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シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>狂い果てた無垢なるものよ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ふん、至らず、か」
 亜竜種を思わせる黒き魔種は低く唸る亜竜に興味を失ったようにあざ笑う。
『ガァァルゥゥ』
「フラウスよ、今までの関係は終わりだ。
 そのまま貴様がそうまでなって勝ちたいと願った者達を喰らい、そして殺されてくるがいい」
 もうひとつ咆哮を上げた亜竜へ、魔種は冷たい視線を向ける。
 知性を讃えた獣、それへ浴びせられ続けた原罪の呼び声は、本来であれば聞く耳など持たれまいが。
 イレギュラーズと言う雄姿が、それにより齎された初めての『敗北』が――彼女の精神性に与えたものは大きすぎた。
 普段であれば無視し続けていたであろう甘美なる呼び声に絡めとられ、半端に狂い果てた亜竜は、魔種の下を飛び去った。
「……もう、会うことはあるまいよ」
 そう呟く魔種の声色は僅かに――ほんのわずかに寂寥を感じさせるものだった。


「……このまま、中層へ――ファルカウを取り戻すぞ!」
 改めて槍を握りなおし、ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は声を上げる。
 真っすぐに見上げたる眼前には神聖なる霊樹にして、深緑の都ファルカウがそびえている。
 周囲は再び敵方についた冬の王の権能により寒々しい空気が立ち込めている。
 その一方で火の手が上がっているのは冬の王対策で呼び出し、そして敵に操作権を奪われた炎霊鳥がもたらした炎であろう。
 ――あるいは、亜竜によってもたらされた炎がまだ燻っているだけかもしれないが、そこまでは分かりづらいところだ。
 前へ出る。一歩でも前へ。辿り着くために。

 不意に、獣とも異なる何かの咆哮が耳を撃った。
 ――次の瞬間、ファルカウへと向かうその地上を、炎塊が焼き払う。
「――――ッ!」
『ガァァァアア!!!!』
 もう一度の咆哮と共に、ソレはベネディクトの前に再び姿を見せた。
「――亜竜、フラウス……だったか?」
 姿を見せた亜竜への警戒を強めるベネディクトはそれ――フラウスの様子が明らかに違うことに気が付いた。
「……この子、意識がもう」
 友人であるラフィーネがそう言ったのに、ベネディクトも頷く。
 眼前に飛来した亜竜からは知性の欠片だって見受けられない。
 溢れる圧力は前回の比ではないが――その代償は知性であったのか。
「どうやら、お前を倒さねば先に進ませてはくれないようだな」
 ベネディクトの言葉に合意するが如く、亜竜が激情に突き動かされるような激昂を上げた。
 その激昂は、喜ばざる客を呼び寄せる。
 天より飛来するは、更なる亜竜。
 激情に応えるように、3体の亜竜が舞い降りた。
「よかろう、まとめて相手となろう――」
 構えなおしたその時だ。
 ベネディクトの中から、青色の光が零れるように姿を見せる。
『――その勇気に答えましょう、時は来ました』
 霊樹クエイトの声がベネディクトの脳裏に直接響く。
 淡い光を徐々に強めた霊樹の光が辺りを照らし、周囲にある霊樹が応えるように光を放つ。
 姿を見せたのは、複数の嘆き。
 思わず警戒する中――けれどそれらの嘆きは明確にイレギュラーズへ寄り添い、亜竜への怒りを露わにした。
「クエイト様……」
『――ラフィーネ、当代の私の巫女。どうか、あの子達を助けてやって』
 そんな声と共にクエイトの気配が消えていく。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 捨て犬ならぬ捨て亜竜に引導を渡してあげましょう。

●オーダー
【1】フラウス〔狂〕の討伐
【2】亜竜の可能な限りの討伐

●フィールド
 ファルカウの麓、迷宮森林の一角です。
 冬の王のもたらす寒さが周囲を覆う一方で、
 フラウスが吐いた炎で辺りが燃えつつあります。

●エネミーデータ
・フラウス〔狂〕
 橙色の皮膚、鼻頭に縦続き2本の角、蛇のような身体に一対の翼が特徴的な亜竜です。
 常に飛行状態にあります。
 怪王種(アロンゲノム)にもならず、半端に原罪の呼び声で狂ってしまった状態です。
 理性は失われ、イレギュラーズに勝ちたいという執着のみが突き動かしています。
 もはや元に戻すことはできません。
 討伐することが彼女への救いになると思われます。

