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シナリオ詳細

英雄製造器、所謂正義と願望の末路

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●太陽に手を伸ばして
 幻想王国の子供にとって、寝物語に聞く勇者アイオンの物語はこの上なく刺激的なものだった。『勇者』という言葉は、そういう意味では象徴的なものであり、恒久不変の太陽のようでもあった。
 そう、太陽だ。
 どれだけ凍える地に立っていても、太陽が覗く日を夢見て立ち上がることができる――希望の象徴。それはローレット・イレギュラーズ達に『勇者』の名が連なってからも変わりはない。
 どころか、現世に勇者が降り立ったと、より強く子供達へ意識させる結果となった。
 神に選ばれれば、英雄になれるのかもしれない。正しくあれば何時か、イレギュラーズとなって、世界を変える何者かに――。
「オイ、何してやがる! 酒ェ買ってこいつってんだよ、オレはよ!」
 そんな少年の淡い願いは、しかしだみ声にかき消された。
 酒焼けした喉が震わせる汚らしい声は、少年を呼んでいる。父も昔は『ああ』ではなかった、と彼は項垂れた。
「絶対に見つかるんじゃねぞ! お前にはそれくらいしか能が無ぇんだからよぉ!」
 買いにいくのに、姿を見られてはならないと、隠れ果せろと、父はそう言った。その意味を知らぬ少年ではなかった。そして彼はその言葉に血の気の引く思いがした。
 もう一度。もう一度盗みを働こうものなら、今度こそ棒で打ち据えて殺してやるぞと、脅された記憶があったからだ。
「もうやめようよ。お金はあるんだから使おうよ。それに……」
「うるせぇ! オレに指図するじゃねえ!」
 少年は何度も何度もお願いしたのだ。きっと離れ離れになった母から、自分へと送られているであろう資金があること。父がそれを使い込んでいること、それでも盗みを働くほどではないだろう……彼の考えは優しかった。だが正しくはなかったのだ。頭部めがけて飛んできた酒瓶を止める力は彼にはない。
『英雄になりたいんじゃないか?』
 そんな声が思い返される。廃墟での出会いが嘘だと思いたくはない。
 人のものとはおもえぬ、否、そもそも人ではなかったそれの問いかけは甘美であった。
 額を割った血の温かさに触れ、彼はふと思う。
「お父さんの血も、こんなに温かいのかな」
「あ?」
「だっておかしいよね、お父さんはこんなに優しくないのに、赤くて温かい血が流れてるなんて」
「何言ってんだ、お前――」
「だからみせてよお父さん。お父さんの血」
 彼は反転したのだろうか?
 否、彼の魂は少なくとも穢れてはいない。だが、だからこそ、人とは追い詰められた際に無意識下で純粋な殺意を発することができるのだ。

「これで英雄になれるんだよね? 僕も、『幻想の勇者』みたいにさ」
『ああ、その通りだぜ坊主! お前は英雄になれる! 俺が英雄にしてやる! 手始めにお前みたいな連中を探し出して仲間にしなくっちゃあいけねえな! お前ならやれる! 俺がついてる!』
 数分後。
 薄汚れたゴブレットを手にした少年は、口元を赤く濡らしながら狂気的に問いかける。先程より幾ばくか、肉体が骨格レベルで強固なものになっている――ように見える。
 少年に応じる声の主の姿はない。しかし、不愉快な声はたしかにその場に響いていた。響いていたのだ。

