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シナリオ詳細

<光芒パルティーレ>はらから

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『シレンツィオ・リゾート』
 ネオフロンティア海洋王国――
 それはこの混沌において唯一諸島部に勢力を構え、漁業や海運、貿易で身を立てる国家である。
 シーレーンを強く防備することの出来る海軍力と、同時に大国間の小競り合いを上手く泳ぐ事が出来た歴代各々のバランス感覚を有したその国は諸島の小国として外圧に晒されてきた。故に、外洋に横たわっていた『絶望の青』を越え新天地を目指したのである。
 それを彼等は『海洋王国大号令』と呼ぶ。
 絶望に佇んでいた冠位魔種アルバニア、そして『滅海竜』リヴァイアサンを越えて彼等が至ったのは独自の文化発展を経た和の国『神威神楽(カムイグラ)』なのであった。
 今や『静寂の海』の相性で親しまれることとなった海洋王国と神威神楽の外洋は今、大きな変革を迎えている。

 ――シレンツィオ・リゾート。

 ……と、言う事はカムイグラの動乱さえ過ぎ去った後に仲間になった亜竜種の少女『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)は知る由もない。
 里のトモダチであるイレギュラーズの活躍をその目で視たかったと駄々を捏ねた彼女はシレンツィオ・リゾートの四番街(リヴァイアス・グリーン)へとやってきていた。
「此処が、かの滅海竜が眠るという!」
「……本当に眠っているかは分からんがの」
 肩を竦めた『海淵の祭司』 クレマァダ=コン=モスカ (p3p008547)に琉珂は「気分だもの」と心を躍らせる。
 本来であればネオフロンティア海洋王国はサマーフェスティバルを目前に控え、クルージングツアーを実行する予定であった。
 勿論、イレギュラーズ達もVIP待遇での乗船の誘いが出ていたが、そうとも行かぬ事情が湧いて出たのだ。
 それこそが『ダガヌ海域』である。
 高確率での遭難や難破、行方不明事件が勃発し謂れもないような噂が溢れ出たのである。
 廃滅病で死んだ亡霊が彷徨っていると言われればクレマァダは「その様な事もあろうよ(海だもの)」と返すであろうし、まだ魔種の残党が潜んでいるとも言われればやはり「その様な事もあろうよ(海だもの)」と返すだろう。
「ねえ、クレマァダの故郷は海なんでしょう? ええっと、コン=モスカ島。海洋王国の端っこ!」
「うむ」
「今度私も連れて行ってね。沢山教えてくれるととーってもうれしい!」
 にんまりと笑った琉珂はふと、自然公園へと視線を向けてから。
「ねえ、クレマァダって双子さんで、おねえちゃんが『英雄の歌姫』なんでしょう?」
「……ん? あ、ああ、そうとも言われて居る」
「貴女に良く似た人が居たの。もしかして――」
 いいや、そんな筈はない。
 クレマァダは琉珂の言葉にぎょっとしたように息を呑んだ。

 ――『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)はあの海に沈んでいったはずなのだから。

●竜の気配
 すいすいと歩むイレギュラーズの背中を追掛けて、琉珂は不思議そうに周囲を見回した。
 ダガヌ海域を見に行きたいと告げた琉珂の目的は『おばけがいるなら解決してこそのイレギュラーズじゃない?』である。
 イレギュラーズとなれども、外で遊んでばかり居られないのがフリアノンの里長だ。シレンツィオの大冒険も楽しみではあったが、琉珂は深緑を襲った『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスの一件から里での里長代行達との防衛と対策について話し合わねばならないらしい。
「うぐぐぐ、せめて、せめてちょっとだけ……ちょっとだけシレンツィオを体感させて――!」
 涙ながらに懇願した琉珂は自身の調査結果は他のイレギュラーズに引き継ぐ告げて幾人かを連れて此処までやってきたのだという。
 引き継がされる側である『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は連れ回されてぐったりとしているクレマァダの横顔を眺め遣る。
「大丈夫かしら? コン=モスカの祭司長」
「う、うむ……まあ、仕方有るまい。それに、気になることも言っておったからの」
 イーリンを呼び寄せたのはクレマァダその人だ。

 ――貴女に良く似た人が居たの。もしかして。

 自然公園で見かけたというクレマァダに良く似た人影。それがカタラァナだとすれば? いいや、有り得ない。
 彼女はあの波濤と共に消えていったはずなのだから。その調査を兼ねてダガヌ海域の無人島に向かうのだ。
 カタラァナと親交の深かったイーリンにも助力を、と乞うたのは屹度間違いではないはずである。

