シナリオ詳細
<光芒パルティーレ>シレンツィオ・バーニングサン
オープニング
●決戦!
「……ちょっと待って」
低く、押し殺したような声でリア・クォーツ(p3p004937)が漏らしたのは文字通り痛恨の呻き声だった。
「あたし達は『絶望の青の跡地――シレンツィオ・リゾートを盛り上げる為に来たのよね』」
――そーですね。
「レインボータイガープロダクションに政府系直々の依頼が来た、と聞いていましたが……」
愛らしいその面立ちを曇らせ、眉根を寄せたドラマ・ゲツク(p3p000172)の表情も似たようなものだった。
「……これはどういう事でしょう、マリアさん」
やや非難めいてドラマが視線を送った先にはボク等の皆のシマ次郎――晴れ渡る南国の空の下、何時もとは違ったラフな格好でバカンス気分のマリア・レイシス(p3p006685)が居た。ソフトクリームをぺろりと舐めた彼女は「え? 確かにそういう話だったよ!」と屈託のない太陽のように朗らかな笑みを見せていた。
「いや、間違ってないって。確かに政府系。タイガーChangのトコにはそういう依頼行ってるからね。
ちょっと俺様が経路で偽造(ハッキング)しただけで、これ間違いない。ホントの事!」
「ほら、言った通りじゃないか( *´艸`)」
三人の前に立っているのは『現地の担当者』という肩書を背負ったクリスト=Hades-EX( p3n000241)その人であった。この所、俺が随分真面目な仕事しかしていなかったから大人しかった彼であるが、スキルパッチから解放されるや否や、地獄の底から飛び出して来たらしい。勿論、それはアンケートでクソ依頼ばかり求めたユーザー諸氏にも責任の及ぶ所である事は言うまでもない。
「キレそう」
閑話休題、情報を纏めるならこうである。
1、レインボータイガープロダクション(?)にシレンツィオリゾートを盛り上げるイベントの開催依頼が来た
2、それは(一見)海洋政府筋から頼まれた真っ当な依頼であった
3、マリア・レイシスCEOは売り出し中のアイドルユニットの起用を決めた
4、(嫌々)現地に来たらクリストが担当者面で待っていた
5、キレそう
「まぁ、お二人さんもそんな顔しないの。
この宝石みたいなビーチでイベントやったら盛り上がるってのは本当じゃん?
幸いに随分暑いから飲み物の売上もいいみてーだし。ほら、現地の皆さんも大歓迎YO」
「……確かに、飲食店等は随分活気づいているようでした」
クリストの言葉にドラマは小さく頷いた。
シレンツィオリゾート化計画は多少の問題を抱えながらも随分と盛り上がっているようだ。
海洋王国と言えば程無くやってくるサマーフェスティバル、今年はここも一枚噛んでくるのかも知れない。
(……強請ったら、レオン君は一緒に過ごしてくれるでしょうか)
赤く燃えるサンセット・ビーチ、或いは月明かりの照らす夜の波打ち際。
好きな人と一緒に歩けたら――乙女が『夢想』するのは当然の事だ。
ならば、多少の貢献をしてもいいかと思うのは人情であるかも分からない。←強引な論法
「で、クリスト君! 彼女等は何をすればいいんだい!?」
他人事だと実に快活で嬉しそうなマリアにクリストは「そうこなくちゃ!」と破顔した。
「いやー、出し惜しんでた立ち絵Ver.2まで持ってきてNE! 盛り上げなきゃ嘘でしょうYO!
君達にはビーチでライブして貰うんだけど、実はね、マリアchang。主役は彼女達だけじゃあないんだYO!」
「え???」
「実はね、シレンツィオリゾート、つまりこの辺りの近海に『魔物』が出現したって話なんだ。
そういうのって君達の得意中の得意でしょ???」
「ああ、やっつければいいんだね。うん、任せておいて――」
「――いけない、にゃんこ!!!」
迫真の顔をしたリアの制止は一瞬だけ間に合わなかった。
ドヤ顔安請け合いをしたマリアは「???」とクエスチョンを飛ばし、察したドラマは悲痛な顔で首を振った。
『ライブをさせられる位ならこの際良かった。それは通った道だし、相手は何せクリストだ』。
「――よし、話は纏まったNE!
じゃあ君達は俺様changの用意した特設ステージでライブして貰うとして……
魔物はそういうのに釣られて出て来るのよ。つまり、餌って事だNE!