●焦がれて墜ちる
「英雄と矢の共通点って、何だと思いますか?」
「なんだよ、その趣味の悪い謎掛けは。『たくさんいる?』」
「いいえ、『戦争になると量産される』、です。誤っていて良かった回答ですよ、正答が悪趣味すぎる」
 日高 三弦 (p3n000097)はどこか不愉快そうな表情でイレギュラーズに謎掛けを向け、そして回答にどこか満足したように頷いた。
「その昔、この国にはとある遺物があった、と記録があります。それは人の身、神に選ばれなかった弱者であっても英雄となる力を得られる遺物。戦争のために生み出された呪われたものである……と。遺物の名は『英雄の器』。文字通り、『英雄』を生み出す遺物です」
 三弦はそう言うと真鍮製のゴブレットを机に置いた。曰く、問題の遺物のレプリカらしい。
「この器に入ったものを飲み干せば、英雄の如き力を得て、困難に対して超常的な力を振るえるようになるそうです。代償はありますが、『戦争のための英雄』には些細なものでしょう。ただ人として社会にもどれなくなるだけです」
「いや、十分デカい代償だろうが……で? 『器に入ったもの』って何でもいいわけじゃないんだろ? どうせ本人の大事な物とか入れるんだろ?」
「血です。当事者の親の、血」
 ロクでもないものだろうとは想っていても、流石にイレギュラーズ達もその回答には絶句した。『ごくごく薄めた少量の血でも限定的には発動したそうですが』という言い訳じみた三弦の言葉はあまり参考にならない。
「私の世界にもいましたよ、伝承で。『親殺し』はある意味、模範的英雄の振る舞いなのでしょうね。若しくは親という軛を断つことで、英雄としての使命以外から目を背けさせる仕掛けか」
 淡々と語る言葉に空恐ろしいものを感じながら、イレギュラーズは「助けられるのか」と問う。
「契約の証を壊せば或いは。ですが、戦闘中に壊すのは困難でしょう。戦闘不能にして外すべきです。それと、器の破壊もしなければ多分、同じことが起こりますよ」

GMコメント

 神逐のときの某GMのリプレイ見て思ったんですよね、「ああ、全て丸く収まる幸せなエンドじゃなくてもいいんだ」って。

●成功条件
『英雄志願者』の撃破
『英雄の器』の破壊

●英雄志願者×10
 遺物『英雄の器』を介して親の血を呷った子供達です(後述)。近年の目覚ましいローレットの活躍に感化され、英雄というものに夢を持つ子達でした。しかし環境がそれを許さず、英雄となったことでその欲求が暴走している状態にあります。
 が、契約の副作用(後述)により自分の名前すら忘れ、器から示唆される「悪」を討つことが目的となっています。
 いびつな契約ですが実力は申し分なく、油断すればあっさり敗北しかねません。
 なお、彼らには手首もしくは足首に「契約円」と呼ばれる腕輪もしくはバングルがあります。これを破壊すれば契約「からは」解放されます。
 ……どの程度まで人のままなのかはともかくとして。

●英雄の器
 意志を持つゴブレット型の遺物です。出所不明。
 どうやら戦時用に『使い捨ての英雄』を量産するために使われたものと思われます。使用条件は「親の血をこの器で呷ること」。
(ごく少量の血のついた布をゴブレットに入れて呷る、とかも適用対象ですが、本シナリオではあんまりないかなって……)
 この儀式により契約した者は、便宜上の呼び名として『レベルブースト』と『ステータスブースト』がかかり、信じられないペースで成長していきます。
 その代償として、上位の敵と対峙した時の能力上昇や英雄としての実力執行を強く意識した時、英雄的行為による能力ブーストなどが発生した際に徐々に「人間性」と「記憶」が削ぎ落とされていきます。
 末期となれば、完全に「正義(器基準)」を執行するための機械と変わらなくなります。また、その状態になった人間は契約を破棄しても社会には戻れないでしょう。
 余談ですが、この器の言う「正義」とは「嘗ての戦争で対峙した人種や血族を討ち果たす」ことです。

●戦場
 炎に包まれた幻想東部の町中です。
 『英雄の器』の声に従い、悪の巣窟と定めた場所を襲撃している模様。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 英雄製造器、所謂正義と願望の末路完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月13日 23時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
鏡(p3p008705)
越智内 定(p3p009033)
約束
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
ライル・エレニア・クリフォード(p3p010303)