 遙々訪れたダガヌ海域はシレンツィオ近海と比べればおどろおどろしい空気が漂っていた。
 人の気配も少なく、しんと静まりかえったその場所に点在する無人島には難破船が存在して居る。
「……ん?」
 琉珂はぐい、と身を乗り出した。「危ないわよ」と告げるイーリンに琉珂はむむむと唇を尖らせる。
「ねえ、いーちゃん」
「その呼び方はクレマァダから習ったのかしら? 司書と呼んでも良いのよ」
「司書いーちゃん」
「ええ、何かしら。里長ちゃん」
 琉珂は無人島を指差してから首を傾いだ。
「私の同胞みたいな人が見えた気がしたの。けど、同胞じゃないのかしら……誰なのか分からないけれど……」

 ――ああ、次から次に!
『前人未踏』であったフェデリア。開拓されたと言えども、まだまだ未知は多い。
 琉珂の同胞が此の辺りを歩き回っているということは、何らかの亜竜種勢力が居たとでも言うのか。
「取りあえず、調査をしましょう。琉珂の疑問にも答えられるかも知れないわ」

GMコメント

 夏あかねです。琉珂ちゃんを連れてのシレンツィオ。

●目的
 ダガヌ海域『無人島』の調査

●『無人島』
 ダガヌ海域に存在する無人島です。難破船が存在して居ます。人が余り寄りつかない場所なのか、おどろおどろしい空気を漂わせています。
 茂る木々の影に、鬱蒼とした空気を感じさせますがお天気は正に南国です。
 鮮やかな空! 白い雲! それから、何だかとっても危険そうな海!(バカンスと言っても良いものか!)
 この無人島を調査してみましょう。
 無人島の内部には以下のようなオブジェクトがあります。

 ・何だか地下に繋がっていそうな古代遺跡
 ・不思議なフルーツ
 ・人が訪れた痕跡

 ――琉珂が見かけた人影は以下。

 ・クレマァダにそっくりな誰か(「カタラァナ?」と琉珂は聞きましたがクレマァダさんは違う気がしているでしょう)
 ・『同胞(亜竜種)』のような存在。でも、服装がとってもカムイグラ風?で同胞(フリアノン)の人じゃないっぽい

●敵勢対象
 何らかのモンスターが存在している事が想定されます。
 また、海域には海賊集団・海乱鬼衆(かいらぎしゅう)なども存在して居るようです。
 敵勢対象が存在していることを前提に対策を講じて下さい。

●同行NPC 『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)
 亜竜種ガール。覇竜領域に存在する亜竜集落『フリアノン』の現里長。亜竜姫と呼ばれています。
 今後のシレンツィオでの活動は『暴食魔種ベルゼー』の対策のために少しばかり席を外さねばならないため、最後のチャンスだと此処までやってきたようです。
 琉珂の調査情報はリリファ・ローレンツ(p3n000042)へと引き継ぎ、イレギュラーズに共有されるようです。
 竜覇は火。基本的には近接攻撃&皆さんへの支援を行います。割と煩い上に人懐っこいです。

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <光芒パルティーレ>はらから完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
裂(p3p009967)
大海を知るもの

サポートNPC一覧(1人)

珱・琉珂(p3n000246)
里長

リプレイ


「すっかり姿を変えちまったとはいえ、この海――『絶望の青』じゃ色々あったからなぁ。
 あれだけの“奇跡”をいくつも目の当たりにしたんだ。今更何が起こっても驚かねぇさ」
 潮風を受け入れて、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)はそう言った。今や絶業とも呼ばれることのなくなった静寂の青。
 シレンツィオ・リゾートと名を変えたその場所から幾分か進んだ海域は未だ未知に溢れているそうだ。
「開拓が進んだとはいえ、まだまだこの海は未知が多いからねぇ。
 "何"があるのか詳らかにしようじゃないか。それがヒトの性さね。ヒヒヒヒ!」
 折角ならば商機であれば良いのにと、『闇之雲』武器商人(p3p001107)は袖口で隠した指先を口許に運ぶ。訪れたのはダガヌ海域に存在する無人島。未だ開拓の進まぬその場所には難破船の姿が見える。シレンツィオの風光明媚さとは打って変わった未踏の地と呼ぶしかあるまい雰囲気に『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)は驚いたように目を瞠る。
「シレンツィオ・リゾートって開発が進んでっけど、まだまだ変なところは多いんだな。
 えーと、このダガヌ海域? をきっちり調査するのも大事なことだよな! 琉珂もせっかくの息抜きに大変だな……」
「ううん。息抜き――と、言えども、気になることはあったから」
『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)は曖昧な笑みを浮かべる。一寸、重苦しい空気を纏った琉珂に『大海を知るもの』裂(p3p009967)は頬を掻いた。
「いい天気だってのに空気だけが重っ苦しいときやがる。しかも船に縁ある身としては難破船ってのもいただけねぇ。
 ……ったく、無人島探索ってのはもっとワクワクするもんじゃねぇのか? 何やら嬢ちゃん達も訳ありなようだし、用心して進むとするか」
 訳あり。そう言われてしまえば少しばかり弱い。ざわざわと胸の中の潮騒がどうしようもない程に響いてくる。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は琉珂をまじまじと見遣った。