 各攻撃力が大幅に強化され、反応、EXAもやや高まり、
 反面、理性を失ったからか抵抗力が下がっています。
 また、HPは前段シナリオの疲弊が取れていないのかやや下がっています。

<スキル>
メテオロス:巨大な炎塊を魔方陣から地上へ向けて振り下ろします。
神超域 威力大 【万能】【追撃】【炎獄】【紅焔】【体勢不利】【泥沼】

ファイアスマッシュ:炎の弾丸をいくつも吐き出します。
神超単 威力大 【万能】【スプラッシュ3】【炎獄】【紅焔】【苦鳴】

振り下ろし:その場でくるりと前転し、尻尾で地面を思いっきり叩きます。
物中域 威力大 【万能】【崩れ】【体勢不利】【恍惚】

ブレードフレア:直線上を走る斬撃を放ちます。
物超貫 威力大 【万能】【追撃】【氷結】【流血】【致命】

パッシヴ:【復讐】【火炎無効】

・亜竜×???
 ワイバーン型の亜竜です。
 上空にいる存在が皆さんを見つけ次第突っ込んできます。
 ただし、同時にエネミー化するのは3体までです。
 討伐した先から補充され常に3体をキープします。
 フラウスが討伐されるのを機に、撤退します。

 各攻撃力、反応がやや高め。

●友軍データ
・『高潔なる探求者』ラフィーネ
 ベネディクトさんの関係者。
 皆さんと同等程度の実力を有する冒険者であり、水にまつわる魔術を用いる魔術師です。
 今回は下記の大樹の嘆きと皆さんの連携を確かなものとするための補助に回ります。

・大樹の嘆き×8(人型×4、狼型×1、鳥型×2、鹿型×1)
 霊樹『レテート』の影響により無差別攻撃から解放された大樹の嘆きが霊樹クエイトの残滓により強化されたものです。
 魔種勢力を明確に敵と定める彼らは、
 森を燃やすワイバーン討伐のため、皆さんに協力してくれます。
 オルド種とは異なり、皆さんと直接会話はできませんが、
 指示やお願いを聞いてはくれます。

 人型は魔術のようなもので神秘攻撃を試みます。

 鹿型はバフ、ヒールを行ないます。

 狼型は4匹で1つ扱いされ、体当たりや牙などの物理攻撃をします。

 鳥型は4羽で1つ扱いされ、BSを付与します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <太陽と月の祝福>狂い果てた無垢なるものよ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月30日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
神倉 五十琴姫(p3p009466)
白蛇
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