そうして出てきたそれを何か上手い事やって満足させて――この辺からお帰り願ったらコンプリートだZE!」
満足させて。
不穏なワードに遅ればせながらマリアの太陽のような笑顔が凍り付いた。
「こ、コラボしやがった……」
「……どうして私が巻き込まれているのです???」
呻くリア、首を傾げるドラマ。
「ああああああ」
悲痛な声が漏れるが、時は既に遅い。
「あああああああああああああ;;」
三度目の悪夢が――夏真っ盛りのビーチに訪れようとしていた。
- <光芒パルティーレ>シレンツィオ・バーニングサンLv:30以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月17日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費250RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●走馬灯
海が青いのと、空が青いのはどちらが先なのだろう。
『科学的に言うならば』どちらも理由は違うのだが、夏に問い掛けるには余りにも浪漫が無い。
青天の空には入道雲。頭上にはギラギラと自己主張の強い太陽が照り付けている。
頬を時折撫でる潮風は感触と共に鼻腔にも南国の風情を伝えてくれていた。
白砂の浜辺にはヤシが生え、異国情緒を感じさせる町並みはまだ未完成ながら未来のリゾート都市の姿を思わせた。
――ああ……
そんなシレンツィオのブルースカイのど真ん中――
『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)の身体はまさに今、宙空高く舞い上がっていた。
(……拙者、確かに海の家にバイトに来ただけだった筈で御座るが……)
『何故だか知らんが』メイド服を身に着けた幻介の格好は一言で言えば女装であった。
『何故だかは全く知らんが』話し方や雰囲気までちょっと凄味のある美人に扮した幻介は。
何故だか誰一人知らないままに錐もみで宙を飛んでいるのだ。
……いや、余りにも強烈な衝撃に軽く記憶が飛んでいただけだ。
人生の走馬灯が早送りされる程の一撃だったのだからそれは当然の事である。
スローモーションのように引き延ばされた刹那の時間は明滅する幻介の意識にやがて『その時』の事を思い起こさせた。
(そうで御座る。こうなったのは確かに――)
――クリスト殿が経営している時点でお察しではあったが……
またえっちっちで御座るかぁ!?
……何、この格好で近くにいってドキュメンタリーを撮ってこい?
上手く撮れ高が出たらバイト代上乗せ?
……かしこまりました旦那様、わたくしにお任せくださいませ!
(――確かに拙者が悪かったッ!)
高速回転を続ける幻介はこの世界と怒れるやみに謝罪した。
こんな空間に『来てしまった』彼は当然こうなる運命で――全ては決まった通りの結末だった。
●どうせプレイングなんて大して反映されないのですから好き勝手言うのですよ(幻想種・105)
どうせゲンスケの出番なんてもう碌にまともにないのだが、あったとしても追加でボコられるのがいい所なのだが置いといて。
――時間はやや遡る。
「おや、VDMディーヴァの面子じゃないか。それにイーリン達まで。こんな所に集まって何を……」
思わぬ所で幾つもの知った顔に会った『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は思わず目を丸くしていた。
シレンツィオ・リゾートは元々は絶望の海に鎮座していたフェデリア島を海洋王国がプロデュースしている新興の観光地。先の海洋王国大号令に力を貸したゼシュテルはじめとした列強もこの動きに呼応し、列強各国の資本や思惑が入り乱れたホット・スポットである。政治的に中立ながら、各勢力とも気脈を通じるローレットもまたこれに一枚噛む格好で、シレンツィオに支部を構えたローレットは諸々起きるトラブルシューティングにイレギュラーズを派遣する事で存在感を示している所であった。
……とは言え、だ。
たまたま訪れたビーチで餌……友人達が雁首を揃えている偶然は中々ものだ。
「……………」
「集まりたくて集まった訳じゃないわよ!」
「で、でもライブは楽しみじゃないか。ね、姉! ドラマ君!」
何時に無く不機嫌な様子でむすっとした『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)、何時もと同じように説得力の無いツッコミを返す『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)、一応虎だから極力ポジティブに頑張る『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)と反応は三者三様。
「いい天気だ。絶好の海日和だね。まあこんな中で何故か観客もいないのにライブの準備してる三人がいるわけだけど」
「……あー、観光振興の一環でライブをするとかそういう話か?」
肩を竦めた『叡智の娘』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)に歩み寄った汰磨羈に「まぁそういう事だけど」と曖昧に応じた。
「……ふむ、ライヴの練習か?」
「うん、これから決死のライブなんだよ」
実ににこやかなマリアが笑顔のまま言った。
「だけど、ちょっと戦力が足りない。良ければ手伝って貰えないだろうか?」
「……まあ、暇と言えば暇だ。
いいだろう。レインボータイガープロダクションからの依頼として、受けようではないか」
「契約成立だね。じゃあ宜しく頼むよ!」
時に悪魔は天使の顔をしてやってくる――
「ようこそ。煉獄へ。答えはあっちだ」
その返答を確認してから顎で彼方を指したリウィルディアに倣った汰磨羈の視線の先には、
「ハァイ★」
鉢巻を締め、Tシャツにエプロンを付けたクリストが居た。
一瞬で「あっ……」と察した汰磨羈は先客が既に決定づけられたであろう『悪夢』に一瞬同情しかかってから、
「……もう逃げられないのでは!?」
遅れて気付くいとおかし。
今日のイレギュラーズの仕事の発端は、訪れたシレンツィオ・リゾートで会いたくなかった顔に『会ってしまった』事に起因する。
「一番弟子と二番弟子、よくもハメたわね!!!」
「今日はサマフェス優勝者様へのご依頼――って、確かにそう聞いたのに……」
持ち前の冷静さも失って頭をわしゃわしゃを搔きむしる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)、『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)の様子を見れば分かる通り、事態がもうどうしようもない位に碌でもない方向を向いているのは確定的に明らかだった。
「歌う……のか?」
「歌うのよ」
困惑する十七号にキッパリとリアは頷いた。
「ライブを手伝えっていきなり……私は完全な門外漢だぞ……?」
「何事にも最初はあるから大丈夫」
全然大丈夫ではない事を言うリアは基本的に困難から逃げないファイターである。
獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすし、リアはしばしば友人知人に燃え盛りながら抱き着く者であった。
「だからライブするのよ」
「……分かった分かった、やるから! 歌えばいいんだろう!
