ない事で。よければ、まあ、独り言なんだけど、その後で、弔いを……お願いしたいな、て」
 そう、小さく呟いて雪風は不器用な笑みを更に濁す様に曖昧に笑った。

GMコメント

菖蒲(あやめ)です。

●成功条件
 母子を聖堂へ連れていく

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●私刑されるべき母子
 ある病に冒され死期の近い母と、その母を救うべく薬を盗んだ幼き一人息子です。
 息子は母を救うべく聖堂の薬庫に盗みに入り、
 神の神託によりもう助からぬと告げられた母は息子の優しさに彼を匿うべく家の扉を閉めました。
 戦闘能力はありません。互いに互いを大切にしています。
『殺さなくても』構いませんが、『聖堂に連れていくことが必要となります』。
 母は私刑に合えば耐えられないかと思われますが、息子に関しては特異運命座標の口添えがあればうまくいけば少しは刑がゆるくなるでしょう。
※彼らの死体に関しては特異運命座標が譲って欲しいと言えば譲ってもらえます。

●聖堂
 母子の家から50m離れた位置にあります。神の詔に基本的に村の人々は従順です。

●村の自警団(身分を隠している)×8
 不憫な母子の実情を把握し、憐れに思い何とか逃がしたいと願う人々です。
 彼らは母子の家に入る前の妨害や道中の妨害を行うでしょう。
(※母子の家に入る前の妨害で全員を戦闘不能にすることで道中は安全になります)

どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • はかなき慈愛完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月24日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ(p3p001037)
藍玉雫の守り刀
ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
シーヴァ・ケララ(p3p001557)
混紡
アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)
シティー・メイド
シラス(p3p004421)
超える者
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
ロレイン(p3p006293)

リプレイ


 澄んだ白に覆われたその都に蔓延る正義は何時だって神の詞を口にするものだった。
 それをハリボテと呼ぶことも『当たり前』と称することもそれは全て人次第――但し、異教徒と呼ばれるなかれと注意を促されるように『鳶指』シラス(p3p004421)は山道に立った。
 その日は丁度晴天で、美しい空を眺めることができていた。只、そんな日であった。
 鮮やかなる白の都の端、片田舎と呼ぶに相応しいその場所に気配は何処かシンとしていて。村の人々は口々に神の住まう聖堂より盗みを働いた等不埒だと噂する。その声を聴きながら 『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)は夏の暑さで僅かに滲んだ汗を確かめる様に視線を落としじっとりと息を吐いた。
「病の母の為に盗みで病の母の命を失い、そして子もまた、重い罪を受けるであるか。子は何をすれば良かったのであるか……」
「ただ、その行いが『罪』と呼ばれるなら。犯した罪は裁かれるべきだと思うわ。けれど――これは余りにも『行き過ぎている』」
『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)は蠱惑的な赤を僅かに揺らす。額に埋められし呪いの赫色は陽の光を浴びて僅かにきらりと煌めいた。
 噂の声は密やかに。嗚呼、けれどあの優しい母子が犠牲になるのは忍びないわと囁く声も聞こえてくる。不憫であるだけ、けれど、神の声は絶対だから。
 ちらり、と視線を揺らした 『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)はクライアントから語られた言葉が絶対であるかのように手にしていたサウザンド・ワンの感覚を確かめた。
「クライアントが『私刑せよ』と申しているならばそれに従うまでですが、皆さんの方針も理解しております」
 刀――桜吹雪を刻んだそれを見下ろしながら『刃に似た花』シキ(p3p001037) はぽそりと小さく呟く。
「……病気で死ぬ人を……わざわざ、殺そうとしたり。……もうじき死んでしまう誰かを、助けようとしたり。
 人間って……知れば、知るほど……面倒くさくて、変な……生き物」
 シキの言葉を耳にして、『混紡』シーヴァ・ケララ(p3p001557) はそうね、とだけ囁いた。
「善悪なんて所詮は主幹によるものだからね。曖昧なものでしかないの。己が心に従って生きるのが一番よ」
「……そうであるか。人1人の命よりも教義が大事であるという場合。
 国が違えば常識が違うと言え、納得しがたいものであるな――最も、仕事には私情を挟めぬが」
「ええ、これが仕事じゃなかったなら、そう、思うわ」
 溜息を混ざらせて。シーヴァは深く息を吐く。豊かな織布に身を包み、緩やかに背を撫でたらとな。紅茶色の毛並みが鮮やかな彼女はこてりと小さく首を傾ぐ。
 じんわりと自警団が姿を現した。その姿を目にして『戦花』アマリリス(p3p004731)は仲間たちを振り仰ぐ。この戦いは全て血を流すことなく、というのが彼女の方針だ。
「どうか武器を引き、道を通してください。
 我々は、母子を悪いようにはしない。私達も貴方たちと同じように母子を憐れと思っております」
「……お前らは?」
「アマリリスと申します。私は聖堂にてお二人の罪の減刑を交渉します。免罪を遣い、言葉を以て聖女様を説得いたします」
  ロレイン(p3p006293)はその言葉にゆるゆると頷いた。
「なんの見返りもないのに。
 隣人の為に立ち上がれる心はとても尊いものだわ。今後もどうか其の儘、貴方の正義を貫いて」
 シーヴァの言葉を受けて、ぐ、と彼らは息を飲む。彼らは『罪人を輸送する傭兵』ではないのかと誰かが疑問を口にした。
「私たちも心を動かされました。それは、おなじです。ですが……このままでは、皆さんが聖堂に盾突く罪人となってしまいます」
 ロレインの言葉にアマリリスはゆるゆると頷く。罪人を増やしたくないのだと、不安げに息を飲んで。
 シラスは思う。アマリリスの声を聴き、どうしたものかと立ち止まった彼らの前で。
 果たして、盗人として罪人と名を連ねた子供を匿い罪を隠蔽した母親にその罪があるというなれば、その母子を庇わんと戦う彼らも『不正義』ではあるまいか。
(いや――……そうなんだろう)
 捕らえよとは情報屋は云わなかった。クライアントにとって『妨害』は予想外。情報屋が調べた情報の内なのだろう。
 一般的な良心の呵責であれば、彼も、この場の仲間たちでさえも罪を問われるべくは最小限で良いと考えている。
(ああして、姿を隠しているのは『不正義』と呼ばれない為か)
 陳腐な保身だ。もしも、本当に己を護るならばこうして妨害をしなければいいのに――

