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シナリオ詳細

再現性東京202X:異文化交流はお嫌いですか

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 高校を卒業して澄原病院に勤め始めて早くも数ヶ月。同時並行的に希望ヶ浜学園の大学部に在籍して民俗学を学んでいる澄原 水夜子 (p3n000214)は希望ヶ浜の人間には珍しく『混沌世界』には寛容であった。
 再現性東京202X街、希望ヶ浜。
 その場所は現実を直視できなかった旅人達が作り上げた偽りの楽園だ。
 本来ならば魔法やモンスターに溢れた世界である混沌に『モンスターなど存在して居ない』として神秘の秘匿を求める街の人々。
 起こり得る精霊的事件も、モンスター的事件も全ては悪性怪異:夜妖(ゆうれい)の仕業として扱われるのだ。
 そんな地に、一人の男が視察に遣ってきた。
 勿論、案内役は水夜子である。
「こんにちは。遠路はるばる……で宜しいですか?
 其方の国家君主、霞帝さんはどうやら現代日本にはお詳しいようですから此方での探索を楽しみにしていたのでは」
「此度は世話になる。ああ、主上(おかみ)は楽しみにしていたのだが……。
 何分、神威神楽を離れて異邦の地を探索するとなると不安も大きくてな。先ずは視察に赴かせて頂いた次第だ」
 青年は黒曜石の角を有した鬼人種(ゼノポルタ)と呼ばれた存在だ。
 イレギュラーズにとってはあの絶望の海を越えた先に存在した黄泉津――神威神楽で出会った新たな種である彼等。
 神威神楽にしか存在して居なかった彼等は神威神楽の動乱を経てから広く混沌世界で活動することになったのだ。
 と、言えども再現性東京では時代錯誤すぎる和装では大いに目立ってしまう。コスプレイヤーと認識されるだろう。水夜子は彼に洋装を与え、角を出来る限り隠すようにとアドバイスを贈ったのである。
 青年の名前は『中務卿』建葉・晴明 (p3n000180)。神威神楽では国家主君の下につき国の統治に貢献してきた男である。

 ――神威神楽の国家主君たる『霞帝』今園 賀澄は旅人である。
   そんな彼は再現性東京に興味を持ったのだ。曰く、「故郷に似てるらしい!」と。
   長らくバグ召喚で神威神楽で過ごしてきた彼である。故郷に思いを馳せているのは間違いは無い。
   だが、此れでも王たる立場に当たる。彼を易々と国家の外に出すことは出来まい。

「だが、セイメイよ。お前が視察してきてくれれば安全が保証されるのではないか?
 幸いローレットは案内人を用意してくれる。観光スポットを見繕ってきてくれ。お忍びであれば問題はなかろう!」

 ……と、言うわけである。朗らかな笑顔で無茶振りをした霞帝のために『中務卿』は胃をギリギリと痛ませながら希望ヶ浜に遣ってきた。
 案内人として駆り出されたのは前述通りの『外に対して偏見もなく、情報を集めている』澄原家の水夜子ちゃんである。
 彼女も彼女で、初対面でも『みゃーこと呼んで下さいね?』と笑顔を浮かべるのだが。
「では、中務卿を観光地を案内すれば良かったんですよね。
 霞帝もそれ程、観光がしたいと言うよりも街に浸りたいのならショッピングモールが希望ヶ浜学園を散策した方が良いでしょうが」
「ああ、それとこの地では晴明(はるあき)と……」
 主上と双子巫女には巫山戯てセイメイと呼ばれる彼は役職で呼ばれる事が何となく気恥ずかしかったのだった。
「では、晴明さん。私のことはみゃーちゃんとでも。あ、あなたもですよ!」
 くるりと振り返ってから水夜子は微笑んだ。
「どうせならついでに夜妖に一匹ぐらいぶん殴っていきましょうよ。
 何食べますか? 私はお昼は大きめのハンバーガーが良いと思いますし、クレープも良いですよね」
 晴明は最近、可愛らしい霞帝の娘――と、自称しているお人形姫――と怪生物を自称する夜妖憑きにデザートを譲り受けたことを思い出してから。
「何でも、貴殿達、が、選んでくれるもので構わない。
 神威神楽と違って堅苦しい言葉では嫌われると、霞帝――ああ、いや、賀澄様にも厳しく注意された」
 貴殿も霞帝と呼ばずに賀澄と呼んでやって欲しいと晴明は朗らかな笑顔の主上を思い浮かべてから肩を竦めた。