「いやあ、フラウス選手ド派手に暴れておりますなあ!
 この試合どうなると思いますか解説の花丸ちゃん!」
 炎を零し唸る亜竜の様子を眺めみながら言った『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は愛剣構えて無茶ぶりひとつ。
「亜竜フラウス、それに付き従うワイバーン達……。
 今はもう、狂ってしまって私達への執着に突き動かされて、
 自分で止まる事も出来なくなってしまったんだね」
 微かな憐憫も交えて語る『竜交』笹木 花丸(p3p008689)は打ち合わせてないなりに解説のようにも取れる呟きを残す。
「――だったら、私達が止めてあげる。
 それが今、私達の為すべき事だと思うからっ!」
 拳を緩やかに握ったまま、花丸はフラウスへ飛び込んでいく。
「そうね、覇竜領域(クニ)の不始末は住んでいたものが始末をつけるべきでしょ?」
 美しき炎を纏い『煉獄の剣』朱華(p3p010458)が肯定すれば。
(それでも相手は名を持った亜竜。オマケにフラウスに呼応してワイバーンまで集まって来たんだもの。
 簡単に突破するのは難しいかもしれない――けどっ!
 前の戦いでもっとおっかない連中とだって顔を合わせてきたんだから……ね)
 朱華はワイバーンの方を向きながら、灼炎の剱に力を通す。
「うーん、二人とも期待通りというかなんというか、
 それじゃ、始めるか……! この森の命運をかけたラストバトル!」
 最速で走り出した2人を追うように、秋奈は3体のワイバーン目掛けて走り出した。
(ふむ……随分様子が違うようですね。
 この様な姿になってまで戦う必要があったのでしょうか?)
 フラウスの様子を見て『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は首を傾げる。
 聞いた限りでは、少し前までのあの亜竜は今とは違っていたように思えた。
(ですが、今嘆いても仕方なきこと。
 理性を失ってしまったのであれば、ここで終わりにしてあげるのがせめてもの情けでしょうか?)
 ちらりと視線を主に向ければ、気付いた主は小さく頷いて。
「……原罪の呼び声に意識を飲まれたのか?
 もはや、以前の様に会話をする事すらままならんか」
 思い起こすのは以前のこと。亜竜フラウスの傍には魔種が一緒にいた。
 まるで相棒ないし主従のようにも見えたその魔種とのことを考えれば、目の前の光景には納得も行く。
「このまま放っておけば、俺達以外にも被害が出る。
 そして、こうなってしまった以上は元に戻す事も叶うまい……
 ラフィーネ。これ以上の悲劇を止める為にも、奴を終わらせる為に、力を貸してくれ」
 『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はやや後ろに下がった友人へ声を掛ければ。
「ええ、切をつけてあげましょう」
 応じるように大樹の嘆きが動きを活発化させる気配を感じ取り、ベネディクトは動いた。
「後ろのことは心配せんで構いません。わしらが必ずや、止めてみせますけえ
 皆様は、フラウスとの戦いに集中して下さい。どうかご武運を!」
 直ぐに動き出してワイバーンの方へ向かう『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は剣を抜きその目前に立ち塞がる。
「支佐! 気を付けるのじゃぞ!」
 そう声をかけるのは続けてワイバーンの方へ走り出した『白蛇』神倉 五十琴姫(p3p009466)だ。
「おう琴、おんしも遅れを取らんようにの。決して宮様の名に泥を塗るでないぞ」
 応じた支佐手とてお互い勝手知るたる仲、気安い言葉で返してワイバーンのちょっとしたちょっかいに剣を合わせた。
「当然じゃろう! それにしても、どこの国にも戦乱というものは存在するのじゃな……
 ではわしも、取り急ぎこのトカゲ共を黙らせるところから始めるかの!」
 そんな支佐手の方から視線を目の前のワイバーンへ戻し、五十琴姫は改めてうなる亜竜に槍を構えた。
(……ここで、終わらせてあげましょう。
それが、ルシェたちが先へ進むための必要なことで、フラウスお姉さんにしてあげられる唯一の事だもの)
