＜光芒パルティーレ＞夢見るままに

オープニング

●べカラムの涙
「船長！　舵がきかねえ……！　海流が激しすぎる！」
「畜生、帆を張ってるし風もあるのに！　なんだこの海域は！」
　大型船「ベイマース号」に、船員たちの怒号が響く。
　ベテランの船員たちでもそんな風になってしまう、この場所は何処なのか？
　それを説明するにはまず「ダガヌ海域」について説明しなければならないだろう。
　ダガヌ海域。
　フェデリア島近辺に存在する、三つの島を頂点として三角形を描いた海域である。
　非常に広い海域で、内部には大小の無人島と大海原が存在している。
　開拓は進んでおらず、この海域に人は住んではいない。
　もともと海流が激しく、船の運航の難しい、いわゆる難所ではあったのだが……。
　しかし、ここ最近は特に船の遭難・行方不明が多く、【廃滅秒で死んだ亡霊がさまよっている】とか、【魔種の生き残りが活動している】などと噂されている場所でもある。
　そのエリアの１つ、【べカラムの涙】というエリアは、海流が激しく、船を動かすにも難しい地帯だ。
　そして……ベイマース号の船長はそんな中で、落ち着いた様子で指示を出していく。
「うろたえんな馬鹿共！　何年海の男やってんだ！　舵はしばらくほっとけ！　帆は畳むなよ、でかい風がくりゃこっちのもんだ！　てめえの航海技術を信じろ、そいつは裏切らねえ！」
　ベテランの集まった船員の中でも更にベテラン。
　そんな船長の指示に船員たちは落ち着きを取り戻していく。
「よーし！　まずは船倉から」
　言いかけた瞬間。ズン、と地震のような衝撃が響く。しかし、これは……？
「おい、今のはなんだ！」
「か、確認します！」
　バタバタと駆けていく船員たち。そして……この日、ベイマース号は未帰還リストに名を連ねた。

●ダガヌ海域へ
「大型船ベイマース号が行方不明になったです」
　『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック（p3n000201）はは集まった面々にそう切り出す。
　大型船ベイマース号。海洋からダガヌ海域の調査に向かった、その船が消息不明になってより、すでに数日。
　ベイマース号がダガヌ海域のエリアの１つ【ベカラムの涙】に向かったことは分かっており、付近を航海中の船がベイマース号の乗組員のものと思われる道具を回収している。
　しかしベカラムの涙は海流が激しく、船を動かすにも難しい地帯だ。
　大型船を使えば身動きがとれなくなる可能性は高く、小回りの利く小型船を使うのが安全であろうとされている。
　しかし、しかしだ。
　ベイマース号の行方不明の原因となった「何か」のある場所に武装もロクにない小型船を向かわせるのは危険でもある。
　だからこそ、ローレットに、そしてイレギュラーズに依頼が届くことになったのだ。
「付近には島の類もないことが分かっているです。つまり……その『何か』は海中にある可能性が高いです」
　勿論海の中だから、海洋で開発された最新の潜水服を借りることが出来るし、小型船を所持している仲間がいなければ借りる事も出来る。
「それと、ベイマース号が沈没しているなら……その事実も確認してきてほしいのです」
　それが、１つの区切りになる。
　悲しくても、分かるだけで前に進める事もある。つまりは、そういうことなのだ。

