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シナリオ詳細

夏だ! 海だ! ヨットレースだ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海に挑む者達
 大海原。
 何処までも続く蒼の草原を数多の帆船が走る。
 時に波を切り、時に波に呑まれ、風を切り、風を味方につけて。
 その速度、時に風速の二倍にも迫るという。
 ヨットレース。
 小型の帆船を使ったそのレースは、海を生きる男達が行き着く一つの答え。
 刻一刻と変わる風を読み、荒れる波に打たれながら、死にもの狂いで十種類近い帆を臨機応変に張り替える。
 休む暇などない、眠る時間などない。
 ただ、じっと己と、海と、風と対話し続ける。
 油断、慢心は死を招く。
 過酷にして熾烈な戦い。それがヨットレースなのだ!


「海洋から少し変わった依頼よ」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)がそう言って依頼書を渡してくる。
「ヨットレース?」
「そ。風を受けて進む小型帆船のレースね」
 イレギュラーズの中には聞き覚えのある方もいるかもしれない。海洋でもそんなレースをやっているのだなと、思った。
「依頼主はリング・セイルさん。ヨットを愛して止まないおじさまね。
 なんでも最高の帆船を作り上げてレースに出場したかったけれど、今年はチームレースしかなかったみたい」
 友人の少ないリング・セイルは出場を断念しかけたが、やはり諦めきれなかったそうだ。
 なんとまあローレットに押しかけ人員を確保しようとしたわけだ。
「何でも屋とはいえレースとはね」
「でも想像以上に過酷なレースみたいなのよ。
 なんでも特殊能力は使い放題、相手の船体を壊さない妨害行為も有り。
 毎年、重軽傷者もでてるみたいだし、悪いときは死者がでたりと聞くわ。ただまったりと帆船に揺られてってわけにはいかないわね」
 特殊能力の使用許可に妨害行為もありとは。もはやレースの体をなしているのか不明だが、そういうのはローレット――イレギュラーズの得意分野だろう。
 ちなみに、リング・セイルは特殊能力のたぐいは一切ないらしい。なんで参加しようと思ったんだ。
「しかしルールなんてわからないのにできるのかね?」
「基本的に指示はすべてリングさんから出されるから、貴方達はその指示に従う船員ってことになるわね。
 セールの張り替えから、操舵――当然、妨害についても出番は多いでしょうね」
 確かに、司令塔からの指示に従い、適切に作業する船員がいれば、リアルタイムに変わる状況に対応し、良い結果が出せることだろう。
 逆に言えば、その作業に滞りが起これば、レース結果に直結するわけだ。
「まあ、目指すは優勝なんて息巻いていたけれど、完走できれば依頼としては成功だから、そう難しく考えないで夏だー、海だー、ヨットレースだ! ってノリでいいんじゃないかしら?」
「いいのか、それで……」
 日増しに強くなる陽射しにうんざりしていたこともある。海上で風と波を切りながら涼んで見るのも良いかもしれない。
 依頼書に記載されてるルールを眺めるイレギュラーズを確かめて、リリィは席を立った――。

●  
「――来たな! 待っていたぞ救世主達!!」
 ネオ・フロンティアの波止場へ到着したイレギュラーズを一人のガタイの良い男――リング・セイルが待っていた。
 海に生き、ヨットを愛した男の夢を叶える為、今イレギュラーズがヨットレースに挑む!!

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 夏で海でヨットレースです。
 気合いのない人は転落して大けがするので注意してください。

●依頼達成条件
 ・なんでもありヨットレースの完走

●情報確度
 情報確度はBです。
 波も風も天候も相手も、予想だにしない動きを見せます。

●ヨットレースについて
 難易度は低いですが、プレイング次第で戦闘不能、重傷もありえます。
 ネオ・フロンティアの沖に用意された特設海上で八時間の耐久レースになります。
 十隻のヨットによるバトルロイアルです。相手がいなくなっても八時間走行しないといけません。
 風以外の動力を用いる、及び船体に直接ダメージを与えるのは反則となりますが、それ以外の妨害行為はなんでもありです。
(衝撃で船を早く走らせるのはダメですが、爆風を生み出してその風で速度を上げるのはアリです)
 スキルは全て使用可能。パンドラ復活も有効に利用しましょう。

 帆を張り替える人員、操舵する人員、特殊能力を行使する者、妨害する者。
 適切に人員を割り振って、レース完走を狙いましょう。

●想定レース会場
 ネオ・フロンティアの沖に用意された特設海上です。
 時刻は午前九時~夕刻まで。
 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 夏だ! 海だ! ヨットレースだ!完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年08月23日 20時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
白井 炎(p3p002946)
科学忍者
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー

リプレイ

●ヨットレース開幕!
「うみはひろいな! おおきいなー!(>ヮ<)
 ヨットも大きい! めっちゃでかい!」
 海洋のヨットレースにでることになったイレギュラーズが、依頼主であるリング・セイルの案内に従って、操舵するヨットへと乗り込んだ。
 『!!OVERCLOCK!!』Q.U.U.A.(p3p001425)が楽しそうにヨットを見回す傍らで、リングがヨットの各部の説明を行った。
「ここが船室だ。中には練達で開発された各部計器が置かれている。風向きや、天候のチェックなんかができる優れものだ」
「それならばこの海図はここに置いておいた方がいいだろうね。私が入手した他チームの情報も書き込んである」
「お、そいつはすげぇじゃねぇか! 助かるぜ!」
 『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)が海図を渡すとリングは喜びながら受け取ると早速コースの確認を行った。
「しかし、思った以上に最新テクノロジーの塊なのね。
 一隻作るのに一体どれだけのお金が掛かっているのよ、これ」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の問いかけにリングはあっけらかんと答える。
「なぁに対した金額はかかってねぇよ。
 ちょっとしたコネがあってな、必要なものはだいたいそれで揃えられたってわけだ」
 リングはそう言うが、見るからに途方もない金が掛かっているように思える。
 下手なことをして壊すわけにはいかないなと、イレギュラーズは思った。
「セイルはこれだよな? 思った以上に数が多いな」
「張り替えはこの手漕きのレバーを回すようですね。
 これは結構な力仕事になりそうでごぜーますね」
 船室の外にあるレバーを前に『大空緋翔』カイト・シャルラハ(p3p000684)と『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)が確認をする。二人は航海術に長けたこのチームの要だ。
「私もヨットレースは何度も見たけど、リングさんもやっぱりヨットレースはよく見ていたのかな?」
  『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の問いにリングがマストを仰ぎながら答える。
「俺はガキの頃からヨットに乗っていてな。混沌中をヨットで回ったもんさ。
 そんな俺の夢はレースにでて優勝することだったんだ。紆余曲折あったが、ようやくチャンスが回ってきたってわけだ」
 このレースはリングの憧れた夢の舞台だ。
 それを叶える為に、イレギュラーズは力を貸すのだと、改めて思う。
「ああ、良いじゃないか。
 物騒なレースではあるが、俺は俺の役割を果たそう」
「うんうん、せっかくのレースなんだから参加するからには勝たないとね!
 僕は船医としてみんなを無事にゴールまで届けるよ!」
 『科学忍者』白井 炎(p3p002946)と『絆の手紙』ニーニア・リーカー(p3p002058)の言葉に、他のイレギュラーズも頷く。
 リングは、歯をむき出して笑うと、「頼もしいぜ、救世主達よ!」と声を上げた。
 空に炸薬の煙が上がる。
「いよいよレースの開始だな。お前達準備はいいかぁ!」
 リングの声に、イレギュラーズは声を上げて答える。気合いは十分だ。
「一番のセイルを張れ! いよいよスタートだ!」
 手漕きのレバーを力一杯回せば、セイルが張られていく。同時にメインセイルが風を受け始め、揚力を得る。揚力はセンターボードの横流れを押さえる反発力と打ち消し合い、残った力が推進力としてヨットを前進させる。
 徐々にスピードが上がってくる。いよいよレースが始まるのだと予感させる。
「さぁ行くぜ! 目指すは優勝だ!!」
 リングの楽しげな声と同時、スタートを告げる鐘が鳴った。魔法ヴィジョンでレースを見守る観客の歓声が聞こえる。
 大海原を舞台にした耐久レースが始まったのだ――!

