＜光芒パルティーレ＞海の藻屑となりて

オープニング

●ダガヌ海域の恐怖
　ザザン、ザザン……と。
　波の音が響く。風は少しばかり強いが、許容範囲内。
　この大型船「タートルヘイズ号」であれば問題はない。
　それでも何か問題があるとすれば……此処がダガヌ海域のエリアの１つ「ディンギル岩礁地帯」であることだろうか？
　見えにくい岩礁が多く、船の事故が多い地帯。
　しかし熟練した船乗りを揃えればある程度問題はない。
　ある程度……というのは、それでも「いざという時」は起こり得るという意味だ。
　しかし船員含め船長もそれを分かっていて万全の準備をしてきている。
「船長」
「どうだ？　何か見つかったか？」
「いいえ。今のところ何も。やはり深い場所に沈んだと考えるべきかと」
「そうか……」
　タートルヘイズ号の任務は「ここ最近、この近辺で沈んだ船の捜索」だ。
　少なくない数の船が恐らくはこの辺りで沈んだと考えられており、それ故に選りすぐりのメンバーと船……タートルヘイズ号が用意された。
「海底捜索に移る。潜水服の用意は出来ているか？」
「バッチリです。最新のを分捕ってきました」
「よし、なら潜水員は準備に移れ。海底に何かいた場合に備えて武器の携帯を忘れるな」
　船長の指示に従い、最新の潜水服を纏った船員たちが海の中へと潜っていく。
　これで沈んだ船の１隻でも見つかればいいのだが。
　そう考え船長はパイプを吹かすが……何か、ゾクリとした感覚を覚える。
　何だろう。分からない、分からないが……ベテランとしての感覚が、船長にサーベルを抜かせる。
「全員武器をとれ！　何か嫌な予感がしやがる！」
「了解！」
　船長の指示に戸惑うことなく武器を構える船員たちは、まさに鍛え上げられた船乗りたちだ。
　そして……タートルヘイズ号はこの日以降、未帰還リストに名を連ねることになった。

●ディンギル岩礁地帯へ
「ダガヌ海域のとある場所で、船の消失が相次いでいるです」
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック（p3n000201）は集まった面々にそう切り出す。
　ダガヌ海域、ディンギル岩礁地帯。
　見えにくい岩礁が多く、船の事故が多い地帯であるが……ベテランでもそうなる確率が結構ある、と言えばその危険性が分かるだろうか？
　しかし、そんなディンギル岩礁地帯でそれだけでは説明のつかない数の船が行方不明になっているのだ。
　それ故にベテランを集めた船「タートルヘイズ号」が現場海域へと向かったが……やはり、行方不明になっている。
　様々な可能性に備えていたはずのタートルヘイズ号が行方不明となった以上、ただごとではない。
　それ故にイレギュラーズに依頼が来ることとなったわけだが……。
「要は現場海域で海に潜って沈没した船を見つけてきてほしいってことです」
　沈んだ船を調べれば沈んだ状況なども分かるだろうし、あるいは原因そのものにも遭遇するかもしれない。
　それがディンギル岩礁地帯故なのか、それとも別の何かなのかは……探ってみるまで分からないのだが。
「必要な装備は貸し出しもされるです。気をつけていくですよ」