 ――いーちゃん。

 その呼び名は何処で聞いたの? イーリンは『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)から聞いたのかと琉珂へと問うた。
 彼女は首を振って何処か困ったようにクレマァダを見詰めるだけだ。その答えも分からぬとでも云う様な、そんな困り眉にクレマァダも困り切ったように肩を竦める。
(誰が。誰が居るというのじゃ。……何が、居ると言うのじゃ。
 最早不確かな夢見の力が伝えて来る。きっとこれから、何か良くないことが起こるのだと)
 幼い頃から、コン=モスカの祭司であったからには幾度となく見てきた悪夢。黒き波濤に飲み込まれて行く悍ましき夢。
 その夢の正確性は最早失われた。クレマァダが片割れを失い、イレギュラーズとなった時に夢見は何も告げなくなった。
「……クレマァダ、貴方は何を考えているの? 此の島にいるのは誰? 教えて――神がそれを望まれる」


「取り敢えず、わからん」
 いーちゃんと呼ぶのはクレマァダではない。彼女の双子の姉・カタラァナだ。だが、彼女が波濤に飲まれたことを誰もが知っている。
 居ないはずの人が居た。クレマァダにそっくりなかんばせの誰か。『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は「居ないはずなのに、ねぇ」と首を捻る。
「幻影か、鏡写か……何か敵が居るようだし、そこらの妨害的なアレの可能性もあるか。
 海で有名なのは蜃気楼を生み出す『蜃』って妖怪が練達的な答えになるが……まぁ、答えを出す前にまずは探すことからか」
「ふぅむ……人影、ですか。まぁ、バカンスだなんだといっても僕にとっては普段とそう変わらなそうですし。
 無人島でバカンスって何なんでしょうかって話ではありますが」
 妖怪が出ると言われたって今更だと『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は仲間達を振り返った。
「海は安らぐ場所ではありますが、何が起こるかはわかりませんから。気を付けていきましょう。
 ……僕はそこまででもありませんけど。特にクレマァダさんとかは思うところがあるんでしょうかね」
 琉珂がクレマァダに似た顔を見た、というのだ。ベークからすれば彼女の家族なのだろうかとぼんやりと考えるが――そうではない、クレマァダにとっての『有り得ないとさえ感じる事象』
「……母は良く似ていたらしい」
「お母様がダガヌ海域にいらっしゃってるとか?」
 何気なく問うたベークにクレマァダは首を振った。母は随分と昔に行方知らずになったのだ、と。双子の片割れも波濤に飲まれたように、母も姿を消したと父に聞いている。
 悲痛な表情を見せた琉珂は幼少期に両親を失っている。その頭をぽん、と叩いた縁は「……それにしても、せっかくの夏を満喫する暇もねぇとは、里長の嬢ちゃんは大変だねぇ」とその意識を逸らすように声を掛けて。
「いえ、いえ、そうね……今までよりは満喫してるのかもしれないけど」
「……ま、諸々が片付いたら改めて遊びに来りゃぁいいさ。リゾートは(多分)逃げねぇからな」
 覇竜領域に海なんてなかったからと肩を竦めた琉珂に縁は「そりゃあな」と小さく笑った。自身の名が海洋では売れていることを活かし、ある程度の情報を集めておいたのだと縁は言う。
 殊更、驚いたのは縁に似た『琉珂の同胞らしき存在』も同じような事を聞き回っていたという事だ。一体何の話だと縁からすると着地点のない状況ではあったが。
「戦闘は出来るだけ回避しましょう。此処で戦うのも得策では無さそうですし。
 冒険は其れなりにこなしてきたので、皆さんのお手伝いは出来ると思います。まあ、僕、それなりに一人でなんとかなるのでリソースの節約にでも」
 難破船もある以上何もないという事は無さそうだというベークは海に何かあれば人ごとではないとやる気を滲ませる。
「時間、かかるかしら」
「あ、非常食じゃないですからね?」
 琉珂に囓られる気配を感じてベークは最初に断りを入れた。ダガヌ海域はシレンツィオ・リゾート計画の中でも船の難破や遭難事件が多発している海域だ。何も無いとは言い切れない。
「人の痕跡ってのは風やら波やら一つで無くなっちまうからな、早めに調べねぇとな。……まあ、遺跡にあるかもしれないが。
 道中にフルーツでも見てみるか。不用意に手を出すなよ。毒があったら笑えねぇ。汁が飛び散らないとも限らねぇからな。割るときは気をつけろ」
 淡々と忠告する裂は難破船の周囲をぐるりと回ってみたが、人の気配はないと告げた。
 船そのものもそれ程大きなものではない。海賊の存在も確認された海域だ命辛々逃げ果せた可能性さえある。
「うーん、そうだねぇ。船の大きさ的には……まあ、シレンツィオと此処を行き来するのが精々な大きさだろうか」
 夜を過ごした後もそれ程ない。だが、葉などが踏み荒らされた痕跡を辿れば遺跡にも近付きそうだと武器商人はまじまじと見遣った。
 フルーツは裂が言う通り遠目寄りの一度の確認。海洋周辺の果物図鑑などを見てみるが未知でるならば、素手で触れないように袋で持ち帰るとしようと武器商人は提案する。
「ま、此の辺りで採れるフルーツなら廃滅の呪いを経て変質しているかも知れないしね。注意はしようか」
 進む先は遺跡に限られるだろうかなと武器商人は「漁師の旦那はどう思う?」と問い掛ける。裂は「行くしかないだろうな」と呟いた。
 昏い面立ちのイーリンとクレマァダを気遣うようにマニエラとリックは視線を送り――ざくざくと地を踏み締める。