●荒波に揉まれる
 ――このレースは洋上にある三つの島を八時間掛けて二周し、最後にネオフロンティアに戻った順で順位を決めるレースだ。
 四時間掛けて回る一周目は序盤から中盤。そして二周目が後半と言える。
 リングは言う。レース序盤から中盤は帆船の実力が試されるのだと。
 それはこのレースの序盤から中盤は妨害工作などが行われず、帆船とそれを操舵する船員の実力による勝負が行われていることを示している。
 リングの言うように、確かに妨害工作ありと言われていたにも関わらず、他のチームは皆距離を取り、妨害などせずに順位争いをしていた。
 そう、まさにヨットを操舵し、レースを楽しんでいるのだ。
 そしてリングの作り上げたヨット「クオンタム号」とその船員たるイレギュラーズ達も、楽しんで――とは行かなかった。
「北西からの風が来そうでごぜーますよ」
「なら、五番にセイル張り替えだ! この風を逃すなよ!」
「は、はいぃ!」
 マリナの風読みにリングが反応して指示をだせば、張り替え担当のココロが全力でレバーを回す。
 一度張り替えれば腕がパンパンになる力仕事だが、その張り替えはそれはもう風の気分次第で、即座に訪れることになる。
「と、風が変わったな。次は東からだ」
 カイトが新たな風を読めば、
「二番にセイル張り替えだ! 急げ!」
 とリングが告げて、
「は、はいぃぃぃぃ!」
 ココロが泣きそうになりながらレバーを回し続けた。
 それはもう、本当に、大変なんです。
 ――大変なのはそれだけじゃない。
「波来るぞ! 全員掴まれ!!」
 リングの声と同時、ヨットの甲板を波が直撃する。
 力強い波飛沫が足を掬い取りそうになるのを必死に堪え、身体ごと押し流そうとする波の力に全身で耐える。
 ヨットとの持久戦。大自然との格闘戦。
 その二重の戦いをこなすことでヨットは大海原を進むのだ。
「どうだ! 楽しいだろ!?」
 どこまでも突き抜けて楽しそうに笑うリングは、ヨットバカだとイレギュラーズは思う。
 こんな何処までも過酷で辛く恐ろしい作業の連続を楽しいと笑える人間はそうそういないだろう。
 そんな連中が集まったこのレース。一体どうなってしまうのか。
 若干の不安を抱えながら、レースは後半へと差し掛かっていく。三つ目の島を回り、二周目へと入れば、このレースが真の姿見せ始める。
 同時に、荒れる未来を予感させるように、空に暗雲が立ちこめ始めていた――。

●嵐と妨害と
 なんでもありのヨットレース。その恐ろしき魔物がついに牙をむき始める。
 見渡せば離れていたはずの他のチームが同じ航路を辿り始めている。そう妨害を狙って同じ地点に集まり始めたのだ。
「あれ見て!」
 ニーニアの指さす方を見てみれば、一隻のヨットの前に海水の柱が生まれヨットを飲み込んだ。
 明かな妨害だ。飲み込まれ転覆したのは――このレースの大半を占める海洋のヨットチームだ。
「皆、注意しなさい! 妨害来るわよ!」
 イーリンの統制の下、イレギュラーズが集中力を高めていく。そう荒事ならばイレギュラーズの本領発揮だ。
 次々と周囲で繰り出される妨害の数々。砲弾がヨットを掠め、爆発による大波がヨットを襲う。
 転覆によって海に投げ出される者、爆風と大波によって加重が掛かりすぎてマストが折れるヨットもある。
 当然イレギュラーズ達が駆るクオンタム号にも妨害が飛び交い始める。
「右舷、奴さんのお出ましだ! あれは……鉄蹄のチームだな!」
