シナリオ詳細
袋の中のキラキラ
オープニング
●なくしたもの
少年は妹の手を引いて走っていた。少女は6歳、少年は12歳程度だろうか。
「いそげっ、夜になっちゃうぞー!」
「いそげいそげーっ」
母へのプレゼントを買って帰ろうとした矢先、広場で友人に会ったのだ。そこでつい時間を忘れて遊んでしまった2人は現在、門限に追われていた。
露店の立ち並ぶ通りを駆け、いつもは通らない路地を抜けて。見えたのは見慣れた大通りと。
彼らの周りを雪がちらちらと降り落ちる。薄く絨毯のように敷かれた真白に足跡をつけながら、2人は頬を上気させて家の前まで辿り着いた。
「着いたー……っ」
「おにーちゃん、おみみさむいー」
家の前で立ち止まると、手を引かれていた少女が耳に手を当てた。見れば少女の耳が赤くなってしまっている。少女の手を寒さから守っているのは、ほんの少し不恰好な手編みの手袋。
「ちょっと待ってな。母ちゃんに渡すあれをちゃーんと用意してから家に……あれっ?」
上着のポケットに手を当てた少年は目を丸くした。兄の様子に少女もきょとんと瞳を瞬かせる。
「あ、あれ? おかしいな。ここに入れたと思ったのに……」
もしかしたら反対のポケットかもしれない、と逆に手を当ててやはり首を傾げ。ポケットのない所まで手を当て始めた兄を見て、少女が小さく首を傾げた。
「おにーちゃん、キラキラなくしちゃったの?」
「うっ……」
妹の言葉に少年が思わず視線を泳がせる。
けれど、いつまでもそうしているわけにはいかない。
少年はとりあえず家に入ろう、と妹を促した。自分も家に入る前にポストが空であることを確認してから、ちらりと走ってきた道を見遣る。
(明日が、母ちゃんの誕生日なのに)
折角、妹と2人で貯めた小遣いで買ったのに。
雪は降り続けている。
それは2人分の足跡をすでに消そうとしており、夜の帳ももう少しで落ちてしまいそうだった。
何か、何か探す手立てはないものか。
(……そうだ!)
少年は何を思いついたか、雪道を再び走り出した。家へ一旦入った少女が目を丸くしている。
彼が向かったのはそう、イレギュラーズの集まるギルド――ローレットへ。
●探し物なのです!
「皆さん! お手伝いをお願いしたいのです!」
ユリーカ・ユリカ(p3n00002)はギルド・ローレットにて声を上げた。新米情報屋の声に、室内にいた幾人かが彼女の元へ集まる。
「先ほど、王都《メフ・メフィート》に住む男の子から探し物をお願いされたのです」
曰く。
その少年は妹と共に、母へのプレゼントを持って帰路についていたのだという。明日が母の誕生日なのだそうだ。
なくしたことに気づいたのは家の前。帰る間のどこかでなくしてしまったらしい。
けれども困ったことに夜が来てしまった。親には夜間に出歩く事を禁じられている。
とっさに少年はローレットを頼り、夜間のうちに探してもらおうと考えた。
「……というわけなのです。このままでは雪で埋もれて分からなくなってしまいます。皆さんには、袋の中のキラキラを探してきてほしいのです」
ユリーカの言葉に、イレギュラーズ達は「え?」と怪訝そうな表情を浮かべた。
袋の中のキラキラってなんだ。
ユリーカが困ったように眉尻を下げる。
「男の子もそれの名前をど忘れしてしまったそうなのです。妹さんと一緒に『キラキラ』で覚えていて、それを袋の中に入れていたらしいのですよ」
話を聞いた面々の表情に不安そうな色が広がっていく。
果たしてその曖昧な情報で、探し物を見つけられるのだろうか。
イレギュラーズ達の表情を見て、ユリーカが慌てたように言葉を重ねる。
「だ、大丈夫なのです! その他の情報はちゃんと聞いてきたのですよ!」
そう意気込んだユリーカ。彼女の出した情報は、次のようなものだった――。
- 袋の中のキラキラ完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月22日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●幸運をその身に受けて、いざ