 潮の香りが全てを消し去る前にと鼻先をくん、と揺らした。カタラァナの声は何時だって覚えてる。それはクレマァダの方がそうだろうか、二人は「ひとつ」が分かたれたような存在である以上瓜二つだとマニエラはその暗いかんばせを眺めて感じていた。
(まあ、表情の作りも、感情表現も二人は大きく違う。黙っていれば似ているからこそ厄介なんだろうな――『双子』ってやつは)
 遺跡近くに辿り着いてからリックは穴掘りのプロフェッショナルであるイーリンの指定した探索順に沿って行動していた。
「島のものは迂闊に口にしない」と告げた彼女は探索前にポイントを作成しておいてくれている。敵か、それとも『敵勢対象』がどの様な存在であるかも分からない以上はうかつな戦闘も控えておきたいと彼女は考えていた。
「ヤバい特産品って絶望の青時代の島にもあったはずだし、そっち方向だったりしねえだろうな?
 ……っと! オレっちの周辺に集まってくれ! 何かいそうだぜ! 古代遺跡の方から音がする!」
「ああ、確かに物音がした。男の声か――それと、少女の声もしたようだが……」
 マニエラは生き残った誰かがいたのだろうかと目を瞠り振り返る。肯いたイーリンは「どうやら誰かに追われているようね」と進軍を許可した。
 ずんずんと進むクレマァダの足は少しばかり淀む。フルーツはサンプルとして持ち帰ろうと決めていた彼女は避けられる戦いは避けていたが此れは避けられないと本能的に察知したのだろう。
「遺跡か……。そこから逃げ道があるのかもしれないな」
 裂は気を配るようにクレマァダやイーリンを見詰めた。マニエラが緩衝材にはなるだろうが深追いをする可能性はある。縁やベーク、武器商人が奇異を配っていると言えリックと裂の目から見ても二人は何か思い詰めているようにさえ感じられた。
(全員俺より手練れだろうしそこまで心配はしてねぇが……まぁ、念のため深追いしないように見てやらねぇと)
 遺跡の前に見えたのは海乱鬼衆であったか。イレギュラーズの姿にしめたと言わんばかりに後退して行く彼等は何かと戦っているようだ。ずるりと触腕を動かしたモンスター。それが海魔と呼ばれる存在であると気付き直ぐさまに戦闘に転じたベークは「やれやれ」と肩を竦める。
「モンスターがこっちを見た途端に海賊が逃げましたか。聞こえた声は彼等のものでは無さそうですね?」
「ああ。無骨な男共も何かを追って遺跡に来て鉢合わせした程度だろう。……問題は何を追っていたか――だ」
 少年と少女の声がした。そう告げるマニエラは「ここなら何か古代兵器的な奴が異常現象の原因もある可能性はある、と思ったが人の気配があるなら何も分からないな」とぼやいた。
「イーリンはどう思う?」
「難しいわね。マギサは? わからんはナシで」
 足元を掬われるわけには行かないとイーリンが気を配ったのは琉珂であった。彼女はそわそわとしており何かを気にする素振りを見せ続けている。
「此の島が竜にまつわる何かがあるとすれば、それが亜竜種に影響を及ぼしている可能性もあるもの」