 杖を持ちながら『桜花の決意』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は亜竜を見上げた。
 滞空するその亜竜は低く唸るばかり。
『オォォォ!!!!』
 空へと咆哮を立てた亜竜フラウスの周囲に極大の魔方陣が3つ。
 それらが構成した炎塊が一斉に振り落ちてくる。
 地を焼き払い、木々をへし折る暴威が地上をも溶かす。
(感じる圧力は確かに凄い――けどっ!)
 それを正面から受けながら、花丸は更に一歩踏み込んだ。
(ソレを制御する知性が失われてしまったのなら、やり様は幾らでもある筈っ!)
 眼前のフラウスが反射的に動かんとするより早く懐へ。
 攻撃にもならぬ牽制の尻尾による薙ぎ払いを弾いて、握り締めた拳を叩き込んだ。
 刹那に撃ち抜いた拳にフラウスが動揺したように視線を向けてきた。
「――おいで、フラウス。貴方の相手は私だよ」
 それはいっそ優しく、静かな笑みを浮かべてそう告げた。
 そんな花丸の覚悟を後押しするように、8羽の鳥がフラウスの周囲をちょこまかと動き出す。
 本物(りゅうしゅ)とも、冠位とも戦ってきた。
 恐るべき者達と戦ってきた。
 だから――
「今更、亜竜を相手に引きさがってなんていられないのよっ!」
 朱華は劔の力を解放する。
 鮮やかな紅。朱華を思わせる色放つ炎剣を、真っすぐに振り上げた。
 放たれたるは炎の斬撃。
 大地を焼き払わんばかりの斬撃が戦場を走り抜ける。
 ワイバーン2匹が諸共に灰燼に帰して、焼き切れ地上に落ちた。
 朱華に続くように秋奈もワイバーンにたどり着いていた。
 既に2匹のワイバーンが地上に伏している。
「わははは! どんどんいくぜー!」
 脅威的な攻勢防御、洗練された強かな斬撃を見舞い、そのまま勢いに乗った2連撃を叩き込む。
 ただそれだけで1匹にワイバーンが地上へと落ちて、激昂するようにワイバーンが突っ込んでくる。
「流れを此方へ引き寄せるぞ!」
 ベネディクトは着いてくると確信する少女に告げて、槍に魔力を籠めた。
 裂帛の気合と共に繰り出されるは絶死の槍。
 美しき軌跡を描く黒き狼の跳躍が2度に渡ってワイバーンの身体を串刺せば、それだけで絶命にたるものとなる。
 その勢いのままに、ベネディクトは次のワイバーンへと槍を投擲する。
 疾走する黒狼が中空より降りてきつつあったワイバーンを貫いた。
 その様子を見ながら、リュティスは錐刀を抜いた。
 その視線はベネディクトではなく、空を見ている。
 地上よりの強襲を受け、怒りに溢れるワイバーンが降りてくる。
「さっそく次が来ましたね……行ってまいります」
 主へとそれだけ告げて、リュティスは跳んだ。
 肉薄と同時、空を舞うように斬り結んで見せれば、無数の斬撃がワイバーンの身体を八つ裂きに切り裂いた。
「ルシェも……」
 キルシェは目を閉じた。深呼吸をして、魔力を籠める。
 それは癒しとは真逆、全てを凍てつかせ、閉じ込める絶対零度。
 燃え盛る森をして気温を冷やしせしめた冷気をワイバーンへと降ろす。
 猛るワイバーンはそれだけでは倒れなかった。
 そんなキルシェの攻撃に応じたが如く、4匹の狼たちが傷ついたばかりのワイバーンへと突撃。
 その牙で身動きを封じた所に、複数の魔弾が降り注いだ。
 それは幻想種(りんじん)を助けんとするかのようにして放たれた大樹の嘆きによる支援砲撃である。
「ありがとうございます!」
 そんなキルシェの声に、返事こそないものの大樹の嘆きが喜んだようにも見えた。
 愛剣を逆手に持ち、静かに目を閉じた支佐手は蛇神への詞を紡ぐ。
 火明の剣がバチバチと音を立て、雷光が蛇のようにうねり狂う。
 順手に持ち替えるまま振り抜いた剣から蛇が飛翔する。
 天へと伸びた蛇はやがて雷鳴と雷雲を呼び起こした。
「ここは何があろうとも、通すわけにゃいきませんが、わしもしぶとい方ですけえ」
 そう言って視線を上げれば、ワイバーンが怒り狂った様子でこちらへ咆哮を上げるのが見えるのだ。
 五十琴姫はその時を待っていた。
 支佐手の方へと意識を向け、近づいていくワイバーンが一列になったその刹那。
「――ゆくぞ」
 其は太陽神をも降ろす大いなる秘術。
 銅鏡をワイバーン共へ向けて構えれば、降ろされた大いなる母はその熱を戦場へと見舞う。
 照らす全てを灰燼に帰す熱が戦場を走り抜けた。