リプレイ

●英雄を番える弓の名は「時勢」
「英雄! 正義の味方! ヒーロー! イイ、凄くイイですよぉ、私そういうの大好きなんです」
「俺にはおまえさんが言う『大好き』の意味が違って見えるけどな……」
「あは。わかっちゃいました?」
 鏡(p3p008705)は心からそういった相手に関心があったのだろう。欣喜雀躍という言葉がぴったりな喜びようを見せて戦場へと突き進む。少し後ろを行く『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は鏡の言動から何か感じ取るものがあったのか、呆れ半分に指摘する。その反応がなんとも嬉しそうなのを見て、義弘はやっぱりな、と言わんばかりに盛大に息を吐いた。
「できれば子供達は生かして終わらせたいんだけどなあ……鏡さんの様子だとそれも簡単じゃないと思うけど……」
「手間をかけるほど、救える可能性は薄まる。殺すつもりで戦ってもいいくらいです。……子供を相手に振るう剣など乗り気がしませんがね」
 『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)は鏡達の態度を見るにつけ、万事めでたしと言える可能性は限りなく低いことは最初から理解していた。だからといって、諦める気はないのだ。彼ひとりの力が如何に弱々しくても、伸ばした手が幾許かの子供の人生を引き戻せると信じてやまない。ライル・エレニア・クリフォード(p3p010303) もそれは同じようで、子を持つ者としてこれから行うことに躊躇がないといえば嘘になる。なるが、その躊躇をこそ敵が求めていると言われれば、否やはない。覚悟がいるのだ。
「親の血と人間性程度なら安い……あと60年早く出会いたかったよ」
「さすが我が幻想、いい趣味したアイテムが残ってますね」
「こっちは使いたがってるし……」
 『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)と『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は、『そういうもの』に偏見がない。そんなものや出来事を利用することに躊躇がない。惜しむらくは、彼等がとうの遺物に出会うよりも親というものが居なくなるのが先だったことぐらい。その理由が『どちら』であるかは重要ではなさそうだ。定はその様子になおも表情を歪めた。
「作り手は人生の愉しみ方をよく知っている御仁のようだ。或いは愉しませ方を、かな」
「そんな連中を見て楽しむ輩がいるってことだろ。胸糞悪ィ」
 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)はセレマ達とは別ベクトルで、『英雄の器』に興味津々だったようだ。他人が運命を狂わされるさまは、快楽主義者たる彼女にとっては最高の出し物だろう。それを悪趣味とはいうまい。誰しも、自分ではない誰かがどうなろうと大して重要だとは思っていない。気分が悪い、寝覚めが悪くなる、そんな個人的所感があるから戦う理由を放り出すだけで、『相手のため』など口が裂けても言える立場ではない。……無いが、言うだけならタダだ。胸糞悪いと主張できる『劇毒』トキノエ(p3p009181)はその点、いくらか上等な神経をしている、のかもしれない。
「早くお話ししたいですねぇ」
(……早く、殺したいなぁ)
 鏡の口から吐き出された言葉は、その本心をひた隠しにしているのがわかる程度には震えていた。定は不安そうな視線を仲間達に向けたが、そうもいっては居られない。彼にできるのは『自分ができることだけ』。あとは『仲間と協力してできることだけ』。選択肢など最初から無い。無いから、足掻くのだから。