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

●ディンギル岩礁地帯
「この海域、船乗りとしてはちと怖いんだよな。ま、俺にかかれば余裕で踏破できるけどな！」
「海況が荒れてもギフトのおかげで多少のことならどうにかなる。いずれにしても、座礁しないように注意は必要だろうがな」
　『太陽の翼』カイト・シャルラハ（p3p000684）の改造小型船『紅鷹丸』と『波濤の盾』エイヴァン＝フルブス＝グラキオール（p3p000072）の砕氷戦艦『はくよう』が仲間達を乗せてディンギル岩礁地帯を行く。
　ダガヌ海域、ディンギル岩礁地帯。
　見えにくい岩礁が多く、船の事故が多い地帯だが……２人の船と、そしてギフト。
　カイトの数時間以内の周囲の天候の変化と風向きの変化を予測し当てることが出来るという風読みの羽根とエイヴァンの海へ近くなるほど、自身と敵以外の乗船者のバイタリティが高揚し、海況を問わずに可能な限り平常時に近い状態で海洋活動ができるという海神の軍規の２つのギフトが、この操船１つに神経を使うエリアでもある程度の助けになっていた。
　『天穿つ』ラダ・ジグリ（p3p000271）も事前にコネクションを用いて情報収集を行っていた。
　岩礁地帯の進み方、3つの大型船の特徴や航路等を調べておこうとしたのだ。
　その結果、通常のルートを通っていたことが判明したが……最近、特に船の遭難が多発するようになったのは確かであるようだった。
「シレンツィオには船で訪れるしかない分、事故の増加を見過ごせないのは分かる。しかし元が絶望の青だからな。竜種すら眠っていたこの海、他に何がいてもおかしくはあるまいよ」
「ええ、なにが　起こっても　おかしくは　ないですの……」
　ラダに『半透明の人魚』ノリア・ソーリア（p3p000062）もそう頷いて。
「ミイラ取りがミイラに……なんて、ずいぶんと恐ろしい話ですね。ベテランの船員たちが乗った船が、沈む……それがこの岩礁地帯によるもの……考えすぎかもしれませんが、にわかには信じられませんね」
　『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン（p3p010534）に、『海淵の祭司』クレマァダ＝コン＝モスカ（p3p008547）も達観したように答える。
「むしろ遅かったくらいじゃ。こうなるのが……海は、遠大で底知れぬもの。静寂の青の先に、次の絶望の青は現れ得る。開拓を否定するのではないのじゃ。ただ、畏れよ。そういうことじゃ」
「だからこそ、私はいくらでも警戒しましょうか。支えるのは得意ですから」
「……要するに、豊穣へのおもてなし準備兼弔い合戦というわけだな」
　豊穣にも海洋にも世話になっているし、犠牲になった民の家族がせめて海に花を投げられるように穏やかな海を取り戻さねば、と『特異運命座標』エーレン・キリエ（p3p009844）も意気込む。
　『希望の星』燦火＝炯＝フェネクス（p3p010488）も船の上から海を眺めるが……この穏やかにも見える海域がそんな恐ろしい場所だとは、中々思えない。しかし……それでも此処は、何隻もの船が消えた場所なのだ。
「大海原の中で泳ぐのは、念願の一つだったのだけれど、まさか、こんな形で叶う事になるだなんて、思ってもいなかったわね？」
　何が潜んでいるかも分からない海域が燦火の大海原ダイビングの初体験だ。
　そんな風になるなど、予想できるはずもない。
「まぁ、いいわ。ある意味、私らしい初体験と言えるもの。こうなったら。私のこの初体験、徹底的な大暴れで派手にしてあげる！」
　そんな中、ラダは船上から船上からハイセンスで周囲を探っていた。
　特に波や風の匂いの変化に注意していたが……今のところ、何もない。
「異変がなくとも、それがかえって不気味だな」
「ま、何かいるなら船が来れば奴さんも飛び出て、とまでもいかんでも何か情報を渡してくるだろう。魚釣りは粘りと観察だぜ」
　カイトも言いながら『紅鷹丸』を動かすが、今回は囮の役割を請け負ってもいる。
「海洋国の士官らしく海洋国のための行動もしないとな。こういう難しい海域だと情報が命だ。岩礁の位置や沈没船の場所、潮の流れなどなど。海図を作るのも大事な航海士のしごとだぜ」
「カイト、索敵なら俺のファミリアーも役立ててもらおう。海を直接見られる目が必要だろう？」
　言いながらエーレンもファミリアーで小型のカジキを召喚し「万が一」に備えるが、特に何事もない。
「しかし、この状況……何かほかに、船を沈められるような存在がいる気がするんです。霊魂疎通もありますし……ええ、この海に沈んでしまった船員さんの魂から、何かしらの情報も得られそう……」
　マリエッタがそう言うが、実際これ以上は船上からの捜査は難しいだろう。
「さて、まずどこから探そうかしら」
「そうだな……どの船から捜索、探索するかだがタートルヘイズ号が直近で沈められたなら、そこにまだ敵が集まっている可能性はあるな。勿論、他に当てがあるって話なら別の所を先に探索してもらって構わない。どっちにしろ、確認のためにも全部回ることになるだろうしな」
「相手の目的が略奪か虐殺なら、既に終わってる所にはいない筈よね？　となると。一番怪しいのは、最近沈んだばかりの【タートルヘイズ号】なんだけど。私達の接近に気付き、場所を移して潜んでいる可能性があるわね？」
　燦火とエイヴァンの意見が合い、水中での探索の準備が始まっていく。
「海にも幾分慣れたが水中は正直まだ少し怖い。あまり深くに沈んでいない事を祈るよ」
　そんなラダの声が響くが……全員が海の中へと潜り、詳細な探索が始まったのだった。