「もうそろそろよろしいでしょう。後のことはおまかせあれ」
 もう何匹のワイバーンを倒したか。
 限りなく降下してくるワイバーンを鋭く見据え、支佐手は静かに告げる。
「なあに、まだまだ。しぶといのが、わしの取り柄ですけえ!」
 バチバチとスパークの音を奏でれば、仲間達がフラウスの方へと走り行く。
 雷雲を警戒する亜竜へ、支佐手は剣を突きつける。
 呼吸を整え再生の巫術を行使すれば、ワイバーンたちへ鏡を向けた。
 淵に淀んだ水のような、暗い輝きを放った鏡よりドロリ。
 粘ついた泥が溢れだす。
 ワイバーンの足元まで伸びた泥からは、死者が地上へ引きずりおろさんばかりに溢れだした。
 ワイバーンたちの咆哮が響き渡る。
 後ろからの声を聞きながら、花丸は拳を作り直した。
 視線の先、フラウスの頭頂部の角が魔力を帯びて輝き始めた。
 頭部を振った刹那、そこから斬撃が奔り抜けた。
 凄まじく鋭利な斬撃は戦場を疾駆して花丸を斬る。
 それだけでは終わらず、そのまま口を開いて炎の魔弾をぶっぱなしてくる。
 それもなお受け止めて、花丸は一つ呼吸を入れる。
 体内と体外の魔力を循環させて急激な疲労を食い止めるや、拳を握る。
「――これはお返し。私の本気の拳は、結構痛いよっ!」
 握りしめた拳で、思いっきり叩きつけた。
 逆鱗辺りを撃ち抜いた拳に、フラウスが悲鳴にも似た声を上げる。
「長い時間相手をしていたら不利になるのは朱華達よ。
 だから、狙うのは短期決戦――」
 朱華は灼炎の出力を上げながら真っすぐに亜竜を見上げる。
『グゥ――――アァァア!!!!』
 咆哮を上げる亜竜を見上げながら、朱華はフラウス越しにワイバーンを狩れる位置を取るや、最大まで引き上げられた炎剣を振り抜いた。
 直線を焼き払う最大出力の太刀に、フラウスが呻き、ワイバーンが唸る。
「このまま――行くわ!!」
 体勢を崩して隙を見せたフラウス目掛け、振り抜いた剣が疾走する。
 横なぎに放たれた剣は赤き竜の顎を模して食らいついた。
「さって、秋奈ちゃん登場!
 逃げ出さずにやってきた度胸は認めてやんよ、
 激エモ美少女☆秋奈ちゃんからの挑戦から逃げ出さなかった事だけはのうー!!!」
 続いて飛び込む秋奈は長刀を握りしめ、一気に愛刀を振り抜いた。
 奇襲気味に放たれた斬撃、同時に自らの立ち位置を組み替えながら、放つは崋山の刀。
 光が走った――そうとしかとれぬ鮮烈なる神速の太刀がフラウスを斬る。
「フラウスよ、お前は強かった。
 或いは、時を重ね、未知を既知とする事でお前は俺達に勝つ事も十分に有り得ただろう。
 だが、その機会は最早訪れる事は無い」
 ベネディクトは静かに告げた。
 全身の溢れる魔力の全てを槍に注ぎ込むぐらいの気持ちで、真っすぐにフラウスを見上げる。
 理性を失った亜竜は、警戒を露わに咆哮を上げている。
 深い踏み込みと共にベネディクトは槍を一閃。
 直死を描く神速の刺突のまま、槍を薙ぐように切り開く。
「このまま一気に仕留めてしまいましょう、それが救いになるはずですから……」
 流れるままに続けて動くリュティスは宵闇に魔力を通す。
 構築された魔力矢をギリギリまで引き絞り、黒槍が迸るその刹那に合わせて矢を放つ。
 飛翔した矢は緩やかな放物線を描いて空を舞って着弾する。
 直後、矢はその姿を鎖へと変じ、雁字搦めに縛り上げる。
 咄嗟に舞い上がろうとしたフラウスの移動先、まるで呼んでいたが如く熱線が爆ぜる。
「運には多少自信があっての! わしの術は当たればそれなりに痛かろう?」
 五十琴姫が得意げに笑う。天運の高さが亜竜の鱗を穿ち溶かす。
 高熱量を浴びせかけられたフラウスが雄叫びを上げた頃、二度目となる熱線がその頭部を焼きつけた。
 亜竜フラウスの攻撃はだいぶんと直情的ではあったが、理性がない分セーブをしないのかその威力は絶大だった。
「誰も倒れないように、みんなが全力で戦えるように支えるのが、ルシェの役目……!」
 キルシェは目を閉じて祈りを捧げ続ける。
 聖杯に満ちる泉が揺れて波を起こすと、癒しの音色となって戦場に響き渡る。
 燃え盛る戦場、体勢を崩すようなその場所で心を落ち着かせていく。
 温かな光に照らされるように仲間達が身体を起こす。