 ――中務卿、初めての『希望ヶ浜(とうきょう)』である。
 このお出かけに関しては彼が後ほど書に認めて、神威神楽に送りつけるのだそうだ。
 安全であったならば双子の巫女つづりやそそぎ、霞帝にもこの街を楽しんで欲しいと考えて。
 ……余談ではあるが霞帝が居れば黄龍は『多少のリソース』を払う事で召喚が叶うらしい。
 四神であれば晴明さえ居ればなんと叶ってしまうそうだが……それも彼が「連れてきても良い」街だと認識してくれるかどうか、であろうか。

GMコメント

夏あかねです。神威神楽も一寸ずつ文化を取り入れていかねばなりませんね。

●成功条件
 中務卿に希望ヶ浜について教えてあげる

●希望ヶ浜
 再現性東京202X。『202X』とは発展を意味しています。
 街の風景は現代日本の東京そのものです。街中ではaPhoneと呼ばれる端末を使用可能です。
 希望ヶ浜の外ではオフライン機能のみしか使用できない端末ですが、この街中では其れなりに便利ですね。
 ある意味現代日本そのものなので注釈無く、現代にあるものなら何でもあります。
 ただし、変化などは出来ればして置いた方が良いでしょう。希望ヶ浜の人々は『人間じゃない相手』には少し驚いてしまいますので……。

 中務卿を連れて学校やショッピングモール、食事についてを教えてあげて下さい。
 遊園地に行ってみることも良いですし、夜妖を撃破しに行っても良いでしょう。希望ヶ浜はどの様な街であるかの観光案内をしましょう。
 尚、この案内代金はローレット持ちです。東京で遊ぼう。やったー。

●希望ヶ浜にいる夜妖
 街角、路地裏、学校etc……至る所に夜妖がいます。人気の無いところに潜んだ其れ等を撃退しましょう。
 どの様な危険があるかを教えておくこともこの仕事には重要です。それ程難しく考えない程度でえいやっとしてあげてくださいね。

●夜妖<ヨル>とは?
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●NPC『中務卿』建葉 晴明
 編んだ黒髪を後ろで束ねている黒曜石の角を持った鬼人種。獄人として虐げられていた過去を持ちます。
 現代はその過去も遠く、種の格差を無くすべく奮闘する霞帝の命を受けて混沌を見て回っているそうです。
 霞帝が「セイメイ! 俺の故郷に似た街があるそうだ!」とハッスルしたために視察に来ました。
 日本刀を獲物に戦えます。神威神楽の文化レベルは(日本の歴史でざっくりと)~江戸時代程度なのでハンバーガーなどを見ると盛大に慄きます。どうやって食すのか……。
 苦労性な青年です。何時も霞帝に振り回されています。

●NPC 澄原 水夜子
 希望ヶ浜在住。お気楽ガール。距離感が割と近い誰とでもフレンドタイプです。
「私のことは『みゃーちゃん』でも『みゃーこ』でも『みやちゃん』でもなんとでも呼んで下さいね」と微笑みます。
 皆さんの事をご案内する目的でやってきました。
 ※その他、夏あかね所有のNPC(希望ヶ浜系&亮君)はaPhoneでお呼び出し頂ければ状況次第では合流させて頂きます。
  みゃーこちゃんが呼んでくれるはずです。

  • 再現性東京202X:異文化交流はお嫌いですか完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月30日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
浅蔵 竜真(p3p008541)
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて

リプレイ


 希望ヶ浜中央市街の駅前に集合をと呼びかけた澄原 水夜子 (p3n000214)の傍らでは慣れぬ様子で周囲を見回している『中務卿』建葉・晴明 (p3n000180)の姿が見えた。
「晴明さん再現性東京へよーこそ!
 晴明さんには以前スピネルととてもお世話になったから、今度はこちらがしっかりお世話させてもらうね。みゃーちゃんもよろしくね!」
 にんまりと微笑んだ『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)に「ええ、宜しくお願いします、ルビーさん」と水夜子がひらひらと手を振った。
 ルビーの背後でぺこりと頭を下げたスピネルに気付き晴明は「息災そうで何よりだ」と大きく頷いた。
「こんにちは、晴明さん。それとも中務卿と呼んだ方がいいかな?
 僕は山本雄斗です。この再現性東京の出身だから案内はバッチリ任せてよ」
 晴明と呼んで欲しい――そう言うのも彼の直属の主である霞帝が堅苦しいと説教したらしい――と晴明は『命を抱いて』山本 雄斗(p3p009723)に告げた。
「雄斗殿もルビー殿も頼りにさせて頂きたく……この様な、再現性都市には何分不慣れである故に……」
「ええ、そうでしょう。ですが、晴明殿と一緒に東京を歩ける貴重な機会、楽しみですね。
 賀澄様にも良い報告ができるよう、全力でお手伝いします! みゃーこさん、本日は宜しくお願いします」
 満足げににこにこと微笑んだ水夜子に『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)はうんうんと頷いた。雄斗のように希望ヶ浜に詳しいというわけではないが、その分、同じ目線で見て回れるはずだと自負している。
「帝……近代的な世界の出身だとは予想していたが……まさか再現性東京に興味を持つとはな」
『報恩の絡繰師』黒影 鬼灯(p3p007949)の傍では鷹匠として振る舞いながらも『デザートバイキング』への同行を心待ちにする水無月の姿が見られた。
「……鬼灯殿、水無月殿は心なしか嬉しそうな気がするが?」
「ああ、まあ。甘い物を経費で食べたいのだろう。分かる」
 頭領である鬼灯とて経費でお菓子をいっぱい食べたい。勿論、章姫の喜ぶスイーツビュッフェなんかにも経費でじゃんじゃん行きたい気持ちだ。
 そんな打算的な旦那様の腕に抱かれて居たのはサマーワンピースで可愛らしく着飾った章である。
「晴明さんとお出かけ嬉しいのだわ! 帝さんもいつか来る?」
「ああ、その様だね章殿。帝が来たときにしっかり案内できるようにしておかないといけないな」
 わくわくと身を捩った章へと目線を合わせてから晴明は「主上……ああ、いや、賀澄様からの贈り物と伝言だ」と朝顔の簪をそっと差し出した。
 曰く――『可愛い娘の夏の装いに俺の花を添えてやって欲しい』とのことである。
「わあ! うれしいのだわ!」
 ――やっぱり、複雑な旦那様なのであった。
「カムイグラから練達まで来るなんてとっても大変だったでしょう? 視察も含めてるから……道中のチェックもしたんだよね?」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は澄原 晴陽 (p3n000216)と直接やりとりをするために連絡先を交換しておいたのだと水夜子に自慢げに笑みを浮かべる。メールのやりとりの中で予定が合えば一緒にカフェに行こうと提案してくれていた晴陽に「今日はどうかな?」と問うたのだ。
「晴陽ちゃんが来る前に、先に案内から始めようか!」
「ええ、そうですね。中務卿……いえ、晴明さんに再現性東京について詳しく知っていただく機会ですから。
『悪性怪異:夜妖』など、見慣れぬ存在についてのレクチャーも必要でしょうから。其れでは、参りましょうか」
 穏やかに手招いた『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)に頷いて晴明は「宜しく頼む」とぎこちない笑みを浮かべた。


 豊穣と再現性東京.その何方に初めて訪れたときの印象は「何方も似ている」というものであった。『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)に言わせれば、己と違う物を異物として排除する国の在り方は良く似ていた。
「人の世というモノは多少の差異あれど、結局は似たような所に落ち着くのだと。
 ……まぁ、それから色々とあったな。改めて思い出せば懐かしい。そそぎ君は元気かな。偏食が過ぎてないだろうか。
 彼女は座標ではないから此方にはおいそれと来られないだろうが。晴明君から宜しく伝えておいてほしい」
「賀澄様ならば長旅になろうとも、コンテュール卿の助力を経て此処まで連れて来やるかもしれないな」
 伝えておこうと頷く晴明にそうなれば嬉しいと愛無はぱちりと瞬きを返す。
「どうやら貴方の上司は、俺たちくらいの一般人と近い感覚みたいだな。あまり一国の長らしくない」
『救う者』浅蔵 竜真(p3p008541)の言葉に晴明は確かに、と頷いた。サクラのカフェの誘いの後、竜真は夕食は現代日本食らしい『カレー』を食べに行こうと提案した。店舗自体は少しばかり離れた位置になるが、去夢鉄道に乗るのも悪くは無い筈だ。
「さて今回は再現性東京の視察って事だけど観光案内、それも街巡りが良いんだよね。うーんどこが面白いかなー」
 aPhoneで何処に征こうかと悩ましげなルビーは遊園地でのアトラクションも楽しめるだろうし、お土産を双子巫女に用意しても良いとスピネルと顔をつきあわせて悩ましげにああだこうだと言い合っている。電気街もこの街特有の文化を楽しめるが――さて。
「希望ヶ浜学園に向かってから、ゲーセンと、それから商業施設と、観光名所を早足で回ってみる?」
 雄斗は早速自身達の拠点である希望ヶ浜学園へと向かおうと歩き出した。
 つまり、本日は夜妖を撃破しながら観光名所を巡る。ハンバーガーショップでの昼食を。晴陽と合流した後に皆でカフェやデザートビュッフェを巡り、最期にカレー店での食事で締めくくる結構なハードコースなのだ。
「ここが僕も通っている希望ヶ浜学園だよ。
 僕以外にもイレギュラーズやその関係者が一杯いるから何か困ったらここかカフェローレットに来ればいいと思うよ。
 あっ、でも普通の生徒もいるからそこは気を付けてね。それと僕も一応普通の生徒として通っているから皆がいる所では普通の人として扱ってね」
 晴明が入るならば講師の立場だろうか。それならば「晴明先生だね」と雄斗はにっこりと笑った。
「ああ、そうか晴明殿は俺のこの姿を見るのは初めてか。此処では希望ヶ浜学園という学び舎で家庭科の教師をしているんだ。
 所謂裁縫や料理なんかを教える科目だ。今度是非見学に来ると良い、楽しいぞ」
 その場合晴明は女子生徒に囲まれるのだろうかと揶揄うように見遣る鬼灯に「また連れてきて貰おうか」と晴明は緊張したように頷いた。
「みゃーちゃんがお昼はどうする? って言ってたけど食文化も大事な要素だから外せないよね。
 大きめのハンバーガーが良いなら、チェーン店よりもちょっと高級な感じのところにしようか!」
 折角、ローレットが予算を持ってくれるんだし、と心を躍らせるルビーは「デザートビュッフェもカレーもあるから食べ過ぎないようにしないと」と揶揄うように笑った。
 道中のゲームセンターやサブカル系グッズを販売している店を眺めていたルーキスは「ああ、晴明殿」と手招いた。
 再現性東京に近しい環境からやってきたという旅人の友人はサブカルチャー文化に精通している。ルーキスが漫画やアニメを指差したことに驚いたのは晴明だけではなく他の仲間達も同じであっただろうか。
「はい。この『漫画』という本は、色んな種類があって大人から子供まで楽しめるのだそうです。
 個人的に、双子巫女殿には特に気に入って貰えそうだなと思ったのですが……お土産にどうでしょう?」
 ルーキスの友人は情報屋の青年は確かに斯うしたサブカルチャーに精通していた。まじまじと漫画を眺めていた晴明は「これは?」とフィギュアを指差した。
「ああ。こちらの緻密な人形は『フィギュア』です。皆、自分の好きな『キャラクター』の物を集めたりするらしいのですが……
 もし賀澄様のフィギュアがあれば、俺も10個ぐらい買うんですけどね……」
「それは絶対に主上に言わないでくれ。彼は『ならば作ろうか!』と言い出しかねぬ人柄だ」
 頭痛を感じるかのように俯いた晴明にルーキスは頷いた。ゲームセンターに行く途中に自販機で飲料水を購入し珈琲を手渡したルーキスは「キラキラとしており、神威神楽とはまるで違いますね」と笑いかけた。
「晴明さん、ここは主に学生とかが来る遊び場だね。
 色々とゲームがあるけど先ずはメダルゲームなんか分かり易いしいいと思うよ。
 このメダルを投入口に入れてからタイミングを見計らってボタンを押すだけだから直ぐに慣れるよ」
 やってみようか、と手許を覗き込んだ雄斗に晴明は「ご教授頼もう」と緊張したように挑み――結果は……散々だとだけ記載しておこう。


「『夜妖』と呼ばれる妖は、この地に住まう人々の認識……事象に対して抱く想い、云わば信仰から発生しているようです。
 大半は、大した力を持ってはいないようですね恐らくは……そう、精霊のようなものなのかもしれません。
 数自体は多いですが、特に危険なものは探さない限りそうそう遭遇する事は無いと思います」
「神威神楽における神霊も同様に人の信仰によりその姿を顕現させている。故に、我らは『神』と呼んでいるが……此れも同じような存在なのだろうか」
 成程、と冬佳は呟く。確かに神霊も人の力で御することは難しいようにR.O.Oでも感じられていた。
「様々な夜妖がいるが。彼らと対峙するならばブレない事だろうか。狩るにしろ。共にあろうと願うにしろ。
 人の心のように移ろいやすいのが彼らだ。物理で処理できるうちは可愛いモノだと思うがね。食事の前に夜妖についてのレクチャーを挟もうか」
 愛無はこの街も暮らしてみればそれ程悪くはないと感じていた。水夜子のような面白おかしい子もいると告げた愛無に竜真とサクラがくすりと笑う。
 自慢げに胸を張った水夜子に「振り回してやるなよ」と竜真が告げるが、晴明は水夜子をまじまじと見た後「皆がいて良かった」と呟いたのだった。
「一応聞いておこうか。みゃーことはどうだ? 振り回されて……はいるか。
 と言っても誰しも節度は弁えるものだ。みゃーこが客人を引き摺り回すなんてことはないだろうし。……ないよな?」
「……ふふ」
「みゃーこ……?」
 竜真ににんまりと微笑んだまま水夜子は何も答えない。晴明の胃痛は更に酷くなるばかりであろうか。
「さて……燈堂家は流石に観光とはいかぬだろうし、澄原病院は用もなければ、流石に迷惑であろう。晴陽君は呼び出すのだろうし」
 皆でハンバーガーショップに向かいながら冬佳は「夜妖や伝承について調べ上げる事にかけては、水夜子さんは専門家ですよ」と一応水夜子の優秀さをアピールして見た。暴走機関車ガールであるだけではないという一応の注釈である。
「霞帝に伝えるのなら……街並み、住宅地、商店、学校。重要かつ再現性東京の姿を現す場所はそんな所でしょうか?
 ああ、後は晴明さんに馴染みの在るものとして、神社にも寄ってみましょうか」
 そんなことを語らいながらふと、冬佳は今園 賀澄という霞帝の本来の名を思い出す。如何にも、現代的な名前であるのは確かだ。
「……賀澄様って、近現代の日本出身の方だったのですか? いえ、まあ、確かに現代風のお名前だとは思いましたけど」
「本人が言うには近しい文化圏であったらしい。故に俺よりも『くりすます』や『ばれんたいんでぃ』には詳しいらしいが」
「……ふむ。だからこそ文明開化に明るいのでしょうね。
 こうした建築も材質こそ違いますが、何れも技術の発展で作られた物。何れ神威神楽でも作られるかもしれませんね」
 受け入れる側の土壌が整っていると言うべきか。ある意味、霞帝にとっては神威神楽こそが慣れぬ土地であったのだろう。
 夜妖を適当に見繕い、説明を行いながら撃破を行った冬佳は近場のハンバーガーショップのメニューと睨めっこすることになる晴明のサポート役に回っていた。
「約束、覚えていてくれたのは素直に嬉しいな。お礼という訳では無いがみゃーこ君には奢るよ。
 何でも好きな物を頼んでほしい。このやり取りも恒例だが。
 食べきれない分はていくあうとすれば良いのではないか? 僕が喰っても良いが。皆へのお土産というのも悪くないだろう」
「カフェもありますしねえ。シェアも悪くないかも知れません」
 どうですかと微笑む水夜子に愛無はそれも悪くはないかと頷いた。戸惑うであろう晴明のために冬佳はジュースや炭酸の類いに緑茶を購入する。
「ハンバーガーは、発想は兎も角異文化の料理でしたが……パンで具を挟んだだけのもの。大きさは別として、似たような料理は神威神楽には無いのですか?」
「……素手で、これを食して良いのかと途惑いがあるのだが」
 助けてくれと言いたげな晴明に愛無は「晴明君も喰うと良い。この手の食い物は躊躇せず口に入れる事だ。がぶりと。一口で」と慣れぬ彼にアドバイスをした。クスクスと笑う水夜子の横顔を眺めれば愛無の視界では普通の少女が笑っている。
 水夜子の気安さは彼女の処世術なのだろう。誰をでも受け入れて、誰とでも友人となる。そんな彼女にとってはこうした日常こそが非日常なのだろうか。
「どうしました?」
「いや。食事をするみゃーこ君も可愛いなと思ってね。好意に値する者と食べる食事というものは格別なモノだと改めて思った次第さ」
「ふふ。口説いてます?」
 揶揄うように笑った彼女のジョークとも本音とも取れない笑顔に愛無はきゅうと腹を鳴らしたのであった。


「すいーつなのだわ!」
 わくわくとした章姫にサクラは「晴陽ちゃんが食べ放題のお店識ってるって!」と待ち合わせ場所に向かって走り出す。
 ティーフリーのコースや食べ放題スイーツを選ぶことの出来るコースパターンがセレクトできるカフェは水夜子を連れて晴陽も訪れる場所らしい。
「豊穣の和菓子も美味いが生クリームとチョコレートもいいものだぞ晴明殿。いかがか?」
 頷く晴明と鬼灯、冬佳が見守る向こうでサクラは「晴陽ちゃーん!」と手を振った。
「お待たせ、晴陽さん。待っただろうか?」
「いいえ。皆さんこそ、予定の調整を有り難う御座いました」
 竜真へと首を振ってから、ここから電車に乗るのだろうと晴陽が晴明の切符を事前購入して置いたと告げた。
「晴陽ちゃん、こちらは晴明さん。カムイグラの……なんか偉い人! こちらは晴陽ちゃん! お医者さんだよ!」
「神威神楽の中務卿とお聞きしております。建葉さんでしたね。晴陽です。水夜子がおりますので名前でお呼び下さい」
 淡々と一礼をする晴陽の腕をぎゅうと掴んでからサクラはにんまりと微笑む。
「今日は私の奢りだよ! なんて、ホントはローレットの経費だけどね!」
 それは有り難いと頷きながらもサクラに腕を掴まれながら進む晴陽を微笑ましそうに眺めてからルビーは「何処のお店?」とaPhoneを手に走り寄る。
 店名を聞き「予約必須の所だ!」とぱちくりと瞬いた雄斗。連れ歩くルーキスと「鉄の蛇を体験して貰う事になるが」と晴明へと告げた竜真は緊張した中務卿の様子に顔を見合わせて笑った。

「晴陽ちゃんとみゃーこちゃんは何が好き? 私はどうしようかな。
 私はこのフルーツいっぱい乗ってるやつにしよっかな? 晴明さんも決められないなら同じのにする?」
「……あ、ああ、サクラ殿に任せても?」
「オーケー! あとこのチーズのやつとクリームたっぷりのやつも頼もっと! 晴陽ちゃんは小さいケーキ? みゃーこちゃんは?」
「私は苺です」
 苺が好きなので。そんな自慢げな水夜子にショートケーキを頼んだ晴陽は無言のままでせっせと苺を水夜子の皿へと運んでいる。
「晴明さん美味しい?」
 ご満悦な笑顔でケーキを食べる章姫は可愛らしい。チョコレートケーキを食べる鬼灯に「どうなっているのだ」と晴明は口許が見えない事に驚いたように首を捻る。
「ねえねえ、晴明さん! 帝さんはどんなお菓子がお好きかしら? 作ってあげたいのだわ!」
「此処の『すいーつ』とやらも喜びそうではあるが……」
 章姫が手ずからお菓子を作ると言われれば鬼灯火は思わず泣きそうにもなる。身を乗り出したルーキスがメモを取り、ルビーとスピネルが顔を見合わせ笑う。
「そういえばもぎゅもぎゅもぎゅ。カムイグラの帝ももぎゅもぎゅ再現性東京みたいなところから来たんだよねもぎゅもぎゅ。
 晴陽ちゃんやみゃーこちゃん、龍成くんもだけど。皆はこっちの生まれなの? それとも飛ばされてきたのかな?」
「此処での生まれですよ」
 ねーと微笑む水夜子に晴陽はこくりと頷く。帝、と言われれば国家元首だ。晴陽が身構えるが「帝っていうと凄く凄そうだけど、結構気さくな方だから晴陽ちゃんも仲良くなれるよ!」と晴陽は気さくな彼を思い出すようにエピソードを告げた。


 少しばかりの散策の後訪れたカレー店で晴明は先程はサクラに選んで貰ったが、どうするべきだろうかと頭を酷く悩ました。
「これがメニュー……献立と言った方がわかりやすいか?
 辛いものは平気か? 平気だとしてもあんまり数字の高いやつは頼まないほうがいいけど。いやほんとに辛いからな」
「……辛い、か」
「ああ。とても。試してみるか?」
 晴明に頷いた竜真は中務卿は真面目に『レビューしなくては』と全ての味を試し見そうだと感じていた。思えばスイーツ店でも同じような動きをしていたのは確かである。
(……シェアをしようという女子の協力でなんとかなったが、連れて行く店のメニュー全制覇は真面目が過ぎるような……)
 頭を悩ませ続ける晴明へ竜真はテイクアウトメニューをとん、と指差す。
「そうだ。霞帝……賀澄さんにも、こういうとこなら持ち帰れて日持ちのするものが売っている。よければ見繕おうか?」
「ああ、屹度喜ぶだろう。お願いしたい」

「晴陽さんは……こういうところは来たこと、あるのか? いやなんていうか、印象が薄くてさ。ジャンクフードとかもあまり食べなさそうだから。
 みゃーこは逆に慣れてそうだよな。俺もまだ色々知らないことがあるし、よければ今度おすすめのクレープ屋にでも連れて行ってくれないか」
「姉さんは確かに行きませんよね。私が我儘言って連れて行って貰う位」
「ええ。龍成は詳しそうですが……」
 カレーを食べながら、和やかに語り合う。美味しいと笑う雄斗へと目を配り「お水もどうぞ」と気を配る晴陽に愛無の目の前のピクルスを奪う水夜子。
 緊張しながらもぎこちなくテーブルを眺める晴明はスプーンを手に困惑を滲ませているのも何とも可笑しい。
「大学は暇な時に通ってるんだけど……一族の当主になりそうだから経営学ばないといけないんだよね……
 うぅ~やだなぁ……みゃーこちゃんは晴陽ちゃんの病院で働いてるんだっけ? 私も雇ってよ~秘書になるから~近くで経営について学ばせてよ~」
「私はお兄様とおしごとしたいのだわ!」
「まって、章殿。お兄様って?」
 晴明を兄と呼んだ章姫に慌てる鬼灯の様子に一同が楽しげに笑う。ルーキスも晴明の傍で働いて霞帝に仕えたいと胸を張り――サクラは「ああーー」と息を吐いてから机に突っ伏した。
「お兄様達は失踪したと思ったら邪悪ハムの協力してるし……
 もうすぐ誕生日なのにセンセーは行方不明だし。えーん! 晴陽ちゃん20歳の誕生日一緒に祝ってえ~!」
「ええ。私で良ければ」
 ふんす、とやる気を漲らせる晴陽の様子に冬佳は小さく笑った。働き詰めであっただろう彼女の雰囲気も少し柔らかくなっただろうか。
 水夜子に「変わりましたね、先生」と囁けば、従妹の彼女は嬉しそうに微笑む。
「10年って長いですよね」
「ええ、本当に――……
 澄原先生。何かありましたら、お呼び頂ければ必ずお力になりましょう。どうか、ご無理はなさいませんよう……水夜子さんもですよ?」
 冬佳の優しい言葉に晴陽は「では、サクラさんのお誕生日会の企画会議から」と真面目な顔をしてそんなジョークを告げたのだった。
 ――この和やかな時が続けば良いと竜真はそう願わずには居られなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした!
 書く前にハンバーガー食べたいなと思って検索したらお腹が空いて苦しくなりました。

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