「このままじゃ雪に埋もれちゃうの?」
呟くように空を見上げたのは『ヒトデ少女』メリル・S・アストロイデア(p3p002220)。
雪は未だ降り積もる。風もなく今のところ酷くなる兆しもない。けれど空一面に敷き詰められたような雲からは、止まないであろうことも察せられる。
メリルは両手をぐっと握り拳の形にした。
「それは大変。頑張って探すよ! 折角のプレゼント、思いがこもったキラキラだもんね」
メリルの言葉へ同意するように頷いたのは『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)。その両腕には派手な布のついたぬいぐるみが何体か抱えられている。いずれも葵のギフト《パッチワーク》で修復されていた。
「お母さんへのプレゼントとなれば、渡せないのはイヤですね。キラキラを探すために頑張りましょう!」
母親への贈り物、何としても見つけなければという思いを言葉にした2人の傍らでは。
「さぁ、ついに来ました初依頼! この世界の為、困ってる人達の為、そして私自身の生活の為にも頑張るよ!」
「初依頼! 頑張るぞー!!」
「「おー!!」」
声を揃えて握り拳を空へ突き上げたのは『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)と『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)。初めての依頼に彼女らはより熱意をもって取り組もうとしていた。
それとはやや対照的か、落ち着いた雰囲気で『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)は大きな瞳を薄く細めた。
「探し物かー。大冒険って感じはしねーけど、たまにはこんなのもいいよなー」
冒険者である彼は冒険譚、つまり大冒険とも呼べるような冒険が好きだ。けれどこの小さな冒険も冒険には変わりない。
(つか、オイラ以外のメンツ女の子ばっかじゃん、こりゃカッコ悪ィトコ見せらんねーぞ……)
そんな彼の内心は、男性1人というこの状況に緊張しているようで。よく見れば太めの尻尾がそわそわと揺れているのだが、気づいた仲間は1人もいないのが幸いか。
「さてさてっ、分かれる前に皆へ幸せをお届けだよ! キスは手の甲にさせて貰うね♪」
1人1人の手を持ち、その甲へ優しくキスを落とすフェスタ。
彼女から受けた手の甲へのキスに、『頽廃世界より』エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)は楽し気にくすりと笑った。
「ふふ、お姫様なのに王子様みたいだわ。100年の呪いも解けちゃいそう!」
王子様からお姫様へ贈る、手の甲へのキス。物語の1シーンと似た光景だ。
フェスタが他の者にギフト《ハピネスキス》を与えている間に、『ダークネス†侍†ブレイド』Masha・Merkulov(p3p002245)がはてと呟く。
「それにしても……子供が手に入れられるキラキラとは、一体どんなものでござろうか」
首を捻りながら、ぽつぽつと。
「ガラス玉や夜光石……むー、しかし母親へのプレゼントとなれば装飾品も有り得まするし……。あ、もしかしたらキラキラしてるのではなく、使用者をキラキラさせる可能性も……?」
「使用者を?」
Mashaの言葉に反応したのは、既にフェスタから手の甲へキスを受けた『探求者』冬葵 D 悠凪(p3p000885)だ。
「間違ったものを届けないように、その線でも考えつつ探してみましょうか」
大切な母親へのプレゼントだ。絶対に届けてあげたい。ならば、真剣に探し出してあげないと。
「全員終わったよー!」
考えるように瞳を伏せた悠凪の耳に、フェスタの言葉が届いた。
「みんなの力と幸運で、絶対見つけよーね♪」
シャルレィスの言葉にエルメスが頷く。
「ええ。温かいお料理、心の籠ったプレゼント、素敵な笑顔で最高の誕生日にしましょ!」
●探索開始!
