シナリオ詳細
<光芒パルティーレ>豊海絆恋録:若き世継ぎの未来を守れ
オープニング
●
恋に身分は関係ないが、身分とは恋を愛にする潤滑剤である。
だが、潤滑剤とはときに劣化し、推進力を殺しもする――こと、豊穣のような奥ゆかしい国にとっては。
豊穣には、『それなり』に名のしれた二つの商家がある。
歴史を紡ぎ、代を重ねた奥ゆかしき商家『白城(しらぎ)』。
そして、第十子という不遇の身から生まれ、商才ひとつで一代で盛り立てた『壱ヶ崎(いちがさき)』。
所以が違うがゆえにその2つの商家は競い合い、諍いを伴いながらも切磋琢磨を繰り返していた。すべては八扇(かつての七扇)に連なる者の御用達の地位がため。
如何に仲を違えても人の道を逸れなかった両者は、意外な形で接近することとなる。
白城家六子緑青(ろくしょう)と、壱ヶ崎長女(長子)久露江(くろえ)の縁談――である。
無論、両家がお膳立てしたものではない。むしろ、両家の当主は互いに言葉を尽くして止めようとしている。
していたが、外部からの妨害という風は、火の手を煽るばかりで意味を成さず。とうとう、うなるほどの金子と一族内の賛成派の政治力を背景に、シレンツィオ・リゾートでの婚姻にこぎつけることと相成った。
反対派の当主達は、伝えられた日時を馬鹿正直に信じつつもダガヌ海域を突っ切るルートの護衛をイレギュラーズに依頼。
一方で、緑青達はシレンツィオ・リゾートでの婚姻が恙無く終わるため、ならず者達が現れぬようにとイレギュラーズに依頼したのだった。
――この2つの依頼、何れが欠けても、両家の断絶は決定的となろう。君達の使命は、ひいては両家の縁を結ぶものなのである。
●
「式を無事に成功させて、両家の絆を広く知らしめたいのです」
「その為にも、どうか貴方方の助力を賜りたく存じます」
イレギュラーズの前に並んだ二人――久露江と緑青が深く頭を垂れたのは、記憶に新しい。
その二人は今、白い衣装に身を包んでいる。緑青は白タキシードを、久露江はウェディングドレスを。
シレンツィオ・リゾートで執り行われる式に合わせた装いに、結婚式に憧れる者達からは感嘆の溜息が零れた。
会場は青空の下、場所としては海に近い位置。
【三番街】と呼ばれる地域には、富裕層用の送迎港がある。その近くでこの結婚式が執り行われる事になっていた。といっても、船を寄せる場所から歩いて五分ほどの広い場所になるが。
教会風の結婚式場ではなく、誰からも見られるような場所で行なう事としたのは、両家の絆が結ばれた事を広く知らしめる意味と、この場に居ない当主達が戻ってきた時の作戦も込めている。
参列者には両家の一族内の賛成派を始めとした招待客が連なっており、二人が赤い道を歩くのを見守っている。場所柄、参列者はさほど多くは無く、おおよそ二、三十名というところか。
イレギュラーズはスタッフにして護衛という位置づけでこの場に集っており、海側の監視をしていた。
『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145) もまた、護衛というよりはスタッフの一員としてこの場に居た。
「戦闘能力は皆に比べたら劣るし、何かあったときの避難誘導係として居た方がいいでしょ。あとは、いざという時の二人の護衛、かな」
凶刃から守る最終防衛ラインとして此処に居る、と。
そう告げたほむらに対し、イレギュラーズは簡潔に「分かった」と頷く。
「それにしても、あっちに告げた時間、若干早かった気がするんだけど、いいのか?」
問いかけたイレギュラーズの言う『あっち』とは、反対派の事だ。
先に情報を聞いていたほむらは短く頷く。
「問題無いみたいだよ。あちらさんが予定通りにこっちに来れば、その時間、こっちではちょうどある作戦の実行時間にぶち当たるそうだから」
「作戦?」
「そ。詳しい事は知らないよ。そうとしか聞かされてないからね」
詳細について嘘を言っているのかそうでないのか、曖昧な返答からは予想がつかない。
イレギュラーズの下へ、青年と少女がやってきた。緑青の兄と久露江の妹という二人は賛成派の一部であり、今回の式設営に関しても一役買っている存在だ。
「今日は、どうかよろしくお願いいたします」
「最近の情勢を鑑みると、どうしても不安というか嫌な予感が拭いきれなくて……。杞憂であれば良いんですけど……」
「ああ、最近、ダガヌ海域に出るっていう海賊とか?」
「はい」
ほむらの言葉に対し、頷く二人。
海域への調査がローレットへと依頼されたのは知っている。それと時を同じくして、このリゾート地周辺に現われたという海賊の存在もあちらこちらで聞こえ始めていた。
今回、二人が懸念しているのはこの賊についてだろう。
とはいえ、この地域は富裕層の送迎用の港がある。このような場所を狙ってくるとは思えないが、予想だにしない事が起きるのが世の中というもの。
そして、嫌な予感というものは大抵当たるものだ。
カァーン、カァーン……
チャペルとは全く違う早鐘の音が鳴り響く。警鐘を知らせる音に、その場に居た者が振り向く。
見張り台より声が響く。
「海賊船だ! こっちに向かって来たぞ!」
「客を避難させろ! 戦える奴は迎え討て!」
飛び交う怒号。
青ざめる青年と少女を、ほむらが付き添う形で式の会場へと戻らせる。
会場の壇上に立つ新郎新婦を見れば、遠い位置にもかかわらず、二人がイレギュラーズに頭を垂れているのが見えた。
そこに確固たる意思を感じ、イレギュラーズも頷き返す。
少しずつではあるが、近付いてくる船が見えた。その数は一隻。大きさは商戦とほぼ同等といった所か。
降りてくる人数は不明だが、一隻だけであればイレギュラーズだけでも対応可能だろう。
陸に上がらせるまでは許しても、結婚式の邪魔だけはさせてはならない。
幸福を迎える為の未来を守る為、戦いに身を投じた。
- <光芒パルティーレ>豊海絆恋録:若き世継ぎの未来を守れ完了
- GM名古里兎 握
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月14日 23時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●無粋な輩に鉄槌を
海賊が現われたとの報せを受けて、真っ先に憤ったのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)で、彼女は赤い目に怒りの色を滲ませた。
「海賊って、人の物を奪っていく奴でしょ! それだけでも許せないのに、この大切な結婚式の日に襲ってくるなんて許せないよ!
ボク達が捕まえて懲らしめてやるんだから!」
「落ち着きなさい。でも、言う事には一理あるわ。
人の恋路を邪魔する奴はなんとやらってヤツ? 目出度い門出の日に態々踏み込んでくるんですもの。ええ、どうなったって構わないってコトよねえ」
焔を宥めていた筈の『風と共に』ゼファー(p3p007625)も、言葉の後半には怒りが滲んでいる。
そんな怒りを滲ませる二人を余所に、『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)はのんびりとした顔で鼻をヒクヒクさせていた。
「なんだろう、この香り。……えと、確か海は磯の香りがするって本に書いてあった。
から、これが磯の香りなのかな」
知識だけでは得られない、現地での経験。
香りだけでなく潮風の心地よさに目を閉じるハリエットであったが、それも数秒の事。目を開けた彼女は、この素敵な場所で素敵な催しをする中へ面倒事を持ち込んだ敵に軽蔑の目を向ける。
「……ほんと、無粋だよね」
彼女の呟きが聞こえたか、『大海を知るもの』裂(p3p009967)
「全くだ! 海乱鬼衆だぁ? ったく、海賊風情が。めでてぇ晴れの場に土足で上がり込むんじゃねぇよ」
鼻を鳴らす。彼としては、家に縛られず愛した女性と添い遂げようと覚悟した緑青に好感が持てた故、応援したいと思ったのだ。