初めて会う人もこんにちは! よろしく頼む! 出来れば今日の私の姿は忘れて帰ってくれ!
本当に……どうしてこうなった?」
「兎に角、これで上手くやれば――バイト代が爆増って事ですわ!
皆のライブでえっちっちを釣り出して! 撮れ高のあるリプレイをゲットして!
後は誰かに――誰でも構いませんけど、ファンドとかして※頂いて皆ニッコリ! 完璧な計画って事ですわよ!」
生前の幻介がやたら説明めいた台詞と共に腕をぶし、青い空で眼鏡がきらんと輝いた。(※特に関係のない人物です)
リプレイ開始2356文字で概ねしなければいけない説明を全てした舞台は炎天下に晒される地獄の釜の底のようであった。
「全然違いますが?」
そして地獄の底には大抵の場合、鬼がいるものだ。
「……え?」
「全然違います、と言ったのです」
「それはどのような――」
「――まず、『撮れ高』なるあちらの都合に付き合ってやる理由がありません。
あんなもの、ちょっと練達編の最後にエモい空気を醸し出して何となく許された雰囲気になっているだけで基本的に徹頭徹尾糞野郎でしょう!!
バイト代とかそんな事はどうでもいいのです。何ならこのシナリオの趣旨もどうでも良いのです。そもそも私はこんな乙女の敵みたいなのの相手なんてしたくもないのです。来るって分かっているなら普通逃げの一手ですよ! ……と言うか実家の方が大変な今、何でこんなことしないといけないのかって本気で思っていますよ! 本気で優先蹴ろうかと思いましたよ! 行きたがっている人を優先してくださいよエルスティーネさんとか! エルスティーネさんとか! 『行きたくないですよ! どうせ外れますから!』とか散々予防線貼りながらあんなにチラチラ見てたじゃないですか! 絶対行きたかったでしょう、ねえ。果ての迷宮のボスフロアなんてこんなのの結果如何関係なくくださいよやくめでしょ!!!!」
食い気味で、そして後半に行く程早口と圧の強まるドラマに幻介は狼狽えた。
完全に目の据わった彼女の迫力は何時ものそれとは全く違う。
個人的な情緒の事情か、乙女の機微か――
「ドラマchangも複雑だNE!」
「はい。手が滑りましたね」
海の家のクリストにクッソ冷静にそう言ったドラマの禍断がすっとんでゆく。
「……と、とにかく。そろそろ多分。私の場合、遺言ゾーン入ってますわよね」
遠い目をした幻介は本能的に理解していた。
この作品において後半に自分の出番はない。生きている姿が描かれるのはそろそろ終わりになるのだろうと。
「ルシアもこんな物まで贈ってきて!!
どいつも! こいつも!! というか私の今年の水着がなんでビキニって知ってるのよ!?」
「データベース見たからだYO」
「そ う い う こ と を い う ん じ ゃ な い わ よ!」
地団太を踏むイーリンは何時に無く可愛らしくクリストはそんな姿をゲラゲラと笑っている。
「いい? 今回のはもう腹を括ってやるから――
次の果ての迷宮30Fのボスフロアで私に優先着けるのよ、わかってるわね!!!」
クリストの答えは待たず一方的に言い放ったイーリンは十七号に向き直り先輩らしい頼もしい笑顔を見せた。
「十七号(かなぎ)も災難ね。ま、私も習うより慣れろだったから、安心していいわよ。
一緒にハートマークでもなんでも作ってやってやりましょう!」
「……い、意外と順応力が高いんだな。司書は……」
「不条理に慣れているだけよ。別に慣れたくないけどね――」
十七号の言葉にイーリンは僅かな苦笑を見せた。
「――ただ、こうなったらやるだけよ。『神もそれを望まれる』」
まぁね。やみはそれを望んでいる。
●意外とプレイング採用されるんだよ。汚れた聖杯のような叶え方しかしないけど。
「私は猫じゃあないんだよ!」
まだ言ってないけど……
「お、思わずツッコミを入れてしまった……><;」
閑話休題。
(入念にリハーサルをした通りだ。
照明の配置・点灯タイミング・楽曲の入り……
どれも完璧に企画運営してこそ真のプロデューサーなのだ。
その辺はクリスト君も余念なくやってくれる事だろう。期待しているよ!)