●放たれたら落ちていくだけ
「キミ達は『英雄であることをを示すために』『自分より上位の相手を倒し』『正義と自己を喧伝したい』んだろう? なら、ここにいるぜ。丁度いいボクってやつがな」
「さあさあ、領民を食い物にする悪徳領主はこちらですよ?」
 セレマという人物は魅力的だった。いくら死んでも殺し足りぬほどに憎い顔をしていて、いかにもな言動で僕達を煽り立ててくる。罪悪感がわかない……あれが悪だと、『英雄として』直感する。
 ウィルドに対する感情も同じ、あるいはそれ以上に感じられた。幻想貴族! なんと度し難い名乗りなのだろう! 殺して下さいと自分から訴えかけてくるような相手が居たとは!
「~=”’#&♪」
「もう自分で何を言ってるのか分かってねえじゃねえか……!」
「ここまで自我を失っているとは聞いていません。早急に止めねば……ですか」
 トキノエとライルは、セレマらを求めて飛び出してきた『英雄』の子供、そのあまりに常軌を逸した姿に酷い嫌悪感、そして憐憫を覚えた。彼は何番目に器の支配下におかれたのか、どの程度の期間、英雄として振る舞ったのか。
 どれだけ軽易に自分を捨てれば、あんな態度を取れるのだろうか?
「手加減してやったり、契約円だけ壊してやれるほど器用じゃねえぞ! 悪いな!」
「そう言いながら、死なない程度で止めてくれるのが義弘さんの良いところだと思うけどな……!」
 義弘は仲間達の攻撃に合わせ、広範に叩きつけるような一撃を放つ。仲間を極力巻き込まぬよう調整されたそれは、子供達を巻き込んで吹き飛ばし、すでに傷を負った者達の体力を死の一歩手前まで削り取った。それで死なぬのはなにかの冗談だろう。定はうんざりするような思考を振り払いながら希望を吐き出す。子供達が彼の言葉にどれほどの感銘を受けるかなど分からない。だが、自らすら的にして希望を謳い上げる姿は、英雄達より英雄らしく見えもする。
「どうだい、英雄や勇者なんてなっても詰まらないものだろう? だから……戻って来いよ!」
「~~~~!!」
 定の絞り出すような提案に、しかし子供達は首を横に降った。英雄となる第一歩、その代償がすでに人の心を失うものだったのだ。戻れない。倒れながらも強い諦めを感じるその態度に、定は歯軋りを禁じ得ない。
「ふふ、愛らしい勇者達。私が遊んであげよう」
「ボクが言うのもなんだが、マルベートは本当に……こう、教育に悪いよな」
 一瞬のうちに首を刎ねられ、胴を貫かれ、頭部をハンマーで砕かれながら『なかったことにする』美少年の言葉ではないな、と幾人が想ったことか。だが、イレギュラーズは賢明なので口を開くことはなかった。
「もしもし、アナタは英雄ですかぁ?」
 英雄を望んだ子供、その一人は今しがた、嬉々として敵を倒していたさなかに響いた鞘鳴りの音に膝を屈し、背後から現れた影に首を差し出す格好となった。そう、鏡にだ。
「今アナタ達と対峙してる人達は、アナタ達が憧れた英雄です──まぁ、あの辺の人とかちょっと怪しいですけど」
「おい今誰を差した」
「甚だ心外ですねぇ。……否定出来ないのが辛いところですが」
 鏡の楽しそうな表情とともに列挙される『英雄』の姿。神に選ばれた者の輝き。それは全てにおいて、ではなく。得手不得手を越えた先にある人としての経験の輝きであることを、促成の彼らは知り得ない。
「でも、私は違う、弱きを弄び、強きを挫く『悪』です」
「私もそうだよ、紛れもない『悪』だ。そんな私達が相手してあげるのは当然のことだよね♪」
「おいおい、あんまり煽るようなことは――」
 鏡やマルベートは自らを悪と定義し、自認する。その態度は決して褒められたものではないのかもしれないが、さりとて状況判断ができる賢しさをもった子供がいたら、を考えれば覿面な効果を持っていた。だから、トキノエの危機感を脇においてもそのやり取りは完遂させるべきだった……結果が見えていても。
「聞かせてくださぁい……アナタ達はその力を得る為、親の血を啜ったと聞いています。どう感じました? 力を手に入れた今、その事をどう思ってますかぁ!?」
「英雄になるために必要だった。そうでもしないと力が手に入らなかったんだ!」
『いいぜェ、100点満点だ坊主! そうでもしないと死ぬ、そうじゃないと終わる、そういう渇望がなきゃあ英雄なんてやってられねえよ、なあ!?」
「――は?」
 鏡はその回答に、そして聞こえてきた異形の声に心からの軽蔑を覚えた。そんな回答は求めていない。ほしかったのは、殺してまで得たかったものを扱うだけの覚悟の顕れだったのに。
「信念も借り物、憧れも上っ面、今日はただの人殺しとお話しする気分じゃないんです。だから死んで下さい」
 鏡はその少年の首を刈るべく刃を振るう。だが、あろうことか彼は両腕を間に挟むことで、鏡の刃をギリギリ頸動脈一歩手前で押し留めたのだ。返す刀で叩きつけられたのは、『手首だけの拳撃』。
 咄嗟に体を後ろに引いていなければ、彼女でも危うかったか。
「凄いね、この一瞬でまだ成長できるんだ。でも、そういう成長は間違ってる」
 定は、殺されるものとばかり思っていた少年の『成長』を苦々しく思う。再起不能になるかもしれないそんな成長に意味があるのかなんてわからない。でも、だからこそ口元の血を拭い、跳ね上がる心臓の鼓動とともに拳を握る。
(僕は英雄なんかじゃない。勇者なんかでもない。だからハッピーエンドなんかわからない)
 だけど、と吐き出された希望論は少年の胸元を打ち据え、よろめかせる。
「起きてからこれからどうするか、一緒に考えようぜ。……なあそうだろ、胸元でコソコソしてないで砕けろよ、英雄の器!」
『ヤなこった! オレはまだまだこういうガキ共を』
「騙して回るってか? 冗談じゃねえ。英雄のまま殺してやるのが幸せだとは思わねえな!」
「正義に、英雄。その定義を何かと答えることは出来ない。けど、お前のような邪な玩具がそれを決めることは無いと、それだけは確信している」
 定の一撃で動きを止めた少年の懐で、器が叫ぶ。もう逃さない。もう見失わない。トキノエとライルの左右からの打撃は、器を反響し、それを粉々に破壊した。