「馬に蹴らせるまでもねえ。叩き出してやる!」
「はい! 馬がもったいありません! 痛い目に遭っていただきましょう!」
『烏天狗』雑賀 千代(p3p010694)も拳を突き上げて叫ぶ。
『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)も、千代に負けない声量で叫ぶ。
「ココロです、結婚とかしたいですよ!」
「えっ、そっちですか?」
思わず『特異運命座標』岩倉・鈴音(p3p006119)がツッコミを入れる。
『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)が純粋な疑問と視線を彼女に向けた。
「ソリチュード様も、結婚のご予定があるのですか?」
「はい……? 結婚の当て、ですか? あるような~ないような……。
いえ、それよりも、海賊達です! 晴れの日を邪魔する海賊達にはご退場願うのですよ!」
「そう、ですね。到底、許せるものではありません。
ちゃんと、幸せな一歩を踏み出して、頂いて……悪い人は、きっちり、痛い目を見てもらいます、よ!」
話題を変えたココロに対し、疑問よりも同意したネーヴェ。
そのやり取りを見ていた鈴音は「誤魔化したよね、今……」と胸中でツッコんだとかそうでないとか。
焔が拳を突き上げ、「いくぞー!」と叫ぶ。
「避難誘導はほむらちゃんに任せて……あれ? ちゃん、でいいよね?」
「男だけど、ちゃんも似合うから大丈夫だよ! とにかく、避難誘導は任せて!」
『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)は焔の言葉に返すと、すぐに港の人員と共に避難誘導に当たっていく。
遠目に見える一隻の船。とはいえ、海賊との事なので船は大きいだろうし、相当な人数と思われる。
守るべきものを背にして、作戦を立てる。
風は、こちらへと吹いていた。
●式の門出を邪魔する奴は、海に落とされてゆけ
少しでも人数が少なく見えれば、相手も油断するかもしれない。
そういった思惑があったかは不明だが、少なくとも、ハリエットがその場を離れたのは良い判断と言えた。狙撃手は陰から獲物を仕留めるものだから。
持ってきていた二丁の狙撃銃が、イレギュラーズの期待通りの働きをしてくれるのを知るのは、後の戦いの最中にて。
狙撃銃を持っているのは彼女だけではない。
千代もまた二丁を携えていた。命中精度は高いが威力はそこまでない白烏と、扱いは難しいがその分威力が絶大な八咫烏。
先手必勝だと、千代が最初に向かう。烏のような色の翼で上空を飛び、船上の遙か上へと目指す。狙撃銃で狙える範囲まで動き、狙撃によって敵を攪乱させるのが目的だ。
船の姿は見えている。あちらも港にいるイレギュラーズの存在に気付く頃だろう。
ハリエットと千代の姿は敵には見られていないはずだ。六人しか居ないと油断してくれるとありがたいのだが。
船上の遙か上に陣取った千代は、真下に向けて銃身を構える。吹く風に体を揺らされながらも、白烏にて狙いを定めてまずは一発。運良く、一人の体を撃ち抜いた。とはいえ、当たった部位は腕のようだったが。
声は聞こえないが、何事かと慌てるような動きが見えた。威力はそこまでないとはいえ、腕に当たった以上はまともに動かせないだろう。
胸中でガッツポーズをする千代。
今度は八咫烏を構える。もう一撃お見舞いしようと意気込んだ彼女の体が、突風に煽られた。バランスを崩し、八咫烏が手から落ちてしまう。
追随し、なんとかそれを手中に収めた時には、彼女の位置は海賊達との至近距離――――船上から僅かの距離に居た。
「あ、あはは……」
乾いた笑いを浮かべる千代。海賊達が武器を振り回そうとするのを避ける中で、突如聞こえた破壊の音。
皆が振り返ると、船上に出されていた海賊達の積荷の一部が崩れていた。
その破壊は千代によるものではない。ゼファーのタックルによって破壊されたものだ。