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

●ダガヌ海域へ
「ベイマース号が消息不明か。最近のダガヌ海域はどうなっているんだろうね、気を引き締めていかないと俺達も危ないかもしれないね」
「自然の摂理に人間が負けるのはよくあることだけど、ちょっと異常よね。敵もなんか不気味だしパパっと片付けて日の当たる海上に戻りたいわ……」
　『若木』寒櫻院・史之（p3p002233）と『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア（p3p000282）のそんな声が、改造小型船『紅鷹丸』の船上に響く。
　ダガヌ海域のエリアの１つ【ベカラムの涙】。
　それは海流が激しく、船を動かすにも難しい地帯だ。
　史之は自身の海洋での名声を利用してベイマース号の外観、航路、出発時刻を事前に調べていた。
　これでダガヌ海域へ入った日付や時間帯がだいたいわかるだろうから、しっかり頭に叩き込んでおこうというわけだ。
　そして、すでに数日が経過している。恐らく生存は絶望的だろうと……それは分かっていた。
　その上でこの場所は、油断すればこちらが遭難しかねない場所だ。
　オデットは事前になるべく付近が荒れないように『いい天気になりますように』とてるてる坊主を作っておまじないなどをしていたのだが、効果があったかどうかはこれではよく分からない。微妙に効果があったのではないかとは思いたいところだ。
「荒れ狂う海とか、俄然やる気が出るな！」
　そんな海域を『太陽の翼』カイト・シャルラハ（p3p000684）は自慢の改造小型船『紅鷹丸』を操船技術、航海術で操り、海域は『使い古された海洋海瀕船征誌』でしっかり調べて突き進んでいた。ギフトの『風読みの羽根』で天候と風向きにも警戒も忘れない。
（油断したら調べる前に沈没してしまうな）
　そんなことを考えながら表情は楽しげに、仲間を不安にさせないよう堂々と。ベテランの船乗りの立ち回りを見せるのだ。
　カイトが此処を「魔海」と称していることからも油断のなさがうかがえる。
　実際、少しでも油断すればカイトでも危険だろう。
「この前行った依頼では船は無人島に漂着できてたけど、今回は行方不明になっちゃったんだね……それとも能動的に船をさらうようななにかがいたのかな」
　『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル（p3p000649）はそう呟きながら参考にするべく紅鷹丸の船のつくりとかを見学していた。
「ふふっ、不謹慎かもしれないけれど、この海でまた冒険が始まる予感がするね。俄然、やる気が出てきたよ……とは言え、どうにも今回の敵は狂王種なんかとは趣が異なる印象を受けるけれど……」
「沈没船を探すのって浪漫があるわね！　私は泳げないのだけれど何とかなるでしょう」
　『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ（p3p002101）の呟きは、冒険者にして探検家、或いは研究者であるが故だろうか？
　しかし、決して状況を甘く見ているわけではなく……それを踏まえた上で沸き上がる探究心だ。
　ゼフィラに同意する『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス（p3p009671）も似たようなもので、２人はあくまで前向きにこれから挑む事件のことを思う。
「ただ海流に飲まれたってんなら話は早いが……どうにも嫌な予感がするぜ」
「無事だと確かにうれしいけど、状況が状況だからね……新種の何かが急に湧いて出てくるようになった、って聞くとやっぱり心配になるし」
　『悪戯幽霊』クウハ（p3p010695）と『malstrøm』リュビア・イネスペラ（p3p010143）もそう言い合うが、実際に何が潜んでいるか分かったものではない。
　単独行動は避け、集団行動を徹底するべきだと、クウハは自分にそう言い聞かせる。
「よし、事前情報通りならそろそろだぜ！」
　カイトが安定しそうな場所にアンカーをぶちこんで漂着させると、全員が潜水の準備を進めていく。
　此処からが本番だ。水の底に何が潜んでいるかは、分からないままに。