性善説の人、シマ次……マリアは今日も挑戦心と冒険心に満ちていた。
どんな酷い状況でも始まってしまえば受け入れる、受け入れてしまえば戦える――
柔軟にしてしなやかな彼女は黒ビキニに身を包み、薄い装甲を誇るように胸を張っていた。
……今日のイレギュラーズの仕事は無人のビーチでライブをしてえっちっち(2022)を呼び寄せ、適当に撮れ高を提供する事である。
ドラマちゃんの再抗議は字数を食うので早送りで飛ばしておくとして、シレンツィオ・リゾートに似つかわしくない脅威の排除はローレットとしても重要な任務である事は間違いない。何せ冒頭のシーンを見れば分かる通り、それは男には容赦が無さ過ぎる。人類の大体半分は男であり、風光明媚な海のリゾート地がカップルの坩堝になるのは想像に難くない所である。つまりそれには確実に何処かへ行ってもらわなければいけないのは火を見るよりも明らかだった。
「さあ、行くわよ! アンタ達!」
ガワの可愛い山賊の親分ことリアは今日も実にたくましい。
火刑を受ける聖女のように凛然と理不尽なライブにさえ立ち向かう彼女は気高く、強い。
そしてそれは前章で取り敢えず言いたい事の大半を吐き散らしたドラマもまた同じであった。
「観客の居ない舞台でアイドル活動するってそれはそれで地獄のような光景な気がしますが……
そもそも初めからある程度観客の居る舞台を経験出来たと云うことのなんと幸運なことか。
普通、デビューしたての仕事はこのような閑散とした舞台から始まるのです。
輝かしい姿に憧れたモノは場合によってはそこで、折れてしまうかも知れない――
それでも曇らず輝き続けたモノの、その中でもほんの一握りが本当に輝く一等星と成る。
私は別に偶像(アイドル)になりたい訳ではないですが、これを物語と言わずして何と言いますか」
「ドラマ君!」
物語の娘には彼女なりの熱血が存在しているようだ。
死ぬほどやりたくねぇのは変わらないが、この後の展開なんて見たくもねえが。
それでも取り敢えず前向きになったドラマの言葉にマリアPが感激した顔をした。
「――期待されて、求められてここに立つ以上は全身全霊を込めて歌います!」
「ああ、最高のライブでヤツを召喚し撃滅する!!! それだけだ。私達には簡単な事さ!」
「……で。ビキニでライブとか、そういう売り出し方で良いのか、クソ猫P?
まぁいいわ、どうせあのクソハデスが全ての元凶だし、後で綺麗さっぱり記憶を失うから」
「私は虎!!!」
※今回はクソシナリオなので特に言及の無い場合はマリアP提唱の黒ビキニをベースにした渚のアイドルルックを着て頂いているという事にします。
「大丈夫大丈夫、あたしとドラマは最後にやるから。先陣は任せたわよ!」
「うむ……しかしこう、メンバーがボーカルに寄りすぎてはいないか?
よし。ここは、私が演奏を担当しよう。こう見えても音楽は得手だ。演奏も嗜んでいるからな。任せろ――」
殆ど即興で汰磨羈が見事に音を出す。
「……しかし、このステージ上だとちと狭いな。観客席側にも並べさせて貰うとするか」
「……上手いわね」
「――どうした、その顔は。言ったろう、私はできる猫だぞ?」
ニヤリと笑う汰磨羈。向こうでは小声でマリアが「私はできる虎」と無意味なアピールを続けている。
やる気たっぷりの彼女に幾分か士気が上がる。
「ここまで来れば毒を喰らわばね。十七号(かなぎ)!」
「ああ!」
――このおまじないで♪ 恋心煽るの♪
――だって、それが夏だものーー
イーリンと十七号が殊の外器用にセッションを始めていた。
頭一個分の身長差デュエットで、背中合わせて手でハートマーク作ったり――ウインクとか目線はしっかりカメラに合わせたり。
「予想以上に恥ずかしいなこれ……!」
本当に意外と器用に、誰も彼もが悪魔(リア)の誘いを疑う事無く始めたのだ。
「誰が悪魔よ」
この依頼の一番の難点は『情報格差』が存在している事である。
クリスト絡みのお察しこそあったが、クリストには別のクソラインも存在する。
「だから誰が悪魔よ」
現時点で真相(えっちっち)を正しく把握しているのはマリア、リア、ドラマ、そしてその後自覚してここに挑みこの後死ぬ予定の幻介まで。
残るイーリン、十七号、汰磨羈は『そこまで』を把握していない。
「誰が……」
邪悪ハム。
「キレそう」
「……頑張ってね」
ステージは固辞し、ペンライトを振るリウィルディアだけは本能的な勘の良さで『危機』を察知していたが……
(……ま、今回は観客もいないし? ステージに強制参加じゃないし? 心配はそうしなくてもいいだろう。
僕は寂しい観客席で少しでも盛り上げる事としよう。ステージより目立たなそうだからこっちの方が安全そうだし――)
……こういう小賢しい小娘が後にどうなるかなんて大体の人が知っている事である。
第一、君嫌がってないだろうしなあ。
●ほんじゃあ、いっきますYO!
かくて物語は冒頭へ立ち返る。
まずメイド服を着たゲンスケがぐっちゃぐちゃのぎったんぎったんにされた。
ボッコボコでベッコベコにされた彼は宙を舞い、その後海面に鋭角で突き刺さり見事犬神系を達成して最早動かなくなっている。
(せ、拙者は何の為にこの依頼に……?)
だから言ったでしょ……
散々故人とか書いたけどパンドラがあるから多分平気だろう。
そんな事(ひどい)は兎も角、本シナリオで最も重要なのは個別パートである。
さあ、七人のめくるめく個別パートをじっくりたっぷり追っていこう!