また、乗り込んだのは彼女だけではない。鈴音もまた船上に降り立っていた。
彼女は声も高らかに海賊達へ声を掛ける。
「海乱鬼衆よ、結婚式という神聖な儀式に乱暴狼藉を働くとは不届き千万。投降するような殊勝な心がけなどあればこのような所業もしないだろう。自業自得である。イレギュラーズの手で斃れることをあの世で名誉に思うがいい」
「何を訳の分からん事を言ってやがる!」
「というか、結婚式なんてやってんのか! そりゃあご祝儀もたっぷりだろうな!」
「なんだ、知っててやってきたわけじゃないのね」
「どっちでもいい。手術開始だ!」
海賊達の言葉を聞いて、ゼファーが呟く。だが、知っていなかった所でどうでもいい。どの道彼らにお仕置きする事に変わりは無いのだから。
ゼファーによるタックルや、飛んでいる鈴音の攪乱で船上は慌ただしく動く。千代はといえば、胸を凶器にして海賊の一部を沈めていた。おっぱいは凶器。いいものですね。
船上は混乱の最中であるが、風を受けて港へと近付いていく。
港にて迎える面々の中で、ネーヴェはワイバーンの頬を撫でる。ソレイユと名付けられたそのワイバーンの、金色の瞳が心地よさで細められ、主人への助力を惜しまぬと喉を鳴らす。
本来ならば船上に共に乗り込むつもりであったが、ワイバーンと共に戦場での戦闘を行なうには些か心許ない状況であった為、乗り込む事が出来なかったのだ。その為、陸にて待機となった。
船が桟橋に接舷する。おそらく、船上での混乱の最中でまともに運転する者が居なかったのだろうと予想された。
船上から逃げんばかりの勢いで桟橋へと降りていく海賊達の姿を見つけ、ワイバーンが吼える。
「ひぇっ……」と声を上げたものの、視線はワイバーンに乗っているネーヴェへと向けられる。
ふわふわで、お淑やかそうな彼女が、彼にどう映ったのかは分からない。しかし、興味を引きつけたのは確かだ。その瞳に、弱者をいたぶろうとする昏いものを宿して。
ネーヴェを乗せたワイバーンが後ろへと下がる。それに合わせて海賊も動く。獲物を持って、仕留めるべくジリジリと。
海洋王国の十字剣を携えていた裂がワイバーンの陰から飛び出る。それを見つけた海賊が、棘付きの球を先につけた鎖を持って振り回す。押し負けたのは鉄球の方で、海賊は弾き飛ばされた衝撃でたたらを踏む。その隙を逃さず、剣による乱撃が身を切り裂いた。
敵味方の区別をつけたその乱撃は、的確に敵のみを切り裂いていく。
その範囲から漏れた海賊が脇を抜ける。裂はそれを追う事もしない。
響く一発の銃声。方角は港側。ハリエットの狙撃銃が火を噴いたのだ。
陰に隠れていたハリエットは、空の薬莢を出して次の一撃を準備する。今ので海賊達にどの場所からかは大まかにしか分からないだろう。
つけ爪をつけたネーヴェが腕を振る。今まさに降りんとした海賊はそれを受けて梯子から手を離す。体を思いっきりぶつける音がしたが、助ける義理はないので放っておく。
「へへ! こっちこっち!」
焔が煽るように手を振る。ネーヴェばかりに惹きつけ役を任せるわけにはいかない。自分も惹きつけていかねば。
運良く惹きつける事が出来た一部が、弓矢をつがえて焔を狙うも、それより速く札が飛ぶ。
体に巻き付いた炎は熱くなく、ただ動きを封じるのみで、海賊にとっては邪魔の一言でしかない。
その間にも、ハリエットの一撃は容赦なく足を撃っていた。
船上や陸での戦いに恐れを成したか、海に飛び込んだ海賊もいたが、そうは問屋が卸さないと海に飛び込んだのがココロだ。
元々海種である彼女は、海の中ならお手の物。
あっという間に海賊を捕まえ、海上へと上げる。
「はい、降参します?」
掴み、持ち上げられた海賊が左右に首を振る。
「なんですって?!」
実際は、顔に張り付いた髪や水を振り払いたくて振ったのだが、タイミングが悪すぎたらしい。
ココロが憤慨して、罰を与えるべく顔を水につけ込む。
「しない?! じゃあたっぷり塩水飲んでいってね!」
拷問か?