「私は情報集めと聞き込みメインで探してみるね」
「では、私はこの子と一緒に雪を退けて探してみますね」
この子、と見下ろされたのは先ほど葵が抱えていたぬいぐるみの1体だ。練達上位式によって式神へ変化させている。メリルの足元にも同じようにもう1体。伝令役として他の何人かの仲間にも付いてもらっているため、お互いの情報交換は問題なさそうだ。
「支給されたランプと地図、持ってきた雪かき用のスコップもばっちりだよー」
メリルと葵は頷き合い、それぞれ行動を開始した。
葵は手にした地図に視線を落とす。
(地図を元に、少年達が通りそうな所を探してみましょうか)
ユリーカの情報によれば少年達が通ったのは夜が来る直前。街灯はもう点いていただろう。
街灯を見れば、その根元にはこんもりと積もった雪。
「この雪を退けてもらえますか?」
葵の言葉にぬいぐるみが返事をし、スコップで雪を道の外へ退かしていく。葵はぬいぐるみが退かした、大き目な雪の塊をぱらぱらと砕いていった。
本来なら自分もスコップを使い、一緒に退けた方がよいのであろう。
(でも、私は力仕事苦手ですからねー……こういうのも、自分でできた方がいいんでしょうけれど)
街灯は1つだけはない。早々に体力切れを起こすよりは上手く分担した方が効率は良くなるだろう。
(適材適所とも言いますからね)
心の中で主張した葵は綺麗になった街灯の根元を見た。残念ながら、それらしき袋は見当たらない。
「うーん……あっちの街灯も見てみましょう」
葵は少し離れた場所に設置されている街灯へ目を向けた。そちらも根元には雪が積もっているようだ。
彼女の後ろをとてとてとついていくぬいぐるみに、離れた場所で見ていたメリルは顔を綻ばせた。
ぬいぐるみが可愛い。結構力持ちさんのようで、格好良さもある。
(しかも私が大事な情報をゲットしたら、他の人へ伝令もしてくれるんだよね)
「ありがとう、よろしくねー!」
自分の足元にもいるぬいぐるみにそう声をかけると、こちらも元気の良い返事が返ってきた。
「さて、情報集めだねー」
メリルは独自の情報網で兄妹の姿などを調べている。2人の外見などを元に聞き込みを行う予定だった。
だんだん夜も更けて人気がなくなっていく中。メリルは帰宅途中と思しき青年に声をかける。
「すみません! 落とし物を探しているんですけどー」
「落とし物?」
怪訝そうな表情を浮かべる青年に兄妹の背格好や年齢、女の子が手編みの手袋をしていたことなどを伝える。落としたものが袋であることを告げると、青年は心当たりがあるのかあぁと呟いた。
「兄妹って、そこのお家に住んでいる子達だね? あの子達が持っている袋なら、いつも持っているあの袋だろう」
袋の色は茶色。いつもちゃんと洗われているようで、布がややくたびれているが綺麗な状態。
メリルについていたぬいぐるみからもたらされた情報を、エルメスとフェスタはしっかりと頭の中に刻み込んだ。
「それにしても、キンっとした寒さだね」
「ええ。しっかり防寒着を着てきてよかったわ」
そんな会話をする2人は防寒対策万全。雪の降る中夜通しの探し物になるだろうと準備してきていた。
エルメスは傍を警戒するように通りかかった黒猫に気づき、ランプをかざしてゆっくりとしゃがみ込む。
「驚かせてごめんなさいね。危害を加えようとしたわけではないのよ」
動物疎通を試みるエルメス。黒猫は完全に警戒を解いたわけではないが、敵意がない事は伝わったようだった。
「ねぇ、探し物をしているの。袋に入ったキラキラよ、一緒に探してくれないかしら?」
黒猫の青い瞳とエルメスのピンクの瞳が見つめ合う。暫しの後、ふい、と黒猫は顔を背けて暗闇へ紛れた。
「エルちゃん、ダメだった?」
傍で一部始終を見ていたフェスタが声をかける。エルメスはいいえ、と小さく笑った。
「気が向けば、って感じだったわ。悪い反応ではなかったと思うの」
「そっか、ならよかったー」
街灯がないため、頼りになる光源はランプのみだ。夜目の利く動物が力を貸してくれるのなら心強い。
「ランプでしっかり地面を照らして、足跡が残ってないか探してみるね」
「そうね。人があまり通らないだろうから、私も痕跡があればその辺りを重点的に探すわ。他にも動物がいれば声をかけてみましょう」