 同じく荒事を得意とするチームが居たようだ。砲弾を乱射しながら接舷しようと近づいてくる。
「先手を取られる訳にはいかないね。Q.U.U.A.君いくよ」
「あいさー!!(`・ω・´)」
 空飛ぶイシュトカが我に続けとQ.U.U.A.に声を掛ければ、空より敵ヨットへと躍りかかる。
「おジャマしまーす!ヾ(≧▽≦)ノ」
 Q.U.U.A.もまたアクロバティックな動きで一気に敵ヨットへと飛びかかれば、敵をおちょくるような動きで、操舵の邪魔をする。
「悪く思うなよ」
 暴れ回る二人によって敵ヨットが混乱の直中に陥れば、炎が敵ヨットの船室から海図や羅針盤を隠したり、自分のポシェットにしまい込む。卑劣すぎるが、なんでもありなのでこういう妨害も勿論アリだ。
 三人が鉄蹄チームのヨットで暴れてる最中、イレギュラーズが駆るクオンタム号に別のヨットが妨害を企み近づいてくる。海洋のディープシー操るヨットだ。
 海洋チームもまた砲弾を海面に向け放ち、大波を生み出すとそれで転覆を狙う。
「その程度の妨害で沈むとは思わねーことですよ」
 船室に引っ込みながら言うマリナだが、真実マリナの存在がこの船を襲う妨害から救っていた。とんでもないギフトを持っていたマリナの存在はまさにリングの言うところの救世主だ。
「乗り込んでくるぞ! お前ら頼んだ!」
 リングが声が上げながらマストによじ登る。本人は逃げてるつもりなのだろうが、かなり見た目に危ない。
 同時に接舷した海洋のディープシー達がヨットに乗り込んでくる。
「好きにはさせないわよ」
 イーリンが魔力と言葉を瞳と舌に乗せ、敵の注意を引きつける。
 その様子を確認したマリナがこっそり船室のドアの隙間から遠距離術式を放ち狙撃する。
 ニーニアも船医として自分の身を第一にしながらも、遠術で攻撃し、ヨットに入ってきた敵を海に叩き落とした。
 さすがはイレギュラーズ。戦闘となればお手の物で、次々と妨害に来た敵チームを撃破していく。
 鉄蹄チームに乗り込んでいた三人が戻って来る頃には、他チームも乗り込んでの直接戦闘は不利と悟ったか、遠距離から海面に向けて放つ妨害ばかりとなった。
 その妨害もマリナのギフトによって効果を上げることができず、さらにイーリンの反撃によって敵チームのほとんどが逃げ出さざるを得なかった訳だが。
 「ローストフィッシュがお好み?」と笑うイーリンは少し怖い。
 ――妨害戦の結果、イレギュラーズの駆るクオンタム号の順位は二位につけていた。
「ちっ、まずいな……」
 一位のヨットを追いかける中、リングが忌々しげに空を見上げる。
 そこに青はなく。暗雲が立ちこめ事態の急変を告げていた。
「嵐がくるぞ!! 全員しっかり掴まれぇぇ!!」
 訪れる暴風。荒れ狂う波。普通に立っていることも困難な状況に、視界が90度近く傾く。
 必死に転覆を堪える最中でも、この荒れ狂う風を読みセイルを張り替えることが要求される。
 波飛沫が壁のように視界を覆う中、イレギュラーズは自分達同様、猛烈なスピードで進むヨットを捉えた。一位の船だ。
「捉えたぜぇ、王者! 俺のヨットがお前達を抜いてみせる!!」
 リングのいう王者とは、このレース十年連続の一位を獲得しているチームだ。練達が主体となり、各国のヨット好きが集まった混成チームだ。
 この王者を抜くことこそが、このヨットレース参加者の目的であり、目標だ。
「行くぜお前ら! アレを追い抜くぞ!!」
 リング・セイルの並々ならぬ気迫の下、イレギュラーズは嵐の中、一位を追い続ける――!