 予想外にも母子の抵抗は少なかった。元より、武闘派であるシキやアーデルトラウトにとって、抵抗があれば傷つけることも臆さないつもりであったが、母に言い聞かされていたのか子は素直に特異運命座標の許へと歩み寄りぺこりと頭を下げた。
「ラトナ、ゆっくりね。
 ねえ、お母様が先に逝ってしまったら――あなたはどうしたい?」
「ぼくは、お母さんがこうしなさいっていったように、したい。ぼくが死んだらお母さんは悲しむ、から」
 たどたどしくそう言ったその言葉にシーヴァはゆるゆると頷いた。その言葉こそが幼い子供の本心なのだろう。
「お母様は神に愛されてしまったから。アタシには何も出来ないの……ごめんなさい」
 きゅ、とラトナの毛を掴む幼い掌に力が籠る。きっと、まだすべてを飲み込み切れていないのだ。
「どのみち貴女の命はもう永くないけれど、でも命を賭して叶う願いがあるのなら、貴女は何を望むのかしら」
「子供の……これからの未来を」
 ミスティカははあ、と息をつく。免罪符を手にして――それはきっと、彼らを救う手立てになるはずだと
「……逃げないで、くださいね。……斬ったら。私が、怒られるので」
 囁くシキに母子はゆっくりと頷いた。ほら、聖堂はもう直ぐだ――