ある意味戦っているよりもひどいというか、戦っている方がマシなのでは、と思わされる程の所業に、海賊達の一部が戦く。
「こ、降参します!」
その一言が、戦闘終了までの時間を短くした。
それは、海賊達が出来た懸命な判断だった。
●子は鎹(かすがい)とは申せども
当主達を乗せた船が港に着いたのは、捕縛した海賊達を尋問して引き渡した後であった。
歓迎の挨拶もそこそこに、イレギュラーズが式が行われている旨を告げると、当主達は大層ひどく驚いた。彼らと共に行動していたイレギュラーズも当主達の後方で顔を見合わせている。
「会場に案内しろ!」
「はい、こちらです」
足早に向かう当主達。
式の会場は、先の混乱から落ち着きを取り戻しており、予定通りの内容を進行していた。
当主達が到着した時には、既に式一番の見所である誓いのキスが為された所だった。緑青と久露江の顔が離れ、互いを見つめて微笑み合う。
「えっ?」
目を丸くする二人の当主。そりゃそうだ。婚姻の儀に異を唱えるべく来たというのに、来てみれば既に式は執り行われており、挙げ句の果てには式の目玉とも言える誓いのキスを終えた所なのだから。
尤も、緑青と久露江の婚姻が成立したのはキスの前に婚姻を認める書類に署名をした時であるのだが、野暮な事は言わぬが花というもの。
呆気にとられている当主二人を見つけた若夫婦は、もう一度相手を見つめ、そして頷く。
緑青の腕に久露江が手を添える。赤い絨毯の道を進む二人。ゆっくりと一歩ずつ足を踏み出すウェディングドレスの後ろの裾を、補佐らしき女性が汚さぬよう細心の注意を払って抱えてくれている。
十歩程の距離を歩いた所で、二人が足を止め、当主達に向けて深く一礼をする。その礼に対し、当主は急ぎ居住まいを正し、後方に控えた奥方二人は頭を下げた。
別の補佐らしき女性が、一通の封筒を持って主役の二人へと進み出る。その封筒は新郎の下へ。
受け取った彼はそれを開けると、中から三つ折りになっている一枚の便せんを取り出した。
それを開き、口を開く。よく通る声が、響く。
「本日は、ご多忙の中お集まりいただき、ありがとうございます」
招待客に対する礼を最初に述べた後、彼は暫く事情を紡ぐ。
両家の確執の事、とはいえ豊穣の一画を担う者としては責を放り出す訳にもいかなかった事、そしてその最中でお互いに出会い、惹かれあった事、またこの付き合いを両家の当主から反発を貰った事。
「ですが、この度、努力の甲斐あって、本日無事に式を執り行える事となりました。
ここまで来れましたのも、皆様の御助力あってのものでは御座いますが、やはり一番の助力はお互いの両親だと思っております。
何故ならば、ここまで育ててくださったのは両親の愛情によるものです。それが無ければ、今こうして人生を共にしたいと思う相手と巡りあう事もありませんでした」
緑青の隣では、久露江が両目の端を指で軽く拭い、補佐の者からハンカチを渡されていた。
突然の当主達への感謝の言葉に、両家の奥方達が涙ぐむ。思いも掛けぬ言葉をかけられて、声も出ない当主達は照れ隠しに「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「改めまして、自分達を育ててくださってありがとうございました」
久露江が恭しく頭を下げる。
それを見てか、鼻をすする音も聞こえてきた。誰のか、などは言わずもがな。
彼らの様子を見て、焔もうんうんと頷く。
「いいよね、こういうの」
「はい。それに、花嫁様の姿を見られて、良かったです。こうも綺麗なものなのです、ね」
「私も初めて見るよ、結婚式っていうのを」