そう告げるエルメスと一旦別れ、フェスタは慎重に足元を照らし始めた。
路地に人は見当たらない為、メリルのように情報網を使って新たな情報を得ることは難しい。けれど鍛えられた捜索力は十分に発揮できる場である。
「……あ、足跡みっけ♪」
消えかけているが、2人分の足跡。その傍を特に注意深く探すと、何かが下に埋まっているかのような雪の膨らみが見つかる。
「この下にあるかなー?」
ランプ片手に、もう片方の手で雪を払いのける。その下から出てきたものは――。
「草……冬眠してたのかな」
袋ではなく、草。どことなくフェスタのいた世界の綿毛を飛ばす黄色い花に似ている。雪が解ける頃に同じような花を咲かせるのだろうか。
ちょん、とその草を指で軽くつついたフェスタは徐に立ち上がった。
「よし、次っ! まだまだ探し物は始まったばかりだよ!」
真夜中と呼ぶにはまだ早い時間。露店の立ち並ぶその通りでは男達が賑やかに酒を酌み交わしている。そこへ「すみません」と声をかける人影があった。
「探し物をしているのですが、お話をお聞かせ願えませんか?」
丁寧な物腰と自身達の機嫌の良さも相まって、男たちは是を返す。その反応に内心ほっと息をついた悠凪は言葉を続けた。
「少し前の時間に、ここを子供が2人通りかかりませんでしたか?」
「子供? ……あぁ、そういやちょろちょろ走っていったな」
どうやら兄妹達はここを通り過ぎたらしい。男達の話に悠凪は言葉を重ねる。
「その子達、落とし物をしませんでしたか? 茶色くて、小さくて、綺麗な感じの袋なのですが」
先ほどメリルからぬいぐるみの式を通して伝えられた言葉も交える。しかし男達は揃って首を傾げた。
「さっさと行っちまったからなぁ。流石に踏んでりゃ気づくと思うが」
「そうですか……ありがとうございます」
礼儀正しく一礼して悠凪はその場を去る。さて次は、と辺りを見回した彼女へ近づいたのはジョゼだ。
「どうでしたか?」
「伝令役、引き受けてくれるってよ」
ジョゼが肩越しに視線をやった先にはブルーブラッドの青年が2人。悠凪ににっと笑いかける。
ジョゼは地元のダチコーが軽く飲んでいたはず、と情報収集兼協力を頼んでいたのだ。手伝ったら彼らが欲しがっていたものをジョゼが分けてやる、という事で話が付いた。
「そうですか。ありがとうございます」
「いいってことよ。だが、情報の収穫はあまりねーな」
肩をすくめて溜息をつくジョゼ。ダチコー達に子供のことや袋のことを聞いてみたが、聞けば悠凪の得た情報とあまり変わりない。
「では、私はもう少し情報収集を続けてみましょう。まだ伺えていない方もいらっしゃいますから」
「おう、任せた。俺はダチコー達と袋が落ちてないか探してみるぜ」
悠凪と再び別れたジョゼは、ダチコー達とも別れて雪を掘り返すことにした。スコップも用意してあり、準備は万端である。
雪をランプの火で温め、緩くなったそこへスコップを差し込む。
「ここらで落としたのを見た、って情報があれば目星が付くんだけどなー……」
けれど、1人で愚痴を零しても仕方がない。ジョゼは気持ちを切り替えると雪を掘り起こしたスコップをしっかり握り直した。
兄妹達が遊んでいたという広場は、依頼参加者が分担している場所の中で1番遠い。そこへ急ぎ足で向かいながら、シャルレィスはMashaへ口を開いた。
「確か、ここで友達と遊んでいたんだよね」
「そのはずでござりますな。広場で遊んでいた……となればどこかに置き忘れたか、弾みで落としたか……むむむ、まずは遊んでいた場所を特定せねば、でござる!」
ぴっ、とMashaが人差し指を立てる。
「広場といえばシンボルとなる樹木があるのがセオリー! きっと! 兄弟の様子も見ているはず! なので、何とかして当日の様子を伺うように交信してみましょうぞ」
彼女の言葉にシャルレィスが頼もしげな視線を送る。
と、同時に広場へ到着。Mashaの言葉通り、ベンチの後ろに大きな樹木が立っていた。
(任せるでござるよ、拙者の力をもってすればどんな情報も……うう、難しい言葉が出てこないでござる……)
折角自らの力を発揮する場、ここで決めゼリフの1つも言いたいというもの。
不意に右目が疼き、Mashaははっと眼帯を外した。金色の瞳が妖しく光る。
覚醒――ギフト《わが金瞳は万識に通ず》!