・才媛イーリン・ジョーンズの場合
身長140センチです。大事なことなので。
旅に耐える体です。即ちしっかりと内側に筋肉があって、その上に女性らしい脂が乗っているのです。撫でれば柔らかく、つかめばしっかりと感触を返すのです。整った顔立ちは、大人の仮面を剥がせば少女そのもの。トランジスタグラマを地で行く彼女は怜悧な普段の気質も相俟って苛めれば大層いい声で啼く事でしょう。
「――何今のかいせっ、つぅっ?!」
……悲しいかな、イーリンは時にアホである。
いや、彼女は生来とても賢いのだ。学術も出来るしフィールドワークによる実践もたっぷり積んでいる。
指揮能力も調整能力も高いし、判断も早くて強い。だが、基本的に『学者肌』なのである。
かのえいちのほしょくしゃが賢いけどたまに抜けるのと同じように彼女も賢いけどアホだった。
つまり何が言いたいかというと気付くのが大概遅くて、彼女の灰色の頭脳が現状を正しく認識したのは手遅れ(szn)をキメてからであった。
「待って、かなぎっ……私が引っ張っ、ひゃあっ!?
「はぁ、あっ。あ、やだっ、どこさわっ。あぐっ……!」
ねとねとぬとぬと大変に遺憾なスライムにあっちこっちを撫で回されれば最早センシティブなお声のバーゲンセール開催である。
「ば、ばか。ばかっ! やうっ、うぅうう……!」
熱っ……!あ、ちがっ、これ。私が……? どし、て……
う、やっ。こんなの……にっ。私の体が好きにされ、うぅう……!」
うーん。
「かなぎっ……汰磨羈ぃっ。おねが、たすけ……!」
これはなかなか……
「あ、うそ……みんな……あ、やっ。あぁ……
たすけっ……、声、止まら……! くあぁ……あっ……!」
大変いいカットを頂きました。
・相棒、夜式・十七号の場合
「ああっ、司書……っ……!」
イーリンの悲惨極まりない状況に十七号が悲痛な声を上げた。
すてきならいぶに釣り出されたえっちっちが先陣を切ったイーリンを捕らえたのは必然である。
しかしながらイーリンがやられたという事は相方である十七号がそうなるのも当たり前であった。
「くっ……! 私はそう簡単には――」
愛刀たる海燕を抜き放った彼女は凛と悪夢に立ち向かう。
まあしかし、こういうクソシナリオに置いてこういう半端な努力は大抵無視されるのが常であろう。
「ふあああああああ――!?」
少し前の勇ましさを痛ましさが塗り替えるのは秒であった。
「な、なんだっ……これっーーひぁ!?
きゅうに、あしくびをつかまれ……くぅっ。ちから、が、ぬけぇ……!?」
「即落ち二コマでももう少し粘るぞ、かなぎちゃん」。
誰かのツッコミが聞こえてきそうな程に瞬殺された十七号は、
「んんっ、はぁ……
なんか、すごい、ぬるぬるすぅ……。こいつら、すらいむのたぐーーひゃんっ!?
お、のれっ。せめて、ほかのみんなに、ひがいは――
ほ、ほかを、おそうなら……わたしを、たおしてから、いけっ……!」
そんな風に凄んではみるものの、
「~~~~~~!? やぁぁ、そこ、や、めっ……!!
むねぇ、しつ、こ……っぁ……は、ぁ……ひゃぁあああああ!!!」
イーリンに勝るとも劣らない叩き売りであられもない恰好(こうとくてん)を叩き出し続けていた。
「くそぉ。なんぇ、たえてぇ……
はぁ、ん……っ……なにしゅ、やぇ、ろ、やめぇ……!
はじゅ、かしぃーーぅぁあ!
びきに、とかさぇてぅのに、りせい、とけなぃ……っ……!」
うーん。
「おにょれ、くりしゅとぉ。おわったら、といつめぇやぅっ!?
~~~~~~っ! やだっ、やぁ……!
ぜったぃ、あとで、おぼえてろぉ……!!
いまは、ぱんどら、いくらとけてぉ、いいっ。ほかのみんなを、まもる……! 」
無理だと思うなあ。
・小賢しきリウィルディア=エスカ=ノルンの場合
「……ちょっと待てHades。スライムが出るなんて聞いていないけど!?
もしかしてあれの対処のために僕たちを呼んだのか!?」
「正確にはマリアchang達をね」
「――――」
「だから三人は知ってた筈だけど、俺様changそれ以外には責任を持てないなあ!
いやあ、リウィルディアchang、実にイイ友達を持ってるねえ!」
「邪悪ハム!」
「あたしのせいじゃねえ!!!」
漫才の如き酷いやり取りはさて置いて。
気付いた時、無理ゲーだったのは一人で安全地帯を確保した気になっていたリウィルディアもまた同じだった。
第一こんなクソシナリオに当選した時点で逃げ場なんてないのだ。
第一リウィルディア本人は兎も角運命を繰る邪悪な意志(なかのひと)が逃れる事なんざ望んじゃ居ないのだ。
つまる所、彼女の辿る運命なんて――スライム緊縛地獄に他ならない。
「……っ……」
ほら、今ちょっといいかもとか思っただろ、おまえ。
「おもって、ない……っ……!」
思わず熱い吐息を漏らしたリウィルディアは尚も無駄な努力を繰り返す。
「――ええい離せ!
僕を誰だと思ってるんだ。ノルン伯爵家だ、叡智の泉の一族だぞ。
それをこんな……今ならまだ間に合うから止めるんだHades。リアもドラマもいる、僕じゃなくてもいいはずだろう。ね?
それともなにか!? 感情に任せて僕を辱めると? 幻想貴族のこの僕を?」
「おう、いいぞ。クソHades。今だけはそいつやっちまって」
何処かで聞いたフレーズだなあ。
「ひぁっ、い、いや、待って。話し合おう。僕じゃなくてもきっと満足できる誰かがここにィ?!