彼女に同意したネーヴェと、その言葉に追随するハリエット。
ココロも「結婚したいです」とうっとり顔で呟く。
女性陣の一部がほんわかとしている中、緑青の次なる言葉が紡がれた。
「……これからは、一家『三人』で支え合っていきたいと思っておりますので、どうか皆様、今後とも見守ってください」
「?!」
当主達や招待客ばかりでなく、イレギュラーズまでもが目を点にする。
久露江がお腹に手を当ててニッコリと笑う。
途端にざわつく周囲。両家の当主はもうどこから言えば良いのか分からなくなったのか、顔を赤くするだけで言葉も途切れ途切れの様子であった。
「はっはっは! まさかこうなるとはなぁ。困ったらいつでもローレットに依頼しろ、飛んできてやるからな!」
面白がった裂が、祝いも兼ねた言葉を投げかける。
「いや、あれでいいの?!」
「いいのよ。雨降ってなんとやら、って言葉もありますからね」
鈴音の尤もな疑問に、ゼファーがフォローを入れる。フォロー、なのだろうか。
千代の無邪気な言葉が響く。
「お二人とも、いえ、お子さんが居るなら三人とも、ですね。幸せになってくださいね!」
めでたい式の終わりに落とされた爆弾は、果たして吉と出るか凶と出るか。
それは、今後の二人にかかっている。
何はともあれ、こうして無事に式を終えたのだ。あとは吉と出る事を祈るばかりだ。
門出を祝う空は青く、潮風が鼻腔をくすぐっていくのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
無事に式の進行が行なえたようで何よりです。
お祝い事がこのように行なえたのも、イレギュラーズの助力あっての賜物です。
ありがとうございました。
GMコメント
ひゃっふぅー! リゾートですよ! そして結婚式ですぞ!!
結婚式というハレの場をぶち壊そうとする輩にはお仕置きが必要ですよね!
そういうわけで、思いっきりやっちゃってください、イレギュラーズの皆様!
●注意事項
このシナリオは連動式となっております。ふみのGMの『豊海絆恋録』と同一時系列で進んでいるので、同時参加はできません。
それぞれ、かなりニュアンスの異なるシナリオとなっております。十分ご確認のうえ、ご参加をお願い致します。
●成功条件
海賊達の撃破
新郎新婦及び、参列者達の生存
●失敗条件
新郎新婦及び、参列者達の深手
●海賊集団・海乱鬼衆(かいらぎしゅう)×二十名
シレンツィオ・リゾート周辺に現われた海賊。様々な事情を持った集団がいくつもいるとの噂だが、詳細は不明。
今回は富裕層を狙った賊と思われ、また、実力的にはほぼ一般人と変わらない。
武器には主として油を塗り込んだ火の矢、即死毒の矢の他、棘突き球に鎖がついた投擲武器、半月刀や刀などが見受けられます。
彼らの目的は船の破壊や富裕層の持つ財産や資金のようです。
船を港に寄せ、陸に上がってきますので、迎え討つ必要があります。
●戦闘場所
富裕層の送迎港は、突き出した形になっている場所が三つ存在しています。
今回、海賊達が降りてくるのはその真ん中の場所になります。
船を降りた先には大人数の荷物や商業用の大型荷物も余裕を持って通れる程の広さを持つ道が横に広がっています。
彼らが道を真っ直ぐ進めば結婚式場へとすぐに到達しますので、彼らが行き着く前に倒す事が望ましいです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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