「開眼せし我が魔眼は万識に通ずる! ゆえに! 我が眼前において如何なる隠蔽も意味を為さず、既に答えは手の中よ!」
「お、おおぉぉっ!? 何だかよくわからないけど格好いい……!」
シャルレィスが思わず拍手。Mashaの口上の勢いに呑まれたようだ。
そうしてMashaが木と自然会話を行う事暫し。
「……ふむ。有力な情報が得られたでござるよ、シャル殿!」
「本当!? 教えて!」
うむ、とMashaは頷き1つ。
「兄妹達はこの広場で走り回っていたようでござった。兄妹でなくとも、子供のいずれかは動いていたのでござる」
「走り回る……遊具とかはないみたいだから、鬼ごっことかかくれんぼとか?」
シャルレィスが辺りを見渡す。
「隠れそうな場所とか、逃げる時に攻防のありそうな障害物のある所とかを重点的に探してみようかな」
「うむ。拙者も杖で雪を払いつつ、探索を行いましょうぞ」
2人は手分けをして木の根元やベンチの周りを捜索し始めた。
(寒くても、中々見つからなくても、諦めずに探し続けるよ。折角お母さんのためにお小遣いを溜めて買ったプレゼントだもん)
「絶対絶対、見つけてあげたいよね」
心の言葉が独り言として漏れたのは、無意識か。
それに気づくことなく、シャルレィスは気になった雪の膨らみを手や盾で退けていった。
●見つけたのは
夜も更けた時刻。全員が少年の家の前へ集まった。
しかし。
「3つ……ですか」
葵が困ったように頬を指で掻く。
捜索を行った結果、袋の落とし物が3つも発見されたのである。
「とは言え、そちらは明らかに違いそうでござるな」
Mashaが言葉と共に悠凪の手元の袋へ視線を落とした。悠凪と一緒に見つけてきたジョゼがその後の言葉を引き取る。
「色が茶色じゃねーしな」
そう、悠凪の持つその袋は薄水色のような色をしていた。メリルの得た情報と異なるのだ。悠凪が2人の言葉に頷く。
「私のギフトも反応しませんでしたから、関係のない物でしょうね。違ったものはローレットに届け出ましょう」
自らの持つ袋を見て悠凪がそう告げる。
残る2つは路地で黒猫が見つけた物か、広場のベンチ下で見つけた物。見つけたシャルレィスとフェスタが『中身は内緒!』と揃って言うからにはどちらもキラキラなのだろう。
「ちょいとオイラに貸してくれないか? ギフトで調べてみるぜ」
ジョゼはそう言うと両手に持ち、右目を集中させた。ギフト《鑑識眼(青)》の力で彼へ来歴などが流れ込み――ジョゼは顔を顰めて首を振る。
「んー、チカチカする。でもわかったぜ、こっちが探し物だ」
袋をそれぞれへ返し、懐から痛み止めの薬を取り出したジョゼ。彼が指したのは広場で見つけた方の袋だ。メリルがエルメスの方を向く。
「エルさん、届けてもらってもいいかなー?」
「ええ、任せて。バレない様に届けなくちゃね」
ファミリアーで使役する梟が彼女の腕に止まる。その足に袋を括り付け飛ばそうとした、その直前で。
「そういえば、どこに届けたらいいのかしら?」
エルメスの言葉に全員が目を瞬かせた。
家は地図に載っているが、如何せん部屋の場所までは誰も知らない。
「……あ、多分あそこじゃないかな」
徐に2階のとある窓を指さしたのはシャルレィスだった。
「男の子がね、見つけてほしいって言う声が聞こえたの」
彼女の内にある人助けセンサーが働いたらしい。エルメスがその言葉に頷いて梟を飛ばす。皆が見守る中、梟は嘴でコツコツと窓を叩いて――窓が、開いた。
●届けて、その後に
少年が受け取ったことで無事に依頼を終え、皆が安堵した表情だ。エルメスがそうだわ、と提案を持ちかける。
「お誕生日をわたし達も知ってしまったのだもの。ささやかでも贈り物をしないと気がすまないわ! ご家族を模した小さな雪だるまを作りましょう」
いいね、と皆がその言葉に乗ってきた。
「作る場所はポストの傍かな」
フェスタがポストの脇を見る。