●ベイマース号
　海中に潜ると、幾つかの船が沈んでいるのが見つかった。
　古いものもあるが、比較的新しいものも多い。
「はぐれたら大変だしあまりみんな離れないようにしないといけないわね」
　ヴィリスはエコーロケーションで周囲を探査しながら仲間と情報共有する。
「薄暗い海中だろうと暗視で視界は問題ねェ。捜索も得意なんでな、沈没船はすぐ見つかるだろ」
「そうだね、ボクも暗視と色彩感覚もあるし、水中での視界に関しても問題は生じないかな」
　クウハとリュビアはそう言うが、事前に史之の調べたベイマース号の情報も合わせれば、確かに然程苦労はないと思われた。
　聞き耳を立て、常に警戒する様子に隙は無く、リュビアも自身のコネクションで船の特徴とか分かるだけ調べておくことで、他に沈没船があっても区別できるようにしていた。
「……アレかな？」
「確かに事前の情報と一致するね」
　史之も頷き、全員で警戒しながらベイマース号の外観を観察する。
　沈没の時の衝撃なのか大分傷ついてはいるが……船底に溶かしたような穴があるのが見える。
「どう見てもこれが原因……かな」
「そうなるね」
　ゼフィラに史之も頷き、しかし「穴の原因」まではこれでは特定できない。
　自然現象でないことだけは確かだろうが……。
　そのまま周囲をグルリと回っても、特におかしな場所はない。
　ないが……あの大穴だ。船内に空気が一緒に閉じ込められて生存者がいるかどうかは……絶望的だろう。
　他の船は劣化の激しいものもあり、分からないが……もし原因が同じであれば、それがベカラムの涙での難破の主要因であると考えられるだろうとアクセルは考えていた。
　オデットは水の精霊と疎通して色々と聞いていたが……どうにも要領を得ない答えが多い。
　此処は危険。そういった返答しか返ってこないのだ。
　クウハも霊魂疎通で船員の幽霊と疎通してみるが……こちらはもっと酷い。
「ダメだな……どうにも正気じゃない。マトモな返事が返ってこねえ」
「精霊も同じね。何があったのかしら……」
　クウハにもオデットにも分からない。分からないが……「何か」がいるのは確実だろう。
　船内に入ってみても、死体は１つも見当たらない。
　船倉、廊下、船室……船長室にも、死体はない。
　くまなく浸水した何処にも何もないのだ。
「成果はこれくらいかな？　読めるかちょっと分からないけど……」
　船長室で見つけた航海日誌を仕舞いながら、史之は呟く。
　海水にたっぷり浸かってしまってはいるが、遺品代わりにはなるだろう。
　沈んだ甲板で今後の探索方針を話し合いながら、カイトはふと思う。
（流された、ならいいんだが全く残ってないってのもどうなんだ？　魚に食われただけなら骨ぐらいは残るもんだが）
　何も残っていない、というのは逆におかしい。
「それにしても水死体がないってのは変だなあ。普通いくらか残っているものだけれど」
　史之もそう呟き、カイトは自分の考えの正しさを確信する。しかし、そうなると……原因は……？
「どうやら、その原因の登場みたいね……！」
「ええ、そうね。でも、あれは……」
　オデットとヴィリスの視線の先、そこには……甲板に登ってくる、スライムのようなモンスター達。
　しかし、それは……明らかに。
「げ、スライム……いやほんとにスライムかコレ……？　なんだコレ……！？」
　SANチェックのお時間です、という言葉が何故かカイトの頭の中をよぎるが……それらは、スライムのようではあるがスライムだとは、とても思えないのだ。
「スライムってのは苦手だが、コイツはどうもそうじゃねェ。何かは知らんが【リーディング】で思考を読めねェか試してみるか。結果悍ましいもんが読み取れようと【平常心】である程度抑えられんだろ」
　クウハはそう呟いてリーディングを仕掛けるが……瞬間、ゾワッとする。
　この不気味な感覚。汚泥に足を突っ込んだような、そんな悍ましさ。
　強い精神力で動揺を抑え込むが、こんなもの……読むべき思考ではない。
「コイツらの正体はもしかすると……まさかな？　仲間の話によりゃ、前に邪神ってのが出たことがあるって話じゃねェか。だとするとソイツが邪神かは知らねェが、こいつらの親玉がまだこの付近にいるんじゃねェだろうな？　精々予想が外れてる事を祈るぜ」
　どちらにせよ、此処は戦うしかない。
　敵の数は１３。汚泥の塊の如き何かが１２体。そして……一際強い力を放つ、髑髏を頭部に取り込んだ何かが１体。
　これ等が船員を「喰った」ことは、もはや疑いようもない……！
「早めに決着をつけようか。少々不気味が過ぎるからね……！」
　ゼフィラがアナイアレイト・アンセムを放ち、戦いの狼煙をあげる。
「さあ祭りだ祭りだ、テメェら纏めて遊ぼうじゃねぇか！」
　カイトが熱血の赤翼を広げれば、ヴィリスが瞬きのタランテラを舞い残影百手を打ちこむ。
「あなたたちを退治してしまえばもう船は沈まないのでしょう？　ここで終わりにしてあげるわ！」
「そうだね。此処で原因は排除させてもらわないと」
　史之も覇竜穿撃を汚泥の塊の如き何かへと打ちこみ、アクセルがルーン・Hを発動させる。
　そして……汚泥のような何かの一体が、リュビアに向けてぶわっと広がり呑み込もうとする。
「くっ……！」
　だが当然、簡単に呑み込まれるリュビアではない。多少のダメージを受けながらも旋風を放っていき、更にオデットのシムーンケイジが発動する。そうして……全てのモンスターを倒し切った時。モンスターたちは水に溶けるように、すべて消えていて。
「神殿？　もあるみたいだけれど今回の一件と関係ないわよね……？　いやよ？　そんなホラーみたいな展開。ただここにスライム？　たちが住み着いて船を襲っていただけでしょう？」
「まあ、一応神殿の捜索もしておこうか。たとえば壁画だとか祭壇だとかなにかを祀っていたあとが残っているとおもう」
　ヴィリスを史之がそう説得し、現場付近に存在する神殿……のような何かの跡を全員で探索しに行く。
　海中に沈んだその神殿らしき場所は、やはり「神殿らしきもの」としか言いようがないが、ほぼ完全に崩れており、遺跡と呼ぶほかない場所であった。
「海に沈んだ遺跡……って言えばロマンはあるんだけど、あんなスライムが近くにいたしなあ。湧き出してるとかじゃないよな？」
「もう、そんなこと言って本当になったらどうするのよ」
「ハハッ」
　ヴィリスに怒られてカイトは笑うが、幸いにもそういうものはないようで。
「何を祀っていたのかしらね？」
　オデットは天啓で何か閃かないか試そうとするが、特に何も思いつくことはない。
　まあ、こんな崩れ切った遺跡ではどうしようもないのかもしれないが……ふと天啓のような閃きと共に、オデットは崩れた壁の一部を持ち上げてみる。
　

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき