PandoraPartyProject

シナリオ詳細

れいにー・れいにー・どろっぷす

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●泣き虫怪獣
 なきむしかいじゅうをしってるかい?
 こわいおかおで、がおーってするおおきなおくちのばけものさ。
 ないているこどもをみつけるとやってきて、
 がおーっとおおきなおくちをひらいてきばをみせる、こまったやつ。
 それをみたこどもは、わんわんわんっとおおなきさ。

 だからおやたちはよくなくこどもにこういうのさ。
『あんまりないてると、なきむしかいじゅうがきちゃうよ』って。

 なきむしかいじゅうをしってるかい?
 なきむしなこどもをおどろかせるわるいやつだろ、って?
 まったくもってそのとおり。
 けれどけれども、けれどもね?
 あいつのなまえについている「なきむし」のいみはちがうのさ。
 それはね――。

●絵本の扉
「泣き虫怪獣って絵本、知ってるッスか?」
 つぶつぶのアイス(デッピンドッツアイスクリームと言うらしい)をスプーンで掬ったイヅナが、脈絡もなくそう口にした。
「絵本ですか? 僕はあまり絵本には詳しくないのですよね」
 イヅナの向かい側の席で黄色や水色、黄緑のつぶを掬っていた『名探偵』猫屋敷・スイ(p3y000218)は、視線も上げずに応えた。いろいろな色の粒が口の中で溶けると、ソーダ味に変化する。それが面白いのか、スイは黙々とスプーンを動かしていた。
「なんでッスか」
「うちにはそういうの、なかったのです」
「きょーいくほーしんってやつッスか?」
「まあそういうところですね」
 ふぅん。イヅナは自分のスプーンに乗ったピンクと白のつぶつぶを口にする。いちごミルク味だ。
「イヅナ様、イヅナ様。それで、その絵本がどうしたのですか?」
「あ、そうだったッス」
 隣から『うさぎははねる』アマト(p3x009185)が話の続きを促せば、ハッとした顔でお礼を口にしたイヅナが話を続けた。
「飴の市にいったんスけどね――」

 その日もイヅナは、『楽しいこと』を探してウロウロとしていた。
 偶然見つけたキャンディーマーケットでその日は楽しむことにしたのだが、色んな味の飴を買い求めながら市を楽しんでいたら突然クエストのウィンドウがポップアップしたのだそうだ。
 クエスト名は『なきむしかいじゅうのあめ』。
 内容は『怪獣のあめを止めてあげよう』。
 クエスト名を見たイヅナはピンと来た。これは絵本のやつだ――と。

「アッシは絵本の内容知ってるからラクショーってクエスト受けちゃったんスけど~、何かこれ、ひとりじゃクリアーできないみたいで」
 そこまで言ってから、イヅナはアマトの向かい側――スイの隣に座っている『アルコ空団“輝翼”』九重ツルギ(p3x007105)をちらりと見た。
「という訳で、アッシ今困ってるッスから、助けてほしいんスよ。
 いいッスよね? アッシこないだ、とても大変だったんスから。
 ……あっ、スクリーンショット見るッスか?」
 動物パジャマめいたペンギン姿のツルギが白い猫のぬいぐるみを不安そうにぎゅっと抱えていたところもあるんスよと言うイヅナに、ツルギは「解った」と手のひらを差し出し制す。頼めば着いてきてくれるだろうに、今日のイヅナはワガママを聞いて欲しい気分なのかもしれない。
「アマトもついてきてくれるッスよね?」
「はい、イヅナ様。アマトもあめを止めるの、がんばるのですよ」
「流石アマトッス。あとは……興味ありそうな誰かに声を掛けるといいッスかね」
「そうだな、折角だからキャンディーマーケットを皆で楽しもう」

GMコメント

 世界が大変そうなので、可愛いものを!
 と思った壱花です。ごきげんよう。
 皆が楽しく遊べる時間軸の『とある日』の出来事なので、情勢は気にせず楽しんでいってくださいね。

●成功条件
 泣き虫怪獣の『あめ』を鎮める

●シナリオについて
 まずは皆で『キャンディーマーケット』へ行きます。
 キャンディーマーケットを楽しんでいるとクエストを受けることができます。
 マーケットを思う存分楽しんだら、近くの森へと向かいましょう。雨雲がもくもく乗っかっている森があるので、見れば解ります。
 雨が降っている場所に行き10歳↓の子供が泣けば、泣き虫怪獣が現れます。

●キャンディーマーケット(飴の市)
 現実で豊穣が梅雨へ入った頃に、伝承のとある場所で開催されるマーケットです。たくさんの屋台が立ち並ぶ賑やかな催事ですが、全ての屋台が飴屋さん。
 飴は色んな味や色、大きさや舐め心地等が違いますが、ひとつ共通している点があります。それは形が『しずく型』であること! 棒付きキャンディーも、キャンディー部分はしずく型です。
 イヅナのおすすめは、傘の柄のような棒がついたキャンディです。飴を守るためにオーロラ色のセロハンがくるりと巻かれ、閉じた傘のような見た目で売られています。柄の色で味が解るようになっています。
 他にも飴はたくさんあるので、皆さんのお気に入りの飴を探してみてくださいね!

●泣き虫怪獣
 イヅナが所持している絵本に記されている怪獣。もこもこ毛むくじゃらで2m~5mくらい(出会う人より大きく膨らむ性質)。
 近くに泣いている子がいると現れて、がおーっと怖い顔をします。

 ★PL向け情報★
 泣き虫怪獣の正式名称は「あめふらし」です。飴の雨を降らせることができます。
 小さな子供が好きで、泣き止ませたくて現れて、「笑って!」とがおーをしています。……が、何故か泣かれてしまっていつもしょんぼり。何がいけないのか本人は解っておらず、嫌われちゃったと周囲一帯に涙の雨を降らせます。
 森で雨が降っている=子供を泣かせてしまったばかりです。けれど近くで子供が泣けば、怪獣は笑顔になってほしくて現れます。

(↑ここまでは絵本の情報なので、『イヅナが話した』として大丈夫です。
 ↓ここからは皆さんが何となく察する部分です。察し無くてもいいです。)

 泣き虫怪獣は、お友達がたくさんほしいのです。(複数人必要なため、イヅナはひとりでクリアー出来ないと言っています)でもいつも人々に逃げられている怪獣は、恐れも抱いています。友達になろうといきなり言われても、騙されているのかと考えてしまいますので、歌や踊り、贈り物、皆さんの得意なことで緊張をほぐしてあげてください。
 皆さんがお友達になってくれると怪獣が喜び、降らせていた涙の雨は飴の雨へと変わります。(※当たると痛いです。怪獣に言えば威力が抑えられます)

●NPC
 イヅナがご一緒します。飴の市を適当にブラブラしたりします。クエストはそれはそれとして、飴をいっぱい買い込むつもりです。
 スイは参加者さんに10歳↓の子供が居ない時についていき(イヅナに連行され泣けと言われ)ます。(PCさんが居ても、泣きたくない等希望があればついていきます)

Q:イヅナじゃ駄目なの?
A:イヅナちゃん、14歳なんです。

 それでは、今回も楽しく可愛いプレイングをお待ちしております。

  • れいにー・れいにー・どろっぷす完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

梨尾(p3x000561)
不転の境界
エクシル(p3x000649)
ツナ缶海賊団見習い
ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
エイラ(p3x008595)
水底に揺蕩う月の花
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ

●キャンディーマーケット
 赤、青、白、黄、緑、紫、黒、透明――……。
 ころんと転がる色違いの飴はどれもしずく型。棒がついていたり包み紙にくるまれている飴もあるけれど、そのどれもがしずくの形なのだとキャンディーマーケット内を歩けばたくさんの店の主たちが教えてくれる。
「これをください。こっちのも……あ、あとそれから、柔らかいのとかってあります?」
「ソフトキャンディでいいかな? ミルク味の美味しいものがあるよ」
「では、そちらもください」
「毎度。……結構な量になっちゃったけど、大丈夫?」
「はい。ひとりではないので」
 金銭を手渡した『不転の境界』梨尾(p3x000561)の隣で、《騒霊の獅子獣人》――騒霊さんが手を伸ばして沢山の飴を受け取った。たくさんのカラフルな飴たちはどれも個梱包されている。これは地面にばらまいたり、雨に濡れても大丈夫なように、という梨尾の配慮だ。
「虹色の飴もあるでしょうか?」
 お土産用にもほしいなと、梨尾は騒霊さんとマーケット内を巡っていく。
「わあ……」
 愛らしい形のガラス容器を見つけた『ツナ缶海賊団見習い』エクシル(p3x000649)は、店主の了解を得てから持ち上げて陽にかざしていた。
 ガラス容器の中には、カラフルなたくさんの小さなしずく型キャンディたち。それが陽に当たるとステンドグラスみたいにキラキラ光ってとても綺麗だったから、これくださいニャと即決購入。
「後は……」
 ガラス容器を両手で抱え、欲しい味の飴のことを考えた。
 チョコかコーヒー味にミルクを足した大きめのキャンディ。
 それから、イヅナに教えてもらったキャンディ。
 何処に売っているのかなと沢山の店を覗くのは、まるで宝探しの気分だ。
「イヅナ様のおすすめのキャンディはあれでしょうか?」
「あ、そーッス。あれッス!」
 何処の店かを尋ねてもウロウロしていたから解らないと答えたイヅナと一緒に傘のような見た目のキャンディ探しをしていた『うさぎははねる』アマト(p3x009185)が、視界の端にきらりと反射したセロハンの色に気がついた。
「イヅナぁ見てぇ、混ぜる度にぃ色がぁ変わるよぉ」
 水飴を練っていた『水底に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)もふたりの視線に気付くと「見つけたぁ?」とぷかぷか浮かんで店を覗き込む。
「クマさんキャンディがあればコレクションにしたのですが」
 大きなテディベアを抱えた『闘神』ハルツフィーネ(p3x001701)は、どこを見てもしずく型しかないことに少ししょんぼり。
「コレクションなんスか?」
「クマさん型のなんて食べられません……あ、この傘は少しエイラさんに似ていません?」
 ハルツフィーネが指差した水色の柄の傘は、ふんわり膨らんだセロハンは丸みを帯びて。
「本当だぁ。イヅナぁエイラっぽい?」
「そーッスね、確かにエイラっぽいかもっス」
「ハルツフィーネ様、おてがら、ですね」
 しずく型でも、ひとつひとつをよく見てみれば、細長かったりまぁるくぷっくりしていたりと基本の形は同じでも色んな個性があるようだ。デッピンドッツアイスクリームのように小さなしずくを一気に口に入れて好きな味にするものだってある。
 傘セロハンにくるまれた飴の味は、食べてみるまでお楽しみ。それぞれ気になる色を選んで買ってぱくりと口にすれば、それぞれ違う味が口内に広がった。
「ふふ、ソーダ味みたいだねぇ。美味しいねぇ」
「アッシのは……なんだろ、さくらんぼ? おいしいッス」
「私のはミルクティーの優しい味がします」
「アマトのもおいしいッスか?」
「はい、『おいしい』です」
 味はよくわからないけれど、エイラもハルツフィーネもイヅナも笑顔を浮かべている。皆が『おいしい』ものはわくわくして、きっとどれもおいしいに違いない。
 皆で試食をしたり、変わった味の飴や綺麗な飴を探して買って回る時間も、きらきらとしてわくわくして、楽しいものだ。楽しさに比例して手の内の飴が増えていくけれど、食べきれない分はお土産にするから大丈夫!
「そういえばぁ、イヅナの誕生日はいつぅ?」
「はんじょーび?」
 エイラの問いに、イヅナが飴をもごもごさせる。
「あるならお祝いしたいねぇ」
「アマトもお祝い、したいです!」
「んー……」
 探すように首を傾げるのは、どうやらステータスに載っていないようだ。
「アッシが決めてもいいッスか?」
「もちろんだよぉ」
「それじゃあ、皆がアッシに元気をくれた日がいいッス!」
 元気になれたのは皆のおかげだから。
 新生イヅナと呼んでいいッスよと明るくクルクルと表情を変え、イヅナが笑う。
(イヅナさんは……楽しく生きているようだね)
 皆と楽しそうに飴を買ったり味見したりと忙しいイヅナを見て、『青き調和』アズハ(p3x009471)はそっと口元を綻ばせる。『久しぶりッスね』と声を掛けられた時には驚いたものだけれど、誘ってくれてありがとうと感謝を告げた時に見せたはにかんだ表情とは違う笑みを見れば、パラディーゾとしての彼女も変わっていっていることが伺えた。
「喉に優しい飴はあるかな?」
 覗き込んだ店の店主のおすすめは蜂蜜味。これも人気だよとすすめられた青い飴も購入し、早速口へと放り込む。
「ん、好きな味だな」
 雨雲を押しのけるように吹く風のような、そんな味がした。
「わあ、本当にどの飴もしずく型をしているのだね」
 小さなペンギンの手を引いた大きなペンギンが、機嫌が良さそうな顔で周囲に嘴の先を向けて回る。あれもこれもしずく型、と見て回る大きなペンギン――『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)が上機嫌なのには訳がある。イヅナに見せられたスクショの『†消えない刻印を背負いし者†』九重ツルギ(p3x007105)が可愛かったからだ。勿論、全員の集合写真も合わせてコピーさせてもらった。……こうしてデジタルタトゥーは世に広がっていくのだ。
(楽しく遊んだ記憶ではあるんですけどね!)
 ぐっとイズルのペンギンお手々を握りしめるツルギも、小さなペンギンお手々。そう、今回もツルギは小さいのだ。遊園地の時よりも大きな10歳姿なのでお兄ちゃんペンギンではあるが、今回は自分の選択でその姿を取っている。
「ねぇイズルさん、この虹色の柄のキャンディ何味だと思います?」
 イヅナおすすめの飴を見つけたツルギがそう問いかける。
「レインボーカラー? どんな味なのだろう」
 虹色の食べ物はないし、舐める場所によって味が違うとか?
 それとも完全なランダム?
「気になるからそれにしようかな」
「他に気になるものはありますか?」
「ツルギさんには水飴はどう?」
 医療と飴は決して遠い存在ではない。喉の炎症を抑えたり、薬を用いる事にだって使われたりするのを知っているイズルは、喉によく効く水飴をツルギにすすめた。

 ――ポコン☆

 カラフルな飴の海を泳ぐお魚のように見て回り、気に入った飴を買い求めて楽しく過ごせば、すっかり目的を忘れた頃くらいにクエストウィンドウがポップした。
「あ、クエストだニャ」
「そうでした、あめを止めるクエスト」
 宙に手を伸ばして『受ける』を選択し、イレギュラーズたちは待ち合わせの場所へと集まった。
 怪獣さんはどんな姿なのだろう? イヅナが言うにはモフモフとのことだが……それは犬よりも? 猫よりも? それともクマさんよりも?
 口に含むまで飴の味がわからないように、怪獣とも会ってみるまでのお楽しみ。
「それじゃあ、行きましょうか」
 ツルギが仲間たちにビニール傘を配り、イレギュラーズたちは雨が降る森へと入っていく。
 小さなワクワクを胸に、たくさんの飴のキラキラを手に。

●雨、飴、ふれふれ
 森に入ったら、絵本の内容通りに子供が泣けば『泣き虫怪獣』は現れるはずだ――が、誰が泣くか。それを視線でイヅナはイレギュラーズたちに問うた。
「イヅナさん、クマさんを預かっていて下さい」
「ん。いいっスよ」
 まずは私が。
 イヅナにクマを預けたハルツフィーネが前に出て、どうするのだろうと仲間たちは見守った。テディベアが濡れないように傘をさすイヅナの頭の上で、たたんたたんと雨が歌っている。
「……っ、ハルツフィーネ!?」
 突然、がくり。ハルツフィーネが膝を着いた。驚く仲間たちの前で、ぽろりと大きな涙を零したハルツフィーネは――。
「クマさん……やだ、とらないで……! その子はずっと私と、一緒にいてくれた、はじめての……!」
 ――号泣した。
 どうやら演技らしい。何も説明されていないイヅナには何の演技かはさっぱりと解っていないが、イヅナがクマを奪った立場なのだと理解した。
「こ、このクマさんはもうアッシのクマッス! 返してあげないッス!」
「くま、さ……くまさあああん……!!」
 森に、悲鳴が響き渡る。
 雨と一緒に地面に涙が吸い込まれれば――がさりと木々が揺れ、イレギュラーズたちの視線が一箇所に向けられた。

『GAOOOOOOOOO――!』

 そこにいたのは毛むくじゃらの、雨で濡れてしまっているせいか何とも形容しがたい、不思議な生き物だった。
 涙をポロポロと零して雨雲を頭の上に広げながらも泣く子どものために現れた『あめふらし』は、泣いているハルツフィーネを見て、クマを持っているイヅナを見て、たくさん居るイレギュラーズたちを見て――困惑して、『がおー』のポーズで固まってしまっている。
「驚かせちゃったかなぁ?」
「君があめふらしだね、こんにちは」
「君を笑顔にしに来たんだ」
 あめふらしの顔の高さまでぷかぷか浮かんだエイラが覗き込み、足元からはアズハとエクシルが話しかける。アマトと梨尾、ツルギは、あめふらしを真似て可愛いがおーっでご挨拶。
「ダイジョウブコワクナイヨ、ペンギンダヨ?」
 大きなペンギンのイズルは似たような仲間だよと示すようにあめふらしの周囲をクルクルと周って無害をアピール。雨がやんで毛が乾いたなら、是非とももふらせてほしいと思っているのは内緒だ。
「泣いてる子を元気にしたいから、一緒に一曲どうかな?」
「歌やダンスはオイラも得意ニャ!」
 アズハが足踏みをして手を叩けば、鳴らした音が明るい音色に変わる。それに合わせてエクシルが《すとーむだんす!》を空打ちし、連続ターンを繰り返す軽快な踊りを重ねた。