 重苦しい扉を開き、その奥に待って居たクライアント達は皆、生け捕りとされたターゲットの様子を伺う様にじっとりとした視線を投げかけてくる。
 緊張を滲ませた子供の背をゆるりと撫で、逃げてはならないと耳打ちしたシキは出入り口で待機すると母子の入場を促した。
 その様子を眺めていた我那覇は理不尽に震える仲間たちの様子にゆっくりと目を伏せる。
 感情というものは度し難い。子供の様に喚き散らすが吉か、それとも圧し殺すべきであるのか。果たして、その是非は解らない。
 我那覇にとって感情を仕事に挟むのは認められたものではなかった。
「聖女様」
 シーヴァが呼んだ言葉に、白を基調とした神官の衣装に彼女の瞳を思わせる豪奢な飾りを乗せた女がゆっくりと歩みを進める。
「……不服、というお顔ですね」
 神の言葉に、と。付け加えた女に目を伏せた我那覇は自己を出さぬと口を噤む。私情を挟み、声を荒げることは――とうに、忘れてしまったから。
「貴方達の神様は、好んで病人を痛めつけることがお望みなのかしら?
 神託により、御心の儘に死を待つ者にこそ、安らかな眠りを与えんと。
 そういう救いの道だって、あっていいんじゃないかしら」
 淡々と問い掛けるミスティカに聖堂関係者は――その奥に立っていた聖女は渋い顔をする。聖女は首を傾ぐ。しゃらりと音立てた豪奢な装飾の向こうで夜の闇よりも深い色をした瞳は濡れた色をしてミスティカを眺めていた。
「痛めつけている訳ではございませんでしょう。不敬者。
 神は罪をお許しになるべく『刑を与えてくださる』のです。そのご慈悲を剰え救いではないと!」
 聖女は憤慨した様に声を張り上げる。ああ、その様子に我那覇はよくわかる。人の心は教義よりも素晴らしい。
 この国にも慈愛はある。子が親を救いたいと願う心と同じように。けれど、それが不正義であると断罪されるのだからこれが『天義』という国なのだろう。
「そもそも、幼い子が母の病に効く薬の在処を正確に知っているものでしょうか? わかる位置に置いた聖堂に過失はありませんか?」
 ロレインの言葉に聖堂に居た聖職者たちは皆肩を竦めた。『神を冒涜する者ばかりなのか』と呆れたように息を潜めて。
「罪とは罪のなんたるかを知った者でなければ償えないものです。
 子の行動は悪と知ってのことではない、一重に母の苦しみを和らげんとしたためであるため、この子の罰は軽くあるべきです」
「なれば、幼き子が人を殺したとしてそれは罪ではないとおっしゃるのか」
 聖職者は云う。罪を知らぬ子が母が為に犯した罪に差はないのだと。神が罪と認めた以上、それに大小はないのだと。
「母親もまた、神託により死を告げられた身……。
 配給を止めるのではなくせめて症状を和らげる措置を講じていれば子にこのような行動を起こさせずに済みました。
 隠そうとしたことは、聖女様たちの最初に思い浮かべていた罰の内容を考えれば隠そうとして当然でしょう」
「『罰とはどうして与えられるものか』。貴方はそれを理解しておられぬのでしょう」
「いいえ、聖女様。日々の安寧が貴女様の祈りで与えられていることを私たちは存じています。
 我が名はジャンヌ・C・ロストレイン。亡き村の聖女。今は父の汚名を背負った憐れな女――その罪は、無為に苦しめない事を望みます」
 アマリリスはゆっくりと声を張る。よく通る女の声音に聖職者は確かめる様に言葉を待った。
 シキはこの聖堂の聖職者たちは特異運命座標の言葉を『しっかり聞かん』としている姿勢である事は判る。そうだ、ロレインの言葉一つにとったとしても彼らは全ての言葉に確りと答えんとしていたのだと。
 座り込み震え続ける子の背を撫でる母のその背を見詰めていたアーデルトラウトはクライアントは『神の代弁者』なのであって、決してみだらに私刑を与えんとしている訳ではないのだと察した。
「盗みは肯定しませんが、子供一人の侵入を許し罪を犯させる程度の警備は聖堂の不徳の致すところ。
 この免罪符は、聖堂が子供に罪をおかせる状況を作ったことに対して使います」
「神の御心の儘、何人にも救いを乞う事が出来るのがこの聖堂のあるべき姿。
 なれば、子供は『母の為に薬が欲しい』と乞えばよかったのではありませんか? 聖女ジャンヌ」
 聖女はアマリリスを見据え、そう言った。この聖堂の作りそのものが『すべてを受け入れる如く門徒を開いていた』のだとしたら。
「……それでは、子が薬を盗める位置に置いてあったのも『神に願い、神が答えたならば渡した』と……?」
 シーヴァはゆっくりと、問い掛けた。聖女は只、無言で頷く。
「けれど……その手段を択ばなかった子が薬を盗んでまで助けたかった母は病に命を盗まれる。新たな刑を加えずとも母と子は永遠に離れ離れになるの。これ以上の罰があるかしら?」
「ええ、ええ。そうだわ。離れ離れになるのです。それはどれ程、心を痛めることであるか。
 私たちはそれを識っています。けれど――その窃盗(おこない)を神は許さなかった、只、それだけです」
 シーヴァは目を伏せる。嗚呼、そうだ。この国は神の一言で全てが変わってしまうのだ。
「聖女様。民を守るのも貴方の役目。罪には罰を……圧倒的に正しいその瞳で――慈悲をお与えください」
「どうでしょう? この一度のみは寛容な赦しを与え、今後は正直に申し出れば軽い罪に重い罰は与えない、とするというのは?」
 アマリリスとロレイン二人の声を聴きながらもシーヴァはゆるりと首を振る。嗚呼、そうではないのだと分かっている。
 その言葉では余りに足りないと、シーヴァは、ミスティカは解っていた。
「……一つだけ、聞いておくぜ」
 シラスは囁く。きっと、仲間たちは親子愛を尊び、聖堂で減罪を願い出ることだろう。
 へたりこみ泣き続ける子供の背をあやしていた母はゆっくりと顔を上げる。そろそろと上げたその先で、シラスは母の体を支えるふりをして囁いた。
「『お母さん』の側に質問だ。自分はどうなっても良いから、こどもだけは助けたいだなんて云うものかね」
「ええ……私の罪は隠匿。ならば、この子を救うためのものでしょう……?」
 じっとりと。声が管を巻くようにシラスを這いずる。病に侵されながらも子を護るべき母は気丈だ。
 何処までも、彼女は子の生存を望んでいる。特異運命座標の『行い』がその為のものであると彼女は理解しているのだろう。
「もしそれなら女は魔種に唆され無理やり子供に盗みを強いていたって筋書はどうかな。
 母親(おまえ)が希望するなら例えば、そんな口添えをしてやってもいいぜ。なら――子供は守られる」
 この国は魔種を天敵と見做している。人に原罪があるというなれば、正義不正義を口にするのであれば。
 シラスの脳裏に過ったのは噂で聞いた『厄介なギフト持ち』。生憎だ、今はそんな『クソったれた強い奴はいない』のだ。
「……それは」
 ロレインは、はっと息を飲む。出入り口で待機していたシキだってそうだ。シラスが何をしようとしているのかなんて刀であるシキにも理解はできた。
「大罪人は、」
「女だ」
 シキの確かめる声にシラスはゆっくりと頷いた。シーヴァはゆるゆると顔を上げる。シラスの声は、聖堂に良く、響き渡った。
「この女は、大罪人だ。剰え、善悪の区別さえつかない幼い子供に自身の命を救うために薬を盗ませた」
「おかっ――」
 黙りなさい、というようにシキの刀が子供の傍へと添えられた。母はこの口を塞ぎ、首をふるりと振る。
「何故か? この女は魔種と繋がっていたからだ。神の言葉を無視し、生き永らえようと子の善意さえも使った。
 それで、子供は断罪されるか? ……違うだろう? 『魔種と繋がっていたこの女』こそが悪の塊だろう」
 シラスの言葉に、アマリリスは、ロレインは、ぐ、と息を飲んだ。我那覇でさえもそうだ。心を揺さぶられれば引退を考える程に――この世界には理不尽が満ちている。
「その言葉、真実ですか」
「……はい。私は、魔種様の甘言に唆され、幼い子に盗みを働かせた大罪人でございます」
「……――よろしい」
 ちろ、と聖女の瞳が特異運命座標へと動く。そうだ、『母の体は刑罰には耐えられない』。
 詭弁だと罵られ様とも、慈愛に満ちた聖女であるべきだと聖堂の女はよくよくわかっている。それが民を護るための手であるとしっているからだ。
 それに免じてと、特異運命座標たちが手にした免罪符を目にしながら聖女は囁く。
「ならば、子の罪は軽く。そして、神の導きを待つ貴女は大罪人だ。相応の罪を」
「ッ――おかあさん!」
 呼び声は遠く。母はふらりと立ち上がり、特異運命座標に感謝をするようにややぎこちなく笑った。
 シキはぼんやりと呟く。
 僕達は、武器だから――神様とか、正義とか、そんなもの、どうでもいいけれど。それでも死んだ人の魂はせめて穏やかにあって欲しい、と。
 アマリリスは祈る。世界の贈り物がどうか、彼らにも幸福を訪れさせますようにと。
 我らが父よ。どうか、憐れな仔羊を救い賜えと。
 ああ、その思いはきっと、きっと伝わっただろうとミスティカはぎゅ、とスカートを握りしめる。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 理不尽は世に罷り通るものですね。

 MVPは『一番、減罪の方法として理に叶っていた』貴方へ。

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