 強化されていたとはいえ、手負いであったに等しいフラウスとの戦いは、イレギュラーズの勝利で終わろうとしつつあった。
「……あと少し、あと少しだから――もう少しだけ、力を貸してください……!」
 誰に言うでもなく、キルシェは祈りを捧げた。
 最後となるであろう祈りが、戦場を包み込む。
 温かな光には、無意味であろうフラウスさえも顔を上げた。
「支佐! 大丈夫か! 無理はするでないぞ!」
 五十琴姫はワイバーンを引き付けてくれている幼馴染へとそう問いかけた。
 元気な返事が返ってくるのを聞きながら、五十琴姫は静かに銅鏡に力を籠める。
 それは温かな光。
 朗らかな太陽の導きのような、心地よい光が戦場を照らし、傷ついた仲間達に降り注いでいく。
『ガ、ァ、ァ、ァ――』
 ボロボロの身体を起こして、フラウスが吼える。
 その様子を見て、朱華は灼炎の剱に魔力を注ぎ込んだ。
「――炎の剣よ。狂いし嘗ての同胞をあるべき場所に帰す為に、その力を示しなさいっ!
 轟々と燃え盛る炎、それは朱華が為せる最大出力。
 灰燼に帰さんと紅蓮の軌跡が亜竜を刻む。
「おおー神々しい! 拝んどこ!」
 五十琴姫の様子に何となく拝んだ秋奈はそのまますっと我に返ると、最後となろう連撃に踏み込んだ。
「フッ、ガス欠だけど気にしない! おらー!」
 言葉こそ軽いものの、その太刀筋に乱れなどあろうものか。
 舞うが如き連撃の終わり、秋奈はちらりと背後を見た。
「フッ……お膳立てとしては役不足だったようだな。……力不足だったようだな?
 ベ卿! リュティスちゃん! かましたれー!」
 入れ替わるように、ベネディクトが動いた。
「その無垢なる強さゆえに呼び声に影響された者よ。
 同情はすまい。だが、この死がお前にとっての安息である事を願う」
 全霊を以って、己が身すらも槍の如く、真っすぐに走り抜ける。
 その槍は狂うことなく、フラウスの心臓部辺りを貫いた。
『ァァァァァ!!!』
 ――けれど倒れない。
 ほんのわずかな体力を振り絞ったように、亜竜が咆哮を上げ、魔方陣を構築しようと試みる。
「そうはいきません――」
 続いたリュティスは真っすぐにフラウスの頭部を見据えた。
 宵闇を引き絞り、2本の矢を放つ。
 放たれた矢は1つは鎖に姿を変え、1つは蝶となって舞い、鎖に絡めとられた直後、蝶が静かにその頭部へと溶け込んでいった。
『クゥゥ――ォォ――』
 泣くようなか細い声と共に、フラウスが落ちていく。


 戦いが終わったあと、ベネディクトは僅かな時間ながらもフラウスの弔いを行なっていた。
「野ざらしにするのはあまりに忍びないですから。
 ……安らかに眠れることを祈りましょう」
 リュティスの言葉に頷いた者も多かった。
「お前の犠牲になった者達も多くいただろう。だが、その死まで汚そうとは思わん」
 静かに目を閉じて告げると、そっと目を開く。
 その思考はフラウスではない存在に意識を向けていた。
(…あの時の魔種は姿を見せず、か)
 それはフラウスと共にあった亜竜種を元とするであろう魔種のことだ。
(以前、奴はベルゼーと言葉を発した。ならば、何れ出会う事もあるだろう。
 ──冠位魔種と我々には避けられぬ戦いが待っているのだから)
 遠くない将来の再会を予感しつつ、小さく息を吐いた。
「もう戦う必要はないの。
 もう、ゆっくりとお休みなさいフラウスお姉さん」
 キルシェは埋葬された亜竜へ向けて祈りを捧げると、そっと手向けるように言葉を残して、そこから背を向けた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華
物部 支佐手(p3p009422)[重傷]
黒蛇

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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