だ、だめ、いやだ、こんなの、いいことじゃないっ!
わ、わかった、僕今性別不明だから、不明なら興味ないだろう!? だから解放して……んぐっ!?」
思えば君の自称『不明』はこの世で一番どうでもいい主張だったね。
(……ぁ、はぁっ、はぁ……くらくら、してきた……こいつの、せいなのか、な……?)
顔は上記、目は虚ろ。
「も、もう、やめてくれ。降参するから、はなして、あぁっ……だ、や、水着溶かさないでっ、み、見るなぁ!
こ、の、へんたいが……あっ、おしり、ばか、やめ、なんてとこ、んっ……
げ、限界。げんかいだから、これ以上は……あっ、あぁっ……
たすけ、んぁ、だれか……にいさん……あお、い……
はぁ……はぁ……そんな、ところ、まで、やだ、やめ、ゆるし――およめ、いけなくな……」
パニックホラーで一人だけ助かろうとするやつは必ず死ぬ。
ざっとまあ、こんなもんよ。
・わからせキャット仙狸厄狩 汰磨羈の場合
※黒ビキニキャットがログインしました※
「部屋を間違えたみたいだ」
※黒ビキニキャットがログアウト……
「出来ませんでしたー!」
「あああああああああああああああ!!!」
風光明媚なシレンツィオにねこの悲痛な叫びが木霊する。
燎原火の如く恐ろしい勢いで侵略するえっちっちは汰磨羈にさえも対抗する間さえ与えなかった。
「ふぎゃぁーーーーっす!?」
色気もへったくれも無い悲鳴が立て続けに響く。
全身の毛を逆立たせた汰磨羈はあっちこっちをべたべたにされながら足掻くように身をよじっていた。
「んっ、ちょ……なんっ、だ、このスライムッ!?
おい、マリア! 御主最初から知って……にゃんっ♪
……ってやめんかぁ!?」←契約書はよく読みましょう
※コマンド?→あばれる→きいてない!
「ちょ、嘘だろふざけんにゃっ、ん……ぉい、これ全っ、年齢……だろ!?
ぁ、ちょ、尻尾の付け根、ダメ……にゃっ♪」
全年齢だとも。このリプレイの何処を見たって世界の何のルールにも抵触していないだろう?
「く、へりくつを……イーリン……たちまでっ、待ってろ、今助け……ひゃわっ!?」
まぁ実際どう見てもコメディだしね――
「くそ、こんなヤツからは早く逃げ……っ
ぬあーーーー!!
おのれ、本当に何だこのdskb版ロロン・ラプスみたいなやつは!?」
ガチ目の風評被害に空に浮かんだ(二人目)ロロンさんも渋面である。
「っ、ああ……もう、しつこい……ッ……!」
悪態を吐く汰磨羈だが、これでもすいもあまいも嚙み分けた化け猫だ。
それ相応に積んだ経験値が何とも彼女をややこしくした。
「~~~~っ!」
瞳は濡れる。唇も濡れる。
「クリストォー! クラリスに言いつけてやるからなッ!!!」
ほんとうにきみはざんねんだな! せーんせーにいってやろ!
・邪悪ハム、リア・クォーツの場合
Before
「おい、クソHades。あとKUSODEITEI」
はい。
「言いたい事は死ぬほどあるが、取り敢えず順を追うわよ。
まず伝えておきたい事があります。良く聞けよ、クソ共。
あたしはタンクヒーラーよ。
防御は勿論、抵抗も高水準を保っているわ。加えて回避もそれなりにあるのよ。
ある程度の攻撃はライトヒットに抑えられるし、くだらねぇBSだって殆ど弾けるの。
それにあたしは守るだけじゃない。神秘攻撃力もそれなりにあって、そこから繰り出されるスター・ドロップの威力はなんと3,700!」
3700tのヒップドロップですかあ。
「難聴か???
いいですか。命中も最低限は確保しているから、相手が回避特化でもない限り高火力もぶち込めるって寸法よ。
更には搦手として厄災スキルで不吉BSを付与する事で妨害でき、もし相手が回避特化だった場合もメルティ・キッスでじわじわと削って追い詰められる」
まぁ投げキスはアイドルの必須技ですよね。性癖も壊れそうだし。弟に謝れ。
「あたしは充填が280もあって! 持久戦も得意よ!!!
わかるかしら? クソみてぇな雑魚程度に、あたしが負ける要素は微塵もないって事よ!!!!!
つーかことここに到るまであたしのプレイング採用イーリンを盾にした事だけじゃねえか!
良く捏造だけで共通パート書き連ねやがったわね!!!」
猛るリアにクリストがゲラゲラと笑い声を上げた。
ステとか強さとか最初に言い出したのは誰なのかしら?
駆け抜けていくクソシナリオでそんなもん役に立たないメモリアルである。
「あたしの強みを活かせば、こんな雑魚に負けるはずないもの!