●輝き待つ丘へ
 暗雲に包まれる中、航路は四分の三を航行し終え、最後の転回ポイントに差し掛かっていた。
「くっ、やっぱ王者は速ぇな――!」
「この嵐の中、どんな速度だっていうのよ……!」
「ほとんど妨害もなしに独走してたよね、あのヨット」
 イーリンやココロのいうように、王者のヨットはその機体性能を存分に活かし、妨害を受けることなく独走していた。
 嵐に包まれ視界が定まらない中、転回ポイントである小島が見えてきた。
 王者達の船は速い。この小島の転回を終えればあとは直線でネオフロンティアに戻るだけだ。そうなれば勝ち目はない。
「勝負はここだ。ここで抜く――」
 船室に集まった面々にリングは指さし告げる。
 それは旋回性能の高いリング・セイルのヨット「クオンタム号」の勝機。小島の転回ポイントでインを突き、一気に先頭へと出る算段だ。
「相手からの妨害があったらどうします?」
「きゅーあちゃん達がまたのりこむ!☆(ゝω・)v」
 ニーニアの質問に、Q.U.U.A.が勢いだけで言うが、リングは首を横に振るう。
「この嵐の中だ、直接乗り込む妨害は危険過ぎるだろう。
 それに妨害の心配は――恐らくない。王者は自身の駆るヨットに絶対の自信を持っているはずだからな」
 これまでの大会でも妨害に及んだことはなかったという。で、あるならばヨットを操舵する地力の勝負となる。
「勝つぜ! お前ら!」
 不敵に笑うリングが拳を突き出す。イレギュラーズも倣って拳を付き合わせた。
 船室からでれば、大波と暴風がその身を攫う。
 バランスの定まらない足下。視界を覆う波飛沫。
 普通じゃない環境において、しかしリング・セイルも、イレギュラーズも、顔に笑みを浮かべていた。
 もはや嵐も大波も敵ではない。敵はただ一人――王者だけだ。
 目指すべき目標が定まったこの瞬間、リング・セイルとイレギュラーズはクオンタム号と一心同体となっていた。
 風を読み二隻のヨットが転回を始める。
「内側へ滑り込むぞ――! 六番セイルだ!!」
「はいぃぃ!」
「すぐに風向きが変わるぞ! 次は南西からだ!」
 カイトの言うように平時よりも風向きが変わるのが早い。しかしそれらを的確に受け止めることでヨットの速度は変わるのだ。
 島の内側へと滑り込むクオンタム号。早い転回に王者のヨットが焦るようにセイルを張り替え始める。
 暴風を受け止めるセイルが限界を超えて張り詰めて、メインマストが悲鳴をあげる。
「耐えてくれ――! 耐えるんだ!!」
 嵐の中、互いのヨットが接触しかねない距離で二隻のヨットが競り合う。
 互いに妨害工作はない。
 今、この瞬間、ヨットと船員の腕による純粋な勝負が執り行われているのだ。暴風を受け止め、波を切り、奥歯を噛みしめながらヨットと共に転回する。
 途方もない時間に思える一瞬。確かな限界を超え、クオンタム号がその速度をグングンと上げた。
「いけるぞ――!」
 炎が声をあげ、
「いけいけ、いっけぇー(>ヮ<)」
 Q.U.U.A.がノリノリで応援する。イレギュラーズとリングの渾身の操舵が冴え渡る。
 そしてついに一位の船を確かに抜いて先頭に立った――!!
「やっ――!」
 その瞬間、抗いようもない大暴風が吹き荒れた。
「うぉぉ……!」
「きゃあ……!」
 耳を劈くような大暴風を前に全員が目を瞑る。同時に悲痛な叫びのような音が響き渡った。
「あぁ――! マストが!」
 限界を超えて張り詰めていたメインセイルを支えるマストが、ついに力尽き、音を立てて折れてしまったのだ。
 それは相手からの妨害ではない、まさに神の悪戯だ。
「そんな……」
 悲嘆に暮れるクオンタム号を置き去りに王者は直線航路へと走る。その後ろ姿を呆然と見送るしかできないイレギュラーズ。
 もうここで終わりなのか、どうすることもできないのか。
 だが、そんな為す術無く立ち尽くすイレギュラーズの鼓膜に、大声が響いた。
「……まだだ! まだレースは終わっちゃいねぇ!」
 リングセイルの一喝。その声に気を取り戻すイレギュラーズ達。
「そうだ、まだ終わってない」
「ええ、まだ動くわ。私も、この船(ヨット)も――」
 メインマストは折れたがセイルはまだ生きている。まだ走れるんだ。
 ゆっくりと速度を落としたクオンタム号は、そうしてレースに復帰する。
 次々と、後を走ってきたヨットに抜かれていくが、気にすることはなかった。
 ――ネオフロンティアが近づくにつれて、次第に嵐は止み、暗雲の隙間から夕暮れの空が顔を覗かせ始めた。
 リングがイレギュラーズを前に、折れたマストを仰ぎながら言葉を零す。
「すまねぇな、救世主達よ。お前達の操船は完璧だった。足りなかったのは――俺の設計の甘さだ」
「本当にすまない」と頭を下げるリングにイレギュラーズの掛けた言葉は――暖かいものだ。
 全員がこのレースに参加できたことに感謝し、楽しめたと笑った。
 光り輝く丘――街の明かり灯るネオフロンティアの港――が見えてくる。同時に、そこに広がる光景に目を疑った。
 王者に迫ったクオンタム号。その勇姿に観客が皆クオンタム号の旗を振っていたのだ。
 リングセイルは言う。
「見ろよ、あの光景を。……俺は諦めないぜ。もう一度このクオンタム号を改修して、次こそは勝ってみせるさ――!」
 結果的に、マストを折り速度を落としてしまったクオンタム号のこのレースの順位は四位だ。
 しかし、リングセイルとイレギュラーズの名は確かにこのレースの歴史に刻まれた。
「さぁ、帰ろう――」
 輝き待つ丘へ――海の男とイレギュラーズの八人は、穏やかな風に乗って歓声沸き立つその場所へと帰るのだった。

成否

成功

MVP

マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。
依頼お疲れ様でした。

なんでもありのヨットレースでしたが、イレギュラーズにとってみればお手の物でしたね。
MVPはそのギフトはずるでしょ! ということでマリナさんです。この依頼に対して最強すぎましたね…!

ご参加頂きありがとうございました!

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