 ハルツフィーネとあめふらしの涙がぴたりと引っ込んだのなら、梨尾がふわりと飛行して彼が少しでも濡れないようにと傘を差し、騒霊さんがまるであめふらしの仲間のように飴をばらまいた。その間もエイラはふわふわゆらゆら時折あめふらしの顔を覗き込んでみては『怖がっていないよぉ』の姿を見せてあげる。
「あ……」
「危ないッスよ、エイラ」
 楽しくなれるようにとコミカルに風に流されたのをイヅナがキャッチをしたが、あめふらしの手もエイラに伸ばされかけていたのを見つけて「優しいんだねぇ」と微笑んだ。
「あめふらし様は優しいのですね」
 誰かの涙を止めたくて、一生懸命。
 笑って欲しくて、でも怖がられて。
 それでも諦めずに、自分が泣いていたって「笑って」って告げに来る、優しい怪獣。
(かなしいのはいやって、わらっていてほしいって……思うの、わかるもの)
 兎の耳を揺らすアマトを見つめるあめふらしの瞳には、純粋な『不思議』が浮かんでいた。皆逃げてしまうのに、どうしてこのひとたちは逃げないのだろう。
「あめふらし様、アマトにもお手伝いさせてください」
「俺たち、きっと力になれますよ」
 娘に良い格好を見せたいツルギも、アマトに並んですかさず頷いた。
「がおーはね、びっくりするよね」
『……、……がおがお、がぅ』
「あ、鳴き声それなんだ」
「でもねぇ、いきなりはぁ小さい子ぉびっくりするよぉ」
 がーんっとあめふらしがショックを受けたように体を跳ねさせた。どうやらあめふらし的には「笑って!」と言っていたようだったのに――伝わらないって辛い。
「がおーは小声でぇ口を小さく開くようにしてみるとかぁ」
「可愛く見えるようにリボンやお花をつけてみてはどうでしょう?」
「乾いてる時はもこもこしてそうだし、可愛くていいと思うよ」
 涙を拭くためのハンカチを差し出すのもいいかもしれない。
 イレギュラーズたちはあめふらしのために、あめふらしがもう泣かないで済む方法を一生懸命考えてくれた。
「飴を使ってみないか? 小さな子は甘い飴が好きだろう?」
 嬉しい時は弾ける食感の飴。
 怒ってる時は辛い唐辛子味。
 悲しい時はしょっぱい昆布味。
 心地よい時は柔らかいミルク味。
 友好の挨拶には色々な果物の味。
 唐辛子や昆布味を受け取った子供は困ってしまうかも知れないけれどとアズマは笑って。
「ほら、こんな風にさ!」
 果物味の飴をいつつ揃えた飴の花束を差し出して、友達になりたいなと素直に告げる。
「アマトも、いっしょに食べたいです」
「オイラの飴もどうぞニャ」
「俺のもあげます。おいしいですよ」
 あめふらしの前に、たくさんの飴が差し出される。
 イレギュラーズたちは皆笑顔で、「一緒に食べよう」と告げてくれている。
 あめふらしはそれが嬉しくて嬉しくて、いつの間にか雨が晴れていることにも気づかない。
『がぅ、がおが、うー』
 何と言っているのか、正しくはわからない。けれどその鳴き声は、『ありがとう』と言っているようにイレギュラーズたちには聞こえた。
 ぱくりとあめふらしが飴を口にした時、誰かが「もうお友達だね」と口にした。誰が言ってくれたのだろう。視線を下げたあめふらしの目に映るのは、怖がっている泣き顔ではなく、おいしいねを告げるたくさんの笑顔。
 ――ああ。きっと、みんなが言ってくれたんだ。
 ぽろり。あめふらしのつぶらな瞳から新たな涙がこぼれ落ちる。

 ぽろり、ぽろぽろ。
 ばらり、ばらばら。

「あ! あいたっ」
 ツルギが貸してくれた傘をハルツフィーネのクマさんに掛けてあげていたイヅナが頭を押さえた。
「イヅナぁ大丈夫ぅ?」
 ふよふよ浮かぶエイラがイヅナの頭を撫でてから、ああと小さく微笑う。
 飴の、雨が降っている。
『がお、がぅ……』
 ごめんねと告げたあめふらしが、んんーっと頑張って。
 小さくなった飴粒が、晴れ間から覗いた陽の光の中、きらきらと降ってくる。
「わあ、きれいです!」
「可愛くて美味しそうですね」
「これ、俺達が頂いてもいいのかな?」
『がう!』
「ありがとう」
「ね、一緒に食べましょう?」
「あめふらし様がふらせた飴、アマトもたべたいです」
 両手を広げて受け止めて、たくさんの笑顔があめふらしに向けられている。
 小さな粒を一粒口にして、おいしいねと笑ってくれる『ともだち』。
 あめふらしは一緒に飴を食べてくれるともだちに囲まれてぽろりぽろりと涙を零すものだから、可愛らしい甘い雨は暫く止むことはなかった。


 ――悲しみの雨が降り止みました。
            ― QUEST CLEAR ―

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

え? さらりと称号が勝手に変わっている? きのせいです。
あめの一日はいかがだったでしょうか?

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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