だったらアドリブは好きにすればいいじゃない!」
After
「――――っ……!」
薄い唇を噛み締める。
平素は強気ばかりを映す大きな青い瞳に大粒の涙が溜まっていた。
自由を失ったのは初手。
ブラの方はフロントを、ボトムの方はサイドを紐で結んで留めるタイプだったビキニは『最悪な事に結びが甘すぎて全然役に立っていない』。
必死で腕であっちこっちを抑えて隠すリアに当初の余裕等何処にも無かった。
幸いにも周りは(無性であろうクリスト以外は)女子ばかり。唯一の男であるゲンスケは海と仲良しである。
とはいえ、顔を真っ赤にしたリアはかなり追い詰められていた。
「……こ、の……ばか……っ……」
だれがそこまでやれっていったのよ――そう言わんばかりに睨み付ける目にも力が無い。
ありとあらゆる碌でもない効果を備えた『敵』の攻勢はリアの防壁を実に的確に抉り続けていた。
「……ん、っ……」
時折漏れる声色が熱っぽい。
本人の気持ちとは関係なく漏れる吐息は熱く、まさに青少年への毒を極めている。
「やめ、やっ……あ、あたしっ……あたしは……ッ……」
傾聴します。
「まけな、まけ……まけるならどらまといっしょ……!」
向こうでドラマちゃんすっげえ嫌な顔してますね?
「……っ……ん、も、やらぁ……」
……。
「は、ぁ……んんっ……」
……………。
「ッ、く……ん………ッ……これ、全部アドリブ……」
はい。
「長いでしょうが! 溜めが! どう見ても! おかしいでしょうが!!!」
以上、お中元でした。
・33-4マリア・レイシスの場合
「ふふ……! 遂にこの日がやって来たか……!
あのにっくきえっちっちに復讐を果たす日が……!」
意外な事にマリアは現れたえっちっち――そして目の前で展開される地獄のような光景にも怯む様子はなかった。
一ミリも動じていない。出て来るならば出て来ればいい、私は決して畏れたりはしない――
そう言わんばかりにその瞳には確固たる自信の炎が燃えていた。
(脳裏に蘇るのはあの屈辱の日……ヴァリューシャと鍛えた必殺の拳も敗れた……許すことができない!)
愛にかけて。彼女への想いにかけて。
あの日からえっちっちはマリアにとって倒さねばならぬ敵、宿痾の如しであった。
「ふ……! 私こそはレインボータイガー社CEO! 私には全てのアイドルを守る責任があるのだ!!!」
とっくに守れてない気もするがそんな事はTo love each other。
力強く言い放ち、暴れまくるえっちっちを指さしたマリアは運命に反逆した。
「ここで会ったが334年目! 貴様はここで死ぬ!!!」
ヴァリューシャと特訓して編み出した第二の対えっちっち用最終奥義は、前回の敗北の反省から更なるパワーアップを遂げていた。
文字通り雷速必中の奥義は、敵の生体電流、即ち魔力を奪う速度も大幅に強化された特別製だ。
「負ける気がしないね!」
驚くべきか手数と気迫でスライムに襲い掛かった獰猛な虎はそれを圧倒しているようにさえ見えた。
「運命を変えるのがそんなに怖いのかい? 辻褄が神に背き始めただけじゃないか」
神々のつじつま合わせを否定するそのドヤ顔は猛虎高飛車。
――あの日交わした約束を果たす為に私は、ずっと今日を生き抜いてきた――
「これが対えっちっち超奥義:超戦磁真砲だ!!! あの世で私に詫び続けるんだよ、えっちっち!!!」
猛烈に攻め立てるマリアは、
「ふ……! 勝ったね……!」
その手応えに勝利を確信し――
「……あれ?」
――その後、何かちょっと『おこ』な感じのえっちっちの気配に戦慄した。
「……」
……………。
「……………………」
……………………………。
「……よし、今日はこれ位にしておこう! ね、君にも悪い話じゃあない」
……。
「一勝一敗で決着は次に持ち越そう。ね、そうしよう。それがいい。
私は虎だけど鬼じゃないからね。今回は見逃してあげようじゃあないか!」
……………。
「……何か言って……いや、やっぱり聞きたくない;;」
もうシマ次郎は涙目だった。
「は???? どうして…(´;ω;`)こら! やめないか! 離したまえ!!!
……とらぁ君! 雑草食べてないで助けて!!!」
浜辺のとらぁ君はジェントルメンに出番を終えた女の子達にタオルを用意し無駄に雑草を食べていた。
出番が終わっていないからか、当然のようにマリアには見向きもしていない。
「どうして……どうして……あ゛ああああああああああああああああああ!!!!!!」
かくてビーチにねこの絶叫が響き渡る……!
・えっちのほしょくしゃドラマ・ゲツクの場合
「百合営業でライブして」
はい。
「実家が大変なのに。ファルカウが大変なのに」
はい。
「乙女の敵と戦わされて」
はい。
「クソ野郎はなんか焼きそば焼きながらゲラゲラ笑ってて」
はい。
「……」
はい。
「抗う! 抗ってやる!
ここで奇跡を起こせなくて何が特異運命座標か!!
本当の姿ではないとか、これが総体ではないとか、知ったコトではありません!