 ――どこにいるの?

 琉珂の唇が小さく囁いた言葉をイーリンは聞き逃さない。盾として前線で奮闘する武器商人と、リックの支援を受けながら攻撃を続ける縁も人が踏み荒らした遺跡の後には感づいていた。
 海魔をいなし、遺跡内部へと降りて行く一行は壁画に描かれた竜を眺めて呆気にとられる。クレマァダは「これは」と呟きイーリンは「ええ、見たことがあるわよね」とざわめく胸の内を鎮めるように息を吐いた。
「ヒヒヒ、まるで『リヴァイアサン』と『渦潮姫』じゃあないかい?」
 まるでその二匹が対であるかのように描かれた壁画。武器商人の言葉にベークとマニエラは頷き、リックは「これが……」と息を呑んだ。
「此の辺りは誰かが通った後があるな。生活用通路と言っても差し支えない頻度で通行の後が見られる。
 嬢ちゃん達はどう思うよ。竜にまつわる何かがある――というのは案外間違いなさそうだぜ」
 裂の言葉にクレマァダは息を呑んだ。
 聞こえた気がする。何かの声が。遺跡の奥深く、水中に繋がる通路の奥深くから。

 ――くちたさんご くじらのむくろ うたうひめぎみ なみのしじまに。

「……カタラァナ?」
 呟いたマニエラの言葉にひゅ、と息を呑んだのは誰であっただろうか。


「海魔はともかく、任侠衆がこのような海域に何用じゃ? 法の目は確かに届きにくいが、こう生きにくい場所ではたつきの立てようもあるまいに。
 それに、亜竜種。その姿はまるで……」
 息を呑んだクレマァダは問わずには居られなかった。もう『問わないという選択肢』がそこにはなかったからだ。
 声は、気付けば消えていた。唄は、気付けば途切れていた。だからこそ、ヒントは隣に立っている彼女しかないと思えたのだ。
「琉珂よ。何か知らんか? ……というか、何か隠しとらんか? お主」
 クレマァダがじっくりと、確かめるように声を掛けた。その瞳がきょろりと動いてから琉珂を睨め付ける。鋭いコン=モスカの祭司長の眼差しで。
 琉珂は少し困惑した後「……とおや、居るの?」と呼んだ。
「ん? 嬢ちゃん?」
 困惑したのは縁だ。琉珂は「あ、縁さんじゃなくて」と首を振って草陰から姿を現した亜竜種の男へと視線を送る。
 何処か縁の面影を感じさせる男は琉珂に言われてこの地の調査を行っていたらしい。
「居る。何か聞こえたが消えた。
 ……お初にお目に掛かる。冽・十夜だ。フリアノンの里長の命を受けてこの周辺の調査を行っていた」
 口数が非常に少ない亜竜種の男――十夜の姿に武器商人は「旦那に良く似てるじゃないか」と縁を見遣る。
「……ああ、確かに似ているな。種こそ違えど雰囲気や面影が親族と言われても納得できる」
「確かに、父親は亜竜種だと母がよく言っていたが……いや、あんなの作り話だろ」
 呻いた縁に十夜はさて、興味があるのかないのか何も答えずにクレマァダを見遣った。
「調査をした。その遺跡は深く海に繋がる道がある。其れから皆が戦った敵に追われていた者がその道を通り逃げていった」
「なら、やっぱり『同胞』はそこから……? 私の見たクレマァダに良く似た人影も……!」
 琉珂と十夜に見詰められてクレマァダはぎくりと肩を動かした。イーリンは聞いた。どうして琉珂は『いーちゃん』と呼ぶの、と。
「クレマァダは『いーちゃん』とはほぼ呼ばないでしょう? けれど、けれど……あの人はそう呼んでいたの。
『いーちゃん』と司書を呼ぶクレマァダと同じ顔が居たならば教えて頂戴、って。それって……」
 カタラァナ、とイーリンの唇が動いた。波濤が騒ぎ出す。危険でも知らせるように。
「待った」
 裂は手を前へとぐいと伸ばしてから「あー……」と呻いた。
「話が混乱してきた。同胞って言ったか? そいつらは遺跡じゃなくて遺跡から更に繋がっている何処かに住んでいると?
 海賊のねぐらになってるにしてはこうして俺達が上陸出来るのがあっけなさすぎるとは思ったが……そいつらも『何処か』を目指してる可能性が?」
「ああ! おれっちたちと同じように『此処の調査』をしに海賊が踏み入れていたのか!
 開発が始まる前から住んでいた『誰か』が居る事に、廃滅病が消えて気付いた他の奴らが!」
 大規模開発が始まったのは大凡2年程度前だとリックは指折り数える。十夜はゆるゆると肯いた。
 覇竜領域から種族を偽って各地の調査に出掛ける亜竜種は幾人か居た。十夜はそのうちの一人だ。廃滅病があり、海に近付くことが出来なかった彼は海洋王国に暫く滞在し、一度フリアノンに戻ったらしい。そして、シレンツィオの開発がスタートしてからは度々調査に訪れていたのだ、と。
「種を偽って……ははあ、それは大変ですね」
「旅人だと言えば、基本は問題ない」
 淡々と答える十夜。イーリンはマニエラに「どう思う?」と意見を求めた。
「……わからない事があれば後々ここら辺の伝承を調べるしかないとは思って居たが、その辺りは調べてくれているだろう?
 あとは練達の夜妖に似たようなのはいるというなら、その辺りも気になるけれど」
「『水神信仰の里』というのがあると海魔に追われていた少年に聞いた。そして、その里にある変化があったとも。
 里に『海媛』と呼ばれる神託の巫女が廃滅の呪いが解かれた今、帰還したそうだ。そこから里の様子が一転したと聞いている」
 マニエラは「ふむ」と呟いた。脳裏に過ったのは『人の思いから信仰として産み出される夜妖』――真性怪異のことだ。
 水神信仰が行われていたというならば、真性怪異に類する何かがこの地で生み出されて居ても可笑しくはない。
「……一先ずはその里に調査を行わねばならないか」
 呟くマニエラにイーリンは「同感ね」と肯いた。青褪めた儘のクレマァダは「そうじゃな」と小さく零した。
 一度、体制を整えてからその場所へ向かうべき。ほの暗い水の底に何が眠っているのかを確かめるために。

「お父様」
 慌てた様にコン=モスカ領へと帰還してクレマァダは叫んだ。
「お母様はいなくなったと。お父様はそう仰ったのに。それは嘘なのですか?
 それとも、更なる真実があるのですか? コン=モスカとは、何なのですか? 我にまだ何かを隠しているのですか? お父様、お父様!」
 母は、カンパリは居なくなったと聞いていた。サンブスカはクレマァダの形相に酷く狼狽え言った。
「我らと信仰を共にする一族が居たらしい。浮家と名乗るそれらは遥か海を隔てた場所に集落を作り深海の神を祀っていた。
 カンパリは、母殿は『天浮の里へ行く』と言い残して消えた」
 それ以上は知らぬと父は首を振る。クレマァダは「どういう」と唇を震わせてから、ごくんと息を呑む。
 祭祀であるのは父だ。ならば、母は。
「お母様は、『水神の器』だったのですか」
 器はいなくなる。深海にその姿を消して。
 母も。
 姉も。
 クレマァダの言葉に父は緩やかに肯いてから「器はあの里に心惹かれるのだろうか」と憂うように呟いた。

 ――光に集まる蛾のように いつだって、そこに誘われる だって、それがわたしたち器なのだもの?

成否

成功

MVP

裂(p3p009967)
大海を知るもの

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加有り難う御座いました。
 謎の多き無人島は深海に繋がる階段が。
 どうやら、シレンツィオ・リゾートに行く為に誰かが船をこしらえ、そして命辛々戻った場所のようですね。
 仄暗い深海の底に何が、誰が、居るのでしょうか?

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