●英雄は死んだ
 人の身で、まして子供の心を持ったまま過当な力を得れば必ず歪む。
 小さな英雄たちは、その事実をまず知るべきだった。
 だが、導くはずの親ですら殺したいほど悪(にく)かったのに、導いてくれる相手がどこにいたというのだろうか?
「あは、は、ははははは」
 壊れた絡繰のように笑い続ける者がいる。あれはもうだめだ。程なくして人間性を失ったまま、生命維持機能すら『英雄』に頼っていたツケを払うだろう。早晩死ぬということだ。
 鏡はそれを悟ったか、背後から散歩するかのような調子で少年の首を刎ねた。戦いが終わった安堵で、そして少年への哀れみで誰もが動けぬ状況で、最速で。
「う……うう」
「痛い、痛いよ……お父さ、ん」
 近くには、無力化されて――子供には過ぎた打撃をうけて――倒れている者達もいる。皮肉にも英雄であることが彼等が後遺症を負うことを免れたが、さりとて身体欠損や倒れた際の負傷ばかりはどうにもなるまい。
 中途半端に人間性を残していたとすれば、きっと彼等は親殺しの罪を悔いるのだろう。もしくは喜ぶのだろうか。
「キミ達は……人間である連中はボクのところで与ろうか。労働力ぐらいにはなってくれるだろう」
「セレマさんが引き取ってくれるなら有り難いですねぇ。その子達の覚悟が本物なら、いつか実ることもあるでしょう」
 生き残りは存外多い。存外多いというのは、それなりに死んでなお向かってきた英雄志願者達が多かったということだ。うんざりするくらいに人の親が死んだのだろう。憎しみともつかぬ表情でセレマの手を取る子供の姿に、ウィルドは喜びを露わにした。彼の満面の笑みは、セレマのもとへ向かう子供の背を押すに十分なものだったし、彼等の感情をより煽り立てるものだった。ウィルドには甚だ不本意であったかもしれないが……。
「それにしても、本当に一体誰がこのような遺物を作ったのだろう」
「決まってんだろ。戦争がしたくてしたくてたまらなかった奴のクソみてぇな怨念が、今日までこびりついてただけって話だ。きっと親父が大嫌いだったんだろうよ」
「かもな。気分悪いことさせやがってよ」
 破壊された器の破片を拾い上げ、マルベートは首を傾げた。そんなものを作ってまで何がしたかったのか。子供をどうにかしたかったのか、はたまた……考え込んだ彼女をよそに、トキノエは転がった破片を踏み砕き、踏み躙る。過去に作られたものとして、今の人々の人生を差配していいはずがない。子供を殴らされた、そして死を目の当たりにさせられた義弘にとってもいい気がしないのは当たり前だった、といえる。
「呪具として、その契約形態を含め大変結構。だが、ボクの前で、ボクが得られないものをちらつかされるのは腹が立つんだよ。取り返しのつかないことをしてるガキ共もね」
 だから再教育してやる。
 セレマが毒づいた言葉にどれほどの真理があったものかはさだかではない。が、セレマが非常に気分を害しているのは誰の目にも明らかだった。

成否

成功

MVP

越智内 定(p3p009033)
約束

状態異常

なし

あとがき

 幸せとはいえないけど、それでも歩いていける明日があるだけいいこともあるのでした。

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