「あ、ならさっき寄ってきた露店であったけぇ飲み物買ってきたからさ、これ飲んどけよー」
ジョゼがそう言ってココアを配り始めた。
「静かにこっそり、迷惑にならないように……仲良さそうな感じに作ろうね!」
しーっと人差し指を口元に当てるのはシャルレィス。
「では、私は装飾に使えるものを探してきましょう」
ココアを受け取って悠凪がランプを手に持つ。
「悠凪殿、拙者も同行するでござるよ」
ランプの光に合わせてMashaも立ち上がった。
「探索中に集めた雪が使えそうですねー」
そう言う葵の足元には手伝うと言わんばかりにスコップをもったぬいぐるみ。
「なら、僕は雪だるまの周りや地面も雪かきして綺麗にしようかな」
メリルも同じようにスコップを持つ。
そうして、日が差す少し前に完成した雪だるまの前に残されたのは、『ハッピーバースデイ、素敵な1年を!』と書かれたメッセージカード。
ローレットへキラキラ――キャンディが届いたのは、それから数日後のことである。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。無事に発見、届ける事が出来ました。
春には消えてしまうプレゼントも、少年達の心にはメッセージカードと共に残り続けるでしょう。
全員にローレットより、依頼者である少年から届いた『キラキラキャンディ』を配布致しました。
最期に『幸せの提案者』である貴女へ称号をお送りします。
皆さま、素敵なプレイングをありがとうございました。
またご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
GMコメント
●成功条件
『袋の中のキラキラ』を探し出し、少年の家へ持っていく
●失敗条件
『袋の中のキラキラ』を少年の家まで届けられない
●ユリーカ情報
・『袋の中のキラキラ』について
袋は少年のポケットに入るくらいの大きさである。
キラキラは袋に複数個入っており、袋ごと持ってきてほしいとのこと。無事少年の元へキラキラが返ってくれば、後日そのキラキラを分けてくれるそうだ。
・落とした心当たりの場所
1、家の前の大通り
歩道の幅が広く、等間隔に街灯が設置されている。人はまばら。
2、露店の立ち並ぶ細い通り
居酒屋らしき露店が立ち並び、オーニングのような布張りの庇下で簡素な椅子に座った男性たちが酒を飲んで盛り上がっている。まだ早い時間であるためか、悪酔いしているものはいない様子。露店の光源があるが、人も多い。
3、遊び場にしている広場
広場の真ん中と四隅に街灯が設置されており、やや暗い印象を受ける。中央に噴水が設置されており、周りにいくつかベンチがある。特に遊具などがあるわけではない。たまに散歩する人がいるようだ。
4、昼でも少し薄暗い路地
両側を建物の壁で挟まれており、街灯もないためほぼ真っ暗。周辺の治安はそこまで悪くないようで、人の気配はない。
●注意事項
前述の場所1~4のどこかに落としている。探したい場所を1つ決めてプレイングに明記すること。
時間は完全に日が落ちきってから。天候は雪であり、ひどくなることはないが止むこともない。
全員に少年の家と周辺(1~4の場所が描かれている)の地図とランプがギルド・ローレットより支給されるものとする。(このシナリオ中のみ)
少年への渡し方は問わない。しかし、家を普通に尋ねると母親が出てくる。
●ご挨拶
初めまして、愁と申します。
シナリオコンテンツ開始! ということで、シナリオを公開いたします。
雪&夜間という条件での探し物です。物の名前が思い出せないことってありますよね。
調査系シナリオは初めて執筆いたしますが、心に留まりましたら是非。
ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
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