●深い海の底から
　海に沈んだタートルヘイズ号。その探索の結果見つかったのは……幾つかの刺殺体だった。
　彼等は後で回収してあげなければならないだろうし、他の船員の捜索も必要だろうが……これで原因が単なる座礁事故でないことは明らかになった。
　少なくとも船員を「刺す」何かがいることは確実であり、それは極めて敵対的であるのだろう。
　だが、その姿はタートルヘイズ号の中にはない。
「私達の接近に気付き、場所を移して潜んでいる可能性があるわね？」
　燦火は「捜索中に他の船から出てこないか、見張っておいた方がいいかも。私も、警戒しておくわね」と言うが……その危険性は確かに充分すぎる程にあるだろう。
「そうだな……そうした連中は岩礁の陰に隠れているかもしれない。それぞれ仲間と離れすぎず、しかし速やかに探そう。陽が暮れる前に見つけねば」
　そして周囲の生物達にも注意したい、とラダは考えていた。
　沈没の原因が魔物であるならば、異物には敏感に反応するだろうから。
「水神の加護で水中もすいすい。ペンギン並みに泳いでいこうじゃないか。鳥類だって海は泳げるんだぜ、ってな！」
　そんな中で、カイトは暗い雰囲気に飲み込まれないように努めて明るい声をあげる。
「沈没船は魚礁になってるからな、ここもちゃんと整備したら漁業のポイントになるかもな。ま、そのために悪い魚をぶっ飛ばしに来たわけだけど。探す船は此処含めて3つあるわけだけど、やべーのが住み着いているならふつーの魚がいないはずだ。あとは食べかすでも落ちてたらわかりやすいんだけどな。何かしら痕跡を探すとしよう」
「わたしたちにとって　ここにいる何かが　害獣であるように　かれらにとっても　わたしたちは　害獣なのでしょう　さきに　なわばりにしたのは　かれらでしょうから　もうしわけないなとは　おもうのですけれど……　これも　生存をかけた　たたかいですの」
　ノリアも船を沈めたのであろう「何か」に、そんな想いを抱く。
「とはいえ……できるだけ　傷つけあわずに　すませたいですの　もし　そのために　この　つるんとしたゼラチン質のしっぽが　役にたつのなら……存分に　みせびらかして　さしあげましょう　さあ　ここに　おいしくて　新鮮な　のれそれが　およいでいるのが　見えるでしょうか？」
　そうしている間にもマリエッタは霊魂疎通で船員の霊と疎通することに成功していた。
　その結果……どうやらサハギンと呼ばれる類の連中に襲撃されたということが確認できていた。
「サハギンたちを　とりこにさせて　さそい出しますの　生身でのおよぎは　あまり　得意では　ありませんけれど　大海の抱擁の　ちからがあれば……そう簡単には　つかまったりなんて　しませんの　ほんとうは　攻撃されずに　すむように　大海の抱擁に身を委ねておきたいところですけれど　今回は　攻撃されるのが　目的ですから……　自分の身も　まもれない　都合のいい餌だと　おもわせておきましょう　もっとも　わたしを狩るのは　相当の　手間のはずですの　かれらは　かなり　時間をついやしてくれることに　なるでしょう……」
　ノリアもそう言うが、ノリアだけに負担を背負わせようなどとは誰一人考えてはいない。
「サハギンか……敵のホームグラウンドにカチコミだな。慎重にいこう」
　エーレンのそんな言葉に頷きながら、次の船へと移動しようとして。
「囲まれておるのじゃ！」
　エコーロケーションを発動させていたクレマァダが叫び、全員が警戒態勢をとる。
　ヌルリと、壊れた船の中に姿を現すサハギンたちは、言語かどうかも分からない何かをずっと唱えている。
　それが何かまでは分からないのだが……怖気を誘うような何かであり、その瞳もまた此方を見ているようで見ていない。
　ああ、あれは此方とは完全に違う「何か」だと、誰もがそう感じていた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前たちが出てきた原因まできっちり始末してやる、安心して逝け」
　エーレンはサザンクロスを引き抜き、一気に距離を詰め鳴神抜刀流・太刀之事始『一閃』を放つ。
「ある程度はエイヴァン大佐に頼むな。面倒な仕事は上司に押し付けろって親父の部下もよく言ってるしな！」
　カイトが熱血の赤翼を広げれば、エイヴァンはそれに応えるように名乗り口上をあげる。
「出来るだけ多く拾いたいところではあるが流石に全部はキャパオーバーになるんでな。一部はカイト、頼むぞ！」
　サハギンの数は多い。そう見て取るとクレマァダも夢見る呼び声を響かせる。
「なるほど、見るからにヤバい奴等じゃない？　これなら、遠慮なく暴れてブッ倒しても良さそうね！」
　放つ蒼光覇はサハギンを打ち砕くべく放たれて。
「たたかいが　さけられないなら……　熱水噴出杖ですの！」
　ノリアも熱水噴出杖から熱水流を召喚し放つ。
「しかし、価値観の合わないこの種族…生命体としても、思考としても興味だけはありますね。狂わされない程度に意識は向けたいところです」
　マリエッタはクェーサーアナライズを発動しながらそう呟くが……理解は出来ないだろうな、と本能的に感じてもいた。
　何かを狂信するように囁き襲い掛かってくるサハギンたちには、そんな「壁」のようなものを感じたからだ。
「しかし海種とも違うアレは何だ？」
　プラチナムインベルタを放ちながらラダは正体を調べられるよう殺した奴を1人持ち帰りたい……と考えていた、のだが。
　サハギンたちは死ぬとジュワッと水の中に溶けるように消えていき……その死骸は１つとして残らなかったのだ。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき