PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<光芒パルティーレ>渚に煌めく白き

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 燦々と輝く太陽は、パライバトルマリンの水面に反射して、海底に模様を描く。
 白いコロニアル様式の建物が建ち並び、石畳の上を華奢なサンダルを履いた少年が駆け抜けて行った。
 陽光に照らされる少年の白い膝小僧と青い空。
 何処か懐かしさと共に、爽やかな海の風が頬を攫って行く。

「まだ、伸びきっていない少年の手足の細さは尊いものがあるわね。ハーフパンツの隙間から覗く膝小僧と、薄い太もも、ふくらはぎ」
 オレンジ色の縦ロールが背中でファサと揺れる。
 カメラには決して顔が見えないアングルで、秘密のサロン愛好家の『夫人達』が、おそらく微笑みを浮かべていた。オレンジ色の髪の『モミジーヌ夫人』とサファイヤのドレスを着た『ヘベレーケ夫人』である。
「私、このフェデリア島に別荘を構えましたの。リゾート地ですもの、開放的になる愛らしい子達が沢山いるでしょう? それを遠くから眺めているのも楽しいと思いまして」
「良いですわね。けれど、それでは何時もと同じではありませんか?」
 くるりと振り返ったヘベレーケ夫人の顔に、眩い光が差して、カメラからは相貌が把握できない。

「ええ、ですから今回は少しだけ、趣向を凝らしたパーティを開こうと思ったのよ」
「あらあら、どんなものなんでしょう?」
 コツコツとヒールを鳴らし、石畳の上を歩いていくモミジーヌ夫人。

「一度は、誰しもが夢見る――オークション会場ッ!」

 カモメの鳴声が遠くパライバトルマリンの海に響いた。
「眩しいスポットライトに照らされた、いたいけな愛し子たちの困った顔!
 ――白い膝小僧、太もも、ふくらはぎ!」
「待ってモミジーヌ夫人、それはいけない行い、ではなくて?」
 柔らで嫋やかな芽を摘み取るような事は絶対にあってはならない。それが秘密のサロンの掟。
「ええ。『本当なら』いけない行いだわ。ヘベレーケ夫人。けれど、これが囮捜査なら?」
「まさか、このフェデリア総督府からの依頼ってことなの?」
 驚きの声を上げたヘベレーケ夫人はモミジーヌ夫人へと一歩近づいた。

 声を落して耳打ちするようにモミジーヌ夫人は言葉を告げる。
「……その通りよ、ヘベレーケ夫人。これは総督府からの立派な囮調査。
 かねてより、不審な奴隷の流通経路とお金の出所を調べるのに彼らは困っていたようね」
「高級リゾート地として名を上げているシレンツィオ・リゾートの裏で、本来ならタブーとされる奴隷の売買が行われていると世に知れ渡ってしまえば……フェデリア総督府としては由々しき問題ですわね」
 二人は顔を見合わせ手を取り合う。

「これは、いたいけな愛し子たちを、守る為の戦いよ、ヘベレーケ夫人」
「ええ、抜かりなく滞りなく、エレガントに、参りましょう、モミジーヌ夫人」
 アジュールブルーの空に白い入道雲が広がっていた。


「とういう訳で、モミジーヌ夫人からの、依頼、です」
 ぺこりとお辞儀をした『Vanity』ラビ(p3n000027)は、ローレットフェデリア島支部に顔を見せた『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)へと視線を上げる。
「ニルさんたちは、オークションへ向かってもらい、『奴隷』として参加してほしいそうです」
 奴隷という言葉にニルは隣の『はじめての日を終えて』琅・冬栴(p3p010532)へと顔を向けた。
「だ、大丈夫ですかね?」
「いや、でも本当にオークションで落されるわけじゃないんだろ?」
 冬栴はラビに向き直り、不安げに問いかける。
「…………」
「無言にならないでよっ、大丈夫よね!?」
 ジト目のラビが無言になると、何かありそうで怖いのだと『ぬくぬくしてたい』リュリュー(p3p009320)はガクガクと少女の肩を揺さぶった。

「大丈夫です。思う存分、奴隷してほしい、です。白い膝小僧、太もも、ふくらはぎ。
 くるぶし、おみ足、可愛い愛し子たちって言ってた、です」
 それに、とラビは肩を揺さぶられながら人差し指をぴこんと上げた。
「オークションする側に回ってもいい、です。値段をつり上げて、怪しいヤツを、一網打尽、です。あと、バニーの格好をして、カクテルとかを配って、情報収集も、あり、です」

 イレギュラーズの情報収集能力があれば、おそらく簡単に犯人は見つかるだろう。
 あとの小難しい話しはモミジーヌ夫人が何とかしてくれるらしい。

「なので、皆さん。思う存分、――オークションされてきてください、です」

GMコメント

 ようこそ、モミジーヌの館へ。
 一度は誰もが憧れる、オークション会場に行ってみましょう。
 大丈夫。安心安全です。
 何度だって奴隷オークションが見たいもみじです。

●目的
・囮捜査
・奴隷商人の調査

●ロケーション
 フェデリア島にあるモミジーヌ夫人の別邸。
 今夜はオークション会場となっています。
 暗い室内にはステージが作られ、スポットライトが当たっています。
 奴隷に扮したイレギュラーズの皆さんが一人ずつ、オークションに掛けられます。
 オークションで奴隷を買った人は一度別室に案内されます。
 そこで、捕まえられますので、そのまま連れて行かれる心配はありません。

『つまり、安全に、オークションされることが出来ます』

 他にも、オークション客に混ざって金額をつり上げたり、
 バニーの格好をしてカクテルを配り情報収集をする事ができます。

●ターゲット
 オークション客の中には様々な趣味趣向の持ち主が居ます。
 今回のターゲットの好みは『この依頼に参加したイレギュラーズ』です。
 ドンピシャでイレギュラーズを気に入り、競り落とそうとしてきます。
 バニーの格好をして近づいても、すごくアプローチされます。

 困った顔で涙ぐんでみたり、膝小僧や太ももふくらはぎを、手で隠してみたり。
 そういった、何気ない仕草が重要なポイントです。
 思う存分、可愛い感じで行きましょう。

●夫人達
 秘密のサロンを愛好するモミジーヌ夫人とヘベレーケ夫人がいます。
 二人は愛し子たちを守る為に、このオークションを開きました。
 何故か二人ともカメラに顔が映りません。
 ターゲットの確保などは夫人達が手配してくれますので安心です。

●名声に関する備考
<光芒パルティーレ>では成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の二つに分割されて取得されます。

  • <光芒パルティーレ>渚に煌めく白き完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月18日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
リュリュー(p3p009320)
美しい脚
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
琅・冬栴(p3p010532)
はじめての日を終えて
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


 燦々と照りつける太陽と潮風の香り。開放的なリゾートの雰囲気は居るだけで高揚してくるようで。
『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、意気揚々と人助けのつもりで、依頼人であるモミジーヌ夫人に相づちを打った。
「え、まってくれ? 総督府からの依頼なのか?」
 同意するように頷くモミジーヌ夫人に背を向けて、カイトは顔を手で覆う。
 つまり、この任務において誰が活躍してくれたのかも、総督府――ソルベや父ファクルを含む――にも報告が上がるというのだ。次、どんな顔して父に合えば良い。背中の毛がぶわりと逆立つ。
「俺用事を思い出し……」
「ふふっ。嫌がる姿というのもまた愛らしいわね?」
「いやまって連れて行かないでーっ! 鳥さんに需要はないからー!!!!」
 何処からそんな力が出てくるのか。謎の怪力(強制力)でカイトを引っ張って行くモミジーヌ夫人。
「ああぁぁぁ……~~~~!」
 ――依頼からは逃げられない。それがイレギュラーズというものなのである!

 連れて行かれるカイトを見つめ、『はじめての日を終えて』琅・冬栴(p3p010532)は、依頼人の言葉を反芻していた。故郷から初めて出てきて、リゾートでの依頼。簡単なものだと思っていたのだが。
『奴隷になって、オークションに掛けられる』
 だなんて、それ大丈夫なのと普通に疑問が浮かぶ。
「僕みたいな田舎者を騙して売り飛ばそうとか考えてないよね……? 大丈夫だよね?」
 いつの間にか隣に居たヘベレーケ夫人が優しげな笑顔を向けた。カメラには映らない。
「と、とにかく、人を売るオークションに来るやつなんて碌なやつじゃないに決まってる!」
 胸の奥に湧き上がる恐怖を振り払うように冬栴は両の拳を握った。
「僕がかっこよく! 痛い目見せてやるんだ! 囮でも何でもまかせてくれ!」
「あらあら、それは頼もしいわぁ」
 ヘベレーケ夫人が少年の勇気を微笑ましげに見つめる。

「奴隷は、だめです」
 眉を寄せた『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は『奴隷』という言葉に首を振った。
 誰かが奴隷になり、売り買いされてしまうなんて。考えるだけでも怖いのだ。
 それでも、奴隷商人を殺したり、奴隷の子が死んでしまったりするのも嫌だと肩を落すニル。
「だから、できるだけ傷つけないように、奴隷商人をなんとかできるなら、ニルは囮をがんばります」
「そうそう、おとり捜査でいちもーだじん作戦で悪い人たちは全部捕まえちゃおう!」
 ニルの手を取った『ぬくぬくしてたい』リュリュー(p3p009320)は、一緒に拳を空に掲げる。
「みんなといっしょにがんばるぞー!」
「はい! いちもーだじん! ですね! えい、おー!」

 少年達の愛らしいやり取りを見遣る『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)は密かに眉を寄せた。
 囮作戦で潜入するにあたって、可愛らしいイレギュラーズは適任であるが。
 こういう幼気な少年少女を奴隷にして、好き勝手したい変態共には、お灸を据えてやらねばなるまい。
 中には変態ではない者も居るかもしれないが。
「でもまァ、知ーらね! 仕事だからな。悪く思うなよ、ケッケッケ!」
 奴隷という枷をはめ、尊厳を踏みにじる輩は、総じて魚の餌にしてやるとクウハは嗤う。
「オークションかー、高く買ってもらえたらイカとかアジを一杯食わせてもらえるのかな?」
 くりくりのお目々で自分を見上げた『鮪導弾』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)を思わず抱き上げる
クウハ。この手触り、ひんやりした温度。最高の抱き心地ではないか。
「アザラシか……普通に欲しいわ。俺が客なら買い上げた後丁重に飼うわ」
 俺様動物好きなんだよなァ……と耳元で囁くクウハにワモンは得意げな表情でウィンクしてみせる。
「よーし、高く買われるようにアザラシの魅力全開でがんばるぜー!」
「まあ、奴隷っつーより、密漁で捕まったペットって感じだが」

 のんびり過ごすはずのリゾートでお仕事。その言葉だけで涙が浮かんでしまう。
 しかも、可愛らしいイレギュラーズならいざ知らず、自分に指名が入るとは。
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は項垂れながら、手にした瓶を握り締める。
 しかし、目の前の素顔の知れぬ夫人達を見ていると、何処かであった様な。
 言うなれば――魂の記憶――が、アーリアの脳内に浮かび上った。
「そう、分かったわ。この『M』の果実酒の導きに、乾杯!」
 オレンジ色の瓶の中身を一気飲みしたアーリア。
「( ・◡・*)ふふっ」
 何故か聞き覚えのある、あろん声が聞こえたような気がする。ステレオで聞こえてくるあれだ。
「さぁ行きましょうかわいい子羊ちゃん、商品ちゃん。
 今日の私はヘベレーケ夫人とモミジーヌ夫人のサロンの仲間――オサケーヌ夫人よ!」


「あ、あのー、なんでそれ持って詰め寄ってくるのですよ……?」
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は、モミジーヌ夫人にバニー服を突きつけられていた。
 ここは、モミジーヌ夫人の別荘。オークション会場の控え室だ。
「ふふふ。大丈夫心配要らないわ。二人でお話しましょ」
「わーっ!? 連れてかないでほしいのでしてー!」
 強靱な肉体を持つカイトですら引き摺られる謎の怪力である。華奢なルシアなどお姫様だっこで更衣室へと連れ込まれる運命。逆らうことなど出来はしない。
 マール・ディーネーの住まう竜宮城ではバニー服が正装らしい。
 だから、これは歴とした仕事服。問題等ありはしない。あと、うさ耳や丸い尻尾は可愛い。
「うぅっ……」
 愛らしいバニー姿で、涙ぐみながら更衣室から出て来たルシア。

 控え室からバックヤードを通じて、会場へと足を踏み入れる。
 ルシアの愛らしい容姿と際どいバニー姿――特にストッキングに覆われた脚――のギャップが客の視線を釘付けにした。しかし、これは仕事である。ルシアは羞恥心を振り払いカクテルを手にホールを歩く。
 聞き耳を立て、如何にもな男性客の元へカクテルを差し出すルシア。
「どうぞー、カクテルをお持ちしましたのですよー。ちなみに誰をお買いに?」
 少しだけ身体を寄せ、耳元で囁くように悪戯な笑みを浮かべば、男性客は鼻の下を伸ばした。
「じゃあ、君を買おうじゃないか」
「……えっ、ルシアを買いたいのですよ……!?」
「ああ、そうだ。そのバニー姿が可愛らしい」
「おっ、お客様ぁ、従業員は非売品でしてぇ……! そういうのは、ちょっと困るのですぅ」
 お金なら沢山あると豪語する男性客に、オークションの司会者は「良いでしょう」とガベルを鳴らす。
「そこのお方、お目が高い! 本来なら非売品ではありますが、特別に出品を許可いたします」
「い、いや! 待っ……!?」
 手枷足枷を嵌められ、翼を縛られたルシアはバニー姿のまま、ステージに乗せられる。
「い、いやぁ……み、みんなの目が怖いのですよぉ……ひどいことしないでほしいのでしてぇ……!」
 おうちにかえりたいと涙ぐむルシアに値段がつり上がって行く――!

 ライトアップされたステージの上、いつもの口調を隠して檻の中に入っているのはリュリューだ。
「ひっく……ここから出して……」
 ほろりと零れる涙、オークションスタッフに顎を掴まれ無理矢理上を向かされる。
「……ひ、ひどいことしないで」
 儚い少女の涙はオークション会場の観客を奮い立たせた。
 そのリュリューの怯えた表情、何かを隠すように、ちらりと見えるふくらはぎとふともも。
 嗜虐心をそそるには十分なものだ。幼気な彼女を思うがままにしたいと考える輩が、値段をどんどんつりあげていく。
 じゃらりと揺れる手枷と鳥籠の檻にリュリューは眉を寄せた。
 元いた世界ではケージが自分の寝床だった。だから入れられても平気だと思っていたのだ。
 されど、這い寄る嫌悪感に身が震える。
 狭いしふかふかのベッドだって、ここにはないのだから。
 されど、本当にこのオークションは安全なのだろうか。先程のルシアも連れて行かれて姿が見えない。
 もし、騙されていたとすれば。手足を拘束された状態は危険なのではないか。
 急にリュリューの背筋に悪寒が走る。
 大丈夫なはず。会場にはアーリアだってモミジーヌ夫人だっている。でも。
「こわいよぉ……」
 ちょっと本心でそう思った。

 オレンジ色の仮面をつけ、ドレスを揺らしたアーリアは夫人達と共に豪奢なソファで寛いでいた。
 同じ席には『ブルガートルテ家』の当主であるザルツ・ブルガートルテが仮面を着けて着席している。
「夫人たちは太ももとお膝とふくらはぎがお好きなんでしたっけ?」
 アーリアは口元に笑みを浮かべ問いかけた。
「私は最近くるぶしに目覚めましたの。あの骨張った大人びたパーツ、けれどやはり大人のそれとは違う未成熟さが!」
「ええ、ええ。分かりますとも。オサケーヌ夫人。太ももからふくらはぎのなだらかな流線の、その先にある無骨な筋と骨のギャップが魅力的ですわね」
 お酒の力で高揚したアーリアの情熱を優しく受け止める夫人達。
 端から見れば貴婦人達がお忍びでオークションに来ていると思われるだろう。
 これはお仕事である。裏で頑張ってくれている仲間の為にも、盛り上げるのがアーリアの使命。
 先程ルシアやリュリューの値段をつり上げたのもアーリアが優雅に策略を巡らせたのだ。

「……50万G。他に、居ませんか? でしたら……」
「――100万G」
 アーリアの声に会場がどよめく。
 颯爽と奴隷を買い付けたアーリアは、その少年の手を取ってステージから自分の席に連れてくる。
「はぁ、はぁ、貴方はオチャードって言うのね 猫耳と女装が似合いそうね」
 オレンジのまあるい仮面を少年に近づけたアーリアは、その間にも周りの視線を逃さない。
 こういう『他人が趣味趣向を丸出しにしている時』こそ、我の方がとひけらかすのが人の性だ。
「ほっほっほ、可愛らしい趣味をお持ちですなぁ」
 妙に高圧的な貴族風の男をアーリアの瞳が捉えた。


 カイトは「ラハ」と名乗り、鳥の姿から少年へと変身していた。
「こっちのほうならまだバレない。親父にも多分バレない。たぶん……」
 本来の姿は結構大きい二足歩行の鳥だが、人型だと160cmぐらいしかない。
 ショタではないが、褐色の青少年……つまり、低身長童顔成人男子……ッてこと? はァッ!!
 モミジーヌ夫人が声にならない声を上げた。
 鎖に繋がれたカイトは生意気な目線でオークション会場の観客を見つめる。
 反抗的な態度は、屈服させたいという欲求を引き出す効果がある。
「てめぇなんかに買われるつもりはねぇ!」
 そんなカイトの口調に席から立ち上がったのはザルツであった。
「おやおや、躾のなってない商品だね。少しお仕置きが必要かな?」
 ザルツは暴れるカイトの太ももを鞭でペチンとする。
「ピィ!?」
 振り下ろされる鞭の痛み――割と痛い――にカイトは涙目になって地面に手を付いた。
 されど、すぐさまその鞭を振う男(ザルツ)に反抗的な視線を向ける。
「生意気だねぇ。そんな所も可愛いけれど」
 鞭を顎に滑らせたザルツは、ノリノリな感じで数度カイトをペチペチする。
 カイトを幼い頃から知っているザルツにとって、またとない面白いネタである。
 一方のカイトは、仮面を着けた彼の素性を知る由も無く。
 隠し持ってる鳥さん人形に勇気をもらうも、内心、ちょっと怖いなと思っていた。

 大勢の人が檻の外で自分を見ている。
 その異様な視線に、冬栴は今まで感じた事の無い恐怖を覚えていた。
「こ、こんなたくさんの人の前に出るなんて……初めてで……」
 身体を拘束する首輪と手枷。鳥籠の檻の外には沢山の人。
 故郷の田舎では感じる事のなかった、纏わり付くギラギラとした瞳の輝き。
 上から下までなめ回すような視線に震え上がる。
「ひっ、ひえぇ……なんか尋常じゃない! 視線がこわい! た、タスケテ……」
 涙を浮かべる冬栴の脚が震えている。檻の奥へと後退れば、太ももとふくらはぎが露わになり、余計に嗜虐心を煽った。首輪に繋がれた鎖が引かれ、再び檻の手前へ引き寄せられる。
「いいぞ。もっと顔をみせなさい!」
「逃げても無駄だぞ」
 冬栴の反応を楽しむように会場の観客が言葉を投げかけた。
「も、もうお婿にいけない……」
 眦に浮かんだ雫がぽたりと檻の床に落ちる。
「ふえぇ……もう覇竜帰るぅ……」
 きらきらとした瞳。ふともも、ふくらはぎ。鎖骨と背中のライン。素晴らしき少年の美しさ。
 これにはモミジーヌ夫人も目を光らせた。

「続きまして、つぶらな瞳のアザラシです」
「おお!」
 コロコロと転がってきたワモンの愛らしさに会場が一気に盛り上がる。
 きゅーきゅーという泣き声と共に地面とペチペチ叩いた。
「では、餌やりをしてみましょう」
「おうっおうっ」
 嬉しそうに餌をねだるアザラシの真似をするワモン。
 美味しそうに餌を食べる彼を見て「可愛いアシカ」と誰かが口にする。
 ――ん? なんか今あそこの客オイラの事アシカっていわなかったか?
 気のせいだろうか。否、ものすごいアシカアシカと連呼している。
「オイラはアシカじゃねぇ!」
 突然人語を話したワモンに会場がシンと静まり返った。
「……はっ!? きゅ、きゅー?」
 危うく、ワモンがただのアザラシではない事がばれてしまう所だった。
 ひそひそと「喋るアザラシ?」と聞こえてくるような気がするが、何も聞こえない。

「ええと、では次はこの可愛いアザラシを抱っこしてみましょう! だれか抱きしめたいひとは」
 スっと手を上げたのは貴婦人に扮したアーリアだった。
「かわいいアザラシちゃん……」
 ワモンを抱きしめたアーリアはその柔らかなお腹に顔を埋める。
「スゥーッ」
 仕事なんてどうでもよくなってくる心地よさ。やばい。ずっと吸っていたい。
 いや、これは仕事。この素晴らしさをアピールしなければならない。
「こほん」
「なんて心地よさそうな表情。きっと気持ちイイに違いない。是非とも私に!」
「私に!」
 アーリアの『迫真の演技』にワモンの値段が爆発的に増えていく――

 ニルの知っている奴隷はこんなに綺麗な場所に存在しなかった。
 薄汚れ虚ろな表情で全てを諦めていたのだ。
 そんな辛い思いをする人が居なくなるように。ニルは自分に出来ることをしたいと願う。


 首輪に手枷足枷。衣装はホットパンツと素足。上着はホルターネックのもの。
 なめらかな陶器のような肌はスポットライトに照らされ輝くようだ。
 美しい流線を描く太ももからふくらはぎ。
 ぴかぴかのひざこぞう。指先は細く白く。華奢で未成熟なニルの姿に誰もが魅了された。
 ホルターネックの下に隠れている秘宝種のコアは、薄く存在を主張する。
 これは買ったものだけが暴ける秘密の色。
 値踏みされるような目で見られること、それは純粋に恐怖を覚えるだろう。
 俯きがちな顔と、潤んだ瞳。上目遣い。
「うぅ……」
 小さく漏れる声をもっと聞きたいと観客が色めき立つ。
 ニルの中性的な魅力に価格はどんどん上がっていき。
 その声にすら、びくりと震える肩が、愛おしい気持ちを強くさせた。
 幼気なニルを手に入れたいと、誰しもが思っただろう。
 そんな彼らの動向をニルは冷静に記憶に焼き付ける。

 身を震わせて『ネコチャン』を演じるのはクウハだ。
 檻の中で首輪を嵌められ、鎖で繋がれている。
「にゃあ……怖いにゃ、人がいっぱいだにゃあ……」
 目に涙が浮かび、指先が震えていた。もちろん、衣装は脚がよく見えるホットパンツにオーバーニーだ。
 依頼人(モミジーヌ夫人)が指定した。素晴らしいと涙ぐんでいたから、仕方が無い。
「ボクちゃんこれからどうにゃるのにゃ……??」
 猫耳フードを引っ張って、顔を隠そうとするクウハの首輪が引かれる。
「嫌だにゃ………。怖いにゃ……。お漏らししそうにゃ……」
 実際の所、今の自分を客観的に見れば、笑いがこみ上げてきて仕方が無い。
 思わず零れそうになった笑みを咄嗟に手で隠したクウハ。
「ふにゃあああーん! 酷いことはしないで欲しいにゃ!」
 泣き真似をして何とか誤魔化したクウハは口元を隠し、眉を下げる。
「おうちへ返して貰えにゃいならせめて、優しい人のところへ行きたいにゃあ~!」
「ははは、可愛い子猫ちゃんだ。私の元へおいで」
 一人の男がクウハの目の前に立った――

「そこに! そこに幽霊がいたんにゃ!」
 別室からクウハの可愛い声が聞こえる。落札した男とクウハがベッドを挟み対峙していた。
 男の服はボロボロに破けている。クウハが暴れたらしい。
「それが怖かったのにゃ……! 信じて欲しいにゃ~!」
「はは~、なるほどねぇ。暴れん坊さんだなぁ! そういう所も可愛いよ」
 ボロボロの状態でにじりよってくる貴族の男。猫好きなヤツなのだろう。
「その猫耳を撫でたい。撫でたい。可愛い。撫でさせてほしい……ッ!」
 男の手がクウハへと伸びる。その瞬間、アーリアの声が響いた。
「悪い夢はお好きかしら?」
「な、なんだ!?」
「大丈夫、きっと夫人達のサロンには貴方みたいな人を好きな人もいるはずよ」
 アーリアの魔法に絡め取られた貴族の男は、( ・◡・*)顔の幻覚を脳内に叩き込まれる。
 叫び声を上げる男の口にそっと香る甘い匂い。がくりと意識が落ちて次に目覚めた時には、きっと。

 カイトとルシアはバックヤードの控え室へと滑り込む。
 そこには、競り落とした貴族に腹パンを叩き込む冬栴とリュリューの姿があった。
「おとり作戦大成功ー! まんまと騙されちゃったでしょ!」
「ハー、ハー。お前みたいなやつがいるから……こんな酷いことが起こるんだ……」
 覆い被さった貴族は冬栴の耳元で「ドラゴンショタはぁはぁ(*´Д`)」と囁いたらしい。
「……ハッ、変態が!」
 その蔑む冬栴の瞳に貴族は電撃が走ったように釘付けになった。
 生まれてきた中で一番の衝撃を覚えたのだと。
 それからというもの、その貴族はドラゴンショタに虫のように蔑まれることが彼の性癖となった。
「僕には関係ないね。せいぜい満たされない性癖にのたうち回るといいよ(ペッ)」
「これに懲りたらもう悪いことしちゃダメよ!」
 ぐるぐる巻きにされた貴族はフェデリア総督府へと連行された。

 あぁ、性癖とはかくも罪深いものか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 素敵なおみあしに、もみじはとても満足しました( ・◡・*)
 ご参加ありがとうございました。

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