今、此処で、倒せれば良い! 倒せば問題などないではありませんか!!!」
何か違う方向に壊れ気味なドラマが強く吠えた。
「本気になってよ」ならぬ「(ある意味で)本気になったよ」なドラマは運命に願う。
青く気炎を上げ、自らを押し流さんとする運命に抗う構えを見せていた。
「絶対に――負けません!」
迫りくる無数の触手の全てを紙一重で避けて見せる。
その動きはまるで彼女の『師匠』のようですらあり、しょうもないシナリオで発揮するには余りに惜しいその剣技の冴えは彼が居たならば賞賛さえ送った事だろう。
幾度技を叩き付けても倒せぬそれに手応えは無い。
ドラマとて理解はしているのだ。しかし叡智の捕食者の判断は無意味な程に鋭く的確だった。
『彼女は理解していた。鎧袖一触に倒されれば碌でもない結末だが、粘り切ったなら違うエンディングが見えて来る事を』。
(……たとえ、このクソスライムを倒す事が出来なくとも!)
倒すべきはもう一人――居る!
波打ち際で囚われた仲間達と異なり、PPPの発動を願ってしまったドラマは恐るべき戦闘力でそれに抗う攻防を見せていた。
徐々に後退しそれを浜辺へと引き込んだ。彼女がちらりと視線を向けた先には、
「……は????????」
唯一人、この場で安全圏に居た――俺様chang砂被り席でゲーラゲラってなクリストの間抜けな顔があった。
『えっちっちはその場に存在する全ての男(っぽい)ものを許さない』。
即ちそれは――
「ドラマchangwwwwマジこれwwwwwわらうwwwww」
――草を生やすしかないクリストであっても同じ事である。
猛烈な破壊音と共にクリストの身体が宙を舞う。
漫画的表現で彼方に吹っ飛びキラリと一条の星となったクリストは恐らく人生で最も深刻なダメージを受けた事だろう。
「……少なくとも一つの悪は倒しました」
皮肉に唇を歪めたドラマは迫る絶望のスライムにそれでも凛と正対する。
(きっと勝手に負けるななんて好き勝手な事言うんでしょうけど……)
自分でやってるくせに、自分でやってるくせに。
(これだけ頑張ったら――少しは褒めてくれますよね)
クリストの時のような『最後にちょっといい雰囲気にして許されようとするアレ』だよなあ。
「あ゛ぁあああああああああああああああ――!」
ドラマちゃんの耳がPPPした。
成否
大成功
MVP
状態異常
あとがき
PPP発動するって書いてあったから……
13479と大増量でお送ります。
全員ほぼプレイングは使い尽くしてる感じですが、使い方やシチュエーションは状況に合わせて組み替えています。
クリストはお空の彼方、えっちっちは満足してどっかに帰りました。
皆重傷にしておきますが、ドラマちゃんとガチで喰らった幻介さん以外は-1の心の傷程度です。
シナリオ、お疲れ様でした!
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
力を合わせリゾートに仇なす魔物(笑)を追い払いましょう!
以下詳細。
●依頼達成条件
・えっちっちの消滅(何処かへ居なくなればOK)
●ロケーション
風光明媚なシレンツィオリゾートのビーチです。
ライブの特設会場はクリストが用意済みです。
あくまでライブ(本番)は後程。
観客は武士の情けで居ませんが、クリストは海の家を出しています。
●クリスト=Hades-EX
練達のマザーことクラリス・セフィロトマザーの『兄』。
悪辣なAIで、練達の十年分の資材を掠めとる事でボディを得ました。
曰く「これが面白かったら果ての迷宮のボスフロアも用意してやりますYO」だそうです。
酷い話だ。
●えっちっち2022
概念であり現象であり災害であり神意であるとされる海スライム。
今回も巨大なスライムの姿で現れますが、本当の姿がそれであるとは限りません。
いちおー、これとたたかうのがいらいのもくてきです。
はまべでらいぶをもりあげるとしゅつげんしてあびきょうかんをつくりだすぞ。
まずはライブを盛り上げて誘き出し(笑)ましょう!
尚、アイドルの二人以外も何らかの形でライブに参加しましょうね。
えっちっち2022の特徴は以下。
・男に対しての攻撃力が百倍になり、最初の章で雑に処理します。
・(外見が)若く綺麗なおねーちゃんが大好きです。
・十二歳以下の少女には倫理的、紳士的に行動します。
・女子のみ直接触れると心拍数が上がり、気分がどきどきして、身体が熱くなります。せりふ……が、んっ……ひらがなっぽくなり……きれ、ぎれだったりっ……といきまじりだったり……ちいさな『っ』とかさんてんりーだがたよ、うされたりするようになります……っ、ぁ……
・女子は水着で来て下さい。水着でライブして下さい。(黒ビキニが特に望ましい)
・尚、不幸な事に参加者の過半数が男性PCだった場合、サメの餌にします。
・気が済んだらどっかに行きます。済まないと行ってくれないので重要な依頼です。
以下攻撃方法等詳細。
・どきどきこうか
・ぬのがとけそう
・べったべた
・ぬるぬる
・ロロン・ラプス(風評被害)
・EX 猫宝石深淵2022~Summer~
●情報精度
このシナリオの情報精度はZです。
オープニングの三人以外は特にこの状況を知らない『遭遇戦』となります。
だから遠慮なく知らないで来てくれていいですよ。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らず社会的に死亡判定が有り得たり、そこそこ愉快なトラウマを負ったり(女子)、そこそこ理不尽な暴力を受けたり(男子)する場合があります。
全年齢ですし、粗雑極まりない(多分)男子の扱いも含め、面白おかしく草生やせるリプレイを書く所存ですが、今回はその辺仕様と言わざるを得ないので、予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
EXがいいとか言うから豪華にしてみました。
以上、宜しければご参